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【番外編完結】他力本願英雄  作者: 寒天
風の民の大陸
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第136話 人外の戦い

「……思ったよりもずっと強いな」


 (モズ)と羽なしの少年の戦いは続いている。

 異種族ということで決して過小評価をしているつもりはなかったが、それでも羽なしがあそこまで戦えるなど想像の外であったことは事実。“雄々しき翼”の隊長である身として決して表情には出さないが、驚くのは仕方あるまい。


「……まさか翼を解放することになるとはな。何故あの実力で羽なしなのだ?」


 我々の力の根源、翼の力を完全解放した姿。あれができるのは俺を含めて10人もいない切り札であり、今残っているものは更に少ない。

 通常なら羽なし相手に使う必要など絶対にないものであり、それを使わせたあの少年は賞賛に値する。

 あれだけの力があれば普通翼が出現すると思うのだが、何故未だに何もないのだろうか? まさか、南の大陸の住民とは実力を増しても翼を得ることがないのか?


 だとするととんでもない罰だな。我々の美的感覚で言えば翼の美しさこそが全てなのに……南の住民はどんな価値観なんだろうか?


(……まあいい。その辺りの文化の違いは後ほど考えるとして……今の興味はあの少年の鎧だな。見たところ多重自己強化の術を実現したもののようだが、何故あれを最初から使わなかった?)


 我々は彼らに武装を禁じていない。今の状況下で武装を禁じれば下手すればその場で戦闘だ。その愚は避けて当然だろう。

 せめて我々の拠点に危険などない、安全である――と断言できれば話は別なのだがな。


 ともあれ、最初からあの鎧を装備していたとしても我々は何も文句は無かった。いや、むしろ獣共が跋扈する危険地帯を歩く以上装備すべきであるはずだ。

 にも拘らず直前まで装備しなかった結果、戦闘中の換装などと言う危険を犯している。それは何故……ふむ。


(素直に考えれば、ずっと身につけていることができない理由が何かあるということ。あの力があって鎧一つの重量が気になるということもあるまいし、一番可能性が高いのは――装着しているだけで消耗する、と言ったところか)


 あれは常に高度な術を展開しているように見える。すなわち、装備するだけで力を失っていくのではないだろうか。

 つまり、持久戦に向かないのが弱点。そう考えれば納得は出来るが……とすると、どう転んでもこの試合はそう長く続くまい。


 鵙も今のように、実力で完全に圧倒しているからこその手加減――いっそ手抜きと言っても過言ではないままならともかく、本気になるようならそう長くは持たないだろうしな。

 今は少年が一方的にやられているわけだが、さてどうなるか。短い時間だろうが見物させてもらうとしよう……。



「ガッ!?」

「どうしたの? 降参するなら早めにね!」


 五重防御力強化。今の僕にできるもっとも安定した状態をアッサリと抜き、腹に強烈な拳が突き刺さる。足場が足場だから後ろに跳んで衝撃を殺す――ってわけにはいかないから痛み倍増だ。

 もはや武器を使う必要もないといいたいのか、姿が変化してから彼女は素手で戦っている。もしかしたら、この力で振ったら武器が壊れるからってだけかもしれないけどさ。


「守ってばかりじゃ勝てないっていうけど、守りすらしないの?」

「はや、すぎるっての!」


 内臓がかき回されたような痛みをこらえて剣を振るうが、あっさりと回避される。逆に、モズの攻撃は僕がどんな奇策を張り巡らしても力ずくで命中する。

 これはもう、技量の話じゃない。単純にして明快な身体能力の差、種族の差――ただそれだけだ。

 隙を突けるような理屈など無く、強いから強い。これほどの力の差があれば、技術なんて使わずにただ殴るだけで全てを蹂躙できる。それを実践されているだけなんだから。


(師匠の覚醒融合と戦っている気分だな……こりゃ勝ち目ないや)


 僕の心に諦めが芽生える。この相手には人間じゃ勝てない。どんな技術や装備を持ち出したところで、人である時点で勝利はありえない。そう言う相手だ。

 そんな気持ちになったから、心で負けたのかなのか――一瞬、僕の身体が抵抗をやめる。今まで受けきれないまでも守ろうと休むことなく動いていた全身がほんの僅かとは言え、止まったのだ。


