52話 ライオンの群れ
52話 ライオンの群れ
4人の旅は思いのほか楽しかった。
俺はあまりお喋りな方ではないし、ファビオは必要なこと以外話さない。
お喋りなニコロはいつも寂しそうにしていたのだが、グラウドは程よく話すし聞き上手だ。 だから疲れないかと思うほどニコロが喋り、周りを笑わせてくれた。
その後に小さな町で二泊した。
どちらの町でも何も起こらず、情報もなく、穏やかに過ぎた。
早朝、王都ダーラント町に向けて出発した。 今日の夕方には到着する予定らしい。
この森の中には時々サールのように開けた場所がある。 その真ん中には必ず湖がある。
「このクラスリという木は、もちろん水分を必要としますが、多すぎると根が腐ってしまうのです。 ですから湖や川の周りにクラスリは生えません」
グラウドが教えてくれた。
水場周りにクラスリがない代わりに、豊富な太陽光を受けて普通サイズの木が生え、低木や丈の高い下草が密生しているのだ。
◇◇◇◇
森の先が明るくなってきた。 この先に川があるらしい。
ほどなく森が切れ、眩しい太陽光の元に出た。 一段低くなった先に大きな川が流れていて、広い河原が見渡せた。 ポツポツと木が生え、かなり丈の高い草が絨毯のように敷き詰められている。
そして、1㎞ほど先に橋が見えた。 あの橋を渡った先に王都があるとグラウドが教えてくれた。
ここから橋までの中間あたりに10人ほどの貴豹が川辺に並んでいるのが見えた。 水を汲んでいるか飲んでいるのだろう。
そして数人は背中に剣を担いでいるようにみえる。 きっと傭兵だろう
その時、ニコロが馬から乗りだして河原を指さす。
「あれはなんや?」
河原を覆っている丈の高い草が揺れているように見える。
「あっ!! あれはライオンです!! 4~5頭はいます!!」
ライオンたちは草の陰に隠れて貴豹たちを狙って包囲を縮めている。 もう目の前だ。
······まずい!!······
「先に行く!!」
「「はい!!」」
俺は馬から飛び降りて河原に向かって飛び出した。
ファビオとニコロも馬から飛び降りると同時に転変し、俺を追った。 グラウドもワンテンポ遅れて俺たちの後を追って来た。
走りながらファビオがワオォォォォ~~ッ!と遠吠えをすると、河原にしゃがんでいた貴豹たちが顔を上げる。
その後ガウォォォ~~ッ!とグラウドが吠えると、傭兵たちが剣を抜いて構えた。
その途端、一番奥のライオンが二人の貴豹に襲い掛かり覆いかぶさった。
「「わぁぁ!!」」
俺は手前のライオンの横を駆け抜け、その先に潜むライオンを飛び越えて、二人の貴豹に襲いかかっているライオンの背中に飛び乗ると、心臓めがけて剣を突き刺してから飛びのく。
ガオウゥゥ!! と一声吠えるとそのライオンは崩れ落ちるようにズズン!と倒れた。
ホッとする間もなく横から別のライオンが襲い掛かって来る。
俺に向かって振り下ろしてきた右足をスパン!と斬り落とし、 吹き出す血を避けながら左足を斬った。
切り落とす事は出来なかったが踏ん張る事が出来ずに、頭から地面に突っ伏す。 その隙に背中に飛び乗り、急所である心臓に剣を突き刺すと、クウッとも鳴かずに崩れ落ちた。
始めに襲われた二人の貴豹は動かないが、今は気遣っている暇はない。 ライオンはあと3頭いるのだ。
ファビオとニコロとグラウドがそれぞれ傭兵たちを共闘しているが、苦戦している。
グラウドと一緒に戦っている傭兵の腕から血が流れていて、ほとんど戦力になっていない。
クラウドと戦っているライオンに向かって行こうとした時、クラウドの横の草むらから巨大な雄ライオンが飛び出した。
「危ない!!」
俺はクン!とスピードを上げてから全体重をかけて雄ライオンの頭に向かって思いっきりドロップキックをお見舞いした。
しかし流石百獣の王。 今までの野蛮獣とは格が違う。 俺のドロップキックに、ふらつきはしたものの倒れなかった。
ただ幸運な事に雄ライオンの標的は俺に切り替わってくれた。
俺も双剣を抜き放ち、両手で構える。
しかし恐ろしくデカイ。 肩までの高さが180㎝以上ある。
俺などは大きく開けた口の中に座れるだろう。
······座らないけど······
雄ライオンは体制を低くしてガルルル······と唸りながら飛び掛かる機会を窺っている。
クッと体制が低くなったかと思ったら、俺に向かって飛び掛かって来た。
避けながら2本の剣で斬りつけた。
俺の腰ほどある太い腕を切り落とす事は出来なかった。 間髪入れずに襲い掛かってくるのでサバイバルナイフほどある長い爪を避けながら斬りつける。
······しかしこの場所は闘いにくい······
俺の胸程まである高い草で視界が悪くて動きにくい。 何度も繰り出してくる爪や牙を避けては斬りつける攻撃を続けながら、少しずつ移動していった。
目の端で見ると、ちょうどファビオが一頭を倒して、グラウドが戦っているライオンの方に向かって走っていくところだった。
······彼らはもう大丈夫だろう······
移動した先は、普通の木がまばらではあるが生えている。 そのため下草があまり生えていないので、見えやすく動きやすい。
······ここならいける······
俺は一本の剣を鞘に戻してナイフを抜いた。 剣とナイフの双剣だ。
木を利用して攻撃の盾にしたり、方向を変えたりして撹乱しているうちに俺を見失ったようだ。
ライオンの動きが一瞬止まった時に、目に向かってナイフを投げた。
グワオォォォ!!
目にナイフが刺さり、悶える隙に背中に飛び乗り剣を突き刺した。
直ぐに抜いて飛び退くつもりだったのだが、筋肉が絞まったのか抜けない。
一瞬巨大モルドが頭をよぎる。
しかし今回は抜くのを諦めて迫る口から間一髪で逃げることが出来た。
体が大きすぎて剣が心臓まで届いていないようだ。 動きは鈍くなったがまだ諦めずに攻撃しようとしてくる。
雄ライオンが最後の力を振り絞って振り上げた腕を、俺は全体重をかけて斬り落とした。
踏ん張る足を失った雄ライオンはズズン!と、肩から崩れ落ちる。 すかさず心臓めがけて剣を突き刺した。
グオォォォォ·········
口から血の泡を吐きながら、雄ライオンは動かなくなった。
背中に刺さったままの剣を抜き取り、目に刺さっているナイフも回収した。
みんなの方を見ると、残りの二頭も倒し終わっていた。




