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53. 入学試験 1

○前回までのあらすじ

メアリ「やっぱり婚約破棄はなしね!」

ルナ「なにそれ聞いてない」

作者「なにそれ聞いてない」

ルナ「えっ」


お久しぶりです。

どうぞ、よろしくお願いします。

「やっぱり、アルト様の性格が教育のせいなら、その元凶を叩くべきだと思うの」


 だんだんと暖かくなり、春の気配がせまってきたある日。

 普段よりやや荒く揺れる馬車の中で、いきなりメアリがそんなことを口にした。

 となりに座るルナは、メアリが突拍子もないことを言い出すのはいつものことだと半目になりつつ、話を進めるためにいちおう聞き返しておく。


「突然どうなさいましたか、お嬢様」

「アルト様をどうにかまともにできないか、その方法を考えていたのよ。やっぱり、問題は根本から解決していかないとと思って」

「はあ。つまりはどういうことですか?」


 平静に尋ねるルナに、メアリも何でもないことのように返した。


「ええ、アルト様のお父様、アミアン候爵を説得して、改心してもらおうっていう計画よ」

「ご自分から難易度を上げて、なにがしたいんです?」

「……辛辣ね。そんなに駄目かしら?」


 不満そうにするメアリだが、まあ本当に上手くいくとは思ってないのか、どこか面白がるような調子でルナに聞き返した。

 そんなメアリの調子を察しつつ、このまま適当に流すと自分のご主人様(メアリ)は本当にやりかねない事を知っているルナは、真面目に答えを返す。


「駄目と言うより、無理でしょう。同世代のアルト…様はともかく、そのお父上など、私たちのような小娘程度がどうこうできる人ではありませんよ。それこそ年季が違います」

「……それもそうね。じゃあ、この案はなしということにしましょう」


 思いのほかあっさりと提案を引っ込めたメアリにほっとしていると、すぐにまたメアリが何か思いついたように口を開いた。


「それなら、こういう作戦はどうかしら」

「駄目です」


 にべもなかった。


「……ねえ、話だけでも聞いてくれないかしら?」

「そんな悲しそうな顔をなさらなくても、あとで聞きますから。ほら、着きましたよ」


 窓の外を見てそうルナが言うと、メアリは残念そうに息をはいた。


 しかし、このときメアリの話をきちんと聞いていなかったことを、ルナはのちに後悔することになるのだが。


 そんな可能性に思い至るわけもないルナは馬車の扉を開け外に出ると、先ほどまでの無表情(侍女モード)からうってかわって、にこやかな表情(・・・・・・・)でメアリのほうへ振り向いた。


「到着しましたよ、メアリ様(・・・・)。王立学院、今日の試験会場です」



 * * * * *



 王立学院は王都中央のやや西よりに位置する、この王国最大の教育機関だ。学院には3つの学科があり、それぞれ普通科、騎士科、魔術科で構成されている。

 おもに貴族の子女のための教育機関だが、貴族のみが入学を許される普通科以外の学科では、試験に受かりさえすれば平民であっても入学することができる。


 普通科は貴族の子女、とくに家を継ぐ可能性が高い長子や国政に関わることになる者が通い、領地経営、外交、軍事等、貴族として国を支えるために必要な事柄を学ぶ。

 この学科は貴族であれば誰でも入ることができ、試験は個人の身分と能力を見てクラス分けをするためのだけのものだ。平民がこの科に入ることはない。


 騎士科は、騎士団はもちろん近衛や参謀、軍の役職者など、軍属でもそれなりに高位の役職につく人材を育てる学科だ。

 貴族の中では普通科に入る意味があまりない、勉強が苦手な者や三男以降が入ることが多い。また数は少ないが女性が入ることもある。

 試験内容は試験官との模擬戦に比重がおかれていて、筆記もなくはないがあまり重要視されない。

 平民の受験者にとっては、騎士とは騎士爵という爵位をもらって貴族の仲間入りをすることを意味するため、合格のボーダーは高く、貴族を含めた上位30人に入った者だけが入学を許される。


 魔術科は、魔術師を育成し、魔術師団やその参謀となる人員の確保を目的としている。

 試験内容は魔力量の測定と魔力操作の実演だ。

 その場で魔力の扱いの簡単な解説があるので、魔力を持っていることだけわかっているような下級貴族や平民でもきちんと合格することができる。

 この学科での優劣はほとんどが生まれもっての資質で決まるため、平民であっても魔力量が多く才能ある者は誰でも入ることができ、貴族であっても魔力と才能がなければ容赦なく落とされることになる。



 貴族の子女はどの学科でも、とにかく4年間王立学院に通うことを義務づけられていて、教育過程の修了とともに正式な貴族になる。

 つまり、学院に来なかった場合は家を継ぐ事はもちろん、国の運営にかかわるすべての役職に就くことができないのだ。

 そのため、騎士科もしくは魔術科の試験を受け、落ちた貴族は自動的に普通科に入学することになる。


 それでも、下級貴族は自前で家庭教師をつけるよりも安く、高水準の教育を受けさせることができ、さらには大貴族とのパイプを繋ぐために。

 大貴族は、この学院をそうした下級貴族のあつかいを子どもたちに覚えさせる社交の練習の場とみなしているため、貴族から不満の声はない。


 また、学費はそれなりにかかるものの、毎年最初の試験で優秀な成績を修めれば特待生となり、学費や寮費、生活費などのすべてを免除してもらうことができる。


「そういうわけで、卒業したらほとんど食い扶持には困らないし、通うのにもお金がかからないかもってことで、優秀な平民出身の魔術師をたくさん輩出しているらしいわ」

「よく調べてますね、メアリ様。優秀な卵をかき集めている、ということですか」

「ええ、理に適っていると思うわ。身分に拘泥するよりよっぽどマシよ」


 今回ルナ達二人が受けるのは魔術科の試験だが、メアリは落ちても予定通り普通科に入ることになっているし、ルナは自分の魔力量をとうに把握していて、落ちる心配はほぼないと知っている。

 なので二人とも、試験会場にあって緊張などどこふく風とでもいうように落ち着いていた。


「ええと、試験会場は……」

「こちらのようよ。……珍しいわね、ルナがリサーチ不足だなんて」

「メイドとして来ているんじゃないですし、まあいいかなと」

「最近忙しそうにしているものね。まあいいわ、はやく行きましょ」




300万PV感謝更新です……

ほんとうにありがとうございます!


あと2話、投稿します。

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