第170話 斬魔将レヴァン
「……勝負はついたな。では、私がお相手しよう」
倒れ伏す吸血鬼たち。その屍を他所に、一人の――いや一体の騎士がゆっくりと前に出てきた。
さっきの名乗りによれば、奴の名はレヴァン。魔剣王軍のナンバー2だ。
「ふぅ、ふぅ、ふぅ……今度は一人か? 余裕を見せているってことでいいのかい?」
俺は戦いで乱れた息を整えるついでに話しかけてみる。最初に複数で襲いかかってから次に少数で攻めてくるってのは……あまり歓迎できない話だしな。
そんな俺の思惑を知ってか知らずか、レヴァンは急ぐことなく話に乗ってきたのだった。
「そう思ってもらってもかまわない。もっとも、本気であったとしても王のお手を煩わせることなどあり得ないがな」
「王が最強っつうのは俺たちにはない文化だからな。わかるとは言わないが……言わんとすることはわかるよ」
「それはよかった。では、そろそろ息を整える時間も十分だな?」
「……本気で舐めてんな」
どうやら、時間稼ぎはばれていたらしい。呼吸が落ち着いてきたところで声をかけてくる辺りがまた嫌らしいな。
「そうでもないとも。仮にも我ら副将クラスを除けば最上位の兵であるそいつらを一人でねじ伏せるような相手に対し、油断などするはずがないだろう? これは我が流儀の問題だ。気を悪くしたのなら謝るが?」
「……騎士道精神に溢れていることで。あんたみたいなのもいるとは……やりづらいなぁ」
敵は外道であった方がいい。俺はそんなことを思いながら、吸血鬼との前哨戦で消耗した体力が戻ってくるのを感じる。
流石に魔力はそう簡単には回復しないが、体力なら軽く休めば戻る。あのレベルの軍勢相手に瞬間治癒できる程度の傷しか受けず、その程度の消耗ですんだのは奇跡に近いな。
……俺自身の成長の結果と自惚れたくなるくらいだ。ここ数ヵ月の間に、俺は俺が驚くほどに成長している。その証を得られたかのようで、少し嬉しいな。
昔はあんなに苦戦し、何度も死を覚悟した吸血鬼、その中で規格外を除けば最上位の存在を複数相手にして余裕を見せられるなんて……昔は想像もしなかった世界だ。
「では――はじめよう」
「……来い」
俺の内心に芽生えた慢心。しかしそんなものは僅か数秒の命だった。レヴァンが手にした漆黒の剣を俺に突きつける、ただそれだけで砕けてしまうようなガラス細工だったようだ。
こいつは俺よりも強い。それを切っ先を向けるだけで知らしめるとは、流石は征獣将と同格ってところか。
(ヤバイな……なんかテンション上がってきた)
この感覚だ。明らかな格上の、直接的な殺気の渦。全身に針が刺さっているかのようにピリピリとする感覚。自分の限界が強引に破壊され、更なる世界を見るか――死ぬか。それ以外の道が許されない修羅の世界。
今までなら、そんな興奮は瞬く間に押さえ込まれて戦う意思だけが勝手に湧き上がってきた。
だが、今の俺にそんな精神矯正は存在しない。だから、怖いものは怖いし気合を入れなきゃ前に進む事はできなくなる。
だから――戦いの狂気に、狂わない程度に心を預ける。恐怖を塗り替える興奮を、喜びを求める。
格下を何千体倒してもちっとも面白くもなければ満たされることもない。ただ後味が悪くなるだけでしかない以上、俺の喜びはこの先にしかないのだ。
根っこがすっかり狂っている……って感じだが、竦みあがって動けなくなるよりはいいだろう。
この様で英雄を名乗ることはできない――ただの戦闘狂だけど、別に問題はない。もしかしたらそんなことを思ってしまう俺だからこそ今まで戦闘中に無理矢理感情を押さえ込まれていたのかもね。
昔はこんなんじゃなかった筈なんだけど……ま、いいか。
「……レオン君」
はじめようと思ったとき、クルークが声をかけてきた。流石にやばそうだから協力した方がいいってところかな。
正直賛成している俺もいるが……まだ早い。いくら強くても、こいつはあくまでも前座だ。総力をかけてぶつかるべき敵ではない。
何よりも……これから大将首取ろうって奴が、副将をタイマンでやれないんじゃ話にもならないしな。
「一対一での戦いだ。手は出すな」
「……わかった。それじゃ、負けないようにね」
「そのつもりだよ」
クルークはあっさりと引き下がり、後ろに下がる。
そんな会話の間に斬りかっかって来ても文句はなかったのだが……レヴァンは不動のかまえだ。本当に律儀なやつだね。
「……参る」
「――速い」
初手はレヴァン。放ってきたのは何の変哲もないただの上段切り下ろしだ。
しかし、その普通の攻撃の威力は尋常ではなかった。速度も剣筋も、恐ろしくレベルが高い。とっさに反応して華厳で受け止めはしたが、あまりの威力に手が痺れているくらいだ。
「――フッ!」
「甘いぞ! 隙あり!」
続けてレヴァンは一度剣を引き、再度斬りかかってきた。今度は剣を真横に振るう薙ぎ払いだ。
しかし俺も速度と剣の勝負で早々に遅れをとるつもりはない。繰り出された剣を半歩引くことで回避し、そのまま人間で言うところの肩に該当する鎧部分へ華厳を振り抜く。
だが――
「どこに隙がある?」
(硬い!?)
