表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【番外編完結】他力本願英雄  作者: 寒天
魔の勢力との開戦
162/241

第146話 アレス、奮起

(残り11体いるはずの精鋭のうち、3体が出てきた。なぜ同時に出さないのか……俺たちが出ざるを得ない戦力を前に出して、陽動とわかっていても乗らずにはいられない状況に追い込んだつもりか? それとも全軍戦力を終結させている訳ではなく、ここでここで動かせる戦力は3体が限度だったのか。あるいは……俺たちからの反撃を想定して自軍の守りに半数残しているってのもあり得るのか?)


 敵軍の主力出現の報告を受けた俺は、目的地の方角が同じであるメイと共に大地を駆けていた。

 単純な速力なら俺の方が上であるとはいえ、素の状態ならそこまで絶対的な差があるわけでもない。こうして外に出たところを各個撃破する作戦とも考えられるので、俺がメイの速度に合わせる形で並走している状態だ。

 しかしただ走っているだけでは時間がもったいないので、周囲の警戒を怠らない程度にこの先のことを考えているのだ。まあ、俺がいくら考えたところで正解は出せないのだが、それでもやらないよりはましだと信じたい。仮に運よく予想が当たった場合、なにも考えていないよりは早く動けるだろうし。


「……シュバルツ、話がある」

「ん? なに?」


 不意に、今まで黙って走ってたメイから声がかけられた。

 どうしたのかと軽く首を傾けて続きを促したところ、何やら気恥ずかしそうに口を開いたのだった。


「……弟子たちのことだ」

「ん? カーラちゃんか?」

「ああ。……私は今まで、道場の門下生に指導をした経験ならたくさんある。だが、私個人の弟子というのは初めての経験でな。こんなときどう感情の整理をつけていいかわからんのだ」

「こんなとき……ってのは、勝てないかもしれない戦いに弟子が向かうかもしれないとき――ってこと?」


 俺は自分の予想をメイに伝えたところ、彼女は軽く頷いた。


 この戦い、パターンは色々あるとはいえ敵の基本作戦は物量によるごり押しだ。

 もちろん数を囮に精鋭を動かす――っといった第二第三の戦略もあるのだろうが、初手がこの同時攻撃なのだからこっちも総力戦になるのは間違いない。

 となれば、まだ待機中であるとはいえ弟子組もいずれ出陣することになるだろう。そのために厳しい修行を積んできたのだから。

 だが、どれだけ万全を尽くしたつもりであっても不安は残る。もし弟子が負けたら――死んでしまったら。そんなことを考えると心臓を握られているような不安と苦しみを感じる。それは当たり前のことだ。

 メイは、その不安をどうすればいいのかわからないのだろう。俺はアレス君を弟子にしてからそこそこ長いし、その分あの子を死地へ向かわせた経験も豊富だ。

 だが、だから大丈夫というわけではない。むしろ、俺だって隙あらば悪い想像が頭の中を埋め尽くそうとするのだ。さっきあんな慣れないことを考えていたのも、その不安を誤魔化すためであるといっても過言ではないくらいに。


 これは師匠になって初めて知ったことなのだが……弟子が危ないかもしれないと想像するのは、自分の命を白刃の元に晒すのの数百倍は恐ろしい。

 それを思えば、当時未熟も未熟だった俺を一人旅に出した親父殿のメンタルの強さがよくわかるって話だ。弟子ってだけでこんなに心配なのに、弟子兼息子とかどんな精神状態になるか全くわからないんだから。

 ……力では追い抜き、技でも影くらいは踏めるつもりでいるが……心ではまだまだ及びそうにないな。我が師は偉大だということだ。


「……俺たちは何があっても耐えられるように弟子を鍛えてきた。そうだろ?」

「当然だ。だが、女々しいとはわかっているが今更不安になってな。もっと上手く教えられたんじゃないか、もっと伝えられることがあったんじゃないか、まだまだ詰め込める余地があったんじゃないかと……つい考えてしまう」

