第111話 覚醒融合
「体内に複数の魔力……? いったい、どういうことだ……?」
吸血鬼へと変化した俺は、クルークの纏う魔力を自分の目で確認し、唖然となった。
まず、異なる魔力波長が複数混在している。本来自分の魔力以外の魔力とは毒のようなものであり、魔法解体のスキルなんかはそれを利用しているはずだ。
だから、こんな風に複数人の魔力が交じり合うなんて通常はありえない。他者に自分の魔力を渡す魔法なんかも存在しているとは言え、それは自分の魔力を相手に合わせて変化させているから成り立つのだ。
その例外と言えば、吸血鬼の魔力を強引に結合された俺くらいのもののはず。そもそも他人を改造して自分の魔力を受け入れるようにする吸血鬼の血でも使い、かつ自分を見失わないなんて奇跡が起きて初めて成り立つ現象のはずなのだ。
それがクルークの体内で起きている。それも俺のように自分と吸血鬼の二つだけではなく、様々な種族のモンスターを髣髴させる魔力が軽く20は混じり合っているのだ。
「……人間は弱い。それは戦士も魔術師も変わらない事実だ。それを克服する方法、わかるかい?」
「鍛える……あるいは武装する、くらいか?」
クルークは自分の身体に右手を添えながら自傷するように笑い、俺に言葉を投げかけてきた。強くなる方法とは何か、と。
そう問われて主に思いつくのは、まず単純に鍛えることだ。弱いなら強くなるまで鍛える……当然の発想だろう。
それ以外にって考えれば、後は外付けで力を加えるくらいだろう。例えば、強い装備で身を包めば裸よりは強いだろうって話だな。ついでに強化魔法で一時的に強くなるって考え方もあるか。
まあ、クルークの言いたい事は、恐らくそんな話じゃないんだろうけどさ……。
「そうだね。それが普通だ。でも、僕がそうじゃないのはわかるだろう?」
「その異常な身体がその答えってことか?」
「そう。僕は自分の身体に人間より遥かに強力なモンスターの因子を埋め込んだ人造キメラ。その試作型ってところだよ」
クルークは事も無げに……あるいは諦めているかのように俺に言った。
自分は人間ではなく、モンスターとの混じり物である、と。
「正道に生き、己を鍛えるのを是とするシュバルツ家のキミには納得できないかい?」
「……まあ、こうして吸血鬼と人間を兼業しているような俺がいうことじゃないかもしれんけど、あまり理解できる話じゃないな。自分の身体を改造する、なんてのはよ」
強くなりたいという思い自体は当然だと思うが、だからって人体改造は流石に……なぁ?
仮に俺の前に吸血鬼がまた現れて『もっと血を注ぎ込めばもっと強くなれるぞ?』とか言い出したとしても、イエスとは答えないだろうし。
「ま、当然の発想だ。でも、スチュアートの人間にとっては……いや、スチュアート当主イーグルにとってはこの程度なんでもないのさ。あの人は目的を達成しさえすれば手段なんて気にも留めないし、そもそも強さを求める戦士ではなく技術を求める研究者気質だからね。こうして人と魔物の融合って技術が確立できればそれで本望なんだろう」
「……でも、改造されたのお前自身なんだろ? それはいいのか?」
「あの人はそんなこと考えてもいないだろうね。血の繋がった息子、なんて自分の優秀な才覚を持つ劣化コピー……良質な実験体以上の意味はないのさ」
クルークは自分の父のことを吐き捨てるように語った。
口ぶりから察するに、別に父親に特別強い親愛の念や忠誠心を持っているようには感じられない。むしろ明確な敵意すら感じるのは気のせいではないと思う。
とても人体改造に賛成しているようには見えないし、まして自分を実験台にされたことに納得しているようには見えない。
それでも父の命令に従ってこうして俺の前に立ちふさがり、しかしやる気を感じさせない戦いを見せるのは……恐らくアレだな。
「そんな男の命令に従っているのは、その胸の辺りから伸びて全身に撒きついている黒い魔力のせいか?」
「……凄いね。そこまで見えるんだ」
「ああ。最近吸血鬼の能力もそれはそれとして鍛えているからな。魔力を観る力もちょっとは成長しているんだよ」
魔力を観る力って便利だからな。魔力を出す小物なんかをこの眼の力だけで見つける訓練とかしてみたら結構上達したのだ。
「気がついてくれてありがとう。これで話せるよ……お察しの通り、これは僕を従えるための“呪い”さ」
「ありがとう? それに呪い?」
「ああ。我が父が自分の息子に施した禁術“隷属の呪法”だよ」
「……なんだそれ?」
「知らないのも無理はない。父が独自に開発した魔法だからね。……効果はそのまま、闇の系統の魔力を相手の心臓に埋め込み、縛る呪法だよ。これを受けたものが命令に逆らおうとすると血を介して魔力が流され、精神を歪める。だから下手に逆らうと自分の人格が消されてしまうって陰湿極まりない邪法さ」
クルークは自分の胸の辺りを指差しながら淡々と語った。自分の心臓には呪いがかけられているのだと。
しかし……心臓から血を介して相手を支配する魔法だと? それ、どっかで聞いたことある気が……?
