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【番外編完結】他力本願英雄  作者: 寒天
魔の勢力との開戦
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第148話 英雄始動

「メイ!」


 空から奇襲をかけた直後、どこか苦しそうな声で私を呼ぶ弟子の声が聞こえる。

 情報通り、かなりギリギリだったようだな。危険を察知して素早く通信魔法を無詠唱で発動させたナーティアの機転がなければ全滅もあり得た状況だ。

 何せ、そのナーティアと相方であるフィーリアは共に戦闘不能。それどころか早く治療しなければ危険な状態だ。

 そして、カーラもかなりひどい。再生能力を持つこの子がここまで苦しそうだとは……ふむ。


「こいつらをやったのは、お前ということでいいのか?」

「如何にも。私がやった」


 この場で唯一健在であり、底知れぬ気を放つ吸血鬼。緊急報告の内容とカーラが攻撃に出ていたことから考えてもこいつが敵で間違いはないな。

 全く、守護十二獣とやらを囮にして裏でこんなのが動いているとはな。あの獣を狩るのには2秒とかからなかったが、本部の考えは正しかったということか。


「……確か、話によれば君ら抵抗勢力の精鋭は魔獣王軍の相手をしているのではなかったかな?」

「その通りだ。だが、大した事のない相手だったのでな。容易く殲滅させてもらった」

「ほう、守護十二獣は間違いなくかの軍の精鋭だぞ? そこまで簡単な相手ではないはずなのだがな」

「舐めるな。あの程度に苦戦するほど温い鍛え方はしていない」


 確かに、一昔前なら苦戦もしただろう。だが、今の私には少々物足りない相手だ。遥か上を目指している以上、いつまでもあのレベルで止まっているわけにはいかん。


「となると、先ほどの光弾はキミの技かね?」

「いや、生憎ああいうのとは縁がなくてな。あれは別の者の技――っと、その前に少しいいかな?」

「何かね?」

「なに、他愛ない……弟子への指導だよ」


 この吸血鬼は戦意を見せず、ただ口を動かしている。恐らく、こいつは敵を見れば殲滅する好戦的なタイプではない――むしろ、お互いにやる気になってから拳を作るタイプだ。この手合いは戦うまでは長いが、いざ始まると止まらないバトルマニアが多い。

 奇襲や小細工を好まず、真っ正面から敵を叩き潰すことを生き甲斐にしているといっても過言ではないのだろう。そう判断した私は、あえて一度隙を見せてカーラのほうへと歩む。

