第166話 山人族との交流
「宴じゃー!」
「あたしら助かったんだねぇ……」
「正直もう無理じゃと諦めとったけど、世の中捨てたもんじゃないのぉ」
ド・ガガルの住民を閉じ込めていた魔剣王の部隊を討伐してしばらくした後、連絡を受けたメイたちが山人族を連れてここまでやってきた。
俺たちとは違う種族とは言え、家族の愛情に変わりはないらしく愛する者との再開に山人族たちは歓喜した。
外見から何から全く違う上に、警戒心を持って当然だろう戦闘力まで見せた俺たちをあっさりと信用し、こうして祝宴の席で上座に座らせてもらうほどの信頼を得たのだ。
「わしら自慢の酒じゃ。あの鎧共はメシを食わんようだったんで食料庫は無事じゃったし盛大にやっとくれ」
「代わりに鉱石倉庫は全滅じゃけどな」
「なに、今急いで炭鉱夫たちが堀りにいっとる。元のようにとはいかんじゃろうが、当座の分くらいは集まるじゃろ」
客人として招かれた俺たち一行の前にはあれよあれよという間にご馳走が並べられていく。魔法生物は食事をしないので手付かずだった食料倉庫を解放しているのだ。
ここのところ自給自足生活を送っている身としては上げ膳据え膳は何とも楽でいい。見たところ主食はパンで、付け合わせは何かの肉のようだが……何の肉だろうな?
「じっくり寝かせて熟成させた山蜥蜴の香草焼きじゃ。うまいぞ?」
いろいろあって俺たちの接待役として側についているギギがいい笑顔で正体不明の肉を進めてきた。
そうか、これ、蜥蜴の肉なのか……。
「ちょっと固いけど美味しいわね」
「懐かしいですね、この食感は」
躊躇することなく肉にかぶりついたのはカーラちゃんとアレス君だ。カーラちゃんは元々食材の由来を気にするような神経持っていないし、アレス君も田舎育ちなのでこういうのは慣れているのだろう。
「この香草なんだろうね? 嗅いだことない香りだ」
「何でもいいだろ、旨ければ」
弟子と同じくゲテモノとかそういう概念がないメイと、本人がゲテモノのクルークも躊躇なく食いついた。クルークは肉よりも材料の香草が気になるようだが。
そして――
「これ、追加もらえる?」
「ハオ! どんどんやってくれ!」
俺はあっという間に食いつくしておかわりを要求した。
うん、まああれだ。今さら変わった料理の一つや二つで躊躇するほど真っ当な人間なんてここにはいないのだ。
「うぉ、この酒はなかなか……」
「旨いじゃろ? わしらも滅多に飲めない秘蔵の名酒じゃぞ?」
「確かにいい味だけど、これはなかなかにきついね……。君らの種族はこれを飲んでもなんともないのかい?」
「うん? まあそうじゃの。こいつは味はいいが今一度数が低いんで、酔うのにはちと量がいるの」
「ふーん……普通の人間だったら一口で火を吹いていると思うんだけど」
いつの間にか近くに寄ってきたちょっと老けた山人族と出された酒について語り合っているクルーク。それにつられて酒を口にするメイに、自分も飲もうとするカーラちゃんを止めようと奮闘するアレス君。
各々楽しんでいるようだし、とりあえずの友好関係構築は成功と言えるかな。案外異文化交流も楽に――
「ホイ! 今戻ったぞい!」
「今日の宴のメインディッシュの到着じゃい!」
暫く宴会を楽しんでいたら、入り口に繋がる洞窟から何人かの団体が入ってきた。口ぶりからして何かの狩りにでも行っていたのかな?
自信ありげなご馳走を持って帰ったようだけど……
「ホウ! こりゃあ上物じゃ!」
「ワシが食っちまいたいくらいだの!」
「ならんならん、これは我らが恩人が真っ先に口にすべきじゃろうが」
「わかっとるよ、冗談じゃ」
ガヤガヤと山人族同士で盛り上がっている。人だかりが壁になって何が出てきたのかはわからないが、よほどうまそうなもののようだ。
さて、いったい何が――
「待たせたの! ホレ、帝王石の竜砂包みじゃ!」
「カーッ! これだけでワシの稼ぎの半月分がすっ飛ぶのう!」
「…………ぇ?」
出てきたのは、石だった。見るだけで膨大な魔力を宿していることがわかる深紅の魔石が、これまた強力な魔力を感じさせる砂に茹でた木の葉を使って包まれている。
えっと、これは何なんだろうか……?
