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【番外編完結】他力本願英雄  作者: 寒天
魔の勢力との開戦
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第153話 第二の攻撃

「フンッ!」

「チェアッ!」


 吸血鬼カーネル……カーラの父親の腕刀と私の腕刀がぶつかり合い、素手による鍔迫り合いとなる。

 ここまで戦った感想としては、腕力ではやや私が上。技の練度は頭二つほど向こうが上。技の豊富さでは私が圧倒的に上。その他身体能力では向こうが少しずつ上といったところか。

 吸血鬼の拳士というわりには思ったほど優れた身体能力を有しているわけではない――といいたいところだが、技から感じられる余裕がその結論を否定する。恐らく、こいつはまだまだ本気を出してはいないな。


「……時間か」

「なに?」

「――【貫拳】!」

「おっと!」


 腕を使った力比べの最中、カーネルは空いている手で貫通力重視の拳を繰り出してきた。

 私もフリーの手でそれを弾くが、カーネルは気にせず隙を突いて後方へと飛び距離を取る。なにか仕掛けてくるつもりか……?


「中々楽しい戦いだったよ。余興としては十分だ」

「ふん……余興にしかならなかったと言いたいのか?」

「幼稚な駆け引きはやめたまえ。私と同じく、君もまだまだ本気を隠している。お互いに余興程度の様子見だったではないか」

「……私の実力を見切ったとでも?」


 駆け引きは正直自信がないが、力を隠しているのはお互い様。それは否定しない事実だ。

 私の場合、出したくても出せないという方が正しいが。目の前にいるのが敵の全てであるというのなら構わないのだが、覚醒にせよその先にせよ、己の肉体強化に特化した私のスタイルは反動も大きい。まだまだ倒さねばならない敵が多くいる状況では必勝のタイミング以外では使いづらいのが正直なところだ。

 加えて、敵は吸血鬼。中途半端な攻撃をしても即座に再生できる以上、こちらの情報を迂闊に渡すような真似はしたくないのもある。本来ならば一撃の威力で全てを粉砕するのが私の主義だが、このレベルの相手ではそうも言ってはいられないのが現実だ。


 ……そして何より、そんな温存戦法でここまで戦えている事実がこいつの手抜きを証明している。

 いざというときに回避、離脱する余裕がたっぷりある相手に切り札をほいほい使ってしまうほど私も馬鹿ではない。


「キミも自己治癒を行える技は持っているようだが、それ以上の再生力、更に疲労とは無縁のアンデッドの特性を持つ私相手に持久戦を挑んでいるのだ。どう見てもこちらを誘い、更なる力を引き出そうというのが趣旨だろう?」

「……」


 ……図星だ。


「これだけやってお互いに無傷。それ事態が余興以外の何物でもあるまい。まあ、私はどっちみち無傷だが」

「……代わりに自然破壊が進んでいるがな」


 チラリと辺りを見渡せば、お互いに受け流したり回避したことで発生した無関係な大地への攻撃が顕著だ。

 既にカーラは仲間を背負って退避しているし、戦っていたカーラの部下たちも死に物狂いで逃げ出している。そんなことになる被害とはどのくらいなのかといえば……まあ、元々不毛の大地だった場所が悲惨な大地へとランクダウンした程度だろうか。局所的なハリケーンでも起こったと思えば大した被害ではあるまい。


「……まあ、何はともあれ実力の底は見れずとも深さは見せてもらった。十分娘の師を名乗る資格があるだろう」

「その娘を殺しかけた親の台詞とは思えんな」

「その辺の倫理観は人と吸血鬼の違いと納得してくれ。我々は愛しい相手を愛しいまま殺すことになんの抵抗もないのだ。キミたち人間が愛しい者をあっさり抵抗なく憎むのと同じようにね」

「フン……それで? これからどうするつもりだ? そろそろ本気でも出すか?」

「それもいいが、ここは仕事を優先させてもらおう。……あれを見たまえ」

「ん……?」


 カーネルは遠くの大地を……本部のある虹の樹から少し離れた辺りを指差した。

 私はカーネルから意識を逸らさないよう注意したままそちらを観察すると、大量の何かが走る音が聞こえてきた。しかし音はしても気配は……生命体なら誰でも発する呼吸音や心音といったものがまったく感じられない。

