第119話 技術の結晶
新章開始。何とか無事に投稿できました。
でも前話の続きからです。
(……はぁ)
俺は一人、自宅の自室に置かれたベッドに転がりながらため息をついた。
昨日の謁見――王直々に王都動乱の関係者への沙汰が下されたときのことを思い出して。
その中でも終わったことへの追求ではなく今後のこと、つまり他の大陸への出発許可を得た後の話を思い出してだ――。
◆
「他の大陸へ向かい、他種族と接触することを許可なされる……と?」
俺は王の言葉に対し、思わず聞き返してしまった。シュバルツ家出身の者がやらかした今回の騒動の責任――それを取れ。そんなお題目で下された、三年前の俺の要望への許可に対してな。
「何か不満か?」
「いえ、もちろん不満などありませんが……その、仮にも罰であるというのにそれでよろしいのですか?」
俺は王に自分の思ったことをそのまま伝える。俺から言い出したことだし、感謝こそすれ不満などあるわけがないのだが、それでいいのかとも思うのだ。
俺が自分で望んでいることを叶えてもらうことの、どの辺が罰なのかってな。
いくらシュバルツとはいえ、流石に今回のことを完全になかったことに――ってのはほかの貴族達に示しがつかないだろう。権力からは遠いはずなのにどんな権力にも屈しない、屈する必要が無いシュバルツ家を内心で嫌っている貴族は多い。ましてや、今回の事は家単位で考えるのなら非は間違いなくこっちにあるのだ。ここぞとばかりに攻め立てるはずである。まったく気にしないけど。
それでも、政治の世界に生きる王としては無視できない問題のはずだ。貴族が何しようが何の問題もない俺や親父殿にはどうでもいい話だが、問題を起こした家に罰の一つも与えることができないってのは王としての威厳に関わる話だろうし。
そんな風に考えていた俺だったのだが、王はニヤリと僅かに笑うばかりだった。
いったいどう言うことなのかと内心で首を傾ける。そんな俺に、王は簡単に説明を始めた。
「この決定に異論ある貴族に対して、余の言葉は既に決まっておる。『これが罰でないと申すのならば、貴様も同じ役目に従事してもらう。何の問題もないのだろう?』とな」
「……はあ?」
「自覚がないようだから言っておくが、この任務は極めて危険だ。何せ、もはや遥か昔の資料程度しか情報のない異種族の住まう地へ向かうのだからな。どんな障害が、危険が待ち受けているかはわからん。普通に考えれば道半ばで死亡するだろうと言えるほどにな」
王は、俺に申し付けた任務がどれだけ危険であるのかを説いた。そんな任務に就けることが罰にならないとほざくのならば、お前もやるかというだけでどんな人間も黙るという補足付きで。
……俺としてはそんな自覚さっぱりなかったのだが、それは言わない方がいいだろう。ちょっと見知らぬ土地にいって現地の方に根回ししに行くだけだよなと思っていたとか、この流れではとても言えん……。
「とにかくだ。いくら自分から言い出したこととはいえ、無理難題に変わりはない。よって、誰も文句は言わないだろう。納得したか?」
「……はっ!」
納得したかと問いかけてきた王に対し、俺は理解したと頭を下げる。イマイチ納得のいっていない点もあるが、言われて見れば誰も好き好んでやるような話ではないなと思いなおして。
そんな俺を見て満足そうに頷いた王は、次にその皺だらけの顔に実に晴れやかな笑顔を浮かべて再び俺に問いかけてきた。そう、気持ち悪いくらいに上機嫌そうな笑顔で……。
「それで、レオンハートよ。この話はそもそもお前が言い出したことであるが、手段はどう考えている?」
「はい?」
「お前は余の出した課題である、人類の地力の上昇を見事に果たして見せた。それは今回の冒険者達の活躍を持って認めよう。故に許可を出すわけだが、具体的にどうするつもりなのだ?」
「えっと……」
「まず、未知の大陸への移動手段はどうする? その正確な場所などもちろんわかっていないのだから、転移魔法は使えないぞ?」
「……泳いでいけばその内着くんじゃないですかね?」
王の問いに、俺は自分の心に従って答えを出した。なのだが……次の瞬間、何故か謁見の間にため息の合唱が起こった。
その出先は王と宰相、それにロクシーとクルーク……その他謁見の間に控える文官の皆様。ようするに、頭脳労働担当組による訓練されたような同時ため息だったのだ。
「あのな、レオンハート。余としてもお前たちシュバルツの異常な体力については知っているつもりだ。もしかすると、そんな雑を通り越して存在してないと言ったほうが適切な計画でも成功するのではないかと思ってしまうくらいにはな」
「そうですよね? 俺、一日くらいなら息継ぎなしで泳げますし」
鍛えた結果、肺活量も上がっている。流石に無呼吸でいてはその内死ぬが、それでも一日くらいなら耐えられるようになったのだ。
主に、呼吸することによって体内に入る毒への対策としてな。魔物の中には生まれついた毒使いも珍しくないし、弱い吸血鬼もその手の戦法はよくとるのだ。
それに、あくまでも泳ぐってのは手段の一つだ。実際に向かうときは、空を飛ぶのも併用するだろう。流石に魔力が持たないだろうから最初から最後まで飛ぶ事は難しいだろうが、魔力が尽きたら泳ぎ、また魔力が回復したら空を飛ぶ。そんなサイクルでどこまででもいける自信が俺にはあるのだ。
そんなわけで、俺は単身泳いで外の大陸に向かう事はあながち不可能ではないと考えている。なのに何故ため息コーラスになったのだろうか……?
