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【番外編完結】他力本願英雄  作者: 寒天
魔の勢力との開戦
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第161話 最後の激突

「こ、これは……!」


 見覚えのある変形剣に貫かれ、その場に縫いとめられた征獣将グラム。

 ダメージを体内の異空間に飼っている魔獣に移せるとはいえ、すり抜けられるわけではない。それは今までの攻防から見てもわかることだ。

 あくまでも、攻撃を受け吹き飛ばされようが肉体的損傷はないというだけ。足止めは可能だ。そもそも避けないからそんなことをする意味が無いってことでやらなかっただけで。


 だから、俺を殺す0.01秒前だった征獣将が変形剣に貫かれ、地面と一体化させられているのはおかしなことではない。

 しかし、その剣が刺さった場所から大量の血を流しているのがおかしい。まさか奴の不死身の根源である魔獣を殺しつくしたわけでもないだろうに、間違いなく首なしの異形と化した征獣将はダメージを受けているのだ。


「……ぬかったな。よもや、これほどの遠距離から気配を消した弓兵が狙っていたとは……」


 征獣将は失った首の代わりに腹に作った口を使い、忌々しそうに呟いた。

 そういや、奴の正体は合成獣(キメラ)――その最上位種、魔獣巣窟(グランドキマイラ)だったな。俺は首を落とした程度のことで勝利したつもりになってしまったが、奴にとっては身体そのものがいくらでも代用が効くものなのだ。頭がなくなったところで何の問題もないのも当然か。


「なるほど、僕としても予想の外だったけど、大分弱点が読めたね」

「というと?」

「そもそも僕を含めて合成獣(キメラ)ってのは並大抵のダメージはダメージにならない。壊れた部分を切り捨てて再構築するだけでいいんだから。それに加えてダメージの転写能力によって無敵になっているわけだけど、少なくとも後者の破り方はわかったってことさ」

「だから、どういうことだ?」

「要するに――ダメージの移行はオートじゃなくてアクティブな能力ってことさ。攻撃されることを認識した上で能力を発動させなきゃ意味が無い。今みたいな、意識の外側からの攻撃では普通にダメージを受けるってことだね」


 ……なるほど、堂々と姿を晒してきたからこっちも正面対決してたけど、そんな破り方があったのか。

 あえて動かずに正面から攻撃を受けていたのもそれが理由か。下手に避けて想定外の攻撃をされないようにするため、一番わかりやすい真正面からの攻撃を受けていた……と。

 ともかく、相手に認識されない攻撃なら通用するか。そういわれてみれば、確かにあれは効いただろう。何故か金色に光ったまま、遠くから狙撃を行ったアレス君の存在に気がつく事は難しい。


 だって、あんなに目立つ姿しているのに気配がまるでないんだもの。何故か宿している力が跳ね上がっている様子の不朽の剣を見る限り、気配遮断の能力でも付加されたのか……?


「そんなことより、今がチャンスなのではないか? 攻められるだけ攻めるべきだろう」

「そうだね。合成獣(キメラ)の再生力もダメージ移行も、攻め続ければ破れる能力だ。……でも、それほど簡単にはいかないと思うよ」


 クルークがため息と共に征獣将を見る。

 すると、征獣将は身体に突き刺さった刃を身体から外した。それも引き抜いたのではなく、自らの身体を切断するように横に抜いたのだ。

 そんなことをすれば当然重傷、はっきり言って切腹と変わらないはずなのだが、当の征獣将は何でもない様子だ。どうやら、今のダメージは移行により斬れると同時に無効化して見せたらしい。


「ふん……!」

「頭も腹も元通りか」


 続けて、征獣将から頭が生えてきた。斬りおとした頭はまだそこに転がっているのに、全く同じものが切り口から生えてきたのだ。

 ……あんな再生力があるなら、超撃集約の極意を使った無敵なんて必要ないんじゃないか?


 って、うおっ!?


