第92話 予備試験
「え? 何も隠し事なんてないですよ?」
家に戻ってアレス君と修行。その途中で不意打ち気味に『何か変わったことはなかった?』と聞いてみたら……うん、お手本のように眼を泳がせながら若干上ずった声でそう答えてくれた。
とりあえず、変わったことはなかったかと聞いているのに隠し事がないと返答するのはどうなんだアレス君。俺でも分かるぞ……何か隠しているって。
「そうか。それならいいんだけどね」
だが俺はあえて追求せずに流す。理由不明ながら隠しておきたいのならば無理に問いただす必要はないだろう。
師の俺が試験官側だと教えるのも公平ではない気がするし、この話題に触れなくていいのならばむしろ好都合かもしれない。
そう言う事にして俺は修行――模造刀を使った実戦稽古を再開するのだった。
「――へぶっ!?」
「隙ありだぞー。何があっても首と股間だけは守らないとどんな最強戦士でもお陀仏だからねー」
右手に握った模造刀に気を取られてガードが空いた隙に、容赦なく首筋へ左手での手刀を放つ。
衝撃で息が止まったアレス君は苦しそうに転がりまわるが、これも修行だ。実戦では今以上のダメージを負うこともあるんだし、転がっている場合じゃないぞ?
というわけで、転がっているアレス君を蹴り飛ばす。受身取らないとこのまま死ぬぞー…………。
「よし、今日はここまでにしよう」
「あ、ありがどうございまじた……」
「うん。疲れを明日に残さないようにするんだよ」
稽古の終わりを告げると、アレス君はか細い声で礼を言った。
ボロボロになってこそいるが、アレス君は意識を保っている。更に自分の足で部屋まで歩いていった。大分頑丈になったものだ。
受験者としては最年少だけど、今のアレス君ならば問題ないかな。俺が12歳だったころよりも強いかもしれないくらいだ。
受験では本職の騎士を相手にしなきゃいけないってことだけど、まあ何とかなるだろう。俺も試験用の手加減を覚えなきゃいけないんだけど、まあ多分いまの稽古くらいの感覚だろうからな。
「さて、と……」
アレス君の相手が終わったことだし、一応事実関係の確認をするべきだろう。恐らくアレス君の試験の全てを把握している親父殿にね。
この時間なら親父殿は家に戻っているはずだ。今日は特に用事があるとは聞いて無いしな。
そんなことを思いながら、俺は親父殿の部屋へと向かうのだった。
「アレスの受験?」
「ええ。今日書類整理の仕事中に見つけまして……家の印鑑付きで」
シュバルツ家当主印。当主の意思を意味する印鑑は、シュバルツ家に限らず当主以外が使用することも所持することも許されない。例外は当主代行に当主自らの意思で選ばれた者のみだ。
そんな大切なものを親父殿の意思なく使うことなんて絶対にできない。こっそり持っていくのは超困難なのは言うまでもない。
だから、アレス君の受験願いには絶対親父殿が関与しているはずなんだが……。
「それは盲点だったな。まさかお前が試験運営に関わるとは」
「ということは?」
「うむ。アレスが受験したいというから許可した」
「まあだとは思いましたが……何で俺に相談なしだったんですかね?」
あっさり親父殿は認めたが、何でそうなったのかわからない。
とりあえず、普通に考えたらアレス君がその手のことで相談するのは俺だろう。正直ちょっと寂しいのだが。
「フフフ……こうなってしまっては仕方がないな。だが、私から聞いたとは言うなよ?」
「……? どう言うことです?」
「小さな意地と言う奴だ。先日の試合からあの子も思うことがあったらしくな、今の自分がどこまでやれるか試してみたくなったそうだ」
「まあ、わからなくはないですね」
今の自分がどれだけ強いのか。それを知りたいってのはまあ、こんな世界に入ったものなら皆思うことだろう。
丁度公的な場で力が公正に試せるのだ。そんな意味合いでなら見習い試験は有用だろう。
でも……俺に相談がない理由にはならない気がするのだが?