「いいか、レオンハート。そんな手段で正確な場所もわからん場所にいけるのは、シュバルツかクンくらいのものだ。疲労の概念を持たないアンデッドや魔法生物と呼ばれる怪物の類もその内たどり着くだろうが、どちらにしてもそれでは意味が無いだろう?」
「え? 俺――私がいければ何も問題ないのでは?」
俺としては、俺一人か多くとも少数精鋭で行くつもりだった。
単純に危ないからな。いざって時に自分の身を守れないといろいろ動きに制限できるし、大勢いるとそれだけで食料とかいろいろ困るし。
そう俺は思うのだが、王の意見は違うらしい。配下になにやら指示を出し、俺の元に一つの書類を持ってきたのだった。
「開いて見よ」
「はい。では……」
俺は丸められた書類を開き、そこに書かれている内容を上から眺めていく。
……どうやら、何かの物資のリストらしいな。日持ちする食料品を初めとして、一流の職人が手がけた陶器やドレス、その他民芸品に名産品、それに絵画などの芸術品や宝石類。またマジックアイテムの類に実用性よりも見栄えを重視した武器防具……うん、共通点はどれも高そうってところかな。
これは何のリストなのだろうか? 復興物資とは全く違う感じだし、褒賞品に関係あるのか……?
「それは他大陸の種族への贈り物だ」
「え」
「何せ、どんな文化でどんなものを好んでいるのかもわからんからな。多種多様に取り揃えねばなるまい。当然、膨大な量となるだろう」
俺は王の言葉を聞き、一瞬頭が真っ白になる。
贈り物って、必要なの? しかもこんなに? そろえるのに軽く屋敷を数軒建てるくらいの金貨がすっ飛びそうなんだけど……。
「わかっていると思うが、お前は我が国を――つまり人類全体の代表として他種族と接触するのだ。その使者が手ぶらで、かつ少人数などで行けば国の恥である。交渉を優位に進めるためにも、まずこちらの力を示さねばならん。人類には屈強な武力に豊かな財源、そして豊富な人材が揃っているのだ――と示さねばならんのだ」
「そ、そうなんですか?」
「……例えばだが、お前は見知らぬ誰かが突然『我は何とか国よりの使者である! 丁重に扱え!』などと王都の門を叩いたとして、相手にするか? その証明になると見たこともない紋章を入れた書状を持っているが、それ以外は何もない。たった一人だけで、何も持っていない。そんな者をな」
「それは……」
俺は王が口にしたシチュエーションを軽く想像してみる。
見知らぬ誰かが、王都の門を叩く。手には謎の紙。自称他国の使者。証明になるものは何もなく、状況証拠としてはただの旅人としか言いようがない……うん、とりあえず縛り上げるわ。
いや、それを素直に信じて国賓待遇にしてたら国が滅ぶよ。まずその国が存在しているってことから謎であり、それを信じるための材料が一つもないんだから。
ぶっちゃけた話、その辺の一般人が自分で書いた紙を掲げているのと何にも変わらん。一応その使者が俺であるとするならば、個人的な武力だけならそれなりに示す自信はあるが、それただの強い狂人だよな。
そんなのが来たのならば、最低でもバックにいるという国の存在をアピールする何かがなければ話にならないだろう。
例えば、後ろに装備を整えた軍勢を控えさせているとか。統一された紋章入りの鎧を装備した一団が並んでいれば、流石にそれなりに巨大な組織が絡んでいるってことは示せるし……。
「言うまでもないが、我々が望むのは平和的な同盟だ。武力侵略ではない。それも示さねばならんのだぞ?」
「あー……」
王は俺の頭の中を見透かしているように補足した。確かに、それも考えないといけないのか。
そう、さっきの想像のように軍隊引き連れて何とか国からの使者が来たとして、果たしてそれを友好関係の構築目的だと思うだろうか?
