第191話 救援
「――空間断絶剣・トゥーティラ」
(ッ!? 剣が通った空中に切れ目が残っている……? 物質ではなく空間を断ち切る剣、ということか?)
「多重分身剣・陽炎」
(今度は斬っていない場所まで斬り裂く刃か!)
多種多様な特殊能力を持った武器を前に、じわじわと追い詰められていく。
無限の武器を操る怪物――魔剣王にはこれと言った攻略法が無い。どれほど対策しようとしても、一瞬で攻撃方法ががらりと変わる。そんな相手に小細工は一切無意味なのは言うまでもないことだ。
そう思ってこちらの強みを活かした肉弾戦を挑んでいるのだが、やはりと言うべきか魔剣王は強かった。
接近戦を拒んでいるわけでもないのに攻撃する隙がない。以前も見せた超がつくほど素早い動きで繰り出される攻撃の嵐を受けるだけで手一杯にされている有様だ。
「どうしタ? 何もせずに死を待つカ?」
(……確かに、このままでは埒が明かないな)
攻められないのではなぶり殺しにされるのを待っているも同じ。そうならないためには、どこかで一か八かの賭けにでるしかないだろう。
(まずは一発。一発だけ入れる。それを突破口にして流れを掴む)
私は強敵を前にしたときにいつも考える心得を思い浮かべ、気を集中させる。
こういった格上と戦うとき、欲をかきすぎるのは自殺に等しい。まずは一歩、自分がやるべきことに全力を集中する――!
「氷結の斧」
(周囲の空気が凍って霧が出来ている……氷結能力を持った斧か)
下手に受ければ両断され、防ぎきったとしても活動に深刻な影響を及ぼす凍傷を受けることになるだろう。
しかし斧ならば、破壊力の代償にどうしても動きが鈍くなる。とは言え魔剣王の腕力で重いなんてことは感じもしないだろうが、リーチも短く賭けにでる相手としては悪くないな。
「フンッ!」
「――ここだ!」
私は振り下ろされる斧の刃の前に、自分から飛び込んでいく。
同時に二式覚醒による魔力の鎧を操り、その刃の軌道をほんのわずかに逸らす。大きな力で対抗するのではなく、柔らかくギリギリ当たらないような軌道になるように――
(――クッ! やはり無傷とは行かないか)
私の目論みは完全には成功せず、左肩に刃が掠めた。それだけで肉が削がれると同時に感覚がなくなるほどの冷気が襲ってくるが、それでも左腕以外には影響なしだ。
ならば――いける!
「【超加力法・20倍力】! ――剛拳・鎧通し!」
私は二式覚醒による限界突破をフルに使った全力の加力法を行い、鎧を突き破るべく拳を振るった。
その拳は確かに魔剣王の鎧の身体に命中し、大きく歪ませる。だが、貫通までは行かないのだった。
(これでもダメか)
「ヌ……。以前とは比べ物にならない威力ダ」
魔剣王は拳の威力に押され、地面を抉りながらも少しだけ後退した。
以前は直撃しても全く効いていなかったからな。世界破片で底上げされた力はそれなりに有効のようだが……。
「やはり全身が鎧で作られているというのは恐ろしいな。直撃してもガードの上だ」
「それは承知のはずだろウ?」
「ああ、そうだな!」
つい愚痴りたくなるほどの防御性能を持つ魔剣王だが、私に止まるという選択肢はない。
鳥人族部隊も今は優勢だが、いつまで持つかはわからない。敵は無限に湧き出てくるかのような大群。時間をかければやがて形勢は逆転されるだろう。
(考えても仕方がないことだが……せめてあと一人欲しいところだな)
無いものねだりそのものだが、この怪物を倒すには後一手ほしい。
誰か一人でも、この怪物と打ち合えるような力を持った仲間がいれば、何とかできる可能性はある。今のままでは使えない大技を、放つ隙を作ってくれる仲間が――
「【クン流・大気崩落】!」
「なニ?」
「隙ありよ!」
一人ではどうしても限界がある――と思っていた矢先、拳圧により敵を吹き飛ばすクン流の技が魔剣王を襲った。
直後に聞こえてきた声と、拳の癖。それを見て私が誰がこれをやったのかを間違えることはない。
ともあれ、今はそのことを考えているべき時ではない。私がやるべき事は――!
「ハッ!」
「ヌッ!?」
隙を見せた魔剣王の足――具足に、渾身の蹴りを食らわせることだ!