「……お前に話さなかったのには、どうやら二つの理由があるようだぞ? 本人は一つしか認識しておらんようだが」
「二つ?」
「ああ。まず表向きの理由は後ろめたさだな。修行中の身で、まだまだ未熟な自分が見習いとは言え騎士の末席に名を連ねようなどおこがましいと思っていたようだ。自分の師にそんな生意気なこと言うのは憚られる――ということらしい」
「……それで俺より遥かに偉い父上に相談するのは何か間違っているような気がするんですけど」
「まあな。その辺はまだまだ子供と言えるが、それ以上にお前が慕われているということだろう。あの子の中では私よりも、ガーライル副団長よりもレオンハートの方が尊敬できる騎士ということだからな」
「……期待を裏切らないよう心がけますよ」
ちょっと恥ずかしいので目を逸らす。親父殿の微笑ましいものを見る目がなんだか苦しい。
「ま、実際あの子は強い。私の評価でいえばそうだな、当時のお前と比べれば肉体的にはまだまだ鍛え方が足りんが、それを補うセンスがあるといったところか。十分受験に値する能力があると判断したので許可してやったというところだ」
「まあ、あの子のセンスは恐ろしいものがありますからね」
教えた事は凄まじい速さで吸収する。教えてないことですら独自の嗅覚で会得してしまう。それがアレス君だ。
身体作りだけは時間をかけてこつこつ積み重ねなければいけないのでまだまだだが、技量だけで言えば当時の俺を軽く上回るだろう。当時どころか今の俺でもできないことができるくらいだし。
その才覚は親父殿も認めるところってことか。弟子が優秀なのは俺も鼻が高い――とでも思っておけばいいのかね?
「しかしアレス君も別に気にしなくてもいいのに。俺だって12歳で試験受けたんだから」
「私もそう言ったのだがな。どうやら私とお前の試合を見てちょっと自信喪失気味のようなのだ。まだまだあの子が見るには高すぎる世界だったかもしれんな」
「あの年で今の俺のレベルを見据えられたら俺が立ち直れませんよ。……ところで、本人も気づいていない理由って何ですか?」
「ああ、それはな」
親父殿は少し考えるように顎の辺りに手をやった。どうやら言うべきか少し悩んでいるようだ。
「……いや、これを言うのは止めておこう。あくまでも私の推測でしかないことだからな」
「……そうですか」
「まあそんな大したことではない。さて、話はコレで終わりか?」
「ええ。これからいつもの修行――英霊の行ですよ」
「そうか。では付き添うとしよう。まだ一人でやらせるのは些か不安だからな」
英霊の行はあまりにもリアリティのある幻覚のせいで本当に死ぬこともある。
親父殿によれば実際には何のダメージもないので外部からショックを与えることで蘇生できることもあるとのことで、まだ俺が幻覚空間に入るときには側についていてくれるのだ。
いつもの通り、今日も親父殿と共に俺は霊碑のある地下へと歩く。
「……こっそりと合格して師匠を驚かせたい。なんとも子供らしくて微笑ましいではないか」
そんな、親父殿の誰に聞かせるつもりでもないのだろう小さな呟きを耳にしながら。
◆
数日後。祖父の霊体に喉と心臓を貫かれた翌日――予備試験が始まる。
「では、これより15歳未満の見習い騎士試験受験希望者に対する予備試験を行う」
俺は試験運営委員として、予備試験会場に来ていた。今は代表者が受験生に説明を行っているところだ。
この場に集められているのは、俺が仕分けした幼い受験希望者達。これから簡単なテストを行い、試験を受けるにはあまりにも実力が不足していると判断された場合本試験を受験できなくなる緊張溢れる瞬間である。
「あの、騎士レオンハート? 何故そんな物陰からこっそりと見て……気配を消しているのですか?」
「ああいえ、ちょっと個人的な事情がありまして」
そして俺は、会場に使われている国立騎士学院の屋内運動場の隅っこに隠れていた。
とは言え盗賊のような技術は全く持っていない俺だ。気配を消すのだけは狩りなんかで習得していても、まあ実際に姿を隠すのは一般人と変わらないわけで……今も準備をしていた作業員の人に思いっきり変な目で見られてしまった。
(でも本人が俺に知られたくないんだし、やっぱり知らない振りをしたほうがいいよなぁ)
アレス君の本心はともかく、少なくとも見習い試験を受験することを俺に知られたくないのは間違いないのだ。だったら俺もそれに合わせるべきだろう。無意味にアレス君の心を乱すのは本意ではない。
そんな理由で俺は隠れているのだが、流石に怪しすぎるか。今日の仕事は予備試験を見て受験希望者達の能力を審査することであるため、隠れながらでもできる。本当は近くで見ていたいんだけど、関係者専用の部屋から見物するとしよう。
「それでは最初のテストを始める! そこの鎧人形を各自が得意とする攻撃で破壊せよ! その発動スピード、威力、命中精度などをこちらで判定するので各自努力してくれ!」
予備試験が始まった。最初は攻撃テストだ。
いくら簡単なテストと言っても、魔術師と戦士では身体能力に大きな差が出る。更に細分化すれば斧戦士と短剣使いではどちらが腕力に優れているか言うまでもないことだし、速度でも大きな差がでるだろう。
