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【番外編完結】他力本願英雄  作者: 寒天
風の民の大陸
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第137話 親善試合決着

「最終試合に出るのは……私だ」


 第一試合、アレス対(モズ)は引き分け。第二試合、クルーク対(カラス)は瞬殺と言われても文句は言えないスピードでこちらの敗北。

 同盟を望んできた相手が強いのは結構なことだが、民衆も見守るこの親善試合で負け越しというのは情けない。ここは平和的に、一勝一敗一分けで終わらせるべきだろう。


 ……無論、二回戦の借りを返すべく、瞬殺を加えた圧勝でな。


「こっちは当然俺……で、随分気合入っていますね」

「一敗一分けだ。名誉にかけて、私は勝たねばなるまい」

「こっちの心情的には一勝一敗ですがね。……というわけで、俺は俺で勝ちに行かせてもらいますよ」


 一回戦のことか。まあ確かに、鵙が初めから全力でやっていればこちらの勝ちだったのは疑う余地もない。

 天才ゆえの弱点、勝利への執着心の薄さが出た形だ。無論上には上がいるとは言え、あの若さで全盛期を基準に考えても十指に入る実力者だ。同世代以下が相手では勝って当然であるが故に、勝利を第一に考えられない。それがなければ問題なく勝利していただろうに。

 ……まあ、あの事がなければそれでも勝っていただろうがな。終わった以上、何を言おうが惨めな言い訳にしかならないが。


「……過ぎたことをぐちぐち言っても仕方がない。もしもなどと連呼したところで結果は変わらないだろう?」

「そりゃそうですが……気分の問題なんでね。勝利って旗を掲げるには、ここで勝つのが絶対条件。それはお互い様でしょう?」

「違いない」


 軽く笑みを浮かべつつ、俺はレオンハート殿の言葉を肯定する。

 過去の何を挙げようが、結局欲する勝利はお互いここしかない。自らの手で掴み取る勝利こそ、この世でもっとも尊いものよ。


 ……やはり、この男は裏のある性格ではないな。どこまでも真っ直ぐに己の意思を貫く……そんな男のようだ。


「貴殿に敬意を。そして……最初から全力でいくと宣言しよう。一瞬で終わらせるが故、それが私の礼儀だ」

「……一瞬で、ね。それは楽しみだ」


 不敵な笑みを浮かべたレオンハートは、剣を抜き放った。蒼い刀身を持つ片刃の剣……凄まじい力を感じるぞ。俺の至宝にも匹敵するほどのな。


 ならば、俺も見せよう。雄々しき翼の隊長のみが所持を許される至宝を。隊長権限発動の際に振るう権威の証たる天空の矛。それをも越える究極武器――


「天を征し、覇を唱えよ――【天覇】!」


 俺は風を操り、闘技場より更に上空へと安置していた我が武器を取り寄せる。

 何重にも張られた封印の札を吹き飛ばし、ここに真の姿を見せよう。翡翠のごとき深緑の刃を持つ大槍――精霊竜より授かりし牙により創造された最強の武装の姿をな!


「その武器は……!」

「貴殿の剣も、そうなのだろう?」


 天覇を見て驚愕を露にするレオンハートだが、俺の目が正しければ彼の手にあるのも同列の至宝だ。

 風の精霊竜ではないようだが、近しいものの力を感じる。彼らの話と古代の言い伝えから考えれば、あれは水の精霊竜の力を秘めているはず。つまり、武装面では互角ということだな。


「それほどの武器を持つ者に遠慮は不要だろう? だからこそだ――【翼の解放】」

「……いきなりか」


 全身に力が漲り、高まる。全身から羽毛が生え、五感が極限まで高まる。

 我々鳥人族(バードマン)の力の根元は、この背中の翼。この翼は鳥人族(バードマン)ならば誰にでもある、わけではない。生まれついて誰の中にも――少なくとも鳥人族(バードマン)ならば誰の中にもある“力”を活性化させたとき発現し、以後消えることはない。

 よほど才能がないか、あるいは鍛錬を行わない非戦闘員以外ならば誰しもが持つ力。それが翼だ。


 そして、その翼に秘められた力を更に一段階高めた姿――それが翼の開放。背に翼を出現させるだけではなく、全身にその力を解放させた状態だ。


「翼を持つ者と持たないものでは天と地の力の差がある。そして――翼を解放した者としない者では、やはり次元が違うぞ?」

「……でしょうね。それは一回戦の女の子を見ていればわかりますよ。……だから、俺も最初から全力出させてもらいますよ」

「ほう?」

「――ハッ!」


 レオンハートの身体が輝きだした。これは、あの少年が使っていた技か……?


