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【番外編完結】他力本願英雄  作者: 寒天
青年編後編 人間の戦い
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第106話 炎の魔術師

「……何だここは? ひたすら暑い……と言うか熱いな」


 謎の炎に飲み込まれた俺は、気がつけば荒野にいた。

 ここには命の鼓動が全く感じられない。ただただ乾燥した乾いた大地が広がっている。そして何よりも――


「当たり前のように地面から炎が噴出しているとか……生物に喧嘩売っている世界だな」


 辺り一面燃えている。何かが燃えているんじゃない――大地そのものが、世界そのものが炎に包まれているのだ。

 この地で生存なんて概念はない。そう言っているかのように全てを拒絶する空間……とでも言うのだろうかね?

 仮にここに常人がいれば、立っているだけで死にかねないこの極炎の世界はさ。


「そうだね。ここは生きる為の世界じゃない――奪う為の世界さ」


 世界の様子に呆れていた俺に、後ろから声がかけられた。若い男の声だ。

 どうやらこの世界を作った術者のお出ましかと嵐龍に手をかけながら振り向く。防壁って意味合いの結界ならともかく、異空間を作り出す結界術は最高難易度の奇跡。決して油断していい相手じゃないと気を張りながら。


「久しぶり、レオン君。大きくなったね」

「……誰だ?」


 立っていたのは魔法的な輝きを宿した赤い宝石付きの杖を持った金髪の優男。複雑怪奇な文様が入った服といい、魔法使い丸出しの男だ。

 そんな男が親しげに、まるで知り合いのように話しかけてきたんだが……見覚えないぞ? こんな奴俺の知り合いにいたかな?


「……酷いな。忘れちゃったのかい?」

「あー、ゴメンね? そっちの勘違いでなけりゃ忘れてる」

「そっか。まぁ、仕方がないのかな。君に会ったのはもう10年も前の話しだしね」

「10年……?」


 その時期だと……見習い騎士になるかならないかってころだな?

 それ以前は引きこもり修行生活でほとんど人との交流とかなかったし……やっぱり人違いじゃないのか?

 それとも、騎士試験で知り合った人とかか? こう、一次試験の森の中でぶっ倒した人の一人とか……?


「……どうやら、さっぱりわかってないみたいだね」

「え? い、いや……そんなことはあるような無いような……」

「いいよ、気にしないでもね。それじゃあキミにもわかりやすいように――少し思い出す手助けをしてあげよう。【炎術・炎槌(フレイムハンマー)】!」

「ムッ!」


 一瞬。俺の感覚でもいつ魔法を形成したのかわからない――それほどの高速で炎の魔法使いは術を放ってきた。

 放たれたのは炎の塊をぶつける初歩的な魔法。発動スピードは恐ろしいものがあるが、この程度なら――


「――ハッ!」


 炎の塊を、俺は嵐龍の抜刀で切り裂いた。避けてもいいのだが、この空間で下手に動くと何か危ない気するんだよな。

 炎の塊は俺の一太刀であっさりと霧散した。やはり威力はそれほどでもないみたいだな。


「さすが……だね。昔とは比較にならない剣速だ」

「いつの話をしているのかは知らないけど……10年前とはそりゃ比べ物にならん!」


 何故か感心している炎術使いに、俺は攻撃を仕掛けることにした。

 下手に動けば地面から吹き出る炎の餌食になりかねないが、一箇所に留まっているのも危険だろう。ここは一か八かってことで剣の届く距離まで踏み込むべく前に出るのだった。


「――僕の魔法構成も昔とは桁が違うんだけどね。【炎術・包囲する炎壁(フレイムウォール)】!」

「炎の壁――ぶち抜く! 【風術剣・風竜突破】!」


 本当に信じられない高速詠唱。魔法一つ一つの構成時間――更に発動後の硬直が限りなく短い。魔法使いにとって一つの極みに立っているような術捌きだ。

 その技術を持って作り出されたのは炎の壁。それもその場に留まって進路を妨害するタイプではなく、瞬時に退路を断つように移動する壁だ。

 回避は不可能――厳密に言えば不可能ではないが、後退を余儀なくされる――と判断した俺は、風術剣を作り剣を前方に突き出し突撃した。避けるのではなく突き破ることにしたのだ。


