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【番外編完結】他力本願英雄  作者: 寒天
山の民の大陸
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第167話 ドワーフ王国

「陛下、緊急のご報告がございます」

「ほう? 良き報せ、ではないのだろうな……」


 慌ただしく玉座の間に入ってきた兵士に、誇り高き山人族(ドワーフ)統一国家の国王であるはずのワシは力なく項垂れた。

 ほんの少し前はこうではなかった。支配者としての威厳溢れる、頼れる王様だったはずなのだ。しかし度重なる悲報と苦難にワシの心は折れかけている。

 本来ならどれ程絶望的な状況にあっても余裕をもって笑みを浮かべているべき王であるのに、配下の前で弱音を吐いてしまうほどにの……。


 だが、そんなワシの弱音に兵士は首を横に振るのだった。


「お喜びください陛下。卑しき悪鬼共の手を逃れ、多くの同胞がこの王都へと到着いたしました!」

「なんじゃと!?」


 兵士の報告にワシは心の底から驚いた。

 既に敵軍――魔剣王を名乗る強すぎる怪物率いる異形の軍勢により我らの同胞は多くの命を落としている。

 生きている者も大半が囚われの身であり、身内を盾に取られて奴隷のような扱いを受けているという。そんな現状を打破できない無力な王であるワシのことを考えるとますます気分が落ち込むが……いや、ここは盛大に喜ぶべきだろう。

 どこを見ても敵だらけで同胞を助けに行くことすらできないと諦めていたところ、自力でここまで来てくれたのだからな。


「恐らくは命からがら、最後の賭けとして逃げてきたのだろう。きっと衰弱していることだろうし、早く安全な場所で良質な鉱石でも食わせてやれ」

「いえ、それが……その、到着した山人族(ドワーフ)総勢854人、全員健康状態に問題はありません」

「なに?」


 戦闘力に自信がある若者は、魔剣王の宣戦布告に対して招集された戦力として軍に募っている。

 我々の国を守る戦いに、力に自信がある者が参加しないということはない。皆我が名の下に集い、そして死んでいった。

 その結果、今国には戦士と呼べるものが極端に少ない。全山人族(ドワーフ)の力を集結してなお一蹴してしまった化け物、魔剣王の暴虐を前に英雄と呼ばれる戦士にいたっては壊滅状態だ。

 だからこそ、地方の山に住まう者たちは迫る敵と戦う術がない。それなのに消耗せずにここまで来るとは……?


「その、援軍を名乗る謎の種族がここまで護衛してきたとのことで……」

「謎の種族?」

「身長は我々よりもずっと高く……肌は色の濃いオパー石のような色。髭がなく、顔立ちは細長いです」

「……妖魔の類か?」


 頭の中で想像してみるが、イマイチ理解できない。

 異形の類であることは間違いないと思うのだが……何故援軍?


「それは、慎重に当たるべきだな。もしかすると同胞を使ってこちらの守りを内側から崩す敵軍の作戦かもしれん」

「はい。それについて憂慮なされた軍団長閣下の指示により、現在手続きが必要と言って最外円に留めています」

「あそこなら何か邪悪な妖計があったとしても食い留められるな。よい判断だ」


 我が城が中央に存在する王都ゴ・ベベルは、山の外周に当たる入り口から数えて五層の円形の洞窟で成り立っている。

 敵が侵入した場合の最前線として考えられる最外円から内側に入るほどに防衛区ではなく生活区になっていき、我が城がある中央とその周囲が住宅が密集した区域というわけだ。

 最外円は敵が侵入してくることを前提に作られており、一見ただ掘っただけの土の壁の一枚奥には我々の技術の粋を凝らして作成された金属壁がぐるりと回っている。その防御力は無敵の名を冠してなお余りあるほどであり、どんな攻撃でもはじけるようになっているのだ。

 そこならば、仮にたどり着いた同胞が敵の手に落ちていたとしても対処は可能だろう。ひとまず余裕はあると安心し、さてどうするかとワシは頭を悩ませる。


「……その同胞たちはどこの出身だ?」

「はっ、ド・ガガルの民と報告が上がっております。国民名簿と照らし合わせても不審な点はありません」

「となると適当な魔物を我々の姿に化けさせているわけではないか。……その地は確かに敵軍の手に落ちた山だな。話に筋は通っているようだが……」


 ド・ガガルの民を脅して侵入する計略なのではないか。その思いが頭から離れない。


「……その謎の種族の援軍とやらの話を聞く他にないな。まずは事情を聞きたいと告げ、同胞たちとその謎の種族を引き剥がせ。抵抗されるかもしれんが、暴力を持ち出されない限りこちらからは手を出すな。護衛としては十分に役目を果たしてくれたと感謝しつつ何故離れないのか聞き出せ。……ああ、もちろん防壁の兵器は起動させておくのだぞ?」

