第125話 レオンハート・シュバルツの記憶
「……誰?」
「うん、歴史の――なんて、キミに言う必要はないかな。初めまして、レオンハート・シュバルツです。よろしく」
「はぁ……?」
悲惨な戦場のど真ん中で、俺は俺そっくりな男に礼儀正しく頭を下げて挨拶されてしまった。つい俺も合わせて頭を下げてしまうが、これは本当にどう言う状況なんだろうか?
俺的には、この部屋の中に俺の意識を乗っ取る何かが巣くっているとかそんなことだと思っていたんだけど……なぜにドッペルゲンガー?
「さて、自己紹介も終わったことだし……まずは質問からかな?」
「……いいのか?」
「ああ。対話は大切だよ。あまりのんびり話す環境ではないけどね」
レオンハートと名乗った男……ややこしいな、自分で言うと。まあとにかく、レオンは虚ろな笑みを浮かべて周りを軽く見渡しながらそんなことを言った。
……確かに、あまり精神衛生にいい環境ではないな。あまり長くいると気が狂いそうだ。
「……質問というのなら、その内容は決まっている。あんたは、何者だ?」
「レオンハート・シュバルツ……じゃ、納得できないよね」
「当たり前だろ?」
いきなり自分と同じ顔の人間に自分の名前名乗られて納得できる人間がいたら見てみたいものだ。
……同じ顔のはずなのに顔面偏差値に差がある気がするのは、俺の勘違いということにしておく。
「質問に答えてあげたいけど、多分その質問は無駄だろうね」
「なに?」
「その理由を話す前に、先に別の話をしたいんだけど、いいかな?」
「え? あ、ああ。別に構わないけど――」
「ありがとう。さて、まずはそうだね、ここが記憶の世界であるってのはわかっているよね?」
「そりゃあ、まあな」
今も惨劇のループが繰り返されているのを思えば一目瞭然だろう。
俺はレオンの言葉に、首を縦にふった。
「これは言うまでもないけど、ここは僕の記憶だ。キミが今まで倒してきた歴代当主達の部屋と根幹は同じだよ」
「……まあ記憶世界から入ってきたし、そうなんだろうとは思ってたけど」
今までの部屋と比べると、大分違うけどね。
他の当主の部屋は、はっきりいって殺風景だった。ある意味見所満点って絶景もあった――海の中とか、火山の火口とか――が、基本的に部屋の主が存分に力を振るえる空間って意味合いが強く、こんなエキストラが登場しているのは初めてのことだ。
「ここは、間違いなくシュバルツの人間である僕の記憶によって作られた世界だよ。でも、他の当主とは事情が違うんだ」
「というと?」
「他の当主の記憶データは、全て家の地下の霊碑に納められている。でも、僕のだけは違う。僕の記憶はね、キミが首から下げている紋章に蓄えられているんだ」
「俺の、紋章に?」
俺の首にあるのは、所有者の記憶と経験を蓄える力を持つ聖騎士の紋章だ。
この中にあるとすれば、当然俺の記憶であるはずだ。それなのに、別人――俺と同じ顔だけど――の記憶が入っているとは、どういうことなんだ?