「あ」

「――ゴッ!?」


 当たっちゃった。そんな感じの、何故か攻撃した方がちょっと焦っているような間の抜けた声と共に――僕の右頬に拳が直撃した。

 踏ん張ることも許されない速さと力。強烈なダメージと共に僕の意識は瞬時にかき乱され上も下も分からないほどに意識を朦朧とさせながら吹き飛ばされる。

 ああ、慣れ親しんだ感覚だなー。こうして強烈なの食らって意識を揺らして――必死に踏ん張るのは、いつもの修行でやっていることだもんね。


「――ハッ!」


 僕はすぐに意識を回復させ、飛行魔法を併用して踏ん張る。下手をすればそのまま落ちてしまうこの場で気を抜くなんて、まったく我ながらありえない愚行だったよ。


「……えー、今のでも立てるんだ。さっきから思ってたけど、実力よりも妙に頑丈だよね」

「生憎と、痛みにだけは慣れている」


 僕は自分の甘えた心を殴りつけるためにも、大きく息を吐いて気組みを練る。

 チラリと遠くの葉の上で僕たちの試合を観戦している師匠を見てみれば、なにやらやれやれって感じの呆れ顔だ。

 ……これは、一瞬弱気に負けて勝負を投げたのばれてるね。何とか汚名返上しないと後が怖すぎる。具体的には自分より強い相手とぶつかったときのシミュレーション訓練として、いつもよりも手加減少な目10000本組み手とか。


(……なんとしてでも勝たないと、命が危ないよこれ。大体思い返してみろよ僕。師匠が、強大な敵を相手に途中で諦めたことがあるか?)


 僕は師匠の戦いの全てを知っているわけじゃないけど、それでも諦めたことがないことだけはわかる。だって、今師匠生きてるし。

 例えどれほどの絶望が立ちふさがっても、諦めない。それが師匠の弟子としての、僕の最低限やるべきこと。


 ……よし、再確認した。もう弱気とはおさらばだ。

 そして考えろ。今のこの状況を、何をしても単純な能力値の差でねじ伏せられるこの状況を打開できる策を――!


「それじゃ、次行くよー」

(まず第一に認めなきゃいけないのは……)

「そーれ!」

(ただのパンチが、防御に全振りしている状態を軽く打ち抜いてくるってこと。そして――)


 まるで子供相手に戦いごっこでもしているように適当に拳を引いていたモズの姿が、次の瞬間に消える。動体視力を振り切る高速移動だ。

 僕はすぐさま打ち込んでくるであろう方向で腕を十字に構える。気影を読むことで先読み自体はできているのだ。


「ぐうっ!?」

「まだ間に合ってないねー」


 守りはしたが、僅かに間に合わなかった。完全に固める前に殴られ、更にダメージが蓄積される。

 僅かな攻防にも現れる問題は、現実と予測のずれ。僕の予測する速度――今までの戦闘で得たデータに加え、実際に纏っている魔力、脚力などを総合したもの――よりも、何故かモズの動きは常に速いのだ。

 僕の知らない何か特殊な強化が加わっているのは間違いない。それを見切る目を持っていないのは残念だけど、それならそれで初めからそのプラスアルファを考慮して考えればいいだけ。そうは思うんだけど……。


「ぐあっ!?」

「それに、そもそも脆いね」


 今度は、ガードの上からそれごとねじ伏せる威力の拳が放たれる。

 あの魔力量、筋肉量……その全てから計算したものよりも高い威力。僕の全力ガードでも防ぎきれない威力を前に、今度は闘技場の葉っぱの上に勢いよく叩きつけられ――と思ったらそのまま突き抜けた!?


「あら?」

「あぶなっ!?」


 破れた葉っぱから、危うく勢いをつけた超高層紐なしバンジーをするところだった。何とか五重に飛行魔法を発動させて空中で踏ん張るが、ついつい足場を忘れてしまう。

 そんなこと考えている余裕がないってだけなんだけど……いけないな。冷静さを失っては勝てる勝負も勝てない。まして、勝ち目がない相手との戦いでは命取りだ。


「あー、ゴメンネ。ちょっと強く打ちすぎたみたい」

「お気遣い、ありがとうございますよ」


 完全に舐められている発言だが、本心から心配されてしまっている。この実力差じゃそれも仕方がないんだけど……同い年なのは忘れないで欲しい。


「……ふう、でもまあ、答えは出たね」


 気持ちを切り替えて改めて一当りした結果、はっきり分かったことがある。

 ……やっぱ無理! 今のままじゃ、どんなに気合を入れようが精神論振りかざそうが、勝てないものは勝てない! それはもう認めよう!