 これは、まさか……


「我らが王が征獣将に与えられたアンデッドビーストの軍勢だろう。使い捨ての駒でしかないが、それでも四魔王の一柱から授かった戦力。それを使う以上、勝利か死か以外にない。すなわち、魔獣王軍の本気の攻撃が始まったということだ。こうなった場合、私は即座に帰還することとなっている。あの雑兵以外に戦力提供はしないという契約がなされているからな」

「逃がさない……といいたいが、そうも言っていられないか」

「私が自発的に消えるのだからな。ここで引き止めてもお前たちにとっては百害あって一利なしだろう?」


 正直こちらの戦力はまったく足りていない。生憎戦況を把握して戦力を整える――といった面倒なことには疎い私だが、それくらいはわかっているつもりだ。

 ならば、ここでこいつといつまでも戦っているのはあまりいいことではないだろう。一人の拳士としては本気のこいつと決着をつけることを望んでいるが、それよりも大切なことがある。


「ではさらばだ。確実にまた会うだろうが……そのときは、本気で殺し合うとしようか?」

「無論、次は全力で戦えることを期待しよう」

「では精々頑張ってくれ。現時点でこれほどならば……もう少し成長すれば私も本気になれる」

「ッ!?」


 一瞬、カーネルの眼が変わった。吸血鬼特有の紅い瞳の内側に、強烈な何かを感じさせたのだ。

 こいつ……やはり一介の吸血鬼などではない。私が今まで出合った中でも最上級の存在だ。恐らくは、あの魔獣ガーランド以上の存在……!


「戦いの中で成長せよ、クンの子孫。お前が完成したとき、千年前の雪辱を晴らすとしよう」

「……それが真の狙いか?」

「娘の成長を確かめにきたのもあるがね。どちらに着くつもりなのかも確認したことだし、これはこれで面白いだろう……」


 フフフ……と小さく笑いながら、カーネルはその姿を大気に溶けるかのように消した。恐らくは転移魔法の類だろう。

 やはり、魔法の腕も一流か。私は魔法の類はさっぱりだが……あの格闘術に魔法、そして吸血鬼の能力を全て出してくればかなり厄介だな。今のままでは、リスクを覚悟して本気になっても勝てるかどうか。


(そう言う意味では、この戦いは好機。実戦以上の修行はない……ならば、越えて見せよう。今目の前にある壁を!)


 誰もいなくなった破壊された大地の上で一人覚悟を決める。

 そして見据える。遥か遠くより迫り来る敵軍を。腐臭と毒、そして呪いの匂いを撒き散らして進んでくるのは獣系モンスターを素材としたアンデッド軍団。やはりそれは間違いないな。


「本来ならば本部に戻って待機するべきかもしれんが……ん?」


 高まった闘志に任せて突撃しようかと思ったとき、敵軍の中に妙なものを見つけた。

 ほんの僅かだが、生命の気配を感じたのだ。それも、地を這うアンデッドの中にではなく、その上空から。


「まさかアレは……鳥人族(バードマン)か?」


 アンデッド軍団と敵対する様子も見せないまま、見覚えのない鳥人族(バードマン)の群れまでが敵意をむき出しにして迫っているのだった。



「――【翼王・瞬】!」

「ば、バカな! このワシが、空で負けるなど……!」

「天空こそ鳥人族(バードマン)の聖域。毒さえなければ貴様如きにこの場で負けることなどありえん」


 我が槍、天覇が守護十二獣を名乗る巨大怪鳥の胸を抉った。

 その一撃で生命力が尽きたらしく、怪鳥は落下していく。これでこの戦場は片付いたな……。


「さて、では帰還――」

『オオトリ殿へ連絡。こちらクルーク』

「ム、クルーク殿。いかがなされた?」


 勝利を確認すべく周囲を見渡していると、虹の樹で全体指揮を取っているクルーク殿から連絡が入った。

 いったい何事か……?


『敵勢力による追加戦力を確認。内容は今まで打ち倒した獣系モンスターを素体にしたアンデッド軍団』

「アンデッド? 不死者か……それは厄介な」


 不死者の類は大概いやらしい呪いだの毒だの病原菌だのを持っており、また中途半端な攻撃では止まらない耐久力を持つ面倒な相手だ。

 何せ頭を吹き飛ばされても平然と攻撃を仕掛けてくるからな。これほど厄介な相手はいない。不快感も馬鹿にならないため、士気の低下にも繋がるしな。


 ……だが、その程度のことを伝えるにしては妙に大げさではないか?