レヴァンは剣から逃げるどころか、むしろ自ら前に出て鎧と剣をぶつけてきた。
接近戦ではあえて前に出ることで威力を殺す防御法はあるが、武器の勝負で――特に刃物相手に使われるのは珍しい。普通、刃物が当たったら大怪我するからな。
しかし全身金属製のレヴァンには通用しない術理であったようだ。完全には力を乗せられなかった剣ではレヴァンの鎧に傷ひとつつけることはできずに止められてしまう。
この密着した体勢で魔剣を振るわれれば回避する手段はない。いくら足に自信ありと言っても、走ることすらできないのでは話にならない。
ならば、ここは――
「――力道点破・体撃!」
「ヌ――」
密着状態から、助走を使わずに力を発揮する特別な力の出し方。その技法を使い、剣が届く前に今度は俺から密着しているレヴァンの鎧に思いっきり体当たりを叩き込み突き飛ばす。
人間相手ならこれだけで内臓を潰すくらいは余裕でできるのだが、正直中身空洞の鎧相手じゃダメージにはならないだろう。むしろこっちが痛い。
だから、ここは一気呵成に攻め立てる!
「あまり相性は良くないが――いくぞ、華厳」
俺は華厳の魔力を開放し、嵐龍閃の要領で砲撃を放つ。俺個人とは無関係である水単一属性の華厳ではうまく自分の魔力を乗せられないが、魔剣単体としてもかなり上等な部類なのだ。力を引き出すだけでもそこそこの威力にはなる。
水の砲撃――そうだな、もとの持ち主にあやかって【水竜紋】と呼ぶべきか?
「――――ッ!」
突然の濁流に飲まれ、レヴァンは水流の中へ無言のまま沈んでいく。
威力自体はほとんど変わらないが、一応光属性を乗せている。その効果でこの水に触れるだけで浄化されてしまうから魔法生命体にはそれなりに効くと思うんだが……。
(……ま、そううまくはいかないよな)
砲撃が去ったあと、レヴァンは何事もなかったかのように直立不動を保っていた。
強いな……やっぱ、道具だよりの攻撃じゃ牽制にしかならないか。
「……中々楽しませてもらった。では、次はこちらの番だな」
「――やば」
「我が称号、斬魔将の由来を知れ――【魔剣解放・砲刃】」
お返しだと言わんばかりに、何の牽制もなくレヴァンが手にする漆黒の剣の刀身が巨大化していく。
あれは魔力だ。それも、濃密すぎて特殊能力なんて持たなくても見えてしまう――物質化していると言っても過言ではない膨大な魔力だ。
さっきの攻撃のお返しのつもりだろうが、明らかに俺のなんちゃって砲撃とは比較にならんぞ――
「――ハッ!」
勇ましい声と共に、レヴァンは刃を振り下ろした。
真っ直ぐ俺に向かって飛んでくる黒い魔力の渦。外見から観察する限り、恐らく斬撃のような特性を有しているはずだ。
さながら、巨大な剣での刺突だ。本当なら先程のレヴァンのように正面から受け止めるのが礼儀だろうが……これを正面から受ければ死ぬな。
「――明鏡止水」
俺は速やかに防御ではなく回避を選択する。しかし普通に避ければ追撃のチャンスを与えることになるし、隙を突いたわけでもない正面からの砲撃を無様に避けていてはいつまでも勝機なんて掴めない。
ということで、俺は真っ正面から避けることにした。使うのは明鏡止水によるすり抜けだ。これがある以上、俺に不意打ちでもない魔力砲撃の類いは通用しない――え?