「……吸血鬼の血?」
「……そう、この呪法の元は“吸血鬼の血”だよ。元々は別の呪法で産まれた時から縛られてたんだけど、アレの研究成果のおかげで今は心臓にこんなもの埋め込まれているわけさ」
「……闇深いな」
「本物と違って、発動条件があるのがせめてもの救いだけどね」
クルークは問答無用ではないだけマシと言うが、今さらっと『産まれた時から』とも言わなかったか?
自分の子供を赤子の頃から魔法で縛るとか……普通に犯罪なんですけど。しかも反省するどころか吸血鬼の血なんて劇物を応用してアップグレードとかもう、裁判開始5分で有罪判決ものだぞ。
「つまり、それがあるからお前は命令に従って最低限の戦闘をしているわけか」
「さあ? それはどうなんだろうね」
「……命令を否定するような発言も呪いの対象ってことね」
何で素直に言わないのかと一瞬思ったが、多分自分の呪いを自分から話すことを禁じられていたな。
素直に説明してくれたのは、俺自身が呪いに使われている闇の魔力を発見したから。知らない相手に情報を流す事は禁じられているが、知っている相手に話す分には問題ないって理屈かな? 相手が知っているのなら隠蔽もクソもないし。
となると命令内容は多分『呪いについて助けを求めることを禁じる』に加えて『呪いについて自分から話すことを禁じる』とかかな。自分から話題にはできないから俺が気づくまで待っていた――ってことらしいし。
「まったく、僕は吸血鬼になってはダメだと言ったのにね」
「……吸血鬼の目があればお前の状態に気がつく。だから、変化しないように最低限で牽制していたってことか」
吸血鬼に変化して自分を見てくれということは呪いによってできない。だからあからさまに挑発して吸血鬼化を促したわけだ。口では変化するなといっているんだから呪いは発動しないってことなのかな。
なるほど、そんな視点から思い返せば今までの不合理な戦術にも説明がつく。その全ての意味はここに集約するってわけだな。
つまりクルークは最初から、命令って名の呪いの抜け道を利用して俺に助けを求めていたんだ。ならば――手を伸ばすのが俺の務めって奴だな!
「その呪い、解除方法は?」
「さあ?」
「……提案。肯定なら炎の矢。否定なら炎の槍。改めて質問するが、解除方法は知っているか?」
「……【炎術・炎の矢】」
俺の提案からの質問に対し、クルークからの返答は攻撃魔法の基礎の基礎である“魔法の矢”だった。つまり肯定……解除方法はあるってことか。
俺はそれを確認した上で炎の矢を叩き落とす。炎が弱点になっていると言っても、流石に基礎技を潰すくらいわけないことだ。
(流石に解除方法を直接伝えるのは無理だろう。できるならやっているだろうし。となると俺から『はい』か『いいえ』で答えられる質問をするのが限界ってことで……俺が解除方法を見つける必要があるのか?)