 確かに厄介なモンスターであるが、対呪い毒の備えをした上で戦いに臨んでいる以上そこまで危険な話ではないはずだ。まだまだ急造の結界では対処しきれなくなる恐れがあるということなのだろうか?


『……言いづらいですが、隠しても仕方がないので単刀直入に。敵軍の第二手は間違いなくアンデッド軍団ですが、同時に空からも部隊が投入されています』

「……空から?」

『ええ。確認した者からの報告によれば、鳥人族(バードマン)の部隊がアンデッド軍団と共にこちらへ刃を向けているそうです』

「……なんだと?」


 鳥人族(バードマン)が……?

 その報告が真実であるとするならば、その鳥人族(バードマン)の正体は一つしかない。

 我々残り少ない翼の戦士は総出でこの戦に臨んでおり、前線に出ていない者も虹の樹の警護で忙しい。その中から裏切り者が出たのなら絶対に話が通ることから考えても、同胞が裏切ったということはありえない話だ。

 故に、考えられるのは初めから裏切っていた者達。王族虐殺事件の首謀者にして命惜しさに同胞を捨てた裏切りの王族、香藻とその配下。それ以外には考えられない。


「――クルーク殿! その鳥人族(バードマン)が出現した場所への案内を頼む!」

『……行かれるのですか?』

「当然だ。もとより、貴殿もそのつもりであろうが?」


 裏切り者を裁き、始末するのは我ら鳥人族(バードマン)の役目だ。この役だけは誰にも譲るつもりはない。

 それに、彼ら南の住民からしてもそうしてもらいたいだろう。今でこそ友好的に協力体制を築けてはいるが、裏切り者とはいえ鳥人族(バードマン)を手にかけるのはあまりやりたくないはずだ。下手をすればせっかくの共闘関係に亀裂が入る恐れもあるからな。

 だからこそクルーク殿は俺に連絡を入れてきたのだろう。秘密裏に処分するようなリスクを犯すよりも、決断をこちらに委ねたのだ。


 故に、俺が……俺達が選ぶ道は一つ。裏切り者に、鳥人族(バードマン)の誇りを地に貶めた愚か者共に裁きを与えるのだ!


『……アンデッド軍団は敵要塞の方角から……レオンハート・シュバルツが向かった方角から迫っています。敵鳥人族(バードマン)軍も同じく』

「了解した。すぐに我が部下と共に向かう」

『既に近くにいる味方に出撃命令は出しています。しかし地上のアンデッドはともかく、空の鳥人族(バードマン)兵を止められるほど空中戦に優れた者は少なく……』

「だろうな。裏切り者とはいえ、鳥人族(バードマン)の戦士を空中で倒すのは至難の技だ。無理に倒そうとはせず、不死者の足止めに専念してくれ」

『既にそのように指示は出しています。しかし無抵抗に接近させることはできないので、お急ぎを』

「うむ……っと、一つだけいいか?」

『はい? 何でしょう?』


 時間が惜しい状況であり、本来なら一分一秒を争って移動するべきだ。事実既に部下達に移動準備の指示は出している。

 だが、どうしても伝えねばならないことがある。既に書面では情報共有の一環で伝えているが、やはり重要な情報は直接伝えるべきだろう。

 敵の戦力、という情報に関してはな。


「まず裏切り者共の実力は、正直に言って高い。性根はともかく王族と直接やり取りできるほどの立場にあった者達だからな」

『王族近衛ということですか? しかし、イメージ的には家柄だけのボンボン軍団といったイメージですが?』

「……? ああ、南の住民はそう言う認識なのだったな。我々鳥人族(バードマン)の力の根幹は背の翼だ。そしてその翼の力は鍛錬で培うものであるのは確かなのだが、より優れた血を引いているほど強くなりやすいのだ。現に、まだ幼いとはいえ王族の雪姫様など産まれた時から翼を持っているほどだ」

