第95話 未来の英雄
(装備選びも終わったはずだし、そろそろ始まるかな)
一次試験が終了して数日後、合格した4名は二次試験に進んだ。
俺の仕事は一次試験で終了しているのだが、気になるので見に来た。俺が近くにいるとアレス君が集中できないだろうから、試験会場から離れたところから眺めているだけだけどね。
近くにいい感じの高さの木があって、その枝が見物席に丁度いいんだ。常人の視力じゃ豆粒程度にしか見えないかもしれないけど、五感を鍛えている騎士クラスならこのくらいの距離は余裕だし。
(二次試験は例年通り合格者同士の戦闘。しかし今回は4人しかいないし、純粋な技比べになるのかな?)
この試験は俺が受験したときと同じように、騎士団側で用意した装備を各自選んでのタイマンだ。
俺のときは体力配分とかいろいろ求められていた気もするけど、今回は受験者数が少ないので純粋な実力勝負になりそうだな。
本当はペース配分や相手との相性を見極める状況判断力も審査の一つなんだけど……流石に総当りで三戦しかできないのにそんなこと言ってる場合じゃないし。
「第一試合、アレスVSマクシス!」
「はい!」
「行くッスよ!」
くじ引きの結果、一回戦は俺の弟子であるアレス君と一回戦で組んでいたマクシス君の試合となったようだ。
初っ端から三日間仲間として行動していた相手とぶつかるのは運がいいのか悪いのか……人数が少ないから仕方がないけど。
(アレス君はいつもと同じ長刃の片手剣に軽鎧。対してマクシス君は……ナイフよりは長いって片手剣に弓矢か。予備試験のときとは随分装備違うな)
予備試験のときは重量と破壊力特化の両手剣だった。それに相応しい腕力と身体はあるのに技術がないから不思議に思っていたけど、やっぱりここでは弓兵のスタイルできたか。
一次試験の時に見せた弓矢の実力から考えて、恐らくはこれが本命なんだろう。普段は距離を取って戦い、懐に入られたら刃物で牽制って王道スタイルだ。
「……弓、選んだんだ」
「ふっ……。自分、せっかく騎士になるなら剣持ちたいって思っていたッスよ。でも……こんな立派な弓矢見せられたら、いつの間にか持っていたッス。コレはコレでかっこいいッス」
試合場に立った二人はお互いの装備を確認し、話をしている。どうやらマクシス君が弓矢を持っていることが話題のようだ。
マクシス君の持っている弓は、本職の弓兵用に作られた戦闘弓かな。
アレは確か、相手の鎧や魔物の強靭な皮膚を突き破るごつい矢を放つための武器だったはずだ。威力は素晴らしいが、反面相当の筋力と体躯がなければまともに扱えないって代物だな。
そこから放たれる矢は完全鉄製で、一本一本が剣を作るのと同じような工程で作られているとか何とかって話だ。やろうと思えば矢を短めの棍棒や槍の代わりにできるらしい。
もちろんそれを飛ばすのはかなり大変だが、この世界の人間が本気になって鍛えれば簡単に飛ばせる。まさに戦うために作られた武器だな。
マクシス君に扱いきれるかは興味深いところだけど……身体能力的には問題ないだろうな。あの子の身体は野生の獣を彷彿とさせるような自然な強さを感じさせるし――っと、そろそろ始まるか。
「――始め!」
「――射ッ!」
(気配が変わった。あれが本来の姿か)
審判の合図と共に、二人武器を握り締める。アレス君は剣を、マクシス君は背中の矢筒の中身に手をかけた。
するとその瞬間、マクシス君に大きな変化が生じる。矢に手をかけた瞬間、纏っている空気が豹変したのだ。
常の状態はどちらかと言うと平和で暢気な穏やかさを感じさせる子だけど、今のマクシス君は全く違う。まさに獲物を狙う狩人と言った鋭い殺気を纏いつつ、その気配をほとんど感じさせない殺気を殺す術。
