第107話 英雄達の戦い
今年最後の更新ですね。
「……チッ! 何がどうなっているのだ!」
突如起きた動乱。今、王都は戦火に包まれていた。
しかも、その実働部隊には我が騎士団の人間が混じっている。外からやってきた正体不明の敵を騎士団の人間が内部に入れてしまい、そのまま敵と合流して王城を目指して進軍しているというのだから笑えない話だ。騎士団を預かる団長としてこれ以上ない失態と言えるだろう。
更に、突然の反逆に参加していない騎士まで動きを封じられている。詰め所内部で反乱に参加している騎士と戦っているためだ。
おかげで騎士団は事実上の機能不全。本来なら陣を構えて指揮をとるべき私が最前線に出て戦うのが一番効率的――などという屈辱的状況に追い込まれているのだ。
「――【火竜紋】!」
紅蓮から放たれる獄炎が敵を包み込む。遠慮なし、殺す気で放った炎によって正体不明の集団が一気に消滅した。
本来ならば殺さずの剣が理想なのだが、こと王都の城門を超えられてなお余計な加減をすることはできない。
私は、王都の守護を任された騎士なのだから……!
「“殺し”を解禁するのならば外の軍勢を狩りきるまで10分といったところか。その後裏切った騎士を制圧すれば――」
炎のブースターを使い宙を舞いつつ、周囲の気配から判断できる敵の数を算出。倒しきるまでにかかる時間を大雑把に計算する。
本来なら個人武力に頼りきった作戦など不安定すぎてとても採用できないのだが……この際仕方が無い!
(敵は城下町の門を内側から開けて侵入してきている。そこからかなり広がり街中に広がってしまったが……まずは集団となっている本隊から叩く!)
とりあえずの標的を決めた後、私は全力で行動する。
既にバースの奴に先生、そして聖都に冒険者の方にも救援要請を出しているが……先生は今日もふらりとどこかに出かけていて連絡がつかないと報告があった。そのうち戻ってくるとは思うが期待はできないな。
バースと聖都、冒険者の町にはきちんと通信が行っているだろうが……何か嫌な予感がする。そう、何か――
「団長! 転移駅が破壊されました!」
急いで指示を出した団員の一人から通信が入った。リリス工房で作成されたこの新型通信具は中々便利だな。
しかし、入ってきた内容は残念ながら朗報ではなかった。転移駅――予め魔法陣と門を作ることで転移魔法の発動を可能にする施設が破壊されたというのだ。
「被害状況は?」
「門が完全大破。修復しなければ王都へ転移による出入りは不可能です!」
「そうか……。可能ならば修復せよ。困難ないし達成に甚大な被害があるのならば放置して他の鎮圧に当たれ」
「了解!」
通信越しの騎士はいい返事を返してきたが、恐らくもう転移駅は使えまい。わざわざ破壊した以上、簡単に修復できるような甘い事はしないだろう。
これで聖都からの援軍は期待できない。転移魔法なしで移動していては距離の問題でとても間に合うことはない。
駅なしで個人転移できるような魔術師など私は先生くらいしか知らないからな。聖都にこの動乱を鎮圧する部隊を求める事は事実上不可能と言うことだ。
となると、残りで期待できるのはバースと闘技場の闘士たち……それにレオン子飼いの戦力くらいか。
レオンの兵力は正直わからんが、バースならば救難要請が来ればすぐにでも飛んでくるはず。むしろもう到着していてもおかしくないはずなのだが……いまだ気配すら感じられないのは何故だ?
「何かあるのか? ここへの襲撃以外の何かが……」
◆
「住民の避難を急がせろ! 闘士は陣を引いて敵を抑えるのだ!」
ワシは声を張り上げて指示を出す。国の平和を守る騎士として――そして闘技場の主でありチャンピオンとしてだ。
つい先ほど、膨大な数のモンスターの群れがワシの町に――王都近郊にある闘技場で有名な、このバース・クンの守る町に押し寄せてきたのだ。
幸いにも、この地は闘技場に集う腕自慢で溢れかえる町。総合戦力は王都の騎士団にも引けを取らないものがあり、防衛自体は容易いだろう。
この襲撃が、ただのモンスターによる攻撃であれば、な。
(……妙だ。この怪物どもの動き、組織的なものがある。こちらの陣形に対応するように陣形を変えるなどよほどの知恵者が指揮しているのか?)
