第181話 決闘2-魔人対魔人-
「――ッ!」
剣閃が走る。
「――――ッ!」
槍が頬を掠める。
「――――――ッ!」
互いに、暴威をぶつけ合う。
言葉を発する暇などない。互いに、とうの昔に音を置き去りにしているのだ。この戦場においては言葉など、あまりにも遅すぎる。
特殊技能や魔法の発動も、無言で行われる。詠唱のプロセスが必要な行動など、何の役にも立たないのだ。
「――カッ!」
無数に分裂した槍の穂先を本能による明鏡止水――獅子奮迅ですり抜ける。
反撃の一撃を、盾に変化した血の槍が受け止める。
一進一退の攻防。一瞬の迷いも許されない超高速戦闘の中で、俺とミハイは互いに致命的な一撃を避けつつ戦い続けているのだ。
(鈍い、攻撃、隙ある、回避――)
頭の中を流れるのは、身体の動きに置いていかれたような意味のない単語の羅列。
頭で考えていては間に合わない戦闘を、身体に染み付いた戦闘経験のみでこなしているのだ。どうやら、本当に俺の頭は飾りになってしまったらしい。
「ギィッ!」
「ラアッ!」
お互いに、口から出るのは意味のない叫び声だけ。そんな叫びと共に俺の剣からは嵐の砲撃が放たれ、ミハイの槍からはビームみたいなのが出てくる。
すり抜けて直撃させてもいいが、ここは防御目的だ。あえて獅子奮迅による防御無視を発動させることなく、ミハイの砲撃を迎撃する。
思考する暇もないのに大威力攻撃が普通に飛び交うイカれた戦場だなと、俺は一連の攻防が終わり、次の動きに入り始めた辺りでそんなことを考える。
このギリギリの戦いは、永遠には続かないだろうという確信と共に。……俺自身の限界によってな。
「――ぶはっ!」
俺は、長い間水の中に潜っていたかのように酸素を求めて口を開く。当然その余計な動作は――呼吸は、この戦いにおいて致命的な隙になり得る。だが、もう限界だったのだ。
いくら吸血鬼モードでアンデッドとしての特性を持っているとはいえ、いくらなんでもこの運動量で無酸素状態とか死ぬ。まだ俺個人は普通に生物なのだから。
「――ハッ!」
ミハイは当然、俺を狙って槍を繰り出してくる。隙を見せた相手を逃す理由などないと、口にするまでもなく宣言するような迷いのなさで。
――獅子奮迅リミット。明鏡止水発動。
ピークまで上り詰め、徐々に通常の思考が戻ってきた俺は獅子奮迅が解除され、代わりに明鏡止水を発動させる。
槍のような実体攻撃をすり抜けることはできないがダメージを最小限にすることはできる。タイミング的に防ぐことも避けることもできないのならば、脱力によりミハイの攻撃の流れに乗ることで受け流す――
「ガハッ!」
「――浅いか」
槍は俺の胴体に直撃するが、その威力の大半を後方への吹き飛ばしに使わせる。
結果、多少の衝撃を受けただけで特に目立った傷もない。あの場面の防御としてはそこそこの成果と言えるだろう。
(反撃)
予定通り吹き飛ばされたところで風の魔法を発動。ターゲットはミハイ――ではなく自分だ。後ろから自分に向かって発動させた風魔法の威力で崩された態勢を強引に戻しつつ、前に出る。
更に無言での加速法を発動。攻撃を終えたあとの隙を、直撃を受けてなお突く――
「甘いわ!」
人体の構造上不可能な動きで前に飛び出した俺に、ミハイは慌てることなく対処してくる。
一瞬で形態を変えた槍が鎧のようにミハイを覆うことで守りを固め、同時に飛行する。空中戦では俺の不利である以上深追いはしにくくなるって狙いに加え、さっきの俺と同じように自分から飛ぶことで攻撃の威力を押さえる腹だろう。
「俺の台詞だ!」
だが、その程度で収まるつもりはない。一度殴られたら死ぬまで殴れ。そのくらいの闘志は持ち合わせているつもりだからな。
俺は迷わず背の翼を振るわせ、飛ぶ。覚醒融合状態である今の俺なら必ずしも空中戦が不利であるってわけじゃないのだ。
「ぐっ!」
「百倍返しだ」
至近距離から嵐龍閃をぶっぱなす。嵐の砲撃に飲まれて傷ついていくミハイだが、致命傷には至らない。獅子奮迅が切れているから防御貫通って訳にはいかないことに加えて、あの槍の形態変化による鎧の守りがあるからだ。
