第209話 創造の女神
――時は少し遡る。
「……さて、では世界破片を回収させてもらおうか」
俺は魔王神が作り出した謎の軍勢の前に倒れ、心臓を潰された。心臓が潰れても即死したわけではなかったが、身体がしびれて動かない。はっきり言って詰みだった。
俺の中の二つの世界破片を回収すべく手を伸ばす魔王神に、抵抗することができない。そんな時――俺の身体は気色の悪い光に包まれたのだった。
「――ッ! 女神の守りか。いざとなったときに正義の世界破片を守る仕掛け……そのくらいの仕込みはしているようだな」
魔王神の言葉が遠くなっていく。意識が薄れていっているのかとも思ったが、そうではなかった。
俺は身体から魂だけが引き抜かれ、転移させられようとしていたのだ。心臓が破壊された肉体から離されるのははっきり言ってヤバいなんてものではないのだが、抵抗することもできないままここではないどこかへと向かうことになってしまったのだ。
そこは――
「……どこだ、ここは?」
何もない空間だった。いや、何かがあると認識できない空間と言うべきか。
今の俺は身体がない、魂だけの存在だ。当然目も耳もないので、俺が何となくそんな場所なんだろうと感じているだけなんだ。
今俺はここはどこなんだと呟いたが、それも所詮はそんなことを言った気になっているってだけなんだろう。身体がないってのは本当に不思議な感覚だな。
「……ようこそ、妾の空間へ」
「……誰だ?」
何かを聞くことなんてできないはずの状態で、誰かの声がした。所謂「あなたの心に直接話しかけています」って奴だろうか?
「その通りじゃ」
「え、今の聞こえてるの?」
「魂は無防備なものだからの。考えていることは全て伝わってくるのよ」
なんか古風な話し方の……声的には女性が返事をしてくれた。
年齢は多分二十歳そこそこの若い人……だろうか? 魂に語りかけてくるような存在の声なんて分析しても意味ないんだろうけど。
「クカカッ! 妾の年齢か。妾自身も数えたことすらないが、少なくとも其方よりは上じゃ」
「……そもそも、どちら様ですか?」
俺はこの声の持ち主の正体を聞いた。内心の不快感を隠せないまま。
そう、俺は何故か声から何から、この何者かには不快感しか感じない。魔王神と同じ無条件で畏怖を感じさせるような感覚もあるのだが、それ以上に俺の全てがこいつを拒絶しているのだ。
「失礼な奴に答えてやろうではないか。しかし何者と問われても、妾に名などない。妾は唯一無二の存在であり、他と区別する必要がないからの」
「……似たような奴を知っているよ。ということは、お前が……」
「人間達の言葉で言えば、創造の女神ということになるの」
……なるほど、この声の主は、創造の女神か。
女神教の信仰対象であり、精霊竜の主にして魔王神の半身である存在。過去に時間を巻き戻し、俺をこの世界に誕生させた神か。
俺に神造英雄を植え付け、精神を支配していた存在でもあるがな……!
「何か苛立っておるのかえ?」
「心の声が駄々漏れなんだろ? だったらわかっているはずだ」
「確かに聞こえておるが……妾には理解できぬのじゃ。其方が何に怒っているのかの」
「……本気で言ってんのか?」
喋る必要などないとわかっていても、目一杯の嫌悪を乗せて声を出してやりたくなる。
人のことを産まれる前から傀儡にするため改造し、記憶まで弄っておいて憎まれる理由がわからないとはな。
「ふむ……やはりわからんの」
「フンッ! 挑発ならもう十分だろ」
「妾はそのように品のないことはせん。純粋に疑問なだけじゃ。神である妾の意のままに動ける……これ以上の幸福などないというのに、いったい何を怒っておるのかえ?」
……は?