この変化は……闘気開放――というより闘気内包とでも呼ぶべきか? まあとにかく武器を、弓矢を持つことでスイッチが入るタイプってところだろう。彼の肉体は野生の獣を思い出させる――なんて思ってたけど、今の姿こそまさにそれだ。獲物を狙い、極限まで集中する姿。狩りをする獣がそのまま人型になったような子だな。
だが――
………………
……………
…………
………
「ま、まいったッス……」
「ふぅ。ありがとうございました」
決着はあっさりとついた。戦闘開始と同時にマクシス君は連続であの強弓を使いこなして見せたが、アレス君はそれをうまく弾いて接近、そのまま剣の勝負に持ち込んでそれで終わりだ。
純粋に実力の差が出たともいえるが、これはマクシス君の運が悪かったな。
試験はお互いにある程度の距離を取った状態から始まるわけだけど、アレス君は俺の弟子であり、戦闘スタイルも基本同じだ。俺と同じくもっとも鍛え上げているのは足腰であり、瞬発力を初めとするスピードは徹底的に鍛え上げている。距離を取らねばならないマクシス君は当然戦闘開始と共に下がったんだけど、速度の差がありすぎてあっさり懐に入られたわけだ。その後一応剣を手にしてはいたが、近接戦が専門のアレス君に勝てるわけもない。
まあ逆に言えば、遠距離主体で戦うのなら距離を詰めさせない技が求められるわけだけど……動きを見る限りマクシス君は対人経験に乏しく、間合いの計り方なんかは知らないのだろう。この辺は経験の差だな。
しかし、経験や技術なんてのはこれからたっぷり身につけていけばいい話だ。才能自体もあるようだし、肉体的にも恵まれている。この先の師と環境次第では大きく化ける可能性がある人材と言っていいな。俺が試験官なら10段階評価の8くらいはつける。
「第二試合! アレスVSフィーリア!」
「はい!」
「しょ、承知した!」
次の試合が早速決定した。アレス君連戦か。
まあ人数少ないし、そう言う事もあるだろう。一戦して身体が温まっていることだろうし、せっかくの勢いを殺さないためにも連戦はいいことかもしれない。
「あの子は確か……フィーリアちゃんだったかな? 中々いい腕の槍兵だったけど」
アレス君の対戦相手は、俺も一次試験で相手した女の子だ。中々いい腕の――正式な使い手の教えを受けたって印象を受ける子だった。
あの子たちのチームには俺も一本とられたからな。まあそれほど気にすることでもないんだけど、十分期待できる人材と言えるだろう。
「――始め!」
「カーティス槍術塾塾生フィーリア、参る!」
「レ、レオンハート・シュバルツの弟子、アレスです! よろしくお願いします!」
……年上のお姉さん相手だからか、アレス君がちょっと動揺している。ムーンライト一座にいたとき大分弄られていたからな。年上の女性に苦手意識が生まれたのかもしれない。
メイくらいにまで女の前に戦士を感じさせる相手なら問題ないだろうけど、まだまだそこまでは行ってないもんな。ある意味天敵か?
「ハァァァァッ!」
「――ッ!」
フィーリアちゃんが果敢に攻め込んでいる。アレス君は今まで槍兵と戦った経験はないはずだし、ちょっと戸惑っているな。
それにしても……直接相手にしたときにも思ったけど、一撃一撃の動作がとても綺麗な子だ。きっと何度も繰り返して基本の稽古を積んだんだろう。侮蔑の意味じゃない、いい意味での教科書のような動きだ。
(槍の腕前ってところだけで評価すれば相当なものだ。俺の元で本格的に剣を習い始めてまだ半年も経ってないアレス君とは武にかけた時間が違う。武術の腕前だけで言えばアレス君ではまだ敵わないだろうな)
あの動きは長い年月をかけてこそできるものだ。一朝一夕でできる技ではない。手放しに賞賛したくなるくらいにいい動きなのは確かだ。
確か、なんだけど……それでもアレス君に一撃も当てられていないのもまた事実なんだよなぁ。
