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55話 ヤバい!ファビオが来ちゃった

 55話 ヤバい!ファビオが来ちゃった




 店から出ようとした時に、騒がしい声が聞こえてきた。 悲鳴ではなく歓声のようだ。


 みんなで何だろうと言いながら表に出ると、遠くの方からパレードのような物がこちらに向かってくる。

 よく見ると、それは俺たちが倒したライオンが荷車に乗せられて運ばれているのだった。



 先頭は豊富な(たてがみ)の雄ライオンだ。 貴豹族と比べてもかなり大きい。



······わぁ、あんなにデカいのを倒したのか······



 戦っている時は気にしている暇はなかったのだが、自分の事ながら驚きだ。


「わぁ······雄ライオンってデカかってんな······雌の倍近くあるんちゃうか?」

「ケント様、凄すぎです······信じられません」

「ケント殿なら、あれくらい当然です」

「ハハハハ」


 笑ってごまかした。



 先頭を進むジュストが、俺たちを見つけて駆け寄って来た。 それを見た俺はこっそり店の中に隠れた。


 だって大勢の観客の視線がジュストを追って俺たちの方に向けられるのだ。 あまり注目の的になりたくない。



 ジュストは馬を降りて店の中に入って来た。 ファビオたちも後に続いて入ってきた後、店のドアを閉めた。


「ケント様、申し訳ありません。 実は本当にライオンを倒したのかと疑っておりました。

 しかしあれだけ悩まされていたライオンの群れを······それもあの雄ライオンを倒されたとは······恐れ入りました」

「気になさらないでください。 それにファビオたちや傭兵たちのお陰でもあります」


「ファビオ殿とニコロ殿。 そしてグラウド殿にもお礼を申し上げる」


 ジュストは深く頭を下げてから、隊列に戻っていった。



「やっぱり信じてなかったんやな。 そんな気がしとったわ」

「申し訳ありません。 貴豹族には自分より小さい種族を蔑視(べっし)する者が多くいます。 そのために皆様には不快な思いをさせてしまい、面目(めんぼく)ありません」

「俺は気にしてないから、気にするな」


「ありがとうございます。 そうだ、明日の······多分昼頃には中央広場でライオンの肉が振舞われます。 行かれますか?」

「食べてみたいが、どうしよう?」


 ファビオとニコロを見上げた。


「人が沢山集まるやろうから、聞き込みにはよさそうやな」

「そうだな。 でもケント様が行って騒ぎにならなければいいが」

「ほんまやな。 じゃあ俺たちが肉を貰って帰ったろか?」


「大丈夫だと思うけど、それでもいいかな。 それより、貴豹王に謁見する段取りはどうすればいいんだ?」

「それは私が今から行ってみます」

「そうしてもらえると助かる」



 表の騒ぎが収まった頃グラウドは城に行き、ファビオとニコロは聞き込みに行った。



 ◇



 一人取り残された俺はウインドーショッピングをしながら宿に向かってトボトボと歩いた。


 最初の頃の貴狼族のように明らかに敵意を持って睨んでくる貴豹はいない。 プライドが邪魔して小さい俺に興味がある事さえ知られるのが嫌なのだろう。


 チラチラと見てくる視線は感じるが、気にしなければ問題ない。




······そうだ、ケガをした傭兵の様子を見に診療所に行ってみよう······




 時々商店を(のぞ)きながら診療所に向かって歩いていると、道の先に薄笑いを浮かべた4人の貴豹たちが立っている。 

 そのうちの一人は大きい。

 三人は普通の豹のようだが、その一人だけ模様が少し違う。

 丸の中に黒い点があるのだ。 確かジャガーだったと思う。



 どうやら4人は俺を待ち構えているように見える。 背中に剣を背負っているので傭兵だろう。




······グイドたちを思い出すな······しつこく俺に(から)んできたものだった······




 一応彼らを避けて通り過ぎようとしたが、案の定すんなりと通してくれる気はなさそうだった。



「なぁ、兄ちゃんが噂に聞く人間族か?」

「貴猿が人間族を名乗って有名になりたがってるだけじゃないのかよ」



······どこにでもこういう輩は必ずいるなぁ······


······屋根にでも飛んで逃げることが出来るけど······こういう連中は出会う度に絡んでくるだろうし······


······仕方ない、相手をしてやるか······



 傭兵たちは、へらへら笑いながら俺を囲んでくる。


「ちっせぇなぁ。 草むらに隠れていて、ライオンから見えなかったんじゃないのか?」

「ライオンを倒したなんて嘘つくなよ。 誰かが倒したのを自分の手柄にしてんじゃねえよ!」



 そう言うなりいきなりジャガーが殴りかかって来た。


 傭兵というだけあって動きは素早いが俺の敵ではない。 軽く避けると俺を見失い「あれ?」と言いながらキョロキョロと探して、後ろに立っている俺に気づいた。


「何をしてんだよ、ハハハハハ」

「ち···ちいせぇから見えなかっただけだよ」

「ちょっと動きが速いぞ」

「みんなでやっちまえ!!」



 4人が一斉にかかって来た。 俺は拳を(かわ)し、蹴りを避けて脇をすり抜け、上に飛び上がって攻撃を(かわ)す。


 さすがに剣は抜かずに拳で勝負してくるのは褒めてやるが、4人とも息が上がって来た。



······傭兵だろ? 息が上がるのが早くないか?······




 気付いたら周りは物凄い人だかりになっていて、俺の事を知っている者が応援してくれる。


「人間族のケント様だ!!」

「凄いわケント様!」

「いけっ! ヒョ~~ッ! すげえ!」 


 野次馬が興奮して歓声を上げる。 それを聞いて傭兵たちも引くに引けなくなってきたのだろう。



「ちょこまかと逃げ回りやがって!!」


 一人がとうとう剣を抜いた。


「おい、それはまずいだろう」

「ここで引けるか!!」


 俺に向かって剣を振り上げると、キャァ~ッと悲鳴が上がる。 



 その時、野次馬を押し退けて輪の中に飛び込んできた貴豹がいた。



貴様(きさま)ら!! なにをしている!!」


 大声で怒鳴り声をあげて俺の前に立ったのは、ライオン退治の時に唯一無傷だった傭兵のカズデリだった。



「「「カ···カズさん」」」

「人間族のケント様と分かっての所業(しょぎょう)か?!」

「いや······カズさん······これは······」


 カズデリの迫力に、傭兵たちは(ひる)む。 しかしカズデリは(にら)みながら一歩前に踏み出して剣に手をかけた。


「まだやると言うなら俺が相手になってやるが、どうだ?!!」


 傭兵たちは一様に「ヒッ!」っと言って腰が引ける。



「い···いや、ちょっと世間話をしていただけでさぁ。 失礼します!!······どけよ!!」


 観客を押し退けて逃げて行った。




 その時、ニコロが駆け込んできた。


「ケント様!! またやったんか?」

「だから俺じゃ······あっ! ま···まずい!! 急いで野次馬を追い払ってくれ!! ファビオが来る前に早く!!」



 カズデリは首を捻りながらも、まだ成り行きを見守っている野次馬たちに声を上げる。


「さぁ!! もう終わったから帰ってくれ!!」

「もう終わりやから、あっちに行ってくれるか!!」




 カズデリとニコロが野次馬を追い払っている時に、狼の姿に転変したファビオが凄い勢いで走ってきて、俺の前で獣人の姿に戻った。




······ヤバい······ファビオが来ちゃった······








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