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【番外編完結】他力本願英雄  作者: 寒天
上級騎士のお仕事
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第93話 アレスの試験

「……なんだかなぁ」


 見習い試験は無事開始された。俺は着慣れない純白の全身鎧で顔を隠し、最低得点のターゲットとして試験会場である森に入っている。

 なんとも懐かしいような気持ちになる場所であるが、そんなことよりもとりあえず暑い。全身鎧は嫌がらせのように暑い。後動きにくい。ついでに、声で中の人がばれないよう近くに受験者がいるときはだんまり強要されるのも地味に辛い。


 しかも公平を期すために、試験官も試験期間である三日森に入り続けることになっている。実力で及ばない相手は時間をかけて憔悴させる――というのも立派な作戦だからだ。

 だから、俺はこの忌々しい鎧と三日も付き合わなければならない。誰もいないところで脱いで水浴びくらいはできるだろうが、何とも憂鬱な三日間になりそうだ。


 なんて思って始めたのだが……うん。今は別のことで憂鬱だわ。


「あんた等、もう少し考えて動いた方がいいぞ?」


 俺も余り考えるタイプじゃないがな、なんて思いながら目の前で気絶する受験生数名に愚痴る。

 こいつらはアレだ、俺が白騎士だと見て即攻撃に移ってきた。どうやら試験内容を聞いて数が多いほど有利だという結論に達したらしく、本来二人一組で行われる試験を六人のパーティで挑んでいるようだった。

 まあそれは別に問題ではない。困難を前に数を集めるのは非常に有効だし、試験と言う競争環境に惑わされずに手を取り合えるのは高得点だと言ってもいい。


 が、だからと言って油断していいわけじゃないんだけどな。


「こんなクソ重い全身鎧相手に六人がかりで一撃も当てられなかったら実力差察しなさい。こっちは10分以上待ったんだから」


 受験生には知らされない裏ルールの一つとして、試験官側は戦闘開始から10分間積極的に攻撃しないというのがある。

 俺もそれに従って重たい鎧のまま集団攻撃を全弾回避したんだが――こいつらはその猶予期間にこっちの危険性を察して策を練るとか一切やらなかったのである。結局時間切れで攻撃解禁と言う事で、六人全員で俺の『死ぬことだけはないパンチ』をお見舞いされたわけだ。

 中には俺より年上もそこそこいるってのに、危機感なさ過ぎだと思うのは間違いじゃないと思う。


「コレが試験じゃなかったら全員死亡。数が多ければ有利だけど勝てるとは限らないってね」


 正直、最初の数手で相手の実力に気がつかないのは問題外だ。本来無理に戦う必要のない相手に拘ってこの様とは失格確定である。

 流石に放置するほど俺も鬼じゃないから回収班はもう呼んであるけど……前途多難だな、人類は。


 さて、俺は俺でまた適当に気配を隠すことなく移動するか。

 ……正直、狙われる立場であるべき俺が全く気配を消していない時点で罠だと気がついてほしいんだけども。


(まあ、見習い未満レベルじゃそこまで気が回らなくても仕方がないけどさ。でももう少し優秀なのはいないものか……ん?)


