56話 怒ると怖いファビオ
56話 怒ると怖いファビオ
カズデリとニコロが野次馬を追い払っている時に、狼の姿に転変したファビオが凄い速さで走ってきて、俺の前で獣人の姿に戻った。
······ヤバい······ファビオが来ちゃった······
カッターラ町のパン屋さんの事件の時にファビオが言った一言が思い出される。
『しかし御供をする我々は肝を冷やします。 今度このような事があれば、縄で縛って宿に閉じ込めますよ』
彼なら本当にやりかねない。
ファビオはズイと俺のすぐ目の前まで歩みを進めて怒った表情で俺を見下ろす。
「人間族と傭兵が戦っていると聞いて走ってきました·········」
「や···やぁ!」
俺は手を挙げて挨拶をするが、ファビオの容赦ない瞳に睨まれて、冷や汗が流れる。
「何があったのですか?」
「よ···傭兵さんたちとちょっと遊んでいただけで······」
「それをあの大勢の野次馬たちに見せていたのですか?」
「あ······いや······すまん! 直ぐに逃げればよかったのだが、ああいう連中って今回逃げたとしても会う度に因縁をつけてくるだろ? だからちょっと相手をしてやれば諦めてくれるだろうと思って······大丈夫だ、相手にならないほどの腕前だったから俺はケガもしていないし、相手にもケガをさせていないから何も問題ないはずだ······うん」
「何が『うん』ですか。 本当に縛っておきたいくらいです······わかりました、俺はもうケント殿から離れません」
「お···おう······そうか。 頼む、ハハハ」
もう笑うしかない。
······何を頼むのか、俺にも分からないが、それで手を打ってくれるなら良しとしよう······
「ところでケント殿はどこに向かわれていたのですか? 宿とは方向が違いますが」
少しファビオの機嫌が直ってきた。
「診療所にケガをした彼の様子を見に行こうと」
「ちょうど私も行こうと思っていたところです。 一緒に参りましょう」
そう言ったのはカズデリだ。
「ファビオとニコロは?」
「もちろん一緒に行きます」
「俺も一緒にいくで。 気になっとったからな」
という事で、4人で診療所に向かった。
「ところでカズデリさん、あの傭兵たちに恐れられていたように見えたんだが、実は名の通った剣士だとか?」
「いやいやとんでもないです! だた、私も若い頃は気が短くて、粋がって暴れたものです。
ですから若い傭兵たちには一目置かれているのは確かですね。 怒らせると怖い存在としてですが」
······カズデリさんって、結構歳食ってるんだ······獣人は分からん······
「腕前もかなりのものです」
ファビオが珍しく褒めた。 そういえばライオンとの戦いではファビオと一緒に戦っていた気がする。
「ファビオ殿に褒めていただけるとは光栄です。 しかしあの時もファビオ殿の邪魔にならないようにするのがやっとでしたが、本当に良い勉強をさせて頂きました」
「とんでもない」
「そういえばファビオ、なんか情報はあったんか?」
「いや、何も」
「俺もや。 でもまだちょっとしか聞けてへんからな。 もうちょっと聞いて回ってみるか」
「何の情報ですか?」
カズデリが聞いてきた。
「あぁ、翼竜って知ってるか?」
「はい、貴竜族の鳥のような種類という事だけは」
「さすがに良く知ってんな。 という事は見たことないんやな?」
「はい」
「じゃあ、最近、白い貴狼族を見たことはないか?」
「この町に住んでいる貴狼族はいるのはいるのですが、白い貴狼は見たことがないですね」
ニコロはファビオと俺の顔を見て首を振る。
「情報とはその事ですか?」
「そうや。 翼竜と白い貴狼の目撃情報を集めてるんや」
「では私も聞いてみます」
「それは助かるわ。 頼んだで」
「はい」
カズデリは、一度見舞いには行ったという事で、直ぐに情報集めに行ってくれた。
診療所に行くと、看護師さんが病室に案内してくれた。
ケガ人の横にはあの時の女性が座っている。 もしかしたら特別な関係なのかもしれない。
女性は俺たちを見て立ち上がった。
「彼の具合は?」
「まだ眠っていますが、もう大丈夫だそうです」
「よかった。 貴女のケガの方は」
「大したケガではないので大丈夫です。 本当にありがとうございました」
ケガ人の寝息も落ち着いているし、本当に大丈夫そうだ。
お邪魔なようだし、うるさくするとケガ人にも悪いので、早々に診療所から出た。
ニコロは情報集めに行ってくるわ!と、サッサと走っていった。
「ファビオはどうする?」
「ケント殿と一緒にいます」
「だから、一緒に何をする?」
もう一度聞くと、グッと睨まれた。
「ですから、一緒にいます」
······これは······まだ機嫌が直っていないようだ······
「ファビオ、すまなかった。 もう問題は起こさない。 次からは逃げるから、機嫌を直してくれよ」
「ケント殿は強いので今までは問題なくやり過ごしてこられましたが、敵意を持つ者がいれば、いくらでも卑怯な手を使って傷つけようとしてくるでしょう。 全ての獣人が人間族に好意を持っているとは限らないのです」
「うん、そうだよな。 その通りだ。 分かった、気を付けるよ」
「分かっていただければ結構です」
「じゃあ、一緒に情報集めに行こうか」
「はい」
やっと怒りが収まったようだ。 ファビオの尻尾がブンブンと振られていた。
◇◇◇◇
ファビオと一緒に翼竜と白い貴狼について聞いて回った。
まだ俺が貴猿と思っている者も多くて無視される事も多いが、人間族と知っている者は積極的に話を聞いてくれるし、周りの者まで巻き込んで情報を集めてくれる。
その中で一つだけ気になる情報があった。
貴豹国の南に無主地(所有者のない土地)があり、そこにはファーズロック港がある。
そこから貴竜国に渡ることが出来るのだが、閉鎖的な貴竜国は出入国が厳しいそうだ。
それよりも問題は、今まで貴竜族がこちらのラクイラ大陸を攻めようにも体の大きな貴竜族が乗れる船がないために警戒する必要がなかったのだが、前にあちらのリーヴォリ大陸に行ってきた者が、大きな船を見たと言う者が現れた。
貴竜族が本当に恐竜の種族なら、大きな貴豹族より数倍······数十倍の大きさの獣人がいる可能性がある。 そんなのがこちらの大陸に来たら大変な事になる。
こちらの各国は、その事を知っているのだろうか?




