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【番外編完結】他力本願英雄  作者: 寒天
青年編後編 人間の戦い
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第103話 善と悪の成長

「【嵐龍閃】!」


 振りぬいた刀から繰り出される暴虐の嵐。しかしこの程度で目の前の敵が斃れることはないと俺は知っている。

 俺は手を緩めることなく刃を返し、そのまま返す刀をもう一度振った。


「――【嵐龍双閃】!」


 二重に放たれる嵐龍閃。三年前なら到底できるわけもなかったこの荒業を、俺は全力でぶつける。

 既に覚醒モードであり、混沌の魔力を全力で開放しているんだ。これで流石にこの化け物も――


「【光剣・気合一刀】!」

「グッ!?」


 だが、忌々しいこの金髪イケメンはただ無造作に、何の工夫も無く光の魔力を大量に込めた斬り払いで吹き飛ばしてしまう。

 全く……初代シュバルツ、史上唯一の聖騎士様ってだけのことはあるなこの野郎。


「俺の子孫の割には随分お上品な闘い方だなおい。もっと気合入れてかかってきやがれ!」

「気合だけで世界の全てを解決しないで欲しいよ本当に……」


 俺がシュバルツ最後の修行、英霊の行を初めてそろそろ3年。もうそろそろ王様から言われた期限が近づいてきたってところだ。

 どうなるにしても自分の修行は完成させておきたいところだと張り切り、祖父ジークロイドを始め歴代当主に俺は打ち勝ってきた。積み重ねてきた技術の集大成であるはずでありながら、継承できない個々の資質に合わせた切り札って奴に対処できずにそれぞれに100回は殺されているって無様さではあるが。


「最後の最後がこれってのは、本当に勘弁して欲しいぜこの化け物」


 ともあれ、最後の一人、初代シュバルツのところにまで俺はたどり着いた。

 話には聞いていたが、初代シュバルツは歴代にも珍しい覚醒までたどり着いた戦士。それも、未だに名前が残る聖騎士って称号を得た騎士だ。

 だが、その実体は歴代でもっとも野蛮で野性味溢れる戦士だった。本能と勘、何よりも天賦の才とセンスで剣を振り回す狂戦士。それが初代の正体だ。

 この初代の暴れっぷりを歴代当主が長年かけて技に昇華させたのが、今俺が振るっているシュバルツ流の剣術。もっとも荒く、同時にもっとも力強い最強の才覚をもったシュバルツ、というわけだ。


「そりゃ、もう一本行くぞ!」

「この怪物はどうすりゃいんだろうな――!」


 歴代当主達はそれぞれ強かった。技術面でも能力面でも、勝つには文字通り相手の力を身体で理解するしかなかった。

 だからこそ修行になるって話なんだが、ただ理由無く強いって奴にはどうすりゃいいのかね――


「――【嵐龍閃】!」

「無駄無駄ァ!」

「嵐龍閃を、切り裂いてやがる……!」


 初代は嵐龍閃に真っ向から飛び込み、剣を盾にするような形で一歩一歩近づいてきている。

 剣から放たれるのは当然、強烈な光の魔力。アレが嵐龍閃を斬っている……いや、何かおかしい気が……?


「光は全てを浄化する――【聖剣術・吸光剣(ディバインソード)】」

「ら、嵐龍閃吸収しているのか……?」


 初代は風と水の複合魔力で成り立っている嵐龍閃の魔力を浄化し、光に変え自分の剣に取り込んでいる。

 そりゃ光は闇や邪悪を浄化するから悪魔アンデッドの類に有効なわけだが……自分以外の魔力全てを“邪悪”認定して強引に浄化しているのか……?


「自分に都合のいいものは善! 都合の悪いものは悪! その精神こそが光を扱うコツよ!」

「お前が聖騎士とか絶対間違ってる!」


 つい叫んでしまうが、しかしなるほどと思わされる考え方だ。気の持ちよう一つで浄化対象を変えられるのなら、そりゃやった方がいいに決まっている。

 となれば、俺だって――


「光を剣に――あれ?」


 俺も真似しようと嵐龍に光の魔力を集めるのだが、これいつもの光術剣ではないか?