そんな中で単純な数値だけを図ってもあまり意味はない。腕力で測定して魔術師を不合格ではあまりにも理不尽であるし、逆に魔法の力を基準にすれば戦士に不利すぎる。だったら戦士は腕力、魔術師は魔力で測定を――となると、魔法剣士とかはどうなんだってことになりとても面倒くさい。更に考えれば単純な能力値ではなく機転と手札の多さで勝負するような者もいるわけで、重量上げや短距離走で能力を測定するのは非常に困難なのである。
そこで、個々の長所を発揮してもらうためにより大雑把な基準として『攻撃テスト』と『防御テスト』の二つで予備試験は評価するのだ。
無機物操作の魔法で操作され、簡単な回避行動が可能となった鎧を破壊することが『攻撃テスト』の内容となる。弱すぎる攻撃では曲がりなりにも鎧である人形は破壊できず、逆に威力ばかりで遅かったりコントロールできないような攻撃では回避される。つまり実戦で使用できるだけの攻撃手段を持っているかが評価ポイントになるわけだ。
「おや、騎士レオンハート。あなたもここからですかな?」
「ええ、騎士バルサス。ここからなら全体が見渡せますからね」
関係者室は屋内運動場の二階に設置されている。ここからなら運動場として作られている一階全てを見渡せるから問題ないだろう。
さて、まずはどんなのが出てくるのか紙とペンを片手に見守るとしますか。
「えいっ! えいっ!」
(えっとあの子は……予備受験番号4番のペペス君ね。年齢は13歳で商家の三男。武器は片手剣らしいけど……うん、多分剣を持ったの今日が初めてだな)
自称片手剣使いの男の子は頑張ってフラフラ逃げ回る鎧人形――動かしているのは騎士団の魔術師だ――に斬りかかっているが、残念ながら一発も当たってない。
そもそもの基本として、相手は動くのだから不意打ちでもない限り今いる場所へ攻撃しても当たる訳が無いのだ。相手の速さと自分の速度を把握した上で一瞬先の未来へ攻撃を叩き込む。それが『攻撃』の基本中の基本である。
その基本すらできずにただ剣を振り回しているあの子は……残念ながら最低評価を付けさせてもらう。あのへっぴり腰じゃまぐれ当たりしても鎧に傷一つ付けられないだろうし、とても本試験には参加させられん。
「次!」
「え、【炎術・炎の矢】!」
次は魔術師風ローブと杖を装備した女の子。どうやら格好だけでなく実際に魔法を扱うことができるらしい。
だが――
(最大射程30センチメートルってとこか。まあ、焚き火の火種にはなるな)
女の子の杖から出てきたのは一本の炎の矢。しかしそれはほとんど進むことなくフラフラ揺れて消滅してしまった。
あれは魔力を魔法に込める過程で何か失敗したな。専門じゃない俺には詳しい事はわからないが、多分魔法詠唱完全版じゃないとまだ魔法を発動できないんだろう。
「実戦で完全詠唱などしている時間はない。それを理解して試験の場で魔法名の宣言だけに留めたのは評価できますが……肝心の魔法がアレでは合格点は難しいですな」
俺のとなりで受験生をチェックしている中級騎士のバルサスさんが難しい顔でそう呟いた。
道具なしで魔法を発動する場合、魔法名を宣言して発動させるのが一般的だ。
上級者は魔法名の宣言すらなく無詠唱で発動させたりもできるが、一般の――通常レベルで習得したと言えるのは魔法名宣言のみで発動させられる魔法を言う。
更にその前段階、魔法言語を使った発動補助詠唱まで必要となると練習段階とされるのが一般的だ。
悪魔イーエムが使用したような特殊な能力でもない限り、完全詠唱魔法の完成には早くても五分くらいかかる。難易度が上がる代わりに数十秒で完成する短縮詠唱ってのもあることはあるが、どっちにしても日常生活で使うならともかく実戦では使い物にならない。魔法言語詠唱はかなりの集中力を要求される――集中しなくてもいいならそもそも補助詠唱なんて必要ない――ので、戦闘に使うとなると魔法一つ完成するまでに100回は軽く死ねるだろうからな。
それを知っているからこそ、あの女の子は試験にあわせて魔法名宣言だけでの魔法発動に挑戦したのだろう。
結果はまあ、見ての通りだったわけだけど。
(まあ一応魔法を発動できたことと詠唱なしを選択した勇気を称えて5点ってところか。100点満点で)
ちょっと厳しいかとも思うが、今のままで挑めば本当に死ぬ。本人のためにも止めるべきだろう。
「次!」
「は、ハイッス!」
(お、今度はちょっとよさそうだな)
次の挑戦者は年齢の割りにいい体躯を持っている少年だ。手にしているのはかなり大きな両刃剣。それをふらつかずに持って動けるのだから大したものだろう。
手元の資料によれば、彼はマクシスという名で14歳らしい。田舎から出てきた農家の三男で、騎士になるために王都まで来たとのことだ。
みたところ、筋量的には合格ラインだろう。服の上からでもわかるくらいには鍛えている。剣ばかり立派で防具が弱い……というか普通の服であることにそこはかとない不安を感じるが、今までよりは随分マシだと思う。
「フンッ! セヤッ! ドリャァァァ――ッス!」
(あの大きさの剣を振り回せる腕力とバランス感覚は好評価。ただ剣術は我流かな?)