 この試験の合格者の中から俺の部下を選ぶ予定になっている。せめてもう少し強いのはいないかとため息を吐いたとき、兜の内側に張り付いている通信符から声が聞こえてきた。


『聞こえますか、こちら通信班です』

「聞こえています。何かありましたか?」


 試験運営の人員は皆魔法通信網で繋がっている。何か有事の際には即座にこれを使って対応することになっているのだ。


『そのぉ……次々と試験官側の騎士がやられています』

「え? どのくらいの数がですか?」

『現在見習い騎士(しろ)3人、下級騎士(きいろ)2人、中級騎士(あか)1人です』

「……まだ試験開始して2時間くらいですよね?」

『はい。とあるペアが破竹の勢いで倒しまくっています……』

「その、やられたってのは点数を取られたって意味じゃなくて……?」

『はい、その……正面から叩きのめされて気絶させられてます。当然倒れたのでその試験官が持っていたポイントの書簡は全て奪われています』

「……俺、念のためって書簡10個持たされてますよ?」

『ですから、そのペアは現在白の書(1点)を30個、黄色の書(3点)を20個、赤の書(5点)を10個で合計140点ほど持っているんですよ……』


 ……俺の記憶が確かならば、この試験の合格ラインは10点だったはずである。

 そのペアは軽く14チームほど合格させられるだけのポイントを持っていることになるが……その認識でいいんだろうか?


 でもそれって……何か問題あるのか?


「いいことじゃないですか。優秀な騎士候補がいるんだから」

『まあそうなんですが……正直に言いますと、ここまで現役騎士が戦闘不能に追い込まれる事は想定していませんでした。急いで回復班を向かわせていますが、現在森の中で受験生がポイントを得るのが困難になっているのが実情です。ですので受験生同士の潰しあいが起きる可能性が高まっているので、十分注意してください』

「ああ、そういうことですか。了解です」


 俺は通信班からの連絡に頷き、通信を終了した。


 この試験では、あわせて10点以上のポイントを獲得しなければ失格となる。合格するためにポイントを入手する方法は、もちろん全身鎧と10分間攻撃禁止のハンデを背負っている騎士から奪うことだ。

 だが、実はもう一つ方法がある。それが他の受験者を狙う方法。他の受験者が入手した情報筒を強奪して自分達の物にするって方法だ。

 野蛮だとか反則だって認識をされても文句言えない手段であるが、実のところこの試験では合法だ。試験官側も認識している当然の方法って認識なのである。

 実際、重要なアイテムを入手することよりそれを守ることの方が難しいって事はよくあることだ。早めに合格点まで入手したら後は試験終了まで気楽に――ってわけにはいかない。今度は他の受験者から自分達のポイントを守る戦いが始まるのだ。


 とは言え、それはある程度試験後半になってから始まるはずだった。

 単純に序盤で他の受験者を攻撃しても、大抵は1点も持っていないだろう。どうせやるならポイントを入手できたほうがいいに決まっているので、他の受験者つぶしは後半に集中するというのがこの手の試験の通例なのだ。

 ところが、そのペアが暴れてくれたおかげで得点元のターゲットが大幅に数を減らしている。だから仕方なく他の受験者を潰し、得点できなくてもライバルが減ればそれでよし――と言う発想に至る者が出てくるのは時間の問題だろう。


(まあそれはそれでいいんだけど……未熟な奴ほど加減が下手だからな。俺も『一応生きてはいる』状態になる威力を見極められるようになるのは苦労したし)


 この試験は『死んでも自己責任です』って誓約書書かせているくらいには危険なものだ。だから受験者同士で殺しあっても仕方がないことだと罪にはならない。

 が、それでもできるだけ死人は出したくないってのがこっちの本音だ。こんなところで死なれても犬死でしかないわけで、本当に死ぬような攻撃は可能な限り止めるのも試験官の役目なわけだ。

 試験のことは別にしても、森の野生動物に殺されかけたりとか、沼に嵌って抜け出せなくなるとか、そんな受験者のために救助班を森の中に配置しているくらいだしな。


(しかしどこの誰だよ、こんな超序盤から仕事増やしてくれた優等生は)


 優秀なのはいいことだけど、もうちょっと加減して欲しいものだよ本当に。

 とりあえず巡回がてら間違いが起こりそうな、戦闘音のする方を適当に探してみるとするか。

 あ、それと――


(俺も水確保しないとまずいか。森を軽く回ったら水源の方にも行かないとな)


