第110話 英雄VS英雄
「ホントに、腕あげやがったな――ッ!」
眼前に迫る炎の塊。召喚された炎の使役人形を嵐龍の水で相殺しながら俺は叫ぶ。
今もなおこの灼熱の世界に相応しい獄炎で俺を狙うかつての仲間、クルークに向かって。
「キミもね。昔のままなら5秒で決着つけられたのに」
「10年もあれば、どんな凡人でも多少は成長するもんだろ?」
昔から、魔法の完成は早い奴だった。一緒に戦った期間なんて見習い試験の一次くらいだったが、それでもクルークの魔法詠唱速度は群を抜いていた。
あの当時を基準にしても、世間一般で一流と呼ばれる魔術師に匹敵するかそれ以上の詠唱速度。高速詠唱の先天技能でも持っているんじゃないかって早さだ。
それが更に早くなった上に威力も上がっている。使用魔法は基本的に中位魔法、たまに上位魔法まで混じる豪華さ。一般の魔法使いが中位魔法を切り札にしていることから考えればまさに超人クラス、英雄と呼ばれるに相応しい魔術師に成長していやがるってことだ。
「この世界……炎の世界だからこそというのもあるけどね」
「……異界結界、だったか?」
「そう。異空間を作り出す魔法さ。術者に有利な世界をね」
異界結界。かつて吸血鬼ミハイが血の世界を作り出したのと同じ魔法だ。他にも隔離結界とかいろいろ呼び名はあるらしいけどな。
あれから調べたところ、まず人間には使用不能な大魔法であるとわかった。いわば小規模ながらも世界を一つ作り出すような荒業。技術云々の前段階、魔力量の問題で圧倒的な力を持つ吸血鬼でもなければ発動不可能だったはずだ。
それをクルークは単騎で発動させ、しかも維持したまま戦闘を行っている。この時点で十分人外の力だな……。
「この世界の中でなら、僕は炎に関して大概の無茶ができる。そしてレオン君、キミにとって炎は弱点だろう?」
「……確かに、な」
炎が弱点。それは明確な事実だ。
俺の場合、持ち札の一つに吸血鬼の血の力があるのはもはや言うまでも無い。始めのころは身体の中に自分ではない別の力があるのも嫌だったし、それに頼るのも嫌だと思っていたものだが……いまやすっかり慣れてしまっている。もう人生の半分くらいはこの力と付き合っているわけだしな。
と言うわけで、最近はわりとガンガン使っている。だが、その吸血鬼モードはリスクなしで強くなるような都合のいいものではない。吸血鬼の特性を持つことで、それに付随した弱点もまた持つことになるのだ。
「アンデッドは炎に弱い。これは常識だ」
「そして吸血鬼はアンデッド……その力を使えば、俺もまた炎への抵抗力が落ちる」
吸血鬼の弱点は炎と光。後限定的に水だ。
親父殿と試合をしたときのように対炎属性装備を整えていればその弱点もある程度抑えられるが、こうした突発的な戦いだとその対策も難しい。一応指輪しているだけで炎への対策ができる【炎の指輪】くらいは持っていられるが、アレ今リリスさんに点検に出しちゃってるんだよな……。
「吸血鬼の力がなくとも君は十分につよい。でも……僕ほどじゃない」
「……そうかな?」
「ああ。だって――今の僕に人間が勝つのは無理だよ」
「クッ!」
何か儚げな表情と共に放たれたのは、完全無詠唱の炎術。手をかざすだけで無数の炎の槍が飛んできたのだ。
この立っているだけで干からびそうになり、地面からは絶えず火柱が上がる。そんな地獄の世界で放たれる炎術はただそれだけで強化される。
どうせ火を出すのなら寒い場所より暑い場所の方が楽。こんな魔法空間まで作ってそれだけってことはないだろうが、とにかくこの世界で炎術を発動すると補正がかかるようなのだ。
「【特殊技能・魔法解体】!」
「基本に忠実だね。でもそれに対処できない魔術師なんていないよ」
俺は自分の魔力を魔法に流し込み、消失させるスキルを発動して魔法へ対抗する。俺の力でギリギリ完全消滅させられる魔法へ向かってな。
しかしクルークはそれを予想通りと動き出し、魔法解体では対処しきれない大量の炎の槍を更に追加することで追撃してきた。
この全てを普通に相手していたら確実に焼かれる。となれば――
「【常態加速法】!」
今度は迎撃するのではなく、回避すべく動く。打ち落とせないならよければいい。そして――近づいてぶん殴る!