「気持ちはよくわかるよ。俺も、こんなことがある度についつい修行の密度を上げちゃうし」


 弟子が五体満足で帰ってきますように。そんな思いは弟子が死を乗り越える度に、敗北に涙を流す度に強くなる。

 その結果修行の密度がどんどん上がっていくのだが、それは師の愛として受け止めてほしい。


「だが、どれだけ不安になっても過去は変わらない。だから、信じるしかない――なんて言っても、ただの感情論だよな」

「フフ、そうだな。なんの解決にもならない」


 どこか愉快そうに笑うメイだが、まあ確かになんの解決にもなっていない。信じても不安になると言っている相手に何を当たり前のことを言っているんだって話だ。

 だからまあ、こういうときに俺がよくやる精神統一方法でも喋っておくかね。


「俺はいつも、誓いを立てることにしているよ」

「誓い?」

「ああ。――師匠(おれ)より先に、弟子(アレス君)を死なせない。どんな手を使ってでもな。いつかあの子が俺と共に並び立ち、越えるその瞬間までな」


 弟子の使命は、師を越えることだと俺は思う。だから師匠はその時まで弟子を死んでも守り抜く。それが俺の誓いなのだ。

 そのためなら、俺は神だろうが悪魔だろうが……魔王だろうがねじ伏せる。その覚悟をもってな。


「……結局感情論だぞ?」

「それは仕方がない。だって、俺だぞ?」

「……フッ! それもそうだ!」


 悩むのも馬鹿馬鹿しくなったのか、メイは力強く大地を蹴って先へと走った。

 俺もそれに合わせて更にスピードを出し、目的地へ向かう。そろそろメイとも別れる予定のポイントだし、戦場(いくさば)はもうすぐだ――!



「……先に出た三人がそれぞれの戦場に合流。交戦開始を確認。ターゲットまでには多くの雑兵がおり迂闊に近づけないが、自軍の戦力と共闘して事に当たっている。力ずくで突破することは容易だけど、この戦いではどれだけスタミナを温存できるかが恐らく勝利の鍵だ。君たちもそのつもりで備えてくれ」

「はい」


 本部で全体指揮を取る“軍師”としての役割を果たしながらこちらへ声をかけてくださるクルークさんに、僕はどこか気の入っていない声だと自分でもわかる声で返事をした。


 師匠が出陣してしばらく、戦況は動いているもののまだ僕らに出番はない。

 だから少しでも体力を温存できるように休んでいるのだが、段々落ち着かなくなってきた。皆が戦っているときに自分だけ休むなんてできない――なんてのは子供のわがままだとはわかっている。でも、こうそれなりに回復してしまうとどうしても、ね。

 バカな考えだとは思うし、こうして上位の戦力として信頼してくれる師匠たちの思いを踏みにじることだとは理解しているけど……ついちょっと手伝いにいこうなんて考えてしまう。まだまだ僕が未熟だってことかな……。


「焦れているようだね、皆揃って」

「え、いや、その……」

「もう座ってるの飽きたわよ。そろそろ戦いましょー?」


 心を読んだかのように図星を突かれてしどろもどろになる僕だったが、空気読みスキルと自重スキルが壊滅しているカーラさんが元気よく答えてしまった。

 ちなみに、カーラさんはただ座っているだけではない。理屈はさっぱりだが、この人は食えば食うだけ力が回復し――増幅するという反則じみた体質なのだ。

 というわけで、修行で消耗した体力を回復すべく食いまくっていたのだ。もう満足したのか今は戦いたがっているが、僕の見た限りただ座っていた時間は1分にも満たないと思う。


「気持ちはよくわかるけど、ここは堪えてね。一番数が多い翼の兵団は最初の軍勢を押さえてくれているし、回復した彼らの中の英雄級にもやはり出てもらってやっと戦力が足りたんだ。君たちは敵の手を見てから動かせる貴重な切り札なんだからさ」

「切り札――いい響きね! そういうことなら仕方ないから待っていてあげるわ!」


 切り札と呼ばれたことに機嫌を良くしたカーラさんは作戦指令室の椅子に座り直し、何やら腕を伸ばしては引っ込め、また別方向に突きだす奇妙な動きを始めた。よくわからないけど、たぶん修行だろう。