 そして――その頭に拳骨をくれてやるのだった。


「いったーい! いきなり何すんのよ!?」

「説教だ。お前、死ぬ気だったろ? 敗けを認めるくらいなら死ぬ、なんて気分だったろ」

「え? えっと……」

「隠しても無駄だ。今の打ち込み、空から見ていたのだからな」


 あの光弾を、私は足場に利用してここまで来た。その関係上、空から地上に到着するまでこの二人を見ていたのだ。

 確かに、この状況では破れかぶれの特攻くらいしか打てる手はなかったのかもしれない。元々、この子に場合に合わせた作戦立案など全く期待してはいない。

 だが……それでも死を受け入れるのは許さん。それも死中に活を見いだす覚悟ではなく、ただ死ぬためだけの特攻ならばなおさらだ。


「だ、だって! おとー様にできるのはもうあれくらいしか……」

「それでも諦めるなと言って……お父様だと? あの男はお前の父親なのか?」

「如何にも。私はカーラの父、カーネルという者だ。君は娘の師だね? ここまでよく育ててくれたと礼を言おう」


 突然聞かされた情報につい口から出た質問に答えたのは、カーラではなく吸血鬼の男だった。


「……そのわりには、随分容赦がないな。この子のダメージもかなり深刻なもののようだが、吸血鬼に親子の情はないのか?」

「そんなことはない……と思うがね。しかし、親の情より戦士としての覚悟が優先。それだけのことだ」

「……なるほど、理解した」


 明快な意見に、私ではこれ以上の言葉を出すことができない。こうなれば、あとは拳を交えるだけだと本能がいっているのだから仕方がない。

 これ以上の会話の引き延ばしは難しいことだし……もう妥協するか。ある程度は回復させられたはずだしな。


「カーラ。倒れている二人を連れてここから離れろ。最低限の治療はしたが、まだ油断はできん」

「え、ええ? そりゃ構わないけど……治療って?」

「フフッ……わが娘よ。より感覚を研ぎ澄まし、お前の師の足元を観察してみろ。見えるはずだぞ?」

「……気づいていて付き合った、というわけか」

「戦闘不能の仲間を気遣って技を鈍らされてはつまらんからな。ましてそれが――今代のクン流ともなればなおさらだ」


 目を輝かせて戦いを望むカーラの父――カーネルだが、その眼力は確かなもののようだな。

 私が周囲に展開していた、範囲内の生命体に自身の生命力を注ぐことで回復を促す【回気功陣】に気づくとは。着地時に砕いた地面がカモフラージュとなり簡単には見えないよう細工をしておいたのだがな。魔力を見切る吸血鬼仕様にして。


 ともあれ、最低限危険な状態からは脱却できたはずだ。彼女らも鍛錬は積んできているのだし、生命力もそれなり以上にはあるだろうからな。


「では――始めるか」

「ああ、始めよう」


 私とカーネルは同時に構えを取る。ほとんど外見上は同じ動きである、両拳を前に突き出したクン流の構えを。


「……上から見ていたときにも思ったが、やはり貴様の流派は――」

「それは自分の身体で――確かめよ!」


 先に動いたのはカーネル。拳を前方に出したままでの体当たりだ。

 この構えからは拳に助走距離が得られないため拳打は出しづらいが、代わりに拳を盾に使うことができる。

 更に一番最初に敵に触れるのを拳にすることができるため、相手を掴み投げるといった技にも繋げやすい。つまり、防御を固めつつ戦いの流れを掴む最初の一手としてよく使われる突撃の構えなのだ。


「フッ!」

「おっと!」


 その構えから繰り出される技は熟知している。故に、私はやはり突き出した拳を動かし迫る両手を払った。

 同時に、カーネルは諦めることなく払らわれた手を動かして攻撃を仕掛けてくる。それをまた弾き、逆に私から攻撃に出れば今度はカーネルが盾の拳を使い私の手を払う。

 それを繰り返す。一瞬とも数秒とも、数分ともつかない時間をかけて。


「す、凄い……速すぎて手が見えない……」


 倒れた仲間を回収していたカーラがこちらを見て唖然としている。

 手わざの速さは攻防の要だからな。単純な速力では敵わないが、自分の間合いでの攻撃速度という限定的な速さ比べならシュバルツにも負ける気はないほどだ。

 しかしこの男……やはり、この技の流れはどう見てもクン流のもの。しかし、私やカーラが使っているものとは少しだけ違う異質なもの。

 この技は、やはり……っ!?


「フンッ!」

「クッ!」


 お互いの手の取り合いをしていたところ、カーネルは突然両腕を上げ、魔力を込めて上から潰しに来た。

 咄嗟に半歩引いて打ち下ろしの攻撃範囲から逃れるが、今ので両腕が大きく弾かれ地面に引き寄せられるように下げられた。当然全身がら空きだ。

 この、攻撃は――


「クン流・反転する裁神の斧(ライブラウ)!」


 カーネルは打ち下ろしの勢いをそのまま利用して、その場で倒立し縦回転両踵落しを仕掛けてきた。

 普通にやったらただの曲芸としか言いようが無い技であるが、このレベルの身体能力の持ち主がやれば十分凶器だ。最初の回転の為の勢いをつける動作でこちらの守りを吹き飛ばし、無防備な頭を回転の勢いをつけた踵で潰す。これはそういう必殺の技なのだ。


「――初代クン流・反転する裁神の斧(ライブラウ)!」

「何っ!?」


 私はカーネルの仕掛けた流れに逆らわず、下方へ打ち据えられた威力をそのまま利用して同じく全身を回転させ踵を放つ。

 結果、お互いの踵が激突し――倒立したたまま吹き飛ばされるのだった。


「……ほう、この技を知っていたか」

「当然だ。もはや禁じ手に等しい、対怪物用の裏技扱いではあるが、技の継承者として技術の失伝など許すものか」

「あの男の技は確かに受け継がれている……うれしいことではないか」


 カーネルは素早く体勢を立て直しつつ、どこか懐かしむように呟いた。

 ……やはりこの男、彼を知っているのか。この技を開発し、後世に伝えたクン流の始祖……初代クン家当主を!