いや、まず間違いなく敵と判断する。和平の使者を名乗りながら全身武装して構えているとか、ああそうですかと招きいれた瞬間に攻撃される気しかしない。と言うか、その想定をしない警備とか全員解雇だわ。
「こちらに交戦の意思はない。まずそれを示さねばならない。そのための贈り物だ。物を貰って嫌な気分になるものはおらんだろうからな。だが、ただ物を送るだけではやはりダメだ。これを恩としてしっかりと突きつけ、後の交渉に繋げねばならん。極端に言えば、贈り物を武力で奪い取って使者は殺してしまえばそれでいい。そんな思考もありえるのだからな」
「う、奪われる……?」
「そうだ。物は欲しいが人間には興味がない。ならば、奪えばそれで解決だろう? それをさせないためにも、一目で分かる武力を示しながら友好の贈り物をするのだよ」
「つまり、数ですか」
俺の答えに、王は重々しく頷いた。
俺一人と一般兵千人。戦えばどちらが勝つかと言えば間違いなく俺だ。そう考えれば余計な兵力など持ちこまずに俺一人で荷車引いていけばいいような気もする。
だが、防衛戦を想定するのならそれは違う。千人が全員俺に向かって突撃してくるんなら間違いなく俺が勝つけど、その兵が俺を無視して背後を狙うとなると俺はともなく町が無傷ではすまなくなるだろう。
そんなリスクを背負うくらいなら、話し合いに応じた方がいい。手ぶらで来たわけでもないのだから。
つまり、こう相手に思わせるってことかな。俺はそこまで理解し、頷くのだった。
「納得したか? 以上の理由により、お前一人ないし数名の少数精鋭だけで行かせるわけには行かない。国の威信のためにもそれなりの人数で行ってもらわねばな。加えて――」
(ま、まだ何かあるのか……?)
思っていたのとは全然違う話になってきたことに動揺しつつ、俺は王の言葉を待つ。
何かこう、話をしているだけでお前馬鹿だろって言われているような被害妄想を抱きつつも。
「交渉役を連れて行く必要がある」
「交渉役?」
「当然だ。同盟の締結が目的なのだぞ? 当然こちらの要求を飲ませ、更に細かい部分を煮詰める必要がある。無論、お互いが飲めるギリギリを探りながらな。そこで決裂すれば、同盟どころか戦争状態にもなりかねないわけだが……お前にそんなことができるのか?」
「……無理です」
俺は王の言葉に、がっくりと肩を落としながらも正直に答える。謁見の間全体から『そりゃそうだろ』って声が聞こえてくるようだ。
でも、仕方がないじゃない。俺にそんな、言葉による情報戦と頭脳戦をやれと?
ハハハ、冗談が上手いですね。殴り合いになる未来しか見えねぇよチクショウめ。
あ、でもクルークなら上手くできるんじゃないか?
貴族としての交渉術とかも身につけているだろうし、武力的にも問題ないし……と思い俺は後ろに少し目をやる。俺のやや後ろで膝をついているクルークを見たのだ。
俺の視線に気がついたクルークは一瞬きょとんとしたが、すぐに俺の意思を理解してくれたらしく軽く微笑んだ。
そして、笑顔のまま首を横に振るのだった。
(……ダメなのか?)
何でクルークが首を振ったのかわからない。わからないが……どうやらクルークではダメらしい。
頭脳労働担当として十分なものを持っているはずなのだが、何がダメなんだろうか?