「畏まりました、陛下」

「穏便に分断できれば安全が確保された部屋で同胞たちから話を聞け。脅されているのならそれで真実を話すだろう。秘術の類いで洗脳されていることも考えて複数人から話を聞き出し裏をとるのも忘れるな」


 洗脳術の類いは恐ろしいが、効き目に個人差がある。故に複数人の状態を確認し、言葉の差異を検証すれば操られている痕跡くらいは見つかるだろう。

 そんな考えでの命令を聞いた兵士は頭を下げ、了解の意を示す。その後立ち上がり、外へと向かって行った。


「ひとまずはこんなところだが……やれやれ、嫌になるな」


 命令を聞いた兵が退室すると共に、ワシはまたしても王に相応しくない弱音を口にする。

 本来ならば、同胞を救ってくれたと聞けばワシ自らが感謝の言葉を告げるのが当然だ。それを疑心暗鬼にとらわれてあれこれ詮索するというのだから、まっこと情けない。

 少し前のワシならばもっとおおらかに考えたはずなのだが、どこまでもマイナス思考が根付いてしまっているな。


「……しかし、本当に何者なんじゃろうか?」


 首を捻り、件の異形の種族について考える。

 魔剣王の軍勢に比べればまだ山人族(ドワーフ)じみた姿のようだが、同胞を使い警戒を解く計略ならもっといい策があるだろう。わざわざ外見だけで警戒心を煽ることに意味があるとは思えない。

 しかしそやつらの言葉を素直に信じるというのも難しい。崖っぷちに追い込まれたタイミングで、あの恐ろしい異形の軍を少数で蹴散らす援軍がやってくる。それはどれほど都合のいい奇跡なのだろうか。


「王としてはあり得ぬよな。そんな、妄想の類いにも等しい希望にすがるなどよ」


 ポツリと呟き、また自己嫌悪に陥る。

 今のワシは、仮に本物の天の助けを前にしてもその手をとることはできないだろう。信用するというのは、疑いよりも遥かに強い精神力を求められるのだから……。


「いっそ、そやつらが敵軍を粉砕してくれればいいのにの。信じるしかない状況と力、それくらいがないと、今のワシには奇跡を信じるのは辛いわい……」



(……まあ、予想通り全く信用されていないな)


 山人族(ドワーフ)たちの王都に到着してから半日ほど。俺たちは未だに洞窟の入り口のほうに作られた部屋の中で事情聴取を受けていた。

 別に悪いことしたわけではないどころか、彼らに救いの手を差しのべたのだ。この扱いは不当であると怒りの抗議を――なんてことはもちろんしない。

 実際、逆の立場だったら俺も似たようなこと考えるだろうしな。自慢じゃないが、ぶっちゃけ俺らって不審者だし。


(むしろ、こうして警戒心を持って考えられる指導者が生き残っていることを喜ぶべきか? 信用を得るのは一苦労だろうけど、共闘戦線構築成功後を思えば優秀な方がいいに決まってるしな)


 以前も似たようなことを考えた気がするなと思いつつ、俺は一人心の中で頷いた。

 そして、俺たちから話を引き出そうと手を変え品を変え口を動かす山人族(ドワーフ)の言葉を聞き続け、俺は若干の苛立ちと共に彼らの評価を高める。

 こちらの機嫌を損ねないよう感謝の言葉を延々繰り返し、調子に乗らせてから本命を聞き出す交渉術の巧みさ。流石は国家としての交渉人に選ばれることはあるってところだろう。

 俺はロクシーの悪辣……もとい卓越した話術を知っているからこそ話に飲まれていないが、慣れていないといつの間にか全部喋っちまう怖さがあるな、これは。


 慣れているどころか自らも腹芸の専門家であるクルークはともかく、アレス君はかなり飲まれているっぽいな。素直でいい子なのはいいんだけど、騙されやすい性格なのがちょっと心配だ。

 なお、開始5分で飽きたと言って修行に出てしまったクン師弟は論外であるが、ある意味一番詐欺師に騙されにくいタイプと言えるだろう。


「……さて、なかなか楽しいお話でしたが、この辺りでそろそろ本題に入りませんか?」


 しばらく話させたところで、クルークは話を進める一手を打つ。

 そもそも騙そうとか考えていないのだから正直に話せばいいのだが、真実を真実と信じさせるのは嘘を真実と信じさせるより難しいものだ。

 下手な小細工してただでさえない信用をこれ以上失うわけにもいかないし……どうするのが正解なのかね?


