第98話 英雄の領域
……勝てない。
「クソッ! 援護を――」
勝てるわけがない。
あんな、双剣士の連続剣を片手で凌ぎ、凌駕するスピードに。魔力によって超強化された皮膚で剣を弾くような怪物に。
「魔法は完成したわよ! 【炎術・追走する百の炎弾】!」
「――ダメだ! 魔力だけでかき消された!」
魔法使いの100発の魔弾を、腕から放った魔力だけでねじ伏せるような怪物に。
「やらせるか! 【特殊技能・攻撃誘導!】」
「――よすねっ! いくらキミでも耐えられる攻撃じゃないね!」
「やらないわけにはいかねぇだろ! 重ねて【特殊技能・不動】! 【特殊技能・鉄壁】! 【特殊――ガハッ!?」
幾つものスキルを重ねた上で身代わりに入った盾戦士を一撃で沈めるような破壊力に、俺達が勝てるわけがない……!
これが、人外の領域、最強の世界……!
小さな世界で小さな山の大将をやっている俺たちとは桁が違う、最強の名に恥じない人を超えた怪物……!
「かてる、わけが、ない……!」
圧倒的すぎる力の差の前に、リーダーである俺は指揮をとりながらも弱音が止まらない。
当たり前だ。こっちの攻撃は鎧はもちろん、皮膚にすら止められてしまう。対して、向こうの攻撃は盾と鎧の上から纏めて叩き潰すほどに苛烈。巨象と蟻の戦いと言われても文句が言えないほどの力の差の前に、絶望しない人間なんて普通いるわけがない……!
「リーダー! 次の指示を!」
「急ぐ! 防ぐの、無理!」
「――前衛二人で抑える! その間に回復と強化だ! 簡単には諦めんなよ!」
だが、だがよ……俺たちは普通じゃない!
冒険者最強チーム……栄光の象徴! 相手が強いからって諦めるほど、俺たちも楽な人生送っちゃいないんだよぉ!
「ぜあっ!」
俺は手にした大剣を思いっきりたたきつける。どうせ当てようとして当たるような化け物じゃない。
だが、奴は俺たちを試すような動きをしている。攻撃されればしっかりと防御し、あるいは回避している。奴の基礎能力なら余計なことしなくともただ力を振るうだけで俺たちなんぞ瞬殺できるはずなのに、最低限戦いの体が成り立つ程度に力を抑えている。
……舐められているってことだろうな。この力の差じゃ文句を言う気にもなれねぇが、その油断を命取りにしてやるぜ!
「――遅いな」
「だろうな!」
俺からすれば超高速で、シュバルツからすれば極当然なのだろう速度で奴は俺の剣の前に腕を伸ばした。篭手で防御するつもりらしい。
回避しようと思えば簡単だろうが、気まぐれに防御を選んだのだ。ならば、後は奴の計算を狂わせるだけってな!
(いいな、間違えるなよ?)
(オーケーボス!)
俺と同じタイミングで突っ込んできている仲間とアイコンタクトをとる。
戦場において、瞬時に意思疎通を行うのは基本技能だ。仲間との連携によって力の差を埋めてきた俺たちにとってこの程度は造作も無い。
さあ、行くぞ最強!
「フゥゥゥ……! 【特殊技能・呪縛剣】!」
「ほぉ」
奴の篭手に剣が当たる瞬間、スキルを発動させる。これは命中すると同時に相手に呪縛をかけ、短時間足を動かせなくなる効果を剣に持たせるスキルだ。
剣そのものは腕に巻いた篭手一つであっさりと受け止められてしまい、ノーダメージだ。だが、確かに呪縛は奴の身体を取り巻いた。
どうせすぐに解除されるだろうが、一瞬なら奴の足を止める事ができるはず。そうなりゃ、次の本命も効いてくるはずだ。
「――【特殊技能・鋭斬】!」
「おおっ!」
「いいぞ! 流石“四獣”だ!」
観客であるほかの冒険者の歓声と共に、刃物の切れ味を強化するスキルが施された双剣が奴の背中を狙う。
俺の剣を正面から受け止めた上に足を固定されているんだ。どんな超人でも背中が死角なのは変わらない。足を動かせない以上確実に斬れる――
「いや、首は危ないでしょ」
「ぐっ! 片手で――しかも後ろ向いたままで!?」
――わけもなかった。容赦なく守りがない首を落としに行ったのはいいが、きっちりそれを察知して俺の剣を受け止めたのとは反対の手で双剣を弾き落としやがった。
……というか、今のは目の錯覚か? 真後ろから切りかかってきた双剣を相手に、どうやって片手で凌いだ? どう見ても人間の関節の稼動域を軽く無視していた気がするんだが……?