「キミのスピードは理解している。悪いが、身体能力で競うつもりはないんだ。【召喚炎術・炎の戦士】」
「炎系統の召喚……今度は戦士か」
ここでクルークは単純に炎を飛ばしてくるのではなく、自立して動く炎の人形を作り出した。さっき倒したゴーレムとは違い、炎でできた剣と盾で武装している。
あれと俺を闘わせることで足止めしようって腹か? でも、あんなの無視すればいいだけの話だ――いぃ!?
「【炎術・炎の壁】と【燃える空】。道を制限すればどれだけ速くとも意味はない」
「炎の壁と天井で、俺の動線を制限するって腹か。でも、こんなの一瞬で作るなよな……!」
視界が揺らめく赤で覆われる。右を見ても左を見ても、そして上を見ても炎の塊。魔法の連続発動によって俺とクルークは炎でできた狭い通路に閉じ込められたのだ。
魔術師相手に下がるって選択肢はありえない以上、クルークに近づくにはあの炎の戦士を正面から打ち倒して進むしかないようだな。
……まあ、炎の壁を突破してもいいんだが、どうせ焼かれるのなら真っ直ぐ進んだ方が得だろう。
「なら、そんな召喚モンスター一瞬で――」
「倒せるだろうね、君ならば。だから――【多重召喚炎術・炎の戦士団】」
「倒して……」
炎の戦士一体くらい、さっさと倒せばいい。そう考えて前傾姿勢をとったのだが……何か沢山増えてしまった。
もう炎の揺らめきで何体いるのか数えるのも億劫だ。というか、この狭い炎の道に密集しすぎである。炎の戦士にとって炎の壁なんて何の問題もないんだろうけどさ。
「はぁ……本当に、どう言う魔力なんだ?」
「成長した……なんて言葉は使いたくないけど、まあそんな感じかな」
「いやいや、どう考えても高速詠唱系の異能なしに作れる光景じゃないんだけど……」
魔法使いの弱点は、魔法を使った直後。もしくは魔法発動までの僅かな詠唱時間と相場が決まっている。
だと言うのにこいつ、全く隙を見せることなく連続で魔法を発動させ、発動後の隙すら見せていないのだ。
人間の常識を超越するのが英雄級の入り口であるが、しかしそれでも常軌を逸している。何かタネがあるのか……?
(この炎の世界の効果か? 術者に炎系魔法発動の補助をしているのはわかっていたけど、それほどでかい効果があるのか?)
俺はそう考えるが、しかし納得できない。いくらなんでもここまで異常な魔法を使えるようになるものなのかと。
いや、それを言えばそもそも――異界結界を一人で発動している時点でおかしいのだ。人間にはできないが英雄級ならばできる。それだけのことかとさっきは納得したが、貴族級吸血鬼がアイテムの力に頼るような魔法をいくら英雄級だからってほいほい使えて堪るかって話だよ。
まあ、とりあえず――
「強めに行くぞ」
俺は覚悟を決めようと小さく呟く。どうやら、もう少し頑張らねばならないようだと。
まあ今までも割りと本気だったのだが、突然襲ってきているとは言え仲間であることに変わりはない。だから対人間用の手加減を多少は加えていたのだが――ここまでやれるんなら死にはしないだろ!
「瞬剣――【飛翼刃】!」
常態加速法による加速状態での横なぎを放つ。しかしあんな炎の塊に接近戦を挑めば少なからずダメージを追ってしまうだろう。
だから、ここは剣士にもできる遠距離攻撃で行かせて貰うことにする。魔力の刃による、所謂飛ぶ斬撃って奴でな。
俺の放った魔力の刃は真っ直ぐ炎をなぎ払い、炎の戦士を消滅させる。その奥にいるクルークは簡単に魔力刃を消滅させたがな。
「……殺傷力の高い技を使われると、炎の戦士くらいじゃ足止めにもならないね」
「お前なら間違って当てても対処できるだろ?」
「ま、そりゃそうだ【強化召喚炎術・炎の強戦士】」
纏めて吹き飛んだ炎の戦士を補充しようと、またもやクルークは召喚術を発動させる。
今度はさっきより二周りは大きい炎の戦士だった。魔法強化スキルまで加えやがったな……。
(これじゃきりが無い……。でも、クルークはいったい何を企んでいるんだ? どうも俺を倒そうって意思が薄い気がするんだよな……)
クルークは俺をこの炎の世界に閉じ込め、攻撃してきた。しかし今にして思えば、そこに本物の殺意はなかったように感じるのだ。
というよりも、そもそもクルークからは意思を感じない。始めに命令だからこんなことをやっていると言っていたが、確かにクルーク自身の意思をまったく感じないのだ。
クルーク自身、命令を遵守する以上の考えが無い。だから俺を積極的に攻撃する事はせずに、召喚術を初めとする魔法で足止めに徹しているんじゃないか……?