「通常、紋章に蓄えられた記憶は当主継承と共に大聖騎士の紋章へ移され、持ち主が死亡した上で次期当主が大聖騎士の紋章を身につけた段階で霊碑に移される。その際に記憶は整理され、雑味のない記憶の部屋ができるんだ」
「……つまり?」
「僕の記憶は整理されることなくここに置きっぱなしだからこんな光景になっているってことさ。僕に残された記憶の中で、もっとも印象深い光景を繰り返し続ける部屋にね」
俺はそこまでの説明を聞き、改めて周囲を見渡す。
繰り広げられるのは、相変わらず地獄の光景。これが一番印象深い……いやまあ確かにすごいインパクトだが、あまりいい人生送ったとは思えないな……。
「で、何だってそんな記憶の持ち主が俺の紋章の中にいるんだよ?」
「それはね、僕の正体が■史の■再■が■■る■のレ■■ハー■だ■■だよ」
「え? 何だって?」
突然、ノイズが発生したかのようにレオンの言葉が聞き取れなくなった。
俺は軽く耳の穴に指を突っ込んで掃除してから、もう一度言ってくれるように頼む。レオンはそんな俺にどこか目付きを鋭くするが、文句を言うことなく繰り返してくれた。
だが――
「……やっぱり聞こえないぞ?」
レオンの言葉は、やはり俺の耳には謎の呪文のようにしか聞こえなかった。
そんな俺を見たレオンは、ため息をつくと同時に一言呟いた。「やっぱりね」と。
「やっぱり?」
「ああ。予想していた通り、今のキミには僕の正体を……真実を知ることはできない」
「……どういうことだ?」
「説明しても、今と同じことが起きるだけさ。と言うか、僕自身詳しいことは知らないんだけどね」
「知らないのかよ!」
意味深なことを語りながら最後に付け加えた言葉に、俺はついツッコミを入れる。
何だか全てを知る者的な態度だったのに、急にそんなこと言われると力抜けるな……。
だが、レオンはむしろ心外だといった様子で抗議してきたのだった。
「あのね、僕は所詮記憶だよ? オリジナルの劣化コピーだよ? キミ自身も知らないことを知っているだけでも本来十分だってことを忘れてほしくないんだけど、そこんところどう思う?」
「どう思うと言われても……ごめんなさい?」
「謝られても困るけど……まあいいや。とにかく、僕は所詮記憶でしかなく、そして人間でしかない。だから何でもできて何でも知ってる――なんて期待は捨てといてね」
「いや、流石にそこまでは考えて――」
「僕にできることなんて、精々個人戦闘に軍団の指揮、それと錬金術と経営学と暗号解読と古代言語読解と爆弾解体と料理と利き酒利き水とチェスとダンスと歌と会計とガーデニングと開発設計と絵描きと陶芸と楽器一通りと……」
「いやいや十分すぎるだろぉ!?」
さらっと軽い特技紹介をした流れだったが、どう考えても異常な長さのマシンガントークが飛び出した。
何? 完璧超人なの? 自慢なの? 何でもできるの?
……つうか、そんな脈絡のない特技豊富に持ってりゃ、そりゃ何でもできる万能野郎だと思われるだろ……。
仮にこんなのが面接にでも来たら、多芸すぎて逆に何ができる奴なのかわからないって落とされるレベルだぞおい。
「そんなに驚くことかな? この程度、ちょっと努力すれば誰でもできることだろう?」
(うわー……天才的発言ありがとうございますってか? お礼にぶん殴ってやろうかこの野郎)
ここまで来ると嫉妬よりも呆れの方が先に来る――ついでに、弟子に似たようなのがいるから慣れている――から、行動には移さないもののちょっと苛立った。
こいつ、信奉者はいても友達はいないタイプだな、間違いなく。
「おっと、無駄話がすぎたね。そろそろ本題に入ろうか」
「……まあ、いいけど。それで? 本題ってのは?」
「一言で言えば、キミの覚悟を問いたいんだ。嫌な真実を知らないまま生きるか、辛くとも知って生きていくかをね」
「……? よくわからんぞ」
結局のところ、何をしたいんだ?
俺は首を傾げるが、レオンは今までのどこか茶化した表情ではなく、真剣な顔で続けるのだった。
「わかりやすく言うんなら、さっきも言った僕の正体――それを含む“タブー”を知るか否かってことさ」
「タブー?」
「ああ。キミが知ることも――聞くことすらできないように封じられた真実。その封印を、破るかどうかってことだね」
……? やっぱりわからん。どう言う意味だ?
