第158話 征獣将の能力
「こちらが現在の戦況を記した地図にございます」
「……なるほど」
我は突貫工事で作らせた仮設拠点の作戦室にて、部下と共に無数の書き込みがなされた地図を囲んでいた。
書き込みの正体は、今までの戦況を把握するための敵味方の情報だ。リアルタイムで入ってくる情報をとにかく書き込んでいるため少々見辛いが、その程度読み解けない無能はこの場にいないので問題はない。
「うむ、一番戦力を集中させている主力部隊の進みが遅いな」
「ハイ、どうやら、敵の主力が本隊の先鋒と交戦状態にあるようです」
「たった一人の人間の拳士にかなりの――推定8万体が既に撃破されています」
「敵拳士の損害は疲労以上のものはありません。撃破するにはまだまだ時間がかかるかと」
「ふむ……」
敵ながら天晴れという他ないな。
我から見れば雑魚とはいえ、我がシモベはそれなりの戦闘力を有する。それこそ、人間の腕自慢程度なら単騎で殺せるくらいには。
それをたった一人で万を相手にできるとは、明らかに人間の限界を越えた力。一個の生命がそこまでの力を得た奇跡、称賛する他あるまい。
……是非とも欲しいと思うくらいにな。人もまた獣の一つであるが故、我が糧にするには申し分ない性能がありそうだ。
「他の場所から包囲攻撃を仕掛けている部隊に関しましては、敵の軍と交戦中です」
「こちらはどうやら防衛に努めているらしく、被害こそ出ていませんが崩すには時間がかかりそうです」
「恐らく、雑兵で守りを固めている内に強者でこちらへ強襲をかけてくるつもりかと」
「だろうな。どうやらアンデッドを使った陽動には引っ掛からなかったようであるし、なかなか有能な者が敵軍にいるようだ」
それどころか、我が呼び出した魔獣10万がアンデッド軍団がやられた場所で瞬時に倒されている。
どうやったかは知らんが、魔人王様が作ったアンデッドを一切の毒も呪いも残すことなく消滅させ、更に念のためにと用意しておいた追撃部隊をあっさり退けられる戦力がいるようだ。
全体の守りを固めつつ要所要所の用兵にもミスがないとは、中々楽しめる戦場であると言えるだろう。これが個人的な戦いであれば戦力を同程度に揃え、将としての知恵比べを挑みたいくらいだ。
だが、生憎これは必勝を義務付けられた戦い。知恵も作戦も全て不要なまでの――圧倒的な力の差というものをそろそろ見せてやるとしよう。
「さて、敵の戦力分布がわかってきたところで――そろそろ決めるとしよう。外へ出るぞ。我が槍を持て」
「はっ!」
我は先導の後を悠々と自らの足で外まで歩く。その我の後ろからはぞろぞろと部下が着いて歩き、一番後ろには複数がかりで一本の槍を運んでいる者達がいる。
そのまま外へと出ると、最後尾を歩いていた運搬係の部下が我が武装、最上級の魔獣の角から作り出した槍を我に渡すべく前に出てきた。
「偉大なる征獣将グラム様。御武装をお受け取りください」
「うむ、役目ご苦労である」
我は部下を労いつつ、武器を片手で受けとる。
この槍は突くだけでなく斬ることも想定に入れており、剣のような刃もついている。無論宿している魔力も最上級のものだが、単純な刃物としても一級だ。
我はその鋭利な部分を自らの手首の一つに当て、刃を立てる。そして、躊躇なく自らの手首を切り裂き、噴水のような血を流すのだった。
「……やはり、このような手段は如何なものかと……」
「仕方あるまい。流石にこの数の召喚となると、チマチマスキルを発動していられんからな」
我のやることに文句をつけるようなシモベなど普段なら殺してしまうところだが、我の身を案じての言葉では無下にはできん。聞き入れはせんが、言葉だけで拒絶の意を示すことにする。
流石に我でも痛いのは確かであるし、あまりやりたくはないからな……。
「ウゥゥゥゥ……」
「もう誕生し始めましたな。この度はいくらほど解き放つので?」
「少々奮発して、30万ほど出すことにする。ここで全て出しても邪魔であるがゆえ、直接戦場へ向かわせる数万を除き肉玉として解放するので各部隊の長に持たせよ」
