47話 スフォル・グラウド
48話 スフォル・グラウド
俺とファビオとニコロの3人は、貴豹国に向かって馬を駆った。
東に行けば俺がロキと会った森に日没までには到着できるのだが、貴豹の森は危険だそうだ。 そのため先ずは貴豹族の王都に近い北に向かってから、森に入るルートを取る。
2晩、草原で野宿してから貴豹の森に入った。
初めてこの国に来た時、巨大な木に驚いたのを思い出す。
森の中は薄暗く、太陽の光がほとんど届かないので、下草もそれほど多く生えていない。
しかし、整備はされていないがとりあえず道もあるし、木と木の間隔が広いので、どちらかといえば広々として見える。
そして思った以上に野蛮獣が多い。 馬で走っているだけで、ウサギやシカ、リスや鳥もよく見かけた。
しかし長閑に見えるがここには巨大な虎がいる。
「貴豹の森では、虎に襲われたりするのか?」
「使節団や商隊もそうですが、大人数なのでまず襲ってきません。 ただ今回は3人なので、注意が必要です」
「虎だけなら大丈夫だろう」
「俺は貴豹の森に来た事はないから知らんけど、虎よりもライオンの方が怖いって聞いてるで。 なぁファビオ」
「ライオンがいるのか? もしかして群れで襲ってくるとか?」
ファビオは驚いた顔で振り返る。
「よく知っていますね。 単独のライオンもいますが、多い群れの場合、6~7頭で襲ってくることがあると聞いています」
「襲われた事はないのか」
「はい、私は王族の護衛で来ましたから、50人以上の完全武装兵で囲んでいます。
わざわざ危険を冒して使節団を襲うより、森の中には野蛮獣が多くいますので、そちらを狙う方が楽な事を知っているのでしょう」
「群れで来られると、怖いな」
「せめて3頭までにしてほしいわ。 一人1頭ならどうにかなるやろう」
「俺が言うのもなんだが、先生たちなら任せる事が出来そうだな」
「やめてくださいよ、とっくに先生は御役御免になっています」
「ほんまや。 ケント様には遠く及ばへんけど、1頭ならなんとかできる···かな?······実際に戦った事はないから分からへんけどな」
「しかし、ライオンには出会わない事を祈ろう」
その時、上から気配がした。
3人は剣に手をかけて上を見上げる。 木の上から何かがこちらを窺っていたのだ。
「お前ら、何しに来た!」
上から声がした。 野蛮獣ではなかったので警戒を解く。
俺が話しかけようとするのをファビオが制した。
「我々は貴狼国より派遣された者。 通行証もあるので黙って通していただきたい」
「その貴猿もか?!」
俺は胸から通行証を出して、見えるように上に差し出した。
すると貴豹は、スルスルと木の幹を伝って降りてきた。
金色に輝く目をした黒豹だった。 黒い体に黒い軍服を着て黒い剣を背負っている。
······忍者かよ······
「あっ! お前!」
黒い貴豹は俺を見て驚いている。 もしかして、初めてこの世界に来た時の黒豹?
「もしかしてあの時の?」
「再び我が国に踏み入るとは何を企んでいる」
「企むなんて······あっ! 危ない!!」
その時、突然後ろの藪から貴豹めがけて巨大な虎が飛び出してきたのだ。
俺は貴豹を横に突き飛ばし、大きな口を開いて飛び掛かってくる虎の鼻先を思いっきり殴った。
虎が怯んだ隙に剣を抜いて背中に飛び乗ろうと飛び上がった。
その時にはファビオとニコロも駆け寄り、虎の肩や腰に斬りつけている。
俺は背中に飛び乗ると同時に心臓めがけて剣を突き刺してから飛び降りる。
グオオオオオオ~~ッ!!
