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【番外編完結】他力本願英雄  作者: 寒天
魔の勢力との開戦
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第159話 VS征獣将

今年最後の更新となります。

「これさ、俺らってやっぱり地獄行きかな?」

「なんで?」

「いやだって――今日だけで奪った命の数、情状酌量の余地なしだろう」


 獣の海を泳ぐ。剣を、拳を、魔を振るいただ真っ直ぐ突き進む。

 俺たち三人の特攻が始まってから、もうどれだけの魔獣が命を落としたのか……数えるのも面倒だ。もし死後の審判とかそういうのが殺した数で評価されるのなら、面接なしで書類審査地獄行きになる自信が出るくらいには。


「地獄が怖くて戦えるか。死後の幸福を願うのは死んでからで十分だろう」

「ま、そりゃそう――だ!」


 右に打っても左に打ってもどうせ当たる。そんなややいい加減な狙いで放った剣閃は、当然のように何かに命中する。

 もはやこの異常な状態に慣れてきてしまったのか、俺たちは軽口をたたく余裕まで見せながら直進する。実際には余裕など欠片もないのだが、余裕がないときほど気楽に楽勝って顔をしている方が何とかなるものだ。

 後がない時に後がないって焦ってもいいことないしね。真の戦士の条件の一つはどんな困難な状況でも笑うことができることですよ――っと。


「……ん、そろそろ回復してきたな」

「それじゃ、10秒後によろしく」

「オッケー」


 俺は省エネ戦闘の間にある程度魔力が回復してきたことを告げ、即それを使うべく嵐龍を握る手に力を込める。

 さて……進むぞ!


「【嵐龍閃】!」


 剣を一振りし、放たれた暴虐の嵐が獣の海を大きく割る。

 その隙に、俺たち三人は一気に前に進む。これが今俺たちがやっている基本線術。基本省エネで戦い、魔力がある程度回復したら誰かが大技を出し、一気に前に進む。それを三人交代でローテーションしているのだ。


 こうすれば、ある程度余力を保ちながら大きく進むことができる。時間との戦いって側面もある以上急がねばならないが、強引に攻めて敗北しては本末転倒。その折衷案として出された、戦闘しながらでも軽く流せば消耗どころか回復できるって英雄級の体力ありきの力業作戦である。


「今のでまた大分進んだし、そろそろ見えてもいいと思うんだけどね」

「敵の本拠地か?」

「敵軍からすればこちらの本拠地を落とせばいい以上、私達を少しでも足止めするために後退しているのではないか?」

「うん。もちろん攻めいられている分後退している可能性もあるけど、士気の低下を嫌ったり名誉を傷つけるのを避けるために本陣で大将がどっしり構えている可能性はあるからね。向こうがこの戦争にどれだけの重要性を感じているかにもよるけど、大将ってのは良くも悪くも迂闊に動けない。もし総大将が勝っている訳でもないのに下がれば形勢不利と認めているようなものだ」

「そこは戦略ってことでいいんじゃないのか?」

「いいか悪いかは状況次第だけど、そもそも彼らからすれば僕らは自分達より劣った戦闘力しか持たない種族にすぎない。それを相手に逃げの一手ってのは選びにくいよ、特に上位者の看板背負っていると」

「そういうもんなの?」

「そういうもんだよ。どんな状況になっても正面突破で撃破、できなきゃ即逃亡の二択しか持ってない人たちにはわからないかもしれないけど」


 ……あれ? 今馬鹿にされた?

 ちょっと微妙な表情になる俺だが、クルークは一切気にしなかったらしく話を進めた。


「だから、こっちで測定しておいた一番でかい魔力反応にそろそろぶつかってもおかしくはない……」

「その通り。我らが引く事はありえない。ここが貴様らの死地だ」

「……っと、出てきたね」


 そんな話をしていたら、聞き覚えのない声が聞こえてきた。

 まず目に入ったのは、獣共を吹き飛ばしたことで開けた地の先に大きなテントのようなものがあったこと。恐らくは仮設基地といったところだろう。

 その前に、声の主が仁王立ちしていた。獅子のような頭、人のような上半身、異なる種のものであろう四本の腕、そして下半身は馬となっている怪物。その四本の腕にはゴツイ槍が握られており、見ただけで恐怖を煽る姿形をしている。

 何よりも――この気迫。なるほど、これは……強いな。


「我が名はグラム。偉大なる魔獣王様より『征獣将』の字を授かりし将。ここを貴様らの死地とさせてもらおう」

「いよいよ大将のお出ましか……思ったよりも素直に出てきたな」

「思ったよりもって?」

「いや、どうせ僕らの会話を聞いているだろうから世間話に見せかけて煽ってみたら案外簡単に釣れたなと思って」


 あの話煽ってたのか。まあ確かに、プライドがあるなら逃げずに立ち向かえと言っていた風にも思える……かな?