「おい神様、それ、マジで言ってんのか?」
「当然じゃ……ああ、もしかすると、妾の意図した計画を完全に遂行できなかったことを悔いておるのかや? ならばそう気にすることはないぞ? 元々不可能に近い賭け……よくここまで来たと誉めてやってもいいくらいじゃ」
「誉めてやっても、ねぇ」
「むしろ、そのような不快な気を撒き散らす方が迷惑じゃ。神の意を理解し、その祝福に酔いしれるがよいぞ」
……何故俺には身体がないんだろう。身体があれば、いや腕の一本だけでもあればこいつを――
「では、其方の役目は終わりじゃな」
「……何?」
「半身の奴に妾の力を取られるのは癪だったのでこのような仕掛けをしたがの、あれの回収には魂ごと持ってくる必要があっただけじゃ。既に其方は用済み……ゴミの寄せ集めにしてはようやったと誇りを抱いて眠るがよいぞ」
「ゴミ、だと?」
あれとは、間違いなく世界破片だろう。俺の中にある正義と欲望の回収のため、俺の魂は入れ物として連れてこられたようだ。
しかし、今俺自身の身体――魂を探ってみると、俺は正義しか、神造英雄しか持っていない。恐らくは、魂に埋め込まれたのが正義であり、肉体に宿っているのか欲望と言うことなのかな。
だが、そんなことよりも……人のことを捕まえておいて、ゴミとはどういう了見だ?
「ふむ……まあ、よいかの。ここまで妾のために戦った褒美に聞かせてやろう。其方がどうやって産まれたのかの」
「……へぇ。そいつは、気になるね」
もはや敵意しか抱いていない俺だが、この神様は俺の心の声を聞いてなお俺の感情が理解できないらしい。
本当に、心の底から神である自分が行った全ては肯定され感謝されるべきだと思っていやがるのか……?
「そもそもの始まり……千年前の戦いは知っておるな?」
「まあな」
魔王神やグレモリーから聞かされた話だな。
自らの肉体を持っていた神造英雄が魔王神を封印し、大暴れしたって話だ。
「妾が世界の力を使って造り出した傀儡は、何故か人間共によって打ち倒されてしまっての」
「神造英雄が人間を攻撃し出したからって聞いているが?」
「何をいっておる? 妾の化身がそう判断したのじゃ。粛々と滅びを受け入れるべきじゃろう?」
……本当に、神様の言葉ってのは理解に苦しむな。いやこいつ特有の話か。
魔王神も訳分からないところはあったが、それでも奴は俺と最低限会話していた。対等な存在として扱っていたわけではなかったが、俺個人を認めていたのだ。
だがこの女神様は……俺を見ていない。最初から俺を、いや自分以外のすべてを取るに足らない存在であると見下しているようだ。
「ともあれ、此度の妾の半身の復活にはほとほと参ってしまっての。地上世界に干渉するための生命の力をほとんどあやつに持っていかれた妾には、もう一から手駒を造り出す力は残っていなかったのじゃ」
「……それで?」
「故に仕方がなく、以前作り上げた半身を封じるための装備――希望の力を用いた剣にもっとも適合する人間を導き、戦わせることにしたわけじゃな」
その人間とは、アレス君のことだろう。あの子は初めから聖剣アークに認められていたが、何のことはない。世界中の人間の中から、もっともふさわしい人間として初めから選ばれていたってことだ。
「しかし首尾よく聖剣を握らせても、結局あやつには敵わなかった。結局最後の手段、残された僅かな力を使って時間逆行を行うことになったわけじゃ」
そこで創造の女神は一旦言葉を止め、やや苛立ちを込めて俺を睨み付けた……ような気がした。見えないからそんな気がしたってだけだけど。
「妾が作成した時戻しにより、世界はあやつが復活する前より更に数十年巻き戻った。されど、元に戻らなかったものもある」
「それは?」