「悪いな、最近とある事情で双剣には慣れていてね……伊達に毎晩心臓潰されて首を落とされているわけじゃない」
「は?」
「それに、身体を柔らかくするのは戦士の基本だぞ? とりあえず首を180度回せるようにして、ついでに肩は360度くらい回るようにするといい」
「お、お前はやっぱり人間じゃねぇ!」
クソッ! シュバルツの戦士は全身改造でもされてんのか!?
極当たり前に人間の常識無視すんじゃねぇよ! 少しは常識に遠慮しやがれ!
「さて、と」
「もう呪縛を――やべ」
軽く足に魔力を回し、シュバルツは俺の呪縛を振り払った。
そのままシュバルツは右足による蹴りを放つ。狙いは当然真正面にいる俺――
(避ける無理防ぐ無理逸らす無理スキルで無理――!)
走馬灯でも見ているかのように上げられていく足への対処法を考えるが、どんなことをしても不可能だと瞬時に悟る。
元々一対一に持ち込まれてどうにかできる相手じゃないんだ。一瞬とは言え一人でこの攻撃をどうにかしろなんて、無茶苦茶に決まっている――
「【特殊技能・身代わりの盾】!」
「ッ!?」
自分の生存を諦めかけたその瞬間、突如視界が切り替わった。
気がつけばおれは後ろに下がっており――そしてさっきまで俺がいた死地には、我らが頼れる鎧の盾戦士が仁王立ちしていたのだった。
「あ、あいつ……」
「ぎりぎり間に合ったね。あいつの耐久力は筋金入りね。回復魔法一つであっさり戦線復帰よ」
すぐ側に立っていたチームの回復役が俺に簡単な説明をしてくれる。
どうやら一撃で倒れたチームの壁役を回復させることに成功したらしい。元々その時間稼ぎで突っ込んだわけだが、本当に一瞬持たせるので精一杯だったな……。
「仲間と位置を入れ替えるスキル……いい能力だ」
「お褒めに預かり光栄だよ! 【特殊技能・受け流し】!」
本来俺に向けられていた蹴りは、スキルを併用した受け流しの技で無力化される。いくらシュバルツとはいえ、流石にそのつもりで放ったわけでもない攻撃じゃ盾戦士を一撃で沈めることはできないか。
「ピンチの後にチャンスあり、チャンスの後にピンチありってね! 【炎術・抉る炎槍】!」
「【特殊技能・剛力一射】!」
シュバルツが蹴りを放った直前、魔法使いと弓兵が同時に攻撃を放った。
敵の攻撃を凌いだその瞬間に後衛が打ち込む。よし、いつもの連携通りだ。貫通力の高い炎の槍が真っ直ぐ飛び、その後ろに筋力を強化した上で放たれた強弓が続く。“赤”の最強攻撃パターンと言える。
皆が皆、自分の役割を忘れずに動いている。確かに一人一人じゃあの化け物の足元にも及ばないが、俺たち“四獣”の精鋭戦闘チーム“赤”なら決して絶望的な戦いなんかじゃ――
「見事、って言っておこうか――唸れ、【嵐龍】」
「な、なぁ!?」
「ぐあっ!?」
何を思ったのか、シュバルツは蒼い剣を炎の槍と抉るような矢の前に掲げた。
そして何の気負いも感じさせることのないまま、軽くその魔剣に秘められた力を解放した。属性魔力を持っている武器なら簡単にできるだろう、初歩の初歩である力の解放だ。
そんなことで、あっさりと俺たちの攻撃は無力化された。剣から吹き上がった暴風と水壁によって、簡単にかき消されてしまったのだ。近くにいた、重装備で固めているために超重量である盾戦士を吹き飛ばすおまけ付きで。
「この状態でも使える防御用超小型嵐龍閃……【嵐壁】ってところか? メイの拳を受け止めることすらできずに吹き飛ばされる未完技だけど、まあこのくらいはできるか……」
ぶつぶつ言いながら自分の力を確認するように剣を振っているシュバルツを前に、俺たちは唖然となる。
ほ、本当に……ふざけんじゃねぇぞこの野郎。
俺たちの攻撃じゃ傷一つ付かない鎧に、並みの攻撃を弾く皮膚と筋肉。極めつけは軽く振るだけで魔法すら吹き飛ばす防壁を作る剣だと……?
