第200話 先代
「――紅蓮・火竜断!」
「氷拳・拳波氷柱!」
火の大陸。魔物たちが住まう魔王軍の総本山。
そこに待ち受けている第四の魔王――魔竜王を倒すべく、僕たちはこの場所へ転移してきた。
魔王軍が用意した転移玉を改造して転移座標をずらして来たのはいいものの、やはりここは怪物の巣窟。転移した場所は魔物だらけの包囲完了即死地点ということはなかったにせよ、すぐに僕ら魔竜王討伐隊十人は敵軍に捕捉され、襲われてしまった。
それも、襲ってくるのはただのモンスターではない。数多の怪物の中で頂点に位置するとされる最強の種族――ドラゴンの軍勢だ。
「ハッハッハ! まるで若返ったような気分だな!」
「全くだ! こんな戦場に生きて立ち会えるとは、武人としてこれ以上ない喜びだ!」
ドラゴンとは最強の怪物であり、人間では決して届かない存在である。もし人間のみでドラゴンを討伐することが出来ればその名は永遠に英雄として歴史書に刻まれることになるだろう。
それが人間世界の常識であり、ドラゴンとはそれほど恐ろしい存在なのだ。もし人里に現れようものなら理性ある竜ならば交渉を、それができないのなら即座にシュバルツ家かクン家の出動が要請されるほどの。
つまり英雄なら対処できることなんだけど、それはあくまでも英雄でようやく対処できるという意味。決して簡単に勝てる相手ではない。
その、はずなんだけど……。
「しかし、この高ぶりを鎮めるのに羽の生えたトカゲ程度では不十分だな!」
シュバルツ家当主、ガーライル様が剣を一振りするだけで空を支配しているはずの竜が虫殺しの薬でもかけられた蚊のようにボトボトと落ちていく。
「ああ! まだまだいるだろうに、何を出し惜しみしているのか!」
クン家当主、バース様が拳を振るだけで地を恐怖に包むはずの竜が蟻のように潰される。
まさに鎧袖一触。明らかに英雄の領域を超えた力を発揮して、魔王の前に消耗するべきではないからと露払いを申し出られたお二人は暴れているのだ。
僕、別に聖剣の力を解放してサポートとかまだしてないんだけど……。
「やれやれ、あの馬鹿たちの血が煮えたぎっているようだな」
「グレモリー様」
「ふむ……アレスよ、よく見ておくといい。お前は神造英雄の剣を手にしたとはいえ、まだまだ経験が浅い。ならばここで少しでもその弱点を埋めておくといい。あやつらは、千年もの歴史をかけてその肉体を戦うのための存在として改造してきたのだ。細胞の一つ一つに刻まれた戦闘狂の遺伝子……それが覚醒しているものほど参考になるものはないぞ」
「せ、戦闘狂の遺伝子……?」
何だか酷い言い草だけど、グレモリー様はどこか楽しそうだった。
昔を懐かしんでいるような……そんな目だ。
「一言で言えば品種改良という奴だな。野菜などを人工的に変異させより人にとって有用になるよう改良する手法だが、それを人間で行った馬鹿の一族だ。本人達に自覚はないがね」
「そ、そうなんですか?」
「まず初代からして戦うことしかできない戦闘馬鹿であり、その子々孫々全てがその系譜であった。いや、一族の中で真っ当な人間が生まれればすぐに逃げ出してしまったという理由もあるがな」
「えーと……?」
「ともあれ、奴らの直系の一族は己の肉体を鍛え上げ続け、遺伝子レベルで変質している。生物学上は人間なのだが、もはや別の種であると提唱したくなるほどにな」
「……つまり、戦いに適した身体ってことですよね?」
師匠達を見ていればわかるけど、シュバルツ家やクン家の人間は確かに恵まれた身体を持っている。
鍛え抜かれているからこそ意味があるのだが、それでも良質な筋肉体格を持っているのは間違いない。特に身長とか……僕と違ってしっかりしてるもの。
そんなことを考えながら相槌を打ったら、グレモリー様は楽しそうに頷かれたのだった。
「その通り。しかしそれだけではない。戦いの中で生きてきた遺伝子は一つの特性を宿したのだ」
「特性?」
「戦いに最適化された肉体……戦いの中でこそ、戦いの中でのみ活性化する変態共だ。あそこで年甲斐もなく暴れておる二人は最近加齢による弱体化に悩んでいたらしいが、私に言わせればそれは正確ではない。確かに肉体的な全盛期はすぎている年齢だが、あいつらの中に流れている血はそんな人間の常識など通じるものではないのだよ」
炎と氷の魔人。そう表現するほかないお二人の戦いを見ながら、グレモリー様は話の締めを語る。
「あいつらが弱っていたのは良質な戦いに恵まれなかったからだ。命の危機に晒され、己以上の強者が現れたとなれば――全身の細胞は活性化し、老いなど吹き飛ばす。他の場所で戦っておる奴らのガキ共を見ていればわかるだろう? 強敵との戦いに身を投じれば投じるほど強さと異常性が増していくのだからな」
「確かに、師匠は戦いのたびに強くなっていますけど、それは誰でもそうなんじゃ……」
「経験を積めば強くなるのは当然であり、過酷な修羅場を潜れば成長するのは極自然な話。それを否定するつもりはないが、奴らはそのふり幅が異常なのだ。頭のおかしい鍛錬により下地を整える必要があるが、強敵を前にすると強くなり続ける戦闘生物など普通はおるまい。もっとも、世の中にはお前のように無条件で異常成長を繰り返す更にイカレタ生物もいるようだがな」
グレモリー様はそう断言した。僕にはよくわからないんだけど……そうなのかな?
