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【番外編完結】他力本願英雄  作者: 寒天
世界を賭けて
193/241

第175話 千年前の大勇者

新章開始

「……師匠たちは大丈夫なのかな?」


 僕は今、聖都マーシャルに一人で来ていた。

 師匠の命令により、聖剣アークとか言うものを手に入れるため、まずは水の精霊竜に会いに来たのだ。

 移動手段は緊急事態と言うことで、都市間転移ネットワークを使わせてもらった。一回使うだけで目玉が飛び出る額が必要になる上に、下手に開門すると敵対勢力に急襲される恐れもあるため滅多に使用できないものなんだけど……流石は師匠の人脈といったところなんだろうか?

 実際にはほとんど師匠が丸投げしたロクシーさんの手腕によるものだけど、まあどっちでもいいか。


(普通なら面会までに三ヶ月はかかる教皇様との面会状まで貰っちゃったし……これで聖域への立ち入り許可を貰えるからいいんだけどさ)


 久しぶりに人間の世界に戻ってきて、やっぱりあの人持ってる力が師匠とは別ベクトルで異常だと実感する。

 ある意味お似合いなんだろうけど、師匠も苦労しそうだなぁ。


(ま、恋愛事なんて僕には縁がないし、口出しするだけ失礼だよね)


 一瞬、何故か世界中から敵意を向けられたような気がするのはなぜだろうか?

 そんなことを思いつつも、僕は教皇様がいらっしゃる神殿へと足を進めた。師匠たちがグレモリー様から受けているはずの『初代の歴史』って奴のことを頭の片隅にいれながら……。



「さて、では初めから話すとしようか」

「なるべく簡潔に頼む。時間が惜しい」

「焦っとるようだな。そんな有り様では勝てる喧嘩も勝てんぞ?」

「勝てない喧嘩が迫ってるから焦ってんだよ」


 俺、メイ、クルークの三人は、飄々とした態度のグレモリーを前にシュバルツ邸の一室でテーブルを囲み腰かけていた。

 何でも、この三人にのみ聞かせたい話があるそうで、一緒にいたカーラちゃんやボーンジを閉め出してまで話の席を用意したのだ。

 まあ、閉め出されなくても長話に興味のないカーラちゃんはさっさと風帝馬(ふうていま)を南に残った手下に見せるのだと行ってしまったし、長遠距離座標転移を複数人分こなしたボーンジは気絶するように眠っているのだが。


「……ならば、核心から話すとしよう。まず大前提だが、レオンハートとメイ、お主ら二人の祖先と私は知り合いだ」

「いきなりボケたかジジイ」


 俺は歯に布着せずに思ったままそう言った。

 歴代当主の記録と戦う英霊の行で出会った人数から考えて、どんなに当主交代が早くても初代の時代から現代まで軽く500年以上あるはずだ。これでさえ割りと控えめな数字であり、本音を言えば最低800年はあるだろうってのが正直なところなんだからな。家系図とかどこにもない――たぶん歴代当主の誰かが無くした――から証拠はないけど。


「グレモリー老、シュバルツの言うことももっともでは? 我がクン家に伝わる歴史書によれば、初代が存命だったのは今から数えて約1000年も前のことのはずです」

「グレモリー様が何らかの方法で長命を誇っておられるのは有名な話ですが、流石に1000年は無理があるのでは……」


 このジジイが手段は不明として通常ではあり得ないほど長命なのは有名な話だ。何せ既に引退を考えなければならないほどに高齢である現国王の幼少の頃に教育係を勤めていたなんて話があるくらいだしな。

 しかしそれでも不老不死って訳ではないはずだ。何せ、現在ジジイである以上絶対歳は取るはずだしな。まあ老年期に入ってから不老の術を習得したって可能性がないわけではないが、やはりあり得ないだろう。

