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【番外編完結】他力本願英雄  作者: 寒天
風の民の大陸
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第135話 魔法戦士・アレス

「……怖いんだけど」

「翼なき生物には酷な環境だよねこれ。パッと見た感じ、葉っぱとは思えないくらいに頑丈ではあるみたいだけど……落ちればそのまま死ぬこと間違いなしって環境が与えるストレスは無視できない。それにこの超高層戦場だからこその空気の薄さ、気温の低さ……どれも恐ろしく過酷だね」

「こんなのを笑顔で用意できるんだから、そりゃ強いよなぁ……」


 葉上天空闘技場。そんな名で呼ばれた巨大な――上級騎士試験の時に使った闘技場と同じくらいの広さを持つ葉っぱ。そこからやや離れた観覧席用の葉っぱの上で、俺たちは喋っていた。

 ここから落ちれば死ぬ。いくら俺でも死ぬ。そんな場所で、俺たちはこれから翼を持つ一族、鳥人族(バードマン)と戦うことになった。親善試合という名目だが……こんな致死率の高そうな戦場を用意するとか、実は殺す気満々なのではないかと勘ぐってしまう。

 まあ、いつの間にやら集まってきた観戦者らしき鳥人族(バードマン)達の目をキラキラさせた様子を見る限り、ただ楽しいからやっているみたいだけど。こんなどうしたって身がすくむ高さが好きとか……わかっちゃいたが異文化交流は難しい。


「……先鋒はアレス君だけど、大丈夫かな?」

「勝敗に関しちゃ敵次第だけど、まあ大丈夫だろ。死の恐怖を克服する術なら十分に叩き込んであるから」


 試合のルールは3対3の団体戦。先鋒、中堅、大将がそれぞれ戦い勝ち星を競うオーソドックスなルールだ。

 ある意味お互いに様子見って意味合いが強い最初の戦士に俺たちが選んだのはアレス君。実力で一番劣る――ってのもあるが、それ以上に対応力の高さを買っての起用だ。


「この試合に負けたら交渉は御破算……何てルールはないにしても、無様を晒せば印象は悪くなるだろうね」

「ああ。手を組む価値なしって判断をされるのが最悪。だから頑張らなきゃいけないわけだが……ま、そんな建前はともかくとしてさ」


 俺は闘技場の上でストレッチしているアレス君に目をやる。

 ほどよい緊張はあるようだが、固くはなっていないな。なれない環境にも怯む様子はないし、中々のコンディションだろう。

 だから――


「勝てよアレス君。理由も事情も関係ない。やるからには勝つのが俺たちの仕事だぞ?」


 勝つ。何はともあれ、そのために俺たちは鍛え続けているのだ。

 だから、いつも通りに頑張ってきなよ――



(……装備は万全。体調も悪くない。環境はちょっと辛いけど、適応できないほどじゃない。だから――言い訳はできないぞ、僕!)


 僕は一つ一つ自分の状態を確認し、万全を整える。今求められているのは「よく頑張った」と過程を誉められることではなく、勝利の結果のみ。

 実力で一番劣る僕が何を偉そうに勝利を口にするのかと言われそうだけど、弱いことは諦めていい理由にはならない。まして、それなりに強くなっている自負がある身としては――勝ちたいってのは当然のことだよね。


「では、こちらの戦士を紹介しよう。……(モズ)、来なさい」

「え? あたし?」


 葉っぱの上にやって来た鳥人族(バードマン)のリーダーらしき地位にいるらしいオオトリさんが司会進行だ。

 どうやら鳥人族(バードマン)側の人選はまだ決まっていない――親善試合を決めたその足でここに来たんだから当然だけど――らしく、この場で戦士を選ぶみたい。


「ふふぅん。隊長はさすが見る目あるね。あたしに任せれば勝利は約束されたも同然よ!」

「いいから早く来なさい。客人を待たせては我らの恥だ」

「ハイハーイ」


 フワッと、いやバサリとと言うべきだろうか? モズと呼ばれた戦士――僕と同い年くらいの女の子――は、背の翼を大きく羽ばたかせて観覧席から闘技場へとやって来た。極自然に、空を自らの庭だと主張するかのように。