自覚なんてさっぱりないんだけど……。
「話が逸れたな。とにかく、今までのあいつらは積んで来た鍛錬に戦いの質が追いつけなかったからこそ弱体化していた。だが、ここ数年でそのバランスが取れてきた。すなわち、レオンハートなどとはまだまだ比べ物にならない長年の鍛錬の結晶……それがあそこで人の形を取っているわけだ。その力と経験値、本命が出てくるまでに可能な限り学ぶがよい」
「――はい」
グレモリー様はそこで口を閉じられた。
いろいろ言われたけど、つまり僕がやるべきことはたった一つ。お二人の戦いを見て、決戦を前に少しでも成長しておくことなんだ。
「――っと、そんな悠長にしている時間はなさそうッスよ。他のドラゴンとは比べ物にならない威圧感を持っているのがこっちに飛んできているッス」
「ほう? ここに到着するまでの時間は?」
「このスピードなら三分くらいッスね」
「魔王……ではないだろうな。奴らの目的から考えて、我らは無理に倒す必要はない。足止めさえできれば本来の目的である精霊竜を狩るには十分だ」
「となると、副将という奴でしょうか?」
「そうだな。ドラゴンどもの序列二位が迫っていると考えるのが妥当だろう」
魔竜王軍の情報はほとんどない。精々が他の魔王の軍が魔王の下に副将がいるから魔竜王軍もそうだろうって予想ができるくらいだ。
それでも雑兵――と言うには豪華すぎる軍団がバタバタ倒されている以上、それ相応の怪物が来ているのは確かだろう。
ボーンジさんにより五感に至るまで鍛え上げられ、索敵に関してはもっとも信頼できるマクシスが言う以上、敵は高速でこちらに迫っていると考えるべきだね。
「それじゃあ、すぐに全員で迎撃体勢を――」
「いや、それは悪手だな。我らの目的はあくまでも魔王だ。強敵とはいえ手下レベルを相手に消耗するのは不利にしかならん。特に、お前は魔王退治の切り札なのだからな」
迎え撃とうと提案したら、真っ向から却下された。
確かに、ここで消耗するのはまずい。だからこそお二人が今戦ってくれているのだ。でも戦わないわけにもいかない以上、戦力を分けることになるか……?
「そう深く考えるでない。露払いは自分達がやると言っている筋肉共がいるのだ。ならば任せればいい」
「え? 飛んでくる強敵まで任せてしまうんですか?」
「大将以外を引き受けるのを露払いというんだ。なに、そう見くびってやるな。長年の修練と生まれもった異常性が正しく一体化している今のやつらは――」
お前が知る現役を過ぎた中年とは、別人だぞ?