 どんな大魔法使いだろうが、死なないなんて出来るわけがないんだから。


「その辺の話は後に回すとしよう。話は簡潔にしてほしいのだろう?」

「……まあ、そうだが」


 いろいろ疑問は残るが、この場は頷いておくことにした。

 今大切なのは、戦力の強化だからな。


「我ら三人は、所謂腐れ縁と言う奴でな。今はとうに消え去った小さな村で育った幼馴染と言う奴だった。喧嘩っ早くて血の気の多い、少々やんちゃな若者ってやつかの」

(絶対少々じゃないな)


 今に残る伝説から考えて、絶対過激だったはずだ。元々英雄なんて呼ばれる人間は一歩間違えれば大量殺人犯として歴史に名を残す危険人物だからな。


「辺境出身の我らにはお前たちのように、優れた師なぞおらん。それぞれ才覚のみを頼りに成り上がりを夢見ていたどこにでもいる若者という奴だったのだ」

「まあ確かによく聞く話だな」


 昔を懐かしむ老人に、邪魔にならない程度に相槌を打つ。

 実際、今でもそう言う人間はよくいるのだ。ニナイ村に住んでいたアレス君もその一人だしな。

 しかし、才能と呼ばれる壁がその大多数の前に立ちふさがる。人間、頑張れば成功するわけではないってのは誰でも知っていることであり、努力するには努力するための準備って奴が必要になるのだ。

 俺も吸血王の幻覚空間では酷い目に会ったからな。才能って奴には先天的なセンスの他に後天的な環境って奴が含まれるってのをよく学んだよ。

 シュバルツの人間ってだけで当然のように用意される『修行に専念できる時間』一つ用意するだけでも苦労するからな。


 まあ、どんな環境でもできるまでやるか死ぬかって前提条件は同じなんだけど、やっぱ環境が悪いと途中で死ぬ確率高いしな。


「まあ言うまでもないが、私は魔導の天才であった。しかし筋肉鍛えとけば後は何とかなる連中と違い、魔導はまず膨大な知識を身につけることこそが成長への道だ。魔法を使える者すらいないなか、独力で魔の深遠を目指すのは苦労したものだよ」

「そりゃあそうでしょうね」


 さりげなく人のことを筋肉だけのやつと貶したジジイと、その発言に深い共感を得ているらしいクルーク。

 何だろう、この空気は。


「レイとボルク……初代シュバルツと初代クンの二人は何の悩みもなくただ野山を駆け巡り、拾った枝で剣術ごっこをしたり稚拙な格闘ごっこをして遊んでいただけだったがな。まったく悩みがない奴らだったよ」

「そうですねー。本当、人がいろいろ悩んでいる中のびのびと体力で何とかしようとするんですよねー」

「……なあ、シュバルツ。もしかして馬鹿にされていないか?」

「そうだな。でもまあ、老人の思い出話は話し半分で聞くのがマナーだし、無視しとこう」


 後でクルークはしばくが。


「まあ、そんな我らはある日揃って村を出たのだ。筋肉馬鹿二人は腕試しに、私はより深い魔導の知識を求めてな」

「ふーん……普通なら速攻で野垂れ死にってパターンだな」

「しかし我らはいろいろな意味で普通ではなかったのだよ。今にして思えば青いとしか言いようがない話だが、才能だけはあったからな。破竹の勢いで名を挙げ、いつの間にか傭兵として最強と呼ばれるほどになっておったのだ」