「並みの攻撃じゃ効果ないか――ならこれでどうだい? 【二重詠唱化炎術ダブルマジック・ファイア双頭の炎蛇(ツインヘッドスネーク)】!!」


 炎の壁を突破した俺に向けられたのは、赤い宝石の杖から放たれた二匹の蛇を象った炎。一度に二つの魔法を発動する超高等技術によって強化された炎術だった。

 俺はその魔法を見て――一つの記憶が刺激された。遠い昔驚かされたとある男が使った魔法、その記憶を。


「――ッ! 【嵐壁】!」


 今までのとは桁が違う魔力が込められた魔法を前に、俺は足を止めて迎撃を選択する。

 風と水の属性を持つ嵐龍の魔力を開放し、盾を作って炎の蛇を撃墜するのだった。


「今のもあっさり防ぐか。本当に強くなったんだね、レオン君」

「……そう言うお前は、まさか……クルーク、なのか?」

「ん? やっと思い出してくれたのかい?」


 俺の前に立つ男――かつての仲間でありライバルだった男、クルークは儚い笑みを浮かべた。

 本当に、こいつがあのクルークなのか? かつての見習い騎士試験で俺のパートナーだった、あの内に秘めた力を隠すように飄々とした態度で俺を完全に欺いたあのクルークなのか? あの――常に自信に満ちた明るさを放っていた、あのクルークだってのか?


「……おい、お前が本当にクルークなのか?」

「うん。そんなに違っているかい? 特に外見は変わっていないと思うんだけどね、成長したくらいでさ」

「そんなこと、聞いてねぇよ」


 外見――確かに、今思えば記憶の中のクルークに類似する部分は多々ある。顔立ちから髪の色まで、確かにクルークが成長すればこうなるだろうって感じだ。

 だが――違う。決定的に違う。纏っている空気が、魔力が――俺の知るクルークのものとは似ても似つかないのだ。


「……随分と、陰気なオーラ背負ってるじゃないか」

「フフフ……まぁね。僕も苦労したってことさ」


 今のクルークから感じ取れるのは、闇。人間とは思えない暗い何かを宿しているのだ。

 それも、力に依存するものではない闇だ。俺のように闇の魔力を宿す何かを持っているから闇を持っているのではなく、本人の精神から発する気が闇のオーラを形成しているのだ。

 その理由、その背景に何があるのかは非常に気になる。放置すれば取り返しのつかないことになるんじゃないかと思うくらいには。

 だが、今は――もっと大切なことがある。


「……まあ、いい。お前に何があったのか――それは今は問わない」

「そうかい? 冷たいねぇ」

「このクソ暑さだからな。そんなことよりも――クルーク、お前俺を何のためにこんな場所に引きずりこんだ? 何で俺を攻撃する?」


 今明らかにしなければならないこと。それは、何故クルークが――俺と同じ“騎士”であるはずのクルークが犯罪組織のアジトで待ち構えていて、俺に敵対しているのかだ。


「……命令さ」

「命令? 誰からだ?」


 クルークは確か上級騎士になっていたはずだ。俺が王都に戻ってから顔を合わせる機会は一度も無かったが、名簿で名前を確認した覚えがある。

 そのクルークに“命令”できる立場の人間はそういない。考えられるのは団長である親父殿や最高権力者である国王とその直属クラス、あるいは……身内、か?


「……父さ」

「父……スチュアート家当主か?」

「ああ。僕は父の命令でキミを――殺せ、といわれている」


 クルークは顔色一つ変えることなく言い放った。俺を殺す、と。


「何故だ?」

「何故? それはどうしてキミを殺すのか――ということかい? それともそんな命令を何故聞くのか、と言うことかい?」

「両方だ。俺はスチュアート家当主と面識なんてないし、恨まれる覚えも無い。そして――お前がそんな馬鹿げた命令を聞くような奴だとも思っていないよ」

「フフ……」


 俺の言葉を聞き、クルークは僅かに笑みを浮かべた。本当に小さい、まるで諦めたかのような失笑を。


「キミの認識は大分ずれているようだね」

「ずれているだと?」

「ああ。まず第一に、僕は人殺しの命令なんて受けない――なんて善人じゃないよ。僕は生まれてから今まで、父の命令に従って生きてきたんだから」

「…………」

「それに、キミが父に――というよりも、スチュアート家に恨まれてないわけがないだろう? 何せキミは、シュバルツなんだから」

「……どういう事だ?」


 シュバルツだからスチュアートに恨まれる?

 俺にはその意味が分からない。何かあったのか? この両家の間に、命の取り合いが起きるようなことが?