(今のでわかったのは、師匠と戦っているわけじゃない……ってことだけだね。師匠相手だったらあそこから更に突き落とすべく追撃くらいは来ているし)


 下手をすると敵と対峙しているときよりも容赦ないんじゃないかって修行時の師匠を思い出しつつ、まったく慰めにならないプラス要素を考える。

 まあ、師匠相手には未だに勝てる気がまったくしないことを思えば、師匠と同格ってほどでもないのはせめてもの救いかな。力も速さも、僕には対応できないってだけで覚醒融合状態の師匠ほどじゃない。


(対応限界が100の僕にとっては、110も200も大して変わらないんだけどさ)


 とにかく、現実を認めた後はその打開だ。今の僕ではどんな手を使っても勝てない。

 まだ出していない小道具は幾つかあるけど……その程度で埋まる差じゃない。これは蟻がどれだけ頑張っても竜を殺す事はできないってのと同じ話なんだから。


 とするならば――


「……まずは人間を超える。それが前提条件か」


 途方もない結論だが、これしかない。

 幸いにも、僕はその先の答えを知っている。知っているのならば……行動あるのみ。やらずに死ぬよりもやって負けたほうが、まだマシだ。


「……全身を、細胞レベルで強化」

「あれ? どうしたの?」


 初めての変化がいきなり素早くできるわけはない。だから、あえて『これから何かします』と言わんばかりの隙だらけの姿を見せる。

 これがまともな戦いなら絶対に見逃されるわけはない姿だけど、モズは僕を本当の意味で敵とは認識していない。だから、屈辱ではあるがこうして戦意を見せなければ――時間はいくらでも作れる。


「――ハァァァァァ……」


 息を吐き、呼吸を整える。まずは全身に力をゆっくりと流し、強化する。ここまでは戦士魔術師問わず誰でもやっている普通の身体強化術だ。

 あの力に手をかけるためには、ここからが本番。強化対象を右腕、左足といったくくりではなく、それを構成する細胞の一つ一つまで深化させ――進化する。

 通常の身体強化が器の中に水を注ぐ行為であるならば、これは器そのものを広げるのが目的。より多くの水を受け入れられる、強靭な器を作る。


 その方法は、既に師匠に教えられている。できた事はないと言うか、まず人の限界に到達するほうが先だからってことで深く踏み込んでこなかったけど……今の強化魔法形態なら、やる意味はある。

 だから……やる!


「ハァッ!」


 全身から魔力が噴出し、光る。余すことなく魔力強化を施された、人の進化系。

 ……これが、覚醒状態か。なるほど、確かにどこまででもいける気がするね。僕の属性である光の魔力が全身から噴出している感覚……属性的に、師匠よりも光っている気がする。何かちょっと恥ずかしいくらいにさ。


「……光ってるけど、それで何か変わったの?」

「さあ? 僕もこの状態になるのはこれが初めてだから、どうなるかわからないよ」

「ふーん。……じゃあ、もう攻撃していい?」

「いいよ。僕も全力で応える」


 モズは拳を構える。その目を見る限り、気負うものは何もなさそうだ。

 一度は見せていた敵意も薄れ、絶対的な差を自覚した強者の目。師匠が僕と組み手するときと似たような感じだね。


 ――それを撤回するのは、僕の役目だ。格下だと侮られていることに怒りはない。そんなものは、結果で跳ね返す!


「【三重速度強化】【二重腕力強化】。そして――」

「それ」

「更に【二重感覚強化】!」


 覚醒状態。なるほどこれは素晴らしい。今まではどう頑張っても同時に五つが限界だった強化魔法が、あっさり七つ同時に発動できる。

 これが、人外の種族が産まれた時から見ている世界か。人間に生まれた時点で凡才……その言葉の意味が、よくわかるよ!


「ハッ!」

「およ?」


 無造作に繰り出された拳を、肘で迎撃する。今まではまったく反応できていなかったのに対処できた。そのことにモズは驚いているようだけど、僕も驚いている。

 力を込めれば込めるだけ強くなっていく感覚。それを使いこなせれば、僕はもっと強くなれる!


