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【番外編完結】他力本願英雄  作者: 寒天
最終章 神々の戦い
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第218話 原初の戦い

「【神龍閃】!」


 理想郷から脱出してきた人間全てが、神の戦力へと立ち向かっていく戦場。

 その開幕に、いきなり大技を叩き込む。相手が魔王神であればこんな大雑把な一手は自分の首を絞めるだけだが、戦闘経験皆無の創造神が相手なら繊細なフェイントよりも強く出て脅す方が有効だと判断したのだ。


「舐めるでない! 【世界創造盾(ワールドシールド)】!」


 創造神は回避ではなく防御を選択した。盾を創造――それも普通に盾を創るのではなく、空間が歪んでいるのだ。

 あれは、恐らく小規模の世界創造。理想郷作成と同じく一つの世界を自分の前に創り出してしまったのだ。空間防御障壁……創造神以外には不可能なド派手な芸当だな。


「無駄だけど」

「なにっ!」


 この後に及んで、特性で勝負しようとするのがまず間違いだ。同じ領域にいる以上、神ならではの能力なら力で突破できる。

 世界創造を利用した盾は、理想郷を粉砕した実績を持つ神龍閃に飲み込まれ、創造神を傷つける。世界を盾にするのなら、こっちは世界を滅ぼす一撃を打ち込むだけのこと。

 魔王神と戦うときですら、世界を滅ぼすくらいのことはできなきゃ勝負にもならなかったんだからな?


「無礼者が! 神の奇跡を知れ!」


 今度は力に任せた多量の魔力弾。エネルギーの総量で競えば流石に真の力を取り戻した神には適わない。だが、当たらないので全く問題はない。

 どうやら運命操作とか特殊スキルとかそんなものをいくつも乗せているようだが、まあ必中効果だろうが因果の操作だろうが、要するにそれよりも速く動いて当たらなければ何の問題もないのだ。

 このレベルまで来れば、何か凄そうな超能力よりも地に足がついた単純にして基礎の強さの方が重要。特殊能力に依存するばかりの神様は、認めたくないかも知れないけどさ。

 これをさっき出していれば流石にヤバかったが、格下相手に神の力を本気で振るうことを拒むみみっちいプライドに救われたな。


「――シッ!」

「ぐあっ!?」


 魔力弾の合間を縫い接近し、片腕を切り落とした。すると創造神は今までのおごり高ぶった態度からは想像もできないような濁った悲鳴を上げた。

 創造神として生きてきた時代はもちろん、女神となった後も傷つけることができる存在などいるわけもない。自分を傷つけられる存在が現れることこそを願った魔王神ならばともかく、痛みから逃げ苦しみから目を逸らし、ただ自分の優位にしがみつくだけのお前に耐えられるか?


「お、おのれ――」

「へぇ。思ったよりは根性あるな」


 痛みに苦しみ戦闘どころではなくなると思っていたのだが、創造神は思ったよりも根性があった。いや、下等生物に遅れを取るわけにはいかないというプライドかな?

 どちらかはわからないが、また力に任せた魔力弾で弾幕を張ってきたのだ。流石にこの至近距離で上手く回避するのは不可能だが……と思いながら、俺は加速法を使って少し後退する。


「フ――」


 創造神は斬られた腕を最優先で再生させながら笑みを浮かべた。自分の攻撃が通用した、俺を引かせたことに己の優位を感じたのだろう。

 だから、それが甘いんだっての。


「【超瞬剣・明鏡唯一】」

「なっ――」


 俺が引いたのは、別に魔力弾を避けるためだけじゃない。油断を誘うためであり、助走を付けるためでもあったのだ。

 そもそも、同じ神の魔力同士ならその気になればいつでも明鏡止水によるすり抜けができる俺にとって、エネルギーを飛ばすだけの攻撃などさほど怖い物ではない。ただ自分の攻撃が有効であると錯覚させるためにあのタイミングでいったん引いただけだ。

 その油断――心の隙を突くように俺は超加速法と明鏡止水・極を併用した顔面狙いの突きを繰り出す。魔力によるどんな盾もすり抜ける突き――避けるしかないぞ?