「畏まりました」
誕生した魔獣の鳴き声を聞きつつ流すべき血を流し終えたあと、我はすぐに治癒の能力を解放し傷を癒す。
我が身体はいくら傷つこうが関係ないとはいっても、無駄遣いはよくないからな。
「それにしても、これで通算100万は出されましたな」
「流血の異界開放……流石にストックが減っているのでは?」
「確かに、通常ではあり得ない大盤振る舞いをしているな。まぁその価値がある獲物ということであり、勝利した末に食らえば100万体程度元がとれるというものだ」
我が体内に存在する異空間。そこに住まう、我が肉体を構成する無数の魔獣達。
その総数は確かに減っている。だが、その穴埋めは敵の強者にしてもらえばいい。我からすると、100万の数よりも10の質のが重要なのでな。
なにせ――
「我が身は億の魔獣の集合体たる合成獣。残りは約9900万体ほどしかいないとはいえ、まだまだストックはあるというものよ」
我こそは征獣将グラム。魔獣王軍のナンバー2にして、悪魔共が好む魔王軍全体の序列でも一桁であることは間違いない大幹部であるがゆえにな……。
◆
「……ふう、何とか着いたか」
音を置き去りにする拳をあしらいつつ、俺はクルークに指定された戦場まで飛んできた。
予期せぬ魔力切れを誤魔化すために口で挑発したら突然理性を失ったコウモだが、正直意識があるときよりも強くてきつい。技術は初めからないが、理性がない分出力が跳ね上がっているのだ。元の脆弱な魂ではいくら力を供給されても大部分無駄にしていただろうにさ。
と言っても、あの神造英雄発動さえなければ理性を持たずがむしゃらに向かってくるだけの狂人など軽く倒せる魔力は十分にあったはずなんだが……と、俺は内に封じた力に文句をいう。空しいからすぐに止めたが。
今の俺は飛行のために吸血鬼モード2だが、正直これの維持もきつい。元々ヘロヘロだったのも合わさって、軽く逃げ腰だ。出来ればクルークの指示に従ってこいつをメイに押し付けたいな――とっ!
(ま、余計な力を使わないことが肝の明鏡止水を極める修行と考えれば悪くはないけどさ!)
まだ届かなかった最終段階をものにすべく、俺はスペックだけなら格上となった暴走コウモの打撃を受け流す。
実戦に勝る修行はないことだし、より完成度を上げていく。正直、あいつの思いを受け取るなら嫌悪感しかない寄生虫……寄生英雄? よりもこの技の完成の方が先だろう。
(一撃でも貰ったら落とされる威力と、単純に競っては追い付かないスピード。俺が全力の半分以下しか出せないから何て言い訳にもならんが……いや、むしろやり易いくらいかな)
体感三年、俺はあらゆる意味で自分より強いと定義された相手に挑み続けた。正気に戻った今となっては技術的に得るものなど何もない素人の戦い――あるいは、親父殿の子供じゃなかった俺の戦い――だったが、それでも残ったものはある。
自分より強い相手に立ち向かう。相手が自分より強くても挑む。相手が自分より強いことを受け入れる。
今までの人生で何度も何度も繰り返してきた心の修練であるが、それをあそこまで突き詰めたことは中々ない。ある意味で初心に帰れたわけだ。
「だからこそ、俺はお前が怖くないぞコウモさんよ。ただ強いだけのなにも宿さない拳の相手なんざ、俺は飽きるほど繰り返している」
俺は僅かにコウモへ向ける意識を地上に溢れる、いや空までも覆い尽くす魔獣の大軍勢へと向ける。
この軍勢の先に敵の大将がいるって結論したらしいが、なるほどこれは無理だ。何十万いるんだよって現実逃避したくなるほど、上から見れば超横に長い蟻の行列、そして空を見れば特大の蚊柱って印象を持ってしまうほどに数がいる。これを馬鹿正直に相手しようと思ったら俺たちどころか全騎士を動員しても足りないだろう。
……しかも、すっかり鋭敏になった『弱者の勘』が言っている。
これは所詮氷山の一角であり、まだまだ増えると。事実、今も増え続けていると俺の第六感が言っているのだ。
(悪い方の勘働きには自信があるからな。今も遠くで感じる巨大な魔力が恐らくは犯人だろう)
