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【番外編完結】他力本願英雄  作者: 寒天
山の民の大陸
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第169話 前哨戦

「……悪い予感ほどよく当たるとは言うけどさ」


 俺は装備の点検の間の代わりにと借りた山人族(ドワーフ)製の装備を撫でながらも頬をひきつらせて呟いた。

 外の様子を監視できる遠見の大鏡――山人族(ドワーフ)の警備網の一環――には、ふざけんなと叫びたくなるような光景が映っている。

 まず、四魔王の一角である魔人王オゲイン。今日は配下の吸血鬼を引き連れており、吸血王としての威厳を誇示しているかのようだ。おまけに、仮にも敵陣を前にしているというのに余裕綽々でどこからか持ち込んだらしい黒曜石の玉座に腰掛け、赤い液体が入ったワイングラスを手にしている。これ以上ないくらいに舐めているって感じだ。まあ、周囲を固める吸血鬼共を突破できる奴は早々いないだろうが。


 オゲインの隣には、これまた豪華な椅子が用意されており、こちらにも一人の……一個の鎧が腰掛けている。

 兜がないその鎧は持ち主がおらず空洞であることを示しているが、しかし置物ではないことは映像ごしでもわかる。あんなヤバそうなもん、類似するのはそれこそ吸血王オゲインくらいなものだ。

 集めた情報から考えても、間違いなくあれが魔剣王その人だ。周囲の山人族(ドワーフ)たちの怯えた様子からでもよくわかる。


 そして――


「あの黒い全身鎧は……魔剣王軍の副将ってところか」

「感知できる魔力量的に考えても、まず間違いないね。これに匹敵する既存の比較対象は征獣将くらいしかいないよ」


 俺のとなりで冷や汗を流しているクルークが俺の呟きに答えた。

 鳥人族(バードマン)の精鋭まであわせて袋叩きにしてようやくって奴と同格が、前座呼ばわりされる軍勢か……流石にきついなこれは。


「シュバルツ」

「メイ、どうだった?」

「武具の修繕はまだかかるらしい。一度解体してフルメンテナンスを行った関係上、今すぐ切り上げてというわけにはいかんようだ」

「……となると、しばらくは借り物で戦うしかないか」


 俺は事前に持ち込んでいた予備武器の握り心地を確かめるように腰の剣へ手をやり、身に纏う鎧を確認する。

 剣は自前のものだが、嵐龍には劣る。鎧ははっきり言ってここの工房製の方が質がよく、各種マジックアイテムに関しても今まで見たことがないような高レベルのものを貸してもらえている。

 総合して判断すれば、装備全体で見れば決して今までのものに劣るということはない。むしろ防御力なら上がっているくらいだろう。

 それなら十分戦えるとは思うのだが……はぁ。


(流石に嵐龍なしじゃ覚醒融合は無理。このレベル相手じゃかなり痛い。それに鎧に関しても着なれてないからな。わずかな違和感が命取りにならなきゃいいんだが……)


 俺は自分の不器用さを自覚した上で、新たな装備に不安を抱く。高度な戦いになればなるほど些細な差が大きく影響するものだ。装備が慣れないものだってのはどうしても不安が残る。

 せめてあと2日時間があれば違和感もなくなると思うんだが……無い物ねだりしても仕方がないな。


「……とにかく、行くしかないな」

「そうだね。いつまであそこで待っていてくれるつもりかはわからないけど、もし攻め込まれればこの町は終わりだ。あれはそれほどの絶対者の集まりだよ」


 俺たちはお互いに頷き、決断する。

 今俺たちがやらなきゃならないのは、入り口付近でやつらを撃退することだと。


「勝率とか計算するかい?」

「やめとけって。どうせ絶望的な数字しか出ないんだから……いつもみたいに」


 軽口を叩きながらも、俺たちは衝撃波を起こさないように注意しつつ高速移動で敵が待つ山の入り口へと移動する。

 まだ山人族(ドワーフ)の援軍を期待するのは難しいだろう。治療が始まって一日二日じゃ流石に厳しいはずだ。

 急いで緊急連絡は入れたとはいえ、まずは俺たちだけで何とかしないといけないな……。


………………………………

…………………………

……………………


「ふむ、素直に出てきたか。感心なことだ」

「そうじゃないと余計な被害が増えるだけだろ」


 何かするわけでもなくおとなしく待っていた二体の魔王と、その配下たち。

 吸血鬼のほうは数を揃えているようだが、魔剣のほうは副将である斬魔将レヴァンとか言う奴一人だけか……これは自信の現れなのか、これ以上の戦力は不要ってことなのか……どっちもありそうだな。