「それは先程の戦いで見せてもらった。見事な技法ではあるが……あまり頼るのは悪手だぞ? こうして、対策をとられてしまうからな」
「がっ……!?」
砲撃の中で力を受け流した瞬間、俺は左肩から心臓に向かって焼けるような痛みを感じた。
この慣れ親しんだ感覚は、斬られたときのものだ。俺は身体に刻み込まれた反射に従い致命傷だけは避けるべく後ろに飛ぶが、ダメージは甚大だった。
何故、砲撃をやり過ごした俺が斬られたのか。その理由は、レヴァンのとった常識はずれの秘策にあった。
驚くべきことに、こいつは自分の放った砲撃の中に飛び込んだのだ。あの強力な砲撃を攻撃ではなく目隠しとして利用し、見事俺を欺き一太刀入れたのだ。
この作戦を可能にしたのは、あれほどの砲撃を囮にできるほどの魔力量を持つことと、砲撃を放ってから追い付くスピード。そして何よりあれほどの破壊の力の中を平然と進める頑丈さがあってこそのものだ。
仮に俺が同じことをすれば、自分の攻撃で死ぬだろう。よしんば耐えきったとしても、攻撃にまわす余力なんてあるはずがない。
これだけでもハッキリとわかるな。明鏡止水の攻略法である死角からの物理攻撃にあっさりたどり着いた慧眼といい、間違いない。
こいつが強いのははじめからわかっていたことだが、その秘密もわかった。征獣将のように不死身の特殊能力を持っているとかそんな理由は一切なく、こいつは強いから強いってタイプだ。
非常に高い速度と力、そして硬度を武器に正面から敵をねじ伏せる戦士タイプ。小細工なしだからこそ、もっとも破りにくい純粋な強者。
それが、俺のレヴァンへの評価だ……!
「……見事なものだ。よくその技を解かなかったな」
「解いたら死ぬからな。ちょっと身体抉られた程度で解けるようじゃ端からこの技は使えんさ」
明鏡止水を維持したまま、何とか砲撃の方はやり過ごすことに成功した。
レヴァンは攻撃命中と共にそのまま砲撃に飲まれることを期待していたようだが、生憎この程度の傷を受けることには慣れている。そこまで柔じゃないさ。
「……話に聞く人間であれば、致命傷とは言わないまでも十分戦闘不能になるのではないか?」
「じゃあその情報更新しておきな!」
「……フム、記憶しておこう」
切られた傷を吸血鬼の再生力で回復させつつ、俺は次の手を考える。
この山人族製の鎧も、奴の剣の前にあっさりと切り裂かれてしまった。いつものように動きやすさ重視の軽鎧であるとは言っても、ここまであっさりとはな。
個人用にチューニングしたわけでもない借り物とはいえ、その強度は俺が普段身に付けている鎧より上なのは確認済みだ。それがここまであっさりとは……ふう、さすが魔剣の将を名乗るだけのことはあるってところかな。
「そっちの攻撃は重症で、こっちの攻撃は無傷か……中々酷いな」
「そう思うのなら本気を出せばいい。まだまだこんなものではないはずだ」
「……厳しいことで」
回復する間、追撃する気配すら見せないレヴァン。俺の傷があらかた塞がったころを見定めて再び構えをとる辺り、わかってやっているのだろう。
騎士道精神から来るものなのか、それとも……俺に全力を出させるのが目的なのか。何を考えているんだろうな。
(ま、どっちにせよ倒すしかないんだが……どうしたもんかな。素が硬い相手じゃ明鏡止水を使った攻撃も意味ないし……頑丈型は苦手だよ本当に)
あらゆる特殊能力や魔法的な障壁をすり抜ける明鏡止水も、斬るべき相手が純粋に硬いのではあまり意味がない。あれは別に攻撃力が上がっているわけではないのだ。
加速法を併用した高速剣を試してみるのも……あまりいい手じゃないな。普通に弾かれて隙を晒すだけってオチが見えている。ただ斬るだけじゃ、な。
(本当に、やりづらいことだ)
本来、こういう相手は防御を粉砕する破壊力を持つメイが一番向いているのだろう。次点でただ硬いだけでは防げない特殊攻撃を得意とするクルークがきて、俺は一番相性が悪いんだよな。
それがわかっただけだけでもこの戦いには意味があり、取るべき手段を隠したまま知ることができたってのは十分な仕事なんだが……やっぱ悔しいな。
(何とか奴の守りを突き崩す。ここで躓いているようじゃぁ……魔王なんて夢のまた夢だしな)
気合いを入れ直し、華厳へと魔力を流す。相性がよくない魔剣に魔力を通すのは無駄が多いが、ここは破壊力重視で力業といこうと思う。
さて――
「【モード・混沌】」
俺は嵐龍なしでできる全力の自己強化を行う。使うのは覚醒融合の前段階である、自前の魔力のみを使った混沌モードだ。
純粋な破壊力なら、これが一番なのは間違いない。……通じるかは、わからないがな。
「フム……」
混沌の魔力に包まれた俺を見ても、レヴァンに焦りはない。これは知っていたからなのか、それとも焦ることではないと言う余裕か……確かめるか!