そんな俺の思いはもはや分かりやすすぎるくらい分かってしまうものらしく、その説明は王でもクルークでもなく、宰相のギシャ殿からなされたのだった。
「……よいかレオンハートよ。先ほどより陛下が繰り返されているが、これは国の代表としてのお役目なのだ。ならばこそ、相手と直接接触する交渉役にはそれに相応しい格が要求される」
「格、ですか?」
「そうだ、格だ。一国を代表していると名乗りながら、その者の身分が何の地位も名誉もない一般人などと言われれば……馬鹿にしているとしか思えないだろう?」
「それは、そうですね」
俺はギシャ殿の言葉に納得する。そりゃ確かに、舐めてんのかって話だ。
俺にも理解できるところまでスケールを落として考えれば、取引先との会談に権限もなにもない平社員一人で来たらどう思うかってところかな。はっきり言って、我々はまったくこの会談を重要視していません――って宣言するようなものだろう。
「クルーク・スチュアートも確かに悪い選択ではない。昨日までならばな」
「……先ほどの裁きですか」
「そうだ。先ほど陛下の言葉を持って、大貴族スチュアート家の全ての権威は凍結された。もはやクルーク・スチュアートは名誉ある権力者ではなく罪人に近い立場だ。とてもこの一件を任せる事はできん」
そこまで言ったところで、ギシャ殿は口を閉じた。それ以上何も言うつもりはないといった様子で。
クルークはこんなこと言われて何か思うことはないのかと一瞬後ろを見てみるが、平然としている。我慢しているとかそんな素振りもなく、当然だと思っているらしい。
「理解したな。つまり使節団には、国の代表として恥ずかしくない威信が求められるということだ。それをお前一人から数名で満たすのは不可能。故に、泳いでだとかそんな力技は却下となる」
「はい、理解しました……」
「その上で、改めて問おう。異なる文化を築いているのだろう他種族への贈り物、こちらの武力を示すための軍勢、交渉を担当するような肉体的には一般人相当の者達、その他使節団の世話を担当する使用人などに日程も不明である全員分の食料が必要になるわけだが……どのようにして正確な場所もわからない他の大陸へ移動する?」
「え、えーと……」
王は俺を強く見ているが、答えは出ない。出るわけがない。
いくら俺でも、そんな大人数と大荷物を抱えて移動しろなんて流石に無理。いや時間をかければ出来るかもしれないけど、間違いなくほとんど死ぬ。それは確実だ。
とりあえず、船でも使うのが妥当なところか? でも並みの船で耐えられる航海じゃないだろうし、国の威信を背負った船なんてそう簡単に用意できるわけが……。
「陛下。その辺りでよろしいのではないでしょうか?」
俺が過去最大と言っても過言ではないくらいに悩んでいると、力強くも品のある声が謁見の間に響いた。
ロクシーだ。ロクシーが、王に向かって言葉を投げかけたのだ。
貴族としての礼儀も重んじるロクシーが、謁見の間で許可も出されていないのに口を開く。それは相当なことなのだと流石の俺も理解している。だからこそ何事だと驚いたのだが、王は気安く――むしろ年齢に合わないイタズラを咎められた子供のような笑みを浮かべるのだった。
「そうだな。もう少し虐めてもよかったかもしれんが、まあこのくらいにしておくとしよう」
「あの、陛下? いったいどう言うことなのでしょう……?」
「ん? そうだな、その説明は……場所を変えたほうがいいだろう。案内いたせ」
「はっ!」
王はその細い足を動かし、杖に身体を預けながら玉座から立ち上がった。同時に王の命令を受けた従者達がさりげなくサポートすると共に前に出る。どうやら、あの人がどこかへ案内してくれるらしい。
「陛下。この場の全員を、ということでよろしいでしょうか?」
「そうだな。この一件、全員に関係のある話だ」
「畏まりました。では、各々方。私の後に付いてきて下され」
俺を初めとして、この王都動乱において極めて大きな貢献をした者へのお褒めの言葉――という名目で集められた全員に命令が下された。
それに従い、俺たちは立ち上がり、王とその護衛である王族騎士団の後ろに付いて歩く。
そのまましばらく廊下を歩いていくと、やけに重厚な鉄の扉の前に出た。その扉は何の障害もなく開かれ、その先には下りの階段が延びている。そこを王は躊躇なく進んでいき、俺たちもまたそれに従ってカツカツと靴音を立てながら石造りの階段を下りて行く。