「……本当に知らないみたいだね。レオン君、キミ歴史の勉強とかちゃんとしているかい?」

「あー……俺は専門外の事は専門家に任せる主義だ」

「……まあ、一応規制されている情報なんだけどさ。それでもキミの立場なら知れる話なんだから少しは興味持とうよ」

「まあ、あれだ。世界が平和になったら考えるよ」

「一生やる気が無いってことかい? やれやれ……」


 クルークはあからさまにバカにした目で首を振った。そんなに知らなきゃ恥ずかしいことなのかそれ?

 ……俺も、一応母上から一般教養は習っているんだけどなぁ。でもシュバルツ家とスチュアート家の因縁なんて聞いたことが無いんだけど、何があったんだ?


「何なら、僕が講義してあげようか? 少し長くなるけど――どうして命の取り合いをするのかくらいは知ってから戦いたいだろう?」

「いきなり襲い掛かってきて何を――って言いたいところだけど、そうだな……」


 戦闘中に敵が手ではなく口を動かす。それは油断か策略のどちらかだ。

 魔族連中の場合はほぼ油断と過信からくる自慢話がほとんどだけど、クルークなら……どっちもありそうだな。昔のクルークなら戦闘中に長話どころか演説しても不思議じゃないし。


 ま、どっちにしても――


「んじゃ、せっかくだから聞かせてもらおうかな。平和的に話をな」

「おや意外。本当に聞くのかい? 話振っておいてなんだけど、歴史の話に興味あるタイプだとは思っていなかったんだけどね」

「何、武器ではなく対話を求められて拒絶するほど俺も無粋じゃないってだけのことさ」


 普通の人間なら干からびる気温を有する灼熱世界の中だろうが、話し合いが成り立つのなら俺はそっちを選ぶ。

 忘れがちだけど武力行使ってのは最後の手段なんだ。この話を聞くことに何か意味があるのかはわからないけど――騎士として、そして昔の仲間として和解の可能性があるのに諦めるようなことはしたくない。

 今のクルークが纏っている負のオーラの原因。もしかしたらそのヒントが得られるかもしれないしな。


「フフフ。そう言う事なら語るとしようか。ゆっくり丁寧にね。あ、寝ないでね寂しいから」

「流石にこんな場所で寝られるほど神経太くないよ」

「そうかい。それじゃ、始めよう。まずは全ての始まり、フィール王国とレイック帝国。かつて人の世界を二つに別けた大国の話をしよう――」



 それは数十年前の話だ。僕らがまだ生まれていない――僕らの父の世代が丁度今の僕らくらいの年齢だったころかな。

 今では知ってのとおり、人の世界――南の大陸にある国はフィール王国のみ。全ての人間はフィール王国の民として一つに纏まっているよね。

 でも、僕らの親世代の時代にはもう一つ国があった。調和と友愛を掲げるフィール王国とは対照的な、力と支配を掲げるレイック帝国がね。知ってたかい?


 ――あはは。まあそりゃ知っているか。ここまでは歴史の教科書にも載っている一般常識だしね。


 とにかく、かつてフィール王国とレイック帝国は大陸を真っ二つに割る形で共存していたわけだ。

 しかしレオン君。今の情勢から考えてさ、ただでさえ力で大きく劣る人間が更に二つに分かれているような余裕があると思うかい?

 うん、そうだね。あるわけないね。お互いの生存の為にも両国は手を取り合い、協力しなければならない――って、二つの国はお互いに言い合っていたんだよ。


 え? それなら何の問題もないだろうって?

 まあそうだね。お互いの主張が同じなら平和的に解決できるだろう。本当に同じなら、ね。

 さてレオン君。お互いに協力する――つまり二つに分かれた力を一つにする方法はどんなものが思いつく?

 連携、協力、協調――言葉としてはいろいろあるけど、両国の主張はそこで割れたんだよ。それこそ文字通り、真っ二つにね。


 まずフィール王国の主張だけど、これはまあ今と同じだ。お互いに協力し、尊重しあうことで手を取り合おう。つまり平和的に同盟を結ぼうってことだね。

 対してレイック帝国だけど、こっちははっきりとフィール王国に服従を要求したのさ。フィール王国が滅んでレイック帝国に吸収されれば自ずと一つになるってさ。

 しかしそんな提案、当然フィール王国としては受け入れられない。いやまあ、あの王様なら条件次第では受け入れていた可能性がないわけじゃないけど、残念ながらそうならなかった。