「【覚醒】発動……あなた方からすれば何をしているのかわからないでしょうけどね」

「見たところ気による自己強化に見えるが、何故そのような現象が起きているのかはわからないな」

「ええ、多分あなたたちには必要ないものですよ。……はっきり言って、鳥人族(バードマン)は人間より格上だ。こんな無茶な強化をしなくとも容易にこの領域に手が届くんだから」

「……よくわからないな」

「わかる必要もない。だけど――」


 レオンハートは輝く身体を動かし、手にした精霊竜の剣を胸元辺りで天を突くように真っ直ぐ立たせた。

 同時に膨大な力が剣から……そして彼の心臓付近から放たれる。感じ取れる力は対極の力。精霊竜の力に酷似したものと……あの獣共に似た力だ。

 いったい、これは……?


「――【覚醒融合】」

「ッ!? それが、異形の翼か……!」


 レオンハートの肉体が大きく変化し、背には異なる特徴を備えた翼が現れた。

 更に変化は翼だけではなく、開放を行った俺のように全身に現れている。更に感じ取れる力の感覚といい……俺の翼の解放に酷似した力か?

 いや、それにしてはおかしい。翼の開放は俺の体内に宿る力を全ての源にしているが、あの異形の開放は体内にある禍々しい力と、剣から放たれる清浄な力が混合したものだ。

 体外にある物の力を取り込むとは……これが南の大陸の住民の力と言うことなのか?


「……こっちも準備は完了だ。いつでもいいぞ」

「……そうか。では、始めるか」


 静かだが、それが開戦の合図となる。お互いに友好的に会話をするという意思から、相手をねじ伏せるという意思へと切り替わったのが手にとるようにわかる。

 ……よもや、これほどとはな。お互いにまだ一歩も動いていない……否、動けない。下手に動けば即座に隙を突かれると確信してしまえる技量と力。素晴らしい。

 よもや、翼を開放した俺に立っているだけでその力を確信させるとはな。ならばこそ、本気でやるのが相応しい。


「……先ほどの宣言を繰り返そう。この戦いは一撃で終わらせる」

「そうかい。そう簡単には行かないと思うけど?」


 レオンハートに動揺は見られない。警戒心と覚悟、それに自信を感じさせる揺ぎ無い気……優秀な戦士の顔だ。

 慢心し油断するほど愚かではなく、過信して足元を掬われるほど未熟ではなく、恐怖して好機を逃すほど臆病でもない。確かな鍛錬と豊かな実戦経験を感じさせるな。

 心理戦は無意味と思ったほうがいいか。では、正面から実力で行かせてもらうとしよう。


「――奥義」


 天覇を構え、翼を大きく広げる。

 この翼を発現させ、開放すれば身体能力は飛躍的に高まる。だが、それ以外にこそ真の力がある。


 風との調和。風を感じ、風と一体化し、風を操る。それが翼を持つ者の力。


(風を操ることによる加速。風の後押しを受けることで、俺たちは通常よりも遥かに素早く強力な攻撃を加えることができる。しかも通常の術を感知する方法では予知することはできない……翼を知らない者からすればさぞ驚愕だろう)


 翼による風の操作は仙術とは大きく違い、種族としての能力。故に力の感知で察知する事はできない。

 毒虫が毒を吐くのに仙術は関係ないように、我らが風を操るのはそう言った術とは無関係なのだ。


 だからこそ――一定以上の力量を持つ戦士ならば誰もがやる、敵の動きの予測。それを狂わせることができる。

 翼を持つ者でなければ読みきることはできない強化。正面からの不意打ち、それがこの技の意義。


(翼による風加速を加えた一撃。その極限を指して【翼王】と呼ぶが……俺の一撃は少々違うぞ?)


