目的地
「あれ見て!」
その言葉で上を見上げるとヘリコプターが飛んでいた。
「ヘリ?あれって自衛隊の輸送ヘリじゃないか?」
「自衛隊?なら助けてくれるかも?」
ヘリは6機編成で西の方へ飛んでいってしまった。
「何処に向かってったんだろ?でも俺等と進行方向は同じみたいだからヘリが降り立つ何処に行けるかも?自衛隊なら安心だろ?」
そう言って車を走らせていく。だが行けどもそれらしい場所は見えない。
「近くじゃなかったのかも?」
「かも。残念。喜び損だったかもね。」
「安全な場所ってあるのかしら?」
「どうだろ?とりあえずは生存者にも注意しなきゃって事だよ、もしかしたら自衛隊だから安心って信じちゃダメだって事。」
そう言って2人は無言になってしまった。生存者に銃を撃たれた経験があるだけに無理もなかった。
「ともかく、止まってもいられないから先に進もう。」
現時点で、
周りが壁でおおわれている。
入り口は強固(ガラスは不可)。
地下水あり。
畑用の土があれば尚良し。
長期を考えるならこの選択肢は外せない。スーパーとか店に立て籠るのは良いのだけど、長期的に考えると食糧が尽きた際に身動きが取れなくなる恐れがある。実際中々思っている環境の所なんてなかった。
「ねぇ、牧場とかどう?牛を放し飼いにしても大丈夫なように周りは柵があるだろうし、牧草があるんだから畑にも転用出来るんじゃない?」
成る程、一理あるかも知れない。なら始めから山に行けば良かったって事か?
「なら雪が降らない地域の牧場探しをしてみようかね。落ち着いたら後で地図を見てみよう。」
そうなのだ。住宅が増えてきたのと比例してゾンビの数もまた増えてきたのだ。囲まれないように見通しが良い広い道を優先して通る。
「一体どの位の人達はゾンビになってしまったのだろう?」
「半分以上はゾンビになってしまったのじゃないかしら?生存者が多いならもっと誰かに会っても良いと思うの。」
「だよなぁ。いても強盗まがいのしか居ないし。」
「でも私達も人の家に勝手に入ったりしてるから変わらないんじゃない?」
「でも人は殺してないぜ?」
「ゾンビは殺してるじゃない?」
「そもそもゾンビになると人なのかな?殺さなきゃこっちが殺されるよ。」
「そうだけど・・・」
「絶対何処かの団体がゾンビにも人権を!って言ってるぜきっと。」
「日本人らしい発言ね。」
「だろ?でもそう言っている人物に限ってゾンビに殺される訳よ」
そんな話をしながら笑っていた。
「ゾンビって生前の記憶ってあるのかしら?」
「どうだろ?本能だけじゃない?生きた人間を食べるってだけの。痛みは感じてないみたいだし。」
「不思議よね。ゾンビなんて何処が発症原なのかしら?」
「テレビでは海外からの貨物船にゾンビが居たようなニュースはやってたけど。」
「日本以外もこんな状態なのよね・・・危ない!前!」
ふいに前にゾンビが飛び出して来た。バン!と音と共にゾンビがボンネットに頭を打ち付ける。ブレーキをかける。引いたゾンビは前に飛んでいった。
「やっちまった。ビックリした。」
それでも引かれたゾンビは動いている。骨が折れたのか立ち上がっては来ない。だが、少し止まった間にゾンビに囲まれてしまった。
「マズイ!少し揺れるぞ!」
そう言うと車のアクセルを踏んだ。先程の引いたゾンビを再度引きながら進む。タイヤに踏まれ内蔵が飛び出すがゾンビはまだ動いている。何体かのゾンビも引いていき進んで行く。途中放置車両に接触するが止まらずに走っていく。何とかゾンビを巻いたようだ。ホッとしながら車の状態を見るために車両を降りた。その時不意に足を捕まれ転倒してしまった。足の先を見てみると、1体のゾンビが上半身だけの状態で車両の下に引っ掛かっていたのだ。
「ヒィッ!マジかよ。」
広一は武器を何も持って出なかった。
「葵!何か武器になる物を渡してくれ!」
ゾンビの足を引っ張る力が尋常じゃない。自分の脚がゾンビの口元まできている。捕まれていない方の足で顔を蹴るが全く意味をなしていなかった。
「広一さん!」
そう言ってボウガンを手渡された。
「クソ!死ね!」
ボウガンの矢を放つ。ゾンビの口に矢が当たり矢を食べているように見える状態でゾンビは動かなくなった。
「助かった・・・何だってこんな下回りに居たんだ?・・・ウゲ、気持ち悪い。内蔵が引っ掛かってやがる。」
動かなくなったゾンビを引っ張り出す。内蔵が引きちぎれる嫌な感触がくる。
「しかし焦った・・・あーあ、車がボロボロだ。ローン残ってたのに・・・」
「怪我は無いですか?」
「大丈夫だよ。ありがとう。」
「イエイエ。」
(やはりゾンビが多いのは考えものだな、直ぐに囲まれる。早く街中から離れないと。)予定の牧場に向かって走り出した。