 フィール王国が目指しているのは全ての民の幸せ。一人でも多くの国民が幸せをつかめる国ってのが理念なわけだけど、レイック帝国とはそこがかみ合わないんだよ。

 何せ、レイック帝国の理念は強者のための国、だからね。つまりその他大勢は全て一部の強者賢者のために存在しており、支配されるべし。それが理念だったんだよ。言葉を変えれば有能な人間が無能な人間を支配し、搾取するって政治形態だ。


 具体的にはね、皇帝を含めた国民全てに階級を制定したのさ。

 皇帝を一級に、その側近クラスの優秀な者を二級に、優れた頭脳や技術、肉体を持つ者を三級に――って具合に能力値で階級わけして差別を強いたんだよ。

 数字が高い者ほど裕福な暮らしが約束され、数字が低い“劣等”には最低限の保障すらない。数字の低い者は数字の高いものの奴隷ってことになるかな。

 

 え? そんなことをすれば数字の低い民が黙っていないだろうって?

 フフフ。人の価値を信じているレオン君らしい意見だけど、そうならないのさ。だってレイック帝国の理念は皇帝とその一族が美味しい思いをするためのものではなく、優秀な者を優遇するってことなんだからさ。

 つまりね、国が脅威を感じるほど大きな声を上げられるほどの――民を纏め上げて反乱軍を形成できるほどの人材は優遇される側に入ってしまうのさ。例え皇帝に反旗を翻す思想の持ち主だろうが優秀と認められれば階級が上がる。そして気がつけば救うつもりだった民衆が敵に回っているって寸法だ。

 何せ、愚か者は後先考えずに人を妬むからね。明確に数字で差が示されてしまうせいか、自分達と同じ位置から理想を語っていた時はリーダーリーダーと持て囃しても、いざそのリーダーが自分達“劣等種”とは違う存在だと突きつけられば迫害の対象にしてしまうんだよ。弱い人間は強い人間を認められないからね。

 そんな人間の醜さを突きつけられたとき、かつて反乱軍のリーダーだった者は気がつくんだ。こんな奴らを救う価値なんてない、皇帝の理念は正しいんだ――ってさ。


 何より大きいのが、実力者優遇の制度を徹底していたってところだね。

 仮に皇帝の息子であろうとも、実力を示せなければどんどん階級が落ちていって最後は劣等と同じところまで落とされる。実力のない者は徹底的に否定される世界ってことだ。

 反面、上位に立てる才覚の持ち主からすればまさに天国。自分の才能を活かせばどこまででも上にいけるわけだからね。それこそ生まれ最悪の浮浪児が自分の才能を活かして貴族になりあがったなんて話に事欠かない国だったらしいよ。

 まあ、それは皇帝自身が類を見ない賢者であり強者であり――覇者であったということの証なんだけどね。

 レイック帝国皇帝ボルス・レイック。彼は筋金入りの自信家であり、自分より優れた人間などこの世に存在しない――よって、全ての人間は自分に服従すべしって人だったらしいからさ。


 まあそんなわけで、全ての民を守護するのが王だとするフィール王国と、国民とは強者を生かすために存在を許されているとする両国がわかりあうわけがない。

 二つの国はお互いに協力を呼びかけながらも手を取り合う事はできない関係が続いていたわけだ。まあ、より正確に言えば手を伸ばすフィールと頭を下げろと命じるレイックの関係とも言うけどね。


 ――え? ならレイック帝国は戦争でも仕掛ければいいって? 自分のが優れているのだから下につけというのならば、手っ取り早くそれを示せばいいって?

 うん、まあそうだね。富を民に分配しているフィール王国に比べて、レイック帝国は強者優遇制度のおかげで国力で大きく勝っていたからね。もしそれだけで勝利が決まるのなら――多分、レイック帝国は人間全体の力が落ちることなんて考えもせずに戦争を仕掛けたことだろう。

 でも、そうはならなかった。何故なら自信家の皇帝ですら躊躇する強大な力があったからね。


 そう、大昔からフィール王国にある絶対戦力――シュバルツ家とクン家だ。


 兵士の数でも質でもレイック帝国はフィール王国を凌駕していた。しかし、この両雄の前には誤差の範囲でしかないのが真実だ。

 いくら数を集めても、英雄を倒す事はできない。まあ厳密に言えば完全に疲労しきったところを討てば倒せるかもしれないけど、そこまでいくのにどれだけの被害が出るのか考えたくもないし、そもそもその前に逃げられる。とても策なしに挑んでいい相手じゃないのさ。

