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51話 差別といじめ

 51話 差別といじめ




 俺はホッとした。 グラウドのお陰で殴りも殴られもせずに済んだのだ。


「グラウドさん、助かった。 ありがとう」

「いいえ、これくらい·······」



 グラウドは尻尾をピンと立てながら一生懸命頭を掻いていた。




「ファビオとニコロも俺がここにいるとよく分かったな」

「人だかりのある所はケント様有りやからな。 人だかりを見て慌てて走っていこうとしたら、向こうからもファビオが血相を変えて走ってきてたんや。 考える事は一緒という事やな」

「大きな貴豹族相手ですから、心配しましたよ。 取り越し苦労でしたが······」


 俺たちの会話をグラウドは面白そうに聞いていた。



「ケント様は、こういう事がよくあるのですか?」

「しょっちゅうや」

「人聞きの悪い。 俺が何かをしている訳じゃないだろう? たまたまそういう場面に出会ってしまうだけだよ」


「なぜかケント殿は人の目を引くのです。 貴狼の国でも貴猿の国でも英雄です」


「分かります。 先ほどもなぜか野次馬たちはケント様を応援していました。 周りを引き付ける何かをお持ちなのでしょう」

「しかし御供をする我々は肝を冷やします。 今度このような事があれば、縄で縛って宿に閉じ込めますよ」

「ほんまや、その方がいいかもしれへんな」



「3人とも、やめてくれ! パン屋に行こう! パン屋に!」

「珍しくケント様が焦ってるわ。 ハハハハハ」

「本当ですね。 さっ、行きましょう」




 パン屋に行くと待っていたように店主が出てきた。


「貴猿の兄ちゃん、さっきは店を守ってくれてありがとうよ」

「いいえ、俺のせいですから、気にしないでください」


「いやいや、兄ちゃんのせいじゃないだろう。 あいつが何度も侮辱(ぶじょく)するのを黙って耐えていたのに······偉いな、兄ちゃんは······あっ! グラウド様」


 グラウドと、ファビオとニコロも入って来た。


 途中から聞こえてきた話をグラウドが聞きなおす。


「店主、今の話しは本当か?」

「貴猿の兄ちゃんを侮辱した話ですか? 本当ですよグラウド様。 大きな声で侮辱した上に、黙って耐えていた兄ちゃんにあの()()は殴りかかったんですよ。

 こんな狭い場所で暴れるので、店が壊されると思ったんですが、驚いた事に棚にぶつからないようにあの兄ちゃんがあの()()を上手く扱ってくれたお陰で一つの被害もなかったと言う訳です。 本当に感謝しています」




 振り返ったグラウドは、涙ぐんでいた。


「ケント様!! 人間族とはこれほどお優しいものなのですか? 感動いたしました!!」

「人間族ぅ?!!」

「あ······」


 グラウドはしまったという顔で振り返って店主を見たがもう遅い。


 店主は人間族と聞いて驚いている。 言ってしまったグラウドも口を押さえて固まってしまった。 



「グラウドさん、やってしもおたな。 しゃあないわ。 店主」

「は···はい!」

「別に秘密という訳とちゃうんや。 でも人気者のケント様がこれ以上人気者になって、みんなに囲まれたら大変やろ?」

「そ···そうですね」


「俺たちは明日の早朝にはこの町を出るつもりやから、その後やったらみんなにゆうてもらってもかまへん。 そやから今晩だけ黙っておいてもらえるか?」


「もちろんです!! 決して言いません。 しかし明日には発ってしまわれるのですか、残念です。

 そうだ! 皆さんの朝食に、うちのパンを持って行ってください!

 せめてものお礼です」


「気持ちだけいただきます。 ちゃんと料金は取ってください。 でないと買いませんよ」

「そ···そうですか······わかりました」



 俺はシュンとする店主の腕をポンポンと叩く。



「とても美味しそうない匂いがしますね。 楽しみだ」

「はい! 自慢じゃないですが、美味しいと評判なんですよ」

「お勧めはありますか?」

「これか···これですね」



······俺が買おうとしていたチーズフランス(みたいなパン)と、クロワッサン

(みたいなパン)だ。 俺って見る目があるな······



 俺はデカイ()()()で大きなバスケットに入れる。 やっぱり大きすぎるトングに笑ってしまう。




 みんなもそれぞれ2~3個ずつパンを買って店を出た。


 料金は取ってくれたが、随分割り引いてくれたようだ。

 しかし当然のことながらパンも大きい。 2個も食べる事が出来るかちょっと心配だ。





「そういえばみんな、何か情報はあったか?」


 3人とも首を振る。


「ケント様は?」

「貴猿族は嫌われているようで、誰も話を聞いて()くれなかった」

「申し訳ありません」


 グラウドが頭を下げる。


「グラウドさんが謝る事ではないぞ。

 でもさっきの喧嘩を売ってきた貴豹が言っていた事で、なんとなくわかったよ。

 俺の世界にも差別はあるんだ。 肌の色だったり生まれた国だったり、金持ちか貧乏か、勉強が出来るか否かでも差別があるし、ただ気に食わないという理由で酷い()()()をする奴らもいる」


「人間の世界でもですか?」

「実は、自慢するわけではないが、俺のこの力とスピードは特別なんだ。 普通の人間は力も早さも獣人に遠く及ばない。 そんな非力だからこそ、理由を見つけて自分が優位にいる事を誇示したいんだろうな」



「ケント様は凄いですね。 例え体は小さくても、誰も敵わないほどの力をお持ちなのに偉ぶる事もなく、侮辱されても暴力に訴える事もなく、他の者たちの事を一番に考えておられるのですから」



「でも怒ったら怖いで。 デカイ大テーブルを重臣たちの前で真っ二つにぶち割るんやからな」

「そんな事を?」



「······ケント殿、ニコロを一発殴ってもかまいませんか?」

「今日の所は抑えてくれ」

「承知」



「ケント様とファビオはいつからそんな三文芝居にはまってるんや? 面白いやんか。 今度俺もまぜてえや」

「だめ」


「「「ハハハハハ」」」




······良い仲間だ······俺はいつも仲間に恵まれている······



 ちょっとウルッときたのを、慌てて隠した。




 そうだ! とグラウドがファビオの方を向いた。


「ファビオ殿、明日は何時頃に出発されますか?」

「6時頃になると思うが。 なにか?」

「明日の6時までには行きますので、置いていかないでくださいね。 ちょっと用事がありますのでお先に失礼いたします」


 そう言って、グラウドは(せわ)しなく走っていった。




 ◇◇◇◇




 夕食は部屋に運んでもらった。 

 しかし料理の量が多すぎる。 貴狼国でも多かったが、特に肉などは5人分はありそうなほどデカイ(かたまり)が乗っている。



 味は悪くはないが、それよりパンが美味しい。

 もしかしたら貴狼国や貴猿国より俺の好みかもしれない。



 さっき買って来たパンをつまんで食べてみたのだが、周りはパリッとして中はふんわりとしていてとても美味しかった。

 あの店と同じ程この宿のパンも美味しい。



 もしかしたらあの店から仕入れているのかもしれないと思った。




 ◇◇◇◇




 翌朝、宿から出ると、グラウドが馬を()いて待っていた。

 俺たちが乗っている馬より少しだけ大き目で、馬も黒毛なのだが鞍まで真っ黒だ。




······何を目指しているのだろう······




「グラウドさん、どうしたのですか?」

「王都までお供します」

「えっ? 仕事は?」

「当分の間、休みをいただきました」

「えっ?」



 ファビオとニコロを見たが、二人とも異論はなさそうなので、一緒に行くことにした。








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