「例えば、さっきキミは僕の言葉を聞くことができなかった。そして――その事実を既に忘れかけている。違うかい?」
「え? えっと……」
そういや、そんなこともあったな。直後の特技自慢のせいで忘れてたけど。
「言っとくけど、途中で別の話を挟んだ――その程度のことでこれほどの異常を忘れる。それこそが異常だよ」
「そ、そういわれるとそんな気もするな」
俺は内心納得できない――いや、納得するなと誘導されている?
自分の思考なのに自分のものじゃないような違和感を感じながらも、レオンの言葉に頷いた。
「とまあ、理解してもらえたところで回答をお願いしていいかい? 一月前に僕が奇跡的に外に出られたおかげで多少緩んでいるみたいだけど、いつまで持つかわからないしね」
「一月前? ということは……もしかして、俺が気絶している間に何かしたか?」
「うん。個人的な恨みその他もろもろ含むけど、役に立てたと思うよ。かなり無茶したけどね」
レオンは爽やかな笑顔でそんなことを言うが、内心複雑な俺だった。
……聖騎士の紋章って、捨てちゃダメなのかな? 流石に正体不明のそっくりさんに身体乗っ取られるのは許容範囲外なんだけど。
「そんな顔しないでよ。実際、僕が消滅覚悟で表に出なかったら王都滅んでたんだからね?」
「……それは、ガーランドに滅ぼされるってことか?」
あのときは、ぶっちゃけ大ピンチだったからな。
正直想定もしていなかった親父殿の敗北によって、王都の防衛戦力は壊滅一歩手前だった。逆に言えば親父殿一人に支えられた防衛線をもうちょっと何とかしろって話なんだが、超人の領域には同じ世界に生きる者しか介入できないし仕方がないのだ。
そんな風に思い返していたら、レオンがまたもや真剣な表情で首を横に振り、俺の予想を否定する。
そして――
「あの時は、キミの身■を使■■■の中の■物が■■出て■■んだ■。僕にも正体がわからない、■■す■て■■■存■がね」
……また聞こえなくなった。今のセリフに含まれているのが、レオンのいうタブーであり、知らないほうが幸せな真実って奴の一旦なのか?
こいつは俺に、それを知るか知らないかの選択を迫っている。となれば、まあ答えは一つだな。
「また聞こえなかったみたいだね。さて、どうする――」
「いや、その選択肢ならやるに決まってるよな?」
俺はレオンの再三にわたる確認を遮り、肯定の意を示した。
だって、気持ち悪いじゃないか。俺に関することが俺の知らないまま存在しているなんて。知る機会があるのなら、とりあえず知っておくべきだろ。嫌なことだったら気にしなけりゃいいんだし。
「……断っておくけど、さっきもいったとおり僕は万能でも全知でもない。正直なところ、隠された真実に関してはある程度予想はしている――って程度だ。もしかしたら、僕では想像もできないような爆弾を掘り当てる恐れもある。それでもいいのかい?」
「いいよ。掘らなきゃその内足元で爆発するのが爆弾ってもんだろ? だったら目の前に引きずり出した方がまだ安心ってもんだ」
藪を突いて蛇を出す――なんていうが、出てきてくれるなら斬るだけだ。藪の中に潜んだまま奇襲される方がよほど怖い。
まあ、この諺は触れなくていいものに触れて損害をこうむるってことだし、ちょっと違うかもしれないけど。今回の場合、蛇入り藪が自宅の庭どころか自室にまで侵入しているような状況みたいだし。
そんな意思を伝えたら、レオンはその顔に――毎日鏡で見ているはずなのに――好感を覚えさせる笑みを浮かべて頷くのだった。
……なんか、こいつと話していると無意識にナルシストになりそうで怖い。何でこいつの仕草は全部褒めるしかないって品があるんだよ。素材が同じの俺が悲しくなるわ。