 というか、仮にフィール王国が他者を力で排することを是とすれば普通に滅ぼされていたんじゃないかな? 英雄の数の差って大きいからね。

 更にその英雄両家と個人で匹敵するとされる大魔導師グレモリーの存在まで考えればまあ、レイック帝国から宣戦布告というわけにはいかなかったわけだね。


 でも、それをボルス皇帝は許せなかった。王としての能力で言えば自分のが遥かに優れているのに力で圧倒できないその事実がね。

 だからこそ、皇帝は国内の戦士にきつく当たったそうだ。彼の望みを果たせない戦闘者は無能ってことになるからさ。まあ、それで本当に階級まで落として国力を落とすほど愚かではないけどね。

 それでも皇帝の不機嫌は全体に広がる。人間の領域で強いってレベルの戦士たちは英雄級の領域に手を伸ばそうと努力を強いられ、そしてたどり着けない自分に絶望するってことが多々あったらしいよ。

 そんな風潮だからさ、当然レイック帝国唯一の英雄級への風当たりも強くなっていくわけだよ。お前らがシュバルツやクンに劣っているからフィール王国を落とせないんだってさ。


 そう、レイック帝国の重鎮にして王の血族――魔術の名門スチュアート公爵家もね。


 あれ? 意外そうな顔だね? もしかして知らなかったのかい? スチュアート家が元々他国の貴族だってさ。

 そうだよ、僕の家、スチュアート家は元々レイック帝国皇帝の親戚筋なのさ。強者優遇制度の中でも地位を失わなかった魔術と研究の第一人者であり、魔術師として英雄級の領域に至っているとされる超名門って奴だね。

 とは言え、生粋の戦闘者であるシュバルツやクンには及ばないのは仕方がない。あくまでもスチュアートの本分は魔法を研究する者であって、魔法で戦う者じゃないんだ。スチュアート単体で両家の英雄に及ばないのも当然のことだよね。

 でも――フィール王国にはグレモリー老がいた。魔法で戦う者としても魔法を研究する者としてもスチュアートを超える偉人がね。おかげでスチュアートはどんな分野から見ても二番手扱い。フィール王国に勝てないのはスチュアートが弱いせいだなんていう奴もいたらしい。

 それら全てをスチュアートは許せなかった。魔術以外を野蛮と蔑む家風もあり、スチュアートはシュバルツやクン、グレモリー老を憎んだんだよ。完全に逆恨みだけどね。


 でもね、怒ろうが恨もうが力関係は変わらない。結果、両国の関係は手を取り合うどころか敵対関係のまま膠着したのさ。

 それが、数十年前に崩れた。とある男の出現によってレイック帝国は戦争を決意。フィール王国に宣戦布告したのさ。

 それが世に言う人類統一戦争――南の大陸がフィール王国の支配下に収まる事となった戦いさ。


 その結果からもわかる通り、戦いの中でいろいろあって最終的にフィール王国が勝利し、レイック帝国は地図から消えた。

 皇帝は敗北の屈辱に耐えられず自害し、唯一の英雄級と呼ばれたスチュアートは大勢たいせいが決する前にフィール王国の王バージウスに跪くことで何とか家を存続させたわけだね。

 元々平和的な協力関係を訴えていたフィール王国は、レイック帝国に交戦の意思が無くなった時点で停戦。元帝国民の反感を和らげる為勝者とは思えないほどの恩情政策を次々と行い、今の世界が出来上がったわけだね。

 元々国に仕えていたシュバルツ家とクン家、この二つにスチュアートが同格として扱われているのもその一つ。戦いは終わったのだから我々は帝国民を差別したりしないってアピールだ。

 本来なら最初から忠義を尽くしていた家と元敵が同格になるなんてありえない――元々忠義を尽くしていた側が認められないって話のはずなんだけど、シュバルツもクンもその手の名誉には興味ないからね。キミ達って、基本的に自分の戦闘力を磨くこと以外に興味ないし。


 ま、スチュアート家の来歴はこんな感じかな。

 今でこそ仲間であり同じ方向を同じ高さから見ている関係だけど、元々は敵対関係だったわけだ。

 以上が僕の話。融和政策の一環で闇に葬られた話を含めた歴史のお勉強ってところかな――



「――つまり、そんな昔の恨みを今の代になって晴らそうってことなのか?」


 俺はクルークの長い話を聞いて、結局何故襲われたのかをそう結論した。

 いや、つまり元々敵対関係だったからシュバルツは恨まれているってことなんだよな? 何もそんな戦いとは無関係の世代でまでいがみ合うこと無いと思うんだけど……まあ、命令している父親はもろその世代なんだろうけども。


 が、クルークはそんな俺の考えに笑みすら浮かべながら首を横に振るのだった。


「いやいや、流石にそんなに暇ではないよ。と言うか、そんなつもりがあるのならもっと早くにやっているし、そもそもフィール王国の軍門に下ったりもしないって」

「じゃあ、結局なんで襲ってきたんだ?」


 昔の恨みを晴らす為――ではないとすると、何故俺はクルークに命狙われなきゃいけないんだろうか?