 初代の強烈な光とは何かが違う気が……?


「そら、行くぞ――【逆襲の光(リベリオン・レイ)】!」

「え゛!?」


 まごついている内に初代は嵐龍閃のエネルギーを全て吸収した。そして剣を掲げ――躊躇なく全力で振り下ろしたのだった。

 そこから放たれたのは、初代の魔力に嵐龍閃の魔力を加えた極光。余計なことやってたせいでもう回避する余裕もないし、これ普通に防御不可能――


「ぐおぉぉぉ!?」


 せめてと俺も光術剣で光の魔力砲に斬りかかるが、まあこれは……


「無理! 【加速法・8倍速】!」


 どう足掻いても勝ち目がないということで、ならば無理を押し通す裏技を発動させる。

 そのまま俺は加速状態となり、真っ直ぐ後ろに走り出す。この光の暴虐より早く動き、何とか逃げ切ってみせる!


「おお、急に早くなったな」

「技術って奴だよ!」


 初代の時代に加速法はない。加速法は四代目シュバルツが開発した技法なのだ。

 基礎戦闘力がイカレている代わりに、初代には積み上げられる技術がない。俺が突くべきはそこだと思うんだが……


「よーし、それじゃあ俺ももうちょっと本気出すか」

「え?」

「我に宿れ――!」

「へ?」


 加速状態になり一気に戦闘力を増した俺を見た初代が、何か光りだした。

 手にした剣から放たれる魔力が初代に入り込んでいる? これ、何事――


「さて、これは早い程度じゃ対処できんぞ?」

「え? えぇ!?」


 光が収まったら、初代から翼が生えていた。鳥のような、純白の光でできた翼が。

 初代って、人外だったのか? 翼ってことは鳥人族(バードマン)系列の奴? というか、これ――


「ひっさぁつ――【光翼斬】!」


 翼から膨大な光の魔力が放たれ、ブースターとなり初代は超加速を行った。その速度は加速法を発動している俺以上――自分で放った光の砲撃を追い越す速度だ。

 更に初代は輝き続ける剣を掲げ、その速度を殺さないまま突進してくるのだった。絶対に防御も回避もできない、裏技含めてどうしようもない単純な破壊力を持って――


(あー、死んだか)


 初代の剣に貫かれ、再生もクソもなく身体が消滅していく。浄化の力が俺の抵抗を全て無力化しているのだ。

 もうすっかり慣れてしまった幻術空間での死に、俺の意識は徐々に薄れてくる。

 この最後の試練、どうやって攻略したらいいのかね? 全く持って対処法が思いつかないのだが……はぁ。


(あの扉も気になるし、期限内には何とかしたいんだけどなぁ)


 俺は消える前にこの世界の奥にある扉を見る。

 初代シュバルツ。つまりこの英霊の行の最後の一人であるはずの初代の世界に何故か存在している、次の世界に行く為の扉を――


……………………

…………………

………………

……………

…………


 この3年、いろいろなことがあった。それとも大した事はなかったのか……如何せん忙しすぎてあっというまに時間が流れてしまったのでどちらともいえないな。

 やったことと言えば、今では知らぬものはいない規模に知らないうちになっていた冒険者組織――通称冒険者斡旋所こと“斡旋所”の維持運営に名前だけ貸したり、今では揃って下級騎士に、アレス君にいたっては一人中級騎士まで上り詰めた新人達の面倒を見たり、マエス率いる訓練場アンデッド軍団の監督をしたり、カーラちゃん率いる意味不明な種族混合魔獣部隊が人間勢力に迷惑かけないように調整したりくらいか。

 その過程で借金が増えたような、逆にもろもろの利権で資産が増えたような気もするが……もう金の出入りが激しすぎてよくわかってない。自分でもどうかと思うが、何か起きると数百万枚の銀貨だの金貨だのが右から左へ移動しているような状況を把握しろと言うほうが無茶だと思う。俺一人だけが生活していくのなら、金貨一枚もあれば一ヶ月は割と贅沢に生活できるのになぁ。