全く証拠はないが、多分当たっていると思う。こりゃ一匹殺している間に二匹増えているんじゃないかと思った方がいいな。
普段なら雑魚の群れなど強行突破して無視すればいいと言うが、あれは一匹一匹がそこそこ強い。南の大陸に出現すれば騎士数名が動くことになる外陸種だらけなのだ。
いやまあ、他所の大陸に来てるんだから出会うのは全部外陸種で当然なのだが。
「それをこいつを使ってちょっとでも減らす作戦、ね。まあ利用できるものは利用して当たり前なんだが……簡単に言ってくれるな!」
「ぐあっ!?」
俺は飛んでくる拳を最小限の力で逸らしつつ、暴走コウモの顎を蹴りあげた。いくら理性も痛覚も無くしていても、これは効くだろう。
その一瞬の怯みを見逃さず、俺は距離を取る。今までは暴走状態で遠距離広域殲滅なんて使われたら周囲の被害が怖いと接近戦で相手してきたが、被害を出すのが仕事ならば離れた方がいいだろう。
もちろん理性なく真っ正面から突っ込んでくる可能性もあるが、それなら同じことを繰り返すまでだ。ただ本能だけで攻撃する狂戦士が、偶然遠距離攻撃を選ぶまでな。
「GUAAAAAAA!!」
幸いにも、暴走コウモは距離を開けられてすぐに遠距離攻撃を選んでくれた。
さて――命を賭ける時間だ。
「明鏡止水」
目は血走り、顔は歪み、口からは唾液を垂れ流す。そんな狂った風貌には全く似合わない光と風の複合属性による砲撃が俺へ向けて放たれる。
それを、受け流す。すり抜けるように、滑らせるようにただ後ろへと。
(これだけでかなりの数が巻き込まれてくれるな。こいつの魔力がどれだけあるのかは知らないが、この方法ならかなり減らせそうだ)
僅かでも魔力が強張り、受け流しに失敗すれば敵の攻撃を無防備で受けることになる明鏡止水。使う相手としては相性抜群とはいえ、バカデカイ魔力砲撃に使うのは内心冷や汗ものなのだが、成果は出ているようだ。
後はメイと合流できるまでこうして省エネでの殲滅戦をするとしよう。……早く来てくれないかな、クルーク。
「GYURUGYAAAAAA!」
「ふぅぅぅぅぅ……!」
ヤバイ死ぬこれ死ぬ――なんてもう何回思っただろうか。
もう疲労で明鏡止水とかいつ消滅してもおかしくない。元々かなりの集中力要求されるのにこんな長丁場耐えられるか。もうこいつの当たりさえすれば即死級攻撃を30分はいなし続けているぞ。
おかげで巻き込まれた魔獣軍にもかなりの損害を出してはいるのがせめてもの救いか。しかし全く安心はできないのだが。
それもこれも――
「ほんとに多すぎるんだよこの害獣共が! 同じ戦場にいるはずなのにここまで合流できないとかどうなっとんじゃい!」
魔力弾の雨を睨み付けながらも受け流す。内心の不満をぶちまけながら。
「メイどころかクルークだってこっちに着いているんだよな!? そこら中魔獣の魔力やら匂いやらが充満してるせいで全然わからないけど!」
いくら俺たちでもこれほどの敵の中で自由に動くことはできない。近づけば集られるんだから当然だ。
五感を使った感知も使い物にならないくらい敵だらけの場所で合流するのは簡単なことではない。それはわかっている。わかっているのだが……。
「そろそろ休憩くらい取らせろよ! というかどんだけタフなんだこの暴走野郎!」
「GURAAAAAAAA!」
これだけ高威力の放出系攻撃なんてすれば、全快の俺でも倒れる。そんな無茶な力の使い方をしているのにも関わらず、暴走コウモは元気一杯に攻撃してくる。
本当に元気に、これは自滅するなと俺が確信してからもう10分は経つというのに元気にな。
(こいつどっかから魔力供給でも受けてんのか? コウモ自身の魔力なんて最初の数発で尽きているだろうに……)
異常なほどの魔力スタミナを見せるコウモに俺は何か秘密があるのだろうと考えるが、残念ながら俺にそんな余裕はなかった。
これもう気絶するよ? 俺気絶するよ? 限界を越えるなんて日常的にやっている俺が諦めるくらいまじでギリギリだよ?