「クッ!」
「――痛っ! 蹴っているこっちの足が壊れそうだな……」
ローキックが直撃した魔剣王の鎧は先ほどの拳以上に凹んだが、壊れたというほどではない。
しかし、今のは確実に効いた筈だ。硬すぎてジンジン痛みを訴えている私の足がそう言っている。
「苦戦してるわね!」
「……カーラ。お前がどうしてここにいる?」
「決まっているじゃない! パワーアップしたアタシが力を貸すわ!」
しかし攻撃は一旦そこまでとして、私は今の不意打ちを行った当人――魔王との戦いでは戦力外と判断して軍のほうに配置していたはずの我が弟子、カーラへと意識を向けるのだった。
◆
「グフッ!」
「弱いな、異形の魔術師よ」
「そ、それは申し訳ないね……元々一対一で正々堂々戦うタイプじゃないんだよ」
普通の人間なら――いや生物なら確実に死んでいる肉体損傷を受けた。その回数はもう軽く10回は越えているだろう。
それでも合成獣としての肉体を持つ僕からすれば致命傷にはならない。でも、状況は深刻の一言だ。何せここまでやられても、僕にはこの強敵――魔獣王を倒すきっかけすら掴めていないんだから。
「……本当に、どうしたものかな、これは」
僕はグレモリー様の下で修行を積み、更なる知識と技を身に着けてきた。更に世界破片を併用することで潤沢な魔力を持ち、今までとは比べ物にならない魔法を使えるように準備してきたのだ。
しかしそれも、この怪物には意味が無い。どんな魔法を使っても、こいつはそれに適応できる特性を手に入れてしまう。
手札の多さを最大の強みとする魔術師にとって――あらゆる種族の先天能力を獲得できるこいつは天敵だ。こいつを相手に求められる攻撃とはすなわち、どんな相手にも有効であること。小細工をせずに真っ向からぶん殴るといった具合の単純で強力な攻撃であることなんだ。
(あらゆる手札を揃え、敵の弱点を突く……それを基本とする魔術師からすれば堪ったもんじゃないね)
必要なのは多様性ではなく一点特化、どれほど攻撃の性質に対して有効な耐性をつけたとしても問答無用でぶち破る破壊力……か。
「それを僕が出そうと思えば……まあ、これしかないよね」
「火……か。無意味であるとまだ分からないか?」
「確かに無意味だ。でも――例え火竜の鱗であっても溶かしつくす業火ならどうかな?」
僕は掌から炎を出す。
同時に魔獣王の皮膚の光沢が変化する。恐らくは火蜥蜴辺りの特性を再現したんだろう。
溶岩の中で生まれ育つような種族をも焼き尽くす炎――僕の主義じゃないが、魔力供給過多で破壊力特化の魔法、見せてやろうじゃないか!
「【付術・超高速飛行】」
「飛んだところで無意味だと分からぬのか?」
魔法を放つために、僕は機動力を得るべく全力の強化を施した飛行魔法を発動させる。
魔獣王はそんな僕を見て、自分の背に翼を生やして飛行体勢を整えてくる。あれは恐らく、世界破片の効果ではなく合成獣としての肉体構成変化だろう。
魔獣王の翼は見るだけでも分かるほどに強く雄大――鳥類系のモンスターの中でも最上級のものを使っているんだろうな。
あんなので追われたらちょっと引き離せないかもしれないけど、僕は構わず空に上がった。同時に掌で作った火球に魔力を注ぎ、強化していく。
僕を追って魔獣王も空へと上がってきているけど――さて、ここからが勝負だ。
(反転!)
「――ム」
空を飛ぶため離陸した瞬間。どんな怪物でもこの瞬間だけは移動方向が必ず上に固定される。
このタイミングならば――インドア派の僕でも懐に飛び込める。飛行魔法を反転させ、地面に、魔獣王に向かって突っ込むことで。
「よもや接近戦を望むのか?」
「全く持って趣味じゃないけど――威力を出すにはこれが一番だ」
魔獣王は僅かな驚きを見せた。
当たり前だろう。魔獣王の守りを破るということは、つまり僕では防げない威力と言うこと。そんな魔法をゼロ距離で発動などしようものなら、僕が黒焦げになる。
だからこその奇襲、予想外。できれば使いたくない手だけど、僕がこの化け物にダメージを与えるにはこのくらいのギャンブルは――許容範囲内だ。
「――【最上級炎術・炎神破壊砲】!」
発動するのは手の先から指針性を持たせた炎の砲撃魔法。これなら破壊範囲を限定でき、僕へのダメージは最小限に抑えられる。
問題は、これで奴の装甲を打ち抜けるのかだけど――
「――無意味だな」
(チィ、やっぱり耐性云々以前に生命力が桁違いか!)
