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冬野つぐみのオコシカタ  作者: とは
第三章 冬野つぐみの出会い方

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ある水曜日に

「じゃあ、ふたを開けますね~。さとみちゃん、こっちにおいで! 大きいの見せてあげる~!」

『何が大きいんだ? おかしなのか?』

「ぶっぶ~。お菓子じゃないよ。じゃじゃーん! ピザでーす!」

『うわぁ、何か知らないが大きいな! いいにおいだ!』

「あ、そっか。さとみちゃんは、ピザ食べたことなかったね」


 さとみとつぐみの会話に、皆が集まってくる。


「すごいね、すごいね品子さん! こんなおっきなピザが食べれるんだー!」

「そうだぞ明日人、本日をもってピザ神になられた、冬野君に我らは敬礼だっ!」

「はいっ! ピザ神様〜!」

「いえ、お二人共それは結構です。そもそもまだ、食べてもいないじゃないですか」


 二人の敬礼を眺めながら、つぐみは苦笑いを返す。

 水曜日の夜。

 今日はつぐみの引越し祝いの夕食会の日だ。

 出席者は品子、惟之、明日人、ヒイラギ、シヤ。

 そしてさとみとつぐみの七人だ。


 ヒイラギとシヤの手伝いを借りながらつぐみは慌ただしく、そして心からたえまなくあふれでるワクワクを抱えて、料理を作っていた。

 リビングの机に置かれたホットプレートのふたをゆっくりと開ける。

 たちまち現れた白い湯気にさとみは驚き、つぐみの後ろへと慌てて隠れていく。

 湯気が消えたのを確認すると、ぴょこりと顔を出しそっと中を覗き込む。

 全面を使って焼いた大きなピザに、さとみの大きな目がさらに見開かれた。

 そんな彼女とピザを見た皆の顔が、笑顔に変わっていく。


 ――あぁ。皆のこの顔が見れただけで、私の心がお腹一杯だよ。

 ピザにも負けない温かな思いが、つぐみの心の中から溢れ出す。


 チーズがしっかりと溶けているのを確認し、取り分けをヒイラギに頼んでおく。

 そのまま足早に台所に戻ると、フライパンに餃子を並べ焼きはじめた。


「うん、前日にヒイラギ君と一緒に、買い物に行っておいてよかった!」


 おかげで今日の仕込みの時間に余裕が出来たので、せっかくだからとひと手間かけた餃子を作っておいたのだ。


「ふふ、喜んでくれるといいな。美味しいって言ってくれたらいいなぁ」


 この嬉しさを、気持ちを、ささやかながら料理に込めよう。

 焼き上がる料理を見つめ、つぐみはそう思うのだ。


「よし、上手く餃子は焼きあがったようだね!」


 フライパンのふたを開けて、こっそりと覗き込む。

 綺麗に焼けた餃子に、つぐみは思わずガッツポーズをする。

 そっと一つずつお皿に丁寧に載せていると、明日人が取り分けたピザを持ってやって来た。


「つぐみさーん! これ君の分だよ~。ちょっとお休みして一緒にピザ食べ、……って何これ! うわわっ、すごくきれーい! お花の形してるよ! すごいや!」

「あら、もうばれてしまいました。今からもっと焼きますよっ! 皆でこの餃子、食べててもらっていいですか?」

「うわぁ、これ餃子なんだ! すごく綺麗だね!」

「ありがとうございます。上からお醤油を少しかけて食べると、見栄えもいいらしいですよ。井出さんに、味見をお願いしますね!」

「うん! 任せて! 僕、味見は得意だよ! じゃあさ、ピザをここに置くからね。僕、皆に見せてくるー!」


 明日人は皿を持って、すごい勢いでリビングの方に戻っていく。

 走っているのに、全く皿の餃子が倒れる様子はない。

 明日人のバランス感覚に驚きながら、つぐみはピザを食べつつ次々と餃子を焼いていく。


「わぁ、ピザの生地、カリカリっとしていて美味しい! 初めての手作り生地だから心配だったけど、これはいい感じだね。うん、ピザ生地はなかなかに奥が深い」


 二度目の餃子が焼きあがる頃、今度は空のお皿を持った品子がやって来た。


「冬野君、このお皿にあったお花の形の餃子! すごく美味しいね! 大葉が入ってるから、さっぱりさわやかな味付けだし! 私、これ大好きー!」

「良かったです! お皿もちょうど持って来てもらえたから、出来立て餃子をお渡ししますね!」

「うん! じゃあ冬野君もそろそろ一緒に食べよう! まだ餃子を焼くなら、私がやるよ! 大丈夫、中華は火力が命! って知っているから後は任せ……」

「おい、品子。冬野を連れてリビングで飯、食ってろ。あとは俺がやる。……これは変わった形だし、水多めの蒸し焼きでやればいいんだよな?」


 いつの間にか品子の後ろに立っていたヒイラギが、品子をリビングへとぐいぐい押していく。


 ありがとう、ヒイラギ君。

 ナイスアシストだよ。

 ありがとう、ヒイラギ君。

 ……皆の胃腸を、守ってくれて。


 言葉に出すことなく、つぐみはヒイラギへと感謝をささげる。 

 彼に台所を任せ、残った餃子の皮とピザの具材と共にリビングへと戻っていく。

 目が合ったさとみが、嬉しそうに駆け寄って来た。

 