『そうなのですか。ということは、敵は実力はともかく生まれ持った力だけなら強いということですね』

「一部を除き戦士として満足な鍛錬を積んでいるとはいえないが、油断はしないでくれ。そして、もっとも重要なことなのだが……」


 香藻に従い、守る鳥人族(バードマン)兵。つまり取り巻き共はその数こそ多くはないが、その構成は軒並み高い家柄の出身で固められている。

 日々鍛錬というような真っ当な人格の持ち主は少ないものの――そのような誇りある兵たちは惨劇のとき一緒に殺されている――力だけなら大きい。


 しかし、それは他の殺された兵士たちも同じであった。ならば何故あの夜反逆者たちの大罪を許してしまったのか。

 その理由こそがもっとも重要なのだ。


「奴らの首魁、香藻は王族のみが立ち入りを許される国宝庫より幾つもの宝を盗み出している」

『国宝……このタイミングで話題にすると言う事は、武器やマジックアイテム……仙術具の類ですか?』

「如何にも。そのため、数の少なさも含めて奴らの装備は一級品ばかりだと思ってくれ。所有物の幾つかは魔獣王軍への献上品となっているだろうが、出陣した以上それなりには持たされているはずだ。そして――香藻本人は、恐らくその中で最強の力を持っているだろう」

『最強の力?』


 クルーク殿の困惑した声が聞こえてくる。恐らく、こちらから提供した情報の中にそれに該当する物があったかどうか考えているのだろう。

 我々も情報を隠すような真似はしていない。それが彼らとの契約の一つだからな。だが、それでもよそ者では理解できない情報と言うものは少なからずあるのだ。


「その宝物の名は『風神玉』。古来の鳥人族(バードマン)が風の神より授かった物とされ、正当な王族直系の血族のみがその力を引き出すことができる」

『風の神?』

「そう言う伝説があるというだけだ。事実関係の確認や議論は暇なときにお願いする。重要なのは、その宝玉の力はまさしく本物であるということだ」


 風神玉。それは神の力と言っても誰も文句は言わないほど強力なものであり、手にした者の翼の力を極限まで高める力を持っている。

 王族以外に扱えない性質上滅多に使われることはないが、その力を解放すれば一人で国一つ破壊することもそう難しいことではないとまで言われる至宝だ。

 俺がその力を見たのは先代国王が一度使ったのを見ただけだが、それだけでもあの力が恐ろしくも凄まじいものなのは保証できるからな。


 何せ、戦士として生きているわけでもない先代の陛下の羽ばたきで国家存亡の危機とまで言われた万を越える魔物の群れが消し飛んだのだから。


『……そんな切り札があったんなら、何でその裏切った王族は戦わなかったんです?』

「それは本人に聞かねばわからんが、使ってなお不利だからだろう。あれは強大な力を有してはいるが、敵は敗北を前提にした毒の魔物。かの力で吹き飛ばしてもあまり意味はない」

『なるほど。それで毒にやられるくらいならその力で敵軍に取り入ろうとしたわけですか』

「恐らくはな」


 最大の理由は、勝てるかわからない戦いに参加したくなかったからだろうが。

 いざと言うとき自分を守ってくれる最強の力が風神玉。しかしその至宝を使う以上、持ち主は当然最前線――その中でも最強の敵がいる場所へと向かうことになる。それを恐れたのだろう。

 ならば持たずに別の王族に託せばいいと言う話なのだが、そうなれば切り札が自分の側を離れることになる。それもまた、奴は恐れたのだ。

 何より、強大すぎるが故に平時は封印されている力が他者の手に入るのを恐れたのだ。自分自身が他の王族を――血族を殺してでも助かりたいと思う腐った心の持ち主。そんな男の眼から見れば、他の王族も同じ事を考えているように見えたのだろう。


 故に殺したのだ。自分以外に風神玉を扱える王族を。そして、そのまま敵の軍門に下った。

 本来ならば国を守護する最後の希望である力を手土産にしてな。


『一つ確認したいのですが、その香藻というのはこの戦場に出てきますか? そんな臆病者ならどんな理由をつけてでも最後方に引っ込んでいるのでは?』

「それはないな。裏切った奴らは絶対の忠誠を条件に敵の庇護下に入っているはず。となれば、ここはその忠誠に一点の迷いもないことを証明しなければならない。裏切り者の首領として、むしろ率先して矢面に立たねばならないだろう」