 僕も、瞑想でもしてイメージトレーニングしておこうかな。気が紛れるだろうし、ただ座っているだけよりは有意義だし――


『報告! 東より守護十二獣と思われる怪物出現!』

『同じく、同様のものだと思われる怪物が出現! 西の方角です!』

「わかった。増援を送ろう」


 と思ったら、緊急連絡が入った。

 敵は英雄級の力を持っていると思われる怪物。師匠が言うには一撃で倒せる大したことない相手らしいけど、その基準を僕らに当てはめない方がいいだろう。

 勝てないとは言わないが、死を覚悟しないといけない相手――そういうつもりでいよう。


「東西南北からそれぞれ出現か。確実にこっちの戦力分散を狙いつつ、状況次第でそのまま攻め落とす構えか。ここを無防備にしたらそのまま直接本陣を叩くことも可能だとこっちに教えた上でこれ……わかっていても乗らない訳にはいかない罠ってのは一番厄介だね」


 ぶつぶつとクルークさんは状況整理を行っていく。

 その思考の果てに僕らにどんな指令が出されるのかはわからないけど、一つだけはっきりしていることはある。

 僕はもう二度と、臆さない。どれ程危険で無茶な戦いになろうとも、もう心で負けはしない。それは決めたことだ。


「……よし、チームを組んでそれぞれの戦場に向かってもらうよ。まだ一人じゃ不安だけど、仲間と一緒なら君たちは十分英雄だ。僕はそう信じている」

「……はい!」


 一人ではまだまだと見なされていることを嘆けばいいのか、仲間と共にあれば英雄級という評価に喜べばいいのか、それは人それぞれだろう。

 でも、どっちでもやることは変わらない。勝つこと、それが全てだ。


「チーム分けは……そうだね、能力のバランス的に考えても男の子チームと女の子チームでいいかな。前衛と後衛が揃ってるし」

「……まあ、僕らに異論はありません」


 つまり僕こと魔法剣士アレス、弓兵マクシスでチーム。そして拳士カーラ、槍兵フィーリア、魔術師ナーティアでチームか。

 奇数人である以上数が片寄るのは仕方ないことだし、バランスも悪くない。元々カーラさんを除いた僕らのチームが二手に別れるときはこの組み合わせが多いしね。


「何でもいいからいくわよ! 力が溢れそうなんだから!」

「修行の成果かいい具合に昂っているようだね。それじゃ、男の子チームは西、女の子チームは東へ向かってくれ。東はカーラ君の部下が頑張っている戦場だからやりやすいだろう。……くれぐれも無理はしないで、まずは生き延びることを優先すること。きびしいと思ったら無理はせずに戦いながら後退、増援を待つこと。いいね?」

「はい」


 クルークさんの忠告に、僕は素直に頷く。

 無理して死ぬのが一番ダメ。死んでも退けない理由がないのに死んだら間抜けだ。まあ今回は負けられない戦いだけど、援軍が期待できる以上死んではいけない。

 それは師匠からもいい聞かせられていることだし――次は勝てるようにと修行の量が増えるので結果死にそうになるけど――大丈夫。戦場の空気に流されて安易でヒロイックな死を選ぶようなことはしない。

 どんなに惨めでも最後まで足掻くのが本物の戦士、ですよね、師匠。


 それじゃ――出陣だ!


……………………………………

………………………………

…………………………


「……そろそろだけど、大丈夫?」

「へ、へっちゃらッスよ。自分だけレベルアップしているとは思わないことッスね!」


 若干以上に荒れた息でマクシスが強がっている。

 僕らは指示された戦場まであと少しのところまで来ていた。もちろん走ってだ。

 急いでいるとはいえ、到着したらバテバテでしたでは笑い話にもならない。だから僕はある程度体力温存で走ったんだけど……どうやら、マクシスにはきつい速度だったようだ。元々足の速さは僕のが上だったけど……どうも、ここのところの修行で更に差が広がっていたらしい。そりゃ変態的なまでに足腰鍛えられればそうなるのも仕方ないけど……どうも、想像以上だったみたい。


「どうする? ちょっと息を整えていく?」

「だ、大丈夫ッスよ。このくらい、あの修行の日々に比べれば……」


 ……お喋りしながらも、マクシスは瞬く間に呼吸を整えていく。

 やはり、よその修行も過酷を極めるものだったようだ。僕の知るマクシスにはここまでの回復力はなかったと思うんだけどな。


「ちょっとでも息を乱して気配を漏らせば空間を跳躍したパンチが飛んでくる――それを思えば、こうして数秒も猶予がもらえるのは楽な話ってやつッスよ」


 ……何をしたのか聞きたいような聞きたくないような……いや、やっぱりやめよう。僕だって走馬灯を見た回数なんて思い出しても鬱になるだけだし、世の中には聞いてはいけないことというのがあるんだ。