マジでどうしろってんだよ!
「だが……流石冒険者最強だな。連携が巧みで一瞬の隙を突かれてしまう……。もし、もう少し早くて強ければ危ない場面が何度もあったな」
「グ……グッ!」
「やはりこの程度では失礼に値するな。準備運動はもう十分……そろそろギアを上げるぞ――ハァッ!」
「なっ、に……!」
その瞬間、奴を中心として魔力の暴風が巻き上がった。見る事はできなくとも感じられる濃密な魔力の渦。まるで魔物。いやそれ以上の圧倒的な力……。
全身を覆う魔力は肉体強化に使われているもの。正確ではないが、身に纏う魔力の力強さは本人の力そのものとも言える。つまり、今のシュバルツは化け物そのものであった先ほどより更にパワーアップしたということだ。
(手加減してたのは分かっていたとは言えよ……こりゃあんまりだろ……)
シュバルツの強さを支えていた圧倒的肉体能力。戦術面で手を抜いていたのはわかっていたが、まさか基礎の力そのものにまで大きく制限をかけていたなんて誰が思うんだよ。ここまで理不尽な性能を見せ付けておいて、その力すら手抜きだったってのかよ……!
こ、こんな理不尽、人生初めての経験だ……。外陸種の怪物が可愛く見えてきやがるぜ……。
「か、勝てるわけない……。い、いくらなんでも、これは……」
「無茶苦茶にも、ほどがあんでしょ……」
「人間が、勝てる相手じゃないね……」
仲間たちの絶望が聞こえてくる。俺にはリーダーとして、そんな弱気を吹き飛ばす檄を飛ばす気力も残っていない。
冒険者最強の矜持。それを背にしてここまで戦ってきた。
時に絶望することもあった。膝を屈することもあった。最近敗北したあの蒼ヘビなんてどこまでも理不尽だった。
だが、それら全ては過去のものとなった。レオンハート・シュバルツ。若き超越者。
この化け物に比べれば、今まで渡り合ってきた恐怖も困難もクソみたいなもんだ。
それを身体で、心で理解させられた俺は、俺たちから戦意が消えていくのがわかる。さっきまで騒いでいた観客まで静まり返るほどの圧倒的な力を前に、俺たちはついに心で敗北を認めてしまったんだ……。
「……? どうした? かかってこないのか?」
だが、奴はそんな俺たちの絶望に気が付いていないように軽く問いかけてきた。
戦う気力がなくなるなんて、想像もしていないような気軽さで。
「無理に決まっているだろう……俺たちに今のお前を倒す術なんてない……」
屈辱であるが、降参するしかない。最強の称号に自分で泥を塗るような行為だが、全く勝ち目のない戦いに挑んでも仕方がない。
これ以上やっても無駄に命を落とすだけ。それが俺の判断だ……。
「……俺はまだまだ修行中の身だ」
「あ?」
「強い奴と戦うのが怖いのはわかる。辛いのもわかる。逃げ出したいのもわかる……。でもさ、これって模擬戦だぞ? 実戦じゃないんだぞ?」
「……それがどうした?」
「敗北と死がイコールで繋がっている実戦なら止めるのも逃げるのもわかるさ。当然の選択だろう。だが――倒れるまで戦って問題ないこんな場で逃げたら、あんたら何と戦うつもりなんだ?」
シュバルツは極自然に、落ち着いた表情で突然そんなことを問いかけてきた。
……逃げちゃダメだってのか? ここまで圧倒的な力の差を見せ付けておいて、よくそんなことが言えるものだな……!