(クルーク自身が言っていたことだ、『シュバルツの英雄級を封じる』ってのは。クルークの受けた命令は、王都への攻撃を成功させるため俺を遠ざけること。そのための足止めを命じられているから――クルークはただそれだけを実行しているんじゃないか?)
クルークの攻撃に、俺を害する力はない。もちろん普通の人間なら一瞬で灰に――というか、この灼熱の世界に立っているだけで死ぬだろうが、俺なら問題はない。
対応しなければ危ない、そのくらいの力に調整しているかのように魔法が飛んでくる。そう疑って考えればそうとしか思えない絶妙な魔法なのだ。
何せ、護衛召喚の魔法に使う力と攻撃魔法に使う力が明らかに違うのだから。
(クルークの……というよりも、クルークの背後にいる黒幕の意思は俺の足止め。しかしそれ以上は求められないからやらないってことなのか?)
「どうしたんだい? 固まってちゃ危ないよ――【中位炎術・炎の拳】」
「おっと、【嵐龍】!」
拳を象った、人一人くらいなら飲み込めるほどの巨大な炎が迫ってくる。これはただ単に拳型というわけではなく、本物の拳と同じく相手を殴り飛ばす打撃としての威力も持っている。このサイズなら焼くまでも無く人一人ミンチにするくらいは可能だろう。
だが、やはり俺なら対処できるレベルでしかない。嵐龍の魔力を開放し、簡単に相殺できるくらいではな。今までの力を見る限り、もっと強力な魔法を使うことも容易いだろうに……ね。
「……なあクルーク」
「なんだい?」
「お前、俺の足止めを命じられているんだよな?」
「そうだよ。だからこうして戦っているんだ」
「……その命令さ、無視できないの?」
「……ああ」
俺はぶっちゃけた。命令を出したのは恐らく当主である父親なんだろうが、裏切ってこんな戦い止めないかと。
だがクルークは一瞬意外そうな顔をしたものの、僅かな沈黙の後に首を横に振った。何ともいえない、諦めを感じさせる表情を浮かべながら。
「僕は命令を無視できない」
「それは、自分の意思でか?」
「……どう言う意味だい?」
「俺が見る限り、お前は積極的に俺を倒す気がない。本当に命令の内容だけを遂行しようとしている……そう、お前自身は俺と闘う意思が無いんじゃないのか?」
俺はストレートに自分の考察を伝えた。クルーク自身は、本心から王都襲撃作戦とやらに賛同しているわけではないのではないかと。
「そうかな? 結構真面目にキミを殺しに行っているつもりだけど?」
「へぇ? 気影を読んで俺を近づけまいと牽制するばかりで、必殺どころか必倒の一撃すら放たない癖にか?」
「……キミが強いだけだろう?」
「いーや、今のお前が本気になればよ……できるだろ? 俺もそれなりの被害を覚悟しないといけない、迎撃も回避も難しい攻撃をさ」
炎を警戒して吸血鬼モードを使っていない今なら尚更な。
自分を吸血鬼の力なしじゃ何もできない雑魚だなんて卑下するつもりはないが、今の人外染みた力をもったクルークなら不可能ではないはずだろう?
「足止めが目的だから深追いしないだけかもしれないよ?」
「それならもっといい方法あるだろ? 俺の手が一つ違えばアッサリ崩れる均衡を保つ理由が無いさ」
それこそ、今の戦法を続けるのならダメージ覚悟で吸血鬼化するだけで崩れる。そのタイミング次第では勝負が決まりかねないほど簡単にな。
そう――こんな具合に!