笑いながらそう言い切るグレモリー様を前に、僕に言えることはない。
そうだ、確かに、僕ごときがあのお二人を心配するなんて烏滸がましい話だ。あのお二人こそ、師匠世代が台頭してくる前までは、最前線で人間の世界を守っていた大英雄なんだから。
「なら、ここは任せて僕らは魔王を直接狙いましょう」
「うむ。しかし、流石に雑魚竜を相手にしながらではちときついだろうし……そこの二人、頼めるか?」
「承知しました。元より我らはそのためにここにおりますので」
「魔王と戦えないのは残念だけど、しょーがないわよね」
これからガーライル様とバース様は副将格と思われるドラゴンと戦いを始める。
しかし、それだと今相手をしてもらっているドラゴン軍がフリーになってしまう。いくらなんでも片手間でやりあのは危険だと言うことで、更に二人お二人のサポートとして残ってもらうことになった。
グレモリー様が声をかけたのは鳥人族と山人族から派遣されてきた戦士たちだ。いかにもって感じにムキムキの山人族の戦士の方は初対面だけど、鳥人族の戦士の方は知り合い……というか全力で殴りあった関係である女の子、モズだ。
実力は確かだし、僕と知り合いの方がいいだろうってことで選ばれたらしいんだけど……少し見ない間にちょっと背が伸びているような気がする。
まあそれはいいとして、二人には通常のドラゴンの相手をしてもらい、ガーライル様たちには飛んでくる強敵を止めてもらう。その間に残りの六人が魔王竜の元へ向かうという方針で決まったのだった。
「危なくなったらいつでも連絡してくれたまえ。すぐに転移させよう」
「ええ、わかってるわ。無理は禁物よね」
緊急回避用にと転移魔法を封じたマジックアイテムをボーンジさんが配っている。
敵地で別れてもいざとなれば合流できるってんだから、本当に便利だよね。
「魔王竜の居場所は――」
「えっと、精霊たちが言っています。あちらの方角に火の精霊竜様がいらっしゃると」
「魔王の目的は精霊竜。だったらその導きに従うべきだろうね」
「んじゃ、行くッスか?」
「慌てて移動してせっかく敵を引き付けてくださっているシュバルツ様たちの努力を無駄にするのもバカらしい。完全に敵を引き付けるまでは目立たない方がいいんじゃないか?」
僕はチームのメンバーとこれからの行動について相談する。一応事前にいくつかの行動パターンは決めているとはいえ、情報皆無の突入作戦では結局臨機応変にやるしかない。
今、このチームのリーダーは僕と言うことになっている。本来ならグレモリー様がやるべきだと思うんだけど、面倒くさいから嫌だって突っ張られた結果聖剣の持ち主だからってことでそうなったんだよね。
とにかくリーダーとして、僕には集団としての行動を決定する義務がある。
今、目の前にある選択肢は二つ。敵を引き付け終わるまで気配を消して隠れるか、更なる敵に発見されるリスクを犯してでも精霊竜のところへ向かうかだ。
待機は下手をすると時間を無駄にしたあげく、敵に囲まれて消耗するだけなんて結果になる恐れがある。移動はこの火の大陸が隠れる場所どころか草木一本生えない灼熱の荒野であることを考えると、高確率で発見されてしまうだろう。
相手が五感による感知に優れるドラゴンであることを考えれば、グレモリー様にお願いして透明化の魔法を使ったとしてもさほど期待はできない。
となれば――
「全速力で移動する。但し、こっちへ向かってくる強いドラゴンとガーライル様たちが交戦を開始してからだ」
「……うむ、まあ妥当な考えだな。下手に急いで移動するとターゲットがこちらに変わりかねん。そうなればただの戦力の分断になりかねんからな」
「はい。マクシス、時間は?」
「あと20秒」
「よし、その間に全員へできるだけ加護をかけるよ」
僕は残る時間を戦闘準備時間に使うことにした。
しかし使うのは加護鎧ではなく、背中にある聖剣だ。
「早速行くよ――【希望の加護】!」
聖剣を抜き、掲げる。両刃の刀身から強い光が放たれ、僕が指定した人を守護すべく結界となる。
この希望の加護は聖剣の能力の一つであり、刀身から放たれた光を浴びた仲間へ強力な防御結界と能力上昇の加護を与えるものだ。
その強化率、防御能力は同系の魔法や魔具で齎されるものとは桁違いであり、その辺の農民兵にすら屈強な騎士と互角に戦える力を与えることができる。
ある意味人生を馬鹿にしているのかってくらいに強力な能力だ。本来想像もできないほどの修練を重ねなければたどり着けない領域に、ちょっと日光浴するだけであっさりと踏み込めてしまうのだから。