「僕としても、好みの答えだね。……それじゃ、まずは鎖を外すところから始めようか」
「鎖?」
「ああ。キミの■を縛る鎖。その全てを僕が外す事はできないけれど……ここまで来てくれたんだ。キミ自身の同意さえあれば、表層くらいは解放できると思うよ」
「何を……」
「一度僕が表に出たときにも、少し外せたしね。それじゃ、早速始めようか」
つまり何をするつもりなのかと首を捻ると、周囲の風景が変化し始める。
悲痛としかいいようのない戦場が徐々に歪んで行き、白い靄のようなものがかかった空間へと変化しているのだ。
「僕の記憶とキミの記憶――精神を連結させる。精神に干渉して記憶の世界に引きずり込む英霊の行だからこそできる裏技ってところかな」
「……なんだ、こりゃ?」
周囲の変化が終わり、辺りを見回した俺は唖然となって声をあげた。
そこにあるのは、白と黒で色分けされた光る球体。そして、それに絡みつく数本の純白の鎖だ。それ以外は本当に何もない、ただただ白い世界である。ぶっちゃけ眼が痛い。
「あの黒と白の球体はなんだ? いや、よく見ると……?」
俺は空間の中で唯一見る価値のある球体とその鎖を何気なく眺めると、球体は二層ではなく、三層に分かれていることに気がついた。
パッと見白と黒の二層――白7対黒3くらいの割合――なのだが、よく見るとその間にもう一層あるのだ。色合いは白なのだが、強烈な輝きを放っているもう一つの白と比較すると薄汚れているというか……やや黄ばんでいる気がする。というか、薄い黄色と言った方が正しいだろうか?
「アレの正体は、まあ今は気にしないでいいよ。気にしてもまた遮断されるだろうし、僕も詳しくはわからないしね」
「わからないのか? というか、ここは何なんだ?」
「ここは僕の記憶の部屋さ。ただ、そこにキミの記憶――そこに繋がる精神領域にリンクさせることで精神世界の最奥に侵入したんだ」
「……ゴメン、俺に分かる言葉で喋ってくれない?」
今のは謎の現象で言葉が遮断されたのではなく、普通にわからなかった。
多分魂に関する魔法理論的な話なんだと思うけど……俺がその手の知識に触れた場合、1分以内に眠りにつく自信がある。
そんな俺に、レオンはちょっと呆れ顔になりながらも軽く手を振るのだった。
「理屈を理解する必要はないさ。とにかく、ここがキミにとって重要な場所だってことだけわかればいい」
レオンはそういって軽快に笑い、光る球体へと――球体を縛っている鎖に手を伸ばす。
伸ばしたその腕には、強力な光の魔力が込められている。まるで、砲撃系の技でも使う前触れのような……?
「【奥義・勇光砲】」
(ッ! 力技!?)
如何にも出来る男オーラを出しているから、何かスマートな手段でこの謎の球体をどうにかするのかと俺は思っていた。
だが、実際に行ったのは強力な魔力を放つ単純にして強力な、砲撃技。俺で言えば嵐龍閃ぶっ放したようなものだった。
レオンハート・シュバルツを名乗っているが……確かに、この第一手はシュバルツの人間っぽいな……。
「……まあ、簡単にはいかないよね」
「結界……?」
恐ろしいほどの威力だと思われる光の砲撃は真っ直ぐ球体を覆う鎖へ向かっていったが、その輝きは直前で止められる。
鎖を守るように、結界が張られているのだ。それも、超が10個くらいつきそうな高強度のやつが。
『――精神領域最深部に、攻撃を、確認。迎撃のため、神造――』
「ん? 何だこの声?」
「おっと、怖いのが出てくるつもりだね。そうなる前に、ここは終わらせてもらおう」
