第113話 レオンハートVSガーランド
「う、うぅぅ……」
「クソ、身体が……」
苦痛の悲鳴、無力を嘆く慟哭。弱者が弱者である証のような小さな声が当たりに響いていた。
「フン……本当に、目障りな奴らだったな……」
俺はそんな倒れ伏す雑魚共の中心に一人立ち、わずかばかりの苛立ちを込めて呟く。
受身のみが一流。身体能力、魔力量、その他あらゆる要素で俺に対抗するには遥かに劣る凡人共の集まり。種族も何もかもバラバラの、烏合の衆と呼ぶに相応しい雑兵の群れにここまで時間を取られるとは思っていなかった。
覚醒融合によって更なる力を得た俺ならば全員纏めて瞬殺できるはずだったというのに、実際にはこれほどの時間をかけてしまった。本来の標的であるガーライルもまたこの雑魚共に協力していたのが一番大きいが、それでも屈辱を感じざるを得ないほどに時間がかかってしまったぞ。
しかもほとんど戦闘不能であっても死んではいないと言うのだから驚かされる。こいつらの生存能力だけは認めてやらんわけにもいかないか。
だからどうするということはないのだがな。
……さて、そろそろ本来の目的を果たすとしようか。
「ガーライルよ、今度こそ……トドメを刺させてもらおうか?」
「クッ……!」
全ての障害を片付け、俺は再びガーライルに向かって歩みだす。
確かに時間こそかかったが、俺は未だほぼ無傷。合間合間にガーライルによって攻撃を受けたが、それは全て再生済みだ。
対してガーライルは満身創痍。元々一対一で戦っていた時点でかなりのダメージを負ってはいたが、雑魚共を庇う為に更に負傷している。もはやこれ以上勝負にはなりえまい。ただでさえ負担の大きい覚醒を融合もなしに使用していることから考えても、既に気力だけで立っているような状態のはずだ。
「……ロクシー君、今度こそ、逃げなさい。これ以上ここにいても、本当に犬死するだけだぞ」
「逃がすと思うか? 戦闘力こそ無いようだが、その女がこの連中の頭であることはわかっている。俺の邪魔をした罪は償ってもらわねばならないのだぞ?」
ガーライルはいよいよ手がなくなったのか、あえて残していた女に逃げるように告げた。
しかし、それを俺が見逃す道理はない。俺の長年の計画に水を差した罪として、責任を取ってもらう。だからこそ今まであえて攻撃せずにいたのだからな。
「……いえ、まだですわ」
「ほう? まだお前に何か手があるのかね?」
だが、何とも予想外なことに女はガーライルの言葉に首を振った。既に手駒となる兵を全て失っていながら、まだ何かするつもりだというのか?
女は俺の問いに答えることなく沈黙を守る。これは将が逃げる事はできないとでも言うべき無意味な意地なのか、あるいは全てを無駄と悟って諦めているのか。
それとも――本当に何か切り札があるのか?
「……ワタクシは、信じているだけですよ」
「信じる?」
「ええ。ワタクシが見込んだ英雄は――必ず来るとね」
結局、女が出した答えはよくわからないものだった。ニュアンスとしては増援を待っているということなのだろうが……今の俺に対抗できる人間などいない。
可能性があるとすれば英雄級が二人以上で組むくらいだが、その可能性は事前に潰してある。ガーライルと同格のクン家当主は町の襲撃による足止めを、その娘には俺の弟子を向かわせている。クンの当主は町のリーダーとして離れる事はできないはずだし、私の弟子が相手ならば勝敗は別にしてすぐに動けるような温い戦いはしないだろう。
それに、グレモリー老にはあの壊れた人形を向かわせた。あの老人の魔法は脅威の一言ではあるが、年齢の問題で連戦は不可能に等しいはずである。
それ以外に残る英雄級はガーライルの息子であり俺の甥に当たる男だけだが、そっちには騎士団に潜り込ませた密偵経由で情報を流し魔薬工房へ向かわせ、スチュアートの若造まで配置した。やはり連戦に耐えうる状態になるとは考えにくい。
そう、全てはガーライルとの戦いを邪魔されないため。そのために入念な準備を整えてきたのだ。
この連中の存在だけは予想外であったが、いくらなんでも英雄級を何人も見逃すとは考えにくい。故に、この女の言葉は――
「……虚しい希望、という奴か?」
存在しない英雄に縋る。ある意味、今の人類を象徴するような思想だな。
だが、安心するがいい。そんな悲しい世界は今日終わる。フィール王家の壊滅とともに――人の世界は真に強き英雄によって守られるのだ!