 ……やっぱり、空中戦は圧倒的に不利だね。僕も飛べない訳じゃないけど、翼を持つ相手にあくまでも地上が本分の僕が挑むのはあまりにも無謀だ。


「さて、アレス殿――だったな。貴殿の相手はこの(モズ)が務める」

「よろしくね、おちびさん。あんまり痛くないようにはするつもりだけど、怖くなったら遠慮なく言ってね」


 モズさんは晴れやかに、全く悪意を感じさせない善意100%の様子で僕へそんなことをいい放った。

 ……悪意がないからこそ傷つくよ。完全に子供扱いされてるし……。


「……ねえ、本当にやっていいの? こんな翼もない子供相手に……」

「あの、多分同い年くらいだと思うんだけど」


 本気でこちらを心配しているといった様子で、モズさんはオオトリさんに話しかけている。

 そんな彼女に、僕はなるべく穏便に胸の内に溜まっていく何かを口にする。こう、何も考えずに破壊衝動に身を委ねたくなる類いのものを。

 実際、外見から判断するにそう変わらないと思う。鳥の巣みたいに跳ねた茶髪が印象的な顔からは大人と子供の中間って感じがするし。

 まあ、鳥人族(バードマン)の外見年齢が人間と同じくらいって前提での話だけど。


「……あたし、もう15歳だよ? 君は12歳になったかならないかでしょ?」


 ……あ、人間と変わんなかった。というか、うん……


「……僕は15歳だよ」

「えっ!? ウソォ! そんなちっちゃいのに!?」


 モズは、ずいぶん大袈裟に驚いている。煽っているわけではなく、心の底から驚いたと言った様子で。

 これはもう、怒っていいよね? というか怒ったよ……。


「……こほん。お互いに気合いは十分ということで……そろそろ始めよう。構えなさい」

「はーい」


 オオトリさんの仕切りによって、驚いたままの表情で固定されつつもモズは槍を構えた。

 僕も無言で構える。じいちゃんから貰い、リリスさんによって改造に改造を重ねた不朽の剣・Ver.48を。


「では――始め!」

「ハァァァァァッ!」


 開始の合図と共に、僕は全力で踏み込む。どうやらこの葉は簡単には破れないようだし、遠慮なく進ませてもらう。


「へぇ」

「先手、必勝!」


 相手が自分より弱ければ、絶対に死なないが倒せるラインを探してから殴る。相手が自分と対等ならば、少しでも勝率を上げるように情報を集めるところから始める。そして、敵が自分より格上ならば――力を発揮する前に倒す!


「加速――」

「結構速いね」

「ッ!? チッ!」


 モズは一瞬にして空に上がった。飛ばれる前に一撃で――というのが理想だったんだけど、やっぱりそううまく行かないか。


「さて、それじゃ……いくよ?」

(空にいる相手に僕も飛ぶのは――なしだな。不利すぎる。となれば、狙うべきは――)


 モズは空で軽く肩をほぐすかのように腕を回した後、脇を締めて槍を突き出すように固定する。

 そして、急降下してきた。狙いは突撃槍か……。


(初撃だけはこのままでいく。地力の差はどれくらいのものか……)

「死なないでね――ッ!」

「剣で止め――重っ!?」


 壊れないことが、決して刃こぼれや呪い等の弱体化を受けないことが能力である不朽の剣は盾としても優秀だ。

 だからこそ速くとも軌道が読みやすい突撃攻撃を刀身の腹で受けたわけなんだけど、想像以上の威力で僕はまったく踏ん張れない。

 というか、これ吹き飛ばされ――


「……あ、落ちちゃった?」


 僕は踏ん張りきれずに、足場の悪さなど関係なく真横に吹き飛ばされる。

 視界が流れて行き、あっさりと闘技場の葉っぱの領域すら飛び出す。これ、このままじゃ落ちるね……。


「まあ、仕方がないわよ。あたしってこれでも結構強いしね」


 吹き飛ばされながらも追撃を警戒してモズを見てみると、既に勝負はついたと思っているのか何もすることなくただ立っていた。

 なるほど……舐められてるね。確かに想像以上に強かったけど、この程度で――僕を負かすことができると思っているとは……!


