外伝 吸血鬼の旅 前編
全八話の番外編始めます。
「さっさとしろ! いつまでグズグズしているつもりだこの鈍間が!」
……村長さんが、大声で僕を怒鳴る。
でも、足が痛くて動かないんだ。素足でなんども荒野にある湖まで往復したせいで、もう、足が……
「何だその目は!」
「ぐぅ!?」
涙を堪えた眼で村長さんを見ていたら、殴られてしまった。ますます怒らせてしまったみたいだ。
「まったく、忌み子なんぞを置いてやっているだけでも感謝して欲しいものだというのに! ……ほら、いつまで泣いているつもりだ! どうせすぐに治るんだろうが! なに同情を買おうとしておるか!!」
僕が泣こうが傷つこうが、村長さんは僕のことなんて何も気にしてくれることはない。
父ちゃんと母ちゃんが死んでから、ずっと村長さんの家に住まわせてもらっている。だから、それだけでも十分感謝すべきだろうって言うだけだ。
……でも、僕だって、悲しいし痛いんだ。
なのに、なんで僕だけ――
「――テメェら! 今すぐ家から出て来て手を上げろぉ!!」
そんな時だった。村の外から、今まで聞いたことのない野蛮な声が聞こえてきたのは――
◆
「……ハッ!」
我が宿敵の顔を思い浮かべながら、槍を振るう。
「イェヤッ!!」
我が意思に従い、槍の形状は変化する。
その全ての軌道を操り、脳裏に浮かぶあの男の動きを捉えるべく身体を動かす。
「――クソがッ!!」
しかし、追いつけない。俺自身のイメージでしかなくとも、あの男の動きは俺の動きを超越し、圧倒してくる。
「……神の領域。やはり、そこに辿り着かねば勝負にならないか」
一通りのイメージトレーニングを済ませた後、俺は改めて自分の前にある壁を認識し、怒りを感じる。
この俺が――吸血王が死亡し、古来の伝説である副将・カーネル殿も行方をくらました今、吸血鬼一族で最強であるこのミハイ・イリエが一人の人間に勝利するイメージすら持つことができない。
これほどの屈辱があるだろうか? 例え相手が人の領域を超え、怪物の領域すらも踏破し、神の領域にまで到達した神殺しであるとはいえ、それでも俺が負けて良い理由になるはずもない。
「神の領域――」
理屈はわかっている。光と闇の魔力を完全なる調和を持って融合させた先に、神の魔力があるのだと言うことは。
世界破片を手放したとは言え、今もなお俺の中には僅かながら光の魔力が宿っており、やろうと思えば混沌の魔力を発動させることならばできる。
しかし――混沌の先にある完全なる調和、神の力には足がかりすら見えない。
あの魔王神が自在に操り、あの男が辿り着いた領域に、あの戦いから十年以上の時を重ねても俺は立ち入れていないのだ。
「――カァッ!!」
苛立ち紛れに、俺は全身から魔力を解放する。
それだけで、修行場として選んだ南の大陸の辺境にある荒れ地が、爆弾でも炸裂したかのように抉れ、吹き飛ぶ。
しかし、全力はこんなものではない。修練を重ねた今ならば、世界破片なしでもその気になれば大陸の一つや二つ消し飛ばす程度のことは可能なのだ。
しかし、そんな程度では何の意味もない。宙に浮かびながら己の作ったクレーターを見るも、相手は世界を滅ぼす力を持っているというのに、この程度で何の自慢になるというのか。
「うぅ……」
「……ん?」
自らが成した破壊跡を見て、逆に空しさを感じていたら、小さな声が聞こえてきた。
一々確認していなかったが、誰か近くにいたのかと声のした方を見てみれば、そこにいたのは人間の子供であった。恐らく、年の頃は十歳かそこらだろう。
今の力の解放に巻き込まれて吹き飛ばされたらしく、頭から血を流して倒れている。
(……愚かなものだな)
それを見て、特に思うことなど無い。
人間は敵であり、俺にとっては捕食対象以上の意味を持たない種族だ。そんなものが俺のせいで傷つこうが死のうが、知ったことではない。精々が、俺という圧倒的な力の持ち主を見ても逃げることをしなかった愚鈍さを嘲笑う程度のものだ。
俺は無視して修練に戻ろうとしたその時だった。
「痛たた……」
倒れていたはずの子供がゆっくりと立ち上がったのだった。
「……ほう?」
俺は、僅かに人間の子供への関心を覚えた。
別に、今のは意図して攻撃したわけではなく、さほど重傷ではなくとも不思議はない。俺の感覚としては、勝手に転んだも同じことだ。
しかし、それでも頭を打って気絶していたはずであった。吸血鬼は気絶などしないので共感はできないが、人間が頭を打って意識を失えばそう簡単には目覚めないはずである。
それなのに、随分タフなのだと僅かながらその子供を視界に入れることにしたのだった。
「あ……」
「……?」
人間の子供は、爆心地の中央に浮かぶ俺を見て何やら驚いた様子だった。
まさか、ここに俺がいることに今の今まで気がついていなかったのか? 俺は周りに配慮など一切するつもりがなく、警戒も隠蔽もしてはいなかった以上、修練の間中破壊音が鳴り響いていたはずなのだが……?