「――死ね!」
私は手にする華厳の刃を立て、まず女に斬りかかる。
ガーライルは既に満身創痍で動けない。この女に俺の剣をどうにかする戦闘力など無い。すなわち、これでこの女の生涯は終わりを迎えるのだ――ッ!
「…………なんだ、と?」
「ギリギリ、セーフかな?」
必殺を確信した一撃、その刃は――清浄と邪悪が入り乱れた気を放つ、異なる翼を持つ男によって止められた。
事も無げに、本気ではないにしろ、今の私の一撃を手にした剣で止めて見せたのだ。
「……本当にギリギリですけどね。正直、もうちょっと速く来て欲しかったですわ」
「そりゃごめんなさい。これでも全力で飛んできたんだけどね」
「まあ、間に合ったのだからいいですわ。……信じていましたしね」
翼を持った男――覚醒融合と思われる領域にいる、ガーライルの面影を感じさせる若者を前にして、女は僅かな安堵の表情を見せた。
そして、改めて俺に向かって手にした扇子を突き出し軽く笑う。そう、これこそが自分の希望であるといわんばかりに――!
◆
「……で、これどう言う状況?」
変身した状態で、俺は本気で飛んできた。今までとは比べ物にならない速度にちょっと酔いそうになったけど、クルークを置き去りにして本気で飛んできたのだ。
そうして見えてきた王都は、戦地になっていた。あちこちで響き渡る戦闘音。一方的に攻撃されているわけではなく騎士と冒険者がそれぞれ攻めてきたのだろう敵に対応しているが、想像より遥かに酷いものだった。
そして、もっとも驚くべき事は目の前の竜人だ。顔形が妙に親父殿に……あるいは俺に似ているのも気になるが、それ以上にあの親父殿がここまで追い詰められているってのがヤバイ。何故かロクシーが最前線で殺される1秒前だったのもビックリだが、本当に後1分遅れていたら取り返しのつかないことになっていたんじゃないか?
「それは、こちらも言いたいのですが。何です? その背中のものは?」
「知らん。何か生えてきた。その辺のことはまた後で頼む」
「そうですか……まあいいでしょう。では簡潔に、簡単に説明いたしましょう」
「よろしくな。なるべく短めに」
「――目の前の怪物は敵です。倒してください」
「――オッケェイ!」
ロクシーの簡潔きわまる説明を受け、俺は全身から魔力を放つ。
未だかつて無いくらいに、今の俺は調子がいい。間違いなく過去最強ってくらいに力が漲っているわけだし、この謎の竜人とも互角以上に戦えると信じたい。
親父殿を打ち負かしたと思われる相手に、油断も遠慮もする気はないけどなぁ……!
「……レオン」
「心配しないでくださいよ、親父殿。俺は負けないから」
早速戦闘に入ろうとする俺の背後からかけられた、僅かに弱っていることを感じさせる親父殿の声。
俺はそんな親父殿を安心させるべく、やはり短く応える。そう、今俺がやるべきことなのは、どうやら人の留守中に好き勝手やってくれたこの男を叩きのめすことらしいからな――ッ!
「……予定外にして予想外。だが、喜ばしいことでもある」
「あん?」
「次世代が逞しいのはいいことだ。それは俺の国を作る上で魅力的な要素だしな、レオンハートよ」
一方、謎の竜人は驚愕から満足そうな笑みへと表情を変えていた。
とりあえず、何が言いたいんだこいつは……?