突如、警戒音とも思われる声が白い空間に響いた。その声を聞いたレオンは不敵な笑みを浮かべると同時に、砲撃の性質を少し変える。結界に防がれ、弾かれた魔力をかき集めて無数の刃を作り出したのだ。
「【変式・勇光刃】」
鋭い刃の形をとった魔力が、結界を斬り裂く。恐らく、アレは対結界用の技なのだろう。
結界を斬り裂いた刃はそのまま鎖を傷つけていく。一切容赦なく、時間が無いといわんばかりの飽和攻撃が繰り出され――ついに、球体を縛る数本の鎖の内、一本が千切れたのだった。
「さて、逃げよっか」
「え?」
「ここにいると、こわーいのに消されちゃうしね。僕の部屋に戻るとしよう」
鎖が千切れると共に、レオンは俺の手を掴んだ。すると先ほどと同じく空間が歪んで行き、またさっきの戦場へと戻るのだった。
「一体何が――ガァァァァァァッ!」
戦場に戻り、俺はいったい何なのか聞こうとした。だが、その瞬間俺の頭の中でまるで爆発が起こったかのように思考が吹き出てくる。無理やり塞いでいた栓が抜けたかのように、俺自身を傷つけるかのように凄まじい勢いで。
俺は溜まらずその場に蹲るが、それでも現れた思考の一つだけは口にしなければならないと気力を振り絞る。目の前でどこか優しくも悲しい目をしている、レオンハート・シュバルツに言わなければならない言葉を。
「レオンハート・シュバルツ、お前が、本物なのか……?」
目の前に居るのは“本物の”レオンハート・シュバルツ。俺の記憶の中にいた、俺なんかとは違って最上級の天才であった騎士。俺がその人生を乗っ取ってしまった、悲劇の英雄。
俺は、唐突に目の前のレオンハートこそがそれなんだと理解する。その言葉にレオンは軽く頷くが、俺はその次の言葉を紡ぐ前に意識を失ってしまうのだった……。
……………………
………………
…………
……
どうして、考えなかったのだろう。
俺はこの地に産まれてから、ハッキリした意識があった。転生――いわゆるそういうものなんだと思いつつ、気にも留めていなかった。
この世界は自分のやっていたゲームと共通している不思議な世界なんだろうな、なんて――頭沸いているとしか思えない結論を疑いもせずに。
もしこの世界がゲームだったら、それが俺の始めのころの行動基準だった。その結果失敗に失敗を繰り返して地道を選んだわけだが、普通に考えたらこの時点でおかしい。
基本というか、ある意味触れてはいけない疑問なわけだが……ゲームが現実化してその世界に転生するとか、あり得るだろうか?
いや、あるわけない。そもそも転生の時点で俺の常識ではありえないのだが、事実起こってしまっている以上そこを否定しても始まらない。だが、ゲーム云々は話が別だ。
確かに、俺の記憶――俺の記憶だと思っているものと、この世界には類似するものが多い。それは俺自身の存在であり、都市の名前であり、一部の遺跡の場所や構造にモンスター、アイテムなどが該当している。
だが、一致しないものの方が遥かに多いのが真実だ。一口にアイテムといっても本当に沢山の種類があり、今この瞬間にも開発されているものまで考えたらとても“ゲーム”なんて狭い世界に収まる量ではないし、それは他のもの全てに共通する真理だ。
だからこそガキのころの俺が目論んだ『ゲーム知識で楽々人生計画』は始めの一歩で頓挫したわけだが、ここでもう少し考えてみるべきではないだろうか?
俺を含むキャラクターの名前――つまり有名人の名前、主要都市の名称、有名どころのモンスターや常用アイテム各種……ほとんど常識に近いことばかりだ。もちろん中には未発見の遺跡に関する情報なども含まれているため完全ではないが、これらは『ゲームとしてプレイした経験』がなければ知りえない情報なのか?