「じゃ、軽く作戦確認ね。戦場には翼兵団がすでに戦っているから、僕らはその支援を受けて敵の大将狙い。余計な雑魚相手に消耗することなく勝利するのが役割だ。というわけで各自の動きだけど……」

「リーダーが前衛で、俺が後衛でサポート。いつもの形でいいんじゃないッスか?」

「僕もそれができれば一番楽だけど……いつもと違って、舞台は乱戦だよ? 敵の雑兵に当たるだけでも矢の無駄だし、味方に当てたら洒落にならないよ?」

「大丈夫ッスよ! 身体で覚えた新技、見せてやるッス!」

「……じゃ、その自信を信じる。合図を出せば翼兵団が一斉に道を作ってくれる手はずになっているから……ここから先は全速力で行こう。遅れないでね?」

「わかってるッスよ。ちゃんとポジションは確保するッスから」


 マクシスの言葉に、僕は大きく頷いた。徒競走では僕より遅いマクシスだけど、そもそも弓兵は剣士と並走する必要などない。ちゃんと弓矢が使える場所を確保できればそれでいいのだ。


 きっちりお互いの役割を把握した上で、僕は本部を出る前にクルークさんから受け取った短い紐付きの筒を取り出す。

 これは小型の信号弾であり、これを打ち上げたら第一陣の軍は一気に敵を押し込み、味方の道を作る算段となっている。


「せーの……発射!」


 僕は信号弾を上に向けて発射すると、そのまま走り出した。

 数秒あとに空から特徴的な爆発音が鳴り響き、味方に僕らの到着が伝わったはずだ。まあ敵にも伝わっちゃうけど……それは仕方がない。まあでも信号の内容を知らない分混乱するかもしれないし、むしろ奇襲成功の一因になるかもしれない。そう考えることにしよう。


「合図だ!」

「全員、敵を押し込めーッ!」


 鳥人族(バードマン)の兵士達の雄たけびが聞こえている。どうやら、ちゃんと作戦通りに動いてくれているみたいだ。

 それじゃ、僕らも行くか!


「――ターゲット視認。推定サイズ2メートル。二足歩行型の魔獣」

「了解。……カエルかな、あれは?」


 僕達は戦場を視界に入れる。すると、それとほぼ同時にマクシスから報告が来た。戦いの気配を感じると同時に狩人モードに入ったようで、その空間認識能力を活かして倒すべき敵をすぐに見つけてしまったのだ。

 あれが守護十二獣……巨大なカエルとは、また苦手な人は見ただけで卒倒しそうだ。装備はローブに杖と、典型的な魔法使いスタイル。カエルなのに老人風の白くて長いひげが特徴的だ。

 そして肝心の実力だが……見るからに強そうだ。見ているだけでビリビリ感じるよ。


(外見情報だけで魔法使いと決めつけるのは危険かな? でも考えている暇はないし、ここはとにかく接近することに集中しよう。仮にあの姿が偽装で実は近接格闘型だったとしても――押し負けなければいい!)


 僕は敵を見据え、一旦止まる。大きく息を吐き、足に力を込める。翼兵団が作ってくれた道へ向かって、身体を屈める。

 全身の力を、無駄なく必要な方向へ。それを強く意識して――身体そのものを一本の矢とする!


「――瞬突!」


 シュバルツ流歩方、瞬突。停止した状態から、足元を爆散させる勢いで強く地面を蹴ることで一瞬でトップスピードと同等――いや、瞬間に限ればそれ以上の速度を叩き出せる。

 基本用途は敵に向かって急速な速度の緩急により真正面から不意打ちをかけることであり、本来加速法と併用する技である。

 しかし、応用すればこのように移動術としても使える。力をためる動作の分普通に走った方が移動距離的には速いのだが、今みたいに自分を狙う敵のタイミングを外すのにはちょうどいい!


「ゲゲロ? ――【水術・粘水鉄砲(スライムショット)】」

(早速来たか!)