「一気に話が飛んだな」


 俺はついついツッコミを入れてしまう。

 腕自慢の村人から最強の傭兵とは、そこにたどり着くまでにかなりの物語がありそうなんだが……。


「まあいろいろあったが、所詮は細事よ。都市を救ったり国を滅ぼしたりといろいろやったが、まあ有名になったことだけ理解しておけばよい」

「今一瞬不吉な発言があった気がするんだけど」

「気にしたら敗けだぞ」


 もう面倒くさいからツッコミは休止しておく。一々構ってたら一生終わらんだろうし。


「さて、そんなこんなで我らは実力派の武装集団となったわけだが、そんな人間が大手を振って歩ける世の中とは決して平和ではない。世界には、ある災厄が存在していたのだ」

「魔王――か?」


 話の流れ的にそれ以外はないだろう。と言うか、ここで全然関係ない驚異との前哨戦とか挟まれたら俺は寝るぞ。

 そんな意思が通じたのかはわからないが、ジジイはおもむろに頷いたのだった。


「正に今の世と同じだの。水の民、風の民、土の民――そして火の民。我ら世界に住まうものは皆辛い時代だったのだ」

「……ちょっと待て、火の民ってなんだ? 火の大陸は魔族の領域なんだろ?」

「今はの。だが、昔は魔の者とは異なる者達が平和に暮らす地だったのだ。精霊族、と呼ばれる者達がの」

「精霊とは、もしや……」

「うむ。今では意思を持つ魔力のようなものという認識だが、千年前は個人としてこの地に生きるものだったのだよ。魔王軍によって滅亡の道を歩むこととなり、最後の抵抗として意識のほとんどを希薄にするのを代償に現象となることで完全な消滅だけは避けてな。彼らは強く、優しかった。だからこそ狙われてしまったんだろうのう……」


 グレモリーはそのほとんど閉じているシワだらけの目に、僅かな悲しみを見せた。

 千年前か……信じがたい話だが、その時代では他種族と交流して当たり前だったらしいな。


「お前らが使う精霊化……覚醒融合だったか? それも彼ら精霊族あってのものなのだぞ?」

「え、そうなの? でもほとんど自力で習得して学んだ覚えはないんだけど……」

「武具に宿る意思。その正体が大気に溶け込んだ精霊族の残留思念だ。それがあるからこそお前たちは物と一つになるなんて離れ業が可能なのだ。もっと感謝するんだな」

「へぇ……」


 ……今まではそういうものなんだと気にもしていなかったけど、そんな由来があったのか。

 武具に宿る意思の正体は、大昔に滅ぼされた精霊族……ね。そりゃまあ、武具に宿りたくなる気持ちもわかるな。


「ふむ……では話を戻すぞ? 魔王軍を名乗る異形の怪物が出現したことにより、世界は危機に陥った。そんな中、当時のフィール国王はある決意をしたのだ。少数精鋭の部隊を派遣し、敵の首魁を討ち取ろうとの」

「かなりの賭けですね、それ」

「しかも、分が悪いといわざるを得ないものだ」

「そうだの。下手をすればただの各個撃破で終わり――というより、ほぼそうなるとしか言えない作戦だ」

「成功すれば犠牲を最小限に押さえられるって奴だな、成功すれば。……でも、それしかないってくらいに追い詰められていたんだろ? 真っ向から軍対軍の戦争じゃなくて、暗殺を選ぶんだから」