 最強の攻撃とはなにか? それはおおよそ、全ての戦士が考える命題だろう。

 その答えはおおよそ一人一人違うものだろうが……俺の答えは単純明快だ。すなわち、絶対に相手を倒す一撃。どんな防御もすり抜け、どんな反撃も撃たせない最速最強。それが俺の答えだ。


「――翼王・瞬」


 瞬間、俺は超加速を行いレオンハートへ向かって突っ込む。その際に肉体的予備動作はない。足を動かすならば腿が、拳を動かすならば肩が、翼が動くなら付け根が動くが……この加速は風のみを使ったもの。今この瞬間、レオンハートは俺が動くと思う事すらできなかったはずだ。

 そして動くと同時に一度だけ地に足を着け、脚力による加速を加える。これだけで予測不可能の高速突撃だ。


 どれだけ速く動こうが、予備動作を見せれば対処される。ならば、予備動作をまったく見せずに加速すれば防御することすら許さない。

 一撃必殺の一撃を受け、果てるがいい――


「……ビックリしたぞ。まさか指一本動かさずに超加速するとは思わなかった。でも……」


 俺の槍は確実にレオンハートの腹を抉るはずだった。殺す気はない以上致命傷にはならないよう配慮はしたが、それ以上の加減はしなかった。

 だと言うのに、何故か槍の先が捉えたのはレオンハートのわき腹。蒼い鎧を抉り血を流させることには成功しているものの、勝負を決める一撃としては甚だ不足な結果しか得られていない。


 ……この男、避けたというのか? 回避不可能の神速の一撃を。回避する、という動作そのものを許さない一撃を……!


「こんな異常に速い手合いには、慣れていてね。どんな不意を突かれようが、対処できないってことはない。それに……」


 翼王・瞬は全翼の戦士が使う翼王の中で最速最強を認められた一撃にのみ与えられる呼称。

 予測不可能化かつ最速最強の一撃を完全ではないとは言え回避するとは、予想以上の強者――


「速いやつ決定戦でもするんなら、俺も一位を譲るつもりはない――【超加速拳】!」

「――かっ!?」


 瞬間、凄まじい拳速による打撃が俺の腹に突き刺さった。翼王・瞬を放った直後で硬直していた俺はそのまま大きく吹き飛ばされる。

 ……拳を使ったのは超接近状態で剣が使えなかったためだろうが、それでもこの威力はなんだ!?

 翼王と同じく、瞬間的な超加速技か? ほぼ加速距離ゼロの状態からこんな威力を出すとは――遥かに予想外!


「ぐ、がはっ!」


 空中で翼を広げ、体勢を立て直す。想像以上に重い拳打を受けてしまったが、完全ではないとは言え俺の槍はレオンハートの腹を抉ったのだ。

 お互いの損傷だけで考えれば互角、いやこちらが有利。一撃必殺が成せなかったとは言え、気にすることでは……ッ!?


「な、なんだと!?」

「この程度なら、俺にとってはノーダメージも同じだ」


 逆再生でもするかのように腹の傷が塞がっていく。回復の仙術を使っているのか……?

 いや、そんな気配は全く無い。何なのだ、二回戦のときに現れた術士といい……南の住民とは皆不死身なのか!?


「今度はこっちからいくぜ」

「――クッ!」


 傷を癒し、完全回復したレオンハートは目を見開くほどの高速移動でこちらへ向かって飛んできた。異形の翼を持つだけあり、空中移動もお手のものか。

 ……だが、この戦いが速度王決定戦だというのなら、俺もまた譲るつもりはない!


「ふんっ!」

「おっと!」


 突撃にあわせて槍を突き出すが、当然回避される。しかしここからが本番だ。

 一撃必殺が通用しないのならば、一つ真っ当な打ち合いと行こうか?


「奮え――天覇!」


 天覇に風を纏わせ、攻撃範囲と威力を高める。さて、では――当たるまで撃たせてもらおう!


「ハァァァァァッ!」


 中途半端な回避では意味を成さない、空間ごと抉る烈風突き。それを手を休めず打ち続ける、対人用空間攻撃。

 これもまた、回避不可能技だぞ……?


「クッ!? だったらこっちも――吼えろ、嵐龍!」


 レオンハートは俺と同じく、刃に風を纏わせる。

 ……やることは同じか。だが、その程度の風で――翼の戦士の頭目と渡り合えると思うな!