 そもそも、四魔王の半分が揃っているってだけで十分すぎるくらい過剰戦力だ。


「……さて、では早速始めるとしよう。我らの期待に応えてくれることを心より望んでいるよ」


 無言を貫く魔剣王の隣で、玉座に腰掛けながら魔人王オゲインは片手を挙げて合図を出した。

 合図と共に動き出したのは、背後に控えていた吸血鬼の軍勢。どうやら、まずは魔王や副将ではなく雑兵で小手調べってつもりらしいな。


「さて……どうする?」

「目の前の敵を倒す。それだけだろう」


 クルークとメイが闘気を高めていく。少し後ろのほうでは、いざというときの保険要員として待機してもらっているアレス君とカーラちゃんたちもそれぞれ闘志を燃やしているようだ。

 だが俺は、そんな仲間たちを止めるように一歩前に出て皆の進路を片腕で塞ぐのだった。


「……どういうつもりだ?」

「まずは俺がいく」

「それは、一人で戦うってことかい?」


 メイにはやや不機嫌そうに、クルークには僅かな驚きを宿した声で問いかけられた。

 まあ、こういう場面で俺がこんなことするのは初めてのことだからな。できればやりたくないんだから当然の反応だろう。


 でも、まずは俺が前に出るべきなのだ。この絶望的な戦力差で総力戦なんてやっても勝てるわけがない。だったら、少しでも小細工しないとな。


「可能な限り情報を渡したくない。あの魔王二柱を前にわざわざ実力お披露目会なんてするこたぁないだろう」

「……正論だけど、それはレオン君が戦っても一緒だろう?」

「それに、我々三人のなかで装備の影響を一番受けるのはお前だろう。むしろ、剣が届くまではお前こそ後ろに下がっていたらどうだ?」


 納得する様子を見せない二人を前に、俺は苦笑する。実にごもっともと思いながら。

 剣士である俺の戦闘力はどうしたって剣に依存したものだ。別に強い剣がなくては戦えないなんて素人みたいなことは言わないが、それでも慣れ親しんだ嵐龍がないことで一番の影響を受けるのは間違いなく俺である。

 メイは家宝の手甲の代わりを使っているため覚醒融合が使えないことは同じであるが、自分の拳が主戦力である以上装備の影響は前衛戦士としてかなり低い分類に入る。

 そしてクルークは言うまでもなく魔術師であり、主戦力は魔法だ。装備の影響なんてまったく受けないというか、より強力なマジックアイテムを揃えられた分普段の装備よりも強いくらいだ。


 ……だからこそ、まずは俺なんだがな。


「情報を与えないって観点で言えば、一番普段とのギャップがある俺が最適だろ? それに吸血鬼と一番縁があるのは俺だし、一番情報の価値が低いのも俺だ。加えてこの中じゃ一番タフで生存能力が高い。戦力を温存しながら戦うなら、特攻隊長には一番ふさわしいと思うが?」

「そもそも戦力の分散を避けるべき――とか、それならまずは召喚獣でもぶつけた方がとか、反論の余地は結構ある理論だね。……でも、聞く気はないんだね?」

「ああ、悪いな。俺が死にそうになったら助けに来てくれ」

「割りとすぐになりそうだな、その未来」

「……できれば怪我しないように祈っててくれ」


 心に染みる仲間の言葉にちょっと泣きそうになったが、俺は一人前に出る。

 クルークが本気になれば俺を言い負かすことなんて簡単だろう。メイがその気になれば俺の言葉なんて無視して戦い始めることは当然できる。

 でも、二人はため息を吐きながらも俺の要望を受け入れてくれた。少しは隊長としての威厳とかが出てきた……って訳じゃないだろうねやっぱり。


(二人とも気がついているのかな、俺は囮だってことに)


 格上の相手に勝つには、少しでも敵を知り対策を練る必要がある。

 だと言うのに、俺たちはあいつらの力をほとんど知らない。むしろこっちの手の内が以前の戦いでほぼ全て知られてしまっている有り様だ。

 だから、可能な限り余力を残すべく仲間を待機させた状態で敵と戦い情報を分析させる。もちろん囮役だからと言って死ぬことを認めるわけもないってところまで考えると、能力的に生存能力がもっとも高い俺が相応しいのだ。