「もういいだろ。俺たちは負けを認める。お前の作る組織とやらにでも何でも入る。だから、もう……」
もう、終わりでいいだろ。こんなものを見せられて、これ以上立ち続ける力なんて俺にはないんだよ……。
「一つだけ、一つだけ言っておくことがある」
「……?」
「俺も毎晩強敵と闘っている。今の俺でも全然勝ち目が見つからないって強敵と。でもな……俺は一度も逃げたことはないぞ」
「なんだと……?」
この化け物でも勝てない相手なんて存在しているかも疑問だが、ひとまずそれは置いておく。
そんなことよりも……逃げてないだと? そりゃ自慢か? 俺は強いから逃げてなんていないんだぞっていうよぉ……!
「別に死ぬわけじゃないんだ。だったら、限界までやってみるべきだろ。今日勝てなくとも、明日勝つためによ」
「明日……?」
「俺より年上のベテランにこんなこと言うのもなんだけど、どうせ倒れるなら前に倒れろよ。逃げ腰で終えるくらいなら、全力で前に倒れた方が前に進めるもんだぜ?」
「前に……」
「自分より強い奴を前にしてただ立ち止まるような奴を、俺は冒険者だなんて思わない。そんな奴、俺はいらない」
「なんだと……!」
「俺が欲しいのは最強の冒険者チーム“四獣”だ。自分より強い奴に挑むって『冒険』ができない冒険者もどきに用はないぞ?」
……クククッ! 見え透いた挑発だな……。そんなことで俺が怒ると思っているのか?
ああ全く……勝てない相手と戦わないのは基本中の基本。負ければ死ぬこの業界で勇気と蛮勇を間違えるような愚か者は二流以下だ。
そう……それが常識だ。
「……なあ、みんな」
「何? リーダー?」
「今から俺は馬鹿なことをやるけど……いいかな?」
「……好きにしなよ。誰よりも自由なのが冒険者だろ?」
「……ありがとよ――」
何よりも、自らの生存が最優先。常に必勝を備え、確実な勝利を得る。それがプロの冒険者の仕事だ。
それができない奴は、まして勝ち目の無い勝負に何の勝算もなく挑むのは二流以下。それは間違いない。ないが――
「――ここまでボコボコにされている俺程度は、それでいいよなぁ!」
「……俺程度じゃないね。俺達程度、ね」
チーム“赤”としてはありえない選択肢。今まで一度もやったことがない、後先考えない特攻。
腹の底に力を入れ、体内に眠っている魔力を完全に開放する。後でどれだけの反動が帰ってくるかはわからない、一流の冒険者なら絶対に使わない部分の力まで完全にひねり出す。
ああ全く、最強の冒険者チームにあってはならない醜態だ、な!
「【特殊技能・限界突破】――ゼアァァァァァ!」
「お?」
シュバルツがやったように、俺たちの全身も強力な魔力で纏う。
同じ魔力を使う戦士だ。奴にできて俺たちにできないって道理はない。普通ならこんな力を肉体強化に回すようなことは、自分の肉体すら破壊するような馬鹿げた力を遣うようなことはせずに自分達の生存に力を回すのだが……偶には馬鹿になるのもいいだろう!