渾身の炎術は確かに魔獣王の身体を焦がしている。しかし、その程度では何の痛みにもならないといった様子だ。
全く堪えた様子を見せない魔獣王は、両腕を使って僕を拘束しにきた。物凄いスピードで。
「――転移!」
「ん? 転移魔法か。攻撃魔法を使いながらとは器用な奴だな」
僕は炎術砲撃を撃ちながら転移魔法を発動させることで危険地帯から脱出した。
流石にあの豪腕に掴まれば再生なんて言ってられない規模で破壊されるだろう。今までも何度も致命傷級のダメージは貰っているけど、それでも合成獣の再生力で何とかなる程度に留めてきているんだ。
といっても、早速用意していた切り札の一つを使わされたけどね……。
(いくら僕でも全力の魔法攻撃の最中に高度な転移魔法を使うなんて不可能に決まっている。だからこそ、歯に砕くだけで転移魔法を発動できる魔法石を仕込んできたんだけど、ただの緊急脱出で終わらされたか……)
僕はこの戦いに挑むにあたり、幾つもの魔道具を準備してきている。今の転移はその一つだったんだけど、結局たいして効果的な攻撃はできなかったか……。
「うむ、世界破片の持ち主と争う事は中々ないが故に遊んでやったが……そろそろ終わりにしようか」
「本気モードってことかい? やられ役みたいな台詞回しだね」
「その軽口、是非現実にしてくれ。このまま終わられては――些か物足りぬのでな」
魔獣王が四本ある腕の先にある爪を光らせる。
まあ分かっていたことだけど、今までは明らかな手抜きだったんだろうね。僕の攻撃は自分には効かないことを理解した上での遊び……絶対強者として狩りを楽しんでいたんだ。
全く……野生の獣ならもっと全力で追い込めばいいのにね。
もしそうなっていれば、僕は本当に詰んでいたんだから。
「頭の悪そうなキミに、一つだけアドバイスをしてあげよう」
「うん?」
「魔術師に時間を与えるってことは――自殺志願と変わらないよ」
僕の魔法は全く通用しない。その理由は魔法の特性を見極め、瞬時に適応する種族特性を習得できるためである。
身体から翼を生やして空を飛ぶことができる。その能力は合成獣としての特性である。
凄まじい身体能力を有しているが、しかし攻撃に種族的能力を使うことはない――これに関しては手加減しているためである可能性あり。
ゼロ距離砲撃の結果、ほんの僅かにダメージを与えることに成功。ただし肉体的な耐久力が高く有効打にはならない。
今僕が集められた情報はこんなものだ。
これだけあれば、奴の防御を破る術は自ずと見えてくる。すなわち――
「【多重炎術・炎弾砲台】」
僕は一度に複数の炎の玉を作り出す。これは魔法として完成した後設定した敵の周囲を旋回し、内包する魔力を使い尽くすまで炎弾を撃ち続ける自立攻撃魔法だ。
それを一度に20個ほど作成した。これだけで並みの相手なら何もできずに死ぬことになるだろうけど……
「……? 何のつもりだ?」
繰り出される炎弾を前に、魔獣王は不快そうに首を傾げるばかりだった。
あの程度の炎では傷一つ付かない。そんなわかりきったことを繰り返す僕に疑問を――そして苛立ちを感じているのだろう。強者と言う奴は、自分の力に誇りを持っている奴は概ね侮られることを嫌う。
魔獣王からすれば、こんな魔法を使われること自体がプライドに関わるんだろうね。
「こう言うつもりだよ」
だからというわけではないが、僕も魔獣王の期待に応えるべく策を披露する。
この炎弾の雨がある限り、魔獣王は炎に対する耐性を獲得し続ける。ならば――
「【魔封陣解放・雷術・雷の槍】」
「なにっ!?」
魔獣王の足元に魔法陣が出現し、そこから強烈な雷術が放たれる。
あれはレオン君のお弟子さん――アレス君の鎧に使われている魔法封印術式と同じ原理の魔法だ。あれは鎧に魔法陣を刻むことで魔法のサポートを行っているわけだが、出現した魔法陣はそれをちょっと改造して魔法陣を刻んだ場所から魔法が出るように仕掛けている。
つまり、事前に仕込みさえしておけばいつでも魔法を発動させられるわけだ。例え他の魔法を発動している最中であっても、ね。