「全ての技が必殺。まだクン流が人の守護者ではなく、一人の拳士として生きていた時代の技。守るための、倒すための技ではなく……ただ敵を殺すことのみを追求した、殺人拳」

「武術とはそういうものだろう? 元々、相手を効率よく破壊する、そのための技術なのだからな」


 カーネルは笑みを浮かべてそんなことを嘯くが、それはある意味で真実だ。

 元々戦うための技術、つまり相手を倒すのが目的の技術なのだ。となれば、当然その追求する先はいかに効率よく敵を殺すかになるのは当然のことだろう。


 しかし、今のクン流は騎士として人を守るためにある。その変化の過程で技の多くは変質し、改良されてきた。

 ただ敵を殺すのではなく、倒しつつも殺さない技へと。もちろん殺すこと前提で戦う魔物の類もいるので殺人……殺怪技も多く残っており、研ぎ澄ましてはいるが、従来のものよりも殺意をそぎ落としているのは確かだ。

 それは技だけではなく基本動作にも現れているのだが、拳をあわせた感触から言ってカーネルが使っているのは明らかに現代の技ではない。より原初に近い、殺意と破壊に満ちた技だ。


「何故、その技を使える?」

「盗んだ、というのが正しいかな。かつて私を倒した男からね」

「倒した……?」

「これ以上のお喋りは止めておこう。知りたいことがあるのなら、拳で聞くがいい!」


 カーネルは叫び、再び突進してきた。

 ……確かに、拳士がこうして拳を交えているのだ。ならば、やるべき事は口を動かすことではないだろう。

 どういう経緯かは知らんが、初代の技を継承するものが私の一族以外にもいた。今はそれだけわかっていればいい。だから――精々その技、堪能させてもらうぞ!


(私がここでこいつを引き付けておけば、向こうも楽になるはずだしな)


 拳を再びあわせつつ、私は完全に戦闘に入り込む前にそんなことを考える。

 弟子を攫われたと聞かされた、シュバルツのことを思い出して……。



――時は少し遡る。


「……すまん、もう一度言ってくれ」


 俺は作戦通り戦場に到着し、すでに戦闘を開始していた冒険者部隊と合流して敵の対処に当たってた。

 といっても、俺のターゲットは敵の幹部クラスと思われるあの巨大な半人半馬(ケンタウロス)のみだ。世界の幻獣魔獣の中でもかなりの知名度を誇るであろう、上半身が人間で下半身が馬というあれだ。

 まあそれ自体は大した問題ではないのだが、上半身は何故か露出の多い鎧姿で、女性型というのは個人的にやりづらい。……そんなこと気にしているほど戦場で余裕かましているわけにもいかないが。

 そんなことを考えて、余計なことは考えずに敵として対処する覚悟を決める。が――今は可能な限り力を消費しないためにも、敵の本陣までの道が開くまで事実上待機ってところである。

 本来なら奇襲をかけて一気に敵を押し込む計画だったのだが、うまく堪えられてしまったので仕方なく乱戦を続けていた。待機と言っても近くの毒召喚獣を軽く叩くくらいはしているけどね……ってところだったのだ。


 本部のクルークから、その連絡が届いたのは。


『もう一度だけ言うよ。アレス君が誘拐された。守護十二獣を倒した直後、ミハイと名乗る吸血鬼が突然現れたらしい』

「ミハイ……奴か!」


 同名の吸血鬼という可能性がないわけではない。だが、俺はその名を聞いた瞬間に確信した。

 俺のかわいい弟子を誘拐なんて舐めたことしてくれたのは、間違いなくあのミハイであると。


『ご丁寧に、敵は自分の痕跡を堂々と残して移動している。追跡は容易……というより、着いてこいってことだろうね』

「……上等じゃねぇか。挑発だってんなら乗ってやるよ」


 その瞬間、俺の頭は完全に暴走していた。戦士としての冷静さ、リーダーとしての責務、すべて頭から消し飛んでいた。

 一瞬で沸騰した頭をクールダウンさせようなんて考えもせずに、すぐにその場を放棄してアレス君の元へ向かおうとすら思っていた。

 クルークから、ギリギリ留まれる制止をかけられるまでは。


『一応言っておくよ。今キミがその場を放棄すれば守護十二獣を相手にできる戦士がいなくなり、多くの犠牲者が出るだろう。それはわかっているよね?』

「……グッ!」


 尤もな指摘に俺は二の句を告げなくなる。

 この戦場を任されているのは冒険者グループであり、もっとも数が少ない場所なのだ。連携の技術であればトップであるが、限られた精鋭しか旅に同行しなかった関係上数って点で言えば不安はある。

 冒険者グループのリーダーである“四獣”のバンシならあの馬にも対抗できると信じたいが、奴が抜けると戦線が崩壊するだろう。そもそも敵の大将を俺が撃ち取ること前提の陣形で戦っているのだから当たり前だ。


 それはわかっているのだが……クソがっ!