「ク、ソッ!」

「貴殿も風を使うとは驚きだが、その程度では相手にならん!」

「流石は風の加護を受けた一族だけの事はある、かっ!」

「っ!?」


 レオンハートは中距離での打ち合いでは勝ち目がないと判断したのか、覚悟を決めた眼と共に真っ直ぐ突っ込んできた。

 当然我が連続突きの餌食になるが――これは、高い耐久力と再生力に任せた突撃技か!


「元々剣と槍なら槍が有利。その理由は、リーチが長いから。だったら近づくまでだ!」


 槍の間合いから、剣の間合いに入るべく捨て身の作戦を取ってきたレオンハート。致命打になりえる攻撃だけを回避ないし迎撃し、見る見る距離を詰めてくる。

 なるほど、些細な痛みは必要経費と気にも留めないか。やはり狂うほどの戦闘経験を積んでいるな。これは――面白い!


「嵐龍牙――」

「……そう簡単にはいかんよ」

「――なにっ!?」


 攻撃距離まで接近してきたレオンハートは、大分傷だらけになった腕を振るって斬りつけようとする。

 だが、それを簡単に許すつもりはない。教えてやろう、翼王の、もう一つの使い方をな。


「――風よ」

「お、重っ!」


 翼をはためかせ、風に指示を出す。我が敵の動きを封じよと。


 翼王とは、自分の身体を風で押すことで速度と破壊力を上乗せする戦闘技術だ。

 だが、風とは何も追い風だけではない。自分の力と反対方向の風――向かい風を受ければ、その力は大きく減退することとなるのだ。

 自分自身を加速させる翼王よりも、相手の動きを読みきる必要がある翼王の改変版のほうが難易度は高いが、こうした高速戦闘での効果は想像を超えるだろう?


「――放て、天覇・一門!」


 動きを止めたところで天覇による突きを繰り出す。遠慮なしで、狙いは腹よりやや上……心臓だ。

 この男なら、まあ致命傷程度何とでもなるだろう?


「――舐めるな!」


 レオンハートは風に封じられた身体を素早く把握し、こちらの槍を迎撃してみせる。やはり優れた腕をもっているな、並の者なら指一本動かせないものなのだが。

 とはいえ……それで防げたと思っているのなら、それは舐めすぎだ。『舐めるな』などと、それはこちらの台詞だと言いたくなるほどにな。


「――ぐっ!」

「天覇は空間の支配者。風のあるところ、全て貫く」


 本体の槍は弾かれたが、続く風の刃がレオンハートの腹を抉る。

 天覇の能力は、攻撃の追憶。放った一撃と同等の威力、速度を持った風に刃が追撃をかけるのだ。


「――珍しくも、ない!」

「っ!?」


 狙いはやや外れたが、腹に穴が開いている。血が噴出し、その顔は苦痛に歪んでいる。間違いなく奴にとっては計算外だったろう痛みにも関わらず、気にせずに剣を振るってきた。

 この男、痛みはないのか? 恐怖は、苦痛は存在しないのか……?


「ぜあっ!」

「ぐあっ!?」


 左の肩を大きく斬られ、鮮血が噴出す。

 これは、危険だな……!


「――吹き飛べ!」


 翼の力を発動し、風を操りレオンハートを吹き飛ばす。やはり無理をしているようで、あまり抵抗することもなく吹き飛ばされていった。

 ……傷は、深いな。あまり長引かせることもできない――ッ!?


「ごほっ! ごほっ! ……ク、こんなときに……」


 咳が止まらない。傷だけではなく、全身に痛みが走る。意識が朦朧とする。

 まさか、こうまで早いとはな。もう少しいけると思っていたんだが……。


(所詮自惚れだったか。最初の一撃で終わらせられなかった以上、こうなることはわかっていたというのに)


 不調を訴える身体を前に、俺は考える。ここで体調不良を理由に戦いを止めるか……それとも、力を振り絞るかを。

 その選択肢は一瞬考えるに値するものではあったが、しかし一瞬以上ではない。答えは最初から決まっているようなものだ。


「――戦士として、情けをかけられるくらいなら死を選ぶ! それが俺の誇りだ!」


 戦場に立ったのならば、それは万全と言うこと。そこに言い訳は一切通用しない。それが戦場の掟。

 ならば、勝てばいい。身体がどうした、まだ動けるのだから、次の一撃で、勝てばいいだけだ!