 まあ、一応負債額だけは定期的にロクシーに確認して夜逃げしなきゃいけなくなったらわかるようにしているからそれで勘弁して欲しい。


 後は……『お姫様の護衛任務』だとか『貴族の要請という名のお嬢様のわがまま』だとか『犯罪組織に18歳未満お断り的な意味での奴隷扱いを受けていた人たちの救出』とか『女盗賊団の捕縛』とか『サキュバス討伐任務』だとかもあったが……まあ特に思い出すほどのことはない。

 どれも普通に何のピンチにもドラマにもなることなく解決し、犯罪者は容赦なく豚箱にぶち込んだだけだし、被害者のアフターケアはその手の専門家は別にいるから俺関与しないしな。


 まあとにかく、そんなことをしながら修行しつつここまで生き延びてきたわけだが……ふぅ。

 本当にどうしようかな、あの光を纏う狂戦士は。


「どうしたもんかね」

「何がです? 師匠」


 素振りをしながら目下の課題、初代シュバルツ攻略法に悩んでいたところ、隣で元気に素振りしているアレス君が俺の独り言を聞きつけた。

 今ではアレス君、俺の指揮下を離れて中級騎士やっている。3年の間につんだ修行の数々で力も技も磨かれ、もう無力な子供ではなく立派な戦士へと成長している。ぶっちゃけ、そろそろ本気でやらなきゃ危ないかもとか思っているくらいには……。


「ま、アレス君が気にすることじゃないよ。ちょっと技の攻略法を考えていてね」

「攻略……わっ!?」

「はーい、余所見はダメだぞー」


 俺は並んで素振りしていたところで急に方向転換し、アレス君に斬りかかった。それを驚きつつも咄嗟に剣で受けるアレス君。俺はその姿に頷き、また素振りを再開した。


 アレス君は成長し、社会的な地位も得ている。しかし実力はともかく年齢的にはまだまだ子供であり、俺の弟子であるのも変わりはしない。

 というわけで、今も俺がアレス君に修行をつけているところだ。基本は大事と言うことで重りつき模擬剣で素振り10000回コースだが、しかし剣を振っているだけで強くなるわけでもない。というわけで、追加ルールとして合間合間に俺が不意打ちをかけている。それを剣で受けるなり回避するなりできなきゃ一回につき1000回追加というルールだ。素振りしながら実戦の緊張感も得られる一石二鳥のやり方だな。

 始めのころは修行に使える時間一杯全部素振りに取られる始末だったが、最近では完全に不意を突いても自動反応で防御するようになっている。いい傾向だ。


「そ、それで技って何なんです?」

「いやね、光属性の魔力を使った技なんだけど――」


 俺は剣を振りながらアレス君に軽く説明をする。相手の魔力を浄化し、自分のものにする大昔の聖騎士の技を。

 本当はあの詳細不明の光の翼が一番気になっているのだが、それを言ってもしょうがないかと思ってそっちは省いておく。


「へぇ……そんなことできるんですか」

「多分できる奴は歴史上でも一人だけだろうけどな」


 あの後光の吸収技に関しては自分でもできないか頑張ってみたが、全く成功する気がしない。

 自分以外の魔力を扱う事は不可能。逆に言えば、理屈の上では相手の魔力を調整して自分の魔力と同一にすれば他人の魔力を吸収できるわけで、実際他人に自分の魔力を譲渡する魔法ってのも存在している。……が、お互いに了解し、同調させてなお大きなロスが出るくらいなのだ。それなのに、攻撃のために放たれている魔力をそこまで完璧に制御するとかどんなセンスがあればできるんだよって話である。後100年修行してもできる気がしないっての。


「そんなのどうやったら破れるんでしょうね?」

「……まあ、机上の空論でなら幾つか対策はある」

「対策?」

「ああ。例えば単純に、浄化されなきゃいい」

「……そりゃそうですけど、具体的には?」

「ようは相手の光の魔力にこっちの魔力が負けているから浄化されるんだ。だから、浄化できないくらいの破壊力を持たせりゃあの技は使えないってことになるはずだ」


 俺は自信満々に対抗策について語る。

 つまり力押しであるが、要はあの技を正面から打ち破る威力があれば何も問題ないのだ。……そんな俺のプランに対し、アレス君の視線が心なしか冷たい気がするがきっと気のせいだろう、うん。