昔の騎士がこの聖剣を手にした結果狂ったって話は聞いているけど、確かにこんな力を持ったら増長してしまうのも無理はないかもしれないね。
(僕の場合、周りがバケモノすぎてそんな慢心している暇もないけど)
聖剣による加護の力が加わったことで、僕ら全員の力が飛躍的に上昇する。
しかし平時の力と差が出れば出るほど感覚に狂いが生じるのは当然の節理。下手をすれば力に振り回されるだけになりかねないけど――
「やはり凄いな、これは」
「力が漲るという奴だな」
一瞬で自分の中に加わった力を理解し、適応する。それが出来るのがあのお二人だ。
師匠ですら及ばない修練の結晶――自分の力の制御で誤る事はありえないよね。
「っとと、暴れ馬にでも乗っているみたいな感覚ッスね」
「だが言う事は素直に聞いてくれるようだ。依存せずに使い所を見極めればこの上なく有用だな」
一方、経験の浅い僕のチームメンバーやモズたちは少し戸惑っているようだけど、とりあえず暴走とかそう言う力ではないので落ち着いて対処すれば大丈夫だろう。
常時増幅した力に頼るような立ち回りをするのは危険だけど、攻撃の瞬間とかだけに力を集中するようにすればいいのだ。防御結界に関しては自動発動だから扱いやすいも難いもないし。
「――っと、来たッスよ」
「よし、それじゃあ移動を――って、え?」
マクシスが空を見て叫んだ。そこに魔竜王の副将と思われるドラゴンが迫っているということだ。
僕の目でも見られる距離まで近づいたので、ついにその全貌を見極めることができたのだが……その、他のドラゴンよりも一回り大きな身体から大量に魔力を放ちつつ、そのでかい口に禍々しい色の魔力を集中させているように見えるんだけど……?
「む、こりゃいかんな。いきなりドラゴンブレスを撃つつもりらしい」
「……あらら」
いきなり副将らしきドラゴンは竜種最大の攻撃手段、竜の咆哮を放とうとしていた。
僕もその威力にあやかって技名に使わせてもらっているほどであり、全国の男の子の憧れ的なアレだ。
当然物凄い破壊力があるんだろうそれを頭の上にいきなり降らそうとしているわけだけど……。
「気にすることなく本丸へ向かえ、アレス」
「あれはワシらの獲物だろう?」
どうしたものかと一瞬硬直している間に、空中で戦っていたガーライル様とバース様が瞬間移動も真っ青なスピードで巨大ドラゴンの真正面に移動していた。
そこ、ブレス直撃コース――
「【魔炎竜の咆哮】!」
「――行くぞ、紅蓮」
膨大なエネルギーを宿した炎の砲撃がガーライル様に直撃した。
しかし、その直前でガーライル様は手にしていた炎の魔剣、紅蓮より魔力を立ち上らせていた。あれは、間違いなく――
「【覚醒融合・火竜人】。貴様の炎、全ていただいた」
爆炎が消失し、中から現れたのは紅い鱗の鎧を身に纏ったガーライル様だった。
いや、あれは鎧じゃない。全身に赤竜の鱗が現れているのだ。魔剣との融合により、人の限界を超える。自身が司るエネルギーを、食らう。間違いなくあれは、覚醒融合――
「速く行け。グズグズしている暇はないだろう」
「は、はい!」
ガーライル様は覚醒融合に至ってなお全く疲れた様子も辛そうな素振りも見せずに僕達へ「行動しろ」と命じられた。
ガーライル様の全力の戦いを僕が見たのは、師匠と闘技場で戦ったときだけだ。
それが正真正銘の全力だったのかはわからないけど、一つだけはっきり言えることがある。
今のガーライル様は、あの時よりもずっと強い。覚醒融合と言う一つ上の次元にたどり着いたんだから当然の話だけど、それだけじゃない。全身くまなく細胞の一つ一つがレベルアップしているんだ。
強敵と戦い、敗北することで限界を超え戦い続ける戦闘の申し子――あれが、シュバルツの一族!
「どれ、ガーライルだけにいい格好をさせるのも癪だ。一つワシも本気を見せてやろう」
続いてバース様も楽しそうに前に出てきた。
あのドラゴンは間違いなく強い。恐らくは魔王を除いた強さランキングでも作るのならトップに入るだろう。
それでも、これでハッキリした。あのお二人には――
(心配なんて、全く要らない)
あふれ出るオーラに信頼感と安心感を感じつつ、僕は魔王竜攻略のため仲間たちに指示を出した。
目指すは、火の精霊竜の塒だ。
………………………………
…………………………
……………………
聖剣の効果も含めた最速移動で僕らは目的地へと到着した。
道中も当然ドラゴンによる妨害は受けたけど、派手に暴れてくれている囮班に大半が向かっているらしくかなり楽にここまで来られた。
後は魔王竜を倒し、火の精霊竜を守れば勝利――と、言いたいところだったんだけど……。
「グルゥアッ!!」
「ガルァァァァァ!」
(あ、熱い……!)