 翼兵団が敵を押し込んで作った道から、そこを通るのがこっちの主力であることは誰でもわかるだろう。

 だから味方に守られることもなく、確実にそこを通過する『道に入るタイミング』を狙われるのはわかっていた。だから瞬突を使ったのだが――ターゲット本人が真っ正面から撃ってきたんじゃこれじゃ避けられないな。

 というわけで――


「師匠、早速行きます。直伝奥義――」


 僕は魔法が当たる数秒前で立ち止まり、息をはいて心と身体を静める。

 正面から迫ってくるどろどろと粘性の高そうな水弾。恐らく、普通に当たったら身動きを封じられた上で窒息死というところだろう。

 ――そういうのが相手だからこそ、修行の成果を試すことができるってもんだ!


(――水流に逆らうことなく、あらゆる流れに乗る)


 水自体が持つ流れ、そして鉄球が加えてくる力にただ力で対抗してもバランスを崩す。

 大切なのは、身を任せること。力に抗うのではなく、力に合わせることで初めて水流は敵ではなくなる。力で抑えず、戦わずに受け流す。


(――浄化の光を身に纏い、数多の力と同化する)


 浄化の力で水中の毒を常時浄化してきた。それと同じように、どんな力でも表層だけを浄化すれば危険はなくなる。

 例え猛毒の水だろうが全てを切り裂く風だろうが、万物を焼き払う炎だろうが、僕に触れるのは暖かな光だけとなる。


(体術と魔力。この二つを併用し、いかなる力でも恐れず強ばらず、柔軟に後ろへ受け流す)


 恐怖に負けず、どこまでも柔軟でしなやかな気を纏うこと。心技体のどれか一つでも欠けていたら途端に崩壊する代わりに、完成すれば遥か格上の攻撃をも無力化する至高の防御術。

 その名を――


「――明鏡止水」


 粘水の弾丸は僕に直撃するが、その性質を失いそのまますり抜けていく。もちろん僕にダメージはなく、力のぶつかり合いをしていない分消耗も少ない。

 その代わり僅かでも身体が強張って無駄な力が入ると無防備な状態で直撃を受けることになるリスクもあるけど……そうならないための力制御の極意、力道点破だ。極めたとはいいがたいけど、師匠と修行を信じろ!


「すり抜けた? ならば、【雷術・放電球(ライトニングスフィア)】」

(今度は電撃を放出し続ける魔法か。属性は水と雷か? 魔法使いが学ぶ組み合わせとしては王道だけど、決めつけるのは早いかな。とりあえず――前に進みつつ、明鏡止水だ!)


 魔法を放つ隙をついて接近しつつ、再び心を静める。

 カエル魔術師から放たれた雷球は全部で10個。その全てで僕を包囲した後全方位雷撃を食らわせてくるが、浄化し受け流す。

 どんな攻撃にも、心を静めて明鏡止水の境地であれ。そうすれば、どんな相手にも負けない――


「……生意気な。【三重詠唱・雷水術・帯電する水牢(スフィアロック)】」

「融合魔法……拘束とダメージの両立……大丈夫、全てすり抜ければ――」

「雷術、水術、水術――」

「あ、ちょっ!?」


 一瞬心が乱れそうになるくらいの高速詠唱により、連続で即死級の魔法が飛んできた。

 でも、そのくらいで動揺していてはやっていられない。心を静め、恐れず全て受け流す――


(……のはいいんだけど、これからどうしよう?)


 師匠曰く、これを考案した『ここにはいない人』ならエネルギー系の攻撃を完全に無効にできるらしい明鏡止水だけど、まだ僕はこれを維持しながら攻撃に移ることができない。

 明鏡止水には何段階かのレベルがあり、まだ僕が習得したのはレベル1に当たる明鏡止水・静だけだ。これは実体のない攻撃をすり抜けることができるのだが、動けない。僅かでも動くと乱れて技が解けちゃうんだよね。

 本当は攻撃をやり過ごした後に技を解いて移動し、また攻撃を受け流すと繰り返して近づくつもりだったんだけど……攻撃に継ぎ目がないよどうしよう。


(相手の魔力切れを待つか……でも、そんなことしてたらその内敵軍の雑兵が抜けてくるよね)


