25. 案の定
「このポップコーン?って言ったけ? 不思議な作り方よね」
メアリとルナは紙の器に入った白いポップコーンを食べながら西の市を歩いていた。
日もだいぶ昇り屋台もぽつぽつと出始めた頃、ある屋台の気前のいい店主がパフォーマンス代わりに作る展示と一緒に、その時唯一の客だったルナ達にプレゼントしたものだ。
「多分ガイア世界から渡ってきたものだろうけど、まあ不思議よね」
「……? ガイア? なにそれ?」
「あれ? もしかして一般的じゃない? ここじゃない異世界のうちの一つなんだけど」
「あー思い出した、魔術がなくて科学が発達してる世界だよね。ってかガイア世界って確か研究者達の呼称じゃなかったっけ? なんでルナ知ってるのよ」
「え、ああ、本で読んだのよ」
「……へー」
露骨に目をそらすルナに胡乱げな視線を送るメアリだが、しぶしぶながらもその答えで納得したようだ。
「そんなことよりさ、ポップコーン美味しいよ、ほら」
「そういえばタダでもらっちゃったけど、よかったのかなコレ」
「……いや、うん、まあメアリだしね」
あっさり食べ物に釣られるメアリは、しかし自分の顔が整っていることを、そして東の市ではそれを最大限に利用しておまけの類を大量に貰っていたことをすっかり忘れている。
「それで、どれだけここにいるつもりなの?」
「うーん、午後はダンスの練習があるし、余裕をもってそろそろ帰ろうかな……」
昼というにはまだ早いが、二人が西の市に着いて時間もかなり経った。真面目な顔をして尋ねるルナに非常に不本意そうな顔をして渋々言うメアリ。
「じゃあ停留所まで向かお……」
「おいお嬢ちゃんたち、可愛い顔してんじゃねぇか」
(やっぱりこうなるのか……)
背後から聞こえた声にルナは内心頭を抱える。
王都は他の街に比べてかなり治安がいいとはいえ、そしてスーリヤ家の自警団がいるとはいえ、それでも所謂破落戸と呼ばれる人種は一定数存在する。
元々メアリの見目はかなり良く、東の市でもルナに声を掛けられなければ同じような目にあっていただろう。
ルナも正面から見ればかなり整った顔立ちをしているが、あまり人に気付かれないように気配を消しているのでこれまで問題は起こしてない。
馴染んだ東の市ならともかく、初めて来た西の市ではこうなることはまあ簡単に予測できた。今回は停留所まで近道をしようと少し裏道に入ったのがまずかったようだ。
しかし、目下のところ一番の問題は目の前の3人の男どもよりも
「……ねえルナ、どうやったら自警団のみんなにバレないで済ませられると思う?」
そう、頭の回転が速いメアリと時々謎な身体能力を発揮するルナの二人ならば直ぐにこの場から走って逃げて、その間にほかの大人に助けを求めることは簡単だ。
ただ、その助けてくれる大人というのが十中八九自警団だというのがメアリには問題なのだ。
「諦めたら? 当sy……おじさんにこってり怒られるといいよ」
「ルナの薄情ものぉー!」
「ガキ共が、無視してんじゃねえよ」
突然自分たちを他所にこそこそと相談を始めたルナ達に、苛立ちを隠せない破落戸×3
「おいお前ら! 何をやってるんだ!」
と、メアリたちのいる路地にまだ幼さを残す威勢のいい声が響いた。
自警団にしては若すぎる声に二人が声のした方向を見ると、10人ほどの10代前半の少年たちの一団がいた。
声は彼らの中心にいる濃い緑色の髪をした見目のいい少年から発せられたものだ。その立ち姿を見て、ルナは再びこっそりと頭を抱えた。
「ちっ、厄介な。おいお前ら、この娘どもを攫ってさっさと逃げるぞ」
「させるか!」
そんなルナには気付かずに男たちのリーダー格とおぼしき男が一人の破落戸に指図するが、指示を受けた男がルナ達に向かう前にその少年がルナ達との間に立った。
(……へぇ)
その俊敏な動きにルナは内心で称賛する。見かけの年の割に動きに無駄がなく、ルナ達とは破落戸どもを挟んで反対側にいたはずの彼が破落戸どもに気取られずに回り込んだ技術も中々のものだ。
少年に回り込まれた破落戸は動揺しながら懐からナイフを出して横に振るうが、少年は冷静に身を沈めてその一閃、というには鈍い一撃を躱し男の腕を手にした小ぶりのナイフで切りつけた。
「うっ…!」
「こんな女の子を3人で襲って恥ずかしくないの? おじさん達」
腕を押さえてよろよろと交代する破落戸に向ける少年の目は冷ややかだ。
これで破落戸どもは狭い路地の中、前には謎の少年、後ろには彼が連れていた10人弱の各々がナイフなどの武器を持った一団に囲まれる形になった。
「クソがっ……!」
「しまった!」
まあ当然どちらに行くかと聞かれれば少年一人の後ろにいる小娘二人を狙う訳で、一人が少年に組み付き、その隙に残りの二人が少年の両脇からメアリたちに襲い掛かる。人質にするつもりなのだろう。
「クソガキ共が! こいつらに死んで欲しくなかったらさっさとどっかに消えや……え?」
ルナに向かってナイフを突きつけようとしていたリーダー格の男は、しかしみなまで言えずに宙を舞うことになった。仰向けに地面に叩きつけられた男は衝撃に肺の中の空気を押し出され、あっけなく気絶した。
メアリに向かった先ほど腕を切られた男は、メアリがいつの間にか調達していた木の棒で鳩尾を突かれ、地面にうずくまって呻いている。メアリも自警団を持つ一族の娘として、ある程度の剣の訓練は受けているのだ。大人相手ではまだ分が悪いが、手負いの破落戸C程度ならば難なく対処できる。
「白馬の王子様を気取るには詰めが甘いわね」
「そうね。……っていうかルナ、私より強くない? 知らなかったんだけど」
「そうじゃないとメアリがここに来るのを認めてない」
「……それもそうか」
唖然とする周囲の戸惑いをよそに呑気に会話をする二人に少年が話しかけた。
「……なあ、オレたちって必要だったか?」
読み返してみてちょっと間延びした感があるなーと思い始めた今日この頃。
今の章がひと段落ついてから加筆修正するかどうか検討中です
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