「クッ!」


 数字的な能力だけは流石の一言で、不意打ちに近い突きを多少体勢を崩しはしたものの咄嗟に回避して見せた。

 もちろん、それが俺の狙いなんだが。


「【追加速20倍・明鏡双牙】」


 超加速法を倍加させ、高速の二連撃を放つ。魔王神クラスの技巧の持ち主ならばともかく、魔力の守りが通用しないこの連撃を止められる者はまずいないだろう。


「ギャッ!?」

「――【追加速30倍・明鏡三日月】」


 両肩を破壊。これで更に防御を困難にした上で、30倍まで加速して下段からの切り払いを放つ。

 更に止まらず、40倍、50倍と加速しながら追撃を放つ。シュバルツ流奥義八王剣の究極系、明鏡八王剣――神の魔力で肉体が極限まで頑丈になっているおかげで、人間のままでは絶対に不可能な超加速を併用しながらその全てを披露していく。

 これが、ラスト――


「【80倍速・刃舞踏(エッジロンド)八百万(やおよろず)】」


 連撃に次ぐ連撃で、普通の生物なら致命傷どころか原型が何だったのかもわからない状態にしたが、流石は神。ここまでやってもまだ死んでいないというか、普通に再生しようとしている。

 ならば最後まで手をゆるめはしまいと、今の俺の限界加速まで到達。最後の一撃を叩き込む。超高速移動による八方からの滅多斬り。光の如き最速の剣撃と共に、創造神の周りを巡る刃舞踏。肉片になっても止まらない、もはや何回斬っているのか俺にもわからない攻撃により――確実に命を狩り取った。


「――明鏡八王剣、幕引きだ」


 高ぶらせすぎた魔力を鎮めるべく深呼吸と共に剣を納め、技を終了させる。

 もう血霧になるまで滅多斬りにしたことだし、いくら神でもここまでやられば……と、思いたかったんだけどなぁ。


「ぐ、うぅぅぅ……!」

「マジモンの不死身かよ……」


 霧になるまで徹底的にやったというのに、創造神は見る見るうちに再生してしまっている。

 神の能力……創造の力。自分の身体すら簡単に創造する異能に加え、強度は間違いなく世界最強の魂か……。


「ゆ、許さん、許さんぞ……!」

(すっかり化け物になってるな。より強い身体を創りあげたってところか)


 先ほどまでの創造神は、人間の女性と言われても素直に信じられる姿だった。

 だが、今再生しているのは全くの別物だ。六本に増えた腕、頭から生えた角、全身に走る黒い筋……見事に人型の化け物へと変化している。

 より強い身体を目指したのは間違いないだろうけど、楽でいいな本当に。こっちは強い身体を作るために何十年もかけて地道に鍛え上げているというのに、神様はほんの一瞬で好きなように数字を弄れるってわけかい。


(……とはいえ、まずはあの創造の力をどうにかしないことには始まらないな。あるいは神の魂すらも消し飛ばす一撃を当てるしかないけど……)


 創造神は直に復活する。こっちの身体は思ったよりも反動が少なくてすんだので問題ないが、このままやっても埒があかない。

 どうしたものかと残る数秒で考えてみるが……特にいい案は思い浮かばない。こんな時に起死回生の策を思いつけるなら苦労しないって話だな。


「基本的に、俺って物理攻撃のみだしな……」


 今の俺の前では特殊能力に頼った攻撃も防御もほぼ無意味だ。だが、特殊能力による自己再生ばかりは対処法がない。どんな相手でも斬れる剣を持ってしても、斬られても問題ないって類いの妖怪はお手上げだからな。

 となればどうするかって話なんだが……うむむ……。


(俺以外の力に頼ればいい。でも皆精霊竜の相手で手一杯だしな……)


 自分にできないのなら誰かに頼ろうといつものように考えるが、今は手を借りられる相手がいない。

 さて困ったぞと思ったところで、ふと神をどうにかできる奴のことが頭をよぎった。


(魔王神はどうするつもりだったんだろうな?)


 魔王神は俺たちを殺した後、創造の女神を葬りその力を回収するつもりだったと言っていた。

 元は同じ存在同士であるからこそ吸収という手段が使えるってだけで、何の攻略法にもなりはしないのかも知れないが……霊体兼創造の力って無敵状態の創造の女神をそう簡単に捕まえられると思っていたのだろうか?