「それ、対策って言うんですか?」

「……攻略の糸口にはなるだろ?」

「いやまあ、そうかもしれませんけど。正直それ考える必要ない――」

「うっさい」

「わっ!」


 知性ゼロの作戦に若干呆れモードになっているアレス君に、比較的手加減少な目の一刀を放つ。

 咄嗟にアレス君は避けようとするが、流石にこの剣速には追いつけなかったようで肩に一撃受けてしまったのだった。


「うぅ……」

「はい、素振りプラス1000回ね」


 叩かれた肩を涙目でさすりつつ、すぐさまアレス君は素振りを再開する。一応、アレス君はアレス君で俺に一撃入れられればペナリティを帳消しにできる上にご褒美まで付けるルールだが、今日はどれだけ頑張れるかな……ん?


「おーい! リーダー!」

「あれ、マクシス? それにフィーにティアも」

「三人揃って、どうしたんだいったい?」


 微笑ましく師弟の稽古を続けていたら、遠くから元部下で現下級騎士のマクシス君、フィーリアちゃん、それにナーティアちゃんが声をかけてきた。


「先生、ご無沙汰しております」

「こ、こんにちわ」

「こんちわッス」

「おう。それで、どうしたんだ?」


 俺はこっちに気がついて頭を下げる3人に軽く挨拶した後用件を聞く。まあ、用があるのは俺じゃなくてアレス君なんだろうけども。


「ええ。実はリーダー……アレスに召集がかけられまして」

「召集? 誰からだ?」

「団長命令ッス。緊急の任務らしいッスよ」


 フィーリアちゃんとマクシス君が用件を説明してくれる。どうやら団長命令――つまり親父殿の指示らしい。


「んで、とりあえずリーダー探して一緒に行こうって話になったんスよ。いやー、見つけるのに苦労したッス。小さくて……」

「うん?」


 マクシス君の小さな最後の呟きに、アレス君が敏感に反応した。特に『小さい』の部分に。


「今何か言わなかった?」

「ん? 自分なんか言ったッスか?」

「何か聞こえた気がするんだよね、この激流聴力検査をクリアしたこの耳がそう言っているんだよ」

「……自分の口は真実しか話さないッス。ちみっ子組は探すのが大変ってだけッス」

「誰がちみっ子か!」

「こ、抗議します……」


 微笑ましい若者たちのじゃれあい。主に思ったことを正直に話してしまうマクシス君がアレス君に、ついでにナーティアちゃんに怒られているだけだが。


(アレス君も順調に強くなってはいるんだけど……身長だけは努力じゃどうしようもないからなぁ)


 アレス君の目下の悩み。それは背が伸びないこと。どのくらい悩んでいるかと言えば、三度のメシのお供は牛乳、目覚めの一杯に寝る前の一杯も牛乳確定ってくらいだ。

 この中で最年少なんだから背が低い――つまり成長が終わっていないのは仕方がないと思うのだが、3年前から更にでかくなったマクシス君と、所謂モデル体型って感じに縦に成長しているフィーリアちゃんと自分を比べてコンプレックスを感じているのである。まあ確かに、同年代で集まって整列すると一人だけ腕を前じゃなくて横に置く位置にいそうではあるが。

 ちなみに、このネタになると自動的にナーティアちゃんも巻き込まれる。昔から小さい子だったが、多少成長しても二人が伸びすぎなので相対的に小さい子のままって話だな。

 ……なお、シュバルツの男子は代々高身長がっちり筋肉質なので俺もデカイ組に入る。というかオフの日は大体俺と一緒にいるから、コンプレックスの一番の原因は俺かもしれない……。


「別に背が大きくてもあまりいい事無いッスよ? この前なんて、自分熊に間違われたりしたんスから……」

「それはマクシスが森の中で擬態のために獣の皮被って闘気全開にしてたせいだと思うけど」

「弓持つと怖いですからね、マーさん……」


 マクシス君のちょっと沈んだ声に、アレス君とナーティアちゃんが反応した。

 これはとある任務で森の中に逃げ込んだ人食いの魔獣を討伐に出たときの話だな。中級騎士が出るほどの相手ではないが緊急事態ということでこいつらが出動したって記憶している。