「――竜尾剣」

「この接近状態で? それ、遠距離攻撃用でしょ?」


 不朽の剣を変化させ、金属ムチ状態にする。

 それを見たモズは不思議そうに首を傾げたが、生憎これは攻撃用じゃない。


 空を自由に舞う鳥を捕らえるための、檻だ。


「――剣牢」


 竜尾剣をグルグルと僕とモズの周囲で回転させ、左右も上も全てを塞ぐ。

 これから出ようと思えば、もちろん自分から高速回転する刃に突っ込むことになる。そうならないためには竜尾剣を吹き飛ばす必要があるけど、そんな隙を密着状態で与えるつもりはない。


「……空を塞ぐってこと?」

「正直、飛ばれたら勝負ならないからね」


 鳥人族(バードマン)を敵に回すなら、まず空を潰す。それが最優先だと判断した。

 この技の欠点は武器をフィールド作りに使ってしまう関係上素手になってしまうことだけど、どうせ向こうも素手だ。

 武器である槍はこの檻の外に置きっぱなしだし、後は純粋な殴り合い――だよね?


「――ハァッ!」

「いいわよ、乗ってあげる!」


 竜尾剣から手を離し、自動モードに切り替えておく。

 同時に、僕とモズは殴りあう。お互い素手の、実力勝負。今までなら一瞬で打ち負けていただろうけど――覚醒状態になった今の僕なら負けない!


(――秒単位で自分の身体が壊れていく。だけど、それ以上に壊す!)


 さっきまでの、子供と大人の戦いじゃない。対等な力を持った戦士同士の、小細工なしの殴り合い。

 必然的に身体はどんどん傷ついていく。何箇所かは既に骨折しているし、打撲による内出血は数え切れないほど。出血もかなり酷くなってきたね。

 ……その程度のかすり傷は、お互い本命じゃない。狙いは本気の一撃――絶対に相手を倒せると確信した大技だ。


「――今!」

「――今ね!」


 僕とモズは、同時にお互いの隙を見つけた。

 攻撃と防御を完全にこなす事はどんな達人でも不可能。そして大技って奴は、必然的に防御が薄くなると相場が決まっている。

 だから、これは必然だったのだろう。お互いの大技が、同時に放たれるのは。


「――【加速法・6倍速】!」

「【翼王】!」


 僕が放ったのは、今の自分でできる限界の加速法を加えた右ストレート。小細工が効かないからこそ、この戦場では強く働くはずだ。

 大してモズが放ったのは、これまた何の変哲もない右ストレート。まるで鏡合わせみたいだ。しかしその拳速は異常の一言。どうやらずっと感じていた『正体不明の強化』を全力で使っているらしい。

 さあ、どっちが先に相手を倒せるかな――って、あれ?


「はれ……?」

「あ、やば……」


 拳がお互いの顔面に触れようとした瞬間、やはり同時に変化が起こった。

 僕の身体からあふれ出ていた魔力が突然霧散し、モズの覚醒融合に似た肉体変化が解除されていく。その虚脱感に僕は自分で繰り出した拳の勢いにつられて倒れ、モズも同じく倒れ付す。更に檻を作っていた剣も力を失い、元の姿に戻って葉っぱの上に落ちる。

 これは、いったい……?


「あ、あはは……限界時間か。もうちょっと長くやれると思ったんだけどな……」


 モズは何が起きたのか理解している様子で、力を失った拳を見ている。その様子は特に外的な何かに敵意を向けている様子ではなく、ただ自分だけを見ているようだ。

 そんな様子から僕も自分の身体のことを点検してみれば……魔力、残ってなかった。初心者みたいなミスを今更したとは思いたくないんだけど、どうやら加速法の発動で全魔力を使い果たして倒れたらしい。

 ……鎧の起動時間には、まだ余裕あったはずなんだけどな。覚醒ってのは、どうやらとんでもなく消耗が激しいらしい……。


「……それまで! 両者戦闘不能と判断し、引き分けとする!」


 審判を勤めるオオトリさんが、第一試合の引き分けを宣言している。

 まだやれる……って言いたいところだけど、ここまでかなぁ……。覚醒を使った後は3日はまともに動けなくなるってガーライル様が仰られていたけど、確かにこれはきつすぎるよ。