「【炎術・執念の炎ディナージャ・フレイム】」

「うわー。邪悪な魔法ね……」


 再生を続ける征獣将に、クルークが如何にも外法の使い手が好みそうな炎をぶつけた。

 永遠に、標的を焼き払うまで燃え続ける。そんな執念を感じさせる炎だ。

 もっとも、征獣将は炎に包まれてなお一切火傷も負っていないようだがな。


「やっぱり、いくら焼いても今度はスルーされているね。でも、その炎は生命を蝕むように燃え続ける『消えない炎』だ。無効化できても、再生はさせないよ」

「……アレで何とかなるのか?」

「それは無理だ。ただの時間稼ぎだしね。あのダメージ移行と合成獣(キメラ)の再生力という二重の不死性は簡単には破れないよ。まあ、実際に身体を破壊されてから再生するのはコストが高いから多用はできないだろうけどね」

「そうなのか?」

合成獣(キメラ)は全身の構築を司る核が壊れない限りは材料があれば再生できる。でも、直撃を受ければその核が破壊されるリスクもあるし、強靭な身体を作るにはそれなりにいい素材が必要……それは言うまでもないでしょ?」

「ああ、自分の身体用に使っている魔獣は希少品(レア)なわけね」

「それでも一億もいれば代えはいくらでもあるだろうけど、できれば使い捨てできる低級の消耗で済ませたいのが本音だろうね」


 俺は冷や汗を流しながらもクルークの解説を聞く。

 本当なら、今喋っている場合ではない。力の限り攻め続けるべきだろう。再生するために、こうして魔獣の指揮もせずに無防備を晒しているのだから。クルークの炎だってそんなに有効ではないようだし。

 でも、身体が動かない。怯えているとか気圧されているとか、そんな精神的な問題ではなく……もう身体を動かす力が残っていないのだ。


「師匠!」

「アレス君……しばらく見ないうちに、随分変わったね」


 打つ手なしで仕方がなく会話による情報整理をしていたら、魔獣軍が動きを止めた隙にアレス君が飛んできた。

 俺の体感時間だと三年ぶりなんだが、実際は精々数時間程度のはずだ。それなのに、何かこう……うん。男子三日会わざれば刮目して見よとはいうが、本当に変わったね。

 修行の成果で身につけた覚醒融合のときは全身に鋼の鱗を纏っていただけだったのに、今はド派手な金の鱗を纏っている。その全てから神聖な光の魔力を放っており、さながら光の竜といったところだろうか。

 手にする剣も、さっきまで征獣将に刺さっていた不朽の剣なのだろうが……色が変わっている。というか、存在の基盤から変質している気がする。トカゲがドラゴンに進化したってくらいに桁が違うものになっている。


 本当に、一体何があったんだ……?


「……戦力が回復したね。それじゃ、征獣将が完全に回復する前に攻めてくれないかい?」

「え? 僕ですか?」


 クルークがやってきたアレス君に向かって告げた。

 この面子の中で自分が頼られる……なんて経験がないせいか、アレス君は驚いた様子を見せる。でも、そこは自信を持って欲しいね。


「今一番元気なのは君だからね。……頼むよ、肉体の修繕中は意識のほぼ全てを集中させなければならない。だから、奴が完全に戻ることのないよう破壊し続けてくれ。キミだけが頼りだ」

「大丈夫。今のアレス君なら、十分通用するよ」

「……はい!」


 僅かな動揺の後、すぐに覚悟を決めた目で頷くアレス君。なんというか、成長を感じさせられるな。

 師匠として、俺を越えるまで弟子を守るつもりだったけど……案外その未来は遠くないのかもね。


「なに、心配するな。私もついていく」

「メイ……大丈夫なのか?」

「ああ。少しは休めた」

「休めたって……1分くらいだろ」

「これ以上ゆっくりしていては身体が鈍るくらいだ」

「……体力お化けめ」


 一応純粋な人間であるはずなんだが、実は先祖に何か混じっているんじゃないだろうか?

 最近本気でそう思うようになってきたよ。


「そういうことなら、俺も頑張らないと……」

「いや、レオン君はちょっと待ってくれ」

「え?」

「今攻撃しても、できるのは足止めくらいなものだ。流石に炎で炙る程度ではなく本格的に攻撃し始めれば再生ではなく攻撃の無効化を優先するだろう。そのままの戦闘続行もね」

「ま、実際あのままでも戦う事はできそうだしな」

「だから、次は確実に仕留める。頭を落とすくらいじゃ合成獣(キメラ)は倒せないけど、全身消滅させてやれば核も壊れて死ぬはずさ。……それができるのは、さっきのレオン君の攻撃だけだ」

