温泉に向かって
「温泉ねぇ。」
広一が車を運転しながら言った。
「そもそもここらにあるのか?」
そう言いながらナビの近場で温泉を探してみる。ヒットは0、もちろん街中に温泉なんて難しい話だった、
「ホントにお風呂入りたい?」
「えー?もちろん。」
彼女は上機嫌に答えた。(銭湯でも良いが水等のライフラインがストップしてるから沸かすのは難しいしな。やはり頼みは温泉か。)
「今は栃木と群馬の中間位か。温泉だともっと西か?」
温泉なんて伊香保か草津位しか知らない為、西に車を走らせている。(匂いの検証と思って諦めるか。実際これでゾンビから隠れる事が出来ればしばらく温泉宿に身を隠すっての有りだな。)
「何考えてるんですか?一緒には入りませんからね。」
彼女はぷくっと口を膨らました。
「いや、そんなん考えてないし。」
2人は笑う。(そいえば1人だとこんな会話も出来なかった訳だ。ずっと緊張してるよりは良しとしよう。)
しばらく走らせていると、向こうの方に、地方に良くある大型のショッピングモールが出てきた。しかし様子がおかしい。周りにいるゾンビの数が半端じゃなかった。ゆうに100体はいる。外にあるショップの看板には大きく
「help」
と書いてあった。
「やっぱりここも見過ごすのですか?」
「いや、無理でしょ?あの数に囲まれたら終わりだし。静かに!やり過ごすから。」
そう言うとある程度加速した後、ニュートラルにする。そのまま惰性で進んで行く。(気付かれるな!)そう思いながら進む。不意にゾンビが飛び出してきて跳ねてしまう。その音で奴等は気付いたようだった。一斉にこちらに向かって来た。急いでドライブに入れて走り出す。
「助かった。あの数は無理だ。死ねるね。」
「初期に立て込もったらもう出ては来れなさそうな感じですね。」
「だからこそ慎重に落ち着ける場所を探さないと。」
「ですね。助けないの?なんて言ってすいません。」
「いや、大丈夫。まだ人として当たり前の考えを持ってるだけ良いと思うよ。」
道路の看板に伊香保の文字が見えるようになってきた。
「近付いたみたいだね。後少しかな?」
途中ゾンビが群がっている所が何ヵ所かあった。生存者がいるのだろうか?むしろまだ生きているのか?それはわからない。ただ言える事は避難場所があるおかげで、道路にはゾンビが少ないって事だけだ。
伊香保の街並みが見えてきた。あそこは坂道が多く、トレーラーを付けているとUターンもままならない為一旦外す事にした。
近くの開けたらパチンコ屋の駐車場に車を持っていき外す。ゾンビが入りにくいように出入口もロックをかける。
「さて、行きますか。」
そう言うと車を走り出した。
「温泉だー!」