「か、神様……神様ですか!?」
「……は?」
人間の子供が口にした『神様』という単語。それは、この世界で今も生きている全ての生命体にとって無視できないものだ。
――今より十年と少し前に起こった、神と世界に住む全生命体との戦争。神の力の前に全ての戦士は倒され、世界は滅亡寸前まで追い詰められた。
最終的には神の領域に踏み込んだ一人の男と、その仲間が神を倒し、世界を救ったわけだが……その際に行われた楽園への強制転移によって、世界人口の六割が帰還しなかったと言われている。
吸血鬼である俺にとっては人間がどれだけ減ろうが知ったことではないのだが……人間からすれば、家族友人を奪った憎い名前のはずだ。
「神、か。その名を口にするとは、一体何を考えている?」
「え? えっと……そ、その! 神様! 助けてください!」
人間の子供は、俺の問いを完全に無視していた。
このまま殺してやろうかとも思うが、少々気になることもある。イタズラや悪意によるものというよりは、余裕がないといった様子なのだ。
(……あの男ならば、親切に話を聞くところなんだろうな)
人間を助ける義理などないが、何となく話を聞いてやってもいいという気分になってきた。
くだらないことならば無視する。だが、仮に神クラスの存在の力が必要になるほどの強敵がいるのならば、俺が更なるパワーアップを果たすきっかけにでもなれば儲けものだと思って。
「フン……何があった? 何故今更神に助けなど求める?」
「そ、その……村に、盗賊が現れたんです」
「盗賊? ……帰れ」
俺は最初の一言で興味を無くし、再び修練に戻ろうと背を向けた。
人間を襲う盗賊など、高がしれている。そんなもの、神に頼む話ではなく人間の雑魚騎士にでも頼めば解決する話だ。
「あ……ま、待って!」
「……はぁ」
追ってくる人間の子供を、どうしたものかとため息を吐く。
別に殺してしまっても何も問題は無いのだが、何というか……あの男との戦い以来、弱者を手にかけるのが億劫なのだ。
殺しても何の得にもならない相手に槍を振るっても、己自身の誇りに傷が付くだけというか……そんな気分になるのだ。
「盗賊なら、そう言った輩を相手にする専門家がいるだろう? 神に頼らずそいつらに仕事をさせればよい」
人間の盗賊なんぞ相手にしている暇があれば、イメージトレーニングの一つでもしている方がよほど有意義。そう判断した俺は、自分ではこれ以上無いくらいに穏便な対応で相手してやった。
だというのに、この子供はますます表情を暗くするばかりであった。
「……ダメなんだ」
「何がだ?」
「騎士様にはもちろん村長が知らせたらしいんだけど……やって来た騎士様、盗賊に負けちゃったんだ」
「ほぅ?」
その言葉を聞いて、ほんの僅かに興味が沸いてきた。
もちろん、人間の騎士なんぞ、極一部の例外を除いて俺の敵では無い。並レベルの騎士が万人集まったところで数秒で皆殺しにできる程度の存在であり、騎士より強いというだけでは俺が相手をする理由にはなり得ない。
だが――最低ラインが騎士より上であるが、そこが限界という保証があるわけでもない。もしかしたら、何か役に立つような力や技術がある特殊な例外である可能性も、ないわけではない。
「その騎士とやらの数は? 階級は?」
「え? えっと……数は三人、かいきゅうっていうのは……わかんないです」
「……フン。ここは希望的観測を持って高めに見積もるとするか。それで? 盗賊の人数は?」
「三十人くらい……って言われてます。もっと多いかもしれないけど……」
「……雑魚騎士が数の暴力に負けただけの可能性が一番高いが……しかし、騎士が負けたのなら更に増援を頼めば良いのではないか?」
あの男は、神々との戦いを最後に騎士を引退したらしいが、他にも俺と戦いになるレベルの強者も残っているはずだ。