……もう、こうなったら残りわずかな魔力でこいつ殺すか。正直垂れ流している魔力すら突破困難だけど、ただで死ぬくらいなら起死回生でも狙って……
「はーい、御苦労様」
「大分ボロボロだなシュバルツ。そんな強敵には見えないが、風邪でも引いたか?」
捨て身の構えを取ろうとしたとき、遠くからムカつくくらい軽い声が聞こえてきた。
ああ……ギリギリ間に合ったというべきか、もうちょっと早く来てくれというべきか……。
いやうん、ここはよく来てくれた助かったと思い感謝しよう。何で俺より後に来たクルークが先にメイと合流してんだなんて思いには蓋をして。
「それじゃ、あれの相手はお任せしますよ。僕はレオン君を回復させておくので」
「心得た。……あんなに面白い顔のシュバルツは中々見られんから、少しもったいない気もするがな」
「それは確かに。あの三日三晩戦い続けてもあんなに消耗しないだろうに、いったい何やったんだろうね?」
「どうせ新技とかぶっつけ本番で試したら予想外に消耗したとかだ――ろ!」
微妙に当たっている予想をしつつ、メイはその場から大きく跳躍し暴走コウモに蹴りかかった。
メイは根っからの格闘家であり、飛行魔法の類いは当然使えない。そして俺のように飛行能力を発現できるような異能も持っていない、人のできることをただひたすらに突き詰めたタイプだ。
だから空中戦主体の暴走コウモとは相性が悪いといえば悪い。が、相性が悪いくらいで戦えないほど未熟でもない。苦手分野を克服するような裏技くらい、メイレベルが持っていない訳がないのだ。
「【クン流・空歩】。あまり得意な技ではないが、まあ理性なき狂獣を相手にするには丁度いいハンデだろう」
「あっさり倒すのではなく、なるべく敵を巻き込ませてね」
「わかっているさ!」
足で放つ遠距離攻撃。拳圧に魔力を込めて放つ空砲拳の応用のようなものを連続でメイは発動させる。
本来ならあの手の技は威力が散らないように力を集約させて放つのがコツなのだが、あえて足の裏で威力が爆散するように放つことで一瞬空中に足場を作る。それがクン流・空歩だ。
当然普通に立っているよりも遥かに疲れるし神経使うが、技量次第で地に足をつけているのと変わらない動きが可能になる。極めればどうしても『飛んでいる』状態である飛行魔法よりも格闘術を使う分には『立っている』分向いているとされる。
当然メイの技量は――極めている、言っていいレベルだな。
「さて、それじゃレオン君。今のうちに補給するとしようか」
「あ、ああ。……結構多目で頼む。まじでギリギリなんだ」
空で始まった戦い……というか闘牛とマタドールのショーのような争い。
それを気にすることなくクルークは緊張感の欠片もない軽い声で喋りながら俺に近づいてきた。
……暴走コウモが暴れまくったせいか、この辺りには今魔獣がいない。しかしあれだけ数がいればいくら殺されても補充できるはずなので、恐らくはクルークが何かやっているのだろう。多分気配遮断を含む結界だな。
「一応この辺りは安全地帯にしておいたけど、それもばれるまでの話だ。感覚を誤魔化す囮人形を幾つかばらまいておいたからしばらくは大丈夫だと思うけど、早めに済ませよう」
「頼むよ」
俺はクルークに背を向けてから座り込み、鎧を外す。魔力供給は鎧があると邪魔だからな。最近壊されてばかりとはいえ、俺のこの蒼い鎧は立派に魔力を宿している。それが受け入れるべきクルークの魔力を妨害してしまうのだ。
「んじゃ、いくよ……」
クルークもしゃがみながら俺の背中に手を当てる。
そして、手のひらから俺に魔力を送ってくる。俺が使用できるように調整した供給用魔力を。
「……これはまた、本当に消耗しているね。僕の全魔力を供給用に回しても全快は無理だってくらいに枯渇寸前だ」
「魔力供給はロスが多いんだろ? 回復はありがたいけどあまり無理はするなよ。ある程度戻れば後は自然回復でもなんとかなるし、これから先も忙しいんだからな」
「わかっているよ。ま、マックスの3割くらいは戻してあげるとしようか」
背中から流れ込んでくる魔力を感じながら、ゆっくりと息を吐く。
この貴重な回復タイム、少しでも有効活用すべく俺自身の回復力も高めるとしよう。大きく深呼吸をし、大気の力を体内に取り込むイメージでゆっくりと呼吸を繰り返す。アレス君にも伝授してある回復を早める呼吸法だ。