「【モード・吸血鬼】!」
炎に弱いのがアンデッドであり吸血鬼。ならば炎術使い相手にその力を使うのは自爆にも等しい諸刃の刃だが……もはや確信した以上躊躇する理由はない。
クルークには俺を殺すどころか傷つけるつもりすら……いっそ戦う意思そのものが無い。よほど複雑な事情でもあるのか、最低限戦闘の体を装っているだけなのだ。
ならば防御なんて気にせずにいこう。どうも肝心な話はしてくれそうにないし、殴ってから事情を聞くことに……え?
「な、なんだそれ……?」
「……吸血鬼は魔力を見る眼がある。だったら見えるよね、今の僕がさ」
今の俺は魔力を見切る吸血鬼の眼を持っている。
そしてその眼は、クルークから立ち上る魔力をはっきりと捉えた。幾つもの魔力が無数に交じり合った、明らかに人一人のものではない魔力を。
そして――クルークの胸の辺りから全身に伸び、その身体を縛るように蠢く黒い魔力を。
「……改めて自己紹介しよう。僕はクルーク・スチュアート。種族は……人間を含むキメラさ」
◆
「ふぅぅぅ……」
「どうした? 随分お疲れじゃないか」
死して吸血鬼となった兄、ガーランド・シュバルツとの戦闘。戦いの中でその技を感じ取り、私はわかってしまった。目の前の吸血鬼は間違いなく私の兄なのだと。
そう確信した理由は、最初の激しい技の応酬とは一転し、純粋な剣技と体術で互いを削りあったことにある。
表面的な技を真似る事はできても剣士の基礎である技までは決して真似できるものではない。それを目の前の吸血鬼から、兄の技の匂いを一手一手から感じ取ってしまったのだ。
だが、それは決して喜ばしい真実ではない。心情的にももちろんだが、それ以上に敵としてこの上なく危険な相手なのだ。
技量で劣るつもりはない。記憶の中の兄よりも遥かに高みに上り詰めているが、それは私も同じこと。少なくともその点に関しては互角以上である自信があるが……徐々に私は追い詰められているのだった。
「技量に差はなしか。忌々しいことだが、修行を積んだのはお互い様と言ったところだな。だが、だからこそお前は勝てない」
「……まったく、年は、取りたくないものだな……」
兄の身体にはそれほど傷はない。何回か攻撃を当てはしたが、傷と言うほどではないだろう。
対して、私の身体からは何箇所も出血している。中にはかなり深く抉られ、筋肉で傷口を締めていなければ、あるいは炎で傷口を焼いていなければ危険なものもあるほどだ。
今の私と兄の差を作っている要因は、身体能力。技術で互角ならば、自然と基礎的な能力の高い方が有利になるのは自明の利。年月と共に成長が緩やかになってきており、むしろ衰えすら感じるようになってしまった今の私。対して吸血鬼と化したことで若い肉体を保ち、更に人外の力まで加えた兄。その差は歴然だったのだ。
「後5年……いや3年も前ならばもう少しいい勝負だったかもしれないな」
「フン……。もう勝ったつもりか?」
「まだ何か手はあるのか? 見ての通り、実力の差は歴然なのだが」
兄は自身の勝利を確信したように笑った。そして、それを当然だと認めてしまう自分がどこかにいるのを感じる。
私がここまで一方的に追い詰められているもう一つの理由。それは吸血鬼の再生能力だ。こちらは剣を交えるほどに傷つくというのに、向こうは瞬間的に回復してしまう。これほど不利な話はない。
一応、私のような炎を扱う者は吸血鬼との相性がよく、傷口を焼いてしまうことで再生を防ぐことができる。だがそれは、あくまでも吸血鬼が炎を弱点としたままである場合だ。
マジックアイテムや魔法によって炎対策を万全にされていてはそのアドバンテージは消失する。レオンも耐炎の装備をよく探していたが、兄は非常識なまでに強力な装備を身につけているらしくほとんど炎の効果が見られないのだった。
「止むを得ん――」
「ん?」
「【覚醒】!」
一度使えばしばらく動けなくなる最後にして最大の切り札。衰えた細胞に魔力を注ぎ込み、根幹から強化修復する。
最後に使ったのは、レオンとの試合か? あの時もかなりの負担を感じたものだが……フフ、今やるとどれだけ後が辛いのだろうなぁ……。
「だが、その後を手にするためにも負けられん!」
全身の細胞が輝き、魔力が自動的に炎に変換させる。紅蓮にも力が滾り、身体に活力が戻るのを感じるぞ……!