「死者の魂じゃよ。輪廻の流れと世界は独立した存在であり、肉体ばかりが復元しても消え去った魂には影響しないのじゃ。と言っても、ただ死んだだけであれば魂を回収し、再度肉体に込めればよいだけのこと。少々手間と言うだけの話じゃがな」
「……つまり、ただ死んだだけじゃない魂はその限りではないってことか?」
例えば、魔王神によって魂を改造されたとか。闇騎士として改造転生させられ、挙げ句滅ぼされたりしてたとか。
「その通りじゃ。ぬしの肉体の本来に持ち主……その魂は妾の半身の手によって変質させられ、ついには消滅していた。これでは復活させることはできぬ」
「……そこで出てくるのが、俺か」
「さよう。世界を巻き戻したはいいが、極力矛盾は出したくない。特に、あの人間は妾の半身も認めるほどの強い力と魂を持っておった……そのような存在が欠けていては、世界の調和は保てぬ」
「だから俺を代用品として埋め込んだってことか?」
自慢じゃないが、俺は本物のレオンハートに劣る。しかし本人の魂が消失していたから仕方がなく俺を入れたってのが魔王神の予想だったが、それは正解らしいな。
「あれには役割があった。時を戻しても、同じことを繰り返しては意味がないからの。妾の戦力として、より有意義に動く駒となるべき存在だったのじゃ」
「勝手な話だな」
「しかし代用品を用意すると言っても、簡単ではなくての。その辺におる有象無象の魂ではあまりにも足りぬし、何十年分も時を戻したせいでそもそもこの世界に魂がほとんど残されておらんかったのじゃ。仕方がないから、妾が自らの手で一から作ることにしたのじゃ」
「……作った?」
魂を作ったとは、どういうことだ?
俺には一応生前の記憶が……聖剣の勇者ってゲームの記憶が存在している。今となってはそれが記憶なのか埋め込まれただけの情報なのか怪しいものだが、俺は今の俺になる前も誰かであったと思っているのだ。ゲームという名のこの世界の知識以外なにも覚えてないけど。
「人間のなかでは上位種に当たる英雄と呼ばれる輩……その魂の代用品など神であっても簡単には用意できぬ。その素材も満足にないとなれば、まずは他の世界から持ってくるのは自然な発想じゃろ? ぬしが前世と思っている世界じゃの」
「……俺は地球って星で生きていたと思っていたが、それも違うってのか?」
「違いはせぬが……其方にはほとんど関係ないのではないかえ? 何せ、ぬしを作るために素材とした人間の魂およそ一億……そのうちの一つでしかないからの」
「……は?」
俺は口もないのに大口開けて唖然としたような感覚を覚えた。
いや一億って、どういうことだ?
「一つ一つが粗悪な魂しかないならば、数で補う他あるまい? 特に妾の手持ちで最強の駒……正義の世界破片の器となれるほどのものとなるとの。そこで魂の川から適当に拾ってきて、全て融合させたのじゃ」
「一億の魂を、融合……」
「当初の予定では常人の一億倍の経験と才覚、魔力を持つ超戦士になるかと思っておったのじゃが……所詮は凡庸なゴミの塊。経験どころか知識も記憶も全て消し飛び、なにも残らずただ量だけはある魂の残骸になってしもうたのじゃ。入れ物としては十分実用に耐える強度を持たせられたから、最低限の目的は果たせたがの」
「じゃあ、俺が地球のことを前世だと思っていたのは……?」
「偶々一億の中でその地球なる星出身の魂が多かったのじゃろう。自我は消えても、ほんの僅かに欠片くらいは残ったわけじゃ。妾はそれを利用し、この世界の未来と其方が取るべき行動を定める一環としてちと記憶をねじこんだわけじゃの」
「ゲームってのは、ただ地球人がこの世界のことを知っている矛盾をなくすための、方便だったってわけか……!」
俺の記憶が正しければ、地球には魔法すらない。そんな世界の住民がこの世界のことを無理矢理頭に詰め込まれた場合、一番理解しやすい媒体はなにか?