「これ、食べるの?」
「ホイ? 当たり前じゃろ?」
「鉱石は旨いし身体にもいい。その中でもこいつは格別じゃ」
「さあさあ、遠慮せずにやっとくれ」
……どうやら、冗談でも嫌がらせでもなく心からの好意で言っているらしい。
ちらりと近くを盗み見てみれば、本当に何人もの山人族が石にかぶりついて飲み込んでいる。心からの笑顔を浮かべながら。
……うん。
「異文化交流って、難しい」
わかりきっていた事実を再確認しつつも、俺たちは流石に無機物は無理――とりあえず食ってみたカーラちゃんが涙目になっているが――と丁重にお断りをしつつも宴を最後まで楽しんだのだった。
◆
「これからじゃと?」
「わしら、別にここから動く気ないんじゃけど?」
宴が終わってしばらくして、俺たちはここド・ガガルの代表者との会談を行っていた。
議題はこれからの行動について。こちらからの提案は、早急にこの地を去るべきであるということだ。
「確かに住み慣れた家を、それもつい先ほどまで不当な侵略者に奪われていたところをようやく奪還した家を離れたくないと言う気持ちはわかります。ですが、はっきり言ってここは安全とはいえません」
こちらからの意思を代表して口にするのはクルークだ。人選は言うまでもなく、俺たち五人の中で一番弁が立つからである。
「なぜじゃ? もう魔剣王軍はおらんじゃろ?」
「貴殿らが一人残らず成敗したと聞とるし、実際敵がおらんのは確認しておるぞ?」
クルークと言葉を交わす山人族の代表者たちが不思議そうに首を傾げた。
ここにいるのは、全部で5人の山人族だ。
全体の監督役であり、まとめ役である集落の長たる山長。
山長の補佐としての役割を持つ副山長。
産業事情としても食料事情としても重要な鉱山採掘の責任者である採掘長。
全員が優れたものづくりの技能を持つ種族のなかで、更に専門家と呼ばれる技量を持つ職人達の総大将である技術長。
そして、肉類を初めとする鉱石以外の食料の確保を役職とする狩猟長――なんとギギのことだ――の全5名。
本来ならば山の守備戦力としての役割を持つ兵士長と呼ばれる山人族もあわせた全6名がド・ガガルの議会メンバーであり、平時の取り決めから緊急時の対処までを決めているとのことだ。
今ここに5人しかいないのは『魔剣王軍の理不尽な謀略に対抗する』という目的を掲げて山の戦士の大半が王軍に合流してしまったかららしい。本当は魔王の軍勢に大陸を荒らされる前に撃退するつもりだったそうなのだが、ギギからも聞いていた通り魔剣王自らの初撃により山人族王軍は壊滅、彼らを守るべき兵士達も帰還しなかったようだ。
結果としてほとんど戦えるものがいないド・ガガルは攻め入ってきた魔剣王軍に抵抗することもできずに占拠されたというのが事の顛末のようである。
「理由は簡単なことです。はっきり言いますが、ここで起きた抵抗はいずれ魔剣王軍に知られる事となります」
「なんじゃと?」
「敵は一人残らず倒したんじゃろ?」
ガガル議会の面々が不安そうな表情で疑問を投げかけてくる。
彼らは基本的に非戦闘員だ。戦闘員となるべきものがほとんど残っていない――僅かに残った兵士は魔剣王軍に殺されたとの事――ので、荒事を前提にものを考える力に欠けている。
俺のような者でも当然のように考え付くことですら、彼らには考えられないのだ。平穏の中に生きる者からすれば、その平穏は絶対のものだとつい考えたくなってしまうもの。それを責めることはしてはならないだろう。
上に立つものとしては失格な考えであるが、そもそも彼らは権力者と呼ぶにはあまりにも素朴な田舎住まいの一般人代表でしかないのだから。
「敵は野良の魔物ではなく、軍です。となれば、当然各地に散った戦力の状況を定時連絡と言う形でやりとりするくらいはしているでしょう」
「そ、それは……」
「その方法は不明、つまりここで起きた奪還劇を隠し通すのは不可能です。もし異常があったことが知られて第二の部隊が送り込まれてくれば……後はわかりますね?」