それに、あの男が関わっているという冒険者とかいう組織もあるらしいし、まだまだ神頼みに出る必要があるとも思えないな。
「それが、次に騎士を呼び寄せたら人質を殺すって、盗賊が……」
「人質? そんなものは見捨てれば良い」
「僕もそう思う……じゃなくて、それはダメだって村長が……」
……ふむ。今一瞬、この子供の目に闇が宿ったな。
盗賊への興味はどんどん薄れていっているが、この子供個人へは中々興味を惹かれるものを感じたぞ?
「小僧。貴様、親はいるのか? 兄弟は?」
「……いない、です」
「では、その歳で一人暮らしか?」
「いえ、村長の家に居候しています」
「なるほど」
村長の家に、幼くして居候。となれば、先ほどの暗い目から推察するに、どうやら良い養い親とは言えんような人物らしいな。
大方、人間のすることだ。どうせ、この子供を奴隷のように扱っているか、さもなければ憂さ晴らしに虐待でもしているというところだろう。
「それで? 騎士に救援を頼むことも人質を見捨てることもできない村長とやらは、これからどうするつもりなのだ?」
「……ぼ」
「ぼ?」
「僕に、盗賊を退治して来いって……」
俯いたまま、呟くように語られた子供の言葉に、流石の俺も一瞬驚いてしまった。
見たところ、この子供が特別強い力を持っているようには思えない。あの男自身やその弟子のような例外はあるが、人間の子供など本来貧弱なものなのだ。
精々が少々タフなところもあるというところが少し引っかかる程度であり、攻撃ですらない魔力解放に吹っ飛ばされて倒れてしまうような弱者。ただの自殺だな。
仮にも騎士を倒すほどの戦力がある相手に、ちょっと頑丈なだけの子供一人差し向けたところで何の意味があるというのか?
この子供は当然殺され、盗賊の怒りを更に買うことになるだろう。その村長とやらにとってもこれといって得があるとはとても思えないのだが……?
「ぼ、僕は、化け物だから、盗賊にだって、勝てるだろうって、村長が」
徐々に言葉が途切れ途切れになり、涙が堪えきれないという様子になっていく子供。
……化け物だと? この子供が? たかが盗賊風情相手に何もすることができずに、神頼みをするようなガキが?
「……わけがわからん」
俺は、本当に小さく内心を漏らした。元々人間の考えていることはよくわからんが、それにしたってこれは酷いと言う話だ。
化け物を名乗るなら、最低でも心臓が止まった状態で自在に活動できたり、視界に入れるだけで敵を殺せたり、音を圧倒的に置き去りにする速度で動けるようになってから言ってほしいものだ。
「……僕の身体、普通じゃないんです」
「普通じゃない?」
「怪我をしてもすぐに治るし、他の子供よりも力が強いから……」
「……治癒能力と身体能力の強化? そういえば、お前、頭の傷が治っているな」
話していた僅かな間に、血を流していた頭の傷が塞がっていた。
俺たち吸血鬼からすれば極普通の話でしかないのだが、人間の基準で言えば確かに異常な回復力と言えるだろう。
そして、身体能力……
「おい小僧」
「は、はい?」
「力が強いとは、具体的にどの程度だ?」
「えっと……大人の人が三人がかりで持ち上げるような荷物を、一人で持てるくらい……?」
「なるほど。その力で日々こき使われているというわけか」
「……そう、です」
……その話が本当だとすれば、特別鍛えているわけでもない子供としては確かに異常だろう。
本物の化け物からすればその程度で騒ぐなと鼻で笑う程度だが、人間という貧弱な生き物からすれば気味悪がるのも自然な話なのかもしれん。
……どれ、試してみるか。
「防げ」
「え――」
「【闇術・曲玉】」
俺は、使える中で最も規模の小さい術を使い、この子供へ向けて放った。
並の人間でも当たるとちょっと痺れる程度の力しか込めていないが、さてどうなる……?