ワシは町を守るべく、モンスターが攻め込んでくる方角に横陣を組んだ。
するとこのモンスターたちはそのまま突っ込んでくるのではなく、幾つかのチームに分かれて行動し始めた。そう、闘士たちの壁を無視するかのように迂回し始めたのだ。
それを無視するわけにもいかないため、ワシは仕方なく町を360度守れるよう密度を下げた円陣を取った。どの方角から来られても守ることができる代わりに陣が薄くなり、個々の能力勝負になりやすい陣形にな。
「知性に長けた上位のモンスターがこやつらの総大将なのか……?」
魔物の大半は知恵より本能で生きている。戦いにおいても作戦や陣形など考えることすらせずに、己の牙と爪だけを信じているような特攻を好む生き物だ。
しかし、そんなモンスターたちの知恵はその力と共に発達する。最近ガーライルの息子経由で作られているとかいう魔物軍団しかり、強い魔物は群れをつくり組織になる傾向がある。
その法則で言えば、この策略を感じさせる襲撃は何か上位のモンスターの誕生が原因と考えるのが普通だろう。そう、普通なのだが……
「……腑に落ちんな」
ワシは常識よりも自分の勘を信じる性質だ。そしてそのワシの勘は――この襲撃が自然の摂理により成り立つものではないと告げている。
今は住民達をこの町でもっとも安全な場所――闘技場に避難させている最中だが、このモンスターたちの背後に狩り以外の目論見がある何者かがいるとすれば仕掛けてくるのはそろそろか……む?
「あれは……」
ワシは今、町の全体が見渡せる見張り台の上から指示を出している。
同時に周囲を見渡して警戒を行っている――ワシの気配感知範囲に勝る警戒網など存在しない――のだが、ふと町の一部が目に付いた。
公園だ。町の中でも開けた場所で住民避難がうまく行っていないのか、大勢集まって固まっているのだ。
「時間が無いというのに……仕方がない。ワシが行くか」
何が原因で詰まっているのかは知らんが、今大切なのは避難だ。余計な話は全て忘れてもらわねばならん。
流石にワシ自らが行けばわがまま言う奴はいないだろう。いたとしても拳に訴えればそれでよい。そう考え、ワシは見張り台の縁に足をかける。そして――その場から件の場所へ向けて跳ぶのだった。
「いったいどうしたのだ?」
「あ、チャンピオン」
ひとっ飛びで公園に着地し――着地の勢いで多少地面が陥没したが、緊急事態だから仕方が無い――問題が起きている場所まで行くと、避難誘導をしていた闘技場職員が困った顔をして近づいてきた。
どうやら、彼の避難指示に住民達が従ってくれないらしいな。
「住民達が避難に応じないのか?」
「はい。それどころかこっちの呼びかけにうんともすんとも言ってくれないんですよ」
「それは荷物を置いて避難するのは嫌だとか、そう言う話か?」
「いえ、それ以前の問題です。彼らは自主的にこの広場に集まってきたんですけど、それからさっぱり動いてくれないんですよ。何が嫌とすら言わない有様でして」
「ふむ……。どれ、各々方! どうか話を聞いていただきたい!」
職員の言葉を聞く限り、彼らはまともな状態ではないらしい。
そこで、いきなり襲撃されていると聞いてパニックになっているのかと思い、とりあえず声をかけてみる事にした。ワシは自他共に求める闘技場最強の拳士。もし恐怖に囚われて錯乱しているのならワシと共にいる事実以上に安心できる材料はないと思ってな。
だが――
「……微動だにせんな」
「チャンピオンの御言葉にすら反応しないなんて……」
「これは流石におかしいぞ。いくら錯乱していてもこんな反応は流石にありえんだろう」
これは別に、ワシの声を聞いて無反応でいるわけが無いなんて過剰な自信に基づいた発言ではない。
この場に集まっている数十人の住民達全員に、反応が全く無いからこその発言だ。こちらを無視している――というわけではなく、本当の意味で無反応。まるで彫像にでも語りかけているかのような手ごたえのなさなのだ。
「ご明察ですよ、チャンピオン殿」
「ム、何者だ?」
住民達の不気味な反応に困惑していると、その中から一人の男が現れた。
頭からすっぽりとローブを被っており、あからさまに怪しい。しかし何故かその怪しさにも関わらず気を緩めると見失ってしまいそうになる儚さを持った男だった。
これは……恐らく幻術系の認識阻害魔法を使っているな。よほど注意していなければ目の前に立たれても気がつかないと言った手合いの魔法だ。
「これは失礼。私、【真の誇り】の幹部が一人、名はサイコと名乗っています」
「ぷらいど? ……してサイコとやら。この者達の異様な様子はお前が関係しているのか?」
「はい。私どもの支配魔法の影響下に置いております。怒鳴ろうが叩こうが術士が命令を与えない限り、彼らは命を失うそのときまでここに立ち続けているでしょう」
「なるほど、彼らは魔法の影響下にあるわけか」
「外からの魔物の襲撃。その混乱に乗じれば簡単に事を起こせますが故にね」
ふむ、確かに盲点と言えば盲点であった。魔物の襲撃に警戒していたせいでこんな奴の気配を見逃してしまうとはな。周囲が魔物の殺気で満ち溢れているせいで、人間の悪意が薄れてしまっていたか。
……だが!