「――【付術・飛行(フライ)】」


 飛行魔法を発動させ、ひとまず体勢を整える。

 翼がないからって、空に放り出されたら何も出来ないってわけじゃないんだよ。そりゃこの人たちと空中機動戦ができるほど素早い動きはできないけどさ。


「ふふぅん。翼もないのに飛べるんだ」

「ただの手品さ。正直、これでアナタに勝てるとは思えない」

「そうね。はっきり言ってあげるけど、その空に浮いているだけの力であたしと戦うってんなら……優しく場外負けでは済まさないわよ」


 モズから感じるプレッシャーが、強まった。今まではほとんど感じられなかった敵意。それが感じられるようになったのだ。

 翼を持つ一族か。どうやら、空に対する誇りが強いみたいだね。よそ者の弱弱しい力で空を飛ばれるのは気に食わないって所か。

 まったく持って、当然のことだね。だから、出し惜しみはなしだ……!


「……謝罪するよ。あなたの力を見くびっていた。僕より格上と判断していたつもりだったけど……それ以上だ」


 ――物質縮小型収納ボックス、魔力励起――


「あら? 降参するの? 懸命な判断だと思うけど」


 ――陣の選択、既存式・基準構成(スタンダード)――


「いや、どちらかと言うと戒めかな。一人の戦士として、今の僕がやるべきなのは様子見なんかじゃなかった。ただ、挑戦者として――」


 ――起動、全力戦闘用魔法鎧(マジックアーマー)――


「自分の持ちえる全ての力を、最初からぶつけるべきだった!」


 ――装着。多重加護式魔導装甲(マルチブレス)



「……早くも使うか」


 飛行魔法で踏みとどまった空中で、アレス君の全身が輝きだす。その魔力属性は光。文字通り輝く力に包まれ、その全身を青白く輝く帯状魔法陣が取り巻いていく。

 謎の文字や幾何学的な文様が無数に書かれた光の帯が全身を包むように回る光景は、ある意味美しい。その文字文章の一つ一つに意味があるとか考えただけで頭痛くなるが、何も考えずに見る分には芸術品のようにも見える。

 正直派手すぎるって気もするが、あそこまで補助魔法陣用意しないと機能しないって代物なんだから仕方がないんだよな……。


(しかし、やっぱ使わなきゃだめだったか。できればここぞって時まで温存しておきたかったのが本音だろうけど……想像以上に鳥人族(バードマン)は強いか)


 俺は先ほどの一撃を思い返しながらも納得する。

 アレス君は、予想よりもかなり速かった鳥人族(バードマン)の女の子の一撃により、思いっきり吹っ飛ばされた。俺の読みだとあれよりももう一段階はレベルが低いって印象だったんだけど……読み違えたな。

 あの速度に対応するのは今のアレス君じゃちょっときつい。だからこそあの新装備に期待ってところなんだけどさ。


「なんだい、あれ?」

「あれ、クルーク知らなかったっけ?」

「ああ。魔法式を見れば大体の構成や能力は見当つくけど……」

「わかるのか……。えっとあれはな、アレス君の素養に合わせてリリスさんが一から作った特注の鎧だよ」


 魔術師の知識と目は俺には一生縁がないな。なんて思いつつも俺はクルークの疑問に答える。


「あの式に対応するアレス君の素養と言うと、光の魔力に自己強化魔法かな?」

「正解。光の魔力は全てを浄化するって攻撃性の他に、もう一つ特徴を持っている。それは……」

「“加護”かい?」

「……正解。光の属性は対象に加護を与えて強化するって能力との相性がいい。付術系統の魔法に近い性質だな」

「古来より、光の戦士は強力な加護に守られているって相場が決まっているしね。……でも、レオン君がアイテムなしで自己強化魔法使っているところ見たことないんだけど?」

「……強化魔法は難しいんだよ」


 強化するということは、自分の身体を壊さないように、そして本来の力を阻害しないように力を流すということだ。

 それは思いのほか難しく、普通にやっている魔力による身体強化とぶつかって逆に弱くなったり――ちなみに、弱体化魔法の原理はこれだ――やりすぎて崩壊させたりする。

 つまり細やかな力の調整と人体への知識が必要不可欠になるわけで……そんなことに時間を割くくらいなら俺は筋トレする。それだけの話である。


「まあいいけど、それがあの鎧の意味ってことかな?」

「まあね。強化魔法を使えるようになったはいいけど、やはり扱いが難しいことに変わりはない。その補助をするのがあの鎧の役割だ」


 アレス君の鎧がいつの間にか変化している。今までも簡素な軽鎧は装備していたのだが、そこに追加パーツがつけられているのだ。まるで全身の表面積を増やすのが目的のような、どちらかと言うと外見重視の儀礼鎧のような姿へと変わるようにな。