「――ガァァァァァァァッ!!」


 身体の中に溜まった焦り、怒り、憎しみ。そんなものを無理やり吐き出すように俺は吠えた。

 自分で言うのもなんだが、理性もへったくれもない感情の爆発。どっちが獣かわかりゃしない大音量だ。

 咆哮と一緒に魔力まで飛ばしたせいで、敵味方無関係に吹っ飛んでるくらいだし。流石に無意識の放出では致命傷を受けたものはいないだろうが、ちょっと工夫すれば敵を崩す技に使えそうだな、これは。


 なんて、そんなどうでもいいこと考えてる場合じゃない。

 この場の放棄はあらゆる意味でできない。でもアレス君を見捨てるなんて選択肢は端っからない。

 だったら、どうすればいいか。そんなの、考えるまでもないことだ。


「すまん、クルーク。俺はこの辺が限界らしい」

『……ま、予想はしてたよ。そうなった場合の次善策も用意はあるし、好きにやればいいさ。元々キミら戦闘脳の持ち主にいつまでも自粛ができるなんて考えるほど僕も楽観的じゃないからね』

「……ありがとう」

『礼を言われることじゃないさ。あらゆる状況を予測して備えるのがキミの補佐官である僕の役目だからね。……ああ、でも一つだけ言っておくよ?』

「ん? なんだ?」


 言葉にせずとも俺の内心を理解してくれたクルークに感謝をしつつ、次の要求に備える。

 後悔も反省もしないだろう決断とはいえ、迷惑をかけることに変わりはない。だから、できる限りのことはするつもりだぞ?


『わかっているとは思うけど、レオン君に求められているのは冷静沈着な知将の役目じゃあない』

「そうはっきり言われると傷つくな。まるで俺が馬鹿みたいじゃないか」

『キミより頭を使わない将がいたら是非見てみたいね。まあそれはともかく、キミに求められているのは何時だって一つだけ。――必勝する英雄。何があってもこいつさえいれば大丈夫だと誰もが信じられる、そんな背中だ。だから――』

「やるからには本気でやれ、ってことでいいか!」

『そういうこと。それじゃ、情け容赦なく戦場を盛り上げてくれ』


 そう、俺は本来頭を使って全体を守るような男ではない。何時だって体力と鍛練で全てを越えてきた男だ。

 クルークのゴーサインと共に、俺は全ての枷を外す。この場を放棄せずにアレス君を助けにいく――その二つを両立させる回答。

 それすなわち、敵軍を瞬殺するのみ! 温存して次に備える計画はおじゃんになるが、もうそんなこと知るか!


「でもまあその前に……あー、こほん。……魔獣王軍の司令官に告ぐ! 今すぐ降伏せよ! 従えばこれ以上の攻撃は行わないと約束しよう!」


 俺は残った理性をかき集め、攻撃前の降伏勧告を行う。道具なし、自らの肺活量だけを頼りにした大音量で。

 戦線が開かれ戦闘の真っ最中である今言うことではないが、このタイミング以外に情けをかける機会はないだろう。さっきの咆哮で注目を集めていることだしな。

 なによりも……多分、一度動き出したら俺もう止まらないし。


「愚かなる人間共の大将か! 私は名誉ある守護十二獣の一席を預かる半人半馬(ケンタウロス)のギリー! そのような世迷い言など聞く耳すら持たぬ! 貴様らこそ、さっさと降伏することだ。さすれば最大限の慈悲を持ち、せめて苦痛なく殺してやろう!!」


 はい、交渉決裂。当たり前の反応だな。

 だが一応、これで最低限の大義名分はできた。止める気にもなれない敵を消し去るという思いを解放する、自分への言い訳がな。


(全てを消し去れ。悪を、滅ぼせ……じゃない。アレス君をさっさと助けにいくぞ!)