……正直、全く自信ない。俺は頭の中で考える人ではなく腕力で解決する人なのだ。そんなの専門外にもほどがある。
しかしできないからやれませんって言うわけにもいかない。この炎の世界に閉じ込めろってのは恐らく命令だろうし、解除させて応援を呼ぶ事はできないだろうしな。
とりあえず、俺に思いつく方法で……。
「光属性の魔力でお前の中の闇属性の魔力をかき消すのは?」
「【炎術・炎の槍】」
とりあえず常識的かつ模範的な回答をしてみたが、返って来たのは否定を意味する炎の槍。やっぱりダメかと思いつつ槍をかき消す。
いくら闇をかき消す光が希少属性とは言え、同じ事は光に類似した性質をもつ神聖属性にもできる。つまり呪いを解くのに神官を頼る――なんて、その辺の一般人が真っ先に思いつく手段には何らかの対策がなされているらしいな。
となると――
「お前をぶちのめしたら呪いは解除される?」
「【炎術・炎の槍】」
「どこかに呪いの核みたいなのがあって、それをぶち壊すと解除できたりは?」
「【炎術・炎の槍】」
「何か秘密の呪文でも唱えれば解除とか?」
「【炎術・炎の槍】」
「……そもそも、俺の手札で解決できるの?」
「……【炎術・炎の槍】?」
「無理なのかよ! というか、微妙に首をかしげながら魔法撃つな!」
俺は口を開くたびに飛んでくる炎の槍を落としながら心の中で叫ぶ。
どうやら、俺なら自分の呪いを解除できるとかそういう話ではないらしいな。俺を見込んで助けを求めている――のではなく、俺以外にコンタクトを取れる人間がいなかったってことらしい。
となると、この場でクルークを助け出すのは本当に困難な仕事ってことになるが……諦めるわけにもいかないか。
(俺にわかるのはクルークの心臓から呪いが……変質した吸血鬼の血が見えることだけ。単純に考えれば、そこが鍵か?)
俺は目標を見定め、それをクルークに確認する。心臓の闇の魔力を除去すればいいのか、と。
返って来たのは【炎術・炎の矢】。つまり肯定って返事であり、心臓の闇の魔力をどうにかすれば呪いも解除されるってことになるわけだ。
……で、どうすりゃいいんだ?
「言える範囲でヒントないか?」
「……正直なところ、キミと会うのは久しぶりだからね。だからキミの力や能力に関しての情報って、昔のものを噂話で補強した程度しか持っていないんだ」
「事前に調べたりしていないのか? こんな大規模なことやらかすのに」
「切り札は隠すものだろう? もちろん一般に知られている程度の情報は頭に入っているけど、特殊な状況を解決できるような切り札は知らないんだ」
命令とも呪いとも関係の無い部分だからか、クルークは普通に教えてくれた。
そしてその言い分に、俺はまあそれはそうかと頷く。俺、基本的に近づいて斬るだけの人だし。
誰にも知られていない切り札ってのは、まあ誰でも一つや二つ持っているものだ。
強いほうが絶対に勝つなんてのは戦闘経験ゼロの素人の発想であり、戦闘のプロたちは皆『やり方次第では弱者が強者を打ち倒すのは不可能ではない』ことを知っている。何せ一瞬の油断でベテランの戦士が剣を持って一ヶ月の素人に負けることもありえる世界だからな。
そして獲物を狙う奴は当然、入念な調査と下準備をする。相手の力を封じ込める策を練ってな。
だから自分の情報を全て開示するようなことはせずに、いざって時に使える切り札は隠し持つものなのだ。
それすら知っているよほど近しい人間なら話は別だが、ガキの頃から直接会ってないクルークがそこまで深い情報を持っているわけもないってことだ。
となると――
「逆に言えば、一般に知られている俺の基礎技能ではお前の呪いには手も足も出ないってことか?」
「……【炎術・炎の矢】」
(肯定……ね。つまり単純な殴る蹴るではどうしようもないって類の話か)
何かお手上げな気がする結論だが、それでも一歩前進だ。
つまり、腕力では手が出せない心臓の闇をどうにかする必要があるってことだな。それも魔法に関しての専門家であるクルークが太鼓判を押す『俺の基礎技能では手も足も出ない』って呪いを。
(闇属性の魔力はある意味俺も専門家だ。ならそこに突破口が……)
吸血鬼の力なら俺だって無関係じゃない。それを元にした呪いである以上、全くの素人ってわけじゃないよな?
俺にできる、闇への対処……それも光で浄化とか、そんな当たり前へ対策がされた陰湿極まりない奴をだ。そんな方法が、俺の手札の中にあるのか?
