表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【番外編完結】他力本願英雄  作者: 寒天
山の民の大陸
191/241

第174話 リベンジに向けて

「……生きてるか?」

「まあ、ね」


 散々だった。悲惨といってもいい有り様だった。

 魔剣王と吸血王が去った戦場で、俺は傷の治療もしないまま大の字になって倒れながらそう思った。


 主力が揃って戦闘不能。吸血鬼の再生力を持ってしても中々塞がらない、心臓一歩手前まで伸びた太刀傷を受けた俺。呪いの槍で肩を大きく抉られたメイ。普通なら即死間違いなしの、胸に大穴を空けたまま何とかという様子で立ち上がるクルーク。全身傷だらけで倒れ伏すボーンジ。そして肩口から大きく切り裂かれ、通常の山人族(ドワーフ)サイズまで縮んだザグさん。

 無事なのはアレス君とカーラちゃんくらいだが、その二人も心に大きな傷を受けている。……二人とも、はじめての経験だからな。訓練以外で、俺たちですらここまで手も足もでない戦いを経験するのは。


「……見逃されちゃったね」

「屈辱だ……なんて言う気にもならんな。ここまで差があると何されても仕方がないとしか言えん」


 口を開くとネガティブな言葉ばかりが出てくる。敗戦の後なんてそんなもんかもしれないが、あまりいい状態とは言えない。

 負けたときこそ、生き残ったことに感謝し次の勝利だけを考える。それが一番生産的なんだから。


「各々方! ご無事ですか!?」

「残念ながら、ご無事ではありませんね」


 しばらくその場で倒れていたら、山の方から続々と山人族(ドワーフ)達が現れた。幾つかの担架をもっており、どうやら助けに来てくれたらしい。


「これは、酷い……! 今すぐメディカルルームへ運べ!」


 駆けつけた救助隊の迅速な行動により、俺たちは皆運ばれていく。

 しかしここで命を拾っても、次で落としちゃ意味がない。奴らが言い残した、三ヶ月後の決戦――そして一ヶ月後の決闘。どっちも勝たなきゃ、話にならねぇ……!


(そのための希望はある。賭けだけど、勝率はゼロじゃない……!)


 俺は、俺を守りはせずに俺の弟子の窮地を救った三枚のメダルを思ってそう考える。

 あのメダルにあんな力があったとは知らなかったが、あれが動いたということは……つまり、そういうことなんだろうからな。



「南へ戻ろう」

「……理由は?」


 戦いから三日後、傷を治した俺たちはこれからのことを話し合うことにした。

 今のままではどんな策を練ろうがどんな武器を手に入れようが、魔王一人にねじ伏せられる。それが4人もいる上に、しばらくするとあの化け物たちの神が蘇るって状況をどうにかする必要があるってな。


「まさか逃げ帰ろうという話ではないよな?」

「当たり前だ。諦めて死を待つほど殊勝な性格じゃないだろ、お互いに」


 俺の提案は、南の大陸への帰還だ。

 あの一戦以来、そこら中ででかい顔をしていた魔剣王軍の軍勢は煙のように消えてしまった。まだ完全に安心するには早いが、山人族(ドワーフ)への攻撃はひとまず収まったと思っていいだろう。

 鳥人族(バードマン)の大陸の方でも報復攻撃の類は起こっていないし、魔王軍の攻勢は収まったと判断していい状況にあると思う。

 もちろんそうやって油断させる作戦である可能性がないわけではないが……あの実力差を見せられた後じゃ、そんな回りくどい手をわざわざ使うとは考えにくいからな。


 つまり、奴らの目的である魔王神の復活。もうそれ以外に考えるべきことはないと判断したってのが俺たちの予測だ。

 最後の攻撃は四魔王による精霊竜の討伐。具体的なことはわからないが、恐らく今までの攻勢はその準備でありそれは既に完了しているのだろう。

 つまり、これ以上俺達がここに滞在する理由はないということだ。


「南の大陸へ戻ること自体はまあ問題ないとして……」


 チラリとクルークが全身包帯のボーンジを見た。

 全員、まだ傷の名残が残っているからな。俺やクルークみたいな超再生能力持ちはもう外見から分かる傷はないんだけど、一応普通の人間であるメイやボーンジはまだ包帯が痛々しい。