『それは道理ですが、そんな思考ができる人物なのですか?』

「できない。だが、この場合は周りがやらせるはずだ。自分達の地位安定にも繋がる話だからな。とはいえ、奴が出てくるのは確実に違う理由だ」


 香藻の性格上、この戦いではむしろ率先して前に出ようとする。何せ最強の至宝、風神玉を持っている以上自分の安全はある程度保障されているも同然なのだから。

 そして何よりも――


「香藻という男は卑屈にして陰険、それでいて自尊心の塊のような男なのだ」

『……また随分な言われようですが、その説明で大体わかりましたよ』

「説明が楽で助かる。まあそう言う事なので、その敵鳥人族(バードマン)の中でも一番目立つ格好をしているだろう男には気をつけてくれ。奴は十中八九遠慮も自重もしないからな」

『わかりました』


 クルーク殿はすぐに理解してくれたようで、俺の忠告にも素直に肯定の意を返してくれた。


 香藻は自分より強い者に挑むような度胸はない。だが、自分より弱い者を痛めつけるのは大好きなのだ。

 一個人としては最低だが、それもまた政治屋としては必要な資質。あの裏切りまでは俺もそう思っていたのだが、その弱い者に同胞を置き、強い者に敵を置いているようでは論外だな。

 ともあれ、今奴の認識では我ら虹の樹の鳥人族(バードマン)は壊滅寸前だ。もう勝ち目がないと思っているからこそ奴は裏切ったのだし、最強の力である風神玉まである以上魔獣王軍の勝利を疑ってはいまい。

 だからこそ、奴は最前線に出る。戦うためではなく、蹂躙するために。自分一人の力では他の王族の方々の影に隠れてぼそぼそ他者の否定くらいしかできない男でも、今の条件が揃っているのなら間違いなく出てくるのだ。


 絶対に勝てる相手を蹂躙し、自らの優位を確信するためにな。


(真に強い者は己の力を一々誇示しない。なぜなら、己の強さなど確認するまでもないからだ)


 そして、本当は弱いのに偶発的に力を身に着けた者は力を振りかざさずにはいられない。力を手にしていることに自信がなく、また力を持っていても使わない心の力を磨いていないからな。

 我々鳥人族(バードマン)は才能だけでもそれなりに強い者がいるからこそ、俺はそんな心弱き者を多く知っている。だからこそ、奴の行動も読めるというものだ。


 それに、奴にはもう一つ切り札がある。


「――それともう一つ」

『なんです?』

「敵の中に、ある男がいるはずなのだ。王族近衛の一人であり、香藻専属の近衛隊長だった男がな」

『……それは裏切った者の一人、ということですか?』

「その通り。むしろ、香藻の裏切りに当たる実行犯と言ってもいい。恐らく、王族の方々とその護衛を無力化したのはその男だろう。奴は、私と共に鳥人族(バードマン)最強候補などと呼ばれていた男なのでな」

『それほどの実力者が敵にいると。……話には聞いていましたが、これは中々厳しいですね』

「無論、これは我ら鳥人族(バードマン)の不祥事。この命に代えてもあなた方へ迷惑はかけませぬ」

『死ぬのは勘弁してくださいよ。もういろいろとカツカツなんですから』

「フフ、それもそうか。では、必ずや勝利すると言い換えよう」

『そうしてください』

「では、失礼する」


 そうして通信を終えた俺は、すぐさま号令を出し全軍での移動を開始する。

 裏切り者に、制裁を。血と欲望で穢された、我らの誇りに栄光を。そして――


「この戦いには、同胞の命と同盟を組んだ者達への恩を返す意味合いもある! 我らの誇り、その全てを賭けて勝利せよ!」

「オオォォォォッ!!」


 この戦いはただの復讐ではなく、種の存亡を賭けた戦いでもあるのだ。

 だからこそ、我らは必勝あるのみ。ここまで追い込まれた我らに手を差し伸べ、活路を見出してくれた新しき朋友(ほうゆう)のためにも――無様を晒すわけにはいかないのだ!


「空は鳥人族(バードマン)の聖域。ならば、その空で裏切り者共の横暴を許すな!」

「オオォォォォッ!」


 士気を高め、我らは飛ぶ。決して避けることのできない戦いへ向かって。

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