 更に、アレス君を取り巻いていた帯状魔法陣が追加パーツへと融合するかのように溶け込んでいく。魔法陣が鎧の装飾のように刻まれていくのだ。

 無数に刻まれた魔法陣の大半は沈黙しているが、内一つだけが輝いている。今まさに、発動中と言わんばかりの主張をするように。


「あれは飛行(フライ)だね。同じものを紙に書いて魔化すれば魔道書(スクロール)になる」

「今発動中だからな。使い捨て用の即席魔法陣とは大分違うけど」

「本体……いや、どんな鎧にも装着できるようになっているね。となると、追加のパーツこそが本体か。最初に装備していたのが魔獣の皮鎧だったのになんで追加パーツは希少魔法金属製なのかって思ったけど、刻んだ魔法陣を展開、入れ替えができるようにするためか」

「普通に刻むとそこで能力が確定してしまうからな。あの鎧に求められた役割は高い汎用性。だからこそ、戦闘中に魔化を施すことで通常ではありえない多機能性を持たせることにしたって代物だ」


 あの魔法陣は全て強化魔法の補助のためについている。アレス君は相手の戦力、性質を見極めたうえで『必要になる魔法』を決定。その魔法発動の補助を可能にする鎧を瞬時に構築し、装備することができるのだ。

 あれを使いこなせるのは世界広しと言えどもアレス君だけだろう。瞬間魔化の技術なんかはもちろんリリスさんが組んだものだが、その複雑な機構を理解し使うことができるような器用さを持つ人間など早々いない。

 無数にある魔法の中から必要なものを決定し、使いこなす。それができるってのはあらゆる能力に長けた万能型――俗に言う、天才専用装備なのだ。


(まあ、沢山の魔法が使えるようになるってだけの残念装備じゃないけどね)


 例えば、クルークならばそんな小細工しなくとも多彩な魔法を地力で操ることができる。魔法の発動を補佐するだけなら自転車の補助輪程度の意味しかないだろう。

 もちろん、それだけじゃないけどね……。


「……ん? よく見たら剣にも魔法陣が一つ付いてるね。あれは……?」


 クルークが気がついたらしく、実は一緒にちょっと変形しているアレス君の剣を見て首を捻っている。

 あの魔法陣はリリスさんオリジナルらしいし、簡単には解析できないだろう。俺も効果は知っているが解説するのは無理だ。


「ま、こっから先が今のアレス君の本気だ。じっくり見せてもらおうよ」


 剣士として、魔術師として……最良の環境で磨いてきたつもりだ。

 今のアレス君は辺境の村の少年ではなく、一級の才能をこれ以上ない環境で鍛え上げた立派な戦士。

 見せてやれ、天才って呼ばれる人材が恵まれた環境と途方もない努力を揃えてようやく実現できるクラス“魔法戦士”の力をな。



(……よし、これで準備万端だ)


 装着した加護鎧(マルチブレス)の具合を確かめ、僕はモズの姿を改めて見据える。

 今の装備変更の隙を突いて攻撃してくるかとも思ってたんだけど――そしてそうなってくれれば発動する罠があったんだけど――やや驚きながらも好奇心に満ちた眼で見てくるだけだ。

 ……不意を突いたりするほどの相手じゃないってことかな。同じ年代の子にここまで虚仮にされたのは初めてだ。

 昔、師匠が言ってたな。慢心はいけない。人間って種族に生まれた時点で凡人なんだから、自分より常に上がいることを想定しておけって。


「これでも結構自信あったんだけどなぁ。師匠クラスならともかく、同年代には負けないって。師匠の教えに背いて妙な慢心をした罰ってところかな、この痛みは」


 僕は飛行したまま葉の上に戻る。剣で受けたとは言え、衝撃の強さで両腕にダメージが残っているのを感じながら。


「まだやるつもり? ちょっと変わったみたいだけど、とてもあたしには勝てないと思うけど……」

「ええ。正直実力じゃ敵わない。でも……戦って負けるつもりはない」


 両腕に痺れがある状態で切り結ぶのは無謀。となれば、まずは――


「【魔法陣励起(パワーオン)回復の加護(ブレスヒール)】」


 僕の身体が淡い光に包まれ、腕の傷を癒す。

 設定した時間ごとに回復魔法を発動する魔法陣をオンにし、その最初の一回が発動したのだ。自然治癒力上昇でもよかったんだけど、こっちの方が効果が大きいんだよね。

 後は……


「……出し惜しみはなし、だよね。【飛行(フライ)】解除。【腕力加護(パワーブレス)】【防御力加護(ガードブレス)】【速度加護(スピードブレス)】【魔力加護(マジックブレス)】」