「俺、見知らぬ人外から呼び捨てにされる覚えはないんだけど?」
「人外とは言ってくれるな。お前にだけは言われたくないが」
「まあ、そりゃそうか……」
俺自身、今現在の履歴書を書くのは結構悩むだろう。主に種族の項目で。
「んなことより、結局お前は誰なんだ? 見たところドラゴンっぽい性質を持った種族で……内側から吸血鬼の力を感じるんだけど」
「これは失礼。俺の名はガーランド・シュバルツ。名前くらいは聞いたことがあるのではないか――なっ!」
「ッ!?」
自己紹介とともに、ガーランドを名乗る竜人は突撃を仕掛けてきた。
随分好戦的なことだと俺も気合をいれ、打ち込まれた拳に拳で応える。その衝撃波で町がミシミシいい出してって……こりゃ、ここでやったら被害甚大間違いなしだな。
周りで倒れている冒険者達も危険だし……身体能力的には一般人であるロクシーなんて立っているだけで死にかねない。こりゃ、何とかしないといけないな。
「おい、お前の目的は町の破壊か?」
「……いや? この町もまた手中に収めるつもりだ」
「だったら、場所を変えるぞ。ここで俺らが戦ったらどっちが勝っても更地になりかねないからな」
拳を受け止めた姿勢で力比べをしなががら俺はガーランドに話しかける。
もちろんこの町を渡すつもりなど無いのだが、このまま破壊するのはお互いの不利益。
そう提案したところ、ガーランドは僅かに考えた後首を縦に振るのだった。
「ならば、互いに一つの領域に至った者同士だ。それに相応しい戦場へ行くとしようか?」
「……?」
「この姿だと、特に翼を持つ変化を起こすものは空を舞う能力に長ける。故に――」
「ッ!?」
ガーランドは握り締めていた拳を開き、逆に俺の腕を掴んだ。
そして――その竜の両翼を羽ばたかせ、一気に上空へと飛び上がるのだった。
「ぬぉぉぉぉぉ!?」
「戦場は雲の上。中々ロマンチックだろう?」
ガーランドは超スピードで真っ直ぐ上空へ向かって飛んでいき、俺もそれに引っ張られる形で上空へと向かう。
これ、普通に苦しい……!
「でえぃ!」
「おっと、外されたか」
それなりの高さまで上がったところで、俺は何とかガーランドの手を振り払った。
軽く肩外れるかと思ったぞ……。まあ、どうやら何の問題もないみたいだけどさ。
「さて、始めようか」
「……ああ」
ガーランドは構える。構えだけで判断すれば、流派はシュバルツ流の剣術で間違いない。
シュバルツって名乗っていたし……親戚か? そんな話きいたことないんだけど……。
「まずは小手調べ――」
「――フッ!」
俺は目の前の吸血鬼と竜の気が融合した、自称シュバルツの正体について考える。
だが――ガーランドの剣が視界から一瞬ぶれた瞬間に、俺はそう言った邪念を全て捨てる。こりゃ、戦闘のみに集中しなきゃやばい相手だな――ッ!
「フフフッ! 基礎的な受けくらいはできるか!」
俺はガーランドの剣を嵐龍で受け止め、あるいは弾く。余裕をもってな。
ガーランドが放つのは、基礎的な技ばかりだ。まるで剣を人に教えるかのような基本に忠実な動きばかりなのである。そんなのに対処できないほど俺も弱くはない。
まあ、指導と違って――一撃一撃の速さが尋常ではない上に、濃密すぎて吐き気がしてくる殺気が込められているんだけどな!
「ギアを上げるぞ!」
「――こっちのセリフだ!」
俺を倒すのにこの程度の技では不足であると認識したのか、ガーランドは動きをやや変えてきた。フェイントを混ぜ、剣だけではなく拳打も交えたより実戦的な攻撃に移り始めたのだ。
しかし俺もただ打たれてやる理由はない。むしろこっちから攻め込み、全力を出す前に叩き潰してやろうと攻めに出るのだった。
「ハアッ!」
「フンッ!」
お互いの一撃がぶつかり、凄まじい轟音となり周囲の雲を吹き飛ばす。この変身状態での戦闘……かなり危ないな本当に。
「正直、人の中にここまでの使い手がいるとは思っていなかったぞレオンハート!」
「こっちのセリフだよクソッタレ!」
この変身に至ったとき、実は俺はこんなことを考えていた。『あれ、これもしかして俺最強なんじゃね?』と。
しかし現実はこれだ。最強どころか、あっさり同格かそれ以上の敵が目の前にいる。全く――喜ばしいことだよ!