(アレス君の防御は大分様になってきたな。流石毎日死なない程度に叩きのめしているだけのことはある)
精神的な動揺もあって先手を取られたため、アレス君は俺の教えどおりにまず防御に徹している。
相手に何もさせないのがベスト。しかし相手に先手を取られたのならば情報収集に徹し、無理に攻め返すな。そう教えているからな。あの子は俺と違って一度に複数のことを考える頭脳を持っているタイプだ。まあ、考える前に動けってスタイルの俺でも結局相手の情報を集めることになるんだけども。
しかし、本物の武器を前に防御に徹するのはかなり怖いことだ。それを克服するのは長い鍛錬を積むほかなく、殺し合いの世界に身を投じて日が浅いアレス君にはまだ難しい話だろう。
が、恐怖を鍛錬で克服できるのならば不可能ではない。普通は時間をかけなければできないというのなら、普通じゃない密度でやればいいだけの話だからな。
具体的には慣れるまで攻め続ける。攻撃を前に眼を瞑るのではなく見開くようになるまで打ち続ける。全身で敵の攻撃を捉えようとしてなおぶん殴る。つまり死の体感をやらせる。それを毎日繰り返せば嫌でも武器への恐怖は克服できるって寸法だ。
その鍛錬の成果か、アレス君は唸る槍を全て避ける、あるいは弾いている。そして敵の動きの癖を見抜き、自分の攻撃が通るのか見極めようとしている。訓練通りのいい動きだね。
「クッ! 何故だ、何故当たらない!」
その俺の教えどおりに動くアレス君に、フィーリアちゃんは一発も当てられていない。そのことに焦れたのか、フィーリアちゃんは悲痛な叫びをあげた。
まあ、普通に見ればアレス君は12歳になったばかりの小さな男の子だ。そんな子供に長い間鍛えたのだろう自分の槍術が通用しなければ叫びたくもなるか。
「森の鎧騎士も、私の槍をあっさり防いだ! オラ――私は、そこまで弱いか!」
「え?」
「どこを狙っても未来を見ているかのような正確さで弾かれた。そんなにオラの槍は、軽りぃか!」
怒りの咆哮と共に、フィーリアちゃんは大きく槍を引いた。同時に全身を覆う魔力が槍に集まっていき、全力乗せた大技を放つつもりだと分からせる圧を感じさせている。
だが――
「――甘いっ!」
「クッ!?」
その技をだす一瞬の溜め――それを見逃すほどアレス君も甘くはない。全ての攻撃を弾かれている状況でそんな攻撃が通る道理はないだろう。フィーリアちゃん、どうやら焦っちゃったみたいだね。
アレス君はフィーリアちゃんの隙を突いて、がら空きになった胴体に蹴りを叩き込んだのだ。剣には警戒していても体術に警戒が薄い。道場武術はしっかり学んでいるようだけど、実戦経験は足りていないって感じかな?
「がはっ、グッ!」
(……アレス君の蹴りをまともに受けて倒れもしないか。やっぱり相当鍛え上げているな)
フィーリアちゃんは大きく吹き飛ばされるも倒れることなく、そして槍を手放すこともなく立っていた。
最後まで武器を手放すな。それは武器使いの基本にして奥義みたいなもんだ。腕がちぎれても武器は手放すな――なんて、俺も親父殿に言われたしな。
……まあ、だからと言って攻撃が効いていないというわけではないみたいだけど。
涙目になって蹴られた腹を押さえつつプルプル震えている姿を見れば、まあ相当痛かったんだろうなと誰でもわかりそうだ。
俺とメイとの戦闘を見て不完全ながらも覚えたらしいクン流の『インパクトの瞬間に捻りを加えることで内臓までダメージを浸透させる蹴り』だったのにいい根性しているな。
「……オラ、そんなに弱えぇか?」
「え? あの……?」
「塾じゃ一番だったんだ! 村の皆さに、約束しただ。だがら――オラ、絶対に負けるわけにはいかねえんだ!」
「え? え!?」
フィーリアちゃんは痛みを吐き出すかのように叫んだ。……なにやら雰囲気が大きく変わったのは気のせいだろうか?