 僕は飛行魔法を解除し、同時に4つの強化魔法を起動させる。

 鎧の補佐機能を持ってしても、一度に発動できる魔法は5つが限界。普通の魔法発動マジックアイテムでは3つが限度であることを考えればそれでも破格だけど、魔法の発動はあくまでも僕がやっているので処理がきついんだよね……。


「ちょっとは強くなったのかな? じゃあ、もうちょっと強めで――いくよ!」


 モズは再び空を飛び、急降下を仕掛けてきた。

 さっきよりも更に早い――あの翼に秘密があるのかな?


「――フンッ!」

「えっ!?」


 僕はさっきとは違い、剣の刃で槍に合わせた。今の僕なら、早々力負けはしない――!


「お、驚いた。本当に強くなってるね」

(――それでも、押し切れない!)


 強化魔法により腕力を高めて、それでもようやく鍔迫り合い。自信なくすなぁ。基礎能力で圧倒的に負けているよこれ。

 でも、そこから何とかするのが技術って奴なんだけどさ。


「【魔法陣切替(チェンジ)腕力加護(パワーブレス)Ⅴ】」

「ッ!? 力が跳ね上がった」


 鎧に刻まれた魔法陣の輝きが切り替わり、一つを除いて別の――同じ文様が描かれた魔法陣に変わる。起動させる魔法陣を瞬時に組み替え、腕力強化に特化した構成に変更したのだ。

 5つある強化魔法の枠。その全てを腕力強化魔法に振り当てた、5重強化。この瞬時に行える強化魔法の切替――それがこの加護鎧(マルチブレス)の真の力!


「デアッ!」

「キャッ!?」


 力任せにモズを吹き飛ばし、体勢を崩させる。そのまま追撃し、この一撃で終わらせる――


「――甘い!」

「クソッ! また空に!」


 しかしモズは、吹き飛ばされてもなお何の問題もないと言った様子で空に上がる。

 追いかけてもいいんだけど……空中戦はモズの狙い。ここで追ってはだめだ。


「や、やるね。腕力は大したもの……だけど、それならこうしてあげる!」


 モズは上空からこちらを見下ろしつつ、翼を大きく広げた。ここから想定できる攻撃パターンは――


掃討羽射(そうとううしゃ)!」

(羽を使った遠距離攻撃!)


 羽ばたきと共に、矢のような鋭さを持った無数の羽が飛んでくる。よく見ればその全てに風の魔力付加されており、貫通力を高めているようだ。

 腕力で上回る相手には遠距離から攻める。セオリーだよね。でも、それにも対策は当然ある!


「――【魔法陣切替(チェンジ)飛行盾(フライシールド)Ⅱ】!」


 追加パーツに飛行(フライ)の魔法をかけ、浮かせる。これは盾の機能を持ったものであり、自分の手を塞ぐことなく物理的な盾として使える便利アイテムだ。

 これの作動に魔法陣を二つ使い、自分の前に二枚の盾を展開することで羽を防ぐ。だが――


「――強い!」

「そんなので防げると思う?」


 飛行盾は確かに羽の矢を防いでいるが、一発一発の威力が予想以上に高くて徐々に罅が入っている。

 このままじゃ、貫通されるか。だったら――


「【魔法陣切替(チェンジ)反射光壁(カウンター・ライト)】!」


 魔法陣を更に切替、飛行盾に反射の力を持つ光の守りを付加する。これは対象に衝撃を跳ね返す性質を持つ光の魔力で覆う防御魔法だけど、純粋な防御障壁に比べると脆いので自分の身体でやると失敗したときのダメージが大きい。

 でも、こうして盾に付加してやれば――


「……! そんなことまでできるの……!」


 威力を反転させられた羽の矢が、モズへ向かって飛んでいく。当然簡単に回避するけど、こんな方法で対処されたのは予想外だったみたいだね。

 ようやく、その顔に僕への警戒心を向けてくれているよ……!