 一瞬変な思考が混じった気がするが、無視して呼吸を整える。

 感情の赴くまま全ての敵を破壊する。一秒でも早く終わらせ、弟子を助けにいく。

 その思いだけで、俺は内に宿した力を全開にした。俺のではない、意図しない力すらも全開に。


「――なんかいつもより光の力が強い気がするが……細かいことは後回しだ!」


 強烈な光の魔力を身に纏い、俺は敵陣に突撃する。何事かと先程の咆哮から俺を見ていた冒険者達が慌てて避難する。

 いい判断だ。流石に、咄嗟の判断力と危機回避能力はプロの動きであると称賛する他ないものがある。

 今さら味方を巻き込んでしまうほど未熟ではないつもりだが、それでもこの方がずっとやり易い!


「――全てを消せ、嵐龍!」


 嵐龍閃を敵陣へと適当に数発ぶっぱなす。消耗度外視であるが、これなら一瞬で片付くというものだ。

 癒す浄化は苦手だが、消し去る浄化は得意分野。こうして光の魔力を全開にすればどんな毒も呪いも消し飛ばしてくれるわ!


「後は――」


 俺は殺気を宿した目で大分スッキリした敵陣の内部を見る。

 そこにいるのは、突然の崩壊に焦りの声をあげているあの女半人半馬(ケンタウロス)。いつもなら多少の加減くらいは考えるかも知れないが、今は時間が惜しいし……ミハイの情報を持っているかもしれない敵の幹部だ。

 残酷に、慈悲なく圧倒させてもらう。ああ、本当に……今の俺はまともじゃないって自覚できるくらい、残酷にやれそうだ……。


「クカカカカカカッ!」


 変な笑い声を出しながら俺は跳んだ。

 敵を滅ぼす。そう考えただけで、ますます強大な光の魔力が吹き出してくる。今まで出ようとしても出られなかった蓋が外れたように、ジャブジャブ吹き出してくる。

 ……ふう、どうも、わずかに残った冷静な俺が言っているな。これ、明らかにおかしいぞって。


(――だが、今は俺のことなどどうでもいい! 早く、アレス君の元へ行く。それ以外のことは後で考えろ!)


 優先順位を確認してすぐ、俺は魔力を束ねて力を集約し、瞬突の歩法であの馬女の前に飛び出した。


「クッ! 貴様、何者――」

「口上を聞いている暇はない!」


 間合いに入った次の瞬間、馬の下半身についている二本の前足を切り飛ばす。

 いつもの俺ならそこまでの重症は負わせないように配慮するが、今はいつもの俺ではない。文句があるなら、俺の弟子に手を出したことを呪ってろ!


「バ――なっ!?」

「話に付き合う気はないといったぞ!」


 突然の大ダメージに驚き、痛みを感じる暇もないようだ。

 それでもなにか言おうと口を開こうとしたが、躊躇も容赦もなく今度は人間の上半身を腹から顔にかけて武器を持っていない左手で殴り飛ばす。女の顔を殴るのはこうして冷静じゃないと自覚できるほどに荒れていても嫌なものだが……だからどうした!


「ハアッ!」

「グォッ!?」


 殴られたダメージで意識が一瞬とんだ様子の馬女の首を片手で掴み、そのまま敵の首を支点に力ずくで投げる。

 下手しなくても普通は死ぬ危険な技だが、生命力自慢の獣モンスターならこのくらいで死ぬような情けないことは言わないよなぁ?


「ぐ……あぁ……」

「気絶するには早い。これからようやくおしゃべりタイムだ。お前らの仲間に吸血鬼がいるな? そいつらは何をしている? 何を企んでいる!」


 俺は横倒しになった巨体の首にかけた左手の力を強め、ミシミシと首が折れないギリギリの力で締め上げながら尋問する。

 魔獣王軍と吸血鬼勢力が共同で動いている保証はないので知らない可能性もあるが、知っている可能性もある。ならば十分やる理由になる……にしてもやりすぎだとどこかで訴えているが、気にする気になれないな。


「し、知らな――ギャァァァァァッ!」


 わずかに首の締めを緩めたところ、知らない、と言おうとした。

 その時点で俺は右手の嵐龍を振るい、馬女の左腕を切り落とす。さて、流石にここまでやられれば強がりは言えないと思うんだが、どうだろうか?


