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【番外編完結】他力本願英雄  作者: 寒天
魔の勢力との開戦
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第155話 王の資質

「姫様、いざと言うときは我々がお守りいたします」

「ええ、期待していますね」


 鳥人族(バードマン)たちの拠点、虹の樹のもっとも頑強な部屋。鳥人族(バードマン)王族――その中でも頂点に立つものが君臨すべき部屋に私達はいた。

 敵の襲撃、戦争の始まりに合わせて戦闘力を持たない私、サフィリアは鳥人族(バードマン)の姫である雪姫と同じ部屋で待機することとなった。もっとも強固な守りを施された、玉座の間で。

 ここには当然鳥人族(バードマン)の衛兵の他、私自身の護衛騎士も多数武装して配備されている。本来なら彼らも戦力として戦場へ送り出すべきかも知れないけど、さすがにそこまで命を張るわけには行かないしね。

 鳥人族(バードマン)唯一の王族である雪姫を失えば彼らの集団としての秩序は崩壊しかねないし、それを守るという意味でも必要なことよ。そもそも、王族である私がこの旅の間に死ぬというのはレオンハートを初めとする代表チームからしても避けたいでしょうし。死のリスク覚悟で旅に同行したとはいっても、本当に死なれたら彼らの責任だしね。

 私は王になっていない現状では自分が死んだ後の事はどうでもいいけど、彼らからすればそうはいかないでしょうし。


 なんてことを思いながらも、この状況で何も感じていない様子の雪姫と居心地悪くテーブルを囲いながら座っていたら護衛騎士のレイクが声をかけてきた。どうやら私を安心させるつもりらしい。

 どうやら居心地の悪さにこわばった表情を、恐怖から来るものだと思ったみたい。実際怖いし、間違ってないけどね。

 というか……


「……雪姫様? 大丈夫ですか? 先ほどから全然茶にも菓子にも手をつけられておりませんが」

「……大丈夫」


 幼い鳥人族(バードマン)の姫に声をかけてみるけど、帰ってくるのは単語一つのみ。これでは会話が成り立つわけもない。

 年齢的に考えても知的な会話を行うのは難しいにしても、もうちょっと何とかならないのかしら? まあ、幼いうちにトラウマものの経験をしたせいで快活な子供らしい感情を失ったと言う話だし、仕方がないのかもしれないけど。


(あー、憂鬱ね。いつ敵が攻め入ってきてもおかしくない状況で子供のお守りとか、精神的にきついわ)


 両種族の護衛騎士に囲まれているとはいっても、敵はまさに人外の怪物。正直、同じ域の英雄(じんがい)じゃなければ不安は残る。

 とはいえ西の大陸(ここ)から逃げることなど不可能である以上、戦闘力では一般人の域を出ない私は戦士たちを信じて待つしかないんだけど、待つだけってのは不安を煽るし性に合わないのよね。

 せめて、不安を紛らわせる会話相手くらい欲しいんだけど。護衛騎士たちは何があっても即座に対応できるようぴりぴりしていて楽しくお喋りって感じはしないし、私と同じ立場の姫君は無表情から変化しない。

 ホント、嫌になるわ……。


(ここまで敵が攻めてくる可能性はあるけど……悩むだけ無駄なのよね)