「【超加速法】――」
「ムッ!」
加速状態に入った瞬間、初めてレヴァンから動揺の気配が伝わってきた。
さすがにこの速度には反応できないようだな。後は、攻撃が通用するかどうかだ――
「――【超瞬剣・混沌獅子王撃】!」
パワー重視の、とにかく強く打つことだけを考えた上段斬りを混沌属性を乗せて放つ。普通に打ったらカウンターのいい餌食になる大振りだが、今の俺に合わせることなんてまず不可能だ!
「――ク」
「……まじか」
俺の剣はレヴァンの防御をすり抜け、兜を確かに打ち据えた。
しかし、その結果はある意味予想通りのもの。一体なんでできているんだと問い詰めたくなる超強度の兜は、俺に渾身の一撃を受けてなおちょっと欠ける程度のものだったのだ。
「――ヌゥン!」
(――ヤバい!)
当然、レヴァンは威力に押されて一歩下がりはしたものの、ダメージと言えるほどのものはない。即座に反撃に出てきたレヴァンの剣を前に、俺は加速法の反動で反応が一瞬遅れてしまう。
といっても、この結果はある意味で予想していたことだ。当然、危機的状況から逃れる準備くらいはしている。
俺は事前に風の魔法を用意していたのだ。戦闘中にバンバン使う早さもなければ威力もない俺の魔法だが、予め準備して待機状態にしておけば一発くらいは使えるんだ。主に自分を吹き飛ばす緊急脱出用に。
「風じゅ――」
「――受けとれぇぇぇぇぇぃ!」
「は!?」
下手すると死ぬかも。そんな未来予想を覆すべく全身を必死に動かし魔法を放とうとしたその時、野太い声と共に俺とレヴァンに向かって強大な魔力の塊が飛んできた。
その魔力は空気の壁を突破する速度で飛来し、俺とレヴァンの丁度間に突き刺さる。その衝撃で俺とレヴァンは大きく吹き飛ばされ、地面に叩きつけられることになった。
……予定とは違ったが、まあ一応危機的状況から脱却する事はできたか。思いっきり腰を地面に打ちつけたけど。
「……何者だ?」
突然攻撃されたレヴァンは少々不機嫌そうに、何かが飛来してきた方角を睨みつける。
正直俺も同じ感想だ。今のは俺とレヴァンのどちらを狙ったとも取れる一投だった。ほぼ密着状態と言っても過言ではない隙間にピンポイントで投げ込んだ腕前は見事だが……どっちの味方とも取れない一発だったな。
「ワシを忘れたとは言わせんぞ、魔剣の軍共が!」
俺もレヴァンを視界に納めたままで少しだけ視線をずらす。
すると、そこにいたのは岩山だった。緑色の岩石だった。ボコボコと隆起した岩に、棍棒のような手と足、そして頭が生えている何かだった。
まさかとは思うが……アレ、山人族なのか……?
「……ほウ、見覚えがあるナ」
「知っているのかね?」
「あア、先日の戦いで斬った覚えがあル」
吸血王と魔剣王がなにやら、あの緑色の岩山を見ながら話している。
口ぶりから察するに、魔剣王の襲撃にあった山人族なのか? でも俺が呪いを解除した中にあんな岩の塊みたいなのはいなかったと思うんだが……?