「え? え? ……え?」
子供は混乱したまま、無防備に闇の玉を土手っ腹で受けた。つまり直撃だ。
ここまで無防備だと転げ回るくらいのことにはなりそうなものだが、取り立てて痛みを覚えている様子はない。
闇に対して、強い耐性か。それに治癒能力に、身体能力となれば……
「もしかして、感情が高ぶったときなどに、眼が赤くなったりしたことはないのか?」
「あ、はい。重い物を持ち上げるとき、よく瞳が赤くなっているって言われます。それでまた化け物だって……」
「いちいち落ち込むな。……だが、それで納得はできた」
この子供の正体は――恐らく、産まれながらに異形の力を身に宿してしまった特異体質の持ち主というところだろう。
もちろん、実は人間じゃないという話ではない。人間ではあるが、人間ではない種族の体質を持っているというだけだ。
この子供の眼はどちらかと言えば青だが、能力を使うときだけ瞳が赤くなる種族の力を身に宿している。加えて、今まで聞いた能力の特徴を組み合わせて考えれば、その能力の根幹がどの種族を模しているのかは一目瞭然といったところだ。
「……吸血鬼」
「え?」
「お前は恐らく、生まれつき吸血鬼に近い体質を持って産まれたのだろうな。よかったな、人間などとは比べものにならない高貴な種族と近しいのだぞ?」
そう、吸血鬼だ。恐らくは、先祖のどこかに吸血鬼の血を持った人間がいたのだろう。
通常、吸血により吸血鬼の従者となった人間はそのまま吸血鬼の配下として消滅するまで仕え続けるか、あるいは進化して新たな吸血鬼となる。
しかし、未熟な吸血鬼が従者化を行った場合、希に血だけを持って人間から変質しないというケースもある。そうなると吸血鬼の血はその人間の血の中に残り続け、たまに先祖返りを起こす。それが人間の中に吸血鬼の力を持って産まれる子がいる原理だ。
……まあ、中には未熟でなくとも何かしらの事情で吸血鬼の血をはね除けてしまうほど強力な光の力を持っている人間というケースもあるが。
となれば……なるほど、俺が柄にもなくこの子供に関心を持った理由は、コイツの中にある僅かな同族の気配を感じたからか。
吸血鬼の中でも最強の位置にいる俺からすれば大したことが無いが、それでも人間などと言う弱小種族の基準から見れば、吸血鬼の力を持つ子供となれば化け物と言われても仕方が無い。
産まれたての吸血鬼だって、並の人間の十人や二十人軽く殺せる力を持っている。その吸血鬼を百体二百体平気で狩る奴が基準にいるとどうしても感覚で理解できないが、まあ、そんなものがいれば迫害するのも仕方が無いのかもしれんな……人間の基準ならば。
「強者を迫害し、弱者が強者を利用するのが人間の生態なのだろう? 俺には理解できんが、なるほど確かにお前は人間の輪の中には入れんだろうな」
納得がいったと一人頷いていると、子供は何故かますます暗い表情になっていた。
……何故、今の話で絶望的な顔になるのだ?
