第185話 首脳会議―三王家―
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「……聞こえますかな?」
「ええ、聞こえておりますよ」
「うむ。わしらも良好じゃ。映像もしっかりと送れておるな」
「あなた方山人族の民の技術力には頭が下がります。まさか声だけではなく、こうして直接対面しているかのごとくお互いの姿を見ることまでできるとは……」
「なに、これも魔法の霧をそちらの戦士が払ったおかげじゃよ。そうでなければこいつを届けることすらできんかったからの」
フィール王国が誇る王都。その中心にそびえ立つ王城の一室に突貫工事で作られた通信室。そこに、空中に写し出された窓のようなものから声が響いていた。
声の正体は、我が息子、レオンハートの尽力により友好関係の構築に成功した他の二国――鳥人族代表の雪姫様とその補佐役であるオオトリ殿。山人族代表のゴ・ゴゴン様とその補佐官数名。他国の王と我が王――の代理人であるバーン殿下が通信による会談を行おうとしているのだ。
(……本来ならば陛下がここにいるべきなのだが……)
威風堂々といった様子で通信室に設えた玉座に座る殿下へ少しだけ視線を動かし、内心で呟く。
別にバーン殿下に不満があるわけではない。むしろ、次代の王はバーン殿下以外にいないだろうと確信させてくれるほどの才気と人柄を持っていると私は思っている。
だが、それでも本来王が出るべき場所に王がおられないというのは……現実を突きつけられているようで少しだけ心が沈む。
「なに、それもそちらの人間族の尽力があってこそじゃ。受けた恩は決して忘れぬ。それが我らのルールじゃよ」
「そういっていただけるとこちらとしても助かります。ですが、まず始めに謝罪させてもらたい。この度の記念すべき――秘密のではありますが、とにかく初の他種族首脳会談へ本来出席すべき我らの王が不在であるという事実を」
「……別に、いい」
「あー、ごほん。事前に連絡を受けている上に、その理由は体調不良。ならば心配することこそあれ責め立てるようなことをするつもりはない――と、雪姫様は仰っております」
バーン殿下の発言に反応した幼子――鳥人族唯一の王権正当後継者であるという姫君だったが、その言葉を修正するようにオオトリ殿がフォローした。
彼は武官であると聞いているが、すっかり苦労人が板についているようにも見える。彼らの一族を襲った悲劇に関してはレオンから聞いているが、やはり相当苦労しているようだな。
もっとも、王に関しての悩みはバーン殿下のお言葉通り私たちにもあるのだが。
(この非常時に陛下が倒れるとは……ここ数年、高齢の身にも拘らずレオンが予言した世界の危機へ対策すべく奮闘しておられた反動か)
陛下はつい先日、執務中にお倒れになった。原因は過労だ。
陛下がそこまでなさったからこそこの会談は成立したといっても過言ではない。レオンが旅立つことを許可するだけでもどれだけの政治的駆け引きがあったのか、更に最新式魔導船をはじめとする様々な支援――それを用意するのにどれほど苦労なされたのか。そして、国内有数の英雄豪傑がいなくなったことによる国内の情勢悪化へ対処するのがどれほどの負担か。
それらがなければ今この状況ない。それは間違いないが、その代償として、今は床に臥せっておられるのだ。
「……お久しぶりですわね、バーンお兄様」
「おや、サフィリアか。お前もこの会談に出席するのか?」
「私どもから依頼させていただきました。なにぶんはじめての異種族同士の国家レベルにおける交流会です。ならば一人でも多くの知恵者がいた方がよろしいかと思いましてな」
「そうですか。我が妹の面倒を見ていただき感謝の言葉もありませぬ」
「何をおっしゃいますか。姫君の叡知、そして部下の方々には随分と助けられております。こちらこそ迷惑ばかりかけてしまい申し訳ない」
陛下の御体のことに意識を飛ばしていたら、鳥人族一族へ繋がっている中空に浮かぶ通信映像に我が国の姫が現れた。
サフィリア姫はレオンたちと共に出発し、今は鳥人族たちの復興に協力していると聞いている。だからこそあそこにいるのであり、彼女ならばこの会談に参加する資格は十分にあるだろう。
その後、各王たちは姫も交えてお互いのことを知ろうと軽い世間話を――王族の言葉は刃に等しいという前提だが――和やかに行われた。