「……フンッ!」
今まで魔法を受けるとき、何をするわけでもなくただ受けていた魔獣王。効果がないことを確信していたからこその行動だ。
しかし、今度は違った。足元から飛び出してきた雷撃を、爪を振るうことでかき消したのだ。つまりは普通の防御行動をとったということだね。
「やはりそうか。魔獣王……キミの無敵には制限がある」
「………………」
「戦い始めてからずっと不思議だったんだよ。どうして攻撃を受けるたびに自分の特性を変化させるのかってさ」
炎術を使えば炎に対する耐性を、氷術を使えば冷気に対する耐性を、風術や土術を使った物理的な攻撃に対しては肉体硬化と言った耐性を獲得することで僕の攻撃を無力化する。
しかし、何故攻撃の種類に合わせて自分の特性を変化させるのか。もし読み間違えたら無防備に直撃することになることを考えれば、複数の耐性を同時に得たほうがいいに決まっている。
また、攻撃に種族特性を使わないことにも疑問がある。逃げる僕を捕まえるのなら毒ガスや痺れガスを持つ魔獣の能力を、あるいは拘束するために蜘蛛の糸のような粘着性物質を作るとった手段もあるはずだ。
それをしなかった理由は、僕を舐めているための怠慢――とも考えられたけど、ここまでの情報収集で僕は確信した。
魔獣王の世界破片、生命。その能力によって獲得できる特性は、一度に一つだけなんだとね。
「キミの絶対防御を破る手段は、同時攻撃。異なる特性を持つ攻撃を同時に食らえば耐性による防御はできなくなる……違うかい?」
「なるほど、それを確かめたわけか? しかし今も見せたとおり、だからといって我に傷を付けるのは不可能だと思うがな」
「そりゃそうだ。そもそも圧倒的に強いんだし、世界破片の能力なんて使わなくても並みの攻撃なんて全て跳ね返すだろう。だけど――これだけやられてもそんな涼しい顔をしていられるのかな?」
「なっ……!」
「君にいじめられている間に設置した魔法陣――締めて120種類360口。これだけ同時爆撃すれば、少しは効くだろう?」
魔獣王は地面から空中――あらゆる場所に隙間なく展開された魔法陣の山に初めて驚愕の表情を見せた。
僕はこの戦いが始まってから、手も足も出ずに魔獣王にやられ続けていた。
事実手を出しても無意味だったわけだが、しかし何もしなかったわけじゃない。攻撃されるたびに流した血を、飛び散った肉片を操りそこら中に魔法陣を構築していたのだ。
僕の一撃ではどうにも崩せない敵であることは早々に理解できたし、だったら数に頼るのが一番簡単だろう?
「世界破片による魔力供給があってこその芸だ――【全魔法陣解放】」
炎術による炎が、水術による水弾が、雷術による雷撃が、風術による鎌鼬が、土術による砂嵐が、闇術による呪いが、具術による刃が、縛術による拘束が――そのほかにも無数の魔法特性が魔獣王に殺到する。
これだけの魔法に対する完全耐性など絶対に不可能。魔法そのものを無効化するような能力もあるだろうが、それは以前魔剣王との戦いでやられた手であり、当然対策済み。
これで――決めてやろう。
「そして、この作戦の最大のメリットはね、僕の手が空くことなんだよ」
魔法の嵐に呑まれた魔獣王へ、ダメ押しとばかりに僕は魔法を向ける。
使うのは魔法の中でも最上級の難度を誇る、複合魔法。魔法と魔法を融合させる術は有名なところだが、これは少々一般に知られるものとは違うぞ……?
「炎・水・風・地・雷術融合――【五重融合術・黒の槍】」
五種類の魔法特性を融合させ、漆黒の槍を作り出す。
二種類の魔力を融合させる魔法やスキルはそれなりにあるけど、五つもの魔法特性を融合させるこれを実現したのは、多分――
「僕が、初めてだろうね!」
発動に多大な集中が求められるため、理論としては完成させても実戦で使うのは困難だった魔法だ。特性的にも他に例がない以上、ピンポイントで耐性を持つ生物などいるはずもなし。
正直言って、今のように相手を罠にはめた瞬間以外は使えないけれど――その分、威力は絶大!