虎が咆哮し、もんどり打って倒れたところを、ファビオが喉を掻っ切って、ニコロが脇から再び心臓を突き刺した。
すると虎は最後に二度ほどビクビクと痙攣したのち、動かなくなった。
「わぁ! 二人の実践を初めて見た。 スピードと迫力は半端ないな」
俺は剣に付いた血を掃ってから、鞘に納めた。 ファビオとニコロも同じく血を掃ってから鞘に戻していた。
「それよりあのデカイ奴を拳で殴るなんて、ケント様は常識破りにも程があんで」
「俺たちが素早く動けたのは、ケント殿が虎の動きを最初に封じてくれたからです。 でないと近付く事もできなかったと思います」
「またまた御謙遜を。 二人ならピューマでも楽勝だっただろうな」
こうして見ると、やっぱり虎の方がピューマより一回り大きい。 ピューマは貴豹族よりひと回り大きいというところか。
「虎は大きい分、動きが少し鈍いですが、ピューマは素早くて捉えるのが大変だと聞いています」
「しっかし、虎ってデカイねんなぁ······こんな奴を倒したなんて、我ながら驚きやわ」
その時、カサッという草がすれる音で、俺たちは一斉に剣に手をかけた。
「わ···私です······」
両手を上げた黒豹だった。
·······貴豹がいたことをすっかり忘れていた······
「思いっきり突き飛ばしてしまった気がするけど、大丈夫だったか?」
「もちろんです。 それより助けていただいてありがとうございました」
「いや······」
「私はスフォル・グラウドです。 現在辺境警備隊第二部隊所属であります」
「俺は歩兵隊副隊長インザーギ・ニコロやけど、今はケント様の専属護衛やな。 よろしく」
「インザーギ・ニコロ?!······?」
「私はサルバトーレ・ファビオ。 ケント殿専属護衛」
「えぇっ?!! ちょっと待ってください。 インザーギ・ニコロ殿とサルバトーレ・ファビオ殿?! ウソ!!」
······二人の名は貴豹国にまで轟いているのか······凄い······
「そう言われてみればサルバトーレ殿だ! 私とよく似た毛色で喜んでいたのです。 間近でお会いできるとは、光栄です」
ファビオより頭一つ高いグラウドが子供のように喜んでいる姿は、無邪気で可愛らしくさえ見える。
「そう言えば『ケント様専属護衛』って? この方がケント様?」
それを聞いて、コホンと咳ばらいをしたニコロが一歩前に出て、俺に手のひらを向ける。
「何を隠そう、 この御方は貴猿族ではなく、人間族のクラキ・ケント様や。 我らは貴豹王にお会いするために貴豹国を訪れたんや」
「え?」
「ケント様は人間族やってゆうてるんや。 わかるか? に・ん・げ・ん」
「えっ?! ええええっ?!!」
グラウドは金色の瞳が飛び出さんばかりに驚く。 それを見てニコロは満足そうだ。
「これをやってみたかったんや。 ケント様が人間族と聞いた時の反応が面白いからな」
「本当ですか?」
「うん。 俺は倉木賢斗、人間族だ。 だから転変はできない」
「信じます。 貴猿族とは思えないスピードとパワーは、まさしく伝説級です」
「伝説?」
そうです!と言って、グラウドはビシッと直立不動になる。
「『岩をも砕くが如き破壊力。 風が舞うが如き俊敏さ。
正義の心、太陽の如く。 優しき心、月の如く。
小さき巨人、人間族。 この世界を救い給う』
貴豹族に遠い昔からある伝説です」
「へぇ~~」
「へぇ~って、ケント様の事やで」
「あ······そうか。 ハハハハハ」
······世界を救うって、何をするんだろう?······女王様を救うのは世界ではないだろうし······まぁいいか······
「じゃあ、いこうか」
「「「はい」」」
「?······グラウドさんも返事した?」
「はい。 お供します」
「「「えっ?」」」
「警備は?」
「そろそろ交代の時間ですから大丈夫です。 町までもう少しですので、参りましょう」
グラウドは俺たちの返事も聞かず、転変して走り出した。
「こちらです! 行きますよ!」
日が沈みかけた森の中をグラウドは走り出した。