まあどうでもいいか。とにかく、フィーリアちゃんは豹変すると共に再び槍を構えて突進を仕掛けた。痛みでもう動けないかと思ってたけど、全くダメージを感じさせない――むしろ力強さが増しているような動きだ。
アレス君は突撃槍を辛うじて回避するも、そのまま猛攻に晒されている。ありゃ、さっきよりなお早いな。
「うわぁぁぁぁんっ!」
「え、ちょ、うわっ!」
何か精神的に不安定になっているのか、フィーリアちゃんは泣き叫びながら攻撃している。今までの毅然とした『教科書に載っていそうな騎士』とは全く違う、その辺の村娘みたいに無防備な泣き声だ。やっていることは激しく物騒であるが。
……どうやら、テンパるとわけがわからなくなるタイプらしいな。それでも技が乱れないのは訓練の賜物と褒めるべきだろうけど……年上の女の子に泣きながら襲い掛かられる経験なんてないアレス君は完全に困惑している。
まあ、アレス君はアレス君で防御の技に乱れはないけどさ。多少動揺したくらいで守りが脆くなるような鍛え方はしていない。
そして結局、二人はまた同じことの繰り返しに戻った。フィーリアちゃんの攻撃をアレス君が凌ぎ、たまに見せる連携の隙を突いて一撃入れる――その繰り返しに。
アレス君に容赦はない。一撃一撃を正確に捌き、撃てる全力の一撃を叩き込んでいる。女の子相手に心配したり混乱したりする脳と戦闘の脳がいい感じに切り離されているようだな。いい傾向だ。
「ご、ごうなっだらお師匠さん直伝――」
「んっ!?」
繰り返される一方的なダメージに、フィーリアちゃんは再び大技の構えを取った。
すぐさまアレス君は技を潰そうと前に出るが、しかし今回はフィーリアちゃんのほうが一枚上だった。相当時間をかける技のように見せたが、しかしそのスキルはアレス君の攻撃より早く発動したのだ。
「――スキル発動【三叉の魔刃】!」
フィーリアちゃんの魔力が槍へと伝わり、形を変える。金属の柄の先に一本刃がついているシンプルな形状であった槍から、二本の魔力刃が生えてきたのだ。
それによって、彼女の武器は三叉の槍と化した。単純に攻撃面積を広げる――それだけなら、確かに高速で完成させられるな。
「オラのとっておきだ! これは簡単には止めらんねぇよ!」
大技をとめようと前に出て防御が崩れているアレス君に、フィーリアちゃんはトライデントを振るう。
今までと同じでは防げない三本の刃。しかも魔力を物質化したそれは簡単に止められるものじゃないし、アレス君もこのままでは無傷とはいかないだろう。
さて、どうする……?
「――こっちも、師匠直伝! 【加速法・三倍速】!」
フィーリアちゃんの一撃の前に、アレス君がとったのは加速法。真正面からスピードでねじ伏せに行ったのだった。
「なっ!?」
「――もらった!」
攻撃範囲を広く取ることで命中率を上げたフィーリアちゃんに対し、アレス君は三本全てを高速任せで回避してみせた。
そして、そのまま高速を維持してトドメの一撃を――手にした剣を振り上げたのだった。
「――【瞬剣・双牙】!」
「が――あっ!」
高速で振るわれた二筋の剣閃。刃は立てていないがそれでも高速で振るわれる金属の塊。それがフィーリアちゃんの手と肩を打ち据え、武器を弾き飛ばした。
同時にアレス君は首筋に剣を添える。正真正銘、王手だな……。
「……僕の、勝ちです」
「う、うぅ……ま、まいった」
フィーリアちゃんは目に涙を浮かべながらも、素直に負けを認めた。
結局最初から最後までやられてしまった形だからな。相当悔しいんだろう。
試合が終了して両者が離れた後も顔を上げずに俯いている。自分よりもずっと小さい子供に敗北するっては、想像以上に心に来るんだろうな。彼女はかなり鍛え上げている武芸者のようだから屈辱も一入だろう。
……とは言え、訓練に裏打ちされた様々な技術。十分な力を見せてもらえたと思うけどね……。
「次……第三試合! アレスVSナーティア!」
「ま、またですかぁ!?」
試合が終わってホッと一息ついたところで三回戦の合図がかかった。なんと三連戦だ。四人しかいない以上一人三試合だっていうのに、随分早くに出番の来る子だね。
……昔を思い出すなぁ。俺も身体バラバラになりそうになりながら戦ったっけ。流石に今回は加速法を使った後だし、多少は疲労しているかな?