「……やっと本気になったか。こっちは初めからそれをベースに考えているんだよ」
「フン……こんな後先考えない特攻、絶対やるつもりはなかったんだが――な!」
普通なら絶対残しておかねばならない、逃げるための力。これを忘れないからこそ俺たちはあの蒼ヘビから生きて逃れることができたんだ。
それすら捨てた一撃。これで、少しは届く――
「初めから逃げること前提に戦う。生き残るためには必要な知恵だが――それじゃ壁は越えられない。だから――あなた方が超えるべき壁を見せよう!」
「なっ!?」
気が付いたら、目の前に拳があった。抉るように大気をねじ伏せながら進む拳が、俺の目の前に。
当然避けることも受けることもできるわけがないその拳の前に、俺は直撃を受けて一撃で吹き飛ばされるのだった。
「バンシ!」
「リーダー!?」
仲間たちが心配する叫び声を聞きながら、俺は空中を回転しながら吹き飛ばされる。
何だ? 何が起きたんだ? まさか、死力を尽くしてなお反応すらできないスピードで……?
「俺たちや上級魔族クラスなら自然とやっているレベルの身体強化術だぞ? 更に化け物クラスになると、これを属性魔力でやる奴もいるけどさ」
一瞬で意識を飛ばされそうになっているせいか、逆に奴の話がよく聞こえてくる。
そうか、これがお前たちの……人類最強の世界か……。
「クッ! まだね、まだ諦めるには早いね!」
「時間を稼ぎな! アタシの魔力全部使い切ってやるよ!」
「……いいね。じゃあ、本気で行くぞ!」
俺の仲間たちは、諦めずに俺と同様リミッターを解除した力で立ち向かっている。
だが、敵うわけがない。薄れ行く意識の中で何故か鮮明に感じ取れる戦いの模様……さっきより酷い。
圧倒的に蹂躙される俺の仲間達。そう、圧倒的にだ……。
「つ、つえぇなんてもんじゃねぇ……」
「あの“四獣”が……」
「あれがシュバルツ……人類最強の力か……」
観客席から感じ取れるのは驚愕と動揺……そして尊敬ってところか。
もし奴の提唱する組織に入れば、あの絶対的な力の傘下に入れるってことだ。日々命を賭けている冒険者からすればこれ以上ない後ろ盾になるだろう。力に怯えて去るものもいるだろうが、それ以上に憧れるものの方が絶対に多い。あのシュバルツについていけば、もしかしたら自分も同じ場所にいけるんじゃないかと夢見る者の方が。
そんな夢を、冒険者の中で最強と謳われる“四獣”を相手に見せられた。この圧倒的力を見せ付けられた。パフォーマンスとしては最上の出来と言ったところか。
(否定は、しねぇよ……。実に効率的なやり方だ。……でもなぁ、だからって、ただかませ犬で終わってやれるほど、俺はできた人間じゃぁ……ねぇんだよぉぉぉ!)
激しいダメージを無視して、震える身体に力を入れる。再び奴に立ち向かうために、俺は立ち上がるのだ。
俺じゃ勝てない事はわかっている。それどころか傷一つつけることすら困難だと知っている。
だが、それがどうした? 冒険者最強のチームを作った俺が、この俺が……他の誰よりも強さを渇望しないわけがないだろう!
「ヌアァァァァァッ!」
「ッ!?」
既に仲間たちは皆倒れている。一人につきパンチ一発。それで十分だろう。
そんな化け物相手に、俺は立ち上がった。
全身に漲るのはさっき以上の力。まるで奴に殴られたところから力が与えられたんじゃないかってくらい、今の俺は調子がいいぜ……。
「……随分魔力の力強さが上がっているな……超えるべき壁を提示したつもりだったんだけど、まさか見ただけで超えてしまったのか?」
「さあ、な。だがこの俺は……冒険者バンシは最強チームのリーダーだ! 並みの天才と一緒にするんじゃないぞ!」
自分の身体で奴の膨大な魔力に触れたのだ。ならばわかって当然だ。その、膨大な力の使い方をな!
「……力をぶつけられてすぐに強くなるとか……流石最強冒険者だな……主人公かアンタは」
「さあ、いくぞ……!」
俺は吹き飛ばされてなお手放してはいない大剣に力を込める。
いくら強がってもダメージは甚大だ。一撃放つのが精一杯なのはわかりきっている。
ならばおれはその一撃で、その一撃で壁を越えてやるまでだ。あのヘビ野郎に刻まれた敗北の痛みも何もかも、この一撃で吹き飛ばしてやる……!