それでも十分な痛手には違いないだろうが、でも……百倍には足りないな。
「【瞬剣・嵐龍双閃】」
俺は加速状態だからこそできる奥の手のひとつ、魔力の高速チャージによる嵐龍閃ニ連発をぶちこむ。
振り抜いた剣を戻す間に攻撃準備が整っているという加速法ありきの力技だが、これは効いたはずだ。
「――【加速混沌術・消失の渦】」
「流石」
しかしミハイもそのままやられてくれる玉ではなく、攻撃を食らいながら加速法を発動させ、魔法による防御を行った。
どうやら、混沌属性を使った複合魔法のようだ。自分の正面に圧縮した混沌属性の渦を作り、飛び込んでくるものを全てを消し飛ばすって代物だな。
直撃したのは事実だからかなりのダメージは与えているけど、倒す前に二つの嵐龍閃は渦に飲まれて消えた……か。
「ふっ!」
俺はそこで追撃を諦め、地面に着地してから大きく距離を取った。加速法の使い手同士の戦いでは先に使った方が不利。どうしても先に加速法の効果が終了してしまい、その後にやって来る数秒間の弱体化状態を加速状態で突かれることになるからな。
今ので決められなかった以上、俺は反撃に備えて距離を取るしかない。そのセオリー通りの行動だが……来るかな?
(勝機と見て突っ込んできたら、追加速で加速法を維持してカウンター)
漠然と次の攻撃プランを立てつつ、大きなダメージを負った身体を治す前に反撃に出てくることを願う。
本気で再生に専念されれば今の攻撃も10秒程度でなかったことにされるだろう。加速攻撃に失敗した以上俺から攻めることはもうできないから、向こうから来てくれるとありがたいんだが……。
「……ふん。ここらで仕切り直しか」
「冷静、か」
ミハイは無理な反撃に出ることなく止まり、息を整える――必要は息してないので不要だろうが、その代わりに傷ついた身体を高速再生させる。
俺もそうなっては仕方がないので加速法を終了させ、乱れた息と魔力の安定を優先させる。さっきまでの刹那を競う戦いは一旦終わり、今度はお互いの隙を狙いつつ準備を整える戦いが始まるな。
「……そろそろ本気を出したらどうだ?」
「なに?」
お喋りする余裕ができた途端、ミハイが俺に声をかけてきた。
本気を出せとは……どういうことかね。
「俺は知っている。……貴様の中に眠っている力、世界破片を」
「へぇ」
それを知っているか。まあ、魔剣王が実物を持っているのだ。同格の存在であることを考えれば、恐らくは他の魔王たちも持っているのだろう。
ならばその配下であるミハイが存在を知っていてもおかしくはないし、俺の中に神造英雄……正義の世界破片があることも敵方知られている以上知っていて当然と考えるべきなのかもな。
「……生憎、使うつもりはないぞ?」
「ほう。それは俺を侮っているということか?」
「そう受け取ってもらって構わないぞ? 実際、使わずに勝てるなら使いたくないしな」
俺は挑発するようにミハイに言葉を返す。
正直なところ、これは俺の本音だ。魔王たちとの戦いの前に最大の切り札の情報を渡したくない。クルークによれば魔王たちの狙いは世界破片であり、この決闘の狙いは俺たちが欲望を持ち出してくるかを確かめるのとそれをどこまで使えるか見定めることらしいので、出来る限り隠したいのだ。
といっても、それだけならば既にばれている神造英雄の起動を隠す必要はない。本当の理由は、俺個人の矜持の問題だ。
――世界破片の力と恐ろしさを知った以上、一対一の決闘で俺だけ世界破片を使うなんて真似、格好悪いじゃないか。
それがなければ勝てないと認めるような真似、同格相手にできるか。同じ条件でやりあう魔王たち相手ならともかく、突き詰めれば他人の力を拝借する能力である世界破片を正々堂々のタイマンで気楽に使えるほど、戦いに捧げてきた俺の20年は安くない。
勝てれば何でもいい――ってのは賢い真理だが、楽なほうに流されることを是とするようじゃ俺は今生きてはいない。
力は上がっても、心がそれを否定する。だから、自力で戦う今の状態が今の俺にとっての最強なんだ。