 確か……森の中を隠れて逃げ回る魔獣を捕捉するため、マクシス君もまた森に溶け込んだ。その際匂いを消す為に獣の皮を被り、弓を握りしめた狩人モードになっていたら通りすがりの人にその風貌と威圧感のせいで獣に間違われて地味に傷ついたって話だったか。


「うっさいッス! 大体、ファンクラブがあるような人たちに自分の悲しみはわからないッス!」

「いや、別にそんな――」

「背が高くってもモテるわけじゃないんス! ちっさいほうが可愛いって言われてモテるんだからそっちの方がいいじゃないッスか!」

「そんなこと言われても嬉しく――」

「自分は嬉しいッス! 女の人にチヤホヤされて黄色い声援とか受けられるなら背なんていくらでもくれてやるッス!」


 マクシス君魂の叫び。ちみっ子呼ばわりされて怒っていたアレス君はすっかり鎮火し、ちょっと引いている。

 まあ、ファンクラブとか作られているのが事実なんだからその怨念も当然っちゃあ当然だが。

 しかも、マクシス君以外の3人全員に非公式で存在しているのだからなおさらだ。それぞれが将来有望な騎士であると同時に外見も人を引き付けるものがあるからな。欲望に忠実なマクシス君だけは幻想を持たれていないせいかそう言った活動は行われていないが、将来の英雄候補である小さい男の子とか注目を集めてしまうものらしい。

 個人的には異性の所属率が高いアレス君やナーティアちゃんのファンクラブよりも、同性である女性比率が高いフィーリアちゃんのファンクラブが一番アレな気がするが。こう、非生産的な匂いがするから。


「そのくらいにしておけマクシス。任務だといわれただろう」


 なんて考えている内に、そのフィーリアちゃんが場を締めた。テンパってないときの彼女は大体まとめ役を引き受けており、これがこのチームのいつもの流れって奴だな。


 そう、今では中級騎士としてアレス君がリーダーに、その部下としてこの3人がチームを組んでいる。

 メンバーの中で最年少のアレス君がリーダーであり上司であることにわだかまりができるかもと心配していたけど、2年の歳月をかけて培った信頼関係はその程度では揺らがなかったんだよな。

 まあ、今みたいにからかい9割でアレス君はリーダーと呼ばれて弄られているんだけど。


「で、結局団長に呼ばれているんだったか?」

「そうです。本部にすぐ来るようにと言われています」

「じゃあ急いだ方がいいだろう。すぐに支度したほうがいいよアレス君」

「そうですね。すぐに行きましょう」


 アレス君とマクシス君はじゃれあいを止め、すぐに準備を始めた。とは言っても団長は親父殿。礼服に着替えなきゃダメ~とかは言わないから、稽古用の剣を片付けるだけだ。


「あ、先生も一緒に来て欲しいッス。動けるのは全員集合ってことらしいんで」

「そうか。わかった」


 なんて思っていたら、俺にも来て欲しいといわれた。当然俺は頷くが、無作為に全員集合とはよほどのことがあるのか?

 しかしそれなら魔法放送でも使って指示を出せばいい。にも関わらずあえて伝令出しているってことは、万が一にも外に知られたくないってこと。こりゃ、もしかすると捕り物かもね。


「急ぐとするか」

「はい!」


 いい返事をするアレス君と共に、俺達は走って本部に向かった。


「あ、戻ってきたらちゃんと素振りの残り分にプラス1000回ね」

「……はい」


 修行の方も忘れてはいないけどね。



「盟主。作戦準備は着々と整っております」

「ご苦労」


 イーグル――組織内ではイビルと名乗っていたあの男を粛清した後、私は組織の部下達に連絡を入れた。

 かねてよりの計画、かつての大戦にて失墜した我が望みを今度こそ実現させる手段を手にした今こそ決行のときだと。


「しかし盟主。此度の作戦、本当によろしいのですか?」

「何か疑問でも、あるいは不安でもあるのかね?」


 私に報告を行っていた部下が疑問の声を上げた。

 事によっては上官命令に疑問を持つなと怒鳴りつける者もいるだろうが、私は一部の者に限りそれを許している。意見を述べる資格を持つ者の言葉に耳を傾けぬのは愚者のすることだからな。


