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冬野つぐみのオコシカタ  作者: とは
第一章 木津ヒイラギの起こし方

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白い場所で

「えっと、千堂君。今から私は冬野君を眠らせればいいのだね?」

「はい、お願いします」

「では冬野君、失礼するよ」


 品子がつぐみの額に触れるのを、惟之は見届ける。


「……おやすみ。君に任せてばかりですまない。どうか、ヒイラギを頼む」


 こくりとうなずき目を閉じたつぐみは、そのままゆっくりと前へ倒れこんでいく。

 つぐみを抱きかかえた品子に代わり、惟之は沙十美へと声を掛けた。


「千堂君、彼女をどうしたらいいのかな?」


 初めて見る品子の発動に驚いたようで、慌てぎみに沙十美は答えてくる。


「あっ、……ええと、はい。彼女をヒイラギ君のそばに座らせてもらっていいですか?」


 指示を聞き、足早に惟之はベッドへと向かう。


 説明は聞いていたものの、惟之としても、どうも頭がついていかない。

 ベッドのそばに椅子を置き、そこにつぐみをもたれかかる体勢にして座らせる。

 穏やかに眠る彼女は今、何を思っているのだろうか。

 惟之が離れるのと入れ替わりに、沙十美がやって来る。

 静かに眠る親友の髪を優しく撫で、彼女は惟之へと振り返ってきた。

 

「では私は、つぐみを迎えに行きます。驚かせないように先に言っておきますね。今から私の姿は突然に消えると思います」


 品子と惟之の顔を交互に見据え、沙十美は話を続ける。


「そしてお二人にお願いがあります。つぐみの体に何か異常が起こっても、私がここに戻ってくるまでは、絶対に起こさないでください。お願いします」


 惟之がうなずくと、ほっとした表情を浮かべ彼女は目を閉じる。

 次の瞬間、彼女は目の前から忽然(こつぜん)と消えた。

 理解していたはずなのに、惟之はつい周りを見渡してしまう。


「おいおい惟之、さっき彼女が言ってたじゃん。消えますよーって」

「いや、分かってはいるんだ。ただ頭がついていけてないというか」

「まぁね。お前が私以上に驚いてくれたから、こちらは冷静でいられたというべきかな」


 つぐみを見つめながら品子は呟く。


「私達に出来るのは信じて待つこと、だよな? 惟之」

「あぁ、今回は俺達は欠席だ。あとは彼女達に任せよう」


 もどかしい思いは、もちろんある。

 だが、約束したのだ。


「千堂君は待っていて欲しいと言った。だから帰ってきたら、二人をきちんと褒めてやれるように。頑張ったなと言ってやれるように。俺達はここで待っているとしよう」



◇◇◇◇◇



「つーぐーみー。おーきーてーよ」


 聞き覚えのある声が、つぐみの名を呼んでいる。


「つーぐーみー。……っていい加減に起きろって言ってんのよ!」

「え、痛い痛い! 耳っ、耳を引っ張らないで―!」


 ヒリヒリと痛む耳を押さえながら、がばりと起き上がる。

 目に映るのは一面の白色。

 足元の感触は、コンクリートとは違う土のような少し柔らかめの固さの地面だ。

 地面に触れてみるが、指には何もつかない。

 まるで粗目の紙の表面を撫でているような、少しざらざらとした感触があるのみだ。

 木や建物といったものも無く、ただ白い空間だけが自分の周りに存在している。


「え、何? ここは一体」

「やっと起きたわね。ちょっと寝過ぎよ」


 呆れながら話す沙十美を見つめ、ようやく状況を思い出す。

 つまりここは……。


「ここが、ヒイラギ君の心の中?」

「そう、あまりのんびりするつもりもないわ。探しに行くわよ」


 沙十美はつぐみの後ろの方向を指さす。


「あっちに気配を感じるわ。行くわよ、つぐみ」

「うん。あ、あのね沙十美。迷うと困るから。……手を繋いでもいいかな?」

「まぁ、確かに。ここでは何があるか分からないわね」


 差し出された沙十美の手は、とてもひんやりしていた。

 何となく、自分の熱が彼女の中に届くようにと、少し強く握りながら歩き始める。


「怖いかもしれないけど、私のそばにいれば大丈夫だから」


 力を入れた理由を、彼女は違う意味で捉えたようだ。

 その言葉で、自分を思う彼女の心の内を知る。

 こんな時でありながら、少し幸せを感じてしまう。

 もう二度と触れることが出来ないと思っていた彼女。

 自分のことを、最期まで大切に思っていてくれた大切な友達。

 普段は室の体の中にいると聞いているが、これからもこうやって会うことは叶うのだろうか。


「沙十美。気分が落ち込まないように、話をしていてもいいかな?」

「いいわよ、少しくらいは付き合ってあげる」

「あのね、黒金(くろがね)町に美味しいタルトのお店があるの見つけたの。「あいらん」って名前のカフェでね。ヒイラギ君が起きてくれたら、沙十美と一緒に行けたらいいなって思ってるの」

「……そう、チョコタルトはあるのかしら?」

「うん、あったよ。そこのお店のタルトは種類がいっぱいあるから、一緒に行っていろんな味のものを食べたいんだ。だから……」


 そこでつぐみの言葉は、止まってしまう。

 先程まで何も無かったはずの視界の先、そこに見えたのは。


 何もない白い場所で、ぽつりと一人で眠っている男の子。

 ずっと求め続けていた彼の姿に、つぐみは叫ばずにはいられない。

 

「沙十美っ! あっ、あそこにヒイラギ君がいる!」

お読みいただきありがとうございます。

次話タイトルは「白い蝶と少女」です。

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― 新着の感想 ―
[一言] すでに失ってしまったその人と、その後も話したり触れあえるのはとても嬉しくもあり、でも切なくもありますね。 彼女たちがこれからもずっと一緒にいられるのか、終わりが来るとしてもそれがいつなのか…
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