それにしても、元々王城の構造なんて詳しく知らないが、それでもこんな場所があったのかと驚くほどに長い階段だ。体感では既にここは一階――地面を軽く下回っている。恐らくは、今俺たちは地下へと進んでいるのだ。
その証拠に、今進んでいる階段の壁には窓がない。普通王城ともなれば雅やかな細工窓の一つでもついているものなのだが、ここにあるのは壁に取り付けられた魔法光ランプだけだ。どうにも空気が淀んでいる気がするな。
(まあ、城に地下室があっても何の問題もないんだけども)
一応、俺が知るだけでも王城に地下室は幾つかある。その代表は牢獄であったり食料庫であったりするが、少なくとも今向かっているのはそんな場所ではないだろう。
では、いったいどこに向かっているのか。俺は首を捻りながらも進んでいくと――ふいに鼻が、この場にそぐわない匂いを嗅ぎ取ったのだった。
これは、潮の香り。そう、海の匂いだ。
更に遅れて、金物の匂いもしてくる。この先に何があるのかますます疑問になるが、どうやらこの先には海水と巨大な金属の塊がある。俺がそう確信すると同時に、この長い階段はようやく終点へとたどり着いた。
「これは……」
俺は続いて見えてきた光景に圧倒される。
見えたのは、巨大な黒い何か。金属の光沢が目を引き付ける、海に――人工的に作られた港に浮かぶ、巨大な船だった。
この世界の船は、基本木造だ。
水の精霊竜の加護を受けたこの大陸は当然水が豊富で、巨大な湖の類も珍しくない。そんな大陸に住んでいる以上造船技術はそれなりに発達しているのだが、しかしそれでも貴重な金属のみで船を作るような余裕など誰にもない。精々木造船に金属板を貼り付けるのが精一杯と言ったところである。
水生の魔物対策で金属船を作ろうという発想はあるし、そのための技術も既に実用段階にあるとは言われているが、単純に経費の問題でまだほとんど実現した例がないはずだ。
だというのに、今俺の目の前に存在しているのは完全金属製――それも非常に軽く頑丈な魔法金属製――の船だ。
はっきり言って、場違いすぎる。こんなもん作ろうと思ったら、どれだけの費用と時間がかかるのか、想像もできない。
更に注目すべきは、その巨大さだ。これどこの戦艦だよって迫力を感じさせるこの船なら、軽く二千人は乗せることができるだろう。全長200メートルは間違いなく超えているはずだ。
おまけに武装もごつい。水に住む魔物対策で船に載せる武器の類――砲弾の代わりに魔法を発射する大砲――もそれなりに開発されているが、その最先端がこれでもかって載せられている。この手の魔法道具の燃料である魔力石が幾つ必要になるのか考えたくもないが、その戦力は相当なものだろう。
仮に俺がこの船に挑むとするならば……少なくとも手を抜く余裕はないな。全力なら沈められない事はないと思うが、外から見ただけではわからない仕掛けがどれだけあるかにもよる。最低限結界装置くらいはあるだろうし、こんなのに英雄級が乗っていないことはないだろう。そこまで考えれば、魔王軍の幹部クラスが襲ってこない限り何とでもなるだろうな。
そんな、これ明らかに世界観間違っているだろって金属船を前に、俺は大口空けて唖然としてしまうのだった。
「どうかね? 我が国の力と権威の象徴となるだろう、未知の海を渡る最新式魔導船の勇姿は。以前より建造計画はあったのだが、この機会に実現したのだよ」
「我がマキシーム商会が全力で支援させていただきました。特に冒険者の戦力を使った鉱山開拓に成功しなければまず建造は不可能だったでしょう。また、リリス魔法工房を始めとして国中の技術者魔導師を総動員し、三年の月日をかけて開発しましたわ。まさに、人類の技術の結晶と言うべきものでしょう?」
王のドヤ顔、そしてロクシーのしてやったりという顔を前にして、俺はただただ圧倒されたまま首を一度縦に振るのが精一杯なのであった……。
◆
(あれは反則だよなぁ。誰がそんなの予想しているんだよ)
俺は自室のベッドの上に転がりながら、今でも目に焼きついているかの船の雄大さに思いを馳せている。
実は俺の知り合いの大半が建造に参加し、俺の王からの課題クリアを信じて作られていたという、未知への挑戦のための船。
その威容を思い出せば出すほど、俺はただただため息を吐くばかりなのだった。
作者の都合であまり時間が無かったため、ほぼ一日で書いたクオリティ。なのでいつも以上に誤字脱字が心配です。見つけたら教えていただけると助かります。