運はよくても試練に恵まれるタイプらしい。まあ道を歩けばトラブルに当たるような体質でもあるわけだし、予想はできた話かな。試練を超えれば超えるほど人は強くなるわけだし、むしろこれは幸運だと思って最後の一戦、頑張ってみなさい。
「……よ、よろしくお願いします」
「あ、はい。よろしくお願いします」
試合場に最後の一人、ナーティアちゃんが入ってきた。
以前も思ったけど、本当に小さい子だ。書類上では16歳と俺ともほとんど違わないらしいんだけど、アレス君と同世代に見えるもんな。
「では――始め!」
「ふっ!」
試合開始の合図と共に、アレス君が突っ込んだ。どうやら身のこなしや装備から遠距離タイプと判断して速攻に出たようだな。
連戦の疲労も考えれば疲れが出る前に終わらせたいと思うのは当然だけど……そんなに甘くはないと思うぞ?
「――お願い【精霊術・泥の精霊の悪戯】!」
「えっ!?」
ナーティアちゃんが高速で魔法を完成、本当に素早く完成させた途端、アレス君が沈んだ。
アレス君の足元が一瞬の内にぬかるみに変わり、足を止めさせたのだ。
「足場が――水術? 土術? って、何これ!?」
アレス君は足場を崩されたことを悟り、咄嗟に後ろに跳んだ。足を取られたままではうまく力が入らなかっただろうけど、そのくらいで動けなくなるような柔な足腰ではない。
だが、遠く離れた安全地帯へと移ったアレス君は驚愕した様子を見せた。事前に確認して何も起きていない場所へ跳んだはずなのに、アレス君が着地すると共にまたぬかるみが広がったのだ。
「僕の足元を泥に変えたんじゃなくて、僕が立つところが泥に変わった? これはいったい……?」
アレス君は動揺を押さえ込んで冷静に観察した。そして気がついたのだ。さっきまでぬかるみだった場所が何事もない地面に戻り、逆に今立っている場所がぬかるみと化していることに。
まるで幻術。しかし紛れも無い現実の現象。混乱するのも無理はないが……どうするのかな?
(あの子は一次試験で俺から一本とった功労者だからな。単純な数字で判断できる実力以上のものを持っているぞ?)
俺は今戦っているナーティアちゃんとさっきのフィーリアちゃんチームと一次で戦った。まあ正確には試験官として対峙しただけで戦ってはいないのだが、とにかくぶつかった。
当たり前のことながら、あの子らのレベルで俺が傷を負うことはない。その気になれば瞬殺するのもわけないし、試験のルールに乗っ取ったハンデと手加減ありでの勝負だった。
だがそれでも――俺を相手に得点である情報筒一本取った事実に変わりはない。基礎をしっかり身につけたフィーリアちゃんが前衛に立ち、意外性溢れるナーティアちゃんの魔法で攻める。その連携は俺にも通用するレベルだったのだ。
「――はっ! よっ!」
アレス君はその場から瞬時に跳び上がり、数回別の場所に着地した。
しかしその全てでアレス君の足が触れた部分がぬかるみに変わり、絡めとる。まさに魔法の技だ。
(アレス君、敵の技の特性の解明もいいが……魔法使いに時間を与えるのは悪手だぞ?)
アレス君が発動された魔法の特性を調べている間に、既にナーティアちゃんの第二手が完成しようとしている。
大地への踏み込みで力を得る戦士にとって沼の魔法は致命的だが、それに構いすぎて魔法完成の時間を得ることが最大の課題である魔法使いに時間を与えるとはまだまだ経験不足だね。
俺ならわからないものはわからないと諦めてぬかるみで戦う方向にシフトするだろうけど、ちょっと慎重すぎたかな?