 俺は見回りだけではなく、水と食料の確保もやらなきゃいけないかと心のメモ帳に記す。

 この試験、試験官側も自力で自給自足が求められるんだよね。まあ、食事中とか絶好の襲撃タイミングだから仕方ないんだけど。

 そんなことを思いながら、試験官には一応教えられている森の地図を思い出しつつ俺は受験者達の様子を見に行くのだった。



「あのー。もう十分ポイントは集まったんだし、無理に動かなくてもいいんじゃない?」

「いやッス! 自分が全く活躍しないまま終わってたまるかッス!」

「でもねマクシス……」

「うっさいうっさいッス! いいからアレスは自分についてくればいいッス! 今度は手ぇ出すなッス!」


 すっかり興奮して大またで歩いているパートナーを前に、僕はどうしたものかと頭を掻く。


 師匠に内緒で受けた見習い騎士試験。15歳未満対象の予備試験は簡単だったけど、本番はそうはいかないだろうと思ってた。

 でも……はっきり言って簡単だった。ターゲットである鎧騎士側のハンデが大きすぎて勝負にならないんだ。既に説明段階で聞いた合格点の十倍くらい獲得しちゃったし。


 でも……予備試験で一緒に合格した縁でチームになったマクシス――パートナーに敬称はいらないと『さん』付けを止められた――はこの結果が気に入らないらしい。

 まぁ、いざターゲットを発見――適当に歩いていたら何故か何度も遭遇した――したら剣を抜いた体勢で固まってただけだし、納得でき無いのは無理ないのかもしれないけど。


 でもしょうがないよ。僕も村で吸血鬼の兵士と戦ったときは怖かったもん。マクシスは今まで村で一人稽古していただけで実戦経験はないってことだし、剣を手にできるだけ立派だと思うし。

 それで本人が納得できないから今も肩を怒らせて叫んでいるわけだけども。


「どこだー! でてこーいッス! このマクシスが相手をしてやるッス!」

「あの、一応これ姿を隠しての奇襲前提だと思うんだけど……」

「天下無双の大剣豪、マクシス様はここにいるッス! いざ尋常に勝負ッス!」

「聞いてないや」


 ……まあ、こんな大声で叫んでいれば逆に誰も来ないかもしれないし、とりあえずいいかな。僕が他の受験者や試験官の立場だとしたら間違いなく罠だと思うし。

 少し前までの僕と同じく村から外に出たことなかったのに何故天下を語るのかちょっと気になるけど……うん、マクシスってカーラさんと気が合いそうだね。



……………………

………………

…………

……



「でてこーい……ッス……」

(そろそろ水と食料探さないと危ないかな)


 歩き続けて数時間。そろそろ疲労が見えてくるころだ。

 実際叫び続けてすっかり声がかれてしまったマクシスだけど、いい加減僕も水が欲しくなってきた。

 森に入る前極少量の水を渡されはしたけど、とてもこれだけで三日間生き抜くのは無理だ。とりあえず、無駄に叫んだせいでとっくに自分の分を飲みきってしまっているマクシスは絶対に無理だろう。

 もし飲まず食わずでこのまま行ったりすれば……死にはしなくとも最終日にはまともに戦えなくなるだろうからね。


「ケヘケヘ……。み、水が欲しいッス……」

「うん。今探しているからちょっと待ってね」


 村にいたころは外に出ちゃダメだっていつも聞かされていたけど、それでも辺境の村で僕は暮らしていたんだ。

 この手の人の手が入っていない森なんて、僕にとっては慣れ親しんだ庭みたいなもの。歩き回って大分森の全体像もわかったことだし、水源を探るのはそう難しいことじゃないはず……!


(木々の発育具合、草の生息状況。そして獣道の方角から想像するに……多分、あっちに水場があるはず!)