「……我が命の恩人よ! 我が弟より託されしもの、確かに届けたぞ!」
「届けた……あ」
しばらく魔剣王を睨んでいた山人族らしき人だったが、何かを飲み込むような表情のあと俺の方を向いて叫んだ。
届けたとは何のことかと一瞬首を傾げるが、すぐにそれについて思い当たる。
たぶんあれだ。投げつけられた、棒状の何か……。
「もしかして……」
俺はクレーターになっている着弾点に向かって歩き、地面に刺さっているそれを手にする。
それは白い布に包まれいて中身がなんなのかはわからないが、手に取った瞬間俺にはその正体がわかった。これは間違いなく――
「……貴様、勝負の邪魔をするつもりなのか?」
「本音を言えばワシ自らの手で貴様らを捻り潰してやりたいところだが……先客がいるのだ。しかもそれが恩人となれば是非もない! 届け物以上のことはせん!」
俺の行動よりも乱入者に注視しているレヴァンの問いかけに、謎の山人族はこれ以上の手出しはしないと宣言した。
正直、そうしてくれるのは俺としてもありがたい。今の俺の力を試す……その絶好の機会だからな。
「……ならば、再開とするか。一対一の勝負にケチをつけられては敵わん」
「……なあ、その前に一ついいか?」
「なんだ?」
「ここの大陸を侵略する指揮を取っているのって、あんたなのか? 正直イメージと違いすぎるんだけど」
俺は戦闘再開の前に気になっていたことを聞いてみることにした。
魔剣王軍がやったことは、人質から民間人の虐殺とかなり非道なことだ。もちろん協定を結んでから始める人間同士の戦争ではなく、魔物と人間の生存競争である以上ルールなど存在はしていない。
しかしそれでも、言動から察するこいつの性格とは合わないのだ。どっちかと言うと、策を労するよりも正面から力を示すタイプに見えるんだけどな。
それも、戦士しか手にかけないって武人タイプの。
「何の意図があっての問いかは知らんが、答えは否定だ。私が指揮を執っていれば戦いなどとうに終わっていよう」
「……ま、正直戦線が崩壊している所にあんたが単騎で攻めるだけで十分だろうな。でも、だったら誰が陣頭指揮取ってるんだ?」
俺はこいつらの作戦立案を担当している何者かの存在が気になっていた。
征獣将のように自らに能力と策を活用するタイプならともかく、魔法生物系モンスターはその手の小細工はあまりしない方のように思うのだ。
目の前のレヴァンはさすが最上位種といった感じで流暢に喋っているが、ガガルで戦った黒鎧なんて終始無言だった。よくも悪くも自我が薄い種族って印象なんだがな。
「……それに関して、私から言えることはない。策を練るには我らは不向きであるが故にあやつらの指示を聞いているが、本来あまり関わりあいになりたい相手ではないのでな」
「ふーん……」
つまり、魔剣王軍以外の誰かが入れ知恵しているってことか。
文脈から考えて、今まさに魔剣王と仲良く隣り合わせで座りながらこちらを見物している吸血王ではないだろう。となると、残っているのは魔獣王軍か魔竜王軍か……どっちも今一ピンと来ないな。
そもそも、根本的に強いこいつらがこそこそ裏工作なんてのが似合わないんだ。こいつらは普通に正面から攻めるのが一番強い。それにも拘らず人質とったり拷問したりと、まるで愉快犯的に悪辣な行動を取る、か。
なんか、心当たりがあるような気もするんだが……まあいいか。後は頭脳担当に任せよう。
「とにかく、今までの軍としての行動にお前は関わりないんだな?」
「ないとは言わんさ。私も軍の一人だ。その行動の責任は当然私にもある」
「……そう言ってくれると益々嬉しいね」
それなら、悪を倒す正義の味方なんて気持ち悪いものを背負わなくていいから。
「んじゃいくぞ――嵐龍!」
俺は布に包まれた中身の名を呼ぶ。
さあ、見せてもらうぞ、新生嵐龍の威力を!
「【覚醒融合】!」
嵐龍を覆っていた布が魔力流によって消し飛び、その姿が露になる。シンプルながらも美しく装飾されたおニューの鞘に包まれた嵐龍の解放だ。
……とか思ってたら、なんか、鞘が分解されて鎧になったな。中々男心をくすぐるギミックだ。
「……へえ、確かに、たった一晩で随分強くなったものだな」
俺は覚醒融合により姿を異形へと変化させる。基本的にはいつもと同じだが、鞘の鎧を含めていつもよりややごつごつしている気がするな。
でもまあ、注目すべきは外見ではなく中身だ。この身体を流れる魔力、明らかに高まり上昇しているようだしな。
さて……これなら、レヴァンを斬るに足る力があるのかな?