 相手が自分の半身なら躊躇いもなく逃げるだろうし、魂の狭間で新たな改造兵士を創ろうとしていた辺り正面から戦うつもりなんて皆無だっただろうしな。

 となれば、何かあったと思うんだけど……魔王神が求めていたものとか力に何かないだろうか……あ。


「そういや、これがあったか」


 俺は自分の中から魔王神から託された封印状態の世界破片(ワールドキー)四つを取り出した。

 これを正しく使うことは不可能だが、もっと限定的になら使えるだろう。


 例えば、使い捨ての弾丸とかに。


「ク、フフ……もう許さんぞ、この下等生物が……!」


 創造神が化け物成分3割増しで復活してきたところで、俺はにやりと笑う。

 考えてみれば、これほど強力な武器は他にないよなぁ。それこそ、神の魂を消し飛ばしてしまうくらいのはさ。

 これも全部合わせれば、多分エネルギーの総量では同じくらいになれるだろうしさ。


「カァッ!」

(……強力な魔力の結界。自己防御を優先? でも、どんな盾だろうが俺には通用しない……って、そういうことか)


 創造神は同じ痛みを避けるためか、多重に結界を張り巡らせた。

 しかし世界の盾だろうが高出力バリアだろうが、どっちも通用はしない……と思ってみてみれば、あれは少し性質がまた違うらしい。


「これぞ神が誇る権能……【天罰】。内部に入ったあらゆるものを消滅させる究極の神術じゃ」

「明鏡止水によるすり抜けは……流石に対策されているみたいだな。神の捨て身技ってわけか」


 どうやら、浄化による一体化はあれには通用しそうにない。あれは決して変わらず、交わることもない神の傲慢が形になったもの。創造神自身の魂を結界として展開しているものだ。

 流石にあれを浄化して俺の魔力と同一の性質を持たせることは無理だろう。能力の強さだけは間違いなく本物だな。

 となれば、あれを破る手段は――


「……正面から力でこじ開ける。それが最適解だ」


 俺にもっとも相応しい結論を出し、走り出す。

 要するに、自分の内側に入るものを全て拒絶する超引きこもり結界だ。産まれてこの方生まれ持った力だけで生きてきた神様には相応しい能力……そんなものに入り込むには、力しかないだろう。

 引きこもりを更生させるのに強引な手段は禁物かも知れないが、生憎相手のことを気遣うつもりはさらさらないんでな。


「我が半身の言葉も一理はあった。我が慈悲にて安寧を得る子らは永久の幸せを与えるが……我が意に沿わぬ愚か者共の住まう世界など、確かに消してしまった方がよい」

(……結界がどんどん巨大化していく。あのまま広がり続け、やがて世界を滅ぼすってことか……)

「我が魂を糧とした究極の異能……無敵の力じゃ」


 創造神はこれ以上ない自信を持っている。

 自らは絶対無敵の結界に守られ、後は黙っていても全ての敵を消し去る。発動さえすれば勝利確定とは、なんともらしい能力だ。


「じゃあ、その無敵って言葉の儚さを教えてやろう」


 俺は広がり続ける結界と距離を詰め、接触する瞬間高く跳び上がった。


「今更逃げの一手かや? お前だけは絶対に我が眼前で殺すと決めておる……これは神命じゃ!」


 跳び上がった俺を追うように、創造神もまた空に舞う。

 その気になれば神眼で世界の全てを網羅できるだろうに、どうしても俺が原子レベルでバラバラになる瞬間を間近で見たいようだな。

 地上でやると流石に被害が大きくなりそうだから、その反応は好都合だが。


「さて――行くか。『世界破片(ワールドキー)・死』!」

「何のまねじゃ?」


 俺は封印状態の世界破片(ワールドキー)を投げつける。

 それだけでは何の意味もない、ただ世界破片(ワールドキー)を献上するだけの行為であり、創造神は訝しんでいるが……自分が使うことを前提としなけりゃ、無理矢理力を放出させるくらいのことはできるんだよ。

 封印をぶち破り暴走状態にするだけなら、俺の世界破片(ワールドキー)の力を流し込むだけでいいからな。


「クッ――なんじゃと!」


 投げつけられた世界破片(ワールドキー)は漆黒の魔力を放つ矢となり、創造神の結界と激突する。

 その膨大なエネルギーは流石の天罰でも一瞬で消せるものではなく、拮抗を見せる。だが、流石に一つでどうにかできるほど脆くもない。


「愚かなことを……せっかくの力を投げ捨てるとはな」

「力はあくまでも力……手段の一つ。利用はしても依存するものじゃない」


 創造神の守りは破れることなく、世界破片(ワールドキー)の矢は勢いを失っていく。

 流石は一度塵にされた後に出した切り札……並じゃないな。力だけなら俺を明らかに超えているだけのことはある。

 まあ、そんな奴に立ち向かうのに必要なのは、やっぱ数だよな。


「んじゃ、行け! 『生命』、『武具』、『星』の世界破片(ワールドキー)!」

「な――」


 魔王神から託された残り三つの世界破片(ワールドキー)も、全て弾丸として発射する。

 四つの世界破片(ワールドキー)から放たれる力は、創造神の結界を大きく抉る。本来はこの一撃を直接当てて魂もろとも消滅させてやる予定だったが、こうして創造神が全力を見せてくれるのならそれはそれでいい。