 そもそも、親父殿世代の戦いの遺恨なら親父殿に晴らして欲しいんだけど。俺に言われても正直困るんだよな……。


「そうだね、一言で言うのならば……革命、かな」

「革命?」

「ああ。昔破れたレイック帝国が――その残党が集まって作られた反王国組織【真の誇り(プライド)】。それが動き出したんだよ。王国を倒し、自分達の求めた世界を作ろうってね」


 クルークは何でもないことのように言い放った。自分達は、革命を起こそうとしているのだ――と。


「おいおい……なんで俺をこんな世界に閉じ込めて殺そうって話が革命に繋がるんだ? というか、お前はそんな話に賛同しているのかよ?」

「僕の意思なんて関係ないさ。命令に従う――僕にあるのはそれだけだからね。それに――」


 クルークは自傷するように儚い笑みを浮かべて言う。自分はただ命令に従うだけだと。

 こいつそんな奴だったかと拳に力が入ってしまうが、続く言葉に俺は全身を緊張させるのだった。


「レオン君を――シュバルツの英雄級を一人封印できるのはこの上ない成果だろう? 英雄級には英雄級が当たるしかない。だから今、組織が用意した偽情報を使ってフィール王国の英雄級を孤立させている真っ最中さ。そして英雄級の援軍を出せなくなった王都を制圧すべく、組織のトップと軍勢が攻め込んでいるところだろうね」

「――ッ! だが、王都には親父殿がいる。それに騎士団もな。俺一人不在だから落とせるほど甘くはないぜ」


 俺は強い言葉を口にする。親父殿がいるから大丈夫だと。あの人なら絶対に負けないと。

 心の奥底から湧き上がってくる、気が狂いそうになる焦燥感を誤魔化すように。まるで俺以外の誰かが心の中で叫んでいるような気さえする、このどうしようもない不安をかき消すために。


「ああ、そうだね。“最高の騎士”ガーライル・シュバルツ。彼を殺せる人間なんてまずいない。でも――一人もいないってことはないのさ」

「なに?」

「怖い顔だね。でも真実さ。さっきも言ったけど、王都に攻め込むのは【真の誇り(プライド)】の盟主だ。その男こそ、唯一かの騎士を倒せる戦士なのさ」


 クルークは自信をもって、確信を持って俺に告げている。

 その盟主とやらなら、親父殿を殺せると。あの親父殿を、騎士団最強の――人類最強の一人を。


「それに騎士団なんて数に入らないさ。なにせ――戦う前から半壊しているんだしね」

「なんだと?」

「わからないかい? 上級騎士の一人である僕がこうしてキミと敵対しているんだよ? 他にも組織の構成員がいるとは思わないかい?」

「――ッ!?」


 味方に敵が混じっている。それは、そのまま組織としての崩壊に繋がる話だ。

 連携をとろうにも誰が味方で誰が敵なのかわからない事実。それを思えば自然と孤立していき、個人個人の戦いになるだろう。

 そうなれば――


「組織の戦闘員も当然のことながら、強いよ。統率を失った騎士団がどこまでやれるかな?」


 クルークは淡々と俺に自分達の作戦を理解させようとする。

 現王国は、今や風前の灯だと。王都も――俺の家族の命も今まさに消えようとしているのだと。


 そんな言葉に、俺は――


「――ハッ!」

「うん? 何かおかしいのかい?」


 俺は、笑った。クルークの言葉の全てを、不安に思うことなど何も無いのだと笑い飛ばしてやったのだ。


「いいかクルーク。お前の作戦――間違いがあるぞ?」

「いや、別に僕が立てた作戦じゃないんだけど……何が間違いなんだい?」

「そんなの決まっているだろ? いいか――」


 動揺を前に出すな。自信を持て、身体に力を漲らせろ。

 決して焦る必要などない。そう、何故ならば――


「人間を、舐めるなよ?」


 俺達が守ってあげなきゃ自分の命も守れないほど、王都の戦士は弱くないんだよ!

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