目的地は火山だった。そこが火の精霊竜の住処だったんだろう。
周囲には聖なる結界が張られていた痕跡があり、恐らくはこれで今まで火の精霊竜は魔王軍からの攻撃を防いでいたんだと思う。
しかし、その結界は既になかった。強引に破壊されていたのだ。
そこには破壊した張本人――魔竜王が当然いる。さっき見た副将と思われるドラゴンよりも更に巨大な漆黒の身体を宙に浮かべ、一つ一つが炎で作られているかのような鱗を持つドラゴン――火の精霊竜と戦っているのだ。
その熱波だけで、生物はあの戦場に近づけない。二体の常識を超越した竜による魔法やブレスの打ち合いにより、人間では近づくことすら不可能な地獄が誕生しているのだ。
流石、この火の大陸を熱気と業火により草木一本存在できない不毛の大地へと変えていたドラゴンだ。そして、それと互角以上に戦える魔竜王はやはり魔王の中でも特級の存在だ。
「……あんなの、どうすればいいんだ?」
「えっと、その……あの赤いドラゴンを守ればいいんですよね……?」
皆も目の前の光景を見て途方に暮れていた。あんなの介入できないだろうと。
でも、黙ってみているわけには行かない。どっちも凄すぎて感覚が狂いそうだけど、明らかに精霊竜が押されている。このまま行けば、精霊竜が殺されて終わるだろう。
「……ふむ。近づけないのなら、遠距離攻撃で仕留めるほかあるまい」
「遠距離って……僕のシフルやマクシスの弓矢ですか? 正直魔力濃度が高すぎてまともに威力が出るとは……」
「わかっておる。まずはあの超高密度熱魔力空間をどうにかしなければ手も足も出まい。故に、最初の一撃は私がやってやろう」
唖然としていた僕ら一行の中で、グレモリー様だけは何でもないと言いたげに前に出られた。
魔法による攻撃をするつもりなんだろうけど、一体どんな魔法ならあの戦いに割り込めるんだ……?
「とはいえ、私も流石に歳だ。あまり強いのを撃つと身体が持たないのでなナーティア、そしてボーンジ。お前たち二人に私の補佐を命じる」
「は、はい!」
「それは構いませんが……どうするのですか?」
「そんなに難しい事は頼まん。魔法術式は私が組むが、発動の負担を分割するだけだ。ただ近くに立っていればそれでよい」
グレモリー様はそれだけ言うと、空中に幾つもの魔法陣を描き始めた。
何がどうなっているのか専門家ではない僕にはわからないけど……僕たちのやるべき事は、グレモリー様たち三人の護衛だな。
「マクシス、フィー。僕らは円陣を組んで三人をガードするよ。僕とフィーが正面左右からの流れ弾を防御。マクシスは後方からの奇襲を警戒!」
「わかった」
指示に従い、二人は位置に着いた。
この場所にはいつあの二頭の竜の攻撃が飛んできてもわからない。魔法発動準備のため無防備となっている三人の元に炎弾の一発でも飛んできた時は、僕らで守る!
「……うむ。やはり護衛がいるのは楽だな。瞬間発動でなくてよい分、負担を軽減する術式をしっかりと用意できる」
「もういいんですか?」
「うむ。ではナーティアとボーンジ。二人ともその魔法陣に手を当てろ」
「は、はい」
「これですか?」
二人の前に現れた魔法陣にティアはこわごわと、ボーンジさんは胸を張って手を置いた。
すると、そこを基点としているかのように幾つも空中に描かれた魔法陣が発光する。これは全て魔法発動の補助を担うものだとは思うんだけど、いったい何が起きるんだろう?
魔法技術に関していえば文句なく人類最高であるグレモリー様が補佐と十秒近い準備時間を要する魔法……とにかく凄いんだろうな。
「では、いくぞ。衝撃に備えよ――【空術・隕石召喚】」
「……え゛?」
グレモリー様が魔法を開放した瞬間、空が割れた。その先から現れたのは、この大陸を滅ぼすつもりですかって規模の巨大な――隕石だ!
「ええぇぇぇぇぇっ!?」
「ちょ、隕石って!」
地面に直撃すれば衝撃波だけで凄まじい被害を生むだろう、真っ赤に熱された巨大な岩の塊が、二体の竜の上に落ちてきたのだった。




