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冬野つぐみのオコシカタ  作者: とは
第三章 冬野つぐみの出会い方

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冬野つぐみと観測者は話す

「さて、冬野さん。あぁ、何をお話ししようかな。立ったままでのお話なんて、疲れてしまいます。どうぞソファーに掛けてください」


 誰もいない部屋にもかかわらず、つぐみの頭上から声が響く。

 その声に溢れているのは、隠し切れない喜び。

 声かけに従い、つぐみは足元に鞄を置きソファーに腰を下ろした。

 緩やかに描かれたカーブの背もたれに体を預ければ、ふわりと包み込むような座面の柔らかさに驚く。

 思わず「おぉ、すごい椅子」と口から出てしまい、思わず顔が赤くなる。


「ふふ、『すごい椅子』って。千堂さんもなかなか個性的な方ですが、冬野さんは別の意味で個性的ですねぇ」

「すみません。でもこのソファーってきっと高級なものですよね? 私、こんな高級なソファーって座ったことが無くって。短期間でこんなすごいソファーを手配したり、こんな可愛らしいインテリアのお部屋を準備するなんて、大変だったのではないですか?」

「そんなことはないですよ。とはいえ確かに今回は、組織の名を借りて融通を利かせてもらったところはありますね」


 融通が利く。

 つまりは落月内において、力のある立場なのだろう。

 上級発動者の室と交渉し、つぐみとの接点を持つというリスクをも気にしない程の人物。

 おそらくこの人物も落月内での上級発動者、あるいは上の立場の人間なのではないか。

 ……もう少し相手を知りたい。

 そう考えながらつぐみは問いかける。


「大丈夫ですか? その融通を私に使っていたことがばれてしまったら、観測者さんは困りませんか?」

「心配をしてくれてありがとうございます。隠れてこそこそとするのが得意なので、大丈夫ですよ」

「ということは、お仕事は忍者みたいなことをしているのですね。ええっと、お忍びご苦労様です!」

「お忍び、……ですか。うわぁ、すごい感性ですね。面白いなぁ。話せる時間が短時間なのが、本当に惜しい」


 話を聞き部屋を見渡せば、時計が無いことに気付く。


「あの、この部屋には時計が無いのでしょうか? 時間が分からないと困るのですが」

「あぁ、そういえば時計のことを失念していましたね。時間はこちらで確認しておりますよ。どうかご心配なく」

「そうですか。ではよろしくお願いします。あの、ちなみに今はどれくらい時間が経ったのでしょうか?」

「今は、……五分程ですね。あぁ。楽しい時間というものは、本当に短く感じるものだ」

 

 とりとめのない会話をなるべく続けて、相手に情報を与えないように時間を伸ばすように。

 そうつぐみは心掛ける。

 

「あ、あの! 先に言わせて下さい。今回の件についてです。今のところは、白日の人に気付かれていません。このまま私は、内密でいられるようにするつもりです。今日、観測者さんに会っていたのを、白日の誰にも口外するつもりはありません」


 部屋の中央に向かい、つぐみは話し続ける。


「ですがもし、気付かれてしまった時。その際は申し訳ありませんが、会っていたことを話すことになるでしょう。それでですが、どこまで私は話しても大丈夫でしょうか?」


 自分から問いかけを増やし、相手から質問をされないようにする。

 こうして時間を稼いでいけばいい。


 だがそのつぐみの考えは、観測者の言葉により否定されることとなる。


「そうですねぇ。千堂さんの存在を気付かれて、それを黙っている条件として話をしてくれと言われた、位でいいのではないでしょうか? まぁ、あなたは聡明な方なので、どこまで話すかはお任せしましょう。……さて、あまり冬野さんばかりに質問されていても何ですね。本来のこちらの願いは質問されるのでなく、『お話』をするというはずでしたからね」


 観測者が話し終えると同時に、空気がすっと冷えるような感覚が肌を刺し、つぐみの全身が粟立っていく。

 自分の考えなど、相手はとうに見抜いていたのだ。

 だがここで表情を崩したり沈黙してしまっては、それを正しいと認めているようなもの。

 つぐみはとっさに立ち上がると、両手を前に出しぶんぶんと大きく振りながらあえて大声で話す。


「す、す、すみません! 私っ! すごく緊張しすぎて、変なことばかりっ! 言ったり聞いたりしてしまいました! えっと、どこに謝ればいいんだろう! とりあえず真ん中にいると思いますね! 逆に聞きすぎてすみません! 質問どうぞ! たくさんどうぞ! 私っ、いっぱい答えますから!」


 部屋の真ん中に向かい叫びながら、大きく頭を下げる。

 礼をしてじっと下を向いたまま、ぎゅっと目を閉じて相手の反応を待つ。

 数秒の後、しんとしていた部屋に、くっくっと堪え切れなくなったであろう笑い声が響き始めた。

 

「あはっ、たくさんどうぞですか? 冬野さんの言葉の選び方って独特ですね。あぁ、あなたって人は本当に面白いや」


 張りつめていた空気が、和らいでいくのが分かる。

 小さく安堵の息をつき、目を開けるとつぐみは再びソファーに腰を下ろした。

 

「では、そんなとても面白い冬野さんに質問です。よろしいですか?」

「はい! 意地悪な質問ではない限りは、きちんとお答えします!」

「ふふ、元気な返事でいいですね。では冬野さん、お答えください。あなたは一般人ですか? ……それとも発動者ですか?」

お読みいただきありがとうございます。


次話タイトルは「観測者は問いかける」

自分はこれを楽しいお話の時間、なんて思わないですね。

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― 新着の感想 ―
[良い点] つぐみちゃんの天然っぷりでほんわかしてますが、 いや実に! ピリピリした緊迫感、駆け引きが見え隠れしますねぇ 怖い怖い! [一言] 明日が楽しみです(≧▽≦)!
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