 いろいろ考えたところで、こうして武力のぶつけ合いになれば私にできることはない。

 ここは一つ、このお茶の製法についてでも考えていた方が生産的かしらね……。



「――天を震わせよ、【天覇】!」

「――魔を知らしめよ、【天魔】!」


 鳳と近衛隊長凰翔の戦いは続いていた。

 流石鳥人族(バードマン)最強候補と呼ばれる両雄の戦いであり、お互い一歩も譲らない激戦を繰り広げている。

 それは結構なことなのだが……うむ。これは流石に困ったな。この二人の戦いに干渉できる者などいないのに、これは長引きそうだ。


 仮にも戦争中にいつまでもグズグズしているわけにもいかないし、俺様もそんなに待ちたくない。

 ここは一つ、早速この力を使わせてもらうとするか。鳳がここにいるのならば、残りの奴など俺様一人で十分すぎるしな。


「――起動せよ、神の遺産【風神玉】」


 俺様は懐に入れている至宝に力を込める。王族の魔力のみに反応する至宝を起動させるために。

 元々飛行速度上昇のために多少は動かしていたが、戦闘用となると本格的に起動させねばならないからな。差し詰め、レベル2へ移行と言ったところか。


「ク――クククッ! やはり素晴らしい力だ!」


 何度か実験はしたが、この力があふれ出てくる感覚はなんとも言えない愉悦を感じさせる。

 汗臭く血を流して鍛錬するなどアホらしくて断固ゴメンだが、こうして力を持つのは楽しいものだ。重要なのは過程ではなく結果であり、こうして苦労なく強くなれるのならばそれが最良。その程度のこともわからない汗臭い馬鹿共を蹂躙できると思うと、快感は更に増幅するぅ……!


「――風神玉か! それは使うなと言われているはずだぞ香藻!」

「香藻様、だ。俺様は王族だぞ? 仮にも精鋭集団“雄々しき翼”の隊長でありながら王族への言葉遣い一つ満足にできないのか?」

「貴様は既に王族ではない! 自らその誇りを裏切っておいて何をぬけぬけと!」


 やれやれ、まったく脳みそまで筋肉の馬鹿というのはこれだから。

 俺様は高貴なる存在。それはどんな状況となり、どんなことをしようとも変わらんのだ。まったく、忠誠心の足りない奴だな。


「まあ、貴様のような輩とじっくり言葉を交わすほど俺様も暇ではない。……近衛隊長凰翔よ、この場は任せるぞ。俺様は何人か連れて先に玉座へと向かうこととする」

「畏まりました」


 凰翔へと命じ、俺は何人か適当に手が空いている者を指名して先を急ぐことにした。

 だが――


「行かせると思うか!」

「おっと、それはこちらの台詞だ」


 鳳が俺の邪魔をしようと槍を振るい、それを凰翔が妨害する。

 流石に凰翔が張り付いている状態で鳳に俺の邪魔ができるとは思わないが、相手は仮にも鳥人族(バードマン)最強候補と呼ばれる男。何でかは知らんが毒の影響を脱却しているようであるし、無謀に背中を見せるのは些か危険か。

 下手をすると、凰翔の一撃を無防備に受ける覚悟で俺様へ攻撃する――なんて馬鹿なことをやりかねないしな。


 やはりここは一つ、俺様の力を見せ付けてやるとしようか。


「風神玉よ、その力にて我が敵に裁きを与えよ――【裁きの神風】!」

「ッ! ヌオッ!?」


 俺様を基点に、強大な暴風が吹き荒れる。それもただの風ではなく、光の力を宿した光風……いや神風だ。

 その直撃を受けた鳳は自前の翼を使って防御するも、大きく吹き飛ばされる。これで俺様を追ってくることはできまい。

 とはいえこれだけで死ぬほど脆くもないだろうが、後は凰翔に任せて問題ないな。


「では行くぞ! 俺様の威光を知らしめてやれ!」

「ハッ!」


 この場で鳳の部下達と戦う面子を残し、俺様は進む。さあ、一気に虹の樹の玉座まで向かうぞ。


「クッ……! 待て! お前は風神玉の恐ろしさを知らないのだ!」


 遠くから鳳の負け惜しみが聞こえてくるが、当然無視だ。

 そのまま俺様は部下を引き連れて一気に進む。風神玉の力を開放したままなので、そのスピードは今までとは段違いだ。

 まあその分部下共が後れを取っているが、そこは俺様がカバーしてやるとしよう。本来ならその無能を叱咤するだけでいいところを風を使った加速でフォローしてやるとは、我ながら自分の慈悲深さに感動してしまうな。


 ……ん?