我らは別に敵対したいわけではなく、むしろお互いに手を取り合わねばならないのだ。ならば、まずは個人の友好をというのは間違ってはいまい。
「さて、社交辞令はそのくらいとし、そろそろ本題に入らんか? 今この世界にとって、時間は金剛石よりも貴重じゃ」
和やかな世間話から始まった会談は、いよいよ山人族王の一言により本題へと移る。
議題は当然、魔王軍への対抗手段だ。現在わかっているのは、日時を指定した上で魔王軍が総攻撃を仕掛けてくるということ。その目的が精霊竜を討伐することである――ということだ。
「まず大前提ですが、奴らの侵略に対しては徹底抗戦……で、よろしいですかな?」
まずは殿下が仕掛けた。ある意味一番重要な確認だ。
私個人の意見としては、戦う他ないと判断する。やつらに交渉が無意味なのは明白であり、魔王神と呼ばれる首魁の復活を果たした後の最終的な目標こそ不明であれど、到底共存することは不可能だろう。個人としては家に居候していたカーラくんのように友好関係を構築できる者もいるだろうが、魔王と呼ばれる怪物が指揮を取る限り種族として共存することはできないのだ。
それは各王も理解なされているだろうが、万が一ということもある。魔王軍の攻撃こそ受けてはいるが比較的傷の浅い我々だからそう考えるというだけであり、彼らは深く傷ついた国の回復を優先したいと考えている可能性はゼロではないのだから。
「……とーぜん」
「我らは決して奴等に屈することはありませぬ」
「考えるまでもないであろう。やつらの恐ろしさ、残虐さは貴殿らよりもずっと理解していると自負している。故に断言しよう。奴らを滅ぼすか我らが滅びるか……既に道はこの二つしかない」
私の心配を余所に、大きな被害を受けている二国から即座に肯定の意が返ってきた。
我々は比較的被害が少ないという余力から交戦を選んでいるとも言えるが、彼らの中にあるのは……危機感か。魔王軍の力を、残虐さを我々南の民とは比べ物にならないほど正確に知っているのだろう。故に、我ら全員が『勝利か死か』という極限状態にあることを正確に把握しているのだな。
「では、交戦するという前提で話を進めますが……魔王自らが指定した開戦日時、信用しますか?」
「……むり」
「できるわけがない、と我々鳥人族を代表して発言させていただきます。奴等は謀略にも長けており、確実にこちらを欺くのが目的かと」
「ふーむ……普通なら王自らの宣言を覆すのは名と信用に傷をつけるとして避けられるのだが……相手は魔王だからのぉ」
「我が国に所属し、そちらにもお邪魔した騎士による今までの報告を纏めますに、奴等は高いプライドを持っています。故に自らの言葉を覆すことはないと考えることもできるのですが……」
「嘘をつくことは恥である。そのように考えるほど我らを高く評価しているかが問題じゃの」
代表者たちはそれぞれ頭を悩ませている。
普通に考えれば王の言葉を自ら曲げるなどあり得ない話だ。国の頂点の言葉とは決して軽いものではない。
だが魔王という特殊な存在であり、他種族を同等などとは決して思っていない傲慢さを考慮にいれると話が変わる。そもそも約束した覚えなどない、貴様ら風情に一々対等な契約など結ぶか――と思っておる可能性もあるのだ。
もちろん、自らの力を過信し、小細工せずに予告通りに蹂躙しようと考えている可能性もあるが。
「……こればかりはどちらとも言えんな。どうであろう? 指定刻限より十日前に軍を配置するというのは?」
「偽りであれ真実であれ対抗できるように、ということですか」
「十日より前に来ることも十分にありえると思いますが?」
「南の姫の言うことももっともじゃ。しかし、今から攻めてくるまでずっと軍を配置し続けるのは流石に現実的ではあるまい」
「兵糧の問題はもちろん、兵の疲労もありますからな。逆に指定時刻よりも後に動くことでこちらの疲労を狙うという戦略も考えられますし……」
軍というものは維持するだけで金がかかるが、金だけ出せばいいというわけでもない。
構成員が生きた人間である以上、どうしても限度を越えた無茶はできないのだ。誰しもが私たちのような体力を持っている訳ではないのだから。
「疲労を最小限に抑えられるよう、仮設の砦を我ら山人族の職人に造らせよう。居住性もしっかり確保して見せる」
「敵の本陣である火の大陸は除くとして、他の三大陸すべてに手が回るのですか?」