「南に戻ったところで何か策はあるのかい? 正直なところ、君らの父親を含めた全戦力を動員したところで話は変わらないと思うけど」

「……認めるのは癪だが、まあそうだろうな」


 親父殿を戦力に計算したとしても、魔王に対する切り札にはならない。

 今の俺は、戦闘力だけなら親父殿よりも上。身体能力や魔力量で大きく差ができている以上、正面から今戦えば確実に勝てる自信があるくらいだ。

 まあ技術的な分野ではまだまだ及ばないから全てに置いて上ってわけではないんだけど……あの魔王に通用するかと言われれば首を横に振らざるを得ない。


 だから、一世代上に頼るのではダメなのだ。


「はっきり言うが、今から数ヶ月程度普通に修行したくらいじゃ俺たちと敵との戦力差は覆らない。それは共通認識だな?」

「ま、そうだな。多少成長することはできるだろうが、そこまで劇的には変わらんだろう」

「多少の成長じゃあ話にならないってのは十分理解できたしね」


 各々が、認めたくはないが認めざるを得ない事実を再確認する。

 永久に追いつけない――とは言いたくはないが、少なくとも真っ当な方法で三ヶ月やそこらで追いつける差ではない。まずそこを認めないと先に進めないからな。


「そこでだ、か細い希望だが、一つ可能性がある」

「可能性?」

「ああ」


 俺はそこまで言って、会議上の円卓テーブルで黙って話を聞いていたアレス君の方を見た。

 一体何の話なのかわからないのだろうアレス君は混乱しているが、もはや俺に思いつくことはこれしかないのだ。


「魔剣王に対し、俺たちの攻撃はほぼ効果なし。防御も尽く失敗した。でも、一つだけ通用したものがある」

「あの変なメダルだね」

「そう。南の大陸にある俺たちの故郷、フィール王国。西の大陸にある鳥人族(バードマン)の王国、虹の樹。そしてここ、東の大陸にある山人族(ドワーフ)の王国、ゴ・ベベル。この三王国に眠っていたものだ」


 俺は戦場から拾ってきた三枚のメダルをテーブルの上に並べる。

 一見するとただの古ぼけたガラクタだが、よく見ると微弱な魔力が流れていることがわかる代物だ。そして、そのうちに秘めた力は既に証明されたとおりである。

 ……俺も結界を張る能力なんてのは知らなかったけどな。


「じゃあ聞かせてくれるのかい? キミが何故そのメダルを集めていたのかを」

「ああ、詳しく話そう。……まず、俺の中にある記憶については覚えているか?」

「例の神造英雄にも関わってくる、生まれる前から持っていた記憶って奴かい?」

「そうだ。今となっては偽りそのもので……何者かの意思を感じる怪しい代物だが、その中にこのメダルに連なるものがあるんだ」


 俺の中の記憶。まずそれが最初のきっかけだった。当時はそれを全く疑ってなかったので、それをベースにいろいろと調べたことが始まりだったのだ。


「長い話は苦手だ。率直に聞くが、このメダルは何なんだ?」

「鍵、かな」

「鍵? ……どこのだい?」


 俺はその問いを受け、少しだけ昔を思い出す。当時、グレモリーのジジイを筆頭とした研究者の伝手を借りて集めた古文書からあの場所を割り出し調べたときのことを。

 あの三つのくぼみがある封印の扉のことを。


「この三枚のメダルは、封印された扉を開く鍵だ。そしてその扉があるのは四大陸の中心――聖剣の神殿と呼ばれる場所だよ」

「……聖剣の神殿? その手の逸話は珍しくないけど、どんなものなんだい?」

「戦力の補充に御伽噺を当てにするのか? 流石にそれは無茶じゃないのか?」

「言いたい事はよくわかるけど、これは第三者の思惑で作られた記憶の話ではなく、俺自身がこの目で確かめたことだ。ある程度は信用してくれていいぞ」

「ということは、実際にその神殿を見たことがあると?」

「ああ。とある場所に安置されていた転移玉を使ってな」


 思い出すのは、俺の見てきた聖域の中で最大最強の場所だ。

 一度、ゲームという舞台で重要なアイテムであるという認識の下に訪れた地――聖剣の神殿。そこへいたるための門を守り続けていた辺境の地、ニナイ村を。


「魔王の攻撃を防ぐほどの力を持つこのメダルを鍵として守っているもの。それこそが聖剣――聖剣アーク。俺はそう考えている」

「聖剣アーク……その名、聞いたことあるね」

「え?」

「知っているのか?」

「……キミ達、もうちょっと歴史に興味持とうよ」


 俺が出した『聖剣アーク』の名前。当然全員知らないと思っていたのだが、クルークだけは思い当たる節があるようだった。

 正直、俺も調べられたのは大昔凄く強い剣があり、その剣は南の大陸の端に封じられたって記述くらいだ。後はゲームの世界で勇者が使ってました――ってどうでもいい知識だけってくらいな。

 散々調べた俺でもその程度なのに、何でクルークが知っているんだ……?