「……一人か。温存するつもりかな?」

「過信なのカ、確かな実力の裏打ちあってのことカ、見物ダ」


 俺一人が前に出たことになんの怒りも侮蔑も浴びせることもなく、ただ愉快そうに魔王たちは笑っている。天上の超越者からすれば、何が起ころうが余興に過ぎないってことか。

 もっとも、前に出た当事者たちはそれほど優雅に流してはくれないようだが。


「……一人、とはな」

「元々人間風情の一匹や二匹に我らを総動員すること自体が異常だと言うのに……不愉快なことだ」

「まあそう言われるな。これは王が望んだ余興。ならばその忠実な臣下である我らはより美麗なショーのプロデュースをすべきでしょう」


 前に出てきたのは、取り巻きの吸血鬼をそれぞれが引き連れた12人の吸血鬼たち。一人につき平均9人ほどの取り巻きがいるから、総勢100人くらいだな。

 取り巻き連中は、感じられる魔力から考えて子爵級から伯爵級吸血鬼ってところだろう。……そうだな、丁度アレス君と出会ってすぐに戦ったころのミハイと同じくらいだ。つい先日に軽く刃を交えた今のミハイと比較するとかなり落ちるだろう。


 問題なのは、中心メンバーらしき12人の吸血鬼か。どれもなかなかヤバそうな匂いがするね……!


「……さて、いくら残酷なショーといってもたった一人にこの数で襲いかかるわけにはいきますまい?」

「ですな。流石にそれではショーにすらなりえんでしょう」

「ならば誰がいく?」


 吸血鬼たちは一斉に襲いかかってくる気はないらしく、誰が戦うか相談している。

 正直ありがたいな。最大の目的は装備が完成するまでの時間稼ぎだし、まごついてくれるならそれに越したことはない。


「我がいこう」


 ……と思っていたのだが、あっさり選手は決まってしまったようだ。

 口髭を生やした中年の吸血鬼が配下を引き連れて前に出てくる。さて、どうするかな……。


「本来ならば人間風情と口を利くことなどあり得んが……陛下の命による戦いである以上最低限の礼儀は守ろう。我は吸血鬼の公爵ヴァンパイア・デューク。……それ以上の紹介は不要だな?」

公爵(デューク)……あそこで寛いでいる王様を除けば、吸血鬼の頂点ってやつか」

「いかにも。そして、そこにいる11名もまた我と同格の存在だ。現在姿を眩ませている公爵筆頭殿を除けば、全ての公爵級が揃っているということだな」


 ……ふぅん。最上位吸血鬼って奴は全部で12人なのか。

 丁度、魔獣王軍の守護十二獣と同じ数だな。そして、話しぶりから察するに公爵筆頭ってのが魔人王軍の副将かね?