「物資さえあればの。魔法の霧の消滅により大陸間移動の難易度は大きく下がった。お互いの大陸を結ぶ転移門ネットワークの建設は既に始めているが、うちの職人を届ければ三ヶ所に軍を留められる砦を造るくらい楽勝じゃわい」
「頼もしい限りです。では物資の提供は我々南の大陸で行いましょう」
「そうですわね。資源の豊かさ、という意味では私たち南の大陸が一番のようですし。職人に関してもある程度なら出せるのではないかしら?」
「そうだな。貴殿ら山の民の技術には及ばないでしょうが、職人も魔術師も出し惜しみはしません」
傷の浅い南の大陸には資源も人材も豊富に揃っている。これは大きなアドバンテージだ。出そうと思えばもっといろいろできるだろう。
私としては後のことなど考えずに全て出しきるのが是であると考えるが、ここにいるのは王族の方々。恐らくは先の先まで考えた末での提案を成されているのだろうな。
「……わたしたち、どうする?」
「では、我々は精鋭兵を出し、職人殿と輸送物資の警護を行いましょう。戦士の質と数では我々が一番余裕があるようですからな」
「それは助かります。準備段階での妨害はもっとも危険視すべきものですからね」
それぞれの強みを生かし、意見を出しあい着実に反撃作戦が着実に練られていた。
今まで交流のなかった三国が手を取り合い力を尽くす。まさに、持てる全ての力を出しきる戦いだ。それだけでなんとかなると言えるほど敵も甘い相手ではないが……これ以上はない防衛線を作ることはできるだろうな。
(最善を尽くしたからといって勝てるとは限らん。だが、やらなければ決して勝てないのは間違いあるまい)
近い未来に始まる戦いを夢想し、気を引き締める。
私は既に次世代に主役を譲った身だ。私の力が主軸になるということはないだろうが、しかし『後は若い者に任せる』と言って引っ込んでいる余裕はないだろう。
……あるいは、これが生涯最後の戦いとなるやもしれんな。年甲斐もなく気が高ぶってしまい、困ったものだ。
「――三大陸の防衛協定はひとまずこんなところでしょう。もちろんまだまだ細部を詰めなければならないことは多々ありますが、それは我々ではなく専門家に任せましょう」
「同意だ。王の仕事は方針を定めるところまでだからの。後はそれぞれの将軍に任せよう」
「……わかった」
「私はそちらにも参加いたしましょう。というより、そちらが本業なのですが」
そうこうしているうちに、話し合いは一段落ついたらしい。
細部の作戦を決めるのは軍師や将軍の仕事である以上、王たちの話し合いで決めるべきことは決めたということだな。
……オオトリ殿の言う通り、騎士団長である私の本業もそっちの話なので当然他人ごとではないが。
「……ここまでの協議に付き合っていただき感謝します。ですが、これで解散――というわけにはいきません」
「そうだの。もっとも難しいポイントの話が残っておる」
「……?」
「雪姫様。敵の本拠地である北の大陸をどう攻めるか、という話です」
「流石に敵の本拠地で呑気に家を建てるわけにはいきませんものね」
王たちは話題を次に移した。
もっとも困難な戦場――魔族の住まう火の大陸をどうやって攻略するか、と言う話へと。
「既にお伝えしている通り、我らの騎士であるレオンハート・シュバルツとメイ・クンの手によりかの地への転移玉は入手しています」
「うむ。もちろんそのまま使うのは危険であるが、我々の技術者が座標解析と改造に協力している。恐らく問題はあるまい」
「……よかった」
「ですが、その手の術で移動できる人数には当然限りがあるはずでは?」
「お兄様。現在の技術では、どの程度を送ることができますの?」
「……門を作るのは転移術の使い手であるマイド・ボーンジに頼ることとなっている。しかし報告によれば、距離も考えれば一度に送れるのは大体10人が限界と言うことだ」
「10人か……」
どこか重苦しい沈黙が降りてきた。
ほかの魔王の軍勢には軍で対抗しようとしているのに、敵の本拠地に送れるのは僅か10名。とても満足できる数ではないだろう。
「……この枠の内、魔王竜と戦うために騎士アレスが名乗りをあげています」
「アレス? もしや、レオンハート殿の弟子である小さい少年か?」
「ああ、あの子供か。魔剣王には手も足もでなかったということだが、大丈夫なのか?」
それぞれがアレスのことを覚えているようだ。しかし、実力には不安を覚えているようだな。