「明鏡止水、か」


 最終段階、極の域に至った明鏡止水による攻撃なら征獣将を倒せる。それは予想通りだった。

 後はただの斬撃ではなく、巨体を消し飛ばすような大技を併用すればいい。それで倒せるのは理解できるが……もう、魔力が……。


「そのための力は、僕が補充する」

「魔力譲渡か? でも、お前だってもう魔力は……」

「確かに心もとないけど……幸い、補充元(エサ)はそこらに転がっているので十分だ。だから、大丈夫」


 その言葉と共に、クルークの身体がメキメキと音を立てて変わり始めた。

 人の姿を捨て、異形へと変質する。身体は膨れ上がり巨大化し、肉塊に触手が生えているような邪悪を象徴するような形へと変化していくのだ。

 その脈動する肉の塊の中心に、クルークの上半身が埋まっている。そんな形。何かを冒涜されるような、異形そのものだ。触手の先にはそれぞれでかい口がついており、それを使って周囲の魔獣を丸呑みにしている。あれで吸収するらしいな。


 これが、合成獣(キメラ)としてのクルークの正体……なんともまあ、人をここまで変えるとは、人間って奴はどこまでも恐ろしいものだな。


「本当は、人前で使うつもりはなかったんだけどね。でも、仕方がない」

「クルーク……」

「周囲の魔獣共を僕の異空間に取り込み、食らう。ここには空術対策の結界が敷いてあるせいで普通に取り込めないから、物理的に取り込んでね。そうして補充した魔力を、キミに送る。まさか、イヤとは言わないでしょ?」

「ああ、願ってもないことだ」


 生命の尊厳を冒涜するような異形より力を受け取る。それは確かに世間体悪そうだが、俺には関係ない。

 本来なら人間として死んでも見せたくないって顔に書いてある姿を晒して、俺たちのために闘おうって仲間を拒絶するほど俺は高潔な存在じゃないんでね。

 身体が化け物であろうが、大切なのは心だからな。


「アレス君、ミス・メイ。僕らの準備が終わるまで……頼む」

「わかった」

「は、はい!」


 クルークの変化を見ても全く動揺を見せないメイと、やや面食らいながらも力強く頷くアレス君。二人そろってもう消えない炎をかき消している征獣将へと向かっていく。

 さて、それじゃあ……俺も準備を始めるか。仲間を信じて、俺は俺にできることをしよう。


「ぐ、グググ……! まさか、保険を使うことになるとはな……!」


 征獣将が苦しみながらも何か言っているが、気にしない。

 余計な事は考えずに、明鏡止水を再び極みの域で発動させるべく、精神を集中させる。それが俺の役割だ――。



「……畏まりましてございます。征獣将グラム様」


 グラム親衛隊として、ひっそりと影に潜んでいた我々が動き出す。

 天上には二匹の鳥人族(バードマン)。共に種族最強と呼ばれ、片方は裏切り我らにつき、もう片方は今もなお同族のために武器を振るっている。

 だが、そのあり方も思想も我らにとってはどうでもよい。どんな存在であろうが、所詮はグラム様の糧でしかないのだから。


「奴らはお互いの戦いで疲労している。しかし油断は出来ない相手だ。確実に任務を達成すべく、初手より使う。死を覚悟せよ」

「無論、我ら一同思いは同じ」

「我らはそのためにある」


 どこからともかく、100を越える影が出現する。皆が皆、ここにいてそれを感じさせない隠匿能力により隠れていたのだ。

 我らは影より喰らう獣(シャドウイーター)。魔獣として、野生の本能に基づいた気配隠蔽に加え、独自の能力により奇襲に優れた特性を持つ魔獣の群れ。

 その役割は、暗殺。グラム様のお力により創造され、その命を使う者。その狙いは――あの鳥人族(バードマン)二匹!


