49話 黒い疾風
49話 黒い疾風
「そうそう、グラウドさん、聞きたいことがあるんだけど」
「なんでしょう?」
グラウドは走りながら俺を見上げる。
「最近翼竜を見なかったか?」
「?······翼竜って何ですか?」
「貴竜族を知っているか?」
「名前だけは」
「鳥のような空を飛ぶ種類の貴竜族だが······それ以前に······飛んでいても見えないか······」
上を見上げたが、木々の茂った葉のせいで、ほとんど空は見えなかった。
「ここでは見えませんが、街中ならもう少し空が見えます。 ですから見た者がいるかもしれません。 必要なら聞いて回りますが?」
「俺たちも聞いてみるが、手伝ってくれるなら助かる」
「お任せを」
「もう一つ聞きたいのだが······」
「なんでしょう?」
「······貴豹王なんだが······その······」
「遠慮なく御聞きください」
「うん······貴豹王が貴狼の女王様に御執心というのは······本当か?」
「御執心というのは大袈裟ですが、憧れておられるのは確かです」
「それで······白い貴狼を捕えてコレクションしているという噂を聞いたのだが······」
「ハハハハハ、コレクションですか? どこからそんな噂が出たのでしょうね。 確かにユキヒョウ種の白い侍女は何人かいますが、貴狼族を捕えるだなんて、馬鹿げていますね」
······ウソを言っているようには見えない······が······
「それにしても辺境の警備をしているにしては、貴豹王の事をよく知っているな」
「3年前まで近衛隊でしたから······前にケント様と会った時は、辺境警備隊に飛ばされたばかりの頃でした」
「飛ばされた?······なぜ近衛隊が辺境警備に?」
グラウドは、フフンと鼻で笑う。
「いけ好かない大臣が国の金を着服していたのを告発したら、飛ばされました」
「えっ?! なんてことだ!! そいつはどうなったんだ?」
「わかりません······直接王に報告すべきだったと後悔しています。 しかし、お陰でケント様に会えることが出来たので、今となっては良かったと思っています」
「わぁ······その大臣は最低な奴だな」
「そう言っていただけただけで、報われます」
「大袈裟な」
「本当ですよ」
◇◇◇◇
グラウドの後をついていくと、すぐに貴豹族のカッターラ町に到着した。
ちなみに貴豹国の正式名称はヴィストイア国だ。
野蛮獣の虎やライオン避けなのだろう。 かなり高い塀で囲まれ、塀の上には剣のような鋭い突起が付けられていた。
しかし、その高い塀の上から見える限りでは、街というよりただ森が続いているように見える。 こちらと同じ巨大な木が塀の中にも生えているのだ。
······町?······だよな······
グラウドが門番の兵士に何かを話すと、彼らは驚いた顔でこちらを見ている。
俺が人間であることは黙っていてほしいとお願いしてあるので、彼らが驚いているのはファビオとニコロの事だろう。
さすが有名人! 門番たちはキラキラした目で二人に熱い視線を送っていた。
それを見たニコロはちょっとうんざりした顔をしている。
······好奇の目に耐えろ! ニコロ!······
門番たちは慌てて門を開けて、通行証の確認もせずに俺たちに敬礼をして見送ってくれた。
◇
門を潜って驚いた。
貴豹の森の大きな木はクラスリという名で、メートルに換算すると、大きい木では幹の太さが直径20m、高さが200m近くあるのだが、その木をくり抜いて中が家になっているのだ。
そしてその木と木を繋げるように間にも家を建ててある。
森の中の町なのでターンナック村を想像していたのだが、どちらかと言えば貴猿国の町に似ていて、なかなか趣があってお洒落な街並みだ。
そして大通りには色々な店が並んでいるのだが、小さな町なので庶民的な店ばかりだ。 それでも品揃えもよくて客も多い。
ただ、貴狼国以上にそれぞれの造りが大きく、吹き抜けかと思うほど天井も高く、自分がより小さくなった気分だ。
人通りが多い道を歩いていると、ファビオたちでも小さく見える。 そして貴猿国の時とは違って、ほとんど俺たちを気に留める者はいないようで、ニコロは胸を撫でおろしていた。
「貴豹族に囲まれるとみんな大きくて迫力あるなぁ~。 貴狼国では見上げる事は殆どなかったから、ちょっと子供になった気分やな。 ケント様の気持ちが少し分かるわ」
そう言いながらもニコロは嬉しそうだ。 興味津々で色んな店を覗き込んでいる。
「あっ! 皆さん、こっちです」
俺たちはよそ見しながら歩いていたので、グラウドが角を曲がった事に気づかなかった。
グラウドについて大通りを右に曲がると、宿があった。
「この町の宿はここしかないのです。 宿主と話してきますので、あちらに馬を」
頼んでもいないのにテキパキと動いてくれる。
······ここにもいい奴がいた······
騎獣預り所に馬を預けてから宿の前まで行くと、宿主が入り口まで出迎えに来てくれていた。
「ようこそお越しくださいました」
とても丁寧に接してくれる。
この宿のロビーはあのクラスリの木の中だ。
日没近くなって暗くなってきているのだが、森の木々のせいで巨大な月の明かりは届かない。
しかしその代わりに、無数のランプとロウソクが立ててあり、まるでクリスマスツリーを中から見ているようで美しい。
「私は詰所に寄らないといけませんのでお先に失礼します。 あっ、その後聞き込みもしてみるつもりですので明日の朝には報告します」
グラウドはそう言って出て行った。
◇
「グラウドさんっていい人だな······」
俺が呟くと、「そうなのです」と宿主が部屋に案内しながら話してくれた。
「グラウド様は仕官されるまで傭兵をされていたのですが、『黒い疾風』と言われるほど木渡りのスピードが速く、剣の腕もずば抜けておられました。
そのうえ正義感が強くお優しいので、仕官されてこの町に配属された時には、みんなに慕われ、犯罪者には恐れられる存在でした。 そしてそんな功績を認められて、若くして近衛隊に抜擢されたのです」
「黒い疾風って、カッコええなぁ」
「若くして近衛隊に抜擢されたって優秀なんだ。 まるでファビオみたいだな」
「恐れ入ります」
「珍しく否定せえへんな」
「ハハハハハ」
店主も嬉しそうに笑っている。
「しかし何があったのかは存じ上げませんが、何年もしないうちに辺境警備隊に配属されたのです。 きっとグラウド様が抜きん出ていらっしゃるのを疎ましく思った誰かに左遷されたのだと思うのです。 みんなもそう言っております。 あっ、そこは段がありますのでご注意ください」
······世間の想像は当たっているな······しかし、心から好かれているようだ······
そうしているうちに部屋に着いた。
「少し喋り過ぎたようで、申し訳ありません。 貴狼国の御高名な方々に我らのグラウド様の事を知っていただきたいと思いまして、僭越ながら御聞きいただいたのでございます。
他意はございません。 ごゆっくりとお過ごしください」
そう言って、戻っていった。
案内された部屋は4人部屋で、ツインの部屋が左右に2部屋あり、真ん中には応接セットが置かれている。
ファビオとニコロは片方の部屋に入ると荷物を置いて、聞き込みに行ってきますと言って、サッサと出て行った。
······もう一部屋を一人で使えって?······
キングサイズのベッドが2台。
······デカイ······4m四方はありそうなベッドだ······ベッドの上で鬼ごっこが出来そうだ······
······まあいいか······