 今の明鏡止水・静では物理攻撃には対応できない。何せ動けないので、物理攻撃は直撃するしかないのだ。

 だからもし翼兵団が一体でも敵を通してしまえば無防備にならないように、技を解除せざるを得なくなる。

 しかし、この攻防だけでもわかったけどあのカエルは本当に強い。魔法の発動速度が尋常じゃないし、明鏡止水を解いたら一瞬でやられそうだ。

 更に力を解放すれば戦えるとは思うけど、力に頼って正面対決はあまりうまくない。力とは従えるものであり、依存するものではないってさんざん教えられたからね。身体に。

 全力を出すのは、トドメの一撃だけでいい。それ以外でアレに頼れば、その依存心が最大の隙となってしまうだろうから。


(一瞬でも隙ができれば攻めに出られるんだけど……ここは頼むよ)

「――マクシス!」


「――任された」


 僕より後方で、魔力の高まりを感じる。しかしそれは普通の戦士が出すような荒々しくも力強いものではなく、どこまでも静かで自然な、鋭い気だ。

 これがマクシスの魔力か。なるほど、事前に認識していないと周囲の喧騒に飲まれて狙われていることにも気づけないかも……。


「――【次元跳躍の矢ディメンジョンシュート】」

「ゲロッ!? この矢、どこから……!」

(空術を併用した一射? マクシス、空術なんて使えたっけ……?)


 マクシスの放った矢は、真っ直ぐ進むと突然消失し、次の瞬間にはカエル魔法使いの背後に出現し、そのまま肩に突き刺さった。

 おかげで怒涛の魔法攻撃は途絶えたが、今のはかなり高等な魔法を使った技だ。とても短期間で習得できるようなものではないはずなんだけど、いつの間に……?


「空術を使うのにもっとも困難な壁は、空間という本来触れることもできない概念を捉える感覚。俺は特別その練習をしたことはないが――五感を研ぎ澄ませ、狩り場を把握するのは物心ついたときからやっていた。それだけだよ」


 マクシスは僕の疑問を感じ取ったのか、簡潔に教えてくれた。

 なるほど、魔法使いとしての資質はともかくとして、空術使いとしては素養あったのか。師匠、それを知っていたのかな?


 ――なんて、考えている場合じゃないよね。ここは一つ――一撃で決める!


「【覚醒】!」

「ゲ――」

「からの【融合】! 更に加速法!」


 不朽の剣の魔力を体内に取り込み、自らの力と融合させる。

 それにより、僕の身体に――両腕に変化が生じる。永久不滅の輝きを宿す、金属のような硬質な肌へと。

 おまけに、加速法を発動させる。この覚醒融合は、僕に強大な耐久力を与えてくれる。だから、普通ではできないほどの超加速も可能となるのだ。


「シュバルツ流・奥義!」

「チッ!? 水じゅ――」

「【瞬剣・鋼鱗ノ払(こうりんのはらい)】!」


 覚醒融合によって手にした魔力を剣一点に集め、払う。

 加速した剣は、マクシスの攻撃に集中を切らしたカエルの首を正確に捉え――一撃の元に刎ね飛ばしたのだった。


「オォォォォォッ!」

「敵の大将を倒したぞ!」

「この戦、我らの勝利だ!」


 僕らの戦いを自分も戦いながら見ていた翼兵団の方々が、一斉に勝鬨を上げた。

 と言っても召喚者の命令に従って戦い続けるだけの召喚獣は止まらないので、すぐさま各自の戦いに戻ったが。


「ブハッ!?」


 そんな周囲の状況に対応する暇も惜しいと、僕は相手の死亡を確認すると同時に覚醒融合を解除する。

 まだまだ、力の制御は完全じゃないな。膨大すぎる力に内側から削られているような感覚を覚えるもの。

 でも、これで何とか役割は果たしましたよ、師匠――


「若いのに、大したものだな。よくここまで力を高めたものだ」

「――ぇ?」


 と安心した瞬間、首筋に強い衝撃を感じた。

 その一撃で、僕の意識はあっさりと断たれる――ところだが、それでも気絶慣れしている気合で何とか不意打ちを食らわせてきた相手を最後に視界に入れる。

 そこには――


「今ので意識を失わんとは、想像以上に大したものだ。その鍛錬への賞賛の代わりに、私の名を教えよう。私はミハイ。本意ではないが、吸血王様の命だ。キミの身柄、拘束させてもらおう――レオンハートの弟子よ」

「ガハッ!?」


 追撃の手刀。それにより、僕の意識は今度こそ断たれたのだった――。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