「――【奥義・赤獣】!」
大剣に魔力を込め、同時に剣の魔力を開放する。
我が魔剣に秘められているのは炎の力。炎熱の力を刀身に纏わせ、低い軌道から一気に貫く最大最強の一撃だ――
◆
「いい攻撃でしたよ。炎の魔剣じゃなければダメージだったかもしれません」
全てをだしきって倒れた男――ベテラン冒険者バンシを俺は讃える。
最後の切り札として放たれた炎の剣。もし俺が親父殿と戦っていなければ――遥かに高次元の火炎の一撃を知らなければ、少し危なかったかもって思うくらいには強烈だったくらいだからな。
(流石に冒険者最強ってだけのことはあるか。単純な能力値じゃわからない強さってのもあるもんだ)
思った通り――いや、思ったよりも遥かに強かった。
彼らの力は事前にロクシーから聞いていたし、正直吸血鬼モードだけでも過剰だと思っていたくらいだったのだ。
事実、途中までは完全楽勝モードだった。あの程度の威力の攻撃なんて俺には効かないし、こっちの攻撃はガードの上からでも十分なのだ。それで苦戦するわけがない。
(……あと少しパワーとスピードがあれば、やばかったけどな)
この戦いで一番驚かされたのは、全員で行った限界突破でも彼らのリーダーであるバンシさんの最後の底力でもない。一番苦戦したのは彼らの連携だ。
絶妙に計算された時間差攻撃と互いを守りあうフォーメーション。あれがなければこの戦いは半分の時間で終わったはずだった。
自分より強い相手と戦う術。自分達の長所を生かし相手の長所を潰す立ち回り。まさに人間の戦い方って奴だ。
あれでこっちに届く力さえあれば、あるいは俺が負けていたかもしれない。そのくらいには彼らは強かった。思ったよりも、人類の未来は明るいのかもしれないな。
「ま、それも根本的なパワー不足を解消してからの話だけどさ。……さて、戦いは終わりだ! すぐに救護班を頼む」
俺は救護班を呼ぶ。極力後に残るダメージは与えてないはずだけど、念には念をだ。
負けたら俺たちの組織に入るって宣言したんだし、とりあえず“四獣”は大丈夫だろう。他の連中も“四獣”が入るのなら入るって言うだろうし、このパフォーマンスを見てなお反発する奴は早々いないはずだ。
まあ一部の気合入ったやつはそうでもないかもしれないが、それは時間で解決するしかないな。
さて――
(……そろそろ帰って寝よう。今日は疲れた)
まだまだ仕事はあるが、今日一日でだいぶ働いた。新人達の訓練を見てすぐここに来て演説、そのまま流れでバトルだからな。
体力的な意味ではまだまだ大丈夫だけど、精神的に大分疲労が溜まっている。
というわけで、俺は後の事はロクシーにたくし、一足先に帰らせてもらうことにした。
今日はこれ以上俺がいると脅迫みたいになってしまうから姿は見せないほうがいいって言われたしな。
その言葉に甘えてさっさと帰えることにしたのだ。
だが――
「た、大変よレオン! カーラちゃんの部屋にこんな置手紙が!」
「え?」
ランニングがてら走って戻った我が生家。
そこで出迎えてくれたのは血相を変えた母上。手にしているのは子供の字でかかれた手紙。
そこには――
『みんなへ
町にいるのあきてきたから外であそんでくるわね
まえにレオンが言ってたイセキとかってところに行ってくるわ
カーラ』
とだけ書き残されていたのだった。
(……遊びにって、こんな夜中に? しかも遺跡って……)
流石は吸血鬼の力をもつ少女と言うべきか、時間無視してフリーダムな行動に出たらしい。
しかも恐らく、この手紙に記されている遺跡ってのは多分……
「……新人や冒険者育成に役立つ場所ってことで調べてもらった魔物の巣だよな? 今度制圧しに行こうと思ってたんだけど……マジで?」
どうやら、俺がベッドに入るのはまだ先のことらしい……。