……相手が正々堂々なんて許してもらえないほどに規格外だったり、同じものを使わないならの話だがな。
「遠慮する必要はないぞ? 俺には既に攻略法が見えている」
「攻略法? それは是非教えてもらいたいな」
ミハイは意味ありげにそう語ったが、正直そんなものがあるとは考えにくい。
もちろん燃費最悪の神造英雄起動の弱点は明確だが、それを克服した正規の使い方に攻略法などあるとは思えない。というか、世界破片に攻略法なんてものがあるのなら、つまり魔王たちの切り札を封じることができるってことだ。そんな方法があるなら是非教授してほしいものだな。
「……お前の考えていることは大体わかる。確かに、相応の誇りがあれば一対一の戦いでは世界破片などに頼りたくないだろう。はじめから自力では勝てないことを認める相手ならともかく、こうして自力で対抗できる相手ならなおさらな」
「…………」
「単独では己が劣ることを認める……おぞましい話だ。自力ではどうにもできないから誰かなんとかしてー……ってところか? そんな屈辱を平然と受け入れるやつとはいったいどんな精神の持ち主なのか、俺には想像もつかん」
「まあ、お前はプライドの塊だからな」
ミハイに限らず吸血鬼は基本傲慢だ。しかしその中でもミハイは一段上のプライドの高さを有していると言える。
何せ、不覚を取った人間一人にリベンジするために普通の吸血鬼では絶対にやらない修練まで積んでここまで来ているのだ。己の矜持を守るプライドの高さだけで言えば、もしかしたら吸血王以上かもな。
「そんなお前の気持ちはよくわかるし、我が怨敵が誇りなき屑でなかったのは喜ばしいのだが……しかし俺は全力のお前を殺したいのだ」
「……なら、使わせてみろよ」
さんざん語ったあとに、結局自分の要求を――世界破片の発動をミハイは求めてくる。
俺の気持ちをよく理解した上でその要求とは、流石自己中の吸血鬼ミハイであると言えるだろう。
しかし俺にその気がない以上、方法は俺を圧倒するしかない。要するに使うと負けた気がするってだけなので、個人としての敗北を素直に受け入れざるを得ないほどの力があれば俺も使うしかないのだ。
この切り札は、勝つための力じゃない。生き延びるための手段なんだからな。
「そうするとしよう。しかし実力では互角であるのも事実。となれば、無理矢理使わせるのは骨だなぁ?」
「……何が言いたい?」
何やら鬱陶しさを感じさせる口調でミハイは肩を竦める。
明らかになにか隠していますって様子だが……何か嫌な予感が……?
「ところで、知っているかね? そもそも世界破片がいったいどんな経緯で生まれたのかを」
「……いや? むしろ、お前知っているのか?」
世界破片の起源……それはグレモリーですら突き止められなかった謎だ。
当然俺には想像すらできないのだが、ミハイはそれを知っているのか?
「そもそも、本来この世に世界破片は一つしかなかったらしい。世界誕生から現在までのあらゆる事象を記録し、手中に納めれば現在を自由に書き換えることで未来を作ることすら可能となる創造神の究極秘宝……世界核に唯一干渉できる神の権力、世界特権としてな」
「……随分でかい話だな」
「ああ。あまりにもでかすぎて正直半信半疑なのだが……我らの王直々に仰られた世界の真実だ。恐らくは真実なのだろう」
「吸血王……」
なるほど、確かに吸血王ならそんなことを知っていてもおかしくはない。
恐らく、世界破片を回収するこの戦いに赴く前に語り聞かせたというところか。仕事の前にその内容と意味をきちんと説明するとは、中々できた上司だな。
「しかし、絶対権力は砕かれた。その詳しい経緯に関しては教えていただけなかったが……創造神が有していた世界への干渉権は砕かれ、複数の鍵として分割された。それが世界破片だ」
「……」
世界を好き勝手に変えられる絶対権力の欠片……か。物騒きわまりないな、やっぱり。
ようするに、情報を引き出すことしか出来ない世界破片に、書き込むって機能が追加されたもの……って認識でいいのかな?