 経験と勘に従って、僕は歩き出す。もはや『自分の後ろについて来い!』と叫ぶ元気を失ったマクシスは黙って僕についてきている。

 そして――


「ゴクゴク……ぷはぁ。いやー、生き返ったッス」

「そうねー……うん。これも食える」


 僕とマクシスは無事に水場にたどり着いた。透き通った水で満たされた湖のような場所で、近くには果物をつけている木々も豊富で食料にも困りそうにない。拠点としては絶好の場所だろう。

 マクシスは一心不乱に水を飲みまくっている。その間に僕は果物を幾つか集めてきてそれぞれを少しずつかじる。そうすれば旨いか不味いか毒があるかないか大体分かるからね。特に毒があるかどうかを舌で判断するのは辺境で生きていくうえで必須スキルだ。まあ、師匠みたいに体力で毒を無効化できれば必要ないかもだけど。


「アレス、果物はどうッスか?」

「うん。ここにあるのはほとんど食べられると思うよ。流石に果物だけじゃ辛いかも知れないけど、三日くらいならここにある分で十分生きていけるだろうね」

「肉ッスか? それなら自分に任せろッスよ。これでも村では狩人だったッスからね」

「え? その剣で狩りをしてたの?」


 ちょっと意外だ。あの巨大な両刃剣はどう見ても戦闘用――狩りに使うものじゃない。

 アレは破壊力を追求した武器だ。普通にやったら毛皮も何もかも台無しにしてしまうくらいの。その両刃剣で狩猟ができるとなると、マクシスって実は剣の達人?

 僕の見る限りパワーはともかく技術はちょっとあれな感じだったけど、隠していたのかな?


「ん? いやいやこんな剣で狩りは出来ないッスよ。狩りの時の得物は弓矢ッス」

「あ、そう」


 ……深読みしすぎたみたい。あっけらかんと言われてしまった。


「あれ? でも弓も矢も持ってないよね?」

「持ってないッスよ」

「……使い慣れた武器なんだよね? 何で持ってないの?」


 接近戦用に剣を持ってくるのはわかるけど、遠距離武器を持たない理由が分からない。僕はとりあえず剣だけ教わっているから他の武器は使えないだけだけど……使えるなら持って来るよね普通?

 しかも、得意武器は弓矢のほうらしい。どう考えてもどうせ持ってくるなら剣より弓矢だと思うんだけど……。

 と思っていたら、何故かこいつ何言ってんだ的な目で見られてしまった。あれ? これ僕が間違ってるの?


「分かってないッスねーアレスは」

「な、何が?」

「だって……騎士と言えば剣ッスよ?」

「…………え? それだけ?」

「それだけッス」


 当然のことのようにしたり顔で言われてしまった。

 いや、言いたい事はわかるけどね? 確かに騎士と言えば剣を持っているってイメージはある。あるけど……それだけ?


「立派な騎士になると決めて、自分は村のみんなから貰った支度金と荷物を売った金をつぎ込んでこの剣を買ったッス! もうこれが自分の全財産ッス!」

「え、じゃあ弓は……?」

「売ったッス」


 ……うん。まあ個人の自由だけどね?

 しかし何となくのイメージだけで使い慣れない剣一本に全財産とは……ある意味大物だ。いやだって、何で鎧一つ着けてないのかと思ってたけど……所持金全部武器買うのに費やしたからだったのね。


「……まあいいや。ところで、それでどうやって狩りするの?」

「それはもちろん…………気合ッス」

「……気合は大切だよね。まあとりあえず、ここにある物で食料は何とかなるから大丈夫だよ。流石にここで弓矢調達は無理だし……」


 何とかこの動揺を抑え、言うべきことだけ言っておく。いくらなんでも森の中で戦闘に耐えうる弓矢自作しろとか無理だし、もう大丈夫ってことにしておこう。


 そう、この楽園のような場所さえ確保できれば食糧問題は解決だ。水も果物も豊富だし、命を繋ぐだけでいいのなら必要な物は全て揃っているといっていいだろう。

 そう、あまりにも――便利すぎる場所だ。


(来るならそろそろだと思うんだけどな。先客がいるとすれば――)