いや、一部を除いて簡単に知りえる情報ばかりだ。外陸種の能力なんて調べるのが困難なものもあるから今まで深く考えてはいなかったが、それもある種の超越者ならば知ることができる。未来の情報、なんてものを知ることができる超越者ならば。
とは言え、世界のことを余所の大陸のことまで知っており、それどころか未来の出来事まで把握している。そんな超越者の存在、ゲーム世界が現実化したのと同じくらい荒唐無稽な仮説だ。
魔王に精霊竜といった怪物が実在しているこの世界ならいないとは言い切れないものの、妄想の一種で片付ける程度の戯言だろう。
意識を取り戻した俺が、再び精神世界に入り、今度こそ本物のレオンハートの話を聞いたその瞬間までは。
「改めて言っておこうか。僕の名前はレオンハート・シュバルツ。かつてその名で現実世界に存在していて――攻めてきた魔王に殺された、よわっちい負け犬だよ」
未来の存在。まだ数年の猶予があるはずの、魔王軍襲撃。
その当事者であると名乗り、その厄災の記憶を延々再生し続ける部屋を持つ男の証言がなければ、な。
(時間の撒き戻し……か。まったく、いったいどんな反則級の化け物野郎がこの世界にはいるのかね)
俺の『ゲーム知識』は、かつて本物のレオンハートが経験した知識に手を加えた上で日本人だった俺にもわかるように――日本で知ったとしても違和感がないと思えるように加工したもの。そして、その出所不明な知識を疑うなと暗示をかけられていたのだ。
どうしてそんなことになっているのか、どうしてそんなことをしたのか、結局この世界は何なのか。それは相変わらずさっぱりわからないが……一つハッキリした。
俺が転生したのは、決して偶然ではない。過去に一度経過したはずの歴史が逆行し、なぜかその時間の流れから漏れたレオンハートという英雄の代わりに誰かが俺の魂を用意したのだ。
あの、異常な光を放つ球体――俺の魂と神聖な怪物、吸血鬼の侵食が交じり合った構成物の一つとしてな。
「……何故、時間が撒き戻ったのか。それは僕にもわからない。今の僕は首飾りの中に存在しているだけで、こうして精神世界に入ってきてくれないと外の情報はほとんど入ってこないしね。……それでも王都を消し去ろうとするような光の怪物を許す事はできないし、逆にキミの事は尊敬に値すると思っている。僕では守れなかった父を守り、王都を守り抜いた。僕が生きた歴史にはいなかった仲間を大勢持っているキミをね」
レオンハートは、本来この名を名乗るべき男は笑顔で俺を語る。
本人の言を信じるのなら、ほとんど情報なんてないはずなのに。一月前の事件でほんの僅かに外のことを知っただけのはずなのに、自分の身体を乗っ取った俺に好意の笑顔を向けているのだ。
「今の僕にできることはないけど……期待しているよ、レオンハート。この光景を繰り返さない未来をね」
今もなお、飽きることなく繰り返される惨劇。これを常に見続ける本物の心は、いったいどれだけ磨耗しているのだろうか?
それはもはや想像することも難しい。だからこそ、俺は頷くしかない。レオンハートとして今まで生きてきた誇り、それをウソにしないためにも……俺は本物を超え、世界を救う一手となることを改めて俺と同じ顔をした男に誓うのだった。
具体的には……
(もっと修行して、強くなるさ!)
何が起きても、勝てばいい。俺にできることなんて結局それだけなんだし、今まで以上に気合い入れていくとしよう。
何せ、とんでもない仮説が成り立っちまったからな。
俺のゲーム知識がそれっぽく思えるように加工された本物のレオンハートの経験であるとするならば、当然その最後はレオンハートの死で終わるはず。魔王に死体を利用されるのが真実ならば、黒騎士時代も加算されるがそこまでだ。
そう、今わかったことから考えるならば――
(勇者が魔王を倒すことができたのか、俺にはわからないはずだからな)
第三者の手によって歪められた記憶――知識に一抹の不安を覚えながらも、俺は現実へ戻るのだった。
真レオンハートの特別人物紹介
趣味:いろいろな分野の技能をかじること
特技:肉体構造的に可能なら何でもできる
弱点:自分の才能を標準だと思っており、無意識に他人の自信を砕いてしまうため友達がいない