「しかし、その全員が貴様一人のために動くほど我らも安くはない。まずは我が相手をしてやろう――【空術・異空間接続(ゾーンゲート)】」


 公爵級が魔法を唱えると、その右腕がなにもない空間に沈んでいった。

 あれは恐らく、空術によって作成した魔法的な空間へ接続する魔法だ。異空間に武具や消耗品を貯蔵しておき、必要なときに取り出せる便利魔法として有名な魔法だな。

 俺の異次元袋も原理はあの魔法と同じだ。自由に開閉することはできないから開きっぱなしだったり時々繋がらなくなったりするけど。


「では、これでどうかな? 竜槍・グライブル。上位の竜種素材を用いて作られた逸品だ」

「へぇ、いい槍だな」

「わかるかね? 我は武具の収集が趣味でね。お前の持つ剣もそれなりの物のようであることだし……それは戦利品としていただくこととしようか」

「勘弁してくれよ、これ借り物なんだぜ?」


 俺はコレクターの欲望を僅かに笑みにのせる吸血鬼へ、やれやれとため息を吐いて答える。

 他の装備も山人族(ドワーフ)からの借り物だが、この剣はボーンジに頼んでわざわざ南の大陸から運んでもらった俺個人の借り物なのだ。

 本当は嵐龍が弾かれたりして手元から失われた時用の予備武器のつもりだったのだが……何事も備えあれば憂いなしってところかね。


「その蒼き刀身……それもまた竜の武器だな。人が持つには些か分不相応だ。ここらで所持するに相応しい者に委ねてはどうだね?」

「生憎、この剣は持ち主不在でね。相応しい使い手がいるなら譲るのもやぶさかじゃないけど……生憎、候補はいないね」

「ならば安心したまえ、今目の前にいる」


 俺と公爵級は軽口を叩きながらもお互いに間合いを図りながら円を描くように移動する。

 正直打ち込む隙はあるのだが、隙を突いたところで種族的に強靭な肉体で強引に反応してくるのが見える。というか、時間稼ぎが第一目標だし、こっちから仕掛ける意味はあまりない。せっかく取り巻きすら使わない一対一を向こうから言い出してくれたんだし、今を出来るだけ引き伸ばしたいな。


「……来ないのか? ならば、こちらから行くぞ!」


 焦れてきたのか、公爵級は全体重を乗せたランスチャージを仕掛けてきた。


 ――うん。


「死ね――」

「やっぱ、ミハイに比べると大分落ちるな」


 槍の穂先に剣を軽く横から当てる。前に突き出す力は強いが、横からの力には弱い。これはどれだけ強くなっても変わらない物理法則の話だ。

 そうやって突きを逸らされれば、今度はその槍の威力によって持ち主が引っ張られることになる。流石に完全に体勢を崩すほど未熟ではないだろうが、やはり――


「身体能力も魔力も凄いけど、それだけだな」

「が……?」


 僅かに身体が流れたことで開いたガードの隙間を通して、俺は剣を突き出した。

 狙いは全ての吸血鬼の力の根元である、心臓。寸分も狂うことなく狙った軌道を通って公爵級の胸に刺さった剣に、俺はもう一押しと力を加え、最後に剣の力を僅かに解放する。


「正当な所有者じゃなくて悪いな――祓え【華厳】」


 刀身から水が吹き出す。その水は剣に込めた俺の光の魔力と合わせて公爵級を体内から蹂躙し、血の魔力を消していった。


「が、あ……」

「……悪いな。もう、生来の強さだけの奴に苦戦できるほど弱くはないんだ」


 こいつは、強い。それは間違いのない事実だ。しかし、その強さは全て種族としての強さだ。

 技術という意味では、未熟の一言。征獣将クラスの理不尽さがあるならともかく、吸血鬼のバージョンアップじゃこんなもんだな。


「……馬鹿な」

「いったいどうなっている……!」


 自分達の勝利を疑っていなかったのだろう吸血鬼サイドの面々に動揺が走る。自分の目で見たものが信じられないと言わんばかりに公爵級の死体と俺を交互に見ているが……さて、このまま崩れてくれるとありがたいな。