 まあ、どうでもいいか。それよりも――


「【加力法】。 ――剛拳・弓肘突破!」

「口上もなしに問答無用だな」


 敵将の出現と同時に、メイが肘鉄でぶつかる突進を仕掛けた。いつの間にか全身に魔力の輝きを宿しており、覚醒状態のようだ。

 まあ周りの雑兵が戻ってくるより前に終わらせるってのは正しいし、ここは速攻が正解だろう。

 俺も行くか。ここは時間をかけて強化してからよりも、短時間で出せる範囲で全力で――一撃で終わらせてやる!


「【覚醒】! 【超加速法】!」


 比較的すぐに発動できる自己強化を行い、剣を刃先が正面を向くように固定するべく脇を締め、構える。

 そして、メイに続く形でメイを追い抜く速度で突進技を仕掛けた。


「超瞬剣・牙獣突破!」


 今の俺は、音すら遥か置き去りにして進む。これに反応できる奴は早々いないが――


「ふむ」

「ッ!?」

「……何故避けない!」


 俺の剣とメイの肘。その攻撃はどちらも征獣将グラムの身体を捉え、抉った。

 確かにこの一撃に反応できる奴は早々いないが、この敵は間違いなくその少数に分類される存在だ。魔王軍の最高幹部クラスがその程度の実力を持っていないはずがないのだから。


「――二人とも! すぐに離れてくれるかい! 【魔法威力上昇(マジックブースト)・炎術・炎神破壊砲(イフリートカノン)】!」

「おっと!」


 クルークもこの一撃で倒せたとは思わなかったのか、追撃する形で熱線を放った。

 超圧縮した炎の閃光は触れたもの全てを一瞬にして炭化させ、消滅させる。かなり殺傷力重視の魔法だな。

 被害を受けないようにその場から俺たちは離れたが、征獣将は動かない。当たり前のようにクルークの魔法を身体で受け止めるのだった。

 だが――


「……無傷、かな?」

「いやいや、確かに斬った感触あったぞ」

「私もだ。あの感じは確実に骨も内臓も砕いた感触だったのだが……」


 俺たち三人の攻撃を受けた征獣将グラムは、何故か何事もなかったかのように立っていた。

 メイに殴られた痕も、俺に斬られた痕も、クルークに焼かれた痕もない無傷の状態で。


「……今ので3000といったところか。中々どうして、一騎当千とはよく言ったものだな。一撃でこれだけ持っていく者は久しぶりだ」

「チッ、こりゃマジで余裕って感じだな」

「何かしらの特殊能力があると思ったほうがいいね。少なくとも単純な耐久力じゃないはずだ」


 余裕綽々の征獣将には秘密がある。それは間違いないだろう。

 まずは不死身の種明かしから始めるとしよう。……でも、今の感触どっかで覚えがあるような気がするんだよなぁ?


「それ、行け」

「っと、邪魔だ!」


 征獣将が四本の腕の内、一本を軽く動かした。

 それは合図であったらしく、周囲を取り囲んでいた魔獣が俺たちに飛びかかってきた。その程度なら一瞬で払えるものの、やはり危険だな。

 一方的に雑魚を相手取るならともかく、圧倒的な強者の前で隙を見せるのは命に関わる。ここはチームワークでも発揮するとしようか。


「クルーク!」

「わかっているよ! 雑魚は僕が担当するから二人は大将首をよろしく!」


 多人数を相手にすることに長ける魔術師が大勢を相手にし、個の強者を相手にすることに長けた戦士がボスを狙う。

 集団を構成する魔物を相手にするときのセオリーだが、この場にふさわしいだろう。本当は魔法の妨害をされないように魔術師には護衛を着けるんだけど、クルークなら一人で問題はない。


「まずはとにかく攻めるぞ! 俺が攻撃を弾くからメイは満遍なく攻撃を!」

「心得た!」


 征獣将と対峙する俺たちもまた役割分担をする。速度に長け予想外の攻撃にも反応できる俺が防御を、一撃の破壊力に長けたメイが攻撃を担当する。

 防御と言っても、攻撃で攻撃を打ち落とす攻性防御だがな。


「狙いは悪くないが――そう上手く行くかな?」

「――なんのっ!」


 豪腕から繰り出された槍の一突きを、側面を叩くことで逸らす。

 しかし流石というべきか、払われた槍を体勢を崩すことすらなく戻し、追撃を仕掛けてくる。今の隙に懐に入り込んだメイを気にすらせずに。


「クン流――総拳総体打ち!」


 あらゆる拳の型で、あらゆる場所を攻撃するメイ。覚醒したメイの拳ならその一発一発が攻城兵器を正面から吹き飛ばすくらいの威力はあるはずなのだが、征獣将グラムはまるで気にした素振りすらなく俺とメイに剛力を駆使した技を放ってくる。