「これ以上先は立ち入り禁止だ」

「何だ羽なし? 俺様が誰だかわかっていっているのか?」

「知らぬ! だが、敵である事はわかっている!」


 もう虹の樹まで後一分もかからないというポイントで、何故か男が一人で立ちふさがっていた。それも、翼を持たない劣等種――羽なしだ。

 正直地に這う羽なしなど無視してもいいのだが、ここで一人構えていたとなると例の外部の協力者だろう。となると、あまり無視するのはよくはないか?

 いずれ王となった俺様としても外交は行うわけだし、支配下に入る劣等種の話も聞いてやる慈悲を持つのも悪くはないだろう。

 とはいえ、下等種族の分際で俺様のことを知らないなどと言う無礼……そこの教育はしてやるべきだろうがな。


「まずは名乗ることを許可してやろう」

「私はマイド・ボーンジ。この地の守護を命じられし者! 貴様らはここで倒させてもらう!」

「ほう……?」


 見たところ剣士のようだが、その細身の剣一本で何をする気なのか?

 空すら自在に飛べない羽なしの身で、天空に君臨する我ら有翼の者に手出しができるとでも――


「【空間跳躍突き(ジャンプスタッブ)】!」

「ム――ガァッ!?」


 マイドと名乗った男が見当違いな方向へ、届くわけもない刺突を繰り出した。

 一体何の余興なのかと鼻で嗤うと、次の瞬間俺様の肩に焼けるような痛みが走った。空間から生えている刃に、俺様の肩が射抜かれたのだ。


「グ、グオォォォッ!?」

「こ、香藻様! ご無事ですか!?」

「無事なわけがないだろうがぁ!?」


 突然の痛みに、俺様は叫びを上げる。無能な部下共がこぞって声をかけてくるが、そんなもの何の意味もない。

 そんなことよりも、速く治癒を寄こせ治癒を!


「言っておくが、私を相手に距離の有利不利は存在しない。……本来なら一撃で殺すつもりで心臓を狙ったのだが、強力な空間障壁でも展開しているのか? 術の位置がずれてしまった」


 俺様に傷をつけた無礼な下等種族は、不思議そうに首をかしげながらも再び剣を構える。

 また俺を貫くつもりか。風神玉の力が強力な結界となっているからこそ奴の剣は急所に当たらなかったのだろうが、この俺様の高貴な血を流させたのは許せん。

 ああ、まったく許せん――よって、ここに審判を下そう。死刑だ! それもただでは殺さん――その肉体をバラバラにし、獣の餌にしてくれるわ!


「早速これを使ってやろう」


 攻撃を避けるべく、そして傷を癒すべく風神玉から更に力を引き出しつつ、俺様は一つの巾着袋を取り出す。

 ふん、気色悪い道具だが、あの無礼者の処刑には丁度良いだろう。


「見るがいい。征獣将グラムより受け取りし魔の力を」

「……肉塊?」


 奴が不思議そうに俺様の手の中にあるものを警戒する。この、脈動する赤黒い肉の塊をな。

 正直不気味なので俺様も持ちたくないのだが、他の者に持たせるわけにもいかない以上仕方あるまい。持っていると手がぬるぬるしてくるのがとてつもなく嫌だが、その分効果は期待していいはずだ。


 さあ――弾けるがよい!


「……握り潰した? 何がしたいんだ?」

「わからんだろうなぁ……クククッ!」


 俺様は困惑する無礼者の顔を嘲笑いつつ、ポタポタと肉塊から出た血が俺の右手より滴るのを眺める。

 ……やはり見た目は最低だな。これほどの力を他者に預けるのは不安しかないが、もっと衛生的に使えるように次からなにか用意するとしよう。


「――うわっ!?」

「ハッハッハッ! 貴様など俺様が直々に相手してやる必要もない。そこで精々獣相手に食われてしまうといい!」


 地に落ちた血液がポコポコと気泡を弾けさせ、そこより大きな影を生み出す。あれこそがこの肉塊の力――魔獣の召喚だ。


 召喚された狼型の魔獣があの無礼者の足を食いちぎろうと突進を仕掛けた。

 突然のことに驚いた様子ではあるが、流石に魔獣の一匹程度の攻撃は避けられるか。だが――一匹だとは思うなよ?