クルークの有無を言わせない断言に、ガガル評議会は沈黙を余儀なくされる。
彼らは代表者と言っても所詮は田舎の村長レベル。英雄の眼力に抗うことなどできるはずもない。
そして一般人だからこそ、彼らの脳裏には間違いなくつい先ほどまでの光景が再生されているはずなのだ。
手も足も出ない無機質な怪物に刃を向けられ、家族を人質に囚われいつ死ぬかわからない恐怖に晒される生活が。
「……ど、どうすればいいんじゃ?」
「それをお聞きしたいところなのですが……まあ、私からの提案をさせていただくのでしたら避難するほかありません。一度占領された以上この山の情報は全て敵軍に知られているのですからね」
「そ、そうじゃが……そもそも本当にここに来るのか?」
「そうじゃそうじゃ。こんな田舎山をわざわざ二度も攻める理由など――」
副山長と技術長が搾り出したように楽観論を口にする。
まあそう考えたくなる気持ちはよくわかるのだが、残念ながら世の中そんなに甘くはないだろう。
クルークはそれを突きつけるかのように言葉を続けるのだった。
「残念ながら、その未来は確実にやってきますよ」
「な、何故じゃ?」
「簡単です。我々よそ者にはあなた方山人族の社会情勢はわかりませんが、あなた方が言うようにここド・ガガルが何の変哲もない田舎なのだとすれば――何故そんな場所で自分達の同胞が撃破されたのか、気になりませんか?」
「……あ」
クルークの指摘にガガル評議会は揃って状況を理解したように固まり、続いて意気消沈と言った様子で目線を下げるのだった。
「間違いなく注目を集めます。もしかしたら自分達が認識しない兵器の類を隠し持っていたのではないか、今まで温存されていた山人族の主力メンバーが活動を始めたのではないか、あるいは無関係の第三者が支援したのか――などなどいろいろ考えられますが、確実に言える事は一つ。そこには自分達を排除できるほどの何かがあるということです」
「どう考えたとしても、それを確認するために兵を向けるということか……」
「ええ。それに関しては原因は我々ですが、仕方がないことだとご理解いただくしかありませんね」
「無論、それに文句をつけるつもりなどないわい。あの怪物共に目をつけられるのは恐ろしいが、奴らの切っ先が常に自分達の首に突きたてられとる状況よりはましじゃよ」
「恩人にそんなことは断じて言わん。それはワシらの誇りにかけて誓わせてもらおう」
クルークが少々心配していたことを口にすると、ガガル評議会メンバーは揃って首を横に振った。
理不尽な考え方だが、この状況は俺たちのせいだと糾弾する事は不可能ではない。こちらは助けた身であり感謝される側である――なんてのは所詮助けた側である俺たちの理屈だ。
考え方次第ではあのまま囚われていた方が魔剣王軍の注目を集めるよりはよかったんだ――なんて責任転嫁をされることもありえたからな。
とは言え、それは彼らを舐めすぎだったらしい。俺たちは侮辱したに等しい心配をしたことを軽く頭を下げて詫び、話を続けるのだった。
「では、改めて本題に。いずれ敵が来るのは確定である以上、ここを離れた方がよろしいでしょう」
「うーむ……話はわかったんじゃがの」
「そう簡単にはのぉ……」
「そもそも、どこに逃げると言うんじゃ? 今のご時勢、団体移動なんてしとれば野良の魔物の類から魔剣王軍の奴らまでこぞってワシらを殺しに来るぞい」
「まさか野宿し続けるわけにもいかんしのぉ。はっきり言って、そんな生活送るくらいならここの防衛設備を整える方がなんぼかましじゃ」
現状の危険を理解したうえで、やはりガガル評議会の面々は難色を示した。
当たり前の話だが、危険だから逃げなきゃいけないと言われてもどこに逃げるかが問題になる。ここにきてまだ二日と経っていない俺たちに案などあるわけないし、山人族たちに心当たりがないのでは結局話はここで終わってしまうだろう。
まあ、クルークの、引いては俺たちの持って行きたい着地点からすればここからが本題なんだけどね。