……無理もない話だ。私自身、魔王という怪物を直に見たわけではないのではっきりとはわからないが、今のレオンたちを一方的に打ちのめすほどの怪物を相手にできるとは思えないのだから。
もっとも、ならば誰がそんな怪物を押さえられるのかと言うと誰もいないのだが。
「心配はもっともですが、彼らの言によれば魔王にも通用する切り札を入手したとのこと。騎士アレスだけではなく、魔王との直接交戦を申し出ている三名も含めてね」
「切り札とは?」
「それは秘密だそうです。万が一私が敵の手に落ちたとしても情報を渡さないため、ということだそうで」
「うーむ……王にすら極秘か。それを信じるのは難しい、といいたいところだが……」
「他に手があるわけでもありません。ここは、今まで何度も奇跡を起こしてきた英雄たちを信じるしかないかと」
「……あのひとたち、つよい」
本来ならば信じられるわけもないような言葉。それを王たちはあっさりと信じた。
理屈を越えた信用、あいつなら何とかしてくれると言う根拠なき信頼。……非常に重いが、そうであるからこそ英雄と呼ばれるのだ。
我が息子ながら、立派にやってきたようだな。
「だが、それはそれとして他以上に火の大陸へ送る人員は選別せねばならんな」
「しかし、他の大陸を手薄にするわけにもいきませんよ」
「うーむ……」
ここで話が戻ってきた。いったい誰が敵の本拠地に殴り込むのかとな。
……ふむ。
「よろしいでしょうか?」
「うん? 何か意見があるのかい? 団長」
「はい。火の大陸へ送る人員ですが、まずは騎士アレスのチームメンバーがよろしいかと」
「ふむ。確かに気心知れた相手の方が連携は取りやすいだろうな。だが戦力的にはどうなのだ?」
「確かに未熟な点もあるでしょう。しかし、若者は常に進化し続けるのが最大の武器。至高の戦いに身をおき、大きく成長しているかと」
私が知る限り、アレスの仲間は皆優秀だ。才気に溢れ、ぐんぐんと成長する姿は爽快ですらあるほどにな。
それに、訓練に付き合った限りあの聖剣の能力があれば……多少の不安は無視してもいいだろう。頼りすぎるのは危険だが、相応に修羅場を潜った彼らなら増長して暴走することもあるまい。
「……なるほど。正直全く手が足りていないのだ。そういった賭けも必要か」
「元々この戦自体がギャンブルに等しいようなものです。完璧な策略などありえない以上、リスクを恐れていては何も出来ません」
「指導者としては賛同したくない分析だが、事実なのだから仕方がないのぉ。……ところで、そのチームメンバーとやらは何人いるのだ?」
「三名です。弓兵マクシス、槍戦士フィーリア、魔術師ナーティアの三名が彼のチームメンバーとなっています」
「彼女ら三名は今も我々の国に留まってもらっておりますが、復興支援と同時に鍛錬も欠かさず日々成長しております。特にフィーリア君は私自らが指導に当たったこともあり、まだまだ完成された戦士と言うわけではないですが、だからこそ伸びしろがあるといえます」
アレス班の名前を挙げたらオオトリ殿から補足が入った。そうか、順調に育っているか。
今も彼ら三人は他の冒険者や騎士といった調査団と共に鳥人族たちの大陸の復興支援に当たらせているが、この大陸にはない刺激は若い彼らの才能を磨くにはうってつけだろう。
オオトリ殿とは直接の面識はないが、こうして通信越しに見るだけでも超一流の戦士である事はわかる。その彼が言うのであれば、相当な仕上がりになることだろうな。
「では、それにアレス少年当人を加えて四名。残りの六枠は誰を送るのだ?」
「生半可な実力の持ち主では無駄に死人を増やすばかり。ここは対魔王の切り札として活動する三名を除いた精鋭の中から選ぶべきでは?」
「うむ……ワシら山人族の英雄の多くは魔剣王によって命を奪われている。だが、レオンハート殿の治療により怪我人は徐々に戦線に復帰している。派遣する事は可能だぞ?」
「……こっちは?」
「我々鳥人族の精鋭――我が隊の隊員たちは皆健在です。いつでも動かせます」
両陣営からの快い返事が返ってくる。
実にありがたい話だ。英雄の誕生率が低い我々南の住民の中に、魔王へ立ち向かえるような精鋭は早々いない。
……いや、正確に言えば世界中探しても一人もいないのかもしれんがね。
「ご好意、フィール騎士団団長としてありがたく頂戴します。では、お二人にはそれぞれ一人最精鋭の派遣をお願いしたい」