 単純な技量だけで見ればそれほどでもないが、シンプルな身体能力の差がでかいな。僅かでも手が狂えばそのまま殺されそうだ。


 ――だが、純粋な力で劣っている程度なら焦る必要もない。ただ静かに、最小限の力で受け流すだけだ。


「明鏡止水・流」


 攻撃を逸らし、弾き、止める。俺が攻撃に出る余裕がないってのは凄まじいが、攻撃の全てを任せられる仲間がいるのなら問題はない。

 このまま連携して突き崩す――


「……いい腕だ。流石は守護十二獣を打ち倒しただけのことはある。だが――」

「ッ!?」

「これは二対一の喧嘩ではないぞ?」

「クッ! 離れろ!」


 メイの拳が征獣将の腹をえぐり、初めて血を流させた。ようやくダメージらしいダメージを負ったというのに、征獣将は余裕の笑みを浮かべている。

 それもそのはずだ。何せ、有効打を入れたはずのメイの方が苦痛に顔を歪め、腕についたものを――その牙をメイの腕に突き立てる魔獣を振りほどく羽目になっているのだから。


「そいつ、どっから出てきた!?」

「確実に周囲にはいなかった! それなのに、気がついたら奴の腹に突きさした腕が噛まれていた!」


 メイと端的に情報交換を行う。今周囲の魔獣はクルークが完璧に押さえ込んでいる以上、その防衛線が破られるまでは俺とメイは征獣将一人を相手にすればよかったはずだ。

 それが突然の伏兵。隠せるとすれば――奴自身か?


「腕の傷は大丈夫かい?」

「問題ない。ちぎれたわけでもないし、この程度なら気功術で問題なく自己治癒できる」

「そりゃよかった。で、敵さんの不死身の秘密はわかったのかい?」

「……ああ。ちょっと見えた気がする」


 今のを見る限り、奴が血を流すと同時にいるはずのない魔獣が召喚されたのは間違いない。

 今までどれだけ打っても無傷だったのに、突然血を流したのは恐らくわざと。奴は初めから流血により伏兵を呼び出すつもりだったと考えるべきだ。

 つまり奴の身体の中は魔獣召喚の媒体ってこと。そして――


「さっき俺が斬ったときの感触。どうにも覚えがあると思ったら思い出したよ」


 俺は自分の閃きを全員で共有すべく、一端固まり背中合わせで構えをとるよう指示を出す。

 離れた俺たちに征獣将は深追いする気はないらしく、魔獣に攻撃指令を出すだけで本人は動かない。数の優位を捨てる気はないようだな。


「何に覚えがあるんだ――ハッ!」

「ああ、あれは間違いなく――フンッ!」


 群がる魔獣を蹴散らしつつ、話を進める。


「あのときの――親父殿との戦いと同じだ」

「親父って……ガーライル殿のことかい?」

「ああ。確か、技の名前は【超撃集約】だったかな? 自分に向けられた全ての攻撃威力を所持品とかに肩代わりさせる防御技だ」

「それなら覚えがあるな。シュバルツの必勝の一撃を鎧を犠牲に防いだのだったか」

「そう。手応えがあるのに本体まで届かないこの違和感……あのときと同じだ」


 考えれば考えるほど、あのときの記憶と今の一撃が重なる。

 力がすべて相手に届いているのに、ギリギリ一歩手前で別の流れ乗せられているイメージ。間違いなく、征獣将の不死身のカラクリは親父殿の技と同系統だ。


「だとすればどこかにダメージを移した代償があるはずだが? あれはあらゆる力の流れを制御して生身以外の場所で炸裂させる技だろう? 見たところ、奴の装備は特に壊れた様子はないな」

「それは……そうだけど」


 メイはチラリと余裕を見せる征獣将を見た。

 確かに、超撃集約であれば本人の代わりに何かしらが砕け散るはずだ。まさか俺たちの攻撃を受けても罅一つ入らない神話の世界の装備で固めているってわけもないだろうし、どういうことだろうか?