「アレス? どうしたッスか? 急に黙っちゃって、毒食べちゃったッスか?」


 無理やり思考をシリアスに持っていったら、マクシスに不思議そうな顔で心配されてしまった。

 ……とりあえず、そう言う事じゃないと軽く手を振る。同時に、僕はマクシスに小さな声で話しかけた。周りには絶対に聞こえないような小さな声で。


「ねえマクシス。ここ……危ないかもしれないよ?」

「何でッスか? 水も食べ物もあるいいところッスよ?」

「うん。ここは間違いなくいい場所だ、拠点として使いたいと誰もが思うくらいに。だから――危ない!」

「へ?」


 僕はビュン! という糸をはじいたような音に反応し、右手をマクシスのほうに突き出した。

 そして、遠くから迫ってきた一本の凶器――矢を掴みとった。


「――うおッス! 危ねッス!」

「――誰もが来たがる場所。奇襲をかけるポイントとしては最高だよね」


 試験官にしても受験者にしても、水は必須だ。だから水源には誰かしらが来る可能性が高い。こういった野外戦では奇襲こそ最良とも言えるくらいだし、絶対誰か潜んでいると思ったよ。

 特に喉を潤して腹を満たして、満足してホッとするような、そんなタイミングを狙ってね。


「敵だよ。あっちの方」

「んー?」


 掴みとった矢を見ながら僕は飛んできた方を指差す。マクシスもその方向を眼を細めて凝視する。

 森だけあって視界はあまり開けていないが、だからこそ射線を確保するのも一苦労だろう。

 よく見れば、敵を確認するのはそう難しくない――!


「あっ! あそこッス! あそこで誰か弓を構えているッス!」

「え? どこ?」


 マクシスが逸早く敵を発見してくれた。流石は狩人ってだけのことはある目を持っているみたい。

 ――っと、また撃ってきた。でもこのくらいの速さなら――


「師匠の拳の方が、遥かに厄介だね!」


 敵の放った矢を剣で叩き落す。一応、壊さないように注意して。


「……ガキ二人なら楽な仕事かと思ったが……存外、やるな」

弓兵(アーチャー)……でも、一人だけ?」


 第二射を防がれて奇襲は諦めたのか、一人森から出てきた。

 手に弓を持ち、背中には矢筒。射撃の邪魔にならないよう最小限に留められた軽鎧を装備している典型的な弓兵スタイルだ。


「得点は期待できないかと思っていたが、これなら一点くらいは持っているか?」

「な、何者ッスか! 名を名乗れッス! 自分はマクシスって言うッス!」


 ……マクシスは目茶目茶動揺しているみたいだけど、ちゃんと剣は持っているし大丈夫だろう。

 それよりも、敵が一人だけなのが気になる。弓兵があえて存在をアピールするように近づいてきたのも気になるし……もしかするともしかするか?


「――フッ!」

「――人の質問にはちゃんと答えなきゃ――ダメッスよ!」

(おお、弾き飛ばした)


 また撃って来た矢を、マクシスは自分の剣で大振りに斬り飛ばした。まるで矢の軌道を完全に見切っていたかのような見事な一太刀だ。

 弓矢が得意ってのは誇張でもなんでもなかったみたいだね。弓矢の能力を知り尽くしているかのようだ。

 でも――


「――死にな!」

「ッ!? またッスか!」


 剣を振りぬいたところで、近くの木の後ろからまた一人出てきた。今度は両手に刃物を持っており、マクシスを狙って武器を伸ばしている。

 このままだと、マクシスは致命的なダメージを受けるだろう。師匠なら刃物で刺されたくらいなら数秒で完治するけど、普通の人間である僕らには危険だ。

 だから――やらせない!


「奇襲ばっかりは芸がないですよ!」

「ヌッ! ガキが!」


 僕も踏み込み、真っ直ぐ突き出されていた刃を不朽の剣“改”で叩き落す。

 奇襲は予測できれば怖くない。二人一組原則の試験で一人が矢面に立ったんだ。そりゃもう一人による奇襲を警戒するよねっと!