 全力を放出して、再生する余力を奪ってやればいいからな。


「グ――クククッ! 残念じゃったな。これでは、妾を殺すことはできぬ!」

「流石は創造神。世界破片(ワールドキー)を……世界核(ワールドコア)を創りあげた張本人だな」


 普通だったら絶対に耐えられない強制起動させた世界破片(ワールドキー)四つ分の力を受けても、まだまだ創造神の結界の方が上だ。

 元々世界破片(ワールドキー)を創ったのは創造神である以上、当然の話かもしれないが……力の大半を世界破片(ワールドキー)への防御に回しているとはいえ、このままじゃただ世界破片(ワールドキー)を渡すだけになっちまうな。


「だが、力を分散させられただけで十分!」

「なんじゃと!?」


 俺は四つの世界破片(ワールドキー)の矢……その中心へ突撃する。

 四つのポイントに力が集中している以上、その中心点がもっとも薄い。そこからなら、結界に入っても何とか耐えられる。


「貴様、この中に入るだと……!」

「無茶は承知の上だ。こっちは、生憎リスクを避けて勝てる勝負しかない……それで何とかなるほど楽な人生は歩んでいない!」


 神罰結界に突入すると同時に、凄まじい力で全身が押しつぶされそうになる。

 四つの矢で力を浪費させてもなおこの破壊力……やっぱり力は半端じゃないな。


「愚かな――ならば、望み通り消えよ!」

(結界を縮小して砲撃に切り替えてきたか!)


 創造神は全方位の防御結界から、四つの矢と俺自身を纏めて攻撃する五本の破壊光線に切り替えてきた。

 結界として広範囲に展開していれば耐えられたが、一点集中されると流石に厳しい。だったら、やることは一つだ。


「――【覚醒融合】!」

「――神の力を、捨てたじゃと……?」


 創造神は己の力の全てをこの神罰に費やしている。すなわち、これを突破すれば神の守りは存在しない。

 だったら、神の魔力に拘る理由はない。俺は自分の中の正義と欲望の世界破片(ワールドキー)もまた矢として放出し、創造神の砲撃を迎撃、その後覚醒融合を発動させて更に距離を詰めたのだ。


「お、おのれ――!」


 創造神には、想像もできないだろう。己が拠り所としてきた神の力を、あっさり捨てるなんて。

 だからこそ、奇襲になる。世界破片(ワールドキー)よりも、俺が信じる力は他にある。


「――妾を、神をこの程度で屠れると思うな!」

「そうだ、まだ残っているはずだ」


 創造神はさっきの五つの砲撃で全てを決めるつもりだったはずだ。

 だが、それでも創造神の性格ならば確実に残しておく力がある。自分自身を、守る力だ。


「かあっ!」

「もう、神の領域に届く一撃じゃないな――!」


 世界破片(ワールドキー)六つの力を止めるために、創造神はほとんどの力を放出してしまっている。

 そんな中で繰り出されたのは、他よりも大分弱々しい第六の砲撃だった。もっとも、神の領域から見れば落ちると言うだけで、普通の目線で見たら最強クラスの一撃だけど。


「頼むぞ――嵐龍!」

「今度は、剣を捨てるか――」


 俺は覚醒融合で得た魔力を嵐龍を投げつけることでぶつける。

 創造神まで、あと少し――!


「わ、妾は負けぬ!」

「――【覚醒】!」


 剣を失ったことで覚醒融合が解除されるが、同時に覚醒を発動させ人間の限界を超える。本来の力を考えればこの程度じゃ焼け石に水だが、今なら話は別だ。

 自分を守るために残った力すら放出した後の、残りかすを放出した第七の砲撃。それを、俺自身の魔力で受け止め弾き飛ばす。


「【モード・【吸血鬼(ヴァンパイア)】!」


 自分自身の魔力を放出した後は、アレス君に修復してもらった吸血鬼の心臓の魔力を絞り出す。

 俺の方も大分すっからかんだが、創造神。お前も力なんざほとんど残っちゃいないだろ……?