「凄まじい熱波……。それがお前の切り札か、ガーライル?」
「如何にも。こうなれば、今までの不利など関係はない!」
「ムッ!」
兄は私の姿を見て一瞬驚いたようだが、すぐに納得するように頷いた。
そんな仕草を気にも留めず、私は強化された身体能力を存分に使い一瞬で懐に飛び込む。ここまでやると走るだけで町に被害が出てしまうのが問題だが……今は目の前の敵を倒すことに全力を尽くすのみ!
「フンッ!」
「ほお、そのスピード、見違えたぞ!」
紅蓮で胴斬りを仕掛ける。だがさすがと言うべきか、兄は今の私の速度にも反応して手にした華厳で刃を受け止めて見せた。
しかし、今の本命は紅蓮ではない。私の本当の狙いは剣を隠れ蓑にした――左の蹴りである!
「なに――ガハァッ!?」
「直撃だ。そして――今の私の炎に、耐えられるか!」
繰り出した蹴りが兄の腹を抉る。同時に足から炎を放ち、一気に火達磨にする。
いくら炎へ対策をしていても、この世に完全耐性などというものは存在しない。いくら強力で隙のない守りであろうとも、それ以上の力でなら破れるものなのだ。
故に断言しよう。覚醒状態の私の一撃ならば、吸血鬼の再生能力を封じることができると!
「このまま仕留めさせてもらおう!」
私は手を休めることなく追撃する。
今の兄は危険だ。元々の実力に加え、宿した狂気と魔の力。その全てが開放されたとき、一体どこまで強大な“人類の敵”になるかわかったものではない。
今倒せるうちに倒す。今度は吸血鬼だろうが何だろうが救えないほどに――欠片も残すことなく!
「【加速法】――! 【瞬剣・決戦一刀】!」
私が使える中で最大の威力を誇る剣技。明確に相手を殺すと、それも跡形も無く消し飛ばすつもりでなければとても使うことができない、威力がありすぎる一撃。
覚醒状態による膂力に加え、紅蓮の最大出力を刃に込める。その上で全力の加速によって破壊力を高め、私がもっとも得意とする上段からの振り下ろしを放つ単体攻撃としては最強の一撃。
シンプルであるが故にもっとも強固な、私の手札の中でも屈指の一撃を持ってここで沈める!
「やはり俺の弟か。この領域までたどり着くとはな」
「――――ッ!」
「【覚醒】!」
剣が命中する瞬間、兄の身体が青く輝いた。全身の細胞が輝くことで発生する、覚醒特有のオーラ。それを――兄がまとったのだ。
「なっ!?」
「打ち伏せろ――【瞬剣・天界落瀑】!」
華厳に膨大な水の魔力を込め、兄は私の剣に合わせてきた。
膨大な魔力の塊のぶつかり合い。まさか覚醒同士の激突になるとは――いや、むしろ当然か!
「ハァァァァッ!」
「ヌゥゥゥゥッ!」
互いに魔力を剣に宿し斬るというシンプルな技。
その激突は自然と力比べの体となり――先に仕掛けたにも関わらず、膠着と言う結果になるのだった。
「なんだ、と……!」
「ククク……! やはり、この瞬間こそ戦士にのみ許された至福の時間だ。最上の力を最上の力で打ち倒す瞬間こそ俺の喜び!」
互いの力を挟みながらの覚醒同士の力比べ。互いの息がかかりそうになるほどの距離で死力を尽くす。
これほどの力のぶつかり合い。一瞬でも気を抜けば、そのまま消し飛んでも不思議はない――ッ!
「グ……グッ!」
「ク……ククッ! 流石だガーライル。だが、惜しい。実に惜しい」
「なにぃ……?」
「お前と俺の本当の差は、若さや吸血鬼の力なんてものではない。本当に大きな差は、世界を見たかだ」
「世界だと……?」
「ああ。もしお前がこの弱弱しい大陸に留まっていなければ、あるいは俺と同じところまで来られたかもしれないぞ……?」
兄は青筋を浮かべながらも不敵に笑い、そして呟いた。
見せてやる、覚醒のその先を――と。