「クッ! 今の肉塊は召喚の魔道具か!」


 無礼者は苛立たしげに剣を振るい、魔獣の群れを突き刺していく。

 そう、あの砕けた肉塊より発生する、無数の魔獣をな。実に不毛で、実に愉快な光景だ。地を這う愚民の無駄な努力ほど滑稽で笑えるものはない。ああまったく、無数の魔獣にたった一人の剣が本気で通用すると思っているのか?


「では、俺様は先を急がせてもらう。生憎お前風情と違って暇ではないのでな」

「ま、待て!」


 空を舞い獣の山を無視して進もうとする俺様たちに、あの無礼者は吠えかかる。所詮は獣か。

 しかし奴には空間を跳躍する能力があるようだ。このまま進んでも先回りされる恐れはある。下等種族がそこまでの力を有しているとは思えないが、まあこの気高くも賢い俺様に死角はないのだ。


「言っておくが、そいつらを無視しようなどと考えるなよ? その肉塊からは最低でも5000の魔獣が召喚されるらしいのでな」

「なっ!?」

「味方への挟撃を是としないのなら、精々頑張って戦うだなぁ……羽なしが」


 征獣将から預かった肉塊の力で無数に召喚され続ける魔獣の群れ。こうして虹の樹の側で発動するだけでいいとのことだったが、ついでに処刑道具として有効活用するのも悪くはないだろう。

 焦った表情で剣を振るいまくる姿をみる限り、足止めとしても十分効果ありだ。


 では、いよいよ本命を狙うとしよう。

 さあ、待っているがよい、俺様の玉座――


「クッ! 行かせるか!」

「ふっ……未練だな」


 せめてもの抵抗のつもりか、無礼なことに再び空間を飛び越えて剣を振るう羽なしの男。

 しかし、更に力を解放した俺様の風神玉に阻まれてその攻撃は不発に終わる。まったく、凡庸な存在の足掻きとは本当に滑稽よのぉ……フハハハハッ!


「さあ、俺様に続け!」


 もう用はないと、俺様は一気に部下を従えて虹の樹に迫る。狙いは当然――玉座の間だ!


「敵襲! 敵襲!」


 天空を目指して高らかと上昇する俺様たちだが、いよいよ最後の砦である警備兵が飛び出してきた。

 しかしそんなものをいちいち相手にするほど俺様も寛容ではない。あの程度、俺様が手を下さずともこいつらで十分だ。


「やれ。そして俺様の力と恐怖を刻んでやるのだ!」

「御意」


 近衛隊長がいないとやや不安だが、それでも俺様の近衛は選ばれし名家より集められし精鋭兵。

 雑兵の集まりである警備兵など雑作もあるまい。しかしここまで来て待つのもアホらしいことであるし、俺様単独で玉座を手中に納めるとしようか。

 そう、この俺様の力に虹の樹が屈服するのだ。それは中々に愉快よのぉ……。


「絶対に近づけさせるな!」

「命に代えてもここで止めろ!」


 ……凡庸で、愚鈍な愚民。ああまったく、それでこそ俺様の輝かしい栄光の添え物となるに相応しい。

 精々吠えろ。無駄な努力を重ねてな。


「ハハハハハハッ!」


 全てを置き去りにして、俺様は一気に上昇する。風神玉を得た俺様の速度に着いて来れる者などおらんわ!