「ほ、本当に、知らない……」

「そうか。じゃあ――」

「止めんか馬鹿者!」

「ゴボッ!?」


 死ね、と言おうとしたところで、後ろから待ったがかけられた。かなり強烈な拳骨で。

 突然のことに硬直していた冒険者達が我に返り、俺の凶行を止めようと殴ったのかと一瞬思ったが、この声と拳の威力からして該当する人間は一人しかいない。


「何をいきなり妙な趣味に目覚めている。それどころじゃないだろうが。それに、どうせ殺すなら一思いにやるのが礼儀というものだぞ」

「メ、メイ? 何でここに……」

「さっさと敵を潰して来ただけだ。そんなことより、本当に大丈夫なのか?」

「ああ……いや、助かった。確かになんか変な扉開いてた気がするよ」


 拳の威力で正気に戻った瞬間、身体の深い部分から吹き出していた光の魔力がやや弱まった気がした。

 ……それはともかく、確かにこうした苛烈な拷問や処刑は俺のやるべきことじゃないな。これじゃ仲間の士気を上げるどころか逆効果にしかならない。


 英雄が英雄でいられるのは、力以上に心が強いからだ。自分の力に溺れず、人間としての心を保っているからこその英雄。

 それを忘れ、力に飲まれて暴虐を尽くしてはただの怪物の一種に成り下がってしまうのだ。そんな大切なことも頭から吹き飛んでいるとは、我ながらドンだけ頭に来ているのやら。


 とりあえず、敵の無力化はしたことだし、後は他の連中に任せて俺は俺の仕事をしよう。


「えっと、まあとにかく無力化はした。恐らく死ぬまで抵抗を止めないタイプだろうけど、なにか聞き出せるかもしれない。死なない程度の治療を施して本陣に連れてってくれ」

「あ、ああ」


 突然豹変したようにしか見えないだろう俺だが、気にせず近くにいた冒険者に声をかけた。冒険者も戸惑いながらに頷き、承諾の意思を示した。


 まあ、戸惑うよな。俺だって戸惑ってるもん。

 ……アレス君を浚われて怒り心頭なのは当然だと思うんだが、何かがおかしい。おかしいが……それよりも早く行くか。


「それじゃ、早速移動を――」

『緊急連絡! カーラ、ナーティア、フィーリアの三名が吸血鬼との戦闘に入ったとナーティアよりSOSが入った! 敵は一人だが戦闘力は極めて高く、全滅間近! 至急応援に向かってくれ!』

「何っ! どういうことだ! あいつらは無事なのか!?」

『今はね! でも1分後は不明! 限りなく急いでくれ!』


 行動開始、と思ったところでマルチチャンネル式の通信魔法が入った。

 内容は味方のピンチ。関わりが深いメイが叫び、クルークも焦りを感じさせる声を上げているのが聞こえる。

 俺も行ってやりたいが、しかしその時間はない。この場合メイが向かうしかないだろうが、俺とメイが同時に単独行動ってのは流石に不味い気もする。

 まだまだ敵はたくさんいるってのに……って、ああそうか。この多重攻撃を仕掛けてきている連中を、全部消してやればいいんだ。


「メイ、クルーク。今から俺が敵全体へ攻撃を仕掛ける。そのうちの一つを利用してメイは素早く三人の元へ向かい、クルークは変化した戦場の指揮を任せる」

『レオン君……?』

「全体に、とはどういうことだ?」

「言葉の通りだ。説明する時間が惜しいのですぐに始める。ひときわ大きいのが三人の敵へ飛ばすものだから、メイはそれに乗ればいい」


 俺はまともに説明しないで命令だけ飛ばす。

 そして、すぐに技の準備に入る。さっき沈んでいった内側の力へと、今度は自分から手を伸ばす。

 この力は危険だ。恐らく、記憶のレオンハートが見せてくれたあの力に深く関わるものだろうから。

 だが――そんなこと、今は気にしている場合じゃない。助けを求める仲間がいて、そこに手をさしのべないのなら初めから戦いに参加なんてしないからな!


「【悪の感知(イービルポイント)】」


 俺は自分を中心に網を広げるように魔力を広範囲に拡散させ、その中にいる悪を捉える。

 何をもって悪とするのか、なぜ俺にこんなことができるのかと疑問は尽きないが、それよりも早くやれと頭の中でガンガンなり響く念に従い、俺は次の技へ移る。


 捉えた悪へ、裁きの光を――


「判定:悪への攻撃を開始。【裁きの流星群ジャッジメント・コメット】」


 俺以外の誰かが動かしているかのように自然に出た言葉と共に、俺の身体から万を越える光の矢が放たれたのだった。

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