「ひっ、くあ――!」


 創造神は、残された力の全てを絞り出して八つ目の砲撃を撃ちだしてきた。

 こいつの力なら、ここまでついてくることだろう。持ちうる力を十全に使いこなすことができないんだから、ありったけを出したつもりでも出し切れない分が残るだろうからな。

 しかし、その威力はもう普通の外陸種モンスターと同レベル。神とはとても思えないほど弱々しい。


「ありったけの、闇の魔力……こいつもくれてやる!」


 俺は吸血鬼の心臓の魔力を思いっきり砲撃に叩きつけ、これもはじき返す。

 これでもう、俺の中には魔力の魔の字も無くなった。ただの人間に戻り、創造神の元へと落ちていくだけだ。


「ふ、フハハッ! 後一歩、後一歩及ばなかったようじゃのぉ」

「……何が?」

「妾の力を放出させたのはよいが、もう貴様にも武器も力も残されてはおらぬ! 外部の助けも妾のシモベが封じておる! 妾は、決して傷つくことはない」

「いや、そんなことはないさ――全ての力を使い果たした? いいや、俺にはまだ、筋肉(これ)がある」


 俺は笑顔で拳を握り、腕を振りかぶる。

 確かにもう魔力なんて微塵も残ってはいないが――落下の勢いと共に、この腕の筋肉を振るうことはできるぞ?


「ヒッ――」

「お互いに条件は同じだ。対等な勝負といこうか?」


 ミシミシと音を立てるくらいに力を込めた拳を、思いっきり顔面に叩き込んでやる。

 どれだけ強くなろうが、どんな能力を会得しようが、どんな領域に至ろうが――最後にものを言うのは、地道に鍛え上げた筋肉だってことだな!


「歯を食いしばれ!」


 創造神の顔面が変形する勢いでぶん殴る。その一撃で一瞬意識が飛んだのか、創造神は俺と一緒に無抵抗で地面に落ちる。

 正直この落下の衝撃だけで死にそうだが、創造神もかなり堪えたことだろう。まだ死んではいないが、かなりふらふらしている。


「か、神の顔を殴るだと……?」

「悪いが、この後に及んで女の顔は殴らないなんて紳士なことは言わないぞ? ――上、見てみろよ」

「……クッ!」

「お互いに放出し合ったエネルギーが、拮抗したまま固まってやがる。さっき一瞬お前の意識を飛ばしたからはっきりと言えるけど……こりゃ、どっちかが負けた途端に全部降ってくるぞ?」


 拮抗するエネルギーがぶつかり合っている。しかし、その状態はかなり不安定だ。

 もしあれを統率している俺たちのどちらかが敗北すれば――その瞬間、神二人のエネルギーがこの空っぽの身体に降り注ぐ。そうなれば、いくら神の魂でも跡形もなくなるのは確実だ。


「さあ、神様。最後の勝負と行こうか。何の保証も守りも超能力も無い、原初の戦いだ」


 俺は拳を握り、構える。お互いの増援は期待できない以上、最後に勝負を決めるのはこの肉体のみ。

 反則じみた力が守ってくれない戦い――そんなときこそ、日頃の鍛錬が試されるってもんだな。


「わ、妾は……」

「……神様の力がなけりゃ、拳一つ作れないかい?」


 創造神は、構えすら取らない。いや、そもそも構え方一つ知らないのだろう。

 拳で殴るなんて、そんなことする必要が無い絶対的な力にずっと守ってもらっていたんだから。


「……本当なら、弱いものいじめは趣味じゃないんだけどな」

「――な、なら……」

「だが、お前は絶対に許さん。精々、噛みしめていけ。俺たちの意思を、人生を、未来を――お前が軽んじたものの強さをな!」


 大きく踏み込み、拳を繰り出す。

 世界で生きてきた人々が生きるために積み重ねてきた力の一部だけでも、身体で知りやがれ――。


「――どらぁ!!」


 最後を決めるのは、ただのパンチ。何の抵抗もできない創造神は、そんな一撃を受けて大きく吹き飛び、そして――


「終わり、だな」


 天から降り注ぐ力の濁流にのまれ、ついに消滅するのだった。


「……精霊竜の方も、終わったようだな」


 俺は全てをやり遂げたことを確認し、他の戦場も見てみれば戦いは終わっていた。

 全ての戦場の勝者は、世界連合。人類の勝利だ。


 そう、この産まれたときから始まった長い全ての戦いは――人類の勝利で幕を引いたのだ。


「……ふぅ」


 俺はその場にバタリと背中から倒れ込む。

 そして――


「あー……結婚かぁ」


 放出した世界破片(ワールドキー)と剣が俺の元に戻ってくるのも後回しにし、心の底から貯まりに貯まった疲れを外に出すように、未来を一言呟くのだった。

次回、最終話。明日投稿します。

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