一振りごとにブォンブォンと豪快な音をマクシス少年は響かせている。
恐らくは、一撃当てれば鎧人形など倒せるだろう剛撃だ。それをマクシス少年は連続で繰り出していることから言っても攻撃力はかなりものと言えるだろう。その証拠に、鎧人形は徐々に追い詰められている。
しかし動きに無駄が多い。直線的すぎて読み安いのも問題だ。遠隔操作の鎧人形相手だから追い込めているが、本職の戦士と戦えばカウンターであっさりやられてしまう恐れがある。と言うか、動きを見る限り相手から攻撃されることをそもそも想定していないように見える。
(一人で素振りと筋トレを延々やってきたってところか。実戦経験は皆無、師もいないってところだろう)
マクシス少年はしばらく剣を振り続け、追い込んだ鎧人形の破壊に成功した。これはあくまでも『攻撃』のテストなので十分合格点――そうだな、まあ85点ってところだろう。
残り15点は技術不足。これが実戦テストであればカウンターで負けていた――ってのは考えないにしても、腕力任せに振り回していただけでフェイントとか全くなかったからな。まあ、敵を仕留めるまで休まずにあの大剣を振り続けたスタミナは素晴らしいと思うが。
(まだ実戦で戦えるほどじゃない。でもまあ、見習いレベルでならいいのかな?)
それが俺の、マクシス少年への現時点での評価だった。
その後も受験者達の奮闘は続いたが、どれもこれも似たり寄ったりだった。
鎧人形を破壊するどころか攻撃を当てることもできないのが大半で、多分偶然だと思われるヒットが出てもよろけさせることすらできていない。
『攻撃』の合格者――あくまでも俺一人の意見だが――は、マクシス少年を含めて未だ三人だけ。この予備試験では『攻撃』と『防御』両方とも突破しないといけないので、合格の可能性があるのは現時点で三人しかいないことになる。俺以外の採点者も何人かいるけど、多分そこまで変わらないだろうしな。
そりゃまあ、騎士団としても予備試験を設けるわ。こいつら全員があの森に入ったら一切外敵に遭遇しなくても餓死しそうだ。自然の中で生き残るのはかなりの難題なのである。
「次!」
「はいっ!」
(お、ついに来たか)
進行役はもう慣れたと言わんばかりに、機械的にテストを進めている。
そんなとき、隣のバルサスさんが小さな声で俺に話しかけてきた。
「ほう、年齢は最年少の12歳ですが、あの少年には期待できますな。足運びや筋肉の付き方から見ても素人ではないと見ますぞ」
「ああ、まあ」
次の受験者――アレス君を見ての感想だ。確かに贔屓目なしで見ても今までの素人勢とは根本的に身体のつくりが違うと思う。
流石に師匠が弟子をこうした試験で評価するのはまずいので、俺はアレス君に対する点数をつけることはできない。また、俺の弟子って肩書で公平さを失わないためにも採点者は受験者の詳しい背景を知らされていない。
本試験と違って、予備試験は採点者の気分一つで大きく点数が変わるからな。この辺はしっかりしているのである。
「では、はじめ!」
開始合図と共に、鎧人形が動き出す。攻撃が当たらないように円を描き、直線的に動かないように命令が出されているのだ。
それに対してアレス君は、まず剣を抜いて腰を落とした。そして、鋭い眼で鎧人形を観察する。
今までの受験者達が開始と同時に突っ込んでいるのに対し、アレス君は動かなかったのだ。
(自分が相手にする鎧人形が今までの鎧人形と同じ性能か警戒しているのか。一度相手の能力を確認せずに突っ込んで小悪魔の呪いが直撃したことあったからな。その辺の経験か)
これはあくまでも基本性能を確認するためのテストだ。あの鎧を破壊したら爆発するとか数が増えるとかそんなことはない。
だが、アレス君からすれば未知の相手だ。警戒するのは当然と言ったところだろう。
「なんだあいつ? ビビっちゃったのか?」
「まだ小さいからな。無理も無いだろ」
ひそひそと他の受験者達が腰を落として動かないアレス君の話をしている。どうやら怖くて小さくなっているように見えるらしい。
小声で話せば聞こえないと思っているのかも知れないけど、本職の騎士クラスは地獄耳だから聞こえちゃうんだよなー。
(……お、アレス君の魔力が動いた。いくか?)
