いざ温泉
温泉街に向けて走り出すと浴衣のゾンビや裸のゾンビが増えてきた。入浴中や着替えの最中を殺られたのだろう。
「私、裸で死ぬって嫌だな。」
(ここでこの セリフとは。やっぱり彼女は不思議だ。いや、神経が図太いのか?)
少し走って行くと、ゾンビ達に囲まれた1件の温泉宿が見えた・・・
「ここは近寄らない方が良いな。」
そう思った時だった。
「おい!あんたら!そこは危険だから早くこの建物の中に!」
(え?いや、逆に危険だから離れようとしたのですが。しかもそんな大きな声を立てないで。)広一は
静かに!
と言うアクションをした。
「何やってるんだ!早くこっちに来い!」
全く聞いてはくれていなかったようだ。
「その車なら2階から上がれるだろ?手伝ってやるから。」
そう言うと2階から梯子を下ろされた。サンルーフから出て梯子を昇る。
「良かったなお前ら危ない所だったぞ。」
「あ、いえすいませんでした。・・・あの、失礼ですが何人生存者がいるのですか?」
「お!ここは20人いるぜ。子供から年寄りまでな。ちなみに俺はここの料理長だ。」
「成る程。大変失礼な話しですが、この宿は温泉・・・あります?」
「来て早々面白い事言うやつだな。もちろんだ、源泉かけ流しってやつだよ。」
後ろで彼女の声が
「やった!」
と、小さい声で言うのが聞こえた。
「私達、こんな汚れた姿なので良かったら先にお風呂に入りたいのですが?汚れた格好だと他の方達を不安にさせてしまうかも知れないので。」
「そんな事気にしてるのか?面白い奴等だな。風呂はあっちだ。」
そう言うと通路の向こうを指差した。
「ありがとうございます。」
2人は軽く会釈し風呂場に向かった。
「優しそうだし大丈夫じゃない?」
「どうだろ?年令が幅広そうな感じで言ってたからな。流石に老人や子供が襲ってきたりはしないだろ?・・・多分。」
「最後で言葉を濁すの止めてよね!あ、そうだ。混浴残念でしたー。」
そう言うと彼女は女湯の方へ入っていった。
「久々に風呂か。何日振りだ?結構髭も生えてら。」
そう言うと置いてある剃刀で髭をそった。
ーーー
彼女は脱衣場に入り洋服を脱いだ。鏡を見て、
「久々のお風呂か。髪の毛バサバサ、良く良く考えたら、ずっとノーメイクだった。」
そう言うと少し彼女は恥ずかしくなった。
「さて身体を洗って入ろうかな。」
備え付けのタオルを使って身体を洗い始めた。
「車にシャンプーセット忘れたわ。せっかく持ってきたのに残念。」
身体を洗いながら思った。
ーーー
風呂から上がって手前の待合室で彼女が出てくるのを待った。
「女性って風呂長いな。」
そう思ってたら彼女が出てきた。顔を隠している。
「ノーメイク恥ずかしい。」
(え?何を今更?)
「大丈夫だって今までも出会ってからメイクしてなかったじゃん?」
「えー?そう言う事言わないで。そっちも顔が血だらけだし。」
「・・・剃刀負けしました。しばらく生やしてたから剃るの大変だったんだよ。」
2人は笑いながら宿の住人達の元へ向かった。そこでは料理長が待っていた。
「あんたらそういえば何処から来た?」
そう言われ今までの経緯を話す。
「そうか、何処行ってもダメそうだな。」
「料理長、やっぱり・・・」
「今言うな!あ、いや、何でもない。部屋は空いてるから適当に選んでくれ。」
「はい、すいません。では失礼します。」
途中生存者達とすれ違ったが顔がやつれ元気がなかった。(彼らどうしたんだろ?元気が無さすぎる。)2人は部屋に入った。
「さっきの人達見た?元気無さすぎじゃない?」
「だよな?それは俺も気になった。明日、料理長に聞いてみるよ。とりあえず今日はここで寝よう。」
朝になった。2人は料理長の所に向かう。途中色々な人に、
「何か食べ物ありますか?」
「何か持っていませんか?」
等話しかけられた。
料理長の所にたどり着いた。
「他の方達元気が無いようですか?」
「気付いたか?実は2日前から食糧が尽きてね。備蓄している食材かも消費期限が切れるから交換前に破棄したんだよ。そしたらゾンビ共だろ?食糧積んだトラックも来れなくなって、尚且つ立て込もってたから周りにゾンビに囲まれて身動き取れなくなっちまったんだ。お宅らが来たから何か食糧持ってるかと思って呼んだけど、無駄だったみたいだな。」
料理長はうつむいてしまった。
「良かったら、自分達が車で囮になりますよ。お風呂にも入れさせて頂きましたし。」
珍しい事言ってるなと葵は思った。
「そうでもしないと、俺らもここから出られないだろ?」
彼女に小声で言った。
ーーー
料理長は彼らの話に乗る事にした。(どちらにせよこのままじゃ飢え死にだ。駐車場には送迎バスもある。ここの住人を乗せるだけのキャパはあるはずだ。)
「プランはあるのか?」
「まずは自分達の車の反対側にゾンビを誘き寄せないとですね。後は上手く車に乗れたらクラクション鳴らして走って来ます。」
「わかった。動ける者を呼んで反対側に行こう。」
そう言うと男性数名連れて歩いていった。
「お前ら、彼らがゾンビを誘き寄せられたら、送迎バスを使って住人達を全員乗せるぞ。万が一1人でバスに向かってゾンビに捕まると無駄になるから一斉に行くんだ!」
「わかりました。」
「さてと・・・ゾンビ達こっちだこっち!」
「来い!来い!」
そうしている間に車のエンジンがかかる音が聞こえクラクションが鳴り響いた。
「今だ!行くぞ!」
彼らは2階から降りていきバスの方へ走って行った・・・。