 決死の覚悟を無視された連中が驚愕しているが、悪いとも思わんぞ雑兵共。元より、愚民の命をいくら重ねても俺様の決定に背くことなど許されるはずもないのだ。



 ――そうして、俺様は単独で玉座の間までたどり着いた。樹の外からではあるが、窓くらいあるので入るのは可能だ。

 主たる俺様がこんなところから入るのは不服だが、まあ今回限りである以上水に流すとしよう。この先の俺様の栄光を思えば、こんなことで腹を立てている時間も惜しい。


 ……と、言いたいところなのだが……これはなんの冗談だ?


「クッ! 香藻!」

「よくもその面を我らの前に出せたな!」

「亡き主君に代わり、その首切り落としてくれようぞ!」


 玉座の間には俺様に刃を向ける不届き者が数十名。まあ予想していたことだ。

 問題なのはそう、この神聖な場所に罰当たりにも居座っている羽なしと……全て殺したはずの王族、雪姫の存在だ。


「……キ、キキキ……」

「き?」

「貴様らぁっ!! いったい誰の許可を得てここに入っているぅぅぅ!? ここは、ここは俺様の、俺様の聖域だぁぁっ! 俗物共が、でき損ない風情が入っていい場所ではないわぁっ!」


 ここは、王族が君臨する国の象徴。断じて羽なしが……そしてガキ風情が入っていい場所ではないぞ!


「何を抜かすか! 雪姫様は残られた唯一の血筋。ここにおられるのは当然であろう!」

「よもや貴様風情に継承権が残っているなどと寝ぼけたことを考えているわけではあるまいな!」


 あー、屑共の(さえず)りが耳障りだ……。

 この玉座の間だけは血で汚したくはなかったのだが、これは仕方あるまい。これほどの侮辱、もはやこの場で極刑以外にあり得ん!


「……少し、よろしいかしら?」

「あん? 何者だ貴様は?」

「これは失礼。私はサフィリア・フィールと申します。ここより遥か南に位置する大陸の統一国家、フィール王国の王女です」


 ……ほう、異種族の王族か。高貴なる俺様としてはそれがどうしたという話だが、一応言葉を交わす資格くらいはあるようだな。


「それで、なにか言いたいことがあるのか? 異国の王族とはいえ、俺様の君臨すべき玉座の間に無断で立ち入ったことを不問とするつもりはないぞ?」

「いえいえ、それ以前のお話ですよ。……あなたはいったい、何を喚いているのですか?」

「……あ?」


 羽なしの王女はいかにも不思議だと言いたげな笑みを浮かべて俺に問いかけてきた。

 口の聞き方もそうだが、本当にわからないのか? 王女などと言っているが、所詮は羽なし。王の矜持がわかるわけもないということか。


 とは言え、王が王としての矜持について問われたのだ。

 これから目を背けることはできないな。


「ここはもっとも尊い鳥人族(バードマン)が己の威光を示す場所だ。そこを無惨に荒らされた……これに怒らぬ王などいないだろうが」

「……今の発言だけでいくつも気になるところがありましたが、とりあえず聞きましょう。特にこの場を荒らした覚えはないのですが、それはどうでしょう?」

「愚問。王の許可なくこの場に立ち入る。その行為自体が王の権威に泥を塗る行為だと言っているのだ」

「……なるほど。確かに、玉座の間とは権威の象徴としての意味があります。いわば自分の力を、国家の力を来賓に示すための部屋ですからね。そこに無断で……というのは確かに権威に傷をつける行為でしょう。ですが、当然ながら誰もが立ち入り禁止と言うわけではありません。正式に許可をとればいいだけですから」

「何を言っている? 俺様が許可していない以上そんなこと無意味だろうが」


 残された王位継承権の持ち主は俺様ただ一人だ。まあ何故か雪姫の奴が残っていたようだが、奴の継承権は当然俺様より下。なにも関係はない。


「いえ、きちんと取りましたよ? 唯一の王位正当後継者、雪姫様のご許可をね」

「……所詮は下等生物か? 今自分が誰と話しているのかもわからんと見える」

「おや、そうですか? これでも人をみる目には自信があるのですが」

「言うまでもなく貴様の目は節穴だ。俺様をいったい誰だと思っている」

「……負け犬以下の臆病者でしょう?」


 ……一瞬、何を言われたのかわからず俺様は硬直した。

 こいつは、こいつはいったい何を言っているのだ? この俺様を、言うに事欠いて臆病者と言わなかったか?