「本題――」

「緊急連絡! 敵軍がこの王都へ向かっている! 」

「――へ?」


 だが話し合いは本格的に始まることなく終わった。

 喉を裂かんばかりに声を張り上げる伝令兵らしき山人族(ドワーフ)が部屋に飛び込んできたことにより、それどころではなくなったのだ。


「……こりゃ、何ともタイミングがいいのか悪いのか」

「ある意味都合はいいかもね。味方だと行動で証明するとしようか」


 俺たちは即時意思決定を行う。ここはグダグダ話すよりも力と立場を示した方が手っ取り早い。そう考えて迎撃に出るべく立ち上がったのだ。


 しかし、その足は次の一言で止められることとなるのだった。


「それだけではありません! 化け物です! 化け物が暴れています!」

「……へぇ」


 伝令兵が叫ぶ。化け物がいると。

 ここまで攻められた彼ら山人族(ドワーフ)が魔剣王の軍勢を今さら化け物と別枠で考えることはないだろう。

 となると、その化け物の正体は通常の魔法生物ではない何か……ということになる。


(……吸血王が来たか?)


 俺の脳裏に浮かんだのは、この大陸で決着をつけると言って俺の前から去った吸血王の姿。

 この大陸には吸血鬼が来ていないのだとすれば、奴らの姿と力を見て化け物と呼称するのはわからないでもない話だ。


 俺は自分の考えの正否を問うために伝令兵に近づく。

 だが、話を聞くだけのつもりだった俺を見て伝令兵は固まった。山人族(ドワーフ)の表情は分かりにくいものの、唖然としているのはわかる。

 いったいどうした――


「こ、ここにも化け物が!?」

「え」

「――これ、無礼であるぞ!」


 なんか化け物呼ばわりされた。別に否定しないが、ちょっと傷ついたぞ。

 流石にそんな発言は許容できないのだろう交渉人山人族(ドワーフ)が怒鳴り声を上げるが、当の伝令兵はそれどころではないらしくアワアワと狼狽しながら怯えていた。


(……相手が吸血鬼だとすれば、外見上は俺とそこまで変わらないしそういうことかね?)