 俺は首を傾げ――た動作をそのまま使って飛びかかってきた虎型魔獣にヘットバンドをかます。

 そんな中で、クルークが何かに納得したように頷いたのだった。


「なるほど、大体読めたよ」

「お、何かわかったの?」

「うん。この大量の魔獣召喚のカラクリもまとめて考えてたら、何故か両方同時に解けたよ」


 クルークはどこかつまらなそうに、あまり触れたくない話題であると言いたげな表情を一瞬見せた。

 しかし次の瞬間には元のどこか格好つけている雰囲気に戻り、話を続けるのだった。


「征獣将の正体は、恐らく合成獣(キメラ)だ」

合成獣(キメラ)って……」

「そ、僕と同じく、無数の魔物の集合体だ。魂こそ一つだけど、肉体は無数のパーツの継ぎ接ぎであり、取り込んだ生命の有用な部分のみを使うことで強靭な肉体を手にすることができる。……もっとも、人工的に改造された僕と違って、きっと彼は僕とは比較にならない性能の天然物なんだろうけど」


 なんと言っていいのかわからない解説だが……いや、止めよう。今は個人の感傷よりも実利を優先するときだ。


「……そう、合成獣(キメラ)の能力とは補食と融合。そして取り込んだ生命体を貯蔵し、自分に組み込むための体内異空間だ。実を言うと、僕が使う空間結界術もこれの応用なんだよ」

「……なるほど、そこまで言われれば俺にもわかってきたな」


 補食した相手を体内の異空間に保存できる。相手がそういう能力を持っているのなら、さっきの疑問も解決だ。


「……体内の魔獣にダメージを移すことであらゆる攻撃を無効化するわけか」

「そういうことだろうね。本来なら伝説級の頑丈な装備がなければ使えないダメージ移動能力も、数で補って分散させることで防いでいるわけだ」

「防ぎきれなくなって魔獣が消滅したら、次の魔獣へダメージを移す。その繰り返しで攻撃の威力が無くなるまでしのぐって訳か」

「そして、その体内の魔獣こそがこの軍勢の正体だ。召喚魔法の類いだけでこんな数を出すなんて不可能だけど、初めから体内にいるものを出すだけなら可能だろう。僕は取り込んだ対象は殺して保管することしかできないけど、生きたまま保管できるなら確かに可能な戦術だよ。一度に召喚するのは無理でも、時間をかければ可能だろうからね。どうやって体内の魔獣を食わせているのかは研究してみたいところだけど……大方魔獣同士が食い合いでもしているってところかな」


 クルークは一瞬研究者の顔になった後、すぐに戦士の顔に戻った。

 俺たちはそこで会話を止め、魔獣を指揮するだけで後は黙ってみていた征獣将を見る。

 それであっているか? と目で問うように。


 すると――


「やはり見事なものだ。よくこの短時間で我の正体を見抜いたものだ」

「ずいぶん素直だな? 何かたくらんでいるのか?」

「いやいや、これは素直な称賛と思ってくれ。別段知られたところで特に対処法があるわけでもないが故にな」


 征獣将は自分の秘密が暴かれたことに動揺するどころか、ますます余裕綽々といった様子だった。

 心理戦の意味を持ったハッタリか、それとも心の底から知られても問題ないと考えるほどの自信か……。

 仮に後者だとすれば、それは慢心だぜ、将軍様よ。


「不死身の秘密はわかった。その対処法は――」

「中の魔獣が死に絶えるまで攻撃する、ということでいいか?」

「――大正解!」


 方針が確定したところで、俺とメイは背中合わせを止めてその場から弾けるように動いた。

 向かう先は、当然征獣将。目的は、ただひたすら攻撃し続けること!


「持久戦じゃ不利だ! 全力全開で行く――【覚醒融合】!」


 俺は嵐龍と同化し、力を更に高める。この状態で、死ぬまで殺し続ければいい!