「フンッ!」
「ぐぼぉっ!?」
ワシはその場から瞬時に踏み込み、前にでる。そのとき少々力を入れすぎたか地面が爆発したが、まあ仕方がない。
その踏み込みの力でサイコの懐に入る。そして、その勢いのまま右ストレートを男のどてっぱらに叩き込んでやったのだった。
「その手の術は術者を倒せば解ける。先ほどの話しぶりからして外の魔物もお前の仕業だな? ならば、この場で叩き潰してくれるわ」
ワシの一撃をくらい、サイコは空中できりもみ回転しながら吹き飛んでいく。そのまま近くにあった建物にぶつかり、ドゴンッという激しい打撃音と共に地面に叩きつけられた。
……最低限死なないよう加減はしたぞ? まあ、これで終いだろうがな。少なくとも意識は残っていないだろう。
さて、では何が目的でこんなことをしたのか教えてもらうとしよう。とりあえず気付けからだ……ほう?
「ぐ、うぅぅぅ……」
「まだ意識があるのか? 思ったよりも随分タフだな」
「ごふっ! がふっ! ……は、ははは、これが人類最強の一角の力ですか……。まさか、一撃で動くこともできなくされるとは……」
ワシの予想に反し、サイコはまだ意識を保っていた。
とは言え臓腑が潰れたのか口から血を吐いており、戦闘は既に不可能だろう。意識があるだけでも驚きなのだがな。
「しかしその状態ではもう魔法を使うこともできまい。これで住民達も……?」
人にかけるタイプの魔法は集中力を維持できなくなれば解除される。その理に従えばここまでダメージを受ければ強制解除されると思ったのだが、しかし住民達に変化はなかった。
この期に及んでまだ魔法を維持している? だとすれば見事な根性だが……トドメさすか?
「フ、フフフフフ……」
「何がおかしいのだ?」
「チャンピオン。どうしましょう?」
「どうすると言われてもな……」
死に体で不気味に笑うサイコに気圧されたのか、突然の事態に対応できず固まっていた職員の男が近づいてきた。
とりあえずこの事態の原因、もしくはそれに繋がる人間であることは間違いない。捕らえて尋問するのが定石だろうが……うん?
「……何をしているのだ?」
「……あれ?」
背中にチクリとしたものを感じて振り返ってみると、職員の男がナイフでワシの背を刺していた。
ワシの後ろに隠れるようにサイコを見ていた職員の男が、突然ナイフを取り出しワシの背中に突きたてていたのだ。
そして――ワシの筋肉を貫けないナイフはひしゃげていた。どうやら、冗談ではなくワシを刺し殺そうと全力で刺したらしいな。
「ウ、ウソ……」
「お前は何を考えているのだ? ワシをその程度の玩具で傷つけられるわけがあるまいに……」
肉体の強度で言えばクン家は人類最強だ。拳を武器とするクン家はシュバルツ以上に肉体の強さを重視しているからな。
従って、その辺のナイフ風情でワシの身体に傷をつける事はできない。そのくらいのこと闘技場の職員なら知っているはずだが……ふむ。
「どうやらお主も操られているらしいな」
「あ……」
「寝ろ」
首筋に一撃。それで職員の男を気絶させる。
それにしても、結局この場にいた全員操られていたということか? 職員の男は恐らく、このサイコと名乗る男が倒されたら不意打ちせよとでも命令されていたんだろうが……いったいどうなっておるのだ?