「その通りだ。だが国王もなんの策もなくそんな考えに至ったわけではない。当時、いたのだよ。少数で魔王を討ち取れると信じられる存在がな」

「……まさか、それは自分であるとか言い出さないだろうな?」


 ここまで長々と話して最終的に自慢に行き着かれたら堪ったもんじゃないぞ。

 そんな思いを込めてジジイを強めに睨んでみるが、当人は何にも気にしない様子でアゴヒゲを撫でるのだった。


「もちろんその通り――と言いたいところだが、違う。我ら三人は確かに強かったが、全世界の希望と謳われた男は別にいた」

「じゃあ、誰なんだ?」

「奴は名を持たない。奴は過去を持たない。今作られた、魔の神を討つために存在する者である。……そう言っておったな」

「作られた……?」

「うむ。当人が言う自らの創造主の名は、創造の女神。この世界を作ったと自称する存在であった」

「……胡散臭すぎるんだけど」


 普通に考えたらただのヤバイ奴の発言だよなそれ。

 チラッと周りを見てみたら、クルークもメイも何か困っているような表情だった。そりゃそんな顔にもなるだろう。


「……ま、信じられんのは当然だな。事実、当時その発言を信じる者などいなかった。……実物を見るまではな」

「何か、そんな荒唐無稽な話を信じさせるものを持っていたってのか?」

「うむ。まず本人の能力だが……桁が違った。神が作ったと言われれば信じる他ないほどに飛び抜けた力の持ち主だったのだ」

「グレモリー様にそこまで言わせるほどの実力者……ですか」

「今のお前たちでも勝負にはならんだろうな。奴と互角に戦えたのは、四体の魔王くらいのものだったよ」


 ……あの化け物クラスか。そりゃ確かに、神の使いだと思いたくなる気持ちもわかるかもしれない。


「そしてもう一つ、奴の神性……異常性を象徴する武器を持っておったのだ」

「武器を?」

「そう。その名は聖剣アーク。聞き覚えがあるのではないかね?」

「……え?」


 聞き覚えがあるも何も、俺たちはそれを求めて帰還したのだ。

 何でそれがここで出てくるんだ……?


「聖剣アークと本人の稀有な戦闘力。この二つがあれば魔王軍の首魁を討てるのではないか――そう考えるのもおかしな話ではあるまい?」

「実物を見ないことには何とも言えないけど……希望にはなるな」


 少なくとも、今まさに絶望的状況にいる俺たちの立場からすると羨ましい限りだ。

 突然空から問題を解決してくれるスーパーマンがやって来るなんてな。


「だが、いくらなんでも国防を謎のヒーローに任せる訳にもいかん。国王は国の威信をかけて、自国からも戦士を提供しパーティを作ることにしたのだ」

「それがグレモリー様たちお三方だったと?」

「いかにも。我流剣士レイ、人間兵器ボルグ、そしてこの私大魔導師グレモリー。この三人で勇者と呼ばれるようになった聖剣の担い手を支えるよう命じられたのだよ」

「それを素直に聞き入れたのか?」


 俺の知るジジイなら、そして英霊の行で対面した初代シュバルツならそんな引き立て役みたいなことをするとは思えない。

 協力し支えるどころか、むしろ自ら率先して挑みかかっていきそうなタイプだと俺は思う。


「報酬がよかったからの」


 しかしジジイは清々しいほどあっさりといい放った。金目当てだったと。


「……世界を救うとかそういうのはいいのか?」

「世界よりも魔法の研究の方が大切だろう? そして研究には金がいる。ならばどうすべきかは考えるまでもない」

「昔からこんなんだったのかよ……」


 そう言えば、このジジイは魔法のためなら世界を滅ぼすことも厭わないって狂人だった。

 俺はため息をこれ見よがしに吐いて睨むことで意思表示するが、やはり何の反応を見せることもなくグレモリーは話を続けるのだった。


「勇者の実力は流石で、あれよあれよというまに我らのパーティは魔王軍の心臓部までたどり着いた。コミュニケーションも協力も何もなく、ただ無表情に魔の者を虐殺して進んでいただけだったがな」

「それはまた、何とも……」

「はっきり言って、四人パーティではなく三人と一人だったな。我ら三人が勇者のうち漏らしを拾うくらいが協力と言えないこともない……というくらいだ」

「はぁ」

「それでもあらゆる敵を寄せ付けないのだから大したものだったがね。ついには原初の四魔王(メモリーズ)と名乗る怪物まで出てきたが、奴はそれさえも振り払いついには魔王神と呼ばれる敵の首魁のところまで本当にたどり着いたのだ」