「き、貴様――」

「王とは!」

「ッ!?」


 怒鳴ろうとしたとき、突然この自称王女が声を張り上げた。それに驚き、俺様は言葉を紡ぐことができなかった。

 その隙に、外見からは信じられない声量で女は喋り続ける。俺様を見下すかのような目で見ながら。


「王とは優れた者を差し、頂点に君臨する者を差す称号! 数多の民の命を支配し、その責任を負う者の証! 全ての民の象徴となるべき存在! 故に、王足るものは決して忘れてはならない! 己一人では何もできないことを、民あっての王であることを! ……これは、王としての最低限の教育ですね」

「……王は、民あってのもの……」


 自称王女は高らかに歌い上げた。その言葉を妙に反応の薄い雪姫が呟いたが、それはどうでもいい。

 それよりも……何が言いたいのだこの女は?


「ではここで尋ねましょうか? 国を見捨てて逃げ出し、敵に頭を垂れたような男に王の資格はあるかと?」

「愚問。俺の判断こそが最善だ。むしろ、俺の判断に従わず勝ち目のない戦いに挑んだ愚者にこそ王の資格はない」

「なるほど。王は常に自分の安全を最優先にしなければならない。何故ならば、象徴たる王の討ち死には国の死に等しいからです」

「その通り。故に俺様以上に優先されるべきものなどない。当然のことだ」

「あなたが王であるならそうでしょう。しかし、あなたは王ではない以上、どんな言葉を並べても臆病な裏切り者でしかないのは証明するまでもないでしょう?」

「どこまでも無礼な女だ。……確かに、王ならざる者が敵前逃亡の上謀反となれば極刑が妥当だろう。しかし俺様こそが王であるが故に、これは正当な策略となるのだ」


 愚民がやれば犯罪でも、王がやれば正義となる。この世はそうしてできているのだ。


「ならば問いましょう。あなたが自らを王と呼称するその根拠は?」

「聞くまでもない。我が身に流れる高貴なる血……それこそが唯一絶対の王の勲章である」

「論外。その程度で王を名乗るなど、もはや侮辱ですらあることを弁えなさい」

「……なんだと?」


 俺様の言葉を遮り、指先を突きつける自称王女。

 王の証である俺様の高貴なる血統に、いったい何の不満があるというのだ?


「先ほどからの言葉を聞く限り、よもや俺様が魔獣王軍に降伏したのを問題としているのか? だとすれば浅はかなことだ。よもや、国が滅びるまで戦い続けろと言うつもりか?」

「……私は、別に敵との戦いで降伏すること自体に問題があるとは思っていません。勝ち目のない敵にも立ち向かうのは英雄の役割であり、王の役目はただ事実だけを見つめて方針を決めること。故に、勝てないと判断して敗北のダメージを最小限に抑えるべく動くのは王として決して間違った行為ではないでしょう」

「当然だ」

「しかし、何故あなたは他の王族の方々を殺し、自分につく小数だけをつれて逃げ出したのです?」

「それは……大局を見極められんバカしかいなかったからだ。故に話を理解できる者だけで行動を……」

「つまり、あなたは自分の腰巾着以外の誰からも信用されず、また説得することもできなかったということですね?」


 バシリと断言され、俺様は思わず息を飲む。

 だが、あれは俺様の言葉に頷かなかった愚図共に責任があるのだ。俺様に非は……。


「はっきり言ってあげましょう。民なんて大半はバカです。それどころか官僚ですらバカだらけ、それが普通なんですよ。だからこそ王は賢くあることが求められるんですからね」