「吸血鬼……僕、人間じゃ、ないの……?」
「人間ではある。だが、普通の人間は持ってない力を持っているというだけだ」
力があるというのは喜ばしいことだ。もちろん、その由来や性質によっては力を忌諱することもないわけではないが、生まれ持った力というだけなら特に不満を持つ理由もないだろう。
それなのに、何故悲しむのか。全く理解できんな。
「お前の村とやらに住まう人間共は、お前から見てどうだ? 勝てない相手だと思うか?」
「それは……」
「簡単に殺せると思うのではないか? そいつらに怒りを感じているのなら、憎しみを抱いているのなら、何故そうしない? 腹立たしい無礼者を八つ裂きにし、その血肉を啜ってやろうと何故思わない?」
誇り高き吸血鬼の力を持っているというのならば、己の誇りを傷つけた愚か者に血の制裁を与えることなど当然のことだ。
力こそが我らの法。不満があるのならば、力で語るのが世界の正しいあり方というものだ。
「……僕は、そんなこと……」
「考えたことがないわけではあるまい? 目を見ればわかる」
先ほどこの子供が見せた憎悪の念。恐らく、盗賊の人質とやらに対し、一切いい感情を持っていないのだろう。
それだけではない。こいつのいう村長にも、その周りの人間にも等しく好意の類いは持っていないはずだ。
コイツの中にあるのは、どこまでも純粋な殺意と、それを押さえ込む理性の二つ。今のところは理性が勝っているらしいが、些細なきっかけでこいつは人の理性から吸血鬼の本能へと思考が変わることだろう。
……そんなことにも気がつかずに、コイツの中の怒りを日々刺激し続けるとは、本当に人間とは愚かなものだ。
しかし――気に食わんな。
「我ら吸血鬼の力を持ちながら、たかが人間共に使役されているなどこの俺が許さん」
「そ、そんなこと……我ら? あの、あなた、神様じゃないんですか……」
「……一体、何故この俺を見て神だなどと思ったのだ? 我が名はミハイ。誇り高き吸血鬼である」
今となっては階級など意味はないが、我が誇り高き吸血鬼であることには変わりない。
それなのに、俺と同質の力を持ちながらその血と力を貶めるようなことをされては、この俺の誇りに傷を付けられているに等しい。
それは、許せることではない。
「あ、あの、その……村では、ここは神様の家って言われているんです」
「……この荒れ地がか?」
俺の苛立ちを感じないのか、子供は何故神などと言い始めたのかの説明を始めた。
……どうやら、この子供の言う神とは魔王神や創造の女神ではなく、この辺りの土地限定のマイナー神らしいな。
いわゆる、土地神という奴だ。大昔は人後神としてそう言った存在も実物として存在したそうだが、その手の存在は創造神の先兵によって皆殺しにされてしまったため、今ではただの昔話にしかならない存在だ。
……にしたって、ここが神の家というのはないだろう。
貧相とかそんな次元ではなく、今はクレーターで抉られた草木一本生えていない荒野だぞ? クレーターは俺のせいだが。
「なんでそう言われているのかはわかんないんですけど、とにかくここは神様の家だって村では教えられているんです」
「……それでこんなところにまで神頼みに来たということか」
何の意味もない行動でしかないが、まあ、神頼みしに行くのなら少しでも御利益がありそうな場所を選ぶのも自然……なのだろうな。
長いこと生きてきたが、一度もそんなことした覚えがないので想像の域を出ないが。
「……ところで、最下級でも吸血鬼相当の力があるのならば、それこそ盗賊なんぞお前一人で片付けられるのではないか?」
「そ、そんな無茶な……相手は騎士様でも勝てなかった盗賊なんですよ?」
「並の騎士風情が吸血鬼に勝てるものか。……そうだな、それも面白いかもしれん」
俺は、ちょっとした思いつきで次の行動を決めた。
俺もこの十数年様々な修練を積んできたが、そういえば、この経験は無かったな。
「小僧、貴様の名前を聞いておこう」
「え? ……マ、マルス、です」
「そうか。……マルスよ、貴様に一つ、吸血鬼の誇りというものを教えてやろう」
「はい?」
……なんでも、人にものを教えるというのは時に大きな成長のきっかけになるらしい。
書物で読んだだけで本当かどうかはわからんが、確かにあの男も弟子を取って鍛えていた。その経験値が神の領域に至る糧となっているという可能性は十分にある。
とはいえ、弟子などと言うほど本気でこの小僧……マルスに手間をかけてやるつもりもないが、盗賊とやらにも期待はできそうにないことであるし、ここは一つ変わったことに挑戦してみるとするかな……。
他にもいろいろ短編とか出しているので、よければそちらもどうぞ。
番外編最終話の投稿日に新作長編を投稿しますので、そっちもよろしくお願いします!