それは、フィクション……空想だ。知識さえあれば本でもゲームでも何でもよかったんだろうが、偶々俺は女神から与えられた情報をゲームと言う形で記録され、レオンハート・シュバルツの身体に送り込まれたってわけだ。
俺が必死にならなきゃ、世界は滅ぶんだって強迫観念を植え付けた上で、その上精神支配を仕掛けて英雄的な行動を取るように仕向けた上で。
「……なるほどな。それで納得いった。それで俺は前世を懐かしんだりって感情がさっぱりなかったわけか……」
前々から、少し自分で自分のことを薄情な奴じゃないかと思ったことがある。
本当に異世界に転生なんてことになったのならば、できるできないは別にして帰還する方法を探し求めるべきなんじゃないか? 残してきたのだろう家族や友人のことを思うべきなんじゃないか? それが叶わなくとも、故郷を思い出せるような何か――例えば衣服や食事などを求めるんじゃないか……ってな。
でも、俺は特にそんなことを思ったことはない。母上や親父殿とは別の、前世の両親のことなんて生まれたときくらいしか考えたことすらなかった。
地球の文化を、技術を欲したことなど実用性を求めたとき以外は全くない。知識としてはある程度持っているつもりだが、それは全て本でも読んで得た知識と同じもの――つまりは俺自身の思い出として全く認識していなかったのだ。
しかしそれも、当然の話だったのだ。何せ、本当にただの記録にすぎなかったのだから。
「妾は其方に強くなり、いずれ訪れる戦いまでに妾の駒の器として最低限機能できるだけの力を持つように誘導したのじゃ。偶然ではあったが、聖剣の担い手となるべき少年と交流を持ち、その力を高めることに成功したのはよい誤算じゃったな」
「……」
「妾の命を無視し、最強の駒を封じるような何かが存在していたのは、悪い誤算じゃったがの」
「……聖騎士の首飾りは持ち主の記憶を――魂を保存する。なるほど、やっぱりもう一人のレオンハートは本物だったんだな」
今になって記憶の世界のレオンハートの正体がはっきりとわかった。
あの首飾りに残される記憶とは、魂のことだったのだ。恐らくだが、記憶とは魂と脳みその両方に蓄積されるものであり、聖騎士の首飾りは所有者からあふれ出る魂を取り込むことで記録を残しているのだろう。
肉体に入れば魂の記憶ではなく肉体の記憶が優先されるが、むき出しの魂として時間逆行の影響を受けなかったもう一人のレオンハートは首飾りの中で本来の歴史の記憶を保っていたって訳だ。
そして俺が赤ん坊のころから――捏造されたものだが――記憶があったのは、世界破片のせいってわけだな。
「世界破片の持ち主は、世界の全てを記録する世界核と繋がっておる。世界核は世界の時間が巻き戻ったことも、巻き戻る前のことも全て記録されておるからのう」
「その記憶の中継地点である世界破片が……神造英雄がお前の手駒なんだ。記憶を好き勝手に捏造して植え込むくらいは簡単な話だったろうな」
「そうじゃの。……では、そろそろ返してもらおうかえ」
ここで話は終わりだと、創造の女神の雰囲気が変わった。
こいつが俺の話に付き合ったのは、親切や好意ではない。圧倒的な上位者としての余裕……あるいはただの暇つぶしだろう。
そもそもここに俺を連れてきたのが世界破片の回収のためであり、俺のことはこの場で消すくらいの気持ちでいるはずだ。
少し話しただけでも、こいつがどういう奴なのかは何となくわかったからな。この手のタイプは、まず間違いなく俺のことを……俺のやってきたことを認めることはないだろう。
「なあ、女神様」
「なんじゃ?」
「一つだけはっきりさせておかなきゃいけねぇことがあるんだけどよ……」
俺は身体に……魂に力を込める。肉体がなくったって、何もできないはずがない。
そもそも、女神だって魂だけの存在みたいなもんのはずだ。魔王神が生命の力を――つまりは肉体を奪ったからこいつは現世に干渉できないんだからだ。
ならば、勝負は精神力の戦いに他ならず、奴の言葉が正しいのならば、俺の魂ってのは無数の魂の集合体。美味いものを混ぜたらもっと美味くなるみたいな理論で全部混ぜたらゲテモノになったってオチだったようだが、それでも構いはしない。
魂の中身なんざ、意思の力なんざ――誰だって自分の人生の中で詰め込んでいくものなんだから。
「俺の歩いてきた道は、選んできた道は全部俺の意思であり俺の責任だ。俺の人生をお前が好き勝手に決めたみたいに言われちゃ困るな」
「なんじゃと?」
「精神を支配しようが記憶を捏造しようが、俺は今までに起きた全ての出来事を俺の人生であると受け入れている。お前の意思なんて、初めから関係ない」
「何が言いたいのじゃ?」
「だからよ――」
俺の魂を、お前ごときが奪えると思うな。
初めから特別だったってだけの、偶々神様って力の持ち主だったってだけの奴に、精神力で負けてたまるか!