「少し大きいのを混ぜていくぞ――【落水】!」
「弾け、嵐龍――!」
ガーランドが剣を一振りすると、無数の水弾が飛んできた。
俺はそれを嵐龍の風で弾き、水で包んで無力化する。生憎だが、水の魔剣としては精霊竜の鱗で作られたこの嵐龍こそが最強の一振りなんだよ――!
「いい剣だ、な!」
「まあな――【唯一】!」
「おっと、八王剣かね?」
ガーランドの攻撃を無力化した瞬間、俺は翼を翻して前に出た。
そして、嵐龍による突きをガーランドの顔面に叩き込む。そこから八王剣につなげてやろうとしたのだが――ガーランドは事前に知っていたかのように大きく距離を取り、連続技である八王剣の間合いから出てしまうのだった。
「シュバルツの技なら全て知っている。その対処法もな」
「らしい、な」
「だからこんなこともできる――【唯一】!」
「ッ!?」
今度はガーランドが顔面に突きを入れる技【唯一】を放ってきた。
唯一は直撃すれば顔面から脳みそまで串刺しになる危険な技。しかしその技の性質上真正面から真っ直ぐ撃たざるを得ないため、戦士としての経験を積んでいれば容易に回避可能だ。
しかし唯一の本来の目的は一時的に相手の視界を奪うこと。危険だが避けやすい攻撃に対処させて次の技を確実に当てるのが狙いであり、八王剣の入りでもある技だ。
この男がシュバルツの技を全て使えるとすると、まさか八王剣狙いか――ッ!
「ハッ!」
「ん? 止めたか?」
唯一の対処法は主に二つ。一つは先ほどガーランドが見せたように、剣の間合いから大きく離れること。そしてもう一つがこれ――剣を受け止めてしまうことだ。
そう、俺はガーランドの剣を自分の剣で受け止めたのである。剣を止めてしまえばどんな連続技も使用不能だからな。本当は手で掴んでしまうのが一番安全なんだけど、流石にこのレベルの戦いで剥き身の刃を掴んだら冗談ではすまないだろう。
そうしてガーランドの剣を止めた後、俺はすぐに次の行動に移る。
ガーランドの剣に滑らせるように剣を突きだし、そのまま攻撃に移ったのだ。事実上の金属と金属が擦れる嫌な音がするが、構わず胸を突き刺すべく剣を走らせる。
すると――
「合格だ。本気で戦ってやろう」
「え――」
「【龍尾鞭】!」
「ガッ!?」
剣が当たるその瞬間、俺は斜め後ろからわき腹に対して物凄い力で殴られ、吹き飛ばされた。
一瞬意識が飛ぶほどの恐ろしい威力だったが、俺はすぐに体勢を整えて浮遊する。この文字通りの意味で雲の上の戦い、意識を失って落っこちでもすれば流石に死ぬから気が抜けないな……っと。
「……今のは、尻尾か?」
「その通り。覚醒融合はこうした身体的特徴に大きな変化が出る。俺の場合は翼と尾に角と言った具合にな。そして、そんな武器があるのに使わない方がどうかしているとは思わないかね?」
「確かに、凄い威力だったのは、認める」
人体には存在しない器官を使った攻撃。なるほど手ごわい……そして強い。
今の威力は付け焼刃で出せるようなものじゃない。恐らく何百何千何万と繰り返し修練を重ねてきたのだろう。この変身――奴の言う覚醒融合って奴の力を使いこなす為にな。
「……なあ、一つ聞いていいか?」
「何かね?」
「アンタは間違いなく一流の戦士だ。やっていることはともかく、その技の一つ一つに激しい修練が感じられる。その道はくだらない欲に負けて罪を犯すほど軽くはないはずだろう?」
これは俺がレオンハートとして生きてきた22年で培った人生観だが、技に芯がある奴は心意気にも芯が通っているものなのだ。
逆に言えば力を過信して才覚に溺れている奴は大体クズってことでもあるが、とにかくこのガーランドの技は明らかに前者。とてもちっぽけな欲望で穢せるような軽々しさを感じないのだ。