「予想以上……いや、ある意味では予想通りか英雄級」
「サイコよ……貴様、何を考えている?」
「やはり我々でこの怪物を倒すのは不可能。当初の予定通りにやらせていただきます、盟主よ……」
ぶつぶつと何かを呟き続けるサイコ。肉体的にはどう考えても限界であるはずなのに、何故ここまで喋れるのだ?
「盟主代行が命ず――やれ!」
「おおぉぉぉおぉぉ!」
「ムッ!?」
サイコの号令と共に、棒立ちであった住民達が突如奇声をあげて襲い掛かってきた。
同時に、外の気配にも変化が生じる。今まで町を取り囲むように動いていた魔物共が突然こちらに向かって動き出したのだ。
その動きの原因は間違いなく今の号令。すなわち、やはり住民達と外の魔物を操っているのはサイコなのか……よし。
「トドメ刺すとしよう」
「ぐぶっ!?」
襲い掛かってくる住民は無視し、倒れているサイコの頭蹴り飛ばす。
正直死ぬかもしれないが緊急事態だ。ワシはこの状況でなお人命を絶対優先するほどの平和主義者ではない。
だが――
「……首が消し飛んでもおかしくないはずなのだが?」
「ク、ハハッ! 私は、ただの人間ではない。人を超えタ存在ナのダ……!」
「狂っているのか?」
倒れた姿勢の頭を横から蹴り飛ばす。ワシでなくとも死ぬ可能性の高い危険な攻撃だ。
にも拘らず、吹き飛びはするものの何故かサイコは意識を保っている。確かに本人の言う通り、人間とは思えない耐久力だ。
おかげで住民達がワシに追いついてしまった。別に殴られようが蹴られようが痛くも痒くも無いのだが……どうしたものかな――なに?
「カァァァ!」
「……変化しただと?」
住民達をどうしようかと適当に抑えていたら、サイコの身体が光だし――変化した。
メキメキと音を上げ、ローブの下にあった華奢な肉体が膨張していく。そして全身の毛が伸びていき、どんどん人間離れしていく。
これは……ゴリラ?
「ドウだ! 強靭ナ肉体を持ツ魔獣の力! これガ人ヲ超えた力ダ!」
「こりゃまた……人間じゃなかったのか?」
なんと、サイコはゴリラに変身した。身長体重が爆発的に上昇したほか形相まですっかり人間を止めており、もはや普通にモンスターだ。
体格的な問題以外にも筋骨隆々な肉体といい本能むき出しのオーラといい……何と言うか、イメージ変わりすぎではないか?
「肉体的に劣ル魔法使いの進化。ソの力ヲ見るがイ――」
「まあ関係ないが」
「ガァ?」
「クン流・断頭刃」
とりあえず敵であることには間違いないので、倒す――否、異常な生命力の正体が魔獣系モンスター由来とわかった以上殺す気で行くことにする。人外にまで手加減するほどワシはお人よしではない。
よって、クン流の中でも殺傷力にたける殺しの技を選択する。相手の背後に回り込み、片腕で首を抑える。そして、もう片方の腕で相手の首を切り落とすべく腕刀を叩き込む人間相手には絶対に使用してはいけない文字通りの必殺技だ。
(この技はできるだけ使いたくないのだが……魔獣モンスターの強靭な肉体と生命力を手っ取り早く潰す為だ、やむを得まい)
グチュッっという生々しい音と共に、ゴリラの首が潰れる。ワシの手刀腕刀は普通の刃物よりよく斬れるからな。当然のようにゴリラの頭を取り外すことに成功した、というわけだ。
その代償として返り血で全身がべったりと汚れたことに若干ブルーになりつつ、ワシは千切ったゴリラ頭を捨てる。
これで住民達への洗脳が解けているといいのだが……。
「ああぁぁああ!」
「微塵も変化なしか。術者はこの男ではなかったのか?」
残念ながら、住民達は相も変わらず虚ろな目でワシに殴りかかってくる。
当然痛みなどないが、むしろ下手に殴らせて拳を痛めないように気を使わねばならないのが大変だ。
「ク、ククク……そウだ。支配ノ術は私の術でハなイ」
「……首が千切れてもまだ喋る体力が残っているのか。もう30秒も残ってはいない命だろうが……本当に驚異的な生命力だ」
「さ、最後に教エてオこう……。コの術にヨって市民どモに与えラれタ命令は二つ。一つハ英雄バースを攻撃すルこと。そしテ――英雄バースが周囲ニ存在しなクなったトき、互イに殺し合いヲするコとダ」
「なんだと?」
「え、英雄ノ弱点……それハ、強すギテ弱者を殺さズに止メるのニ最大限の注意ヲ必要とすルこと。そシて……価値無キ弱者を見捨てラれなイことダ……」
……サイコは最後に言いたいことを言って命の最後のともし火を消した。
まったく、言いたい事を言ってくれるな。確かに、下手に打ち込めばそれだけで一般人は爆散してしまうだろう。全力で手加減しなければ一般人に手をあげるようなことはできないのが事実。
それに……一般人を見捨てるような真似、例え死んでもするわけにはいかん。このワシの技とプライドにかけて。
「まったく、大した嫌がらせだな」
操られた一般人を全員気絶させ、周囲のモンスターを殲滅する。
これは他の闘士たちと協力しても相当な労力を要するだろうな。まったく、時間がかかりそうだ……。
◆
「……来たか」
「ん? なんじゃ?」
憎い敵、グレモリー。私を超える魔術師の存在、許さない。私こそが、最強。
「お前は……スチュアートの小僧ではないか。私のフィールドワークの邪魔はせんでほしいな」
グレモリー、この時間は山の散策。素材を収集する。
そこ、狙う、殺す。殺す殺す殺す殺す!