「なんちゅう都合のいいヒーローだよ」


 まるで子供向け絵本の主人公だな。どんな困難もあっさりねじ伏せちゃうなんてさ。

 ……まあ、そう言ったただ都合がいいだけの存在なんて、頼ればいつかしっぺ返しを食らうことになるってのが俺の持論だけどね。


「正直、その先は私にもよくわからない。魔王神と勇者の戦いは一対一で行われ、我らはその間絶え間なく襲ってきた怪物の足止めに終始していたからな」

「怪物って……四魔王も?」

「うむ。一度は勇者によって遠ざけられたが、当然のように再び襲い掛かってきたよ。……我が人生で二番目にきつい戦いであった」

「むしろそれで二番なのかよ……で、結局どうなったんだ? 魔王神は倒したのか?」

「ああ。勇者は倒した……とまではいかないが、突然現れた四体の精霊竜と共に理解不能な封印術を仕掛けることで魔王神を封じたのだ」

「またいきなり精霊竜出てきたな……」


 俺はジジイの話を聞いて素直な感想を口にしたが、同時に納得する。精霊竜を殺すことが封印解除の鍵であると吸血王本人が言っていたし、関わってないはずがないのだから。


「どうも初めから協力関係にあったようだな。四体の精霊竜と勇者の力を集結させることで、魔王神はこの世より消えた。頭目の消失により、他の魔王たちもまた己の軍勢と共に姿を消し、魔王たちによる侵略は終焉を迎えたのだ」

「めでたしめでたしじゃないか」


 いろいろツッコミ所はあるが、最終的に平和になったんならいいことだろう。

 だが、グレモリーは何故かため息を吐いて俺を睨むのだった。


「な、なんだ?」

「なに、仮にも今のお前は人間勢力の武力面における指導者だろう? ならばもう少し先のことまで考えるのだな」

「先……?」

「……その、超越者とでも呼ぶべき神に作られた勇者はその後どうなったのか……ですか?」

「正解だ。現実は悪を倒してめでたしめでたしにはならん。むしろ、戦争とは終わったあとの方が大変なものなのだ」


 首をかしげた俺の隣で発せられたクルークの解答に、グレモリーは大きく頷いた。

 戦いが終わったあとの勇者がどうなったか、か……。大体の場合、そこを突っ込んで考えると録なことにならないよな。その力を恐れた人間はやがて救ってくれた恩を忘れ、勇者を迫害する。その絶望から勇者は反転し、やがて新たな魔王になってしまう――とかがよくある物語ってところかね。


「魔王神を倒した勇者は、次なる標的に人間を選んだのだ。自らを正義の具現と名乗る勇者は、人間の悪性を裁き滅ぼすと言ってな」

「想像のステップを三段階くらい飛ばしたなおい」


 俺はついツッコミをいれてしまった。最終的な落ちこそ想像通りだったが、まさかいきなり人間狩りに来るとは……。


「繰り返すが、勇者は強大な超戦力だ。その力はあらゆる種族の戦士を集結させてなお圧倒するほどでな」

「……つまり、ここからが本題ってことか」

「想像した敵役とは大分違いましたが、絶対的に力で勝る相手にどう挑んだか……という話ですね?」

「いかにも。ここからの話こそが本番だ。今に繋がるな」


 そこでグレモリーは一旦言葉を切った。

 そして、注目が集まった頃に再び話を続けたのだった。


「まず我らが頼ったのは、神だ」

「か、神?」

「うむ。相手が神によって産み出された生命体であるというならば、こちらも神をぶつけるのが得策と考えてな」

「いや、まずその神様どっから調達してきたの……?」


 理論だけはわからなくもないが、手段が不明すぎる。神頼みでどうにかなることなんて世の中早々ないし、仮に本当に神を頼る術があったとしたらそもそもその勇者に頼る必要ないだろって話だ。


「人後神……という言葉を聞いたことがあるかね?」

「……どっかで聞いたことがあるような気がしないでもない」

「魔剣王がその言葉を口にしていましたね。手にした武具を神器だと言いながら」


 俺は何か引っ掛かるものがあるが全く出てこない――という状態のまま目を逸らして記憶を辿ったが、そんな必要もなく記憶していたらしいクルークが鋭く補足説明を入れてくれた。

 そう言えば、そんなこと言っていたな。


「それを一言で言えば、超強力な精霊……と言ったところだ。と言っても、その正体は精霊族の残留思念ではなく、より多くの人々の念の塊だ」

「念?」

「一人一人が発する感情、思い……言葉を変えれば信仰が具現化した存在だな。もっとわかりやすく言えば、大勢の人間が日頃無意識に垂れ流している魔力を束ねた存在――というべきものだ」

「……なるほど、それで人後神ですか」


 ……何がなるほどなんだろうか?