だからこその問いだったのだが、ガーランドは神妙な顔をするだけだった。何を言いたいのかと一瞬身構えるが、彼はゆっくりと覇気を纏いながら口を開いたのだった。
「――俺には大義がある」
「大義?」
「そう、大義だ。この地に置いて、人間は弱い。だからこそ――人は強くならねばならない」
ガーランドは踏みしめるように語った。人は、強くならねばならないのだと。
その意見には俺も大賛成だが、しかしそれがどうして王都襲撃に繋がるんだ? どう考えても人の勢力を弱らせるだけだと思うんだが。
「だったら、あの魔薬は何なんだよ? 明らかに人を堕落させるものだろうが」
クルークの発言から考えても、あのアジトはこの男の持ち物のはずだ。
つまり転生丸もまた、この男が作った薬と言うこと。狂人を量産する薬を作るのに大義があるとはとても思えんぞ。
「あれか。あれはチケットだよ。新たな世界の住民となるためのな」
「チケット? 新たな世界?」
「そう、俺は新たな人の国を作る。強く、強靭で才と力に溢れた国をな」
「……えっと、つまり王様になりたいってこと?」
「短絡的に言えばな。今の王家のあり方では人は決して強くはならん。極一部の才ある者だけが強くなり、その他大勢は心も身体も弱いまま。それではいかんのだよ」
……半分賛成半分反対ってところだな。俺は首をかしげながらそんな風に考える。
確かに未知の領域への一歩を踏み出そうとしない、あるいは踏み出せない奴ってのは沢山いるけど、しかし前に進んでいる者だって沢山いる。
冒険者達だってそうだし、武力面以外でも日々人類は進歩しているのだ。今のままでもどんどん強くなっていると思うんだがね?
だが、ガーランドはそんな俺の心情など知ったことではないと言わんばかりに話を続けたのだった。
「転生丸は、その第一歩――選別の道具なのだよ」
「選別?」
「そう、転生丸は中に魔物の要素が含まれている。詳しい事は俺にもわからんが、飲むと魔物としての力が手に入るのだ。文字通り生まれ変わったかのような力を手にすることができる――故に転生丸と呼ぶのだよ」
「……俺たちみたいにか?」
理由はわからないけど、ガーランドも内側に吸血鬼の力を持っている。
人に魔物の力を加算した――って意味じゃ、俺と同じ立場のはずなのだ。何か違和感あるのは確かだけど。
「そうだな。元々の着想はそこにあったらしい。さて、その転生丸で力を得たとして……お前ならばどうする?」
「どうって?」
「突然、今まで想像もしたことがないような力が手にはいったらどうする、という話だよ」
「そうだな……俺なら……まずは使いこなせるように鍛えるかな」
これは想像というよりも実体験だが、まあ何はともあれまず修行するだろう。
自分のものではない謎の力に依存するなんて恐ろしいこと、俺ならやりたくない。過去に何度かそんな機会もあったけど、完全に自分のものにできないんなら実戦では使えないし。
「そうだ。力を知るものならばそうする。力の素晴らしさと恐ろしさを己の魂で知るものならばな」
「で? つまり何がいいたいんだよ?」
「そう慌てるな。そもそも我々の場合ならば魔物の力と言っても武力――つまり、自分の誇る力の延長線だ。だが、そうでない者ならばどうすると思う?」
「そうでない者?」
「料理人、鍛冶屋、裁縫職人、薬師……世の中には、武力ではない力を持つ者が沢山いるだろう? そいつらが転生丸を飲んだとしたら、どうすると思う?」
「どうって……便利に使ってお終いじゃないのか?」
つまり、自分の技術と全く関係ない力が植えつけられたらってことだろ? 俺で言えば突然料理がプロ級になるとか。
今更剣を捨ててそんな道を目指すことなんて俺にはできないけど、まあ便利なら忌諱するほどでもないって感じになると思うんだけど。
そんな俺の素直な感想を言ったところ、ガーランドはくつくつと笑い出した。まるで、俺の反応が期待通りだったと言いたげに。