「頑張って――【精霊術・風の精霊の怒り】!」
「これは――風の攻撃魔法!?」
発動したのは風の魔法。しかし俺が使う風術とは根本的に原理が違う魔法だ。
(……モード・吸血鬼)
俺は吸血鬼化し、魔力を見る目を得る。そして改めて試合を観察すると――
(アレス君を囲うような形で滞空する風の刃……数にして20って所か。アレだけの数を一度に構成できるとは、精霊魔法ってのは凄いもんだな)
アレス君の周囲を飛ぶ刃は風の特性もあり視認することはできない。例外は今の俺のように魔力を見切る目を持っているか、あるいは彼女――精霊魔術師ナーティアのような特異な能力者だけ。
努力では決して習得できない、先天技能を前提にした魔法。超高速で発動でき、その効果もでかいといいとこ尽くしの魔法こそが精霊魔法、か。その分致命的な欠点も抱えているとか資料には載ってたけど……詳しい事はわかってないんだよな。
(とにかくアレス君、油断してるとやられるぞ? 技としては俺にも通用するレベルだからな)
いくらなんでも試験で吸血鬼化するわけにもいかなかった。だから魔力視の能力は使わずに相手していたのだが、そのせいで不意を撃たれてしまったのだ。
まあ鎧もあって俺自身にダメージはなかったけど、代わりに腰に差していた情報筒が一個切られてしまったんだよね。
「――クッ!」
「お、避けたか」
アレス君は突然前方に飛び込むように跳んだ。自身目掛けて飛ぶ風の刃を避けきったのだ。
風の流れを読んだのかただの勘か……あれは気影では対処できないはずなのに、アレス君は最初の一発を避けたのだ。
先天的な資質に支えられた魔法を相手にしても早々やられはしないか。あの子も天賦の才って点では他の追随を許すことはない逸材だし、当然と言えば当然だけど。
「……僕にはアナタの魔法が全く読めない。だから――全力で攻めさせてもらいます!」
「ひぅ……!」
「加速法――」
「お、お願い精霊――あ! ちょっと待ってよシーちゃん! もうちょっと頑張って――」
アレス君は自分が危機的状況にあることを察し、逆転すべく賭けに出る気になったようだ。
狙いは加速法による正面突破。普通にやっても足を止めるぬかるみのせいでうまく動けないだろうけど、そのロスを加速法で強引に埋めるつもりだ。
対してナーティアちゃんは……何故か困っている。
よくよく見るとアレス君を囲っていた風の刃がどんどん小さくなっているし……魔法の制御が乱れているのか?
ここは突撃してくるアレス君を止めるために二人の直線コースに刃を配置してトラップにでも使うべきだし、自分で消しているわけないよな……?
「【瞬剣・竜の両翼】!」
「――きゃぁ!?」
アレス君は高速で二度の斬撃を放つ双牙の発展系――斬るのではなく大きく振るなぎ払いを連続で放つ技を使った。
あれなら進行方向に何があっても吹き飛ばせると踏んだのだろう。実際にはまあ何もなかったから余計な心配だったわけだが、あの子にはあの子の勝算があったわけだ。
当然、何の防御もできていないナーティアちゃんはアレス君の剣をもろに受けた。技の性質上剣の腹で大気を吹き飛ばしているので斬られたわけではないが……ありゃ完全にノックアウトだな。
「……勝者、アレス!」
こうして、アレス君の二次試験は終わった。三連戦全ての試合に勝利。まさに圧巻の結果と言えるだろう。
「がふっ!」
……勝利で気が緩んで、加速法の制御を失敗して倒れていなければだけど。あれは一歩間違えれば自爆技同然の危険な技なんだから、多用すればまあそうなるよな。今のアレス君に実戦の中で一日二回も全力発動するのはまだ難しいだろう。
アレス君からすれば正体不明の魔法に対抗するための苦肉の策であり、似たようなことを何度もやった俺が何か言うのもアレなんだが……ま、師匠として後で怒っておこうか。
結局あの手の技は身体で覚えるしかないってのもあるし、今日の経験は明日の財産になるだろう。
今は反動の痛みに耐えて、次につなげればいい。俺は師匠として昔飲まされた糞不味いポーションでも持っていくとするかね……。
その後、アレス君以外の三人の試合も行われた。
結果はともかく、三人とも優秀だ。戦闘の最中で成長すら見せるところもあるし、期待十分ってところだろう。
結果は聞いていないが、まあ全員合格だろうと俺は思っている。あれならちょっと鍛えれば十分通用するだろう。
さて、今後が楽しみだね……。