「……しかし、こんなになるまでいったい何をしたんだい? キミならここまでギリギリになる前に逃げるなり気絶させるなりして休憩時間を取るくらいできただろうに」
「……まあ、色々あるんだ。気に入らないものを無理にやると失敗するってことなのかもしれん」
「何? 無謀にも大魔法とかに挑戦でもした?」
正解は俺の中に眠る神造英雄を俺の意思で起動させたなのだが、それは今は黙っておこう。説明が面倒くさい上に長くなりそうだから。
「GA、GAaaaaaa……」
「あ、コウモが死にかけてる」
「まあ彼女は手加減とか苦手だからね。あまり放置して足元を掬われても怖いし、そろそろ仕留める頃合いでしょ」
気がついたら空の戦いは決着が着いていた。
メイは俺たちから一人離れて魔獣軍に突進しながら戦っていたのだが、長引かせるとか苦手な性格上すっかりコウモを戦闘不能に追い込んでいる。多分、無意識のカウンターとかだけで沈めたな。
「ま、普通にやればああなるよね」
「普通にやればな。いくら身体能力やら魔力やらが高くても、それだけで勝負になるほど俺らも弱くはないからな」
パワーだけで俺たちをねじ伏るならそれこそ魔王でも連れてこいって話だ。はっきり言って、俺は俺の10倍の身体能力と魔力を持っている奴が相手だとしても技術がないなら勝つ自信がある。元々武の技は自分より強い相手を倒すためにあるものだし、ただ理由なく強いだけの奴に負けるのはプライド的なものが許さない。
まあ、過去を見れば魔獣ガーランドなんて理性なき怪物もいたが、それでもあのコウモとは決定的に違うのだ。
暴走コウモも数字だけならいい線行っているが、魔獣ガーランドには身体に染み付いた技ってやつがあった。理性を失い、剣士としての技量の全てを失ってなお残る積み上げた基礎を持っていた魔獣ガーランドと、アイテムの力で一時的に強くなっているだけのコウモとの違いだな。
なんて思っていたら、遠くの空でメイの踵落としがコウモのドタマに炸裂した。あれは痛いな。
「お、撃墜したな」
「あのまま放っておくかい? 多分魔獣に食われるけど」
「んー……一応回収しておくか。あれがどうなるにせよ、それを裁くのは少なくとも俺たちではないだろうし」
「ん、わかったよ。じゃあ適当なところに飛ばして空術妨害領域を抜けたらボーンジに回収してもらおうか」
「そうだな。もう虹の樹のゴタゴタも片付いてるだろ」
俺はそろそろ休憩は終わりだと立ち上がりつつコウモへの対処を決める。ここで殺すのは簡単だが、それでは収まらないものがある。
だから、ここは一つ命だけは助けておこう。命だけは。
「メイ! そこから思いっきり遠くにぶん投げといてくれ!」
「ん? それでいいのか?」
「いいよそれで! 死ななきゃ特に問題はない!」
「わかった。では……ぬりゃ!」
距離があるので大音量で出した指示に従い、メイはそのバカ力でコウモを遥か彼方までぶん投げた。
……地面との激突で死なないかな? 人力空の旅は思ったよりも危険かもしれないと、俺は豪速球としか表現のしようがない勢いで飛んでいくコウモを見ながら思った。
「……ま、いいか。んで、これからの作戦は?」
「真っ直ぐ直進大将狙い。タイムリミットはこっちの防衛ラインが崩壊するまで」
「なるほど、わかりやすい」
「当然敵にもバレバレだろうけど、正直この戦力差は想定外だったからね。後は戦略を戦術でひっくり返す力業しかないよ」
わかりやすい方針を得て、俺たちは歩き出す。
俺ら三人が揃って戦うのは王都の戦い以来だが、何とも心強いものだ。
背中を、命を預けて共に戦える仲間がいる。そんな条件で負けるなんざ、あり得ない。
さあ……やろうか!
「【嵐龍閃】!」
「【クン流・流星月光弾】!」
「【最上級炎術・神の領域にて知る炎】!」
俺が嵐龍の魔力と自分の魔力を放出し、空中にいたメイが両拳を突き出した形で流星の如く落下し、クルークが魔術師としての極みを放つ。
全部で何万何十万いるのかは知らないが……俺はともかく、俺たちを数で倒せると思うなよ!
征獣将グラム
コンセプト:単独(個人能力)で種を滅亡させられるスケール