 ああ、でも……。


「引き分けじゃない。これは、僕の負けだ」


 アレだけ手加減してもらって、待ってもらってこの有様。

 これで互角の戦いをしたなんて、恥ずかしくていえないよ……。



「――第二試合、そちらの戦士はクルーク殿でよろしいか?」

「ええ。次は僕がやりますよ」


 アレス君の試合が終わってすぐ、僕の番になった。

 アレス君は良く頑張ったけど、やはり彼らは強い。結果は引き分けって扱いでも本人的には敗北だろうね。まあその辺のケアは師匠であるレオン君に任せるけど……さて。


「そもそもの目的のためにも、このままじゃ不味いかな。これは僕もマジでやらないとね」


 先ほどの試合では、大体の場面で鳥人族(バードマン)の力を示される結果となった。

 なら、次は僕たち人間の力を示さなきゃいけないよね。それも、圧倒的なまでに。


「時にクルーク殿。貴殿は術士で相違ないか?」

「ええ。その通りですよ。生憎殴り合いは専門外です」

「了解した。ならば、こちらからも術士を出すとしましょう。――(カラス)、頼む」

「ほい? わっしですかい?」

「ああ。仙術隊の長であるお前以上に相応しい者はいないだろう」

「“雄々しき翼”の隊長であるあんたにそう言われるのは嬉しいですけど……こりゃ怖そうですわいな」


 観覧席から、一人の男が降りてきた。カラスと呼ばれる男だ。

 ……外見は、かなり貧弱。典型的な術士タイプって感じのひょろひょろ体型に加え、年齢は恐らく50を超えてる。もう引退を考えろって感じの、全盛期をすぎた者特有の気だるさを纏っている。

 カラスの名からは違和感しかない白い翼も、さっきのモズちゃんのと比べると明らかに力がない。年齢から来る衰えが翼にまで現れているといった感じだね。


「では、始めてもらおうか」

「ええ。始めましょう」

「お手柔らかにお願いするわいの」


 僕は杖を構え、カラスもまた見慣れない杖を構える。南の大陸で広く利用されている魔力を宿した鉱石を先端につけることでブーストさせるタイプではなく、無数の札をつけることで強化を図るのか?

 ぜひとも研究したいね。お互いの技術を提供しあえば更に面白いものが作れそうだ。

 だが――


「……あ、とは言ってもこの一撃で終わりだわいな」


 ――仙術・鎌鼬。


「お?」

「安心しなされ、手足をちょっともぎ取っただけ。後で治して差し上げよう」


 カラスは勝負ありと判断したのか、満足気に背中を見せて立ち去ろうとする。

 まあ、それも仕方がない。両手両足、根元からばっさりと斬られたし。何も気配を感じさせない瞬間の詠唱による、風の刃。なるほど一流だ。

 正直恐れ入ったよ。場所が場所だけに得意属性である炎術が封じられた状態でまともに戦ったらきつい相手だ。

 でもさ――


「そうだね。これで終わりだ」

「ほえ?」


 炎術は自主規制。そして一番競っちゃ不味いのは風術。それ以外のどれで行くかとすると……ここは水の大陸出身者として水術で行こう。

 そう決めた僕は、落とされた切断面から触手を出し斬りおとされた四肢を繋ぐと共に背を向けたカラスを水球に閉じ込める。これに掴まると外界の力を一切利用できなくなるからね。かなり効くはずだよ。

 ――さっきの試合を見て分析した僕なりの結果だ。彼ら鳥人族(バードマン)は、こうして風との繋がりを断ち切られるのが弱点なんだろう?


「ぐ、ごぼっ!?」

「ゴメンネ。僕、斬撃ってほとんど効かないんだ」


 完全に勝負がついたのだと油断していたカラスに不意打ちを仕掛ける結果になってしまったが、まあ油断したほうが悪いとさせてもらおう。

 今の僕は無数の魔物の因子を結合させた合成獣(キメラ)。だから……身体が千切れたくらいじゃダメージにもならないんだよね。


「……それまで! 勝者クルーク」

「ん。じゃあ解除」


 オオトリさんの掛け声と共に、水の中で必死にもがくカラスを解放し、僕も戦意を解く。

 予定よりもちょっと違う形になったけど……まあ、見せられたよね。これが人類の力……っていいのかな?

 自分で言うのも何だけど、今の僕を人類のスタンダードとして考えられるといろいろ問題ある気もするんだけど……ま、いっか。


(こう言う試合になるんだったら純粋な人類として最強候補であるミス・メイの方がよかったかもね)


 何はともあれ――これで一勝はしておいたよ?

 後は、レオン君にお任せだ……。

アレス君、覚醒状態維持時間約30秒。まあ頑張った方です。

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