「かかれ!」

「ッ!? 何奴!」

「何のつもりか知らんが、俺の戦いの邪魔をするな!」


 我らについている鳥人族(バードマン)が死の能力を持つ槍を振るった。

 しかし、元より我らは死ぬ覚悟。死を受け入れたものに死の呪詛など通じん。なんと言っても、我らは初めから死ぬことを前提として創造されたのだから。


「いざ、我らが命を散らせ」

「肉玉を砕け」

「共に我らが主の中へ戻ろう」


 我らそれぞれがグラム様より授かった力、肉玉を破裂させる。

 これはグラム様の体の一部であり、無数の魔獣の召喚――グラム様より切り離された小異界より魔獣を呼び出すためにある。

 我らがもつ肉玉の中にいるのは、グラム様の自立捕食獣(オートイーター)。周囲にある生命体を吸収し、異界を通してグラム様へと送る能力を持つ者たちだ。


「な、何だこいつらは!」

「我らを食おうとしているのか!」


 100体の我らが100体の自立捕食獣(オートイーター)を召喚する。彼らの見た目は生物として成り立っていないようなでかいミミズのようなものだが、その能力は凶悪の一言だ。

 それぞれが群体として動き、獲物を包囲。そのままお互いの肉体を異界の入り口として、グラム様の胃袋へとつなげる。

 気がつけば、取り込まれた生物はグラム様の糧としてその力と命を捧げることになる――それが本作戦の全てである。


「クッ! この……!」

「気色悪い!」


 二匹の鳥人族(バードマン)は暴れているが、無意味なことだ。

 この包囲は一度嵌れば抜け出すことなどできん。唯一方法があるとすれば広範囲を吹き飛ばす大威力の一撃でも使うくらいだが、戦いの中で消耗した今の貴様らにその余力はない。

 さあ、我らと共にグラム様の糧となれ――


『緊急事態と判断しました。これより、強制転移を行います』

「なに――」

「ボーンジ殿の、紋章が……!」


 完全に決まったと思った瞬間、鳥人族(バードマン)のうち一匹が消え去った。

 あれは、転移魔法か。よもやこのタイミングで邪魔されるとは思わなかったが……まあよい。逃がした獲物は大きいが、それでも最低限の仕事はできた。

 元より、狙いはこの鳥人族(バードマン)だったのだ。できればもう一匹も食いたかったが、仕方があるまい。


「鳳……! よもや、このような終わりになるとは……!」


 憎悪と無念。それを極限まで煮詰めたような顔のまま、我らがターゲットは肉塊に沈んだ。

 さあ、主の世界へ戻ろう。そして、共にグラム様の糧として、血肉としてその役目を全うするのだ……!



「ムッ!?」

「なんだ!!」


 征獣将グラム。度重なる攻撃によって不死身に思えた身体が少し崩れ、その再生を許すまいとメイ、アレス君のコンビで攻め立ててもらっていた。

 そんな強敵の魔力が突然膨れ上がり、その傷ついた身体が一瞬にして再生した。それも、新たなる要素として背に雄々しい翼を宿して。


「ふぅぅ……やはり、上物であったな。さして組み換える必要もなく我が血肉とすることができたわ」


 グラムはここまでの戦いで積み重なった損傷を一瞬で回復させ、健闘しているアレス君と限界などとっくに越えているメイへ襲いかかる。

 手には先ほどの槍に加えて、死の魔力を感じさせる槍が追加されている。槍の二刀流とは非常識なと言いたい所だが、気分次第で腕を増やせる生物からすれば当然の戦略だろう。


 奴を傷つけることができるのは、明鏡止水のようなあらゆる防御能力を無視する特殊攻撃か、さもなくば意識の外からの不意打ちしかない。

 既に存在を知られている二人に不意打ちは不可能。そして明鏡止水を最終段階まで発動させられるのは俺だけ。その俺は次の攻撃のための精神統一とクルークからの魔力補給の最中。


 つまり、どこからか監視の目を飛ばしていたために『自分を殺しうる技』の使い手である俺を警戒して消極的になる必要がない。一度実物を見せたために長い準備が必要なことも知られ、身体が万全に戻った以上今の奴に攻撃を躊躇する理由はなにもない。

 そう、理不尽な瞬間回復によって、俺たちは一気にピンチに陥ったのだ。


(くそ……いや、ダメだ。心を乱すな、魔力を安定させろ。ここで俺がぶれれば本当に終わりだ)


 メイはアレス君の加護の魔法によってフラフラながらも何とか食らいついているが、必勝を確信した魔獣の将は、デタラメに強かった。サポートに当たっているアレス君と二人がかりでも易々と吹き飛ばされるどころか、一手でも受け間違えば即死する。そんな戦いだ。

 技術的な意味ではそれほどでもないが、とにかく身体能力が異常なのだ。しかも前に戦った暴走コウモとは違い、技術の代わりに野生の勘を駆使した攻撃は簡単には凌げない。

 不死身を全面に押し出して一切防御を切り捨てた猛攻であり、一撃食らえば死ぬって条件でやりあうにはあまりにも強すぎる。そんなのが死の加護を持った武器まで持っているのだから笑えない話だ。

 このままじゃ、俺の準備が整うまで持たない。どうする……!