「奥義――」


 俺は再び風による後押しを受け、瞬間の加速を得る。吹き飛んだ空中で体勢を整えているレオンハートへ接近する。

 しかし、その一撃は先ほどと同じく回避……否、先ほど以上に見事に回避させる。一撃必殺を無傷で回避されると、流石に傷つくな。

 が、本番はこれからだ!


「――【翼王・瞬空蹂躙】」


 全身の力を高め、天覇へと送る。

 天覇の力は攻撃の追憶。一度放った攻撃と同威力の一撃を放つこと。しかし、それは何も一発だけとは限らない。天覇の真骨頂は――瞬間の、包囲殲滅にあるのだから。


「――無数の、刃……!」


 故に基点となるのは、我が最強の秘儀、翼王・瞬。この一撃と同一の速度、破壊力を持った一撃を大量増殖させる……それが我が対軍用奥義だ。


「回避不能の千の刃。本来なら欠片も残さない故使うつもりはまったくなかったのだが、貴殿なら重傷ですむだろう?」


 瞬きする間に迫る千の刃。仮に数本弾くことができたとして、他の刃に斬られる。対処する間に斬られ、沈め――


「――【混沌嵐龍障壁】」

「っ!? 風の、いや――嵐の壁!?」


 否、それ以上の何か。水と風の混合属性だと思われる障壁を基礎として、更に何か未知の力が合わさっている。

 その障壁によって、天覇の刃が尽く消されている。弾かれているのではない――消されているのだ。

 対処する暇すら与えていないはずなのに、何故これほどの防壁を作り出せる。まるで、奴の時間だけが増えたかのようだ……!


「……光の浄化。闇の侵食を併せ持った混沌属性。その真骨頂は――」


 一度解放するだけで、軍勢さえも瞬時に塵に変える我が最強奥義。

 それが、まさか、たった一人を倒すこともできずに破られるというのか――!


「――消滅。全てを消し去り、ゼロにする力だ」


 やがて風と嵐の激突は終わり、現れたのは無傷の――先ほどの攻防での傷は既に癒えているようだ――異形の翼の持ち主。

 ……ここまでの化け物とは、思わなかったな……。


「……礼儀だ。ここで決着をつける」

「……ただでやられるつもりは、ない」


 力を振り絞った一撃だったのだ。もう今の俺にこの怪物を敵に回す余力があるわけもない。

 だが、それでも俺は槍を構える。俺は、雄々しき翼の、隊長なのだから……!


「かあっ!」


 突きを繰り出す。しかし、その速度も威力も今までとは比較にならない。

 既に、腕の感覚がなくなってきたからな。喉から上がってくる吐き気と血を抑えるのに苦労しているような有様。それでは本来の力とは比較にもなるわけがない。まったく、本当に厄介なものだ……毒と言うものは。


「……風瞬剣・獅子風刃」


 風を纏った一撃。俺の一撃はあっさりと吹き飛ばされ、そのまま撃墜される。

 落ちる先は闘技場の葉……ではないな。とっくにその領域からははみ出している。落ちれば周囲の蔓が拾ってくれる仕組みになっているとは言え、あらゆる意味で敗北だったな……。



「……それで、いったいどうしたんです? 明らかに途中から……いや、よく考えればこの試合、一回戦からおかしかった。モズという少女の唐突なダウン、カラスって術士の勝負を急ぎすぎた戦略。そして……アナタの急速な弱体化。明らかに何かありますよね?」


 俺は試合が終わった後、虹の樹の蔓に救助されたオオトリさんに話しかける。

 ……この闘技場、落ちた後のケアがちゃんと用意されてたんだな。てっきり落ちたら死亡のデスゲームだと思ってたよ。まあそれを本人に聞いたら『そんな危険なことするわけが無いだろう』と首を傾げられて常識疑われてしまったが。

 ……まあそりゃそうだが、何か釈然としない。


 それは余談だが、とにかく俺は試合に勝った。勝ちはしたが……どうにも納得が行かない。だって、どう考えてもオオトリさん本調子じゃなかったし。


「……ここまで来て隠す意味も無いな。正直に話そう。我々は……攻め込んできた魔物に追い詰められている。毒、という力を使う魔物にな」


 その答えは俺にとって予想外であり、そして……この大陸を襲う厄災の正体を、端的に現す言葉なのだった。

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