「……つまり、創造の女神のように人がこの世に生まれる前から存在していた神ではなく、人間から生まれた神……という認識でよろしいでしょうか?」

「その通りだ。世界を作った原初神に比べると歴史も浅く力も弱いが、それでも何千万という力が集まった存在である以上人知を超越した力を持っている」

「えーと。それで、何でその神様は魔王軍との戦いには参加しなかったんだ?」

「いや、していたぞ? 戦争末期には四魔王とその軍勢によって滅ぼされていただけでな」

「負けたんかい!」


 俺はグレモリーにむかってつい怒鳴ってしまう。

 なんか大層な振りで名前を出したからそれこそが切り札なのかと思ったら……もう既に負けているとは斜め下に予想外だよ……。

 が、やはり全く気にせずにグレモリーは話を続けるのだった。


「魔王の脅威が取り除かれたお陰で、人々の活気が戻っていてな。そのため、その思いを核に全滅していた人後神の中に新たな存在が発生していたのだ」

「それに早速頼ったわけね」

「あれらは割りと簡単に頼みを聞いてくれるからな。まあ、あっさりと斬り伏せられたが。何故かかの勇者殿は人間以上に人後神を嫌っていたらしく、本当に最後の一柱まで殲滅してくれたよ」

「やっぱり負けたんかい……」


 もしかして、今の下り全部無駄だったのでは?

 俺はそんな思いを視線にのせてグレモリーに向けてみるが、もはや無言の訴えに気づく素振りすら見せないのだった。


「さて、一方そんな神々が敗北し、絶望的な空気が人類の中に漂っていたころ、我ら三人が何をしていたのかというと、修行を積んでいたのだ」

「ああ、それはわかる」

「自身より格上の存在を山と見たからな。元より喧嘩を売られて神にすがるような殊勝な奴は一人もおらんかったし、自力で神を越えようと切磋琢磨していたのだ」

「まあそりゃそうだ」


 俺だって、時間があれば普通に鍛えていきたいと思う。誰かに縋ったり、誰かに依存した勝利を拒むから俺たちはここまで来たんだ。

 勝てればその力の出所なんて気にしないなんて賢い人間は、まずこんなところまで来ないしな。


「神が殺されている時間を利用し、我らは己を磨いた。そして――ある一線を超えたとき、とあるものに出合ったのだ」

「とあるもの?」


 グレモリーは自分の右手をちらりと見つめ、ゆっくりと持ち上げた。

 そして、手に魔力を込めた。これは……幻術魔法を発動している? いや、解除しているのか?


「神を犠牲にしてでも己の力を極めたい。その強力な欲望に導かれ、これは現れた。神の領域へ手を伸ばす鍵、欲望の世界破片(ワールドキー)がな」


 グレモリーは、その精巧すぎる幻術で自らの右手を覆い隠していたのだ。

 紫色に染まった手を。それが意味するのは、何重にもかけられた強力な封印術。封印術の効果として現れる紫色の呪印が重なりすぎて一色に染まってしまっている手を。

 そして、その奥には――あの魔剣王が使った力と同質の力がかすかに感じられるのだった。


「これが私からの提案だ。正義の世界破片(ワールドキー)により作られた勇者――否、神造英雄と名乗った怪物を打ち倒す切り札となった強さへの渇望の象徴。これがあれば間違いなく魔王に追従する力を得られるだろう。だが、この呪われた力を本当に持つのかは、もう少し私の話を聞いてからにしてもらうがね……」

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