「はい、我々真の誇り(プライド)のメンバーの中にはフィール王国の騎士をも超える強者が何人もおります。旧帝国の強者達が」

「そうだな」

「しかし人類の例外――超人、英雄級の怪物に対抗できる者は極僅かです」

「うむ、その通りだ」


 人間と言う種族は弱い。その上愚かであり、自分の利益を優先する余り弱者唯一の戦い方ともいえる徒党を組むことすらまともにできてはいない。

 最近では冒険者同士が組織的な行動を起こす斡旋所なる組織や、一部の賢い魔物共と協力する動きが見られているようだが……それも精々が打算による薄い協力関係でしかないだろう。本当の意味で集団として命を賭けられるような、自分を犠牲にしてでも群を活かすような選択肢を選べる人間など早々いないのだ。


 だが、そんな弱小種族の中の僅かな例外である超人級、あるいは英雄級と呼ばれる逸脱者は別だ。

 彼らは強く、その実力に由来する自信は人間の愚かさをねじ伏せ最善を選ぶ精神力を支えている。クズが語る正しさ――強者から見た言い訳など考えもせずに、自分の正しさを突き通す力があるのだ。


(我々至った者からすれば、クズが何人いようとも問題ではない。だが――)


 仮に私の前にフィール王国の一般兵が一万人集まったとしても、傷一つ負わずに全滅させる事は容易い。逆に真の誇り(プライド)の下級兵や改造魔物共を何匹けしかけても英雄達はびくともしないだろう。

 この部下が心配しているのは、つまりそう言う事。真の誇り(プライド)に所属する英雄級よりもフィール王国に所属する英雄級のほうが数が多いという、シンプルだが重大な問題についてだろう。


「……現状、フィール王国の英雄級は何人だ?」

「はっ、まずシュバルツ家当主ガーライル、クン家当主バースが筆頭です。更にその子供であるレオンハート、メイの両名も英雄級と呼ぶに相応しい実力を有しています。それにかの大魔導師グレモリーを加えた5人が英雄級かと思われます」

「なるほど、では準英雄級は?」


 準英雄級――常人よりも遥かに強いが、しかし数の暴力には敵わないレベルの存在。一流の戦士以上英雄未満と言ったところか。

 当然、英雄級の猛者といえどスタミナと魔力を使い果たすほどの大人数が相手となると膝を突かざるを得ない。だが、まあその人数を集めるには国中の戦士兵士を全てかき集めて足りるかどうかだろう。そもそもそこまで疲労する前に撤退して休めばいいだけなのだから、よほど準備を整えねば英雄を数で仕留める事はできない。

 対して、準英雄級ならば数で押し込める可能性はある。むろん難しい話だが、囲んでしまえば倒せる可能性はあるというレベルだ。無論、数千以上の犠牲を覚悟しての話だがな。


 はっきりと英雄には届かない領域である準英雄級であるが、その力が集まれば英雄に届く。

 雑魚が何万集まっても英雄には届かないが、準英雄級が集まれば英雄を倒しかねない。つまり準英雄級とは、英雄から見て自分を倒しうる“敵”であると判断できるレベルということであり、戦争をするのなら英雄級と同じく注意しなければならない存在だ。


「確定なのは女神教の“教皇”コーリア、“枢機卿”メメーラル。それに斡旋所の“四獣”バンシとそのチームメンバー、騎士団の“上級騎士”の中の一握りくらいですかね」

「ふむ。まあ全員含めても10名いるかいないかと言うところか」

「はい、それとこちらは不確定な情報なのですが……現中級騎士の“シュバルツの弟子”アレスとそのチームメンバー、それにシュバルツ家の居候であり魔物軍団の指揮をとる“吸血姫”カーラも準英雄級に至っているとの報告があります」