「では、私も行こう――もっとも、早々全力は見せられんがな」

「けち臭いな」

「なに、せっかくの機会だ。今にも完成させてやるさ――!」


 俺とメイが再び征獣将に襲い掛かる。それも、さっきとは比べ物にならない力を解放して。

 俺は当然覚醒融合によって出力を大幅に増加させているし、メイもまた力を高めている。俺のように特別な何かをしたわけではないが、純粋にギアを一段上げたのだろう。


「我が正体を見抜き、挑むその勇気と力に敬意を。……そして、知るがいい。決して敵わない圧倒的な存在がいるということをな!」

「ほざけ!」


 奴の口ぶりと俺たちの予測から考えて、単純に強力な攻撃をした方が奴の中の魔獣のストックを削れる。

 つまり――可能な限り強力な攻撃を、無駄なく叩き込むのが勝利への道だ。


 まずは、その準備から始めようか。


「【死刃(デスエッジ)】」

「ほう、即死の呪いを刀身に与えるとは、中々邪悪だな」

「ほっとけ」


 俺は刀身に死の魔力を与え、かすっただけでも対象の命を奪う剣へと変える。それを見た征獣将はなお余裕を見せたが、その余裕を打ち崩してやろう。

 ……にしても、こんな能力が使えることを昔は『ゲームに登場した技だから』でスルーしてたんだから本当に思考操作ってのは恐ろしいよな。

 普通の人間が、こんな死神のような技を扱える道理なんて本来ないってのにさ。


「【超加速法】――さあ、見れるもんなら見てみな! 俺の最大高速剣を――」


 感覚が引き伸ばされ、世界がスローなものに変わっていく。

 この世界では、俺が最強最速。ほんの数秒だが、その僅かな間に敵の命を削りきればいい。

 さあ、死神の舞、見ることなくともその身に刻み込め!


「【死刃輪舞(デスロンド)(サウザンド)】」


 秒間何百もの斬撃を放ち、死の呪いと共に征獣将の身体を切り刻む。

 しかし、そのいかなる剣撃も征獣将の身体を傷つけるには至らない。千の剣を、全て体内に飼っているという魔獣に受けさせているのだろう。

 だが、いくらストックがあるのかは知らないが――無限ではないだろう!


「どうした? 確かに速いが、我には傷一つないぞ?」

「――ここからだ」


 ――追加速。


「【終演の一刀(フィナーレ・ワン)】!」


 加速時間の限界が迫ると共に、最後に覚醒融合による強化を信じて加速を強め、制限時間を延ばす。

 それと共に、手数を重視した動きから威力を重視した一撃へと意識を変える。死の刃を解除し、代わりに嵐龍閃のエネルギーを刀身に与え、その加速と共に振りぬく。

 無数の斬撃であらゆる守りを崩し、トドメに最速最強の一撃でぶち抜く。文字通りの必殺。ここまでやれば不死身でも死ぬだろうと考案した必殺技である。


 が――


「クハハッ! いい技だが――我を殺すには至っておらん!」

(これでもダメか。……まずい、加速法の反動が――)


 無理をしたせいで、俺の身体は硬直状態になっている。強引な運動のせいで全身の筋肉が緊張し、体内魔力も乱れに乱れて動かせないのだ。

 その状態の俺に向かって繰り出される征獣将の槍。必殺技で殺せないなら自分が死ぬ。そんな技であることは重々承知しているが、実際にその状態になると恐怖しかないな。


 もちろん、仲間がいないならの話だが。


「油断大敵。食らえ、【超加力法】――【超絶招剛拳・極正拳】!」

「ヌオッ!?」


 止まった俺を狙おうと隙を見せた征獣将のわき腹に、メイの必殺の拳が突き刺さった。

 あらゆる敵を殺すべく考案された拳の型。その全てを融合させ、一撃に込めるクン流の奥義。基礎を極めれば極めるほど破壊力を増すあの技は、メイの成長と共に威力を増しているはずだ。


「ヌウゥゥ!!」


 征獣将はその巨体を螺旋回転させながら吹き飛んでいく。いつ見ても豪快な技だ。

 だが――


「フゥ……いや見事だ。今の連撃だけで8万は落とされたぞ。これは流石の我でも中々経験しない猛攻であった」

「8万って……身代わりにした魔獣の数か?」

「……後どれだけいるんだ? それだけ削られても余裕とは」


 流石の俺たちも口元を引きつらせる。今のを受けても削りきれないとか、いったいどんだけの耐久力だよ。

 本当に、この方法で攻略できるんだろうな? 実は俺らの予測が間違っていたなんてオチじゃ……。


「……クククッ! そうだな。教えてやったほうがより絶望できるか。心を折れるならその方が手早くてよいだろう」

「何が、いいたい?」

「聞くがいい、人間共よ。貴様らが敵としているのが、一体誰なのかをな」


 征獣将はその槍を頭上でブンブン振り回し、注目を集めるように覇気を撒き散らしながらも叫んだ。

 己の、能力の秘密を――


「我が名はグラム。征獣将グラム! 魔獣王様の腹心にして、魔獣王軍ナンバー2! その正体は、億の軍勢――億の魔獣が住まう、世界最大の魔獣の巣たる魔獣巣窟(グランドキマイラ)である!」


 一つの世界に匹敵する許容量を持つ、最強の合成魔獣(キメラ)

 一国の人口にも匹敵する魔獣の全てを己が力とし、盾とする存在。いったいどこのラスボスだよと叫びたくなるような、規格外の力を――

皆様、よいお年を。

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