「さて、ここまでの話を統括してもらえばわかると思うのだが、世界破片とは元々砕けたものであり、分割することができるのだよ」
「そりゃ、知っているが……」
欲望の世界破片がまさにそれだ。あれは今三分割されてそれぞれ別の宿主がいる。
だからそれ自体は真新しい情報って訳ではないんだが……なんだろう? スッゴい嫌な予感がするんだけど……。
「一度砕けている性質上、世界破片は想像以上に脆い。自身を宿すに足る候補者が二人――力と精神で同格の存在が二人以上いた場合、あっさり分割してしまうほどにな」
「……へー」
「その顔は、想像がついたということか? ならば、答え合わせといこうか――ハァッ!」
嫌な想像が頭を過り、顔がひきつる。そんな俺をよそにミハイは気合いを入れ――全身を白くもおぞましい魔力で包んでいく。
吸血鬼には相応しくない白い波動と、流石吸血鬼と手放しで認める禍々しさ。そんな感覚が同居した超魔力を、ミハイは手にしていく。
これ、やっぱり……
「……正義の、世界破片……!」
ミハイが今発動させたのは、紛れもなく俺が所有する神造英雄……正義の世界破片だった。
従来の闇と禍々しい光が混ざり合い、元々不健康な青白い肌は更に白くなると共に黒い線が入る。噴出す魔力の強烈さにより髪は逆立ち、充実した魔力は真紅の瞳をより輝かせる。
総合して、邪悪さと神々しさを併せ持つ魔人……ミハイはそんな存在へと変貌を遂げた。
……何であいつが持ってんだよと怒鳴りたくなるが、そもそも何で俺が持っているのか不明なものに怒っても仕方がない。とにかく、今は現実を受け入れるしかないか。
「俺はお前に吸血鬼の血として闇を渡したが、お前は俺に女神の尖兵――神造英雄の一撃として光を渡した。そう考えると中々面白い関係だな」
「ってことは、やっぱり……」
「ああ。これを俺が手にしたのは、お前に――お前の中に宿る正義より創造の女神が産み出した神造英雄によって一撃受けたときだ。本来は世界破片の威力を前にそのまま消える状態だったのだが、同格の力を持つ吸血王オゲイン様によって処置を施され、そのまま体内に残留した神造英雄の力を世界破片の欠片として取り込んだのだ」
「……そのまま、接続までできるようになっちゃったのね」
「苦労はしたがな。しかし、正義とは想像以上に俺と相性がいいようだ。……正義とはすなわち、己の思想を唯一絶対のものであると信じること。己以外の思想を躊躇なく否定することだ。ならば、俺にとっては雑作もない」
「傲慢なプライドか……確かに世界破片の制御には必要なものだけど、そう考えればお前にはうってつけだな」
「まぁな。俺は俺こそが最上の存在であると常に信じている。いずれはすべての超越者をも越えて見せよう。……であるならば、有象無象の思想をすりつぶして力に変えることに何の躊躇も不要だろう?」
……白く輝くミハイを前に、俺はため息をつく。正義とは突き詰めてしまえば自己の肯定であり、他者の否定だ。それは俺も同意見なんだが……だからこそ俺とは相性が悪いのだ。
自慢じゃないが、俺は俺のやることの半分は何かしら間違っていると思っている。だからこそそれを正してくれる仲間に感謝するのだが、そんな俺に正義を語るのは難しい。
だって、仮に俺の意見と対立する意見があった場合、俺は自分が正しいって思う前に自分の意見を疑っちゃうし。
反面、自分を第一に肯定できるミハイと正義は相性いいだろう。自分こそが唯一絶対の正義であると信じることが、あれを使いこなすコツなんだから。
「……しゃーない。俺もやるか」
何はともあれ、相手は世界破片を持っているのだ。だったら俺も使わなきゃならないだろう。
隠しておきたい方はまだ出さない方がいいし……見せるならばれてる方だよな。
「――【モード・神造英雄】」
俺もまた、正義の世界破片を発動させる。
単純に世界破片同士の力比べをするならば、所詮小さな欠片を取り込んだだけのミハイより大部分を持っている俺が有利だ。
しかし相性の面まで考慮するとどうなるか怪しいもんだし……やはり、接続までしなきゃまずいだろうな。
「――世界核、コンタクト。発動、【モード・唯我独尊】」