「はぁ、いいかい? 僕らの故郷では昔、フィール王国と双璧を成す国家があった。それは流石に覚えているよね?」

「えっと、確か……レイック帝国だっけ?」

「そ。南の大陸で騒乱を巻き起こしたテロリストグループ『真の誇り(プライド)』もそのレイック帝国の残党が中心になっているんだ。それはあの動乱のときに説明があったと思うけど……じゃあその帝国の始まりについては知っているかい?」

「知らん」

「知らないな」

「知らないわよ」

「すいませんが、知りません」

「……うん、わかってた」


 この場に集まった面子全員の知らないコールに、クルークは諦めたかのように肩を竦めた。


「詳しい歴史の背景は省いて核心から始めるけど、レイック帝国初代皇帝――つまり建国者の名前はグラン・レイック。当時すでに大陸を支配していたフィール王国の騎士団長だった男だと言われているね」

「騎士団長? 騎士団長って、俺たちの知っている騎士団長か?」

「そうだよ。今で言うと君の父上であるガーライル・シュバルツ様が担っている立場だ。もっとも、レイック帝国が建国されたのは推定1000年以上も前のことだから、どこまで同じかはわからないけど」

「で、そのグランとやらがどうかしたのか?」

「うん。そのグラン・レイックが旧フィール王国の騎士団長でありながら一国の王となった理由とされているのが、その聖剣アークなんだよ」


 ……え、聖剣って歴史に名前出てくるの?

 俺が倣った歴史の授業の中では出てこなかったと思うんだけど……?


「何でも、その聖剣を手にしたグランは天下無双の強さを誇り、瞬く間に国を作り上げたらしいよ」

「……初めて聞く話なんだけど」

「まあ、普通の歴史書には載っていないからね。その聖剣アークってやつ、創造の女神由来の聖なる品って触れ込みだったんだ。だから本格的な戦争状態になったときにフィール王国ではその歴史を否定しているんだよ。一応国教に当たる女神教の信仰対象由来の品に選ばれた国と戦争するってのはいろいろ問題あるからね」

「ふーん……」

「それに、現物がレイック帝国にはなかったってのもあって、今じゃすっかり忘れられているんだよ。旧レイックの住民ですらただの御伽噺、長い歴史の中で何度も作られては消えていった国々が掲げた『王は神の血を引いている』だとか『大英雄の末裔である』みたいな箔付けと同じものだって認識だったようだし」


 まあ、それはよくある話だ。国を治める王ともなれば、当然普通の人では勤まらない。何か王が王であることを証明するような伝説の一つでも用意するのが当たり前であり、なんか凄い血筋である――みたいな宣伝文句を掲げるのは極自然なことだ。

 長い歴史を誇るフィール王国だと王族であるってだけで十分その威厳を発揮できるんだけど、新興の国を興すときはその手の話題を作るもんだからな。


「まあ、僕が知っているのはそのくらいだね。レイック帝国初代皇帝がその神性の象徴としていた聖剣の名がアークであるってことだ」

「へー……ちなみに、今どこにあるかとかは?」

「その存在自体が今じゃただの権威付けのために考えられた想像であるって考えられている剣だよ? わかるわけないでしょ。旧レイック帝国の考古学者とかなら真剣に研究していた人もいるかもしれないけど」