 まあ、上位者が手綱を握っている以上そうはいかないだろうが。


「さて……理解したか?」

「へ……陛下……」

「そこにいる人間はただの人間ではない。お前たちが総力を結集させるに値する存在だ。さあ、貴様らの全てをかけて挑んでくるといい」


 吸血王が動揺する配下をいとも簡単に鎮めた。流石は吸血鬼の王ってところか。これがカリスマってやつなのかね。


 もう吸血鬼たちの目に油断も慢心もない。王の命に従い、全力で俺を殺すって目で言っていやがる。

 相手を格上と認めるのを死ぬほど嫌がる傾向がある吸血鬼たちをここまで簡単に本気にさせるとは、吸血王は完全に配下を掌握しているようだな。


「……仕方がないか」


 俺は口先でどうにかするのを諦める。プライドの塊である連中なら適当に煽っておけばもうちょい連携を阻止できるのだが……それを吸血王の前で試すのは時間の無駄だろう。


 こっからは、正面から潰すとするかな。


「――ハァッ!」


 今度は油断をついた瞬殺ではなく、実力で挑む正面対決。

 その準備として吸血鬼化を第一段階で行い、同時に覚醒状態となる。嵐龍がないとこれが精一杯だが……さて。


「後ろに大物が控えているんでな。悪いがウォーミングアップに付き合ってもらうぞ」


 俺は、吸血鬼の軍勢へと突っ込んでいった。



「……見事なものダ」

「ほう?」


 戦いを見物していた魔剣王が感心したように呟いた。金属が擦れあうような耳障りな音を用いた声であるが、我にとっては慣れたものだ。

 奴の目線――目はないが――の先にいるのは、我が連れてきた公爵級吸血鬼とその配下を一人で相手にする人間、レオンハート・シュバルツ。

 単純な能力なら高めに見積もっても互角、シビアに見ればやや格上と言った相手に数で負けているというのに……よくもまああそこまで戦えるものだな。


「純粋な戦力でハ、明らかに吸血鬼の方が上ダ」

「だろうな。数はもちろん、質でも決して負けてはいない」

「だガ、現実は圧倒されていル」

「魔力量と身体能力では決して劣らないが、それ以外の部分で差がありすぎるな」

「種として優れているが故ニ、技術が足りヌ。もっと配下の教育に力を入れるべきだったのではないカ?」

「それは心配いらん。あいつらとは別に有望なのを育てているからな」


 現状、レオンハートは本気を出していない。何故だかは知らんが武器が違うようなので、出せないと言ったほうが正しいのだろうが。

 それもあり、本来ならば数でも質でも優位となり余裕の勝利を飾れるはずの戦力差がありながら……現状、圧倒的に我が配下が形勢不利であった。

 公爵級共がその豪腕で音を置き去りにする攻撃を放ち、その多大な魔力で周囲を殲滅するような高位の魔法を放つ。

 しかしかの人間はその全てをすり抜けるかのように回避していく。恐らく特殊能力の類ではない。そうであるならば、人間よりもその方面で遥かに優れる彼らが翻弄されるわけがない。

 あれはただの技術だ。弱者が強者に抗うべく考案し、磨き上げた技の結晶……我がもっとも好み、愛するもの。


 我が糧だ。


「――三人目!」

「クッ!」

「おのれ!」


 レオンハートの剣によって三人目の公爵級が切り飛ばされた。攻撃の全ては頭か心臓狙いの一撃必殺。流石に対吸血鬼を理解しているな。

 本調子ではない人間相手に、仮にも吸血鬼として最高位に立つ者共があの様とは、やはり種族的な優位だけでは限界があると言うことか。

 まあ、別に構わんがね。


「……どう見ル? レヴァンヨ」

「ハッ! 非常に強い、というのが感想です。それだけとも言えますが」


 魔剣王が、戦いを我らと共に見物していた魔剣の副将に声をかけた。

 真剣な目で――王と同じく目はないのだろうが――戦況を分析していた斬魔将レヴァンは、特に焦る様子も見せずに己の考えを口にする。


「技術は見事。身体能力はやや不満がありますが、本気ではないことが伺えます。本領を発揮すればかなりのものでしょう。……しかし、魔王の方々はもちろん、私にも及ばないというのが私の結論です」

「ふム。実力は幹部以上副将以下、ということカ?」

「あくまでも、現状で読み取れる範囲ではの話ですが」


 ……声には出さないが、心の中で我はレヴァンの分析に同意する。

 征獣将との戦いで見た実力と照らし合わせれば、まあそんなところだろう。奴の内側に眠るジョーカーを計算に含めなければの話だがな。


「……では、キミの手でそれを証明してくれるかね?」

「よろしいのですか?」

「ああ。あやつらは全滅するだろうが、よいウォームアップになるだろう。ほどよく身体が温まったレオンハート・シュバルツを見事打ち倒してくれ」

「私からも同じ命を出ス。勝利を掴んでみせヨ」

「……主命とあらば」


 レヴァンは手にする魔剣を強く握り締める。

 魔剣王の配下はその名の通り武具の使用に特化しているため、剣術も一流と呼べるものになるまで磨いているとのことだ。まあ、人間が剣を学ぶというのとは少々意味が違うが。


(こいつらにとって、剣を振るうのは生物が息をするのと大差がない行為だからな。ある意味、種族的な能力の中に剣術が含まれているというべきか)


 こいつら相手では、純粋な技術の優位だけで戦うのは難しいだろう。元々剣士との相性は最悪であることだしな。

 なによりも、副将とそれ以外ではその力も役割も大きく違う。究極的には、我々原初の四魔王(メモリーズ)とその副将がいればそれだけでよいと言っても過言ではないほどにな。


 いままで配下を増やしてきたのも、ほどよい人類の敵対者としての駒を用意してやっていたに過ぎない。こうして我々が用意してやったエサを食らい続けここまで成長して見せたのだ。

 精々、残り少ない機会を活かして成長してくれよ? もう直に復活なされる魔王神様に無駄な時間を過ごさせるわけにはいかないのでね……。

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