第六話
敷地内にある、カイルの工房に二人の姿はあった。
「ここがカイル様の工房なんですね……すごいです!」
リアーナは工房に入るなり目をキラキラと輝かせて、壁に飾ってある魔道具をみて興奮している。
「こっちのテーブルに置いてあるのがテスト段階の魔道具で、壁のはほぼテストも終わってるやつ。で、こっちの作業台にあるのはまだアイデア段階で固まってないやつだ」
カイルが置かれている魔道具の説明をし、それにリアーナは何度も頷いて返す。
(まさかここまで興味を持ってくれるとは思わなかったな……リアーナを誘って正解だったな)
魔法技術だけでなく、好奇心も十分にあることで、研究自体にも興味を持ってもらえるならそれこそ願ったり叶ったりだった。
「ん? ……あれが気になるのか? 普通の剣、に魔石を埋め込んでいるんだよ。持ってみていいぞ」
カイルが壁から外してリアーナに手渡す。
「は、はい……あれ? 軽いですね」
見た目は重そうな鉄の剣だが、手にしてみると細腕のリアーナでも軽々と扱える程度の重量だった。
「ふふふっ、それはだなあ。軽銀鉱と魔鉄鋼で作ってあるんだよ。なるべく重量を減らしつつも魔力によって強度を保てるという仕組みで……」
そこまで説明を聞いたところで、リアーナは剣を軽く振ってみる。
工房内は広めに作られているため、彼女が剣を振っても十分に余裕なだけのスペースがある。
「ふっ!」
剣を身体の前に構えると、今度は魔力を流していく。魔道具であるため、魔力を流すことによって効果を発揮する。
この剣の効果は……。
「刀身を魔力が覆ってます。しかも、流した魔力が何倍にも増幅されていますね」
説明していないにもかかわらず、リアーナは魔導具の性能を見抜いていく。
「よくわかるな。そのとおりだ、いわゆる魔剣と呼ばれるような剣はアーティファクト、古代遺跡の遺物として見つかることがある。だが、それらは相応の魔力を持っていなければ使いこなせない。魔力があったとしても相性というものがあって、使用者を選ぶ。更には重量が重いものが多い」
この説明を聞いて、リアーナは納得する。
「なるほど、つまり誰でも持てるように軽く、魔力が少ない方でも一定の効果が出せるようにしているのですね。この汎用性の高さはすごいです!」
リアーナは魔力を流した状態で剣を振るって、この武器が持つポテンシャルに目を輝かせている。
「その初めて見る剣を、そこまで使いこなせるリアーナのほうがすごいんだけどな……とりあえず次の段階に移ってみるか」
このカイルのつぶやきは聞こえておらず、リアーナは素振りに夢中になっていた。
「リアーナ、その剣に火の魔力を込めてみてくれ」
「わかりました……こ、これは」
カイルの指示に従って、こめる魔力を火属性のものへと変えていく。すると、今度は刀身に炎がまとわれていく。
「おぉ、これはすごい。それじゃあ次は相反属性の水の魔力を頼む」
この試験こそカイルにはできない、他の誰にもできない、リアーナにしかできないものである。
「承知しました。次は水を……」
流す魔力の属性を切り替えていく。すると炎は消えて、今度は水が刀身を覆ったところで、魔石にヒビが入ってしまう。
「えっ!?」
この結果にリアーナは驚愕してしまう。自分のせいで貴重な魔道具を壊してしまった、と。
「あー、やっぱりそうなるか……」
しかし、カイルはこうなることを予測していたかの反応を見せる。
「誰にでも使えるようにってコンセプトでさ、俺は影属性しか使えないから剣が影に包み込まれるだけなんだよ。だから、リアーナに色々な属性をテストしてもらいたかったんだ」
その言葉どおりのテストをリアーナが試した形となる。
「でもって、今回のは反対の属性を順番に使った場合の反応になるわけだけど、やっぱり相反する力が流れ込むと魔石のほうがもたなかったな……」
この結果を導き出すために、今までは火属性を扱える人物と、水属性を使える人物をそれぞれ探す必要があったが両方を扱えるリアーナのおかげで飛躍的に速度が上がったことになる。
「いや、ほんと助かるよ。こんな感じで色々テストしてもらえると助かるし、なにかアイデアがあったら気兼ねなく話してほしい。あ、壊れたのはこっちに貸してくれるかな……うーん、剣の部分は問題なさそうだから、やっぱり魔石の部分の問題かあ」
剣を確認して、魔石の状態や魔石と剣自体を繋いでいる部分などを見ている。
「あ、あの、壊してしまって申し訳ありません」
アーティファクトほどではないものの、魔道具も貴重なものであるのはリアーナもわかっている。だからこそ、壊したことを申し訳なく思い深々と頭を下げていた。
「んー、いや気にしないでいいよ。こういうのを確認するためのテストなんだからさ。むしろ完成したと思い込んで誰かに使ってもらったら、すぐに壊れたわけだからすごくありがたいよ。さて、丁度失敗作ができたところで今回の問題点を説明していこうか」
カイルはテーブルの上に剣を置いて、これをどう解決するか助言をもらえたらと順番に説明をしていく。
「素材に関してはさっき話したとおりなんだけど、魔石が複数の魔力に耐えられるだけの力がなかったみたいだ。だけど強力なものともなるとサイズなあ……」
今回小さめの魔石を使ったが、ここから質をあげるとなるとサイズも自然と大きくなってきてしまう。
「……あの、使ってみた感覚ですと最初に火の魔力を流した時点で違和感がありました。剣に魔力を流して魔石に到達、そこから剣自体が炎を纏うわけですが、魔石に到達するまでに魔力のざらつきを感じたといいますか」
その指摘を受けて、カイルは慌てて剣を手に取る。
柄から魔石までをつないでいる回路。そこには魔力を流しやすいようにと、魔鉱石を加工して作った管を用意していた。
「あー、これかあ。これは確かに無用の負荷をかけることになるなあ……」
その管は真っ黒になって焦げてしまっていた。リアーナの魔力は強力であるため、この管はそれに耐えられるだけの強度を持っていなかった。
「いや、そういうのすごく助かるよ。俺だけだったら魔石が問題だと思って、そっちの調整を最初にしていたから、原因にたどり着くまで時間がかかっていたはずだ」
そう言うと、カイルはリアーナの手を取る。
「ほんっとうにありがとう! いやあ、俺の目は間違っていなかったり、リアーナの能力はめちゃくちゃすごい!」
「ちょ、ちょっと待って下さい、そ、そんな風に手を……」
カイルは大きく手を両手に動かしている。男性にこんなに力強く手を握られたことが初めての経験であるため、リアーナは顔を赤くしている。
(でも、こんなに喜んでくれているなら、よかったです)
それでも、無邪気に喜ぶカイルを見ていると彼女も自然と笑顔になっていた。
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