「そうか。……まあ、とにかく俺の妄想ってわけじゃあないことはわかった……かな?」


 話が大分脱線したが、とにかく聖剣の話は俺の妄想ではないということが分かってもらえれば十分だ。

 まあ正直、俺も神殿の存在こそ確認しても中身に関しては内心半信半疑なのだが……あんな強力な聖域なのだし期待するとしよう。

 実際、あんな意味ありげな転移門で守り、吸血鬼や悪魔が狙って来たものなのだ。しかも精霊竜のお墨付きみたいなもんでもある以上、確実にあるはずなのだ。


「じゃあ、その聖剣が戦力強化の心当たりなのか?」

「そういうことだ。あれは魔王軍も狙っていた代物だし、期待して良いと思う」

「じゃあ、その剣をレオン君が取りに行くってことでいいのかな?」


 メイとクルークは俺の考えをひとまず理解したと言いたげに頷き、少々興味をなくしたようだ。

 まあ、強い剣なんて手に入っても二人には関係ないからな。それぞれ自分の力を強化する案を考えたいんだろう。

 ただまあ、少々その予測は外れているのだがね。


「残念ながら、俺に聖剣は使えないだろう」

「……理由は?」

「恐らく、選ばれない。魔剣聖剣の類は持ち主を自分で選ぶ性質があるのは今更の話だが、俺が持ったとしても本来の性能を引き出す事はできないと思う」

「何故だ? 聖剣と言うからには光属性の剣なんだろうが、お前なら資質はあるのではないか?」

「封印を守るメダルだな。……南の大陸を出たときからずっと俺が持っていたのに、今まで一度もこのメダルは障壁を作って俺を救うなんて事はしなかった。もちろん三枚全て集まって初めてあの力を発動できるのかもしれないけど、それでも魔剣王の攻撃から俺を守らなかったのは事実だ。このメダルが聖剣の所持者を選ぶ役割があるとするならば、それは俺じゃないってことだろう」

「……待て、その理屈で言うと――」

「そういうことに、なるよね」


 俺たち三人の視線が一人の少年へと向かう。

 言うまでもなく、俺の言葉を理解して目を白黒させているアレス君へとな。


「……え?」

「アレス・ニナイ。キミに師として命じる。水の精霊竜に預けている転移玉を使って聖剣の神殿へと赴き、そこにあるはずの聖剣を入手せよ」

「……いやいやいや! いきなりそんなこと言われても……」

「大丈夫だって。キミならできる。俺が保証する」

「えぇ……」


 いきなり言われてもどうしろというんだ。そんなことが顔に書いてあるように動揺するアレス君。

 まあ正直、いきなり伝説の聖剣とって来いなんて言われても困るだろう。少なくとも俺なら困る。

 でも、今はそんな当たり前の動揺を許容してあげる余裕すらないのだ。可能性があるならば、まずはやってみるしかない状況なんだからな。


 というわけで――一つ聖剣を入手して、勇者になってもらおうかな。


「フム……なるほど、話はわかった。となると、お前たち師弟はその聖剣とやらを頼るわけだな」

「そのつもりだ。南に戻ったらすぐに聖都マーシャルへ向かうよ」

「でしたら、その際の案内はお任せを。ここしばらくの研究の成果もあり、皆さんほどの実力者なら耐えられる長距離空間転移を使えるようにしましたからね」

「頼むよ。現状、大陸間の長距離移動を一瞬で行えるのはボーンジ一人だからね」


 包帯で顔を隠しながらも、ボーンジは力強く頷いた。

 本当にあるのかもわからないものを頼る作戦はいろいろ不安だが、今はまずやってみようってだけだ。とりあえず、全てうまくいけばアレス君には魔王神をも切り裂けるはずの聖剣を使いこなす修行をしてもらうことになるだろう。

 勇者を探し出すつもりが自分の弟子を勇者にしようってことになるとは思わなかったが……いや、ある意味必然だったのかもな。

 勇者の証である聖剣への道を守る村に生まれた少年――ある意味ぴったりな役どころと言える。それこそ、神が用意したんじゃないかってくらいにな。


(……その可能性がまたありそうなのがムカつくな。創造の女神、どうにも好きになれないね)


 俺は一瞬神々の意思とかそう言うものを考え、すぐに頭から消し去る。正直考えて分かることじゃないし、分かったとしても胸糞悪くなるだけだろうしな。


「となると、私たちはどうするかだが……」

「そんな簡単に自己強化なんてできないしねー。できればやってるし」


 アレス君に聖剣という希望を託すとしても、自分達はどうすべきかと二人はまた眉間に皺を寄せた。

 俺自身も自分の成長をどうするかって問題はそのまま残っているのだが、確かに切実な悩みだ。成長する方法なんて地道に普通に鍛えるくらいしかない、それ以外の方法があるならとっくにやってるって断言できるくらいには自分を極めてきたつもりだ。