「……恩を返す前に死なれては困りますな」

「うん?」

「【翼王】!」

「アタシもいるわよ!」

(あれは……オオトリさんにモズちゃん……雄々しき翼か!)


 万事休すかと思われたそのとき、空から翼を持った精鋭が駆けつけてきた。

 彼らは今まで見たことのない強力な武具を身に纏い、征獣将へ見事な連携攻撃を仕掛けている。

 彼らにはそれぞれの戦場を任せていたはずなのに、いったいどうして……?


「ボーンジ殿の能力は本当に便利ですな。窮地を救われ、窮地に一瞬で駆けつけることができました」

「あの裏切り者にもちょっとは感謝していいかもね! あたしたちの本来の装備を届けてくれたんだから!」

(そうか、あの装備はコウモの手下が装備していた……彼ら鳥人族(バードマン)が本来持つべき至宝か!)


 彼らは裏切りと共に本来の武装の多くを失っていた。それを取り戻した今、その力は今までの比ではない。


「……よく見ると、結界破りの類いもある。あれで転移阻害結界を破壊してここまで直接来たというわけか」


 合成獣(キメラ)モードのまま、クルークが冷静に状況を分析した。本当に、強力なアイテムってのは勝敗すら左右するな。


「貴殿はクルーク殿か? ずいぶん変わられましたが……南の住民は本当に不思議ですな」

(……何か南の大陸全体がすごい誤解をされているというか、なにが起きても南の人だし仕方がない的な印象になっている気がするが……気にするな)


 前々から与えていた印象が変な噛み合いを果たし、この姿のクルークすらも当たり前に受け入れられてしまった。

 今はツッコミ入れる余力もないが、いつか不味いことになる気がする。


「ここまで来られたということは、作戦は成功したので?」

「ウム、まさかあのような隠し玉があるとは驚きましたぞ。敵軍が瞬く間に消し飛びましたからな」

「……隠し玉?」


 心当たりのないこちらの切り札とやらに、俺は首を傾げる。突然の事態が立て続けに起きたせいで集中が乱れそうになるが、我慢だ俺。


「我らが誇る最大最強兵器――大型魔道船リヴァイアサンを起動させたのさ。エネルギーが空になってもいいから、海より魔砲を敵軍に向かって撃ち続けろとね」

「え、それって……」

「次の航海に著しい影響が出るから最終手段だったけど、ここで負けるよりはいいでしょ」

「まあ、そりゃそうだが」


 あの船は国王とロクシー、それにリリスさんを初めとする技術者たちの夢と希望と欲望と悪のりにより凄まじいまでの金と技術を注ぎ込んだ兵器だ。あれ一つで十分すぎるほどの火力を出すことができる。費用は考えたくないほどかかるが。

 あれを持ち出したのなら、確かに戦場を一つひっくり返すくらいはできるだろう。ヤバイヤバイと言いながらも、いざってときの保険はしっかり用意していたわけね。俺はすっかり忘れていたが。


「――ええい、鬱陶しい!」


 配下の軍勢をクルークに、自身を雄々しき翼に押さえ込まれた征獣将が吠えた。

 ああ、そうだな。この状況を一番理不尽に感じているのは間違いなくあいつだな。圧倒的な数の利を有しているのに、いつの間にかこの一点に限って言えば逆転されているにだから。


「雑魚が何匹増えようが、我が糧でしかないことを思い知らせてくれるわ!」


 征獣将の身体が変形し、複数の腕が生えてくる。その変化の際に血を流し、そこから無数の魔獣を産み出していく。

 征獣将グラム。この状況を打開すべく最善を尽くす姿、俺は好ましく思う。お前は間違いなく強かった。恐らく、万全の状態で戦い始めたとしても一人では勝ち目などなかっただろう。