「マクシス! こっちは任せて!」

「チッ! ガキ一人で俺と本気でやるつもりかよ!」


 僕は奇襲をかけてきた剣士にそのまま斬りかかる。マクシスは弓に慣れているみたいだし、あっちを任せることにしよう。

 手数こそ双剣の使い手であるこのお兄さんの方が多いけど――師匠に比べれば止まっているようなものだ!


「シッ! ハァッ!」

「ぐ、このガキ、何者だ……!」


 攻撃の極意は防御にあり、防御の極意は攻撃にあり。師匠はそう言っていた。

 つまり攻防一体ってことだ。相手が攻撃しようとする流れを読み、そこを先に潰す。要するに攻撃される前に攻撃し、相手には常に防御させる。

 それが高速戦闘型の理想的な戦いであり、極論すればそれで勝てる。いくら手数を稼げる武器を持っていても、攻撃に入れなければ薄い盾を持っているのと変わりはしない。

 まあ実際にはそんな簡単な話じゃないけど――そのための途絶えない剣は、教わっている!


「――そこっ!」

「がぁッ!?」


 相手の動きの先読みを繰り返し、剣を振らせない。その基本どおりに動き、ついに隙を突いた。

 強引に振り上げられた剣を持つ右腕を剣の腹で叩いたんだ。刃を立てれば切断するくらいはできただろうけど、試験でそこまでする必要はない。人間相手への力加減を見極めるのも必要だって師匠言ってたしね。


「く、クソッ! こいつ、ただのガキじゃね――へぶっ!? ぐっ! ぶばっ!?」

「トドメはきっちり確実に、ね」


 敵は腕のダメージで剣を落とし、動揺して隙だらけだった。

 というわけで情け容赦なくがら空きの腹を思いっきりぶん殴り、更に追撃で頭に回し蹴りを叩き込む。一応念のため最後に頭を地面に叩きつけて終了だ。これだけやれば『死んではない』状態にできただろう。師匠なら始めのパンチ一発でいいんだろうけど……僕にはまだまだパワーがない。もっと頑張ろう。


「ところでマクシスは……」

「必殺ぅぅぅ! 超連撃グレート以下略ッス!」

「あ、何か勝ったぽい」


 マクシスは無事矢の雨を潜り抜け、弓兵に接近していた。

 そしてそのまま、コレと言って特別な感じはない連続攻撃を放った。具体的には蹴って殴って叩いている。相手が動かなくなるまで。


「ハァ、ハァ、ハァ……しょ、勝利ッス!」


 マクシスは動かなくなった相手を背にし、拳を高らかと天に掲げた。

 まあ何はともあれ、無事に勝ててよかったよかった。流石にこの場所を狩場に選んでいるチームが他にもいるとは思えないし、この近くに拠点を作って残り時間を過ごすことにしよ――ッ!


(何だ? 何かわかんないけど、物凄いのが近づいてくる気がする――!)

「おお、向こうから誰か来るッスね? よっしゃ、先手ひっしょーう!」

「あ、待って!」


 狩人としての感覚か、マクシスは勝利の勢いで近づいてきている誰かに気づいてそのまま向かって行った。大声で叫びながら。

 でも、それは危険だ。この感覚は、師匠と一緒に旅していたときに感じたのと似ている。あの、大量の“死”を見せ付けられたあの時に――!


(ダメだ、間に合わない!)

「ん?」

「トリャーッス!」


 森の奥から気配の主が姿を見せる。白い全身鎧――試験のターゲットだ。

 でもあれは今までのとは違う。間違いなく違う。最悪師匠級かもしれないってくらいの威圧感を感じる。

 そんな相手にマクシスの剣は真っ直ぐ向かって行き――


「……!」

「へ? にょわぁぁぁぁぁっすぅぅぅ!?」


 剣を指二本で止められ、そのまま投げ飛ばされてしまったのだった。

アレス無双。しかし無双すると強敵が現れるのはお約束。

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