 それを今更短期間でパワーアップしろと言われても……ってところだよな。


「改造手術とかしてみる? 確実に失敗するけど」

「……それは勘弁しろ」


 クルークが言うと洒落にならない冗談を聞き流しつつも、名案は出てこない。

 元々考えて動くタイプはこの場にほとんどいないのだ。今出来ることを全力でやっているだけであり、その結果が今な訳だしな。


「……まあ、今はいいアイデアもないことだしそれも含めて一度南へ戻ろうって話だ」

「そうだな。行き詰ったときは師に頼るのも悪くはないか」

「僕もグレモリー様にでも相談してみるとしようかな」


 俺たちも今では師と呼ばれる立場だが、その俺たちを育てた人がいる。

 それ以外にも頼れる先人はいるし、アドバイスを求めてみるのも悪い選択ではないだろう。パワーだけなら今の俺たちは人類で最強かも知れないが、技量ではまだまだ上にいる人も多いしな。


「んじゃ、それでいいな?」

「うん。山人族(ドワーフ)の皆さんへの挨拶はきちんとするんだよ?」

「それは当然だな。挨拶は大切だ」


 こうして、俺たちは何か決戦に向けた切り札を用意できないかと準備をすることになった。

 既に壊滅寸前まで追い込まれている山人族(ドワーフ)に何か策があるわけもないだろうし、一番傷が浅い南の大陸に希望を持って戻ることとなったのだ。

 しかし一番知っている南の大陸に何か画期的なものがあるとも思えないんだが……そもそも世界中探してもそんなものないのかもしれないしな。

 そのときは、どこまで行けるかわからないが今まで以上に修行で何とかするしかないか。


 そんなことを考えながらも、俺たちはせっかくだからと風帝馬(ふうていま)を連れ、南の大陸へと戻ったのだった。


 すると――


「ふむ、戻ったか。待っておったぞ」

「え……」


 遠い視界に広がるのは、見知った王都。俺たちは王都から少し離れた平原へと転移したのだ。


 その俺たちの前に、一人の老人が待ち構えていた。


 その男の名は、グレモリー。南の大陸最強最大の魔術師と呼ばれる男であり、俺が昔魔法を習った師の一人である傑物だ。

 齢500歳とか1000歳とか言われてる妖怪染みたジジイであり、重度の魔法狂い。魔法研究のためなら法律も倫理も破り捨てるのが常識と思っている爺さんが、何故か転移先で待っていたのだ。


「グレモリー様……一体何故ここに?」


 驚いた表情のまま、クルークが問いかけた。

 するとグレモリーはその皺だらけの顔にイタズラを成功させた子供のような笑みを浮かべると共に、口を開いたのだった。


「なに、天地人のメダルの発動を感知したんでな。それに、魔王と戦い、負けたんじゃろ? そんな領域までいった以上、そろそろ手を貸さなきゃ手詰まりなんじゃないかと思っての」


 俺はグレモリーの言葉に目を細める。

 何があったのかは定時連絡で知らせているので、魔王と戦い敗北したことをグレモリーが知っている事はおかしなことではない。

 それに、天地人のメダルってのは……あのメダルか?


 それに手を貸すって……あの怪物に対抗できる手段が何かあるのか……?


「実力で魔王を倒してくれるのならそれが一番いいんだが、まあそう上手くはいかんだろうからな。過去に戦った時より更に実力を上げていることだろうしの」

「過去に戦ったって……」

「如何にも、私は大昔に原初の四魔王(メモリーズ)と戦ったことがある。その主である、魔王神を含めてな」


 唐突な発言に、俺たちは揃って情報の処理が追いつかなくなる。

 この爺さんは、いったい何を知っているんだ……?


「まずは、メダルの適合者……その小僧か。お前は今すぐ水の精霊竜のところに出向き、転移玉を受け取って行動を起こせ。そして三家の者は私に着いてこい。吸血鬼のお嬢ちゃんと転移の小僧は各々の好きにせい」


 いきなり現れたこの大魔術師は、いきなり全てを知っているような顔で指示を出し始めた。

 混乱する俺たちだが、全く気にせずグレモリーは踵を返してしまった。


「時間は黄金よりも貴重だ。さっさとせい。まずは知らねばならんのだ。このグレモリー……そして初代シュバルツことレイと、初代クンことボルクが見たものをな」


 グレモリーはそれだけ言って、王都へ歩き始めてしまう。


 いったい、何なんだよ……?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