「【召喚術・禁忌獣召喚】」
「……なんじゃ? その不恰好なモンスターは?」
禁忌の合成獣の召喚に成功。事前に配置した魔法陣の効果良好。
さあ、グレモリーを滅ぼす!
「シネェェェ!」
「なんじゃいきなり」
「【モード・悪魔】! そして殺せキマイラァ!」
肉体変化、正常作動! 悪魔の力、起動支配!
我が身を悪魔とし、破壊せよ! 殺せ! 殺すのだァァァ!
「いきなり変身するでない。そりゃ悪魔か? 魔物を己の内に取り込むとは……全く、レオンハートの真似か? 本来あまり褒められたものではないとわかっておるのか?」
「アハハァァハァハアッ!」
「……正気を失っておるのか? いや……支配魔法か。誰だか知らんがお前さんを支配するとはよほどの使い手が……うん? そういうわけでもないのか? 一度殺され――死亡ギリギリの状態にしてから洗脳したというのが正しいのか? ……全く、それにしても年寄りをいきなり殺そうとするとは……」
「【最上級雷術・地獄の雷】!」
最上級魔法の発動、成功! 悪魔の力、良好! 今我、グレモリーを越える!
「いきなりフルマジックとはまあ、頑張ったのう……若造にしては」
「あ?」
「だがまだ術が粗い。どれ……少し手本を見せてやろう。【最上級雷術・地獄の雷】」
グレモリー、魔法使用を確認。フルマジック? 私と同じ?
私の術と激突、同時にキマイラにもダメージが……?
「そら、そこだ」
「ガッ!?」
ありえない! 私の魔法が、押し負けた! 何故生身でフルマジックが発動!? 理解不能! 理解不能!
「老体には少々堪えるのう。術のキレが昔より更に落ちたと実感させられる」
「あ、ああ……?」
「まあ、その化け物とお前さんを相手にするくらいのことなら――」
理解、ふの――
「全盛期の10%も出せば十分かの? 【三重最上級風術・天空の怒り】」
強大すぎる風の魔法を確認。しかも、同時に三発……!
規格外。理解不能。ありえない。グレモリー……クソ、クソォォォォ!
「私に喧嘩を売るな。残された力、お主風情に使うにはあまりにももったいないのでな」
キマイラ、消失。私の肉体、しょうし、つ――
「グ……ふう。今程度の魔法の行使でもう身体にガタが来ているか。歳はとりたくない、本当にとりたくないものだのう……」
心臓が、疲労を訴えてくる。全身の細胞が、魔法の反動に耐えられないと嘆いておる。
「もう少しで、よい。もう少し、耐えてくれ。我が肉体よ――」
長く生きてきた弊害か、私の身体はもうほとんど壊れている。
人間の寿命など無視し、禁呪を駆使して繋いできたこの命。限界が来るのが当然か。
「約束の時まであと少し。それまで持てば文句は言わん。だから、もう少しだけな」
ひとまず休むとしよう。あのスチュアートの若造が誰に操られて何故襲い掛かってきたのかも気にかかるが……休まねば身体が持たんな。
その間の暇つぶしは……うむ、そうだな。あのキマイラとスチュアートの若造の死体でも暴いているとするか――
よいお年を!