アレス君は周囲の嘲笑を気にもせずに動き出した。アレス君の能力なら正面から速度任せにたたっ斬ることも可能のはずだが、どうするのかな?
「――【縛術・頑強な鎖】」
アレス君が魔法名を宣言すると、周囲に小さな魔法陣が浮かんだ。数は三つだが……あれは何なんだろうか?
「ほう、縛術とは珍しい魔法を使いますな。剣士のように見えましたが実は魔術師だったんですかね?」
「い、いやー……どうなんでしょうね?」
俺とアレス君の関係を言うわけにも行かないので、愛想笑いで誤魔化す。
しかし謎だ。アレス君は少なくとも魔術専門ではないはずだが、魔法を使う事はできる。でもいつの間にあんな魔法身につけたんだろうか? どこかで見たような気もするが……忘れたな。
「行け!」
アレス君の号令で、三本の鎖は鎧人形へと向かって行った。そして一つ一つが意思を持っているかのようにうねり、あっさりと鎧人形を包囲し、捕縛した。
(完全に止めた。となると――)
「――首狩り!」
動きを止めたところで、アレス君は自ら飛び上がって鎧人形の首を刎ねた。中身がいれば文句なく即死の一刀である。
踏み込みの速度も剣速も今までの受験者とは比較にならない。我が弟子ながらまあなんと言うか、容赦ないなー。
「こ、これは素晴らしい……わずか12歳であそこまでできるとは」
「魔法によって相手を封じ、間髪入れずに斬りつける。剣と魔法双方に精通していなければできない技ですな」
「とても子供とは思えん。既に見習い――いや下級騎士くらいの実力があるのでは?」
(いや、それは言い過ぎだと思うけど)
少なくとも、今のコンボが成立したのは鎧人形に反撃って選択肢がないからだ。仮にあそこに立っていたのが俺であれば、まず魔法の鎖を砕かれていただろう。
普段からなれた戦い方をせずに魔法を交えて見せたのは……実力を隠すためかな? 剣のみで倒すこともできたがライバルに自分の本気を見せないための変化球。どうやら。この程度の試験ではアレス君には優しすぎるらしいね。
(ま、流石に予備試験くらい楽勝で当然か)
俺は他の採点者たちがアレス君の攻撃項目に『100』の数字を記載するのを横目に見ながら会場を眺める。
さて、アレス君に続けるのは後何人いるのかな――?
(……終わりか。予想以上に少なかったな)
全ての試験は終了した。無事死人を出さずにスケジュールを消化し終えたのである。
その結果はまあ、予想よりも大分焼け野原だったのだが。
『攻撃』に続く『防御』のテスト――殺傷力ゼロの幻影による攻撃へ一定時間対処する――の結果、多くの受験者は散々であった。例外は余裕でクリアしたアレス君くらいだろう。まあ普段から俺の攻撃に晒されているのだから当然だけどね。アレス君はまず死なないことを重視して、攻撃以上に防御を叩き込んでいるのだから。
(合格者はかなり少ないように見えるけど、例年的には普通なんだよな。中には0人って年もあるみたいだし)
俺は協議の結果決定した合格者の名前を見て一人そう考えた。試験の結果発表は後日であるが、採点側である俺には既に結果が分かるのだ。
今期見習い騎士試験の15歳未満受験希望者向け予備試験の合格者は二人。一人は圧倒的な成績で単独トップに立ったアレス君。そしてもう一人は――
「ぼ、防御とか男には不要ッス! 男には攻撃あるのみッス!」
隅っこの方で自己採点結果に納得がいかないと強がっている、幻影攻撃を全て剣で迎撃するという方法で突破したマクシス少年である。