「う……」

「それをこともあろうに『周りが理解しないのが悪い』などと……あれですか? あなたは周囲の人間が全て自分の意見を完璧に理解し、かつ実行に移せる上に反論すらしない盲目的な忠誠心を持っているのが当たり前だとでも思っていると? ……寝言はせめて寝てから言ってくれませんこと? 無条件に自分を盲信する家臣に囲まれて、何でも自分の思い通りにしたいのでしたら、一人でお人形遊びでもしててくださいな」

「だ、黙れぃ!」

「黙りません。私は所詮部外者ですので、敵に降伏したあなたの判断の是非は問いません。仮に私であれば、どんな手を使ってでも勝利したと断言しますが。……我が兄でも間違いなくそうでしょうね。バーンお兄様がこの程度であれば私も苦労はしなかったんですが……失礼、少々話が逸れました。……とにかく、貴方とは考えが違うのはどうやら私だけではなく他の鳥人族(バードマン)の方々も同様だったようですね。わかりますか? つまり、あなたは民から王とは認められなかったのですよ」

「民の許可など不要だ! 俺様に従わない奴など殺してしまえばいいのだからな!」

「まさに愚考。王とは唯一無二の絶対者ですが、同時に決して一人では成り立たない存在です。先ほどから高貴な血がどうのこうのと言っていますが……よろしくて? 王家の血とは、あくまでも条件の一つにすぎない……いえ、むしろ一要素にすぎないといっても過言ではないのです。どんな国も、初代国王は王族の血など引いていないのですから」


 ――王の血が、条件の一つだと? それどころか、一要素にすぎないだと?

 なんたる侮辱、なんたる愚かしさ……もはや極刑すら生ぬるいぞ!


「何故王家の血が尊ばれるのか。それは今まで国を纏めてきた偉大なる王の後継者としての価値があるからです。あの人の子供ならきっと優秀だろう……血統なんて、結局その程度のものですよ」

「……くだらん」

「真に重要なのはあくまでも個人の実力。民の全てから、この方ならば自分達の国を任せられると信頼を得るだけの力を示したものこそが王。取り巻きくらいからしか支持を得られない王などあり得ませんね」

「……黙れ」

「そして、あなたが王でないのならば、つまりこういうことですよ。……あなたは命惜しさに同胞を裏切ったただの臆病者。戦いすらせず、負け犬にすら成れなかった有象無象だとね」

「……もういい。わかった。つまり――」


 死にたいということで、いいのだな?


「風神玉よ!」

「ッ!?」


 口だけは達者のようだが、所詮下等種族。こうして俺様が余興に付き合うのを止めればあっさり死ぬ運命なのだ。

 そう、どんなお題目を掲げようとも――それだけは変わらん!


「力あるものこそが王! 故に、風神玉を持つ我こそが至高! それを知るがいい!」


 羽なしの女はもちろん、他の兵士共まで纏めて吹き飛ばすべく風を起こす。部屋中の者が吹き飛ばされ、壁に叩きつけられるほどの威力でな。

 無論、俺様だけはその被害から逃れる。それどころかその風に乗ることで一気に距離を詰め、腕を振るう。風神玉の力により、風の刃を纏った腕をな。


「死ね――」

「良いこと言うな。俺も賛成だぜ? 最後に勝つのは喧嘩強いほうだよな?」

「ッ!?」


 確実にその細首を落とすはずだった高速の手刀。しかしそれは、一本の手により阻まれた。何故か壁から生えている腕によって。


「でも知ってるか? 世の中ってのは不思議なことに、強くなったと調子に乗るとすぐに自分以上の強者が現れるんだぜ?」


 この部屋の、この世でもっとも高貴な部屋から生えた腕はそのままメリメリと音をたてて前に出てくる。

 樹の壁が押し出され、歪み、ひび割れる。この、玉座の間の壁が。


「……緊急時につき、ショートカット失礼。レオンハート・シュバルツ。帰還した」


 玉座の間の壁を破壊し、一人の男がその姿を表したのだった。

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