『冬野! ぴざってやつおいしいな。びよーんてなって、おいしいなんていいな!』

「それはチーズのことかな? じゃあ今度は小さいピザを作ろうか?」

『大きいだけでなく、小さいもあるのか? 大きな私と、小さな私みたいだな!』

「あはは、確かにそうだね。じゃあ早速!」


 ホットプレートの表面を軽くキッチンペーパーで拭ってから、再び油をひく。

 餃子の皮にピザのソースを塗り、次々とホットプレートにのせていく。

 そして餃子の皮にピザの具材、そして最後にチーズをのせてふたをして待つこと数分。

 高らかにつぐみは宣言をする。


「ふた、開けまーす。今度のピザはカリカリでなくパリパリです! 食べ比べをお願いしますね!」


 再び開いたふたの中を見て、皆が一斉に「おぉ!」と声を漏らす。


「ありがとうございます、心のお腹いっぱい。本日二回目、いただきました」


 思わずつぐみもそんな声を漏らしてしまった。

 フライ返しで小皿にのせたミニピザを、さとみに渡す。

 パリパリと音をさせてほおばる、可愛い少女の姿を見届ける。

 両手でピザを持ち、笑顔で食べているその姿。

 ほっぺをいっぱいに膨らませて、食べてる様子はまるで小リスの様だ。

 危険を察知した惟之が、品子をさり気なく、さとみから遠ざけている。


 ナイスです! 靭さん。

 心の中でつぐみは、思わずそう呟いてしまう。


 さとみがやけどをしないよう、更には品子の動向に気を付けるようシヤにお願いをしてつぐみは席を立った。

 ミニピザを別の小皿にのせ、ヒイラギの元へ向かう。

 台所で彼は、ちょうど焼き終えた餃子をお皿に載せている最中のようだ。


「ヒイラギ君。ピザの食べ比べをお願いしまーす!」

「おっ、いいな! 食べ比べといえば、今回の餃子は蒸し焼き用の水に鶏がらスープの素も入れてみたんだ」

「いいね、絶対さっきより美味しいよ! ……ピザ、どうかな?」

「食感が違うっていいな。なぁ、これにチョコとかのせてみたら美味いんじゃないか?」

「あぁ、いいかも! はちみつとかもありかなぁ?」

「ありだな。たしかバナナあったからチョコバナナにしたら、もっといいかも」

「うわぁ、これはさっそく実行だね! さぁ。餃子を届けに行こう!」


 二人でリビングに餃子を運び、今度はスイーツピザに挑戦することを皆に伝える。

 その話に甘いもの大好き組の品子と明日人が、敬礼を越えてとうとう二人でヒイラギとつぐみを拝みだした。

 それを惟之は一生懸命、止めようとしてくれている。

 その様子に我慢できずにつぐみは大きく口を開けて笑いながら、スイーツピザを作っていく。

 そうして同時に、幸せな時間が作られていく喜びを知るのだ。


 出来上がったスイーツピザをさとみ、明日人、品子の三人がうきうきとして食べているのをつぐみは眺める。

 その姿はまるで、遠足に来た小学生のようだ。

 遠足三人組を見て、こみ上げる笑いを押さえることが出来ずに吹き出しながら今度は台所へ目をやる。

 そこにはぐったりとして、台所のテーブルに突っ伏している惟之の姿。

 そしてそんな彼にコーヒーを届けている、シヤの姿が見える。


 そして、そんな自分の隣には。

 これまたみなの様子を見て、しょうがないなぁという顔をしながら、まんざらでもなさそうなヒイラギがいる。

 皆をぐるりと見渡し、つぐみは思うのだ。


 あぁ、楽しいなぁ。

 この人達と、これからもこうやってずっと一緒にいたい。

 そのためにはあと三か月以内に、私の知っている未来を変える必要がある。 


 ――さぁ、はじめよう。

 私は、未来を変えるんだ!

お読みいただきありがとうございます。


次話タイトルは「冬野つぐみは心を探る」

惟之とつぐみのお話。

あ、この組み合わせも、めずらしいかも。

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― 新着の感想 ―
[一言] 我らがタルト姫はとうとう神になられた( ̄人 ̄) 今回は終始幸せ回でしたね。しっかり堪能させていただきました( ´∀`) そして所々でしっかりアシストする、ツッコミブラザーズがグッジョブ! …
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