「……その二人のことは聞いているが、どちらもまだ子供と聞いていたのだがな?」

「はい。私もそうは思うのですが、シュバルツがらみとなるとありえない話ではないかと……」


 ……まあ、気に留めておくとしよう。私でも英雄級と戦った後に準英雄級複数と矛を交えるのは危険だからな。


「さて、では我が軍の戦力は?」

「英雄級と断言できるのは、盟主お一人かと……イビル様もその領域にいたのですが……」


 失った戦力のことを嘆いているのか、部下はやや小さな声で付け足した。

 確かにイーグルは実戦経験不足の頭でっかちであったが、旧帝国時代からの数少ない英雄級であった。手放すのは惜しいと思う気持ちは分かる。

 だが――


「あの男の事は気にしなくてもよい。穴埋めの策はきちんと考えてある」

「はぁ……?」


 英雄の穴埋め、という矛盾しかない言葉に部下は首をかしげている。

 しかしそれに私が答えることはない。敵を騙すにはまず味方からとも言うし、重要な情報は私だけが知っていればいいのだ。


「と、とにかく、我々真の誇り(プライド)の主力と呼べるのは事実上あなた様お一人だけなのです。準英雄級なら数十名おりますので英雄級一人くらいならなんとかなるとは思われますが……」

「総合力では大きく劣る、か?」

「はい。一般兵の数では流石に正規軍に大きく劣りますし、イビル様主導で進められていた強化魔物がどれだけやってくれるかも未知数ですし……」


 まあ、当然の思考結果というべきだろう。この男に与えている情報だけで考えれば勝ち目のない戦いに挑もうとしているとしか思えないのだから。

 だが、それはあくまでも総戦力をそのまま比べた場合の話だ。我々にはないが奴らにはある弱点、それを考えれば対策などいくらでも浮かぶというものよ。


「では、一つだけ言っておくとしよう」

「……なんでしょうか?」

「私は他の英雄級と一対一で戦うのなら確実に勝利する自信がある。それは認めるところだろう?」

「当然です。他の英雄級が――人類がたどり着いていない“覚醒の第二領域”に至っているあなた様が対等な条件で敗北する事はありえません」

「うむ。ならば考える事は唯一つ――如何にして“一対一”を作るかだけなのだよ」


 そのために、私は長年かけて戦力を集めた。

 後は思い知らせてやるだけだ。価値なき弱者と手を取り合うなどと言う思想を――レイック帝国を否定し、フィール王国を自らの主とした人間の愚かさをな。


 さしあたってはそうだな、まずは一つ“正義の味方”として頑張ってもらうことにするかな……。

三年間の間にあったイベントダイジェスト

お姫様の護衛→専属の女官いるし賊が近づいてくればわかるから余裕、というかシュバルツが護衛についていて襲ってくる命知らずはいない。つまりイベントとかない。

お嬢様の我がまま→珍しい宝石を入手しろとかいろいろ言われたが、ロクシーが一晩でやってくれました(有料)。商売の中継しただけであった。

奴隷解放→奴隷商人(犯罪です)をぶちのめして後は国に任せた。既にゴブリン部族とかその他もろもろ抱えていて全員面倒見るとか不可能です。可愛い子だけ連れて行くとかやれば社会的に死にます。

女盗賊団逮捕→ただの無双。慈悲はなく問答無用でぶっ飛ばして後は人任せ。美女でも美少女でも犯罪は犯罪です。慈悲はない。

サキュバス討伐→異性特攻の精神操作魔法の使い手。神造英雄発動――なんてことにもならず普通に対策して倒した。一応ゴブリンのように共存できないか交渉はしたが、無理だったので普通に斬った。サキュバスは悪魔族であり人間と共存するとかありえないそうです。


なお、レオンハートはホモではありません。




アレス君の三年間。

ファンクラブ誕生。道を歩けば困っている女の子に当たる体質は相変わらず。そのたびに慈善活動しているので騎士としての評価が上がって中級騎士に昇格した。

が、デートのお誘いとか受けても全く気がつかずに「師匠の課題があるから」と断っている。本人に悪気はない。

結果、アレスファンクラブからレオンハートが恨まれていたりするのかもしれない。

何気にチームメンバーのフィーリアをフィー、ナーティアをティアと愛称で呼ぶ仲にはなっている。

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