「とにかく、その闇がお前の中から抜ければ解決って認識でいいんだよな?」
「【炎術・炎の矢】」
「了解。念のため聞くけど、心臓抉り出したら死ぬ?」
「いやそりゃそうでしょ」
呪いとは無関係な質問だからか、クルークは普通に答えてくれた。というかツッコミ入れられた。
まあ、いくらなんでも心臓抉り出したら死ぬか。吸血鬼ですらそこだけは不味いってポイントだし当然だけど。
「となると、心臓に埋め込まれた魔力だけを取り出さなきゃいけないわけね。魔力だけを……」
炎の矢を撃墜しつつ、俺は一つ思いついたことを試すことにする。
三年前からずっと考え、そして再現しようと努力していた――アレをな。
「嵐龍、リンク」
俺は手にした嵐龍から流れてくる精霊竜由来の神聖な光を身体に流し込む。
元々精神を吸血鬼の血から守るべく流しているのだが、それを更に強めているのだ。そして、自分自身の力も解放すると――
「【覚醒】!」
素に発動していた闇の魔力、そして流し込んだ光の魔力が融合し複合属性となる。それによって全身を強化し、人を超えた存在になるべく覚醒に至るのだ。
全身から立ち上る白と黒が交じり合った、禍々しさと神々しさが同居する混沌の魔力。これでも三年前よりは随分精度を上げているが、やはり力が大きすぎて安定しないかな……。
「……三年位前の、昇格試験のときの力かい? でも、いくら強くなっても無意味だよ」
「だろうな。お前を引き裂くって話なら今でも十分って自信あるけど、呪いに何かすることはできない」
「……そう簡単に負けるつもりも無いんだけどね」
やっぱりプライドはあるのか、改造されたことによる強化を誇りはしないものの軽んじられるは嫌らしいな。まあ、気持ちは分かる。
とはいえ、こうなったのは別にクルークを殴る為ではない。心臓を抉り出すのではなく、心臓から闇の魔力だけを抜き取る為の下準備だ。
思い出すのは、俺が始めて混沌の魔力を手にしたときのことだ。
三年前、俺は聖都を襲ってきた悪魔との戦いの中でこの力を手にした。そう、精霊竜から渡された膨大な光の魔力によって発動したのだ。
それを自力で再現しようと試行錯誤した結果が混沌属性であり、親父殿から学んだ覚醒と組み合わせることで完成を見た力。だが、俺はそれでも完全な状態ではないと昔から思っていたのだ。
「あの時、俺は悪魔の闇の魔力を吸収した……」
あの時にあって、今の状態にはない能力。
それは、闇の魔力を食らう力。かき消すのでも受け止めるのでもなく、触れるだけで吸収したあの力が再現できていないのだ。
(ヒントは、初代シュバルツの力。あの吸収は原理こそ違えど一番近しいものを感じた)
初代は相手の力を光の魔力で浄化し、強引に光に変換していた。
そしてその光を吸収する――俺はそれを異常なまでのセンスによるものだと解釈したが、実はもう一つ可能性を感じていた。
精霊竜の補佐があってたどり着いた領域である、あの自分と同質の力を喰らうモードの存在を――
「嵐龍、最大出力!」
俺は“理性を保つ”だけなら不必要な力を嵐龍から自分に向かって流し込む。
あの時の力にたどり着けない理由は何か。いろいろ考えたが、俺は結局パワーが足りないのだと解釈した。
精霊竜の魔力に俺個人の力だけでは足りず、その一部でしかない嵐龍だけでも足りない。だから――同時に行く!
「嵐龍から力を引き出すなんて甘いことじゃ、足りない! 嵐龍と100%同調する――!」
実は修行中に何度かやったことがある。今持てる力の全てを解放すれば、どこまでやれるものかってな。
だが、俺は最後まで己の力を解放したことはない。どこかでブレーキがかかってしまうのだ。これ以上やれば、俺は俺でいられない……そんな感覚によってな。
だが、その先こそが今必要なもの! 俺は、それを確信している!
「な、何をする気なんだい……?」
「嵐龍の全力を自分の中に取り込む……グ、支えきれないか……?」
力の高まりと共に、自分の限界を身体が感じてきた。覚醒によって強化された肉体が悲鳴を上げるパワー。これを受け入れるべく、心臓から吸血鬼の魔力を更に開放して流し込む。
闇も光も極限に、全力に――!
「ハァァァァッ!」
自分の身体が、魂が嵐龍と心臓に溶けていくような感覚。
この先に、あの時の力がある!