「……わかった。あなたは、強いみたいね。お遊びで倒すのは無理……だから、敵として相手するわ」

「ようやく、か」


 敵意は戦いの中で絶対に必要不可欠なもの。今までのモズにはそれがなかった。

 でも、ここからは敵を叩き潰すって意思が乗る。それがとても怖くて……とても楽しみだ……!


「――フッ!」


 モズが、視界から消えた。風を斬り裂くような音と共に、消えてしまったのだ。

 これは高速移動。僕の動体視力では捉えられない、高速移動。移動先は――


「――ハッ!」

「ッ!? 反応、した?」


 僕は勘を頼りに、背後から突き出された槍を回避した。同時に魔法陣を切り替え、盾以外を速度強化に回す。

 未強化状態で反応できたのは経験だね。前面に盾を展開している以上背後に回るとは思ってたけど、実際に反応できたのは師匠で慣れているおかげだ。速い相手との戦いは、慣れている――


「でも、これからよ!」

「槍の連撃も、慣れている!」


 流れるように繰り出される連続突き。気影から読み取れる動きよりもかなり速くて避けづらいけど、フィーとの組み手を思い出せば何とでもできる!


「――接近戦の心得もバッチリね。じゃあ、こんなのはどう?」


 高速飛翔により一瞬で距離を取った後、モズは槍を大きく振りかぶった。あの感じは……


「その盾、あたしの動きについてこられるのかしら?」

「高速移動しながらの遠距離攻撃。それで盾を振り切ろうってことか!」


 モズが槍を一振りすると、そこから巨大な風の刃が飛び出した。すぐに盾を動かして弾くけど、その次の瞬間には別の角度からまたもや風の刃が飛んでくる。

 二枚展開しておいて正解だったね。これなら何とかなる。後は――


「守りはたいしたものね。でも、攻撃しなきゃ勝てないわよ! まあ、盾の中に引きこもって接近戦しかできないなら無理ないけどね」


 僕を倒すには遠距離攻撃が確実。モズはそう判断したらしい。

 それはある意味で間違っていない。僕は遠距離への攻撃魔法の類が苦手で、師匠の嵐龍閃のような一撃必殺の砲撃系大技も持ち合わせがない。

 そんなときは――これの出番だ!


「不朽の剣、機構開放。唸れ――竜尾剣!」

「なっ!? 剣が伸びた!?」


 刀身がいくつかに分かれ、その間を剣と同じ金属で作った金属糸で繋いでいる。壊れないって不朽の剣の性質に着目し、こんな壊れやすい複雑な機構を仕込んだのだ。

 いわば、今の僕の剣は金属製のムチのようなもの。その動きを制御するために剣に仕込んだ魔法陣を一つ使わなきゃいけないけど、ざっと本来のリーチの10倍は伸ばせるよ――!


「――【竜尾斬】!」


 ムチの先端は、その遠心力によって信じられない速度と威力を持つ。ならばこのムチにして剣でもある不朽の剣なら、どれほどの威力になるのかは――実際に食らって確かめてくれ!


「捉えた!」

「クゥッ!」


 竜尾剣モードの不朽の剣の動きは、全て手元で操作できる。その制御はかなり難しくて扱えるようになるのに一週間くらいかかったけど、その分避けるのは至難の業だ。

 モズは蛇のように自在にうねり、追い詰める竜尾剣によって徐々に追い込まれ、その刃と身体を近づけている。既に彼女は僕の射程圏内。これでもう、避けるのは不可能――


「――【翼の開放】」

「え」


 ――だと思ったら、突如モズの身体から強烈な魔力が放たれた。

 魔力開放の威力だけで竜尾剣は跳ね返され、僕の手元に戻り元の剣の形になる。しかしそんなことよりも……なんか、メッチャパワーアップしてない……?


「本当に凄いね、キミ――いや、アレス」

「え、えっと……」

「アレスの強さに敬意を。あたしも正真正銘、全ての力を出すよ。この翼の真の力をね」


 モズの姿が、変わっていた。純白な翼は変わらず美しいが、それ以外の肉体に変化が生じている。

 元は気ままに跳ねまくっていた茶髪は、つややかな黒髪となって腰まで伸びている。その両腕は今までは存在していなかった羽毛に覆われ、まさに鳥人族(バードマン)という感じになっている。

 この感じ、これは――


「師匠の、覚醒融合……」


 どうやら、全力を見せて一気に勝負を決めるって僕の目論みは失敗したらしい。

 だって、向こうが明らかに本気モードになっちゃってるみたいだし……。

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