「うん? それはもちろん構わんが……一人でいいのか? 西とあわせても二人ではまだ四枠も余るぞ?」
「はい。ですが、アレス班は有望とは言え経験は浅い。故に、可能な限りこちらの大陸の戦士で固めたほうがやりやすいかと愚考します」
「それは道理でしょうが……四人もいるのですか? 魔王に立ち向かえる少数精鋭の戦士が?」
「失礼ながら、シュバルツ団長? フィール王国の王族である私にも心当たりはないのですが……?」
私の提案に、それぞれから困惑した声が聞こえてくる。
基本的に、我々人間は弱い。極々稀に規格外の力を持った戦士に成長する事はあれど、種全体として見れば三種族の中でも比較にならない弱小である――というのがお互いの認識をすり合わせた結果である。
その極稀に生まれる戦士と言うのがつまりシュバルツでありクンであり、あるいはスチュアートのような家系に集中しているということも含めて、種族として才能のあるものが生まれる確率は低く、更にその才能が磨かれる環境が整っているのは稀なのだ。
そんな我々にそこまでの戦力が用意できるのか――という疑問は至極もっとも。だが、出せないということはない。
「まず第一に参戦するのは、私ガーライル・シュバルツです。全盛期とはいえませんが、これでもフィール王国の精鋭を集めた騎士団のトップ。決して後れを取るつもりはありません」
「……確かに、貴殿の立ち振る舞いを見れば相応の強者であることはわかる。あのレオン殿の父であり指導者であるという観点から見ても十分な戦力だろう」
「次に、バース・クン。こちらでは武帝の異名を持つ拳士であり、私と同格の強者です」
「クン……もしや、あのメイ・クンの……?」
「はい。騎士メイはバースの実の娘であり、弟子でもあります」
「な、なるほど。あの怪物……メイ殿の父であり師であるならば実力は保証されているようなものだな」
山人族の王が一瞬本音を漏らした後誤魔化すように賞賛の言葉を贈ってきた。
……あの娘はいったい山人族たちの大陸で何をやったんだ?
報告書には魔剣王との戦いくらいしか書かれていなかったと思ったが……まあ、信用されるならそれでいいか。
「なるほど、三大――いえ、今では二大武家ですか。それぞれの当主様が出られるというのであれば確かに戦力としては十分ですわね」
「本音を言えば彼らには王都の守護を任せたい。だが、この戦いに敗れれば待っているのは全人類の死だ。ならばそんなことをいってはいられないだろう」
「ご理解感謝します、殿下」
普通なら私もバースも離れるなどありえないのだが、今はそれがまかり通ってしまう非常事態。それを理解していただけるというのは非常に楽だな。
「ですが、それでも二人。後二枠ありますが……あなた方以外にいましたか? そんな強者が。スチュアートの当主は既に亡くなっておりますし……」
「はい、まずは転移を担当するマイド・ボーンジ。希少な空間転移魔法の使い手を遊ばせておく訳にもいきませんし、当日に転移で移動するのを火の大陸へいく10名に限定すればむしろ自ら跳んだ方が楽でしょう」
「なるほど。確かに他の場所への転移が必要なら別の術者を用意すればいい話だな。火の大陸以外なら転移門を作成すればよい話だ」
「能力の利便性で言えば群を抜いておりますしな。我々も彼の能力には随分助けられました」
「では、残る一枠は……?」
「その枠に収まることになるのはこの私だ」
最後の一人の名を告げようとしたら、この警戒厳重な部屋に本来いないはずの人間の声が響き渡った。
……まあ、どう考えても警備の兵にこの人を止めることなどできないだろう。実力的にも権威的にもな。
「……入室は許可していないんだがな」
「魔王共が攻めてくるという段階になってそんな細かいことを気にするな」
「そもそも先生がそんなことを気にしたことはないでしょう」
入ってきた一人の老人に、軽く皮肉を漏らす。
その正体を隠す意味はないし、さっさと紹介してしまうとするか。事前に教えていた殿下はともかく、知らなかったのだろうサフィリア姫など顔が引きつっていることだしな。
「……改めてご紹介しましょう。この老人が魔竜王の下へ向かう最後の戦士……いえ、魔術師の」
「世界最高の大魔術師、グレモリーだ」
ふんぞり返っている老人の正体こそが、最強の魔術師であるグレモリー。
あまたの伝説を持つ最強の魔術師である――。