「そう、そうなのだ。自分の力と技術に誇りがあるのならば――何の苦労もせずに手にした力など、付属品の領域を出ないものなのだ」
「そりゃそうだろ」
「お前にとってはそれが唯一絶対の答えなのだろう。だがな、世のクズ共皆が皆そうだとは限らないのだ。今までの人生で培ってきた己自身の力……それをあっさりと投げ出して、簡単に手にした新たな力に依存する輩は決して少なくないのだよ!」
ガーランドは何か確信を持って強く宣言した。人間は、簡単に自分の人生の結晶を捨ててしまえる存在なのだと。
正直今の俺には受け入れがたい話だが、しかし納得できなくも無い。人生を費やしても大したレベルに達することができなかった人の判断に対し、仮にも英雄とか呼ばれている俺が何を言っても嫌味にしかならないだろうから。
「繰り返す! 俺は、強い人間の国を作る! 故にまず始めにやる事は――全国民に転生丸を投与し、その反応を見ることとする!」
「…………は?」
「転生丸によって与えられる魔物の力。そんなものに惑わされずに自分の本当の誇りを保つことができる――真の力とは流した汗と血でのみ形作られることを知る者のみが我が国民となる資格を持つのだ!」
えっと、えーと……えー?
つまり、転生丸で得た力で調子に乗っちゃう奴かどうかを見極めるってこと? 真っ直ぐ自分の意思を貫くとか、そんな感じの人間を選び出すってことか?
「んな、無茶苦茶な……その結果生み出される大量の狂人集団はどうするんだよ……」
「安心しろ、その対策はすでに用意させている。そう――このようにな!」
「ッ! なにっ!?」
突如、俺のわき腹から水が噴出してきた。その水は俺の全身を包み、動きを封じようとしてくる。
話をしていても全く油断はしてないつもりだったにも関わらず、この謎の攻撃。わき腹の痛みを抑えるためのお喋りでもあったというのに、迂闊だった……!
「先ほどの尾による一撃の際に仕込ませてもらった。その【華厳牢】は簡単にはかき消せん。そして――」
ガーランドは懐から液体の入ったビンを取り出した。
おいおい、何か凄い悪い予感がするんだけど……。
「これは液体状の転生丸だ。あるいは転生薬とでも言うべきかもしれんが……まあいい。とにかく、水牢に囚われていてはこれの投与には逆らえまい」
「がぼぼぼぼっ!?」
ガーランドはビンの中から液体を水牢に向けて垂らした。
咄嗟に口を閉じて水を飲まないようにするが、このパターンからして、多分……。
「抵抗は無意味だ。これは皮膚からでも吸収される」
(やっぱりー!?)
やばい、何か危ない薬を投与されてしまった。
これ、俺どうなるんだ? まさかこれ以上意味不明なキマイラにされるんじゃないだろうな――!
「安心したまえ。お前ほどの力の持ち主ならば、転生丸の薬効により魔化など影響はない。だが、実は転生丸にはもう一つ効能がある。精神を不安定にさせるという効果がな」
(う……! なんだ、頭が……)
何か、意識が朦朧としてきた。これ、本格的にヤバイ……。
「さて、多数現れる狂人への対策という話だったな。その答えはこの指輪だ。我が国の国民になるには相応しくないクズとは言え、数とは単純な力だ。故にこの指輪を使い、最低限の戦力を有する使い捨ての雑兵としてリサイクルするのだよ」
ガーランドは指に嵌めた緑色の指輪から、魔法の光を放ってきた。
その光が俺の精神を犯しているのがわかる。普段なら余裕で抵抗できるのに、力が入らない――!
「転生丸は国民の選別にも使えるが、こうして希少な英雄級を飼いならす為にも使える。この指輪の完成を今まで待っていたのだが……どうやら計画通りに進んでいるようだな」
クソ、意識が、落ちる……。
――――『神造英雄』、起動します――――