 怒気も殺気も闘気も纏っていないのにここまで怯えられる理由を俺なりに考えてみる。

 しかしクルークとアレス君はまた別の結論に達したようで、お互いの顔を見合わせてから何やら言いづらそうに伝令兵に問いかけるのだった。


「……失礼、もしかしてその化け物とは女性の二人組では?」

「このくらいの身長の女の人と、もっと小さい女の子なんですが……」


 アレス君は自分より高い位置と同じくらいの位置に手をやった。それを見た伝令兵は無言でコクコク頷く。

 そんなやりとりを見れば、俺にも二人の考えが読める。そういや、あの二人外に出てたんだっけ……。


「……まあ、とりあえず外に出ようか」

「そうだな。それが一番早いだろ」


 なんだか気合いの空回りになりそうな予感を覚えつつも、俺たちは山人族(ドワーフ)と一緒に外に出た。

 すると――


「セイッ」

「チェストォォォ!」


 そこにはとても元気に暴れまわり、襲ってきたのだろう魔剣王軍を粉々にするよく見知った化け物師弟の姿があった。

 ちぎっては投げという表現を比喩なしで行う破壊の権化。そりゃあまあ、彼らも怖がるよな……。


「あの、あなた方の同族だと思うのですが……何なんです、アレ?」

「えーと……化け物でいいですよ」


 純然たる怪物である弟子と、純粋な人間であるはずの師匠コンビ。

 それが何なのかと問われれば、そりゃバケモンとしか言いようがないよなぁ……


 二人でそれなりに数を揃えている鎧兵を蹂躙する姿を見ながら、俺はそう呟くしかないのだった。



「……いや、うむ……その、戦力としては申し分ないな」

「あはは……お分かりいただけたようで何よりです」


 外の騒ぎを聞きつけて出撃してきた山人族(ドワーフ)兵はメイたちの蹂躙劇を見せられた。その数時間、俺とクルークは応接室へと通されていた。他の三人は別室待機だ。


 彼らが何を考えたのかはわからないが、トントン拍子に山の内側に招かれ……今俺たちは、山人族(ドワーフ)の王様と対談するべく直接顔を会わせているのだ。

 インパクトの強いものを見せられて信用を得た……というわけではないだろう。明らかに顔が引きつっているし。

 これは確実に怯えられているな。砲艦外交するつもりはなかったのだが……。


「あー、その、決して私たちはあなた方に危害を加えるつもりはありません。むしろ、協力を目的としています」

「……うむ、もはや信じるしかあるまい。貴殿らが魔剣王の配下でありあれほどの力を持つならば、余計な小細工など無用だろう。正直、軍と一緒に攻め込んで来た方が早い」

「それほどまでの状況ですか」


 そこまで力を認められたと言うか怯えられたのか……なんていうほど簡単な話じゃないな、これは。

 見たところ、この山の中の街は相当な防御力を有しているように見える。ここのどこか……恐らくは地下に精霊竜がいるのだ。その加護は間違いなく強力な結界と化していることだろう。

 そこに篭っているのに、俺たちと先ほどのメイとカーラちゃんの二人にあっさり粉砕された魔剣王軍が同時に攻めた程度で落ちると仮定しなければならない状況。

 そこから推察されるのは――


「……戦士が不足しているのですか?」

「いかにも。既に聞いているかもしれんが、魔剣王軍との最初の戦いのとき、我々は考えられる最強の精鋭を揃えて挑んだのだ。ところが、結果は魔剣王と名乗る怪物による一方的な蹂躙。その時以来魔剣王は姿を見せていないが、既に不要と考えているのだろうな。英雄と呼ぶべき戦士をほとんど失った我らなど自分が出るまでもないと」

「……魔剣王、か」


 山人族(ドワーフ)王の話は既に聞いているものだったが、全体の指導者が言うとその絶望感もひとしおだ。

 所詮末端の一般人にすぎないギギたちよりも遥かに詳しい話が聞けるだろうし、なるべく情報を集めておきたいところだな。


 恐らく、この大陸では魔剣王か……あるいは吸血王こと魔人王か、いずれにしても四魔王クラスと雌雄を決することになるだろうから。


「こちらとしては、あなた方と協力して事に当たりたいと思っています。我々の故郷もいつかの軍勢の脅威に晒されるかわからない以上、戦うことに躊躇いはありません」

「うむ……実際、貴殿らが戦線に加わってくれるのはありがたい。貴殿らは英雄と呼ぶに相応しい実力を有しているのはわかっておるしな」


 王様は言葉としては肯定的であるが、微かに否定的な色を表情に浮かべている。

 異種族でありお互いの表情が読みにくいはずの俺ですら気がつくということは、ほとんどアピールしているんだろうな。


「……何か懸念されることがあるのでしょうか?」


 俺と同じく気がついたらしいクルークが、やや迷いながらも王様の態度に言及した。

 恐らくそう言って欲しいのだろう言葉を口にするのを躊躇ったようだが、まあ見て見ぬふりをしても仕方がないしな。ここは主導権を譲ってでも情報を引き出すべきだって判断だろう。


「うむ、貴殿らには失礼な言い方になるが……正直に言えば、あまり意味があるとは思えなくてな」

「意味がない、とは?」

「我らが誇る精鋭を持ってしてもどうにもならなかった超越者を仮想敵に据えれば、英雄5人程度では何ともならんとしか言えん。貴殿らには戦闘よりも我が民を避難させてもらった方がよいのではないか――と思ってしまうのだよ」


 山人族(ドワーフ)の王は、自嘲するような笑みを浮かべて語った。

 それは俺たちの力を信じられないということだが、怒る気にはなれない。それほどの絶望を叩きつけられたことへの同情があるし、それどころか同格の吸血王を見たことがある身としての共感すらあるくらいだ。