「ハッ!」
イメージする。肉体を、俺自身を。いつも魔力を練るときと同じように魂を燃やし、自分自身を確立するのだ。
ここ最近、ずっと世界破片の制御のために精神を、自我の確立を軸に鍛えていたからな。ちょっと考え方を変えれば、ここは記憶世界みたいなもんなんだし……俺が持っていて当然だと思えば、持っていることになるはずだ。
「ふぅ……ある意味で、初めまして、女神様よ」
魂を素材に肉体を作り上げ、五感を手に入れた。気力と気合いだけでやったが、できるもんだな。
いや、精神エネルギーだけの存在になっていると考えれば、むしろ気合いさえあればなんでもできるのか。
ようやく手に入れた視力で女神様とやらを見てみれば……うん。形容するのが難しいな。
間違いなく美人なんだろうけど、作り物って感じが凄い。高慢なお貴族様って言葉を擬人化したらこうなるって感じだ。
性格が出ているのかね?
……どことなくロクシーに似ている気がするんだけど、それはきっと気のせいである。
「……魂より精神体を構築したのかえ?」
「名前なんてどうでもいいけどな。とにかく、俺の魂は俺のもんだ。誰にもやらん」
「……無意味なことをするのぉ。神に抗えると思っておるのかや?」
女神は何の警戒もなく俺に手を伸ばしてきた。俺の中の神造英雄を奪うつもりなのだろう。
正直こんなもん、捨ててしまいたいって俺はいる。長いこと人の魂を歪めていた元凶なんていつまでも持っていたいとは思わない。
だが、今は――神の侵攻を止めるまでは、必要な力だ。
「――思っていなきゃ、そもそも俺はここにいない!」
神に抗う覚悟など、とっくの昔に決めているんだから。
自分の中の力を高ぶらせ、女神を睨み付けるが……どうでる?
「――しかし、抗うつもりと言ってもどうするというのじゃ?」
「なに?」
「其方は既に死んでおる。肉体を破壊された以上、黙っておっても消えるが定め。そもそも妾が手を下す必要すらないわ」
女神はつまらなそうな顔で伸ばした手を戻した後、その場からふっと消えてしまった。
……抵抗の意思を見せたら下がるとは、どういうつもりだ? 啖呵切ったのはいいけど、実際本気でやれば俺を潰すくらい簡単だったろうに。
(……まあいいか。こんな気を抜くと足がなくなる状態で凄むよりはきっちり生身で行きたい)
成り立ち的に魂や精神への攻撃にはどうやらめっぽう強いってことがわかったが、それでも鍛え上げた生身の方が遙かに信頼できるというものだ。
とっとと戻らないと本当に死にかねないし、早くここを脱出しないと――
「……ほう。珍しいものが見えるな、レオンハート・シュバルツとは」
「え?」
ふと気がつくと、周囲の光景が変わっていた。さっきまでは女神のオーラとでも言うべきもので白く染められていたのに、今は何というか……どよどよとした陰気な黒で覆われているのだ。
さっきまでは俺と女神しかいなかった空間には無数の小さな光で満ちており、恐らくは一つ一つは魂なのだろう。
それらは全て光る球体のような姿をしており、さっきまでの俺のように五感を持たないのだろう。ちょっと足が消えたり出たりしているとはいえ人間としての身体を持っている今の俺に反応する素振りを見せない。
ただ一つ、声をかけてきた大きな光を除いて。
喋ることも見ることもできないはずの魂の姿で、俺に話しかけてきた黒い光が混じった魂を除いて。