 だが――


『オオトリィィィィッ!?』

「ぬぅ!? 貴様、まだ意識が――」


 征獣将の中から、怨念を宿した亡者の叫びが聞こえてくる。誰のものかは知らないが、叫びと共に征獣将はこの状況で回避と速度に優れたオオトリさんへ突然攻撃が向けたのだ。

 当然そんなものは三次元的に動き回るオオトリさんに命中することもなく、致命的な隙を生むだけに終わるのだが。


 このチャンス、活かさせてもらうぞ。


「――俺もお前も一人じゃなかった。なら、文句はないよな?」

「ッ!? しま――」

「準備時間は十分すぎた。全員、離れな――」


 魔力はクルークに貰った。体力はこの期に及んで余っている。そして、精神は万全に練り上げた。

 さあ、いくぞ征獣将グラム。これが、この戦争最後の一撃だ――


「【明鏡止水――混沌嵐龍閃】!!」


 全てを消滅させる力を持った嵐が、あらゆる障壁をすり抜ける流れを纏って放たれる。

 征獣将はせめてもの抵抗と増えた腕を重ね盾とし、余った腕で槍を突きだし相殺を狙ってきた。だが、無駄だ。


「ヌオォォォォォォッ!?」


 破滅の嵐は全てを飲み込み、征獣将の身体を引き裂き――背中の辺りに隠されていた、小さな核を吹き飛ばしたのだった。


「……終わったな」


 俺は振り抜いた剣を鞘に納め、周囲を見渡す。

 今まで無限にも等しい数の暴力を体現していた魔獣の群れは、崩壊していた。本体とも言える征獣将の消滅により、仮初めの命でしかない召喚魔獣が消滅しているのだ。

 いくら他の命を取り込んで作ったものとはいえ、それは奴の体内で再構成された末に作られたもの。主の消滅は従属獣の消滅を意味するのは当然だ。


『オオ……トリィ……』


 征獣将の残骸の中からそんな声が聞こえたような気がした。

 消えうせる最後の亡霊の声が、オオトリさんを狙っている。しかし、当の本人は一瞬目を閉じ何かを考えた素振りを見せるだけでそれ以上のリアクションは見せない。

 ただ、徐に槍を構えるだけだ。今も消滅を続けている征獣将の残骸へ、トドメを刺す一撃を放つために。


「残党狩りは我らに任せていただきたい。ここまで多大な恩を受けてしまいましたからな。これ以上借りを作るわけにもいかぬでしょう」

「オオトリさん……それじゃ、お言葉に甘えて……」


 大地の一部ごと征獣将を完全に消滅させたオオトリさんは、そのまま次に作業を口にした。

 魔獣軍の大部分は消滅しているが、まだ残っているのもいる。征獣将の召喚獣ではなく、一個として存在している魔獣軍の構成員だろう。

 それの相手は自分達がやると申し出てくれたオオトリさんの好意を、俺は素直に受け入れることにした。もうボロボロだし、任せられるなら今はゆっくり寝たい……


『緊急報告! とある場所で異常な魔力を確認! 爆発性があると思われます! 更に、雪姫様が突如姿を消しました!』


 なんて俺のささやかな願いを、無情にも通信魔法で吹き飛ばされた。

 おいおい、まだ何かあるのかよ……。爆発性の魔力反応に姫君が失踪って……確かに、何か変な魔力があるな。ヘロヘロすぎて今一感覚が……。


『……大丈夫』

「え?」


 何がどうなっているのかと混乱していたら、小さな声が聞こえてきた気がした。通信魔法ではない、なにかを通して。小さく儚いが、力ある声を。


『これは、王族だけが扱える。だから、大丈夫』

(この、声は……)


 俺はこの声の主を知っている。一度だけだが、会ったことがある。


『皆を死なせないくらいに押さえるくらいなら、できる。だって、民があっての、王だもん』


 その小さな声の持ち主は――鳥人族(バードマン)最後の王族である姫は、一人決意している。

 何故か見えるのだ。ここよりも離れた場所で、意識を失い倒れ伏したコウモの側で膨大な魔力を放つ風神玉が。

 暴走の末、爆弾としての機能を発現させた風神玉の被害を最小限に押さえようと、一人正義を燃やしている幼子の姿が。

 大陸ごと消し飛ばす爆弾を止めようと、自己犠牲という名の正義を……。


「――馬鹿が!」


 瞬間、俺の身体は強大な光の魔力で覆われる。髪を白く染め、人とは異なる領域の力を発動させる。

 そして、その場から瞬間移動するつもりで全力で駆け出したのだった。

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