「……レ、レオン君? その、姿は……?」
◆
「な、なんだその姿、は……?」
鍔迫り合いの中、兄は覚醒の先を見せるといった。
その次の瞬間、兄と華厳から凄まじいまでの魔力が放たれ――混じり合った。二つの強大な魔力が融合し、一つとなったのだ。
その衝撃で私は弾き飛ばされ、やや距離をとる。その後すぐに兄を確認したとき――その姿は、大きく変化していたのだった。
「これが覚醒の次の領域……【覚醒融合】。強力な魔力を秘めたアイテムと自らの魔力を融合させることにより、力を爆発的に高める“外の秘術”よ……」
兄は手にした華厳によく似た色合いの鱗で両腕から頬まで覆い、頭からは角、背中からは翼、その下からは尾まで生えている。その姿はまさに水の龍……水の竜人と言うべき異形であった。
それがハッタリや見掛け倒しではない。私の本能が、全身が訴えてくるのだ。今目の前にいるのは、過去類を見ない強大な敵である、と……。
「覚醒融合とは、強大な魔道具と融合することで個の力を飛躍的に高める技法。強者二人よりもその二人の力を合計した超越者一人のほうが遥かに強いだろう?」
「……覚醒で、肉体を強化してこその技、というわけか」
人間の身体であのような力……受け入れられるわけがない。
だが覚醒なら、細胞レベルで自らを強化する覚醒ならばどうにでもできる。文字通り力の上限を突破する技術なのだからな。
「人間のようにひ弱な種族でなければ、そもそも覚醒すら必要ないのだがな。外の大陸に、これを当然の技術として身につけている者達がいるように」
「外の大陸の者達、か」
……なるほど、ならば確かに私が知らないのも無理はない。一人の騎士として今まで生きてきたことに後悔はないが、より上を見る機会を逃したのには……僅かながら後悔があるな。
そんな私の内心を知ってか知らずか、竜人と化した兄は私に余裕綽々と言った様子で語りかけてきたのだった。
「お前もやってみるか? いろいろ便利だぞ?」
「なに?」
「何せ、武具の力を引き出す究極だ。自分自身の魔力に武具の魔力を加えられるために総魔力量が跳ね上がる。それに由来して身体能力が大幅に上昇するほか、自らがマジックアイテムと化しているような特殊能力まで得られるおまけ付きだ」
「特殊能力だと?」
「ああ。武具の魔力と融合している影響か、それと近しい――つまり同属性の魔力を吸収する力を得る。精霊と呼ばれる魔力生命体に近しい存在になる、と言ったところだな。自分と同じ属性を武器にする相手ならばその瞬間勝利が確定する恐ろしくも便利な力だろう?」
兄は覚醒融合の力を優越感たっぷりに語っている。
確かに、その言葉が真実ならばそれは凄まじいことだ。兄の属性である――華厳の属性である水を私が使わないことから一見関係ないようにも感じるが、しかし吸収となれば話は別だ。
その応用法は幾つもあることだろう。極論すれば、水の魔法を使える魔術師は全員兄のエネルギー源になりえるということなのだからな!
「融合の条件は、まず内に魔力を秘めた魔道具を有すること。そして、自分以外の魔力と融合するという無茶を実現できるほどに性質が似通っていることだ」
「……紅蓮、か」
似通った魔力、つまり兄は生来水の属性を持っていたからこそ水の華厳と融合することに成功したということだろう。
ならば、私も炎の魔剣である紅蓮と融合することができる。あくまでも理屈の上だが、な。
「ああ。やれるものならやってみるといい。そして知れ、力の偉大さをな!」
「……クッ!」
理論はわかった。だが……それで誰でも同じことができるのなら、誰も苦労などしない!
「フハハハ……その通り! 最低でも1年は必要だな。これを目指し、会得するには」
「……ヌゥ」
「もしお前がこの領域の存在を知っていれば、もっと良い勝負ができただろうだが――」
瞬間、兄が消えた。超高速移動により、私の視界から消えたのか――
「この圧倒的な力の差。もはや勝負はそれだけで決まる」
「ガハッ!?」
背中からとんでもない威力の打撃が加えられた。咄嗟に背中に魔力を集中させることで防御するが、このスピードとパワーは、まずい――!
「散れ、我が弟よ! 【水術剣・華厳竜人波】!」
「ヌオォォォォ!」
華厳から放たれる、今までのものとは比べ物にならない強大な砲撃。
この局面、どうすればいい――!
「【死者操作術・死者の壁】!」
「なに?」
水の砲撃の前に、突如死肉の壁が現れた。無数のゾンビの塊……それが私の盾になったのだ。
「そこまでです」
「……何者だ?」
「ワタクシですか? 肩書はいろいろありますが……そうですわね。ここはそう、冒険者斡旋所総組合長、と名乗りましょうか」
「ソシテ、我ハ斡旋所デ教官ヲシテイル“死者の指揮者”マエスダ。後ロニイルノハ、我ノ仕事仲間デアル」
「族長命令に従い、我らカーラ魔族軍! ここに助太刀にまいった!」
「冒険者バンシ率いる冒険者部隊も到着した。もう好き勝手にはさせないぜ!」
「……雑兵が何のつもりだ?」
私の窮地に現れた軍勢。それは、レオンがこの三年で作り上げた戦士達であった――!