「お言葉ですが、それは愚策かと」


 だがクルークは間髪入れずに否定した。


「大前提ですが、やつらはやろうと思えば世界のどこでも好きに攻めこむことが可能です。真の意味で安全な場所など、魔王軍がいる限りどこにもありません」

「……貴殿らの故郷にも、現れたのか?」

「主な敵は魔剣ではなく吸血鬼と悪魔ですがね。……いずれにせよ、ただ逃げても不利になるだけでしょう」

「……やはり、戦うしかないということなのか……」


 山人族(ドワーフ)の王は、諦めたように呟いた。

 恐らくは言われなくてもわかっていたのだろう。しかし勝ち目の薄い戦はしないのが優秀な王だ。歴史の中では圧倒的不利をひっくり返した将が持て囃されるものだが、本当に優秀な指導者ならまず不利な戦いをしないってのは言うまでもないことだからな。

 今回は、相手が悪いって話なわけだが。


「戦い、勝利する。それ以外に未来を掴む手段はありません」


 クルークに代わり、俺が発言する。小難しい論争をするのは無理だが、意思を伝えるくらいは俺にもできる。

 ここは俺が言うべきだろう。もしかしたら集団自殺するに等しい選択をするのは、責任者である俺の役目だ。そこから逃げるのは許されない。


「……わかった。貴殿らの要請を国として受け入れよう。共にあの異形を打ち破り、未来を手にしよう」

「感謝します」


 王様は勇気を振り絞るように宣言した。その両肩にのし掛かっている重圧は俺にはわからない。

 現状では背負う責任が自分を含めて5人分しかない俺と違って、王が背負うのは全国民……そして種の存亡だ。

 やっぱ、王って称号は恐ろしいものだな。俺にはとても真似できそうにない。


「では、より具体的な話に移りたいのですが……まず確認しておきたいのが情報の共有、特に未知の存在である魔剣王に関する情報です」

「魔剣王によって英雄と呼ばれる者たちが全滅させられたとのことですが、生き残りは一人もいないのでしょうか?」


 いくら強いと言っても、防御と撤退に徹した英雄を皆殺しになどできるのだろうか?

 彼らの英雄ってやつの実力が未知数だから何とも言えないけど、生き残った者が少数いてもおかしくない。

 直接刃を交えたものの言葉以上の情報はないし、結構期待しているんだが……。


「……いない、というわけではない」


 王様は苦虫を噛み締めたような表情で俺の言葉を肯定した。

 生き残りがいるなら朗報であることは間違いないと思うんだけど、何でそんな嫌そうな顔なんだ?


「魔剣王は恐ろしい怪物であったそうだ。直接戦地に赴いていないワシでは詳しいことは言えんが、その圧倒的な速度により瞬く間に英雄たちを切り裂いたらしい。その一撃を受けてなお生き延びた者、ということならばおるよ」

「でしたら、是非お話をお聞かせ願いたい。もしかしたら何か勝利に繋がる糸口が見つかるかも……」

「いや、それは不可能だ」


 俺の要望は強い口調で拒絶された。

 別に失礼なことを頼んだつもりはないのだが、山人族(ドワーフ)文化的に何か不味いこととか言ってしまったのだろうか?

 いや、許可しないではなく不可能だと言ったことから考えると、何か事情があって当事者たちの言葉を聞くことができないってところか?


「もしかして、全員意識不明とか錯乱状態とか、そんな状態なのでしょうか?」

「……正解に近いな。かの魔剣王と対峙して生き延びた者たちは皆、今も苦しめられているのだ。塞がらぬ傷から血を流してな」

「傷が塞がらない? ……失礼ながら、医薬品が足りないのでしょうか? あるいは治癒の術を使える者は?」

「無論おるとも。薬による通常の治療から奇跡を使った回復まで、考えられるあらゆる手段を用いて英雄たちを復活させようと努力はした。だが、どうやっても傷が塞がらないのだ」


 王は無力を嘆くように首を振った。

 文脈的に、奇跡ってのは魔法の類いだろう。通常の治療でも魔法でも傷を塞げないとは……呪いの類いかな?

 治癒阻害の呪いを与える魔剣ってのはわりとよく聞く話だ。問題は、かなり高い技術を持った国家単位取りかかっても解呪できない強さか。


「今は輸血を繰り返して命を保っておるが、まだ息があるのは彼らの生命力あってのものだ。……国のために命を懸けた戦士に何一つしてやれんワシを軽蔑するかね?」

「まさか。あなたの様子を見れば、どれほどの思いがあるのかはよくわかります。そのような人物を軽蔑するほど、我らは愚かではありません」

「……すまんな、暴言をはいた。謝罪しよう」

「お気になさらないでください。……ところで、改めてお願いしたいのですが、我々を負傷者と会わせてはいただけませんか?」


 今度はクルークが俺と同じ要請を行った。

 そして、否定の言葉が出てくる前に畳み掛けるのだった。


「恐らくは、その塞がらない傷は呪いの類いでしょう。私はその分野にも少々知識がありまして、お力になれるかもしれません」

「ム……無論我が国の解呪師も尽力し、お手上げだったのだ。それを何とかできると申すか?」

「実物を見なければはっきりとは言えませんが……こちらには呪術を祓うスペシャリストがおります」


 ……呪術を祓うスペシャリスト? そんなのいたか?