俺はそのまま、神造英雄本来の力を発動させるために気持ちを切り替える。
思い描くは絶対強者のイメージ。自分の力で全てをねじ伏せる、原初の暴力。俺を消そうと迫るあらゆる思念を捩じ伏せ、君臨する暴虐の王。
同時に、相手にする必要のない脆弱な意思は明鏡止水の極意で受け流す。相手にする価値のないものを無視する、傲慢な態度をとる。
傲慢な力。それを本能でコントロール――それこそが、俺流の世界破片制御状態である。
「……こっちも準備はいいぜ」
「ああ、そのようだ。無事に使えるようで何よりだとも」
ミハイは正しく世界破片を発動させた俺に驚くでもなく、楽しげに笑みを浮かべている。
だが、その目は完全なまでに戦士のものだ。一見気を抜いているように見えて、全身の細胞を眼力で突き破る気かってくらいの真剣さで俺を観察している。
……未だに魔眼はお互いに発動中なので、実際に眼力だけで人体貫通とか余裕なだけにあまり冗談にならないな。
「……流石に本体というだけのことはあり、凄まじき力だな。だが、どうも相性はよくないらしいな」
「……ふん」
「これなら道具の優劣で勝負がつくということもなかろう。いざ――本気の殺しあいをしようじゃないか!」
相性最高だが規模に欠けるミハイと、サイズだけはでかいが根が小市民なだけに相性最悪の俺。
結果的な能力上昇値に致命的な差はないだろう。つまり、この戦いの勝敗を分かつのは――
「手にした力をどっちが使いこなせるか――ってことか! それは俺好みだ!」
休息を挟んだことと、無限とも思える魔力供給を受けるテンションの上昇により、再び獅子奮迅モードへと精神のスイッチを切り替える。
後はただ、魂に刻んだ技を本能で振い、己の性能を120%引き出すだけだ。
「この条件じゃ、負けてやるわけにはいかんぞミハイ!」
「それは俺の台詞だレオンハート! 今日こそ今までの屈辱、億倍にして返してやろう!」
俺と同様、ミハイの保有魔力量も跳ね上がっている。それを存分に振るうミハイは、いつか見せた槍先の増殖を発動させた。
しかしその量、質共に以前とは比較にもならない。ざっと数えて、予備戦力まで含めて推定10万本はあるだろう。その全てを緻密な魔力コントロールで針より細く鋭く尖らせ、一度に俺にかかれる量を増やしているんだから二重に驚きだ。ばっちり明鏡止水対策までしてあるってわけか。
おまけに先端の一つ一つ強大な魔力を宿していて威力も十分……ただ力を持っただけでは決して不可能な高等技術ってやつだ。――テンション上がるじゃねぇの!
「俺も全開だぁっ!」
増え続ける魔力に俺も遠慮することはせず、嵐龍を振るう。放つのは――
「超加速――【20倍混沌嵐龍閃】!」
魔力任せの20倍加速法を一瞬発動させ、その一瞬で四方八方に最大出力の嵐龍閃を叩き込む。
通常状態でこんな無茶したら一瞬で干からびかねないが、今なら何とでもなる!
「うおぉおぉぉぉぉぉっ!!」
「はぁぁぁっぁぁぁぁっ!!」
互いの雄叫びと共に、技がぶつかり合う。
すると――
(これじゃただの環境破壊だな)
周囲一帯見渡せる限りの範囲に何もなくなった。金色の光の魔力に包まれて防御しているアレス君以外の全てが、風や雲、そして大地すらも今ので吹き飛び消滅している。
足元は貫通しちゃったかと心配になる底が見えない特大の大穴。攻撃範囲にはだれもいないはずだから犠牲者はいないはずだが……
「こりゃ、地上で使ったらダメなやつだな」
「……そうだな。俺もこの大陸が消し飛ぶのは歓迎しないことだし……場所を移すか? 懐かしき異界に招待してやるぞ?」
「あんまりいい思い出はないけど……仕方がないな」
俺同様、周囲の被害と比較してほぼ無傷なミハイがやや呆れている様子で提案してきた。
互いに無傷――つまり、技の威力をほぼ相殺しあっての余波でこれなのだ。普通に流れ弾一発で大陸が消し飛ぶな、この規模になると。
それはお互いに避けたいことなので、何があっても周囲に影響がない場所――ミハイの槍が作り出す異界へと戦場を移すことに同意する。
俺の周囲を異界の入り口である血のような魔力が覆っていき、しっかりアレス君も巻き込んで異界が構成された。
さあ――第二ラウンドだ。