「貫け!」
魔法を混ぜ合わせた影響で黒一色に染まった槍が、無数の魔法に撃たれている魔獣王の頭に直撃する。
特性的はもはや『混沌属性』にも匹敵する破壊の権化となっているものだが――
「なるほど、理解したぞ。確かに魔術師に時間を与えるのは危険のようだ」
「――ッ!」
命を奪った確信さえ持った瞬間、大地が揺れた。
魔獣王が膨れ上がったのだ。比喩ではなく、本当に巨大化した。肉体を組み替え、形を変えたのだ。
「しかし我も言ったはずだ。本気を出す、とな」
膨れ上がったのは身体だけではなく、魔力もだ。
何の理屈もない、純粋な魔力圧。ただそれだけで、僕の渾身の罠を吹き飛ばし――取って置きの魔法を噛み砕いてしまった。
四魔王の、本気……これほどのものか……!
「どうした? 顔が引きつっているぞ? 先ほどまでの余裕はどうした?」
「……煩いよ、魔獣の王……!」
今の魔獣王は、推定50メートルほどの四足巨大魔獣と化している。
巨大さに比例するかのごとく膨れ上がった魔力の鎧は、小細工など全て捩じ伏せてしまうような圧力を有し、その爪は、牙はそれこそが最強武器であることを主張している。紫色の皮膚の強度は今まさに証明済みであり、その肉体だけでただただ圧倒してくる、野生の王。
……あれを倒せる魔法、あるのか?
「世界破片を守りに使うなどという児戯はもう終わりだ。我がこの姿となった以上、もはや終わりであると知れ」
(あー……こりゃ無理だ)
客観的に考えて、一人での勝利が不可能であることを理解してしまった。
レオン君やミス・メイならこう言う状況でも勝ちを諦めない。勝率0%の戦いの中にあっても活路を見出し、隠れていた0.00001%程度の勝利を見つけようとするだろう。
しかし、僕にそれはできない。できないものをできないと冷静に理解してしまうからこそ、僕は魔術師なんだから。
「……せめて、前衛が一人でもいてくれれば違ったんだけどなぁ」
迫る巨大な爪を前に防御の魔法を唱えるが、無意味。何発か防いで、それで終わりだ。
その未来予測を覆すカードは、手元にな――
「【我、山の民なり】!」
「っ!?」
巨大な何かが現れて、魔獣王の攻撃を止めた。
「【翼の解放】」
空から高速で何かがやってきて、魔獣王の腕に傷をつけた。
彼らは――
「山人族軍より助太刀に来たゴ・ザグだ」
「鳥人族軍より、筆頭戦士、鳳だ」
東と西の大英雄たちが、現れた。
0%の勝率を変動させられる、カードが手に舞い込んできた。僕は、それを理解した。
◆
「……お主、生きていたのか?」
「ええ。何でかは知りませんが、気がついたら無傷で寝ていましてね」
「それはよかったな。……で、先ほどの攻撃は何の真似だ? この私に――吸血鬼の王であるこのオゲインに対して攻撃を行うとは、どういうつもりだ……ミハイよ」
突如吸血王を襲った攻撃。その正体は、上空から現れた、かつて俺が倒し殺したはずの吸血鬼、ミハイ。
あいつが現れて、吸血王を襲ったのだ。その顔に不敵な笑みを浮かべながら。
「どういうつもりか……ね。その答えはいろいろあるが、まあここは一つに絞らせていただこう」
ミハイは王に向けての優雅な礼をしてみせる。
しかしその顔に浮かんでいるのは獰猛な笑み。殺意を凝縮した、怪物の笑みだ。
「我ら吸血鬼の社会は絶対的な身分制度がある縦社会。しかしそれは実力の階級でしかなく、反逆はいつでも自由だったはずでしょう? 己より劣るものを捩じ伏せ、自分がその位置につくのはね」
「……その通りだが?」
「つまりそういうことですよ。都合よく利用できそうな駒がありますし、私はここで貴方を殺し、王になってやろうと思いましてね」
ミハイは俺を指差しながら、言い放った。吸血王を殺すと。
何故こいつが生きているのか、何を考えてここに現れたのか。聞きたい事はいろいろあるが、とりあえず――
「――共闘するつもりだってことでいいのか?」
「ふざけるな。誰が貴様なんかと。俺はただお前が闘っている隙をついて吸血王を殺しに来ただけだよ」
「……そうかい。じゃあ、俺もお前を利用して世界を救わせてもらおうか」
俺とミハイは、バラバラに吸血王へと構える。
歪で協調性の欠片もないコンビで、強大な魔王に挑むために。