 アレス君なら光属性の加護があるからその手の能力には強いけど、別にスペシャリストって訳じゃないと思うんだが……?


「……そこまで言うならば、案内させよう。……未知なる技術が彼らを救ってくれることを祈る」

「全力を尽くします」


 俺とクルークは王を安心させるように力強く頷いた。

 正直クルークの考えがよくわかっていないのだが、そういうときほど自信満々って顔をしておけば大体なんとかなるものだ。


「では、彼らを医務室へ案内せよ」

「畏まりました」


 王は臣下の山人族(ドワーフ)に命じ、俺たちを案内させる。これで話し合いは一旦お開きだが……もし治癒に成功すれば一気に友好関係の構築まで持っていけそうだな。

 国民のことを第一に考える優しい王さまみたいだし、できれば俺も何とかしてやりたいとは思う。と言っても、その分野で俺ができること何てないんだが……。


(にしても、俺たち二人だけでいいのか? アレス君連れていかないと意味ないんじゃ……?)


 俺は首をかしげつつもクルークのプランを信用して共に歩く。

 とりあえず診断して後で打ち合わせるつもりかもしれないしな。


「こちらです」

「ありがとうございます」


 暫く歩いた先で、真っ白な扉が遮る部屋に前に通された。周囲はガガル山のときのような剥き出しの岩肌ではなく、きっちりと整地された通路となっている。

 山のなかにこんな施設を作るとは、やはりすごいな山人族(ドワーフ)は。


「ここより先は無菌室となっておりますので、こちらに着替えて消毒をお受けください」

「え? あ、はい」


 全身を包む真っ白な割烹着みたいなのを渡され、消毒室に案内された。

 ……本当に、いろいろ発展しているんだな。


「……こちらが患者です。今は輸血点滴を使って出血量を補っていますが、我々ではこれが精一杯なのです」

「へぇ、すごいね。見たことのない装置だ」


 クルークは感嘆の声を上げるが、俺はなんか見たことあるような気がする。ここではないどこかで、それこそ産まれる前に――


(……ふぅ。これは捏造された記憶だ。自分をしっかりと保て)


 俺の精神を支配するような『俺の知らない過去の記憶』を頭を振って払う。

 さて、ここからどうするのかな?


「うん。やっぱり闇属性由来の呪いだね。それじゃ、頼むよ」

「え? 俺が?」


 クルークは軽く診断して俺に話を振ってきた。俺にこの患者を治せと。


「えっと、俺解呪とかさっぱりなんだけど……」


 仮に俺が光の浄化で呪いを消そうとすれば、一緒に患者も消してしまうだろう。

 これは鳥人族(バードマン)の毒治療のときも言ったと思うんだが、どういうつもりだ?


 俺はそんな思いでクルークを見ると、呆れた様子でため息を吐かれてしまうのだった。


「あのね。毒物の類いならともかく、これは闇属性の魔力に由来する症状だよ? 他に誰にもできなくても君ならできるってのは証明済みだろう? 他ならぬ僕がその証人なんだから」

「……あ、そういうことね」


 そこまで言われればわかると頷き、俺は一応消毒して持ち込んだ嵐龍に手をかける。

 突然刃物を持ち出した俺に案内してくれた山人族(ドワーフ)が慌てるが、それをクルークが宥める。

 まあ、論より証拠だ。実際に見せた方が早いな。


「【覚醒融合】」


 純白の全身衣の下から翼と尻尾が生えてくる。

 その様子を見て顎が外れんばかりに驚いているようだが、まあ全部後でね。


「んじゃ、呪いを食うとしようか」


 俺は患者の傷口に手を持っていき、そこに渦巻いている闇の魔力を引き釣り出す。

 覚醒融合を行い、精霊に近しい状態となった今の俺なら闇と光を食らうことができる。

 こうして、患者を苦しめていた呪いはあっさりと消え去ったのだった。

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