「ここに閉じこもっていてもいずれ敵がやってきます。そのときに対応する策はありますか?」
「いや……」
「その……のう?」
ガガル評議会のメンバーはそれぞれが縋るような目でクルークを見ている。
恐らく彼らの考えている事は『俺たちに守って欲しい』というところだろう。自分達に戦力がなく、目の前に敵軍より強いと証明された武装戦力がいるのだ。その力に縋りたいと思うのは当然の発想だとは思う。
俺としても、暇を持て余していて機嫌がよくてサイフが潤っていれば頷くのもやぶさかではないのだが……残念ながら、俺たちにそんな余裕はないんだよねこれが。
「残念ながら、我々もあまり長くここに留まることはできません」
「う……むう」
「それでは、いったいどうするつもりなんじゃ?」
キッパリと告げたクルークに、ガガル評議会は沈黙した。彼らもわかっているのだろう、俺達がここまで手を貸したが、それはこれと言った必然性があるわけではないと。
極論、俺たちは彼らを見捨てていても何の不都合も無かったのだと。ここまでの助力は善意からの行動であり、いつまでも期待する方が間違っているのだと。
彼らの立場からすればそう考えるしかないのだが、俺たちからすればもちろん違う。
ここまでの助力は『英雄は無償の人助けをして当然』なんて奴隷根性での考えではなく、実利を求めての行動なんだからな。
というか、自国民でもない相手に無償の慈悲をかけるとかもう英雄と言うか聖人の類だろう。俺たちには一番に合わない言葉だ。
いや、アレス君辺りは暇があれば普通に聖人的善行を趣味感覚で積んでる気もするけど。
「私たちはこれよりあなた方山人族の本拠地――未だ魔剣王軍への抵抗を続けている国防軍の元へ向かうつもりです」
「その理由を聞いても?」
「我々がここに来た理由は魔剣王軍と一戦交えるためです。しかし見ての通り我々は個々の武勇には優れていても数は劣ります。そこで国防軍に協力しようと考えているのですよ」
「なるほどのう……」
「確かに彼らが協力してくれれば国防軍も大助かりじゃな」
「じゃがワシらはどうするんじゃ?」
クルークは俺たちのこれからの行動指針を明かした。
俺たちは元々山人族と協力して魔王軍と戦うのが目的だ。そのためには戦力を維持している軍隊へ接触を持つ必要があるのは事実であり、クルークは嘘を一つも吐いていない。
「うむむ……」
「山の防備を固めては……」
「しかし戦士がいないのにどうにかなるのか?」
「狩人達の弓矢くらいしかまともな戦力ないしの」
「正直、わしらに期待されても困るぞい。手も足も出ないのはもう証明済みじゃし……」
ガガル評議会の面々は不安を煽られまくって絶望的な雰囲気を醸し出している。
……そろそろかな?
「そこで最初の話に戻りますが、私たちと共に行きませんか? このまま放置するのは流石に良心が咎めますしね」
「う、むむ……」
「彼らの助力が期待できる内に王都まで避難するのが一番なのかのぉ?」
「いやいや、しかしわしらが王都に行ったところで受け入れてもらえるもんかいのう?」
「まあそこはあなた方同士の交渉次第でしょうが……どうしますか?」
山人族たちからすれば今すぐに決めるのは難しい、ガガルの民全ての命がかかった決断とも言えるものであり、早急に判断しろと言うのは無茶だろう。
だが、時間も無いのでここは決断してもらわなくてはならない。こっちとしては一緒に山人族王都まで行くという名目での案内と、所属不明な上に未知の種族なんて怪しさしかない南の住民の好意的な紹介をしてもらわなきゃいけないんだしさ。
「……では多数決をとろう」
「それでよいのか?」
「本来なら議論の末に山長であるわしが決定すべきところじゃが、正直これはわしには荷が重い。だが勘違いしないで欲しいのだが、あくまでも多数決はわし個人の意思決定の補助であり、最終的な責任はわしにあるのだ」
「……よかろう」
話し合いでは片付かないと判断したのか、多数決での決断にしたようだ。
これでここに留まるとか判断されるといろいろ面倒なんだが……どうなるかな?
「では、彼らの提案に従い全体でガガルより王都へ向かうことへ賛成する者は手を上げよ!」
山長の呼びかけに応じて、5つの緑色の手が挙がる。
つまり――
「全員一致か。決まりじゃの」
「まあ、そりゃそうじゃろうな」
「このまま黙ってまた襲われるよりはのぉ」
どうやら、全員腹の内は同じだったらしい。
ここにいれば確実に同じことの繰り返し、最悪皆殺しだ。それを思えば俺たちと一緒に来るのを選ぶだろう。
その冷静な判断を下してくれるのか、冷静さを保つのは難しい危険な話題では不安だったが……やっぱり失礼な評価してたかな。
「では、その旨を皆に知らせるとしようか」
「準備はどのくらいの期間を取る? 食料の運搬など時間はかかるぞい? そもそも旅ができるくらいの物資に余裕あるんか?」
「王都まで最速で移動しても……まあこのくらいかかるかの?」
「その辺はわしら狩猟班が何とかするが……荷台なんかは技術班に任せるぞい?」
「わかっておるわい。素材は採掘班で用意してもらうが大丈夫か?」
「鉱石の類はほとんど持ってかれてしもうたからのぉ……」
評議会の面々は方針を固め、より具体的なことを話し合い始めた。クルークもそれに参加してあれこれ助言しているようだが……うん。
(これ以上俺がここにいる意味ないな)
いつの間にか話し合いに飽きたクン師弟は退室しているし、俺もここを出ようか。
俺の仕事は、移動中だろうしな……。
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…………………………
……………………
………………
「……結構距離あるんだな」
「それに、かなりの勢いでこの大陸は侵略されているな。獣の類はないが……」
「魔剣王の手下っぽいのの襲撃が今日だけで37回もあるしな」
準備に数日かけて、俺たちはド・ガガルの住民と共に山人族王国の王都を目指して旅立っていた。
俺たちは当然全体の護衛だ。護衛対象の数に対して俺たちは少なすぎるが、まあ魔術師がいれば大抵の事は何とかなる。
具体的には数はクルークの召喚魔法で補い、何か現れたら召喚精霊に時間稼ぎさせて俺達が急行という手段をとっているのだ。
空からは風帝馬の編隊によって守らせているし、よほどのことがない限り不意打ちを受けることはないだろう。
その方式で旅に出てから数日間、見事に山人族たちを守り抜いているが……事態は深刻だった。
一般人をこれだけ連れての隠密行動など初めから不可能と諦め、ならばと並みの獣なら全力で山三つくらいは離れるってくらいの殺気と魔力を垂れ流しで歩いているのだが……出るは出るはの魔法生物系モンスター。
どれも組織立っての行動というよりは突発的な遭遇戦だったが……かなり深いところまで陣地を奪われているらしいな。王都に近づくほど頻度が増えるのがなお嫌な予感しかしないって話だ。
「まあまあ、もうすぐ王都に着く筈じゃから」
「そうなのか? ……王都も山をくりぬいて作られているって話だけど、俺には見分けつかないからな……」
西の大陸は山だらけだ。それも岩肌がむき出しの岩山ではなく、緑豊かな木々に覆われた山脈が大半を占めている。
土の力がこれでもかと込められているからこその肥沃な土壌なのだろうが、だからこそ俺たちには見分けがつかない。穴だらけだったド・ガガルさえも木々に邪魔されて遠目では普通の山にしか見えなかったほどだ。
「そうかの? わしらからすると全然違うんじゃが――っと、見えてきたぞい」
近くを歩いていて俺たちの会話を聞いていたギギが話しに混ざってきた。
ここでも種族間の能力差が浮かび上がってくるが、そんな感傷を抱く前にギギが遠くを指差したのだった。
俺はその指の先を目で追い、納得する。
確かに、あれは他と違うと。外見だけで言えば他の山脈と同じだが、決定的に違うと。
なぜなら――
「アレがワシら山人族国家の首都、ゴ・ベベルがある聖地“ドドガーダ”じゃよ」
ギギがドドガーダと呼ぶ山。一見ただの山だが、そこから感じられる威圧感はまさに異常。
類似するものはそう、俺たちの故郷である水の大陸が誇る都市のひとつ、女神教総本山である聖都マーシャルが有する水の精霊竜が住